• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1312443
審判番号 不服2014-18067  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-10 
確定日 2016-03-17 
事件の表示 特願2009-231461「ダイボンディングフィルム及びこれを用いた半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日出願公開,特開2010-114433〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成21年10月5日(優先権主張平成20年10月7日)の出願であって,平成25年8月20日付けの拒絶理由通知に対して,同年10月28日に意見書が提出されたが,平成26年6月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月10日に拒絶査定不服審判が請求がされたものであり,その請求項1-7に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-7に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
ガラス転移温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体を含有する接着剤層を有するダイボンディングフィルム。」

2 引用例の記載と引用発明
(1)引用例1:特開2007-302881号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-302881号公報(以下「引用例1」という。)には,「接着剤組成物及び接着シート」(発明の名称)に関して,図1及び2とともに以下の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)

(1a)「【請求項3】
(a)必須成分として重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂及び融点が40℃以上のエポキシ樹脂を含み,かつ,任意成分としてフェノール樹脂を含む熱硬化性成分であって,
前記熱硬化性成分の総量に対して前記重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂,前記融点が40℃以上のエポキシ樹脂及び前記フェノール樹脂を合計で50?70質量%含む前記熱硬化性成分100質量部と,
(b)重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,前記(a)成分を除く。)15?40質量部と,
(c)無機フィラー40?180質量部と,
を含有する接着剤組成物をシート状に成形した接着層を備える接着シート。
【請求項4】
前記接着剤組成物が150℃以上の温度で重合するモノマーを含有し,前記モノマーがエポキシ樹脂以外のモノマーである,請求項3記載の接着シート。
【請求項5】
前記接着剤組成物は重量平均分子量が互いに異なる2種類又は3種類の高分子量成分を含有する,請求項2?4のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項6】
前記接着剤組成物は平均粒径が互いに異なる2種類又は3種類の無機フィラーを含有する,請求項2?5のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項7】
80℃での圧着により基材表面への埋め込みが可能な接着層を備える接着シート。
【請求項8】
前記接着層は80℃での圧着により基材表面への埋め込みが可能な,請求項2?6のいずれか一項に記載の接着シート。」

(1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は,接着剤組成物及び接着シートに関するものである。」

(1c)「【背景技術】
【0002】
従来,配線板に半導体素子を始めとする各種電子部品を搭載した実装基板の最も重要な特性の一つとして信頼性が挙げられる。その中でも,熱疲労に対する接続信頼性は実装基板を用いた機器の信頼性に直接影響を与えるため,非常に重要な項目である。この接続信頼性を低下させる原因の一つとして,熱膨張係数の異なる各種材料を用いていることから生じる熱応力が挙げられる。
【0003】
配線板に実装される半導体素子の熱膨張係数は一般的に約4ppm/℃と小さいのに対し,それを実装する配線板の熱膨張係数は,通常15ppm/℃以上と大きくなっている。そのため,実装基板が熱衝撃を受けると,半導体素子と配線板との間での熱歪みによって熱応力が発生する。
【0004】
近年,半導体チップを接着して多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及している。このようなパッケージでの接続信頼性を左右する要素の一つとして,接着面に空隙を発生させることなく半導体チップを実装できるか否かが挙げられる。特に,配線などに起因する凹凸を表面に有する基板上に半導体チップを積層する場合,凹部における埋め込み性が重要となる。 」

(1d)「【0009】
また,チップサイズも多様化し,パッケージの高集積化を達成するために,大きなチップサイズが必要となる場合がある。この場合,封止工程では,上述のような半導体チップ内部の空隙を完全になくすことは却って困難となる。また,半導体チップ端部に空隙が残存しても,パッケージの信頼性は低下する。よって,圧着工程で凹部に接着層を埋め込み,空隙を生じさせないようにすることが望ましい。」

(1e)「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら,上記特許文献1で提案されたものを始めとする従来の接着シートは,低温及び低荷重での半導体チップの圧着に用いた場合,基材表面の凹部に接着層を十分に埋め込むには十分とはいえず,更に改善の余地がある。
【0011】
そこで,本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり,基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に,従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても,基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シート及びその接着シートを構成する接着剤組成物を提供することを目的とする。」

