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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F01D
管理番号 1312338
審判番号 不服2015-1301  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-23 
確定日 2016-03-09 
事件の表示 特願2009-296939「改良型タービン翼プラットフォームの輪郭に関する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月15日出願公開、特開2010-156335〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年12月28日(パリ条約による優先権主張 2008年12月31日 アメリカ合衆国)の出願であって、平成25年10月29日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年5月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年9月16日付けで拒絶査定がされ、平成27年1月23日に拒絶査定不服審判が請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年3月5日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.平成27年1月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年1月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成27年1月23日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成26年5月9日提出の手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
タービンエンジン(100)の圧縮機又はタービンで使用するための流動配向アセンブリ(150)であって、
複数の周方向に離間された翼(152)であって、前記翼152の各々が、プラットフォーム(156)から延出している凹状圧力面(160)および凸状吸込み面(162)を備えた、径方向に突出しているエーロフォイル(154)を含む、翼と、
複数の流路(164)であって、各流路(164)が、隣接した一対の翼(152)の前記エーロフォイル(154)、および前記隣接した一対の翼(152)の前記プラットフォーム(156)を当接させることにより形成されている内壁(157)により画定されており、前記内壁(157)が前記流路(164)の内側径方向境界を形成する、複数の流路と、
を含み、
前記流路(164)のうちの1つまたは複数の前記内壁(157)が、前記タービンエンジン(100)を通過する作動流体の流動と前記内壁(157)との間の摩擦損失を低減する手段を含み、
前記摩擦損失を低減する前記手段が、前記隣接したエーロフォイル(154)間に配置されている前縁隆起部(190)及び非軸対称トラフ(170)を含み、
前記トラフ(170)の各々が、前記隣接した一対の翼(152)の前記エーロフォイル(154)間に周方向に配置されており、
前記トラフ(170)の各々が、前記エーロフォイル(154)の前縁(163)間の領域から、前記エーロフォイル(154)の後縁(166)間の領域まで延在し、該トラフ(170)の各々が、前記エーロフォイル(154)の前記前縁(163)間に位置する前縁部を有し、
前記前縁隆起部(190)が、おおよそ前記エーロフォイル(154)の前記圧力面(160)の前方領域と前記トラフ(170)の各々の前記前縁部との間にある細長い隆起領域を含む
ことを特徴とする、流動配向アセンブリ。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
タービンエンジン(100)の圧縮機又はタービンで使用するための流動配向アセンブリ(150)であって、
複数の周方向に離間された翼(152)であって、前記翼152の各々が、プラットフォーム(156)から延出している凹状圧力面(160)および凸状吸込み面(162)を備えた、径方向に突出しているエーロフォイル(154)を含む、翼と、
複数の流路(164)であって、各流路(164)が、隣接した一対の翼(152)の前記エーロフォイル(154)、および前記隣接した一対の翼(152)の前記プラットフォーム(156)を当接させることにより形成されている内壁(157)により画定されており、前記内壁(157)が前記流路(164)の内側径方向境界を形成する、複数の流路と、
を含み、
前記流路(164)のうちの1つまたは複数の前記内壁(157)が、前記タービンエンジン(100)を通過する作動流体の流動と前記内壁(157)との間の摩擦損失を低減する手段を含み、
前記摩擦損失を低減する前記手段が、前記隣接したエーロフォイル(154)間に配置されている前縁隆起部(190)及び非軸対称トラフ(170)を含み、
前記トラフ(170)の各々が、前記隣接した一対の翼(152)の前記エーロフォイル(154)間に周方向に配置されており、
前記トラフ(170)の各々が、前記エーロフォイル(154)の前縁(163)間の領域から、前記エーロフォイル(154)の後縁(166)間の領域まで延在し、該トラフ(170)の各々が、前記エーロフォイル(154)の前記前縁(163)間に位置する前縁部を有し、
前記前縁隆起部(190)が、おおよそ前記エーロフォイル(154)の前記圧力面(160)の前方領域と前記トラフ(170)の各々の前記前縁部との間のみにある細長い隆起領域からなる
ことを特徴とする、流動配向アセンブリ。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「前縁隆起部(190)」について、「おおよそ前記エーロフォイル(154)の前記圧力面(160)の前方領域と前記トラフ(170)の各々の前記前縁部との間のみにある細長い隆起領域からな」り、他の位置にはない旨を限定することを含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件についての判断
本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である国際公開第2006/033407号(以下、「引用文献」という。)には、「軸流機械の壁形状及びガスタービンエンジン」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。

