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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B |
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管理番号 | 1312315 |
審判番号 | 不服2014-5608 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-03-26 |
確定日 | 2016-03-09 |
事件の表示 | 特願2009-287908「近赤外分光光度センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月22日出願公開、特開2010- 88928〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年7月24日(パリ条約による優先権平成14年7月26日、平成14年8月30日、米国)に出願した特願2004-524717号の一部を平成21年12月18日に新たな特許出願としたものであって、平成24年1月11日付けで拒絶理由が通知され、同年6月18日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成25年1月28日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年3月18日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年11月18日付けで補正の却下の決定とともに拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年3月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成27年4月21日付けで拒絶理由が通知され、同年9月15日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 この出願の請求項1?4に係る発明は、平成27年9月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「対象組織内の血液酸素飽和度を決定する近赤外分光光度センサであって、 第1の波長の光と第2の波長の光と第3の波長の光とを含む光信号を上記対象組織内に伝搬させる光源と、 上記光信号を上記対象組織内に伝搬させた後に同一直線上に位置する第1の所定距離と第2の所定距離とにおいて個々に上記第1の波長の光と上記第2の波長の光と上記第3の波長の光とに関して第1の光強度と第2の光強度とを検出する2つの光検出器と、 較正定数を用いて上記対象組織内の上記血液酸素飽和度を決定する処理部であって、上記較正定数は、上記第1の波長の光と上記第2の波長の光との間の減衰差、上記第1の波長の光と上記第3の波長の光との間の減衰差、及び上記対象組織を通じて得られる経験的データを用いて決定され、上記第1の波長の光と上記第2の波長の光との間の上記減衰差は、上記第1の波長の光の減衰と上記第2の波長の光の減衰とを用いて決定され、上記第1の波長の光と上記第3の波長の光との間の上記減衰差は、上記第1の波長の光の減衰と上記第3の波長の光の減衰とを用いて決定され、上記第1の波長の光の上記減衰は、上記第1の波長の光の上記第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定され、上記第2の波長の光の上記減衰は、上記第2の波長の光の上記第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定され、上記第3の波長の光の上記減衰は、上記第3の波長の光の上記第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定される処理部と、 を備え、 上記処理部は、静脈酸素飽和度と動脈酸素飽和度とを用いて決定される較正定数を用いて予め較正され、上記静脈酸素飽和度と上記動脈酸素飽和度は、上記対象組織を上記近赤外分光光度センサで検知している間に上記対象組織の血液を個別にサンプリングするか又は連続的にモニタリングすることによって得られる上記経験的データを用いて決定されることを特徴とする近赤外分光光度センサ。」 第3 当審の拒絶理由通知 当審の拒絶の理由の概略は、以下のとおりである。 