(1f)「【0020】
本発明は,(a)必須成分として重量平均分子量800以上のエポキシ樹脂及び融点40℃以上のエポキシ樹脂を含み,かつ,任意成分としてフェノール樹脂を含む熱硬化性成分であって,熱硬化性成分の総量に対して重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂,融点が40℃以上のエポキシ樹脂及びフェノール樹脂を合計で50?70質量%含む前記熱硬化性成分100質量部と,(b)重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,上記(a)成分を除く。)15?40質量部と,(c)無機フィラー40?180質量部とを含有する接着剤組成物をシート状に成形した接着層を備える接着シートを提供する。
【0021】
この本発明の接着シートは,基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に,従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても,基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シートとなる。これは,本発明の接着剤組成物が,従来よりも低粘度であることに起因する。
【0022】
上記接着剤組成物は150℃以上の温度で重合するモノマーを含有し,そのモノマーがエポキシ樹脂ではないことが好適である。これにより,接着層の粘度の経時変化を更に抑制して,そのフィルム特性をより長く一定に維持させることができる。また,150℃以上での加熱により重合して高分子化するため,硬化による接着後の耐熱性及び耐湿性に大きな影響を及ぼさない。
【0023】
上述の接着剤組成物は重量平均分子量が互いに異なる2種類又は3種類の高分子量成分を含有することが好ましい。接着剤組成物がこのような高分子量成分を含有することにより,接着層がより一層高い接着力を有する。その結果,接着層は,低粘度で埋め込み性が更に高く,かつ,硬化後の耐熱性及び耐湿性に優れたものとなる。
【0024】
上記接着剤組成物は平均粒径が互いに異なる2種類又は3種類の無機フィラーを含有すると好ましい。これにより,接着層が一層高い接着力を示すと共に,より良好なフィルム成形性を得ることができる。
【0025】
本発明は,80℃での圧着により基材表面への埋め込みが可能な接着層を備える接着シートを提供する。このような接着シートは,例えば,上述の接着シートであればよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば,基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に,従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても,基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シート及びその接着シートを構成する接着剤組成物を提供することができる。」

(1g)「【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下,必要に応じて図面を参照しつつ,本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお,図面中,同一要素には同一符号を付すこととし,重複する説明は省略する。また,上下左右等の位置関係は,特に断らない限り,図面に示す位置関係に基づくものとする。更に,図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また,本明細書における「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」及びそれに対応する「メタクリル酸」を意味し,「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味する。
【0028】
図1は,本発明の好適な実施形態に係る接着シートを示す模式断面図である。この接着シート10は,支持フィルム(基材フィルム)1と,その表面上に形成された接着層2とを備える。
【0029】
接着層2は,(a)熱硬化性成分と,(b)高分子量成分と,(c)フィラーとを含有する接着剤組成物をシート状に成形したものである。
【0030】
(a)熱硬化性成分は,半導体チップを実装する場合に要求される耐熱性及び耐湿性を接着層に付与するためには,エポキシ樹脂及びその硬化剤を主成分とすることが好ましい。
【0031】
<省略>
【0032】
特に硬化前(Bステージ状態)での接着層の可撓性を高くすることができる点で,エポキシ樹脂の重量平均分子量は1000以下であることが好ましく,500以下であることがより好ましい。また,接着力を更に向上させる観点から,エポキシ樹脂の重量平均分子量は,800以上であることが好ましい。さらには,Bステージ状態での可撓性に優れる重量平均分子量500以下のビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂50?90質量部と,硬化物の耐熱性に優れる重量平均分子量が800?3000の多官能エポキシ樹脂10?50質量部とを併用することが好ましい。
【0033】
また,熱硬化性成分は,融点が40℃以上のエポキシ樹脂を含有することが好ましい。特に,エポキシ樹脂の重量平均分子量が800以上である場合,そのエポキシ樹脂の融点が40℃以上であるか,あるいは,そのエポキシ樹脂とは別の融点が40℃以上のエポキシ樹脂を併用することが好ましい。融点が40℃以上のエポキシ樹脂を用いることにより,融点が40℃以上のエポキシ樹脂を用いない場合と比較して,室温での接着層のタック強度が低減する傾向にある。これにより,実装基板作製プロセスにおける作業性が向上する傾向にある。」

