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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1312311
審判番号 不服2014-2854  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-14 
確定日 2016-03-09 
事件の表示 特願2011-538607「カップリング剤およびカップリング剤を使用して生成される組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月 3日国際公開、WO2010/062416、平成24年 4月26日国内公表、特表2012-509979〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成21年7月27日(パリ条約による優先権主張 平成20年11月26日,アメリカ合衆国)にされたとみなされる特許出願であって,平成25年10月9日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成26年2月14日に拒絶査定不服審判が請求され,平成27年6月3日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。

第2 本願発明及び本件拒絶理由について
本願の請求項1?9に係る発明は,平成27年5月15日に補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
また,本件拒絶理由の内容は,本審決末尾に掲記のとおりである。

第3 むすび
請求人は,本件拒絶理由に対して,指定期間内に特許法159条2項で準用する同法50条所定の意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして,本件拒絶理由は妥当なものであって,これを覆すに足りる根拠が見いだせないから,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

本件拒絶理由の内容を以下掲記する。

本願の下記の請求項に係る発明は,その優先日前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

請求項: 1?9
刊行物: 特開平6-256567号公報(平成24年10月15日付け拒絶理由通知書で引用した引用文献1に同じ。以下「引用文献1」という。)

[備考]

1 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は,平成27年5月15日に補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。(以下,順に「本願発明1」?「本願発明9」という。)

2 刊行物(引用文献1)に記載された発明
請求項1,【0014】,【0017】及び【0022】などの記載からみて,引用文献1には次のとおりの発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。(なお,【0018】?【0020】の記載(有機ケイ素化合物の構造式)は,【0017】の記載からみて,明らかに誤記がある。例えば【0019】の式(3)のものは,【0017】によれば,トリアリルイソシアヌレートとトリメトキシヒドロシランから得られるとするが,両者の記載には矛盾がある。)
「トリアリルイソシアヌレ-ト(TAIC)とトリメトキシヒドロシラン〔H-Si-(OCH_(3))_(3)〕から得られる有機ケイ素化合物又はトリアリルシアヌレ-ト(TAC)とジメトキシヒドロシラン〔H-Si-(OCH_(3))_(2)CH_(3)〕から得られる有機ケイ素化合物を介して無機フィラ-へ共有結合される高分子材料を含む樹脂組成物であって,上記無機フィラーはその表面を予め上記有機ケイ素化合物で表面処理(共有結合)してから高分子材料と混合されてなるものである樹脂組成物。」

3 引用発明1との対比,判断
(1) 本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,上記両発明の相違点は次のとおりであると認める。
・ 相違点1
フィラー(無機フィラー)へ共有結合される樹脂について,本願発明1はVDF,TFE,HFP,CTFE及びPAVEから成る群から選択される「フルオロポリマー」であるのに対し,引用発明1は「高分子材料」と特定するのみで具体的な材料を何ら特定するものでない点。
・ 相違点2
フィラーとシランカップリング剤(有機ケイ素化合物)との共有結合について,本願発明1は「フィラーの全ての反応部位」がシランカップリング剤と共有結合されていると特定するのに対し,引用発明1はそのような特定事項を有しない点。
イ 相違点1?2についての検討
(ア) 相違点1について
引用発明1の「高分子材料」として,引用文献1の【0013】には「ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂」や「フッ素ゴム」の例示がある。また,フッ素樹脂やフッ素ゴムとしてVDF,TFE,HFP,CTFE,PAVEなどのフルオロポリマーは,本願の優先日前に普通に知られたものである。さすれば,引用発明1の「高分子材料」を具体的に設定するにあたり,上記フルオロポリマーを採用する程度のことは当業者であれば想到容易である。
請求人は,引用文献1の記載は樹脂組成物においてハロゲン原子を含まないポリマーを用いることが前提条件となっており,引用発明1からフルオロポリマーを用いる本願発明1を想到するのは容易でない旨主張する(平成27年5月15日付け意見書3頁)。
そこで検討するに,なるほど,引用文献1には,燃焼時にハロゲン化水素等を含む人体に有害な燃焼ガスや煙を発生する問題があるため,ハロゲンを含まないポリマーを用いることを前提とする記載がうかがえる(【0008】など)。しかし,上記引用発明1の「高分子材料」について,フルオロポリマーを採用することを阻害する事由はない(引用文献1の【0013】に「フッ素樹脂」や「フッ素ゴム」の例示があるのは,上述のとおりである。なお,同【0013】には「塩素化ポリエチレン」の例示もある。)。請求人の上記主張は採用できない。
(イ) 相違点2について
フィラーの表面をシランカップリング剤で処理することでフィラーのエラストマー中での分散性を向上させることは,本願の優先日前に当業者に周知の技術である。そして,引用発明1は,無機フィラーの表面を予め有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)で表面処理(共有結合)してから高分子材料と混合するものであるところ,引用文献1には記載はないが,上記周知の技術事項を踏まえれば,このような表面処理は無機フィラーの高分子材料中での分散性を高めるために行われるものであるといえる。
そうすると,引用発明1における無機フィラーと有機ケイ素化合物との共有結合について,上記無機フィラーの分散性を高めるため,無機フィラーの全ての反応部位を有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)と共有結合するようにすることは,当業者が容易に想到しうることである。あるいは,無機フィラー表面の有機ケイ素化合物による表面処理の度合いは,無機フィラーの分散性を考慮した単なる設計事項にすぎないものといえる。
ウ 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明1に対し,いわゆる進歩性を有しないといえる。

(2) 本願発明2について
添加剤などをさらに含む点は,引用文献1の【0028】などに記載がある。

(3) 本願発明3について
本願の請求項3に記載の構造式を有する化合物であるTAIC-シランは,引用発明1で特定する有機ケイ素化合物と同じである。

(4) 本願発明4?5について
引用文献1には,本願の請求項4及び5に記載の構造式を有する化合物の記載はないが,同請求項4及び5が引用する請求項1はシランカップリング剤としてTAIC-シランを選択する場合を包含する。すなわち,TMAC-シラン,TAC-シランの構造式が限定されているからといって,本願発明4及び5は依然としてTAIC-シランのみを選択した場合を包含するものであることに変わりはない。

(5) 本願発明6?9について
上記(1)での検討・判断と同旨である。

4 まとめ
したがって,本願発明1?9は,その優先日前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2015-10-05 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2011-538607(P2011-538607)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 車谷 治樹  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 田口 昌浩
須藤 康洋
発明の名称 カップリング剤およびカップリング剤を使用して生成される組成物  
代理人 江間 晴彦  
代理人 山尾 憲人  
代理人 田村 恭生  
代理人 鮫島 睦  
代理人 言上 惠一  

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