(ア)「[0024] 図1は、本発明が適用される軸流機械の一例として、航空機等に使用されるガスタービンエンジン(ターボファンエンジン)を示す模式断面図である。
ガスタービンエンジンは、空気取入口1、ファン・低圧圧縮機2、ファン空気排出ダクト3、高圧圧縮機4、燃焼室5、高圧タービン6、低圧タービン7、及び排気ダクト8等を含む。
[0025] ファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6、及び低圧タービン7はそれぞれ、基部としての回転子(rotary drum)10,11,12,13の外周面上に複数の翼(動翼)14が周方向に互いに離間して配設されたロータ(rotors)と、基部としての環状のケーシング15,16,17,18の内周面上に複数の翼(静翼)19が周方向に互いに離間して配設されたノズル(nozzles、stators)とを含む。
複数の翼14は、各回転子10,11,12,13から外方に延在しており、複数の翼19は、各ケーシング15,16,17,18から内方に延在している。回転子10,11,12,13とそれに対応するケーシング15,16,17,18との間には、環状の流路(軸流経路)が形成されている。
[0026] ファン・低圧圧縮機2、及び高圧圧縮機4では、軸流経路における作動流体の流れに沿って、作動流体の圧力が増大する。高圧タービン6及び低圧タービン7では、軸流経路における作動流体の流れに沿って、作動流体の圧力が低下する。
[0027] ロータの翼14の根元(ハブ、hub)側の周壁は、軸流経路における径方向内方の壁(inner end wall)であり、ノズルの翼19の根元(ハブ、hub)側の周壁は、軸流経路における径方向外方の壁(outer end wall)である。
ロータの翼14の先端(チップ、tip)側に周壁(シュラウド壁など)が設けられる場合には、その先端側の壁は、軸流経路における径方向外側の壁(outer end wall)である。ノズルの翼19の先端(チップ、tip)側に周壁が設けられる場合には、その先端側の壁は、軸流経路における径方向内側の壁(inner end wall)である。
本発明の壁形状は、ロータの翼14の根元側の壁、ロータの翼14の先端側の壁、ノズルの翼19の根元側の壁、ノズルの翼19の先端側の壁、のいずれにも適用可能である。」(段落[0024]ないし[0027])