(1h)「【0041】
熱硬化性成分は,重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂,融点が40℃以上のエポキシ樹脂,及び必要に応じてフェノール樹脂を含有する場合,それらの合計の含有割合は熱硬化性成分の全体量に対して50?70質量%であると好ましく,60?70質量%であるとより好ましい。この含有割合が50質量%を下回ると,50?70質量%である場合と比較して,タック強度の上昇により実装基板の作製プロセスにおける作業性の低下を招く傾向にある。また,この含有割合が70質量%を超えると,50?70質量%である場合と比較して,粘度の上昇により,基板の凹部への埋め込み性が低下する傾向にある。
【0042】
熱硬化性成分がエポキシ樹脂とフェノール樹脂とを併せて含有する場合,それらの配合比は,(エポキシ当量/水酸基当量)で,0.70/0.30?0.30/0.70であると好ましく,0.65/0.35?0.35/0.65であるとより好ましく,0.60/0.40?0.40/0.60であると更に好ましく,0.60/0.40?0.50/0.50であると特に好ましい。ここで(エポキシ当量/水酸基当量)は,フェノール樹脂における水酸基当量に対する,エポキシ樹脂におけるエポキシ当量の比を示す。この配合比が上記範囲外となると,0.70/0.30?0.30/0.70である場合と比較して,接着層の硬化性が低下したり,未硬化の状態での接着層の粘度が高くなったり,流動性が低下したりする傾向にある。
【0043】
(b)高分子量成分は,重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有するものである。ただし,上述の(a)成分に該当するものは除かれる。
【0044】
高分子量成分は,エポキシ基,アルコール性又はフェノール性水酸基,カルボキシル基等の架橋性官能基を有することが好ましい。架橋性官能基を有する高分子量成分としては,(メタ)アクリル共重合体((メタ)アクリル樹脂),ポリイミド樹脂,ウレタン樹脂,ポリフェニレンエーテル樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,フェノキシ樹脂,変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。これらの中でも,(メタ)アクリル基を有するモノマーを重合して得られる(メタ)アクリル共重合体が好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0045】
(メタ)アクリル共重合体としては,(メタ)アクリル酸エステル共重合体,アクリルゴムなどを使用することができ,アクリルゴムがより好ましい。アクリルゴムは,アクリル酸エステルを主成分とし,主として,ブチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体や,エチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体などからなるゴムである。
【0046】
(メタ)アクリル共重合体は,グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートなどの,エポキシ基を有するアクリルモノマーをモノマー単位として有することが好ましい。すなわち,(メタ)アクリル共重合体(好ましくはアクリルゴム)はエポキシ基を有することが好ましい。
【0047】
高分子量成分の重量平均分子量は,好ましくは10万以上100万以下である。この分子量が10万未満であると接着層の硬化後の耐熱性及び接着力が低下する傾向があり,分子量が120万を超えると接着層の流動性が低下する傾向がある。なお,上記重量平均分子量は,ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0048】
また,高分子量成分は重量平均分子量が互いに異なる2種類又は3種類のものを併せて用いることが好ましい。さらに,10万?30万の重量平均分子量を有する1種類以上の高分子量成分と,互いに異なる50万以上の重量平均分子量を有する2種類又は3種類の高分子量成分とを併せて用いることがより好ましい。これらにより,一層高い接着強度を有する接着層が得られる。この接着層は,粘度が低くても,硬化後の耐熱性及び耐湿性により優れたものとなる
【0049】
なお,高分子量成分が2種類以上接着剤組成物に含まれる場合,それらは別個に重合して得られるものである。
【0050】
高分子量成分のガラス転移温度(Tg)は-50?+50℃であることが好ましい。Tgが-50℃未満であると,-50?+50℃の範囲内にある場合と対比して,接着層の柔軟性が高くなりすぎる傾向にある。これにより,ウエハダイシング時に接着層を切断し難くなり,その結果バリが発生してダイシング性が低下する傾向にある。またTgが+50℃を超えると,-50?+50℃の範囲内にある場合と対比して,接着層の柔軟性が低下する傾向にある。
【0051】
高分子量成分は,ガラス転移温度(Tg)が-20℃?+40℃で重量平均分子量が10万?90万であることが好ましく,Tgが-10℃?+40℃で重量分子量が20万?85万であることがより好ましい。これにより,特に,半導体ウエハダイシング時に接着シートの切断が一層容易になり,切断の際に樹脂くずが更に発生し難くなり,また,耐熱性がより高くなる。
【0052】
高分子量成分の好適な例としては,グリシジル(メタ)アクリレート等の官能基を有するモノマーを含有するモノマー群を重合して得られる,重量平均分子量が10万?120万であるエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体が挙げられる。」