本願の請求項1?6に係る発明は、本願優先日前に頒布された引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 引用例の記載事項 1 本願優先日前に頒布され、当審の拒絶の理由に引用された国際公開01/084107号(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(引用例の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である特表2003-532107号公報によるものであり、段落番号も併せて記載した。なお、下線は当審で付した。)。 (1)引用例1のClaim14,15及び16 (「【請求項14】 対象の皮膚に取り付けた近赤外分光光度検出器を用いて、対象組織内の血液酸素飽和度レベルを決定する方法であって、 所定の第1強度で対象組織に光信号を伝送するステップであって、その伝送光信号が、第1波長と、第2波長と、第3波長とを含むステップと、 光信号が対象を通して伝わった後に、第1、第2、および第3波長に沿って光信号の第2強度を検知するステップと、 所定の第1強度および第1、第2、および第3波長の検知された第2強度を用いて、その第1、第2、および第3波長それぞれの光信号の減衰を決定するステップと、 第1波長と第2波長との間の光シグナルの減衰差と、第1波長と第3波長との間の光シグナルの減衰差とを決定するステップと、 検知するのと同じ時間またはほぼ同じ時間で得られた経験的データを用いて、第1較正定数および第2較正定数を決定するステップと、 第1波長と第2波長との間の減衰差と、第1波長と第3波長との間の減衰差と前記第1較正定数および前記第2較正定数とを用いて、対象組織中の血液酸素飽和度レベルを決定するステップとを含む方法。 【請求項15】 前記経験的データが、対象からの静脈血液源および動脈血液源を別々にサンプリングすることによって収集される、請求項14に記載の方法。 【請求項16】 前記経験的データが、対象からの静脈血液源および動脈血液源を連続してモニターすることによって収集される、請求項14に記載の方法。」) (2)引用例1の段落[0029]?[0030] (「【0025】 図1?5を参照すると、好ましいNIRS検出器は、変換器部分10とプロセッサ部分12とを備える。変換器部分10は、組立てハウジング14とコネクタハウジング16とを備える。対象の体に直接取り付けることが可能な、柔軟性構造である組立てハウジング14は、1つまたは複数の光源18と光検知器20(当審注:「光検知器20」と「光検出器20」は同義と認められる。以下、同様。)とを備える。使い捨て接着剤エンベロープまたはパッドを、容易にかつしっかりと対象の皮膚に組立てハウジング14を装着するのに使用する。公知であるが光源18からの異なる波長の光信号が角柱アッセンブリ22を通って発せられる。光源18は、所定の波長において狭いスペクトル帯域幅で光を発するレーザーダイオードであることが好ましい。一実施形態では、レーザーダイオードをコネクタハウジング16内に取り付ける。レーザーダイオードは、組立てハウジング14内に配置された角柱アッセンブリ22への光ファイバー誘導装置と光学的に接続される。第2の実施形態では、光源18は、組立てハウジング14内に取り付けられる。第1コネクタケーブル26によって、組立てハウジング14をコネクタハウジング16に連結し、第2コネクタケーブル28によって、コネクタハウジング16をプロセッサ部分12に連結する。光検出器20は、1つまたは複数のフォトダイオードを備える。そのフォトダイオードもまた、第1および第2コネクタケーブル26、28を介してプロセッサ部分12に動作可能に連結される。プロセッサ部分12は、光源18および光検知器20からの光強度信号を処理するプロセッサを備える。 【0026】 そのプロセッサには、異なる波長間の減衰差の関数として、減衰の変化を特徴づけるアルゴリズムを用いる。本発明は有利なことに、測定波長域全体にわたり比較的フラットな、または非常に低い吸収スペクトルを有する、生物組織中に存在する他の成分(骨、水分、皮膚、色素沈着)が原因となる散乱変数「G」、パス長B*d、および吸収「F」の減衰効果を最小限に抑える。さらに、本発明の方法は、波長に依存する、または依存しない検出器特性が原因となるオフセット減衰(offset attenuation)「N」を明らかにする。本発明の方法のアゴリズムは以下のように表すことができる: A_(λ1)-A_(λ2)=ΔA_(λ1-λ2)=ΔA_(λ12)(式5) 式中、A_(λ1)およびA_(λ2)は、「F」および「N」による減衰を明らかにする式2の変形式である、以下の式6の形をとる。 