(イ)「[0028] 図2は、本発明の壁形状を、ロータの根元側の壁に適用した実施例を示す図であり、翼間の領域の面高さ(径方向位置、輪郭)を等高線を用いて示している。図3は、翼列の壁近傍を示す斜視図である。
[0029] 図2に示すように、各翼14は、前縁(leading edge)20と、後縁(trailing edge)21と、腹面(圧力面;pressure surface(P.S.))23と、背面(負圧面;suction surface(S.S.))24と、翼列(blade row)30の同一周方向に突出する反り(反り線22)とを有する。翼14の反り線22により、軸流経路の断面が、翼14の中央付近から翼14の後縁21に向かって減少する。
[0030] 図2及び図3に示すように、翼列30の径方向の壁31における、翼14同士の各間の領域には、溝(trough)40が形成されている。溝40は、少なくとも翼列30の軸方向(x方向)に延在している。溝40の形成領域は、上記軸方向に関して、翼14の前縁20と後縁21との間である。すなわち、溝40の形成領域は、翼14の弦(chord)29の長さの範囲内である。軸方向に関して、溝40の一端が、翼14の前縁20付近に位置し、他端が翼14の後縁21付近に位置する。
[0031] また、図2に示すように、溝40は、全体的に、翼14の反り線22に沿って湾曲して形成されている。すなわち、溝40の中心線41の形状は、翼14の反り線22と同方向の反り(翼列30の同一周方向に突出する反り)を有する。溝40の中心線41の少なくとも一部は、翼14の反り線22に対して非平行である。言い換えると、溝40の形状の位相が、翼14の弦方向に関して変化している。
[0032] より具体的には、溝40は、翼14の中央付近から後縁21付近に向かって、翼14の背面24に徐々に近づく形状を有する。翼14の後縁21付近(弦29の端付近)において、溝40の中心線41と翼14の背面24との距離が最短である。溝40の中心線41と翼14の背面24との最短距離は、その最長距離の50%以下であることが好ましい。また、翼14の後縁21付近において、溝40の中心線41と翼列30の軸とのなす角度β(流れの出口部分で翼列30の軸に対して溝40の中心線41の接線方向がなす角度;出口角度)が、翼14の反り線22と翼列30の軸とのなす角度α(流れの出口部分で翼列30の軸に対して翼14の反り線22の接線方向がなす角度;出口角度)に比べて大きい。翼14の前縁20付近においては、翼14の反り線22と溝40の中心線41との位置関係は、翼型及び流れ場に応じて変化する。例えば、翼14の反り線22と溝40の中心線41とが、前縁20と後縁21の範囲において、交差する(すなわち、最短距離が0となる)ように形成してもよい。
[0033] 図4は、翼列30の軸方向(x方向)に沿った、溝40の深さ形状(x軸を含む面に投影した溝の断面形状)を示す図である。
図4及び図2に示すように、溝40の深さ形状は、翼列30の軸方向(x方向)に沿って、最深部43(図2参照)と最浅部44a,44b(図2参照)の間で徐々に変化する。溝40の最深部43は、軸方向に関し、翼14の中央付近または翼14の中央と前縁20との間に位置する。溝40の最浅部44a,44bは、軸方向に関し、翼14の前縁20付近及び後縁21付近に位置する。
[0034] ここで、翼14の前縁20と後縁21との間の距離(翼列30の軸に沿って前縁20から計測)を、「軸長さ(axial chord length)」と定める。
溝40の深さは、図5Aに示すように、軸流経路の基準面(cylinder base(円筒面あるいは円錐面))からの径方向の距離(TD1)として定義される。あるいは、溝40の深さは、図5Bに示すように、翼列30の軸に垂直な1つの断面における振幅の半分(half of peak to peak)(図5Bに示すHR1)として定義される。溝40の最深部43は、TD1又はHR1のいずれを用いた場合にも、軸方向に関し、軸長さの20?60%、好ましくは20?50%、より好ましくは30?50%に位置する。
[0035] また、図4及び図2に示すように、溝40は、その延在方向に沿って、最深部43から両端の最浅部44a,44bのそれぞれに向かって徐々に浅くなる。すなわち、溝40は、翼14の前縁20付近の最浅部44aから始まり、深さを増しながら翼14の前縁21と中央付近との間で最も深くなり(最深部43)、深さを減らしながら翼14の後縁21付近の最浅部44bで終わる。最深部43から最浅部44a,44bまでの溝40の輪郭は、一様に滑らかである、あるいは非一様に滑らかである。前述したように、溝40の中心線41と翼14の背面24との距離は、翼14の後縁21付近で比較的短いことから、溝40の中心深さは、翼14の中央付近から後縁付近において、翼14の背面24から遠い部分で深く、背面24に近い部分で浅い。
[0036] 図6Aは、溝40の形状を説明するための図であり、図6B及び6Cは、溝40を有する壁31の周形状(周方向の輪郭、すなわち壁の横断面(軸に対する直交断面)の形状)を示す図(壁面の凹凸分布図)である。
図6Aに示すように、翼14の前縁位置(LE)及び後縁位置(TE)では、壁31は円環状であり、その周形状(周方向の輪郭)は円弧である。すなわち、前縁位置(LE)及び後縁位置(TE)の壁31の周形状には溝40による窪みがない。
[0037] ここで、壁31における軸長さ(axial chord length)の約30%-40%の間を領域Aと称し、壁31における軸長さの約60%-90%を領域Cと称し、壁31における軸長さの約40%-60%(すなわち、領域Aと領域Cとの間)を領域Bと称する。壁31の周形状(凹や凸)は、領域Aと領域Cとによって定義され、領域Bは、翼型及び流れ場に応じて変化する遷移領域である。また、領域A及び領域Cの範囲は、本発明の壁形状が設置される場所、翼型及び流れ場によって、適宜変更されるものである。例えば、領域Cの範囲(約60%-90%)は、60%-90%、60%-80%、70%-90%、70%-80%、80%-90%、70%-85%、75%-90%、80%-95%のように設定することができる。
[0038] 図6Bに示すように、領域Aにおいて、壁31の周形状(周方向の輪郭)は、翼14の腹面23(P.S.)に隣接する凸部(convex portion)50と、翼14の背面24(S.S.)に隣接する別の凸部51と、2つの凸部の間に形成される凹部(concave portion)とを含む。この領域Aにおける凸/凹/凸形状を「第1形状」と称する。凸部は、正の曲率を有し、凹部は負の曲率を有する。
図6Cに示すように、領域Cにおいて、壁31の周形状は、翼14の腹面23(P.S.)に隣接する凸部54と、翼14の背面24(S.S.)に隣接する凹部55とを含み、凸部54から凹部55に滑らかに遷移している。この領域Cにおける腹面凸/背面凹形状を「第2形状」と称する。
[0039] 図6Aに示すように、領域Bにおいて、壁31の周形状は、第1形状から第2形状に滑らかに変化する。
前縁位置(LE)と領域Aとの間の領域(すなわち、軸長さの約0%-30%)は遷移領域であり、領域Lと称する。領域Lにおいて、壁31の周形状は、前縁位置(LE)における円弧から領域Aの第1形状(凸/凹/凸)に滑らかに変化する。
領域Cと後縁位置(TE)との間の領域(すなわち、軸長さの約90-100%)もまた遷移領域であり、領域Tと称する。領域Tにおいて、壁31の周形状は、領域Cにおける第2形状(腹面凸/背面凹)から後縁位置(TE)における円弧に滑らかに変化する。
前述したように、溝40は、領域L、領域A、領域Bのいずれかにおいて、軸長さの20%-60%の間に最深部43を有する。
[0040] また、翼14の腹面23に沿った壁31の輪郭(腹面側の輪郭)は、前縁位置(LE)と後縁位置(TE)を除く、すべての領域で軸流経路の基準面(cylinder base(円筒面あるいは円錐面))よりも高い位置である。図6Aに示すように、腹面側の輪郭は、翼14の前縁20付近における、正の曲率を有する凸領域60と、翼14の後縁21付近における、正の曲率を有する凸領域61とを有する。凸領域60と凸領域61との間の領域は遷移領域であり、この遷移領域において、腹面側の輪郭は、凸領域60から凸領域61に滑らかに変化する。この遷移領域において、曲率が負となる凹部が形成されていてもよい。
[0041] 翼14の背面24に沿った壁31の輪郭(背面側の輪郭)は、軸流経路の基準面(cylinder base)よりも高い位置にある主要領域と、翼型及び流れ場に応じて基準面からの高さが変化する部分領域とを有する。部分領域は、翼型及び流れ場に応じて、基準面よりも高い位置、ほぼ同じ位置、低い位置のいずれかに変化する。図6Aに示すように、背面側の輪郭は、翼14の前縁20付近における、正の曲率を有する凸領域64と、中央付近における、正の曲率を有する凸領域65と、後縁21付近における、負の曲率を有する凹領域66とを有する。背面側の輪郭における凹領域66は、翼14の弦長さ(chord length)の50%以下である。ここでいう弦長さは、図7に示すように、翼の前縁の先端と後縁の先端との距離(CL2)、あるいは前縁及び後縁に接する直線に直交する直線が翼の前縁及び後縁に接する2つの点の間の距離(CL1)として定義される。 」(段落[0028]ないし[0041])