(1i)「【0066】
また,上記接着剤組成物の別の好適な実施形態は,(a)必須成分として重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂及び融点が40℃以上のエポキシ樹脂を含み,かつ,任意成分としてフェノール樹脂を含む熱硬化性成分であって,上述の熱硬化性成分の総量に対して上記重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂,上記融点が40℃以上のエポキシ樹脂及び上記フェノール樹脂を合計で50?70質量%含む熱硬化性成分100質量部と,(b)重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,上記(a)成分を除く。)15?40質量部と,(c)無機フィラー40?180質量部とを含有するものである。
【0067】
接着層2は,熱硬化性であって,硬化前(Bステージ状態)の80℃における溶融粘度が800Pa・s?40000Pa・sであると好ましく,800Pa・s?28000Pa・sであるとより好ましい。また,特定の基材への接着強度が3MPa以上,かつ厚みが5?250μmであると好ましい。上述の溶融粘度が800Pa・sを下回ると,上記数値範囲内にある場合と比較して,半導体チップ側面からの接着剤組成物のはみ出しが生じやすくなる。また,この溶融粘度が40000Pa・sを超えると,上記数値範囲内にある場合と比較して,被着体表面における凹部への接着層の埋め込み性が低下する。
【0068】
また,上記特定の基材への接着強度が3MPa未満であると,接着性が低下する傾向にある。さらに,接着層2の厚みが5μmを下回ると,上記数値範囲内にある場合と比較して,被着体表面における凹部への接着層の埋め込み性が低下し,応力緩和効果や接着性が低下する。一方,この厚みが250μmを上回ると,経済性が低下すると共に,半導体装置の小型化の要求に反するという不具合が生じる。同様の観点から接着層2の厚みは10?250μmであるとより好ましく,20?100μmであると更に好ましく,40?80μmであると特に好ましい。
【0069】
接着層2の硬化前の80℃における溶融粘度は,上述のエポキシ樹脂の種類の選定,(b)高分子量成分の分子量分布の調整,接着剤組成物における融点が40℃以上のエポキシ樹脂の含有割合の調整,(b)高分子量成分と(c)フィラーとの配合比の調整,並びに接着層2の形成条件の調整などにより,上記数値範囲内に収めることができる。また,上述のエポキシ樹脂の選定,(b)高分子量成分の分子量分布の調整,並びに(b)高分子量成分と(c)フィラーとの配合比の調整などにより,接着強度を3MPa以上に制御することができる。
【0070】
このような接着層2は,80℃での圧着により基材表面への埋め込みが可能となる。」