A_(λ)=-log(I/I_(O))λ=α_(λ)*c*d*B_(λ)+G+F+N(式6) 式6をA_(λ1)およびA_(λ2)について式5に代入すると、測定波長全体で一定の光吸収を表し、同一検出器を用いて様々な波長で光信号を検知するという条件で、式5中の項「F」および「N」は、減算されて消去される。したがって、異なる波長因子Bが波長から独立している場合には、ΔA_(λ12)を以下のように表すことが可能であり: ΔA_(λ12)=log[(I_(λ1)/I_(oλ1))*(I_(λ2)/I_(oλ2))]=Δαc_(λ12)cdB+ΔG_(λ12)(式7) および展開式: ΔA_(λ12)=(α_(Hbλ1)-α_(Hbλ2))[Hb]dB+(α_(HbO2λ1)-α_(HbO2λ2))[HbO_(2)]dB+ΔG_(λ12)(式8) に書き換えることができる。」) (3)上記(1)の「所定の第1強度で対象組織に」「第1波長と、第2波長と、第3波長とを含む」「光信号を伝送」させることが、上記(2)の「光源」によって行われることは自明である。 (4)上記(1)の「光信号が対象を通して伝わった後に、第1、第2、および第3波長に沿って光信号の第2強度を検知する」ことが、上記(2)の「光検出器」によって行われることは自明である。 (5)上記(1)の「所定の第1強度および第1、第2、および第3波長の検知された第2強度を用いて、その第1、第2、および第3波長それぞれの光信号の減衰を決定するステップと、第1波長と第2波長との間の光シグナルの減衰差と、第1波長と第3波長との間の光シグナルの減衰差とを決定するステップと、検知するのと同じ時間またはほぼ同じ時間で得られた経験的データを用いて、第1較正定数および第2較正定数を決定するステップと、第1波長と第2波長との間の減衰差と、第1波長と第3波長との間の減衰差と前記第1較正定数および前記第2較正定数とを用いて、対象組織中の血液酸素飽和度レベルを決定するステップ」の各ステップが、上記(2)の「プロセッサ」により行われることは自明である。 以上の(1)?(5)から、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。 「対象組織内の血液酸素飽和度レベルを決定する近赤外分光光度検出器であって、 所定の第1強度で対象組織に第1波長と、第2波長と、第3波長とを含む光信号を伝送させる光源と、 光信号が対象を通して伝わった後に、第1、第2、および第3波長に沿って光信号の第2強度を検知する光検出器と、 第1波長と第2波長との間の減衰差と、第1波長と第3波長との間の減衰差と第1較正定数および第2較正定数とを用いて、対象組織中の血液酸素飽和度レベルを決定するプロセッサであって、所定の第1強度および第1、第2、および第3波長の検知された第2強度を用いて、その第1、第2、および第3波長それぞれの光信号の減衰を決定し、第1波長と第2波長との間の光シグナルの減衰差と、第1波長と第3波長との間の光シグナルの減衰差とを決定し、検知するのと同じ時間またはほぼ同じ時間で得られた経験的データを用いて、第1較正定数および第2較正定数を決定するプロセッサと、 を備え、 前記経験的データが、対象からの静脈血液源および動脈血液源を別々にサンプリングすることによって収集されるか又は対象からの静脈血液源および動脈血液源を連続してモニターすることによって収集される近赤外分光光度検出器。」(以下、「引用発明」という。) 第5 対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 1 引用発明の「対象組織内の血液酸素飽和度レベルを決定する近赤外分光光度検出器」は、本願発明の「対象組織内の血液酸素飽和度を決定する近赤外分光光度センサ」に相当する。 2 引用発明の「対象組織に第1波長と、第2波長と、第3波長とを含む光信号を伝送させる光源」は、本願発明の「第1の波長の光と第2の波長の光と第3の波長の光とを含む光信号を上記対象組織内に伝搬させる光源」に相当する。 3 引用発明の「光信号が対象を通して伝わった後に、第1、第2、および第3波長に沿って光信号の第2強度を検知する光検出器」と本願発明の「上記光信号を上記対象組織内に伝搬させた後に同一直線上に位置する第1の所定距離と第2の所定距離とにおいて個々に上記第1の波長の光と上記第2の波長の光と上記第3の波長の光とに関して第1の光強度と第2の光強度とを検出する2つの光検出器」とは、「上記光信号を上記対象組織内に伝搬させた後に所定距離において上記第1の波長の光と上記第2の波長の光と上記第3の波長の光とに関して第2の光強度を検出する光検出器」の点で共通する。 