(ウ)「[0042] 図8及び図9Aは、比較例として、翼列の壁が平坦な場合における壁近傍の流れ場(壁面近傍マッハ数分布)を示す図である。
図8及び図9Aにおいて、壁面上では、翼14の腹面(P.S.)の付近に部分的(弦方向の中央部付近)に剥離域45が生じ、これが壁面境界層と干渉し、主流とは異なる流れ方向の軸をもつ強い渦46が発生する。渦46の開始端は、剥離域45と壁面境界層との干渉部分であり、翼の腹面に比較的近く、さらに、軸方向に関して、翼14の中央付近または翼の中央と前縁の間に位置する。渦46の到達位置は、翼の背面かつ後縁付近である。
[0043] 図9Bは、図2から図6Cに示した本発明の壁形状の実施例における壁近傍の流れ場(壁面近傍マッハ数分布)を示す図である。
[0044] 図9Bに明らかなように、本発明の壁形状の実施例では、比較例に比べて、渦が弱まり、壁面上の流れの乱れが少ない。その結果、実施例では、流れの損失(圧力損失、エネルギー損失)の低減が図られる。
[0045] 図10は、2次流れによる損失の変化を示すグラフ図である。図10において、横軸はスパン(翼列の径方向高さ)を示し、縦軸は流れの損失(損失係数)を示す。
[0046] 図10に明らかなように、本発明の壁形状の実施例では、比較例に比べて、流れの損失が小さい。特に、図中Sで示す壁面近傍において損失低減が顕著である。
[0047] また、本発明の壁形状を、ロータの他の段の翼14の根元側の壁、ロータの翼14の先端側の壁、ノズルの翼19の根元側の壁、ノズルの翼19の先端側の壁、に適用したいずれの場合にも、上記と同様の損失低減が解析的に確認された。
[0048] このように、本発明の壁形状によれば、翼間の溝によって、翼の腹側の剥離域と壁面境界層との干渉により生じる渦を弱め、渦による流れの損失を低減することができる。
溝の中心線形状が翼の反り線と同方向の反りを有することにより、溝での別の損失渦の発生が回避される。
溝の最深部が、翼列の軸方向に関し、翼の中央付近または翼の中央と前縁との間に位置するから、渦の発生位置の近くに溝の最深部が位置する。そのため、渦の発生位置付近において、横断面(軸に対する直交断面)における溝の曲率変化が比較的大きい。
また、翼の前縁付近において、翼の腹面付近での壁の輪郭(周方向の輪郭、及び腹面に沿った輪郭)が凸形状を有することからも、渦の発生位置付近において、横断面(軸に対する直交断面)における溝の曲率変化が比較的大きい。
横断面における溝の底部の曲率変化が大きいと、翼の腹面側の流れが加速する。この流れの加速によって、翼の腹面側の境界層の発達が抑制される。また、翼の腹面側では、流れの加速によって圧力が下がるから、翼の腹面側と翼の後縁付近における背面側との圧力差が低下し、その結果、翼間の横断流れが弱まる。
翼の後縁付近において、翼の背面付近での壁の輪郭(周方向の輪郭、及び腹面に沿った輪郭)が凹形状を有することから、渦の到達位置付近の圧力が高い。渦の到達位置付近の圧力が高くなると、渦が弱まる。
[0049] 本発明の壁形状は、壁が平坦な場合に発生する渦の発生位置及びその進行軸に応じて、溝(図2に示す溝40)の位置及び形状が最適化設計されるのが好ましい。この場合、例えば、溝の最深部は、渦の開始端の近傍であるとよい。また、翼の後縁付近における溝の延在方向は、渦の軸方向に概ね近似しているとよい。図2から図6Cに示した壁形状は一例であって、翼列の壁形状は、翼型及び流れ場に応じて適宜最適化される。
[0050] 以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。」(段落[0042]ないし[0050])