(1j)「【0082】
接着シート10を半導体装置を製造する際に用いる場合,接着層2は,ダイシングの際には半導体チップが飛散しない粘着力を有し,その後のピックアップの際にはダイシングテープから容易に剥離することが望まれる。例えば,接着層2の粘着性が高すぎるとピックアップが困難になることがある。そのため,適宜,接着層2のタック強度を調節することが好ましい。そのためには,接着層2の室温におけるフローを上昇させることにより,粘着強度及びタック強度が上昇する傾向があり,フローを低下させれば粘着強度及びタック強度が低下する傾向があることを利用すればよい。
【0083】
例えば,フローを上昇させるためには,可塑剤の含有量の増加,粘着性付与剤含有量の増加等の方法がある。逆にフローを低下させるためには,上記化合物の含有量を減らせばよい。可塑剤としては,例えば,単官能のアクリルモノマー,単官能エポキシ樹脂,液状エポキシ樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系のいわゆる希釈剤等が挙げられる。」

(1k)「【0086】
本実施形態に係る接着シート10は,配線回路等に起因して形成された凹凸表面の凹部充填性が良好である。したがって,半導体装置の製造における半導体チップと基材との間や半導体チップ同士の間を接着するための工程において,接着信頼性に優れる接着シートとして使用することができる。本実施形態に係る接着シート10は,半導体素子搭載用の基材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性,耐湿性,絶縁性を有し,かつ作業性にも優れる。
【0087】
<省略>
【0088】
有機基板と接着層2との間の接着強度は,より十分な接着力を確保する観点から,265℃で3MPa以上であると好ましい。なお,ここでの「接着強度」は,上記「特定の基材への接着強度」における「特定の基材」を有機基板に代えて測定されるものである。この接着強度は,上述のエポキシ樹脂の選定,(b)高分子量成分の分子量分布の調整,並びに(b)高分子量成分と(c)フィラーとの配合比の調整などにより3MPa以上に制御することができる。」

(1l)「【0095】
以上,本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は,その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0096】
例えば,本発明の別の実施形態において,接着シートは接着層のみから構成されてもよい。この場合,接着剤組成物を含む上記ワニスを被塗布用フィルムの表面上に塗布し,更にワニスを加熱により乾燥した後,被塗布用フィルムを剥離除去して接着層からなる接着シートが得られる。」

(1m)「【0100】
接着シートを半導体ウエハに貼り付ける際のラミネート温度は,0?80℃が好ましく,15?80℃がより好ましく,20?70℃が更に好ましい。この温度が80℃を超えると,接着シートを貼り付けた後の半導体ウエハが反りを生じやすくなる傾向にある。」

(1n)「【0114】
(各種物性の評価)
得られた接着シートについて,80℃での溶融粘度,室温でのタック強度,接着強度及び耐リフロー性の測定及び試験を行った。
【0115】
[溶融粘度の測定]
接着層の溶融粘度を平行板プラストメーター法により測定した。<省略>
【0116】
<省略>
【0117】
[タック強度の測定]
接着層のタック強度をプローブ法により測定した。<省略>
【0118】
[接着強度の測定]
接着層のダイシェア強度(接着強度)を下記の方法により測定した。まず,ダイシングテープと貼り合わせた接着シートの接着層を厚み400μmの半導体ウエハに60℃で貼り付けた。次に,それらを3.2mm角にダイシングしてチップを得た。個片化したチップをダイシングテープからピックアップし,その接着層側をレジスト(商品名「AUS308」,太陽インキ社製)を塗布した基板(日立化成工業社製,商品名「E-697FG」)表面上に,100℃,0.01MPa,1秒間の条件で熱圧着してサンプルを得た。その後,得られたサンプルの接着層を100℃で1時間,110℃で1時間,120℃で1時間,170℃で1時間の順のステップキュアにより硬化した。更に,接着層硬化後のサンプルを85℃,60RH%条件の下,168時間放置した。放置後即座に265℃でダイシェア強度を測定し,これを接着強度とした。結果を表3に示す。
【0119】
<省略>
【0120】
[耐リフロー性の評価]
接着層の耐リフロー性を下記の方法により評価した。<省略>
【0121】
得られたパッケージを,JEDECで定めた環境下(レベル2,85℃,60RH%,168時間)に曝して吸湿させた。続いて,IRリフロー炉(260℃,最高温度265℃)に吸湿後のパッケージを3回通過させた。パッケージの破損や厚みの変化,界面の剥離等が1個も観察されない場合を「A」,1個でも観察された場合を「B」と評価した。結果を表3に示す。
【0122】
実施例と比較例とを対比すると,実施例の方が比較例よりも粘度,タック性,接着強度及び耐リフロー性にバランスよく優れていることが判明した。」