4 引用発明の「第1較正定数および第2較正定数とを用いて、対象組織中の血液酸素飽和度レベルを決定するプロセッサ」は、本願発明の「較正定数を用いて上記対象組織内の上記血液酸素飽和度を決定する処理部」に相当する。 5 引用発明において、「検知するのと同じ時間またはほぼ同じ時間で得られた経験的データを用いて、第1較正定数および第2較正定数を決定する」ことが、「第1波長と第2波長との間の減衰差と、第1波長と第3波長との間の減衰差とを決定」することを通じて行われているから、これら引用発明の構成は、本願発明の「上記較正定数は、上記第1の波長の光と上記第2の波長の光との間の減衰差、上記第1の波長の光と上記第3の波長の光との間の減衰差、及び上記対象組織を通じて得られる経験的データを用いて決定され」ることに相当する。 6 引用発明の「所定の第1強度および第1、第2、および第3波長の検知された第2強度を用いて、その第1、第2、および第3波長それぞれの光信号の減衰を決定し、第1波長と第2波長との間の光シグナルの減衰差と、第1波長と第3波長との間の光シグナルの減衰差とを決定」することは、本願発明の「上記第1の波長の光と上記第2の波長の光との間の上記減衰差は、上記第1の波長の光の減衰と上記第2の波長の光の減衰とを用いて決定され、上記第1の波長の光と上記第3の波長の光との間の上記減衰差は、上記第1の波長の光の減衰と上記第3の波長の光の減衰とを用いて決定され、上記第1の波長の光の上記減衰は、上記第1の波長の光の第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定され、上記第2の波長の光の上記減衰は、上記第2の波長の光の第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定され、上記第3の波長の光の上記減衰は、上記第3の波長の光の第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定される」ことに相当する。 7 引用発明の「プロセッサ」が「対象組織中の血液酸素飽和度レベルを決定する」前に「前記第1較正定数および前記第2較正定数とを用いて」予め較正することは自明である。 よって、この自明な構成と引用発明の「プロセッサ」が「検知するのと同じ時間またはほぼ同じ時間で得られた経験的データを用いて、第1較正定数および第2較正定数を決定する」際に、「前記経験的データが、対象からの静脈血液源および動脈血液源を別々にサンプリングすることによって収集されるか又は対象からの静脈血液源および動脈血液源を連続してモニターすることによって収集される」ことは、本願発明の「上記処理部は、静脈酸素飽和度と動脈酸素飽和度とを用いて決定される較正定数を用いて予め較正され、上記静脈酸素飽和度と上記動脈酸素飽和度は、上記対象組織を上記近赤外分光光度センサで検知している間に上記対象組織の血液を個別にサンプリングするか又は連続的にモニタリングすることによって得られる上記経験的データを用いて決定されること」に相当する。 してみると、本願発明と引用発明とは、 「対象組織内の血液酸素飽和度を決定する近赤外分光光度センサであって、 第1の波長の光と第2の波長の光と第3の波長の光とを含む光信号を上記対象組織内に伝搬させる光源と、 上記光信号を上記対象組織内に伝搬させた後に所定距離において上記第1の波長の光と上記第2の波長の光と上記第3の波長の光とに関して第2の光強度を検出する光検出器と、 較正定数を用いて上記対象組織内の上記血液酸素飽和度を決定する処理部であって、上記較正定数は、上記第1の波長の光と上記第2の波長の光との間の減衰差、上記第1の波長の光と上記第3の波長の光との間の減衰差、及び上記対象組織を通じて得られる経験的データを用いて決定され、上記第1の波長の光と上記第2の波長の光との間の上記減衰差は、上記第1の波長の光の減衰と上記第2の波長の光の減衰とを用いて決定され、上記第1の波長の光と上記第3の波長の光との間の上記減衰差は、上記第1の波長の光の減衰と上記第3の波長の光の減衰とを用いて決定され、上記第1の波長の光の上記減衰は、上記第1の波長の光の第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定され、上記第2の波長の光の上記減衰は、上記第2の波長の光の第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定され、上記第3の波長の光の上記減衰は、上記第3の波長の光の第1の光強度と上記第2の光強度とを用いて決定される処理部と、 を備え、 上記処理部は、静脈酸素飽和度と動脈酸素飽和度とを用いて決定される較正定数を用いて予め較正され、上記静脈酸素飽和度と上記動脈酸素飽和度は、上記対象組織を上記近赤外分光光度センサで検知している間に上記対象組織の血液を個別にサンプリングするか又は連続的にモニタリングすることによって得られる上記経験的データを用いて決定されることを特徴とする近赤外分光光度センサ。