(エ)「請求の範囲
[1] 翼列を有する軸流機械の流路に面した径方向の壁の形状であって、
前記翼列における翼同士の間の領域で、前記翼列の軸方向に延在する溝を有し、
前記溝の形成領域は、前記軸方向に関し、前記翼の前縁と後縁の間であり、
前記溝の中心線形状は、前記翼の反り線と同方向の反りを有し、
前記溝の最深部は、前記軸方向に関し、前記翼の中央付近または前記翼の中央と前縁との間に位置する、ことを特徴とする軸流機械の壁形状。
…(中略)…
[8] 前記翼の前縁付近における前記壁の周方向の輪郭が、前記翼の腹面に隣接する凸形状と前記翼の背面に隣接する凸形状とを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の軸流機械の壁形状。
[9] 前記翼の後縁付近における前記壁の周方向の輪郭が、前記翼の背面に隣接する凹形状を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の軸流機械の壁形状。
[10] 前記翼の後縁付近における前記壁の周方向の輪郭が、前記翼の腹面に隣接する凸形状をさらに含む、ことを特徴とする請求項9に記載の軸流機械の壁形状。」(請求の範囲の[1]ないし[10])

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1ないし図10の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)圧縮機及びタービンのロータにおける翼を、プラットフォームと該プラットフォームから延出して、径方向に突出した翼型として一体に形成し、配置することは、ガスタービンにおける技術常識であるところ、このことと上記(1)(ア)並びに図1ないし3の記載から、引用文献には、ガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7において、ロータの翼14が周方向に互いに離間して複数配設され、翼14の各々がプラットフォームから延出している凹状の腹面23と凸状の背面24を備えた、径方向に突出している翼型を有するものが記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(ア)並びに図1ないし3の記載から、引用文献に記載されたガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7において、各翼の間に複数の軸流経路が形成され、各軸流経路は、隣接した一対の翼14の翼型、および前記プラットフォームにより形成される壁により画定され、該壁が軸流経路のロータの径方向内側の境界を形成するものであることが分かる。

(ク)上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1ないし図10の記載から、引用文献に記載されたガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7において、各翼の間に形成された複数の軸流経路を画定する壁に、溝40並びに凸領域60及び凸領域61が形成されていることが分かる

(ケ)上記(1)(イ)の[0033]並びに図2及び図4の記載において、溝40が翼型の前縁20間の領域にある最浅部44aから、翼型の後縁21間の領域にある最浅部44bまで延在するものであることが分かるから、このことと上記(1)(イ)及び図2ないし図4の記載から、引用文献に記載されたガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7において、溝40の各々は、隣接した一対の翼14の翼型間に、軸方向に非対称に、周方向に配置され、溝40の各々は、翼型の前縁20間の領域から、翼型の後縁21間の領域まで延在し、該溝40の各々が、翼型の前縁20間に位置し、溝40の各々の前縁にある最浅部44aを有するものであることが分かる。

(コ)上記(1)(イ)の[0040]及び図6Aの記載から、引用文献に記載されたガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7において、凸領域60は、翼型の腹面23の前縁20付近と溝40の前縁にある最浅部44aとの間にある細長い凸領域からなることが分かる。

(サ)上記(1)(ウ)の[0042]ないし[0044]並びに図8ないし図9Bに、引用文献に記載されたガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7の各翼の間に形成された複数の軸流経路を画定する壁に、溝40並びに凸領域60及び凸領域61が形成されていることにより、翼列の壁が平坦な比較例に比べて、壁面上に発生する渦が弱まり、壁面上の流れの乱れが少なくなる結果、流れの損失(圧力損失、エネルギー損失)の低減が図られる旨が記載されていることからみて、隣接した一対の翼型間に配置されている溝40並びに凸領域60及び凸領域61は、壁面上に発生する渦を弱め、壁面上の流れの乱れが少なくする結果、流れの損失(圧力損失、エネルギー損失)を低減する手段(以下、便宜的に「流れ損失低減手段」という。)であることが分かる。

(シ)上記(2)(カ)ないし(サ)において、翼14、軸流経路及び流れ損失低減手段は、軸流を方向付けるための機構(以下、便宜的に「軸流方向付け機構」という。)であるといえるから、上記(2)(カ)ないし(サ)から、引用文献には、ガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7で使用するための軸流方向付け機構が記載され、該軸流方向付け機構は翼14、軸流経路及び流れ損失低減手段を含むものであるということができる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし図10の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7で使用するための軸流方向付け機構であって、
複数の周方向に互いに離間して配設された翼14であって、翼14の各々が、プラットフォームから延出している凹状の腹面23と凸状の背面24を備えた、径方向に突出している翼型を含む、翼14と、
各翼の間に形成された複数の軸流経路であって、各軸流経路は、隣接した一対の翼14の翼型、および前記プラットフォームにより形成される壁により画定され、該壁が軸流経路のロータの径方向内側の境界を形成する、複数の軸流経路と、
を含み、
複数の軸流経路を画定する壁に、流れ損失低減手段が形成され、
流れ損失低減手段が、隣接した一対の翼型間に配置されている溝40並びに凸領域60及び凸領域61を含み、
溝40の各々は、隣接した一対の翼14の翼型間に、軸方向に非対称に、周方向に配置され、
溝40の各々は、翼型の前縁20間の領域から、翼型の後縁21間の領域まで延在し、該溝40の各々が、翼型の前縁20間に位置し、溝40の各々の前縁にある最浅部44aを有し、
凸領域60は、翼型の腹面23の前縁20付近と溝40の前縁にある最浅部44aとの間にある細長い凸領域からなる
軸流方向付け機構。」