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 「上記光信号を上記対象組織内に伝搬させた後に所定距離において上記第1の波長の光と上記第2の波長の光と上記第3の波長の光とに関して第2の光強度を検出する光検出器」が、本願発明では「同一直線上に位置する第1の所定距離と第2の所定距離とにおいて個々に」「第1の光強度と第2の光強度とを検出する2つの光検出器」であるのに対し、引用発明では「第2の光強度を検出する」1つの検出器である点。 (相違点2) 第1?3の波長の光の減衰の決定に用いられる第1?3の波長の光の第1の光強度と第2の光強度が、本願発明では、「同一直線上に位置する第1の所定距離と第2の所定距離とにおいて個々に」「2つの光検出器」により「検出」される「第1の光強度と第2の光強度」であるのに対し、引用発明では、「対象組織に」「伝送」される「光信号」の「所定の第1強度」と「光信号が対象を通して伝わった後に」「検知される」「光信号の第2強度」である点。 (相違点1、2について) 受光信号から大脳皮質の深い所に相当する信号を抽出して大脳皮質の血液の酸素状態を高い精度で検出するために、光源から異なる距離の2箇所に受光素子を配置し、距離の長い受光素子で深い所の受光信号を得、距離の短い受光素子で浅い所である頭蓋骨付近の受光信号を得て、浅い所の受光信号を共通とみなし、深い所の受光信号から浅い所の受光信号を減算して、深い所である大脳皮質のみを通過する受光信号を求め、この受光信号に基づいて酸素飽和度を演算することは、例えば、当審による拒絶の理由に引用した登録実用新案第3016160号公報の段落【0005】?【0006】に開示されているように周知技術である。 そこで、引用発明において、受光信号たる光信号の強度から大脳皮質の深い所に相当する信号を抽出して、大脳皮質の血液の酸素状態を、高い精度で検出しようとして上記周知技術を適用すること、すなわち、引用発明の「所定の第1強度で対象組織に」「伝送」される「光信号」の「所定の第1強度」と「光信号が対象を通して伝わった後に」「光検出器」によって「検知される」「光信号の第2強度」を用いて「光信号の減衰を決定」することに代えて、光源から異なる距離の2箇所たる第1の所定距離と第2の所定距離に受光素子たる第1の光検出器と第2の光検出器を配置し、距離の長い第2光検出器で深い所の光信号の第2強度を得、距離の短い第1光検出器で浅い所である頭蓋骨付近の光信号の第1強度を得て、浅い所の光信号の強度を共通とみなし、深い所の光信号の第2強度から浅い所の光信号の第1強度を減算して、深い所である大脳皮質のみを通過する光信号の強度を求め、この光信号の強度に基づいて酸素飽和度を決定するようにすることは当業者が容易に想到し得たというべきである。 また、浅い所の光信号の強度を共通とみなし、深い所の光信号の第2強度から浅い所の光信号の第1強度を減算して、深い所である大脳皮質のみを通過する光信号の強度を求めるためには、2つの光検出器が浅い所(頭蓋骨付近)のほぼ同一の経路を通過する光信号の強度を検知できるように、それらを同一直線上に位置させることが望ましいことは、当業者において自明の設計事項といえる。 なお、2つの光検出器を位置させる際に「同一直線上」とすることについては、本願明細書にその記載自体はないものの、本願に添付した図面及び平成27年9月15日付けの意見書の「同一直線上とは、曲面(例えば、人間の頭部表面等)においては、その曲面上に引いた直線に沿ってという意味です」との記載を参酌して判断をした。 (効果について) 本願発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。 よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-10-09 |
結審通知日 | 2015-10-13 |
審決日 | 2015-10-26 |
出願番号 | 特願2009-287908(P2009-287908) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 門田 宏 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
藤田 年彦 麻生 哲朗 |
発明の名称 | 近赤外分光光度センサ |
代理人 | 絹谷 信雄 |