2.-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「軸流方向付け機構」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「流動配向アセンブリ」に相当し、引用発明における「ガスタービンエンジンにおけるファン・低圧圧縮機2、高圧圧縮機4、高圧タービン6及び低圧タービン7で使用するための軸流方向付け機構」は、本願補正発明における「タービンエンジンの圧縮機又はタービンで使用するための流動配向アセンブリ」に相当する。
また、引用発明における「翼14」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「翼」に相当し、以下同様に、「プラットフォーム」は「プラットフォーム」に、「凹状の腹面23」は「凹状圧力面」に、「凸状の背面24」は「凸状吸込み面」に、「翼型」は「エーロフォイル」に、「軸流経路」は「流路」に、「壁」は「内壁」に、「ロータの径方向内側の境界」は「内側径方向境界」に、「複数の軸流経路を画定する壁」は「流路のうちの1つまたは複数の内壁」に、それぞれ相当する。
そして、「内壁」が「プラットフォームにより形成されている」という限りにおいて、引用発明において「壁がプラットフォームにより形成されている」ことは、本願補正発明において「内壁」が「隣接した一対の翼のプラットフォームを当接させることにより形成されている」ことに相当する。
また、引用発明における「流れ損失低減手段」は、「壁面上に発生する渦を弱め、壁面上の流れの乱れが少なくする結果、流れの損失(圧力損失、エネルギー損失)を低減する手段」である(上記2.-1(2)(サ)参照)ところ、壁面上の流れの乱れによって生じる流れの損失(圧力損失、エネルギー損失)は、本願補正発明における「タービンエンジンを通過する作動流体の流動と内壁との間の摩擦損失」に相当するから、引用発明において「複数の軸流経路を画定する壁に、流れ損失低減手段が形成され」ることは、本願補正発明において流動配向アセンブリが「タービンエンジンを通過する作動流体の流動と内壁との間の摩擦損失を低減する手段を含」むことに相当し、引用発明における「流れ損失低減手段」は、本願補正発明における「摩擦損失を低減する手段」に相当する。
さらに、引用発明における「溝40」は「軸方向に非対称に」配置されたものであるから、本願補正発明における「非軸対称トラフ」に相当し、引用発明における「凸領域60」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「前縁隆起部」に相当し、「摩擦損失を低減する手段が、隣接したエーロフォイル間に配置されている前縁隆起部及び非軸対称トラフを含」むという限りにおいて、引用発明において「流れ損失低減手段が、隣接した一対の翼型間に配置されている溝40並びに凸領域60及び凸領域61を含」むことは、本願補正発明において「摩擦損失を低減する手段が、隣接したエーロフォイル間に配置されている前縁隆起部及び非軸対称トラフを含」むことに相当する。
また、引用発明における「翼型の前縁20間の領域」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「エーロフォイルの前縁間の領域」に相当し、同様に「翼型の後縁21間の領域」は「エーロフォイルの後縁間の領域」に、「翼型の腹面23の前縁20付近」は「エーロフォイルの圧力面の前方領域」に、「溝40の各々の前縁にある最浅部44a」は「トラフの各々の前縁部」に、「細長い凸領域」は「細長い隆起領域」に、それぞれ相当する。
そして、「前縁隆起部が、おおよそエーロフォイルの圧力面の前方領域とトラフの各々の前縁部との間にある細長い隆起領域からなる」という限りにおいて、引用発明において「凸領域60は、翼型の腹面23の前縁20付近と溝40の前縁にある最浅部44aとの間にある細長い凸領域からなる」ことは、本願補正発明において「前縁隆起部が、おおよそエーロフォイルの圧力面の前方領域とトラフの各々の前縁部との間のみにある細長い隆起領域からなる」ことに相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「タービンエンジンの圧縮機又はタービンで使用するための流動配向アセンブリであって、
複数の周方向に離間された翼であって、前記翼の各々が、プラットフォームから延出している凹状圧力面および凸状吸込み面を備えた、径方向に突出しているエーロフォイルを含む、翼と、
複数の流路であって、各流路が、隣接した一対の翼の前記エーロフォイル、およびプラットフォームにより形成されている内壁により画定されており、前記内壁が前記流路の内側径方向境界を形成する、複数の流路と、
を含み、
前記流路のうちの1つまたは複数の前記内壁が、前記タービンエンジンを通過する作動流体の流動と前記内壁との間の摩擦損失を低減する手段を含み、
前記摩擦損失を低減する前記手段が、前記隣接したエーロフォイル間に配置されている前縁隆起部及び非軸対称トラフを含み、
前記トラフの各々が、前記隣接した一対の翼の前記エーロフォイル間に周方向に配置されており、
前記トラフの各々が、前記エーロフォイルの前縁間の領域から、前記エーロフォイルの後縁間の領域まで延在し、該トラフの各々が、前記エーロフォイルの前記前縁間に位置する前縁部を有し、
前記前縁隆起部が、おおよそ前記エーロフォイルの前記圧力面の前方領域と前記トラフの各々の前記前縁部との間にある細長い隆起領域からなる
ことを特徴とする、流動配向アセンブリ。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

〈相違点〉
(a)「内壁」が「プラットフォームにより形成されている」ことに関し、本願補正発明においては「内壁」が「隣接した一対の翼のプラットフォームを当接させることにより形成されている」のに対し、引用発明においては「壁」が「プラットフォームにより形成されている」点(以下、「相違点1」という。)。

(b)「摩擦損失を低減する手段が、隣接したエーロフォイル間に配置されている前縁隆起部及び非軸対称トラフを含」むとともに、「前縁隆起部が、おおよそエーロフォイルの圧力面の前方領域とトラフの各々の前縁部との間にある細長い隆起領域からなる」ことに関し、本願補正発明においては「摩擦損失を低減する手段が、隣接したエーロフォイル間に配置されている前縁隆起部及び非軸対称トラフを含」むとともに、「前縁隆起部が、おおよそエーロフォイルの圧力面の前方領域とトラフの各々の前縁部との間のみにある細長い隆起領域からなる」のに対し、引用発明においては「流れ損失低減手段が、隣接した一対の翼型間に配置されている溝40並びに凸領域60及び凸領域61を含」むとともに、「凸領域60は、翼型の腹面23の前縁20付近と溝40の前縁にある最浅部44aとの間にある細長い凸領域からなる」点(以下、「相違点2」という。)。

2.-3 判断
上記各相違点について検討する。
まず、相違点1に関し、プラットフォームと翼型からなる翼を各翼毎に形成し、隣接する翼のプラットフォームを当接させて配置することは、引用文献に特に明示されていないが、圧縮機及びタービンのロータにおいて常識的に行われていることであるから、相違点1は何ら実質的なものではない。

次に、相違点2に関し、本願補正発明は、「摩擦損失を低減する手段が、隣接したエーロフォイル間に配置されている前縁隆起部及び非軸対称トラフを含」むものではあるが、他の構成を含むか否かについて、何ら特定がないから、「流れ損失低減手段が、隣接した一対の翼型間に配置されている溝40並びに凸領域60及び凸領域61を含」む引用発明との間に、実質的な相違はない。
また、引用発明において「凸領域60」は、「凸領域61」と独立して存在し、「凸領域60は、翼型の腹面23の前縁20付近と溝40の前縁にある最浅部44aとの間にある細長い凸領域」のみからなるということができるから、このことに関しても、本願補正発明と引用発明の間に実質的な相違はない。
この点に関し、請求人は審判請求書の請求の理由の(iii)において、「引用文献1に記載の発明の凸部領域61はエーロフォイル14の翼弦中央付近から後縁に向かって延びており、これは明らかに本願発明の前縁隆起部の位置と異なるものである。すなわち、引用文献1には、前縁隆起部(190)を、おおよそエーロフォイル(154)の圧力面(160)の前方領域と、エーロフォイル(154)の前縁(163)間に位置する、トラフ(170)の前縁部との間のみにある細長い隆起領域から構成することについては、開示も示唆もされていない。」と主張しているが、上記のとおりであるから、請求人の同主張は失当である。
したがって、上記相違点1及び2は、実質的な相違点ではなく、本願補正発明は、引用発明である。

また、仮に、本願補正発明が、摩擦損失を低減する手段として、隣接したエーロフォイル間に配置されている前縁隆起部及び非軸対称トラフのみを有するものであって、引用発明が凸領域60に加えて凸領域61を有する点で相違するとしても、「凸領域60」と「凸領域61」とは独立して効果を奏するものであるから、引用発明において「凸領域61」を省略し、「流れ損失低減手段が、隣接した一対の翼型間に配置されている溝40並びに凸領域60を含み、凸領域60は、翼型の腹面23の前縁20付近と溝40の前縁にある最浅部44aとの間のみにある細長い凸領域である」ようにすることによって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、引用発明において「凸領域60」と「凸領域61」とは独立して効果を奏するものであり、「凸領域61」を省略し得ることは、引用文献において、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の省略が可能である旨が記載され(上記2.-1(1)(ウ)参照)、請求の範囲の[8]及び[10]に、それぞれ、引用発明における「凸領域60」に対応する「翼の前縁付近における壁の周方向の輪郭が、翼の腹面に隣接する凸形状を含む」と、引用発明における「凸領域61」に対応する「翼の後縁付近における壁の周方向の輪郭が、翼の腹面に隣接する凸形状を含む」と、別個に記載されている (上記2.-1(1)(エ)参照)ことからも明らかである。
また、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。
よって、仮に本願補正発明が引用発明でなかったとしても、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3項に該当するか、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、平成27年1月23日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年5月9日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲、並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。


2.引用発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(国際公開第2006/033407号)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1の(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
前記第2.の[理由]1.(2)で検討したとおり、本件補正は、該補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本願発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、逆に、本願発明は、実質的に本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-2及び2.-3に記載したとおり、引用発明であるか、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明であるか、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当するから、特許を受けることができず、また特許法第29条第1項第3項に該当しないとしても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
上記第3.のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3項に該当するから、特許を受けることができず、また特許法第29条第1項第3項に該当しないとしても、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-07 
結審通知日 2015-10-13 
審決日 2015-10-26 
出願番号 特願2009-296939(P2009-296939)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01D)
P 1 8・ 113- Z (F01D)
P 1 8・ 575- Z (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 公志郎出口 昌哉  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 松下 聡
中村 達之
発明の名称 改良型タービン翼プラットフォームの輪郭に関する方法および装置  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  

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