(2)引用発明
以上の記載,特に,【請求項3】,【0002】-【0004】,【0011】,【0043】-【0052】の記載を勘案してまとめると,引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(a)必須成分として重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂及び融点が40℃以上のエポキシ樹脂を含み,かつ,任意成分としてフェノール樹脂を含む熱硬化性成分であって,
前記熱硬化性成分の総量に対して前記重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂,前記融点が40℃以上のエポキシ樹脂及び前記フェノール樹脂を合計で50?70質量%含む前記熱硬化性成分100質量部と,
(b)重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,前記(a)成分を除く。)であって,
アクリル共重合体である前記高分子量成分15?40質量部と,
(c)無機フィラー40?180質量部と,
を含有する接着剤組成物をシート状に成形した接着層を備える,
接続信頼性を向上させるために,基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に,従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても,基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことを可能とした接着シート。」

(3)引用例2:特開2001-64252号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-64252号公報(以下「引用例2」という。)には,「有機スルフィド化合物,その用途,それを用いた重合方法および重合体」(発明の名称)に関して,以下の記載がある。

(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,新規な有機スルフィド化合物,その用途,それを用いた重合方法および重合体に関する。」

(2b)「【0002】
【従来の技術】メチルメタクリレートやブチルアクリレート等のビニル系単量体を,公知の重合開始剤を用いて重合させた場合,重合熱による急激な温度上昇がみられるため,反応を制御するのが困難であり,特にバルク重合において問題があった。このような問題を解決するために,重合開始剤を減らしたり,多量の溶剤を使用する等の方法がある。しかしながら,これらの方法では,重合が極端に遅くなったり,反応後に多量の溶剤を除去する必要がある等の新たな問題点か生じている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで,本発明が解決しようとする課題は,ビニル系単量体を温和に重合させ,高収率で重合体を製造する等の目的に用いられる,新規な有機スルフィド化合物,その用途およびそれを用いた重合方法を提供することである。本発明が解決しようとする別の課題は,高度に枝分かれした重合体を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は,上記課題を解決するために鋭意検討した結果,重合反応の開始剤や連鎖移動剤として用いられる有機イオウ化合物に着目した。そして,1価メルカプタンとアクリルエステルモノマーとをマイケル付加させて得られた付加体を合成し,これを開始剤として重合反応を行ってみると,重合反応が温和に進行し,その収率が高まるという確認を得た。本発明者は,さらに,有機イオウに含まれるイオウ原子の数が多いほど,重合反応を温和に進行させる作用を発揮し,その収率がさらに高まるのではないかという仮説を立てて,この仮説を確かめるために,上記マイケル付加反応において1価メルカプタンを多価メルカプタンに代え,マイケル付加反応させて得られた付加体を製造し,それを用いて重合反応を行うと,重合反応がさらに温和に進行し,その収率がいっそう高まるという確認を得て,本発明に到達した。」

(2c)「【0012】<省略>
本発明にかかる重合開始剤および連鎖移動剤は,いずれも,上記有機スルフィド化合物を必須成分とする。
【0013】本発明にかかるビニル系単量体の重合方法は,上記重合開始剤および/または連鎖移動剤を用いて,ビニル系単量体をラジカル重合させる方法である。本発明にかかる重合体は,GPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS) とGPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC) との比(Mw^(LALLS) /Mw^(GPC) )が3.0以上である高度に枝分かれした重合体である。」

(2d)「【0014】
【発明の実施の形態】有機スルフィド化合物およびその製造方法
本発明にかかる有機スルフィド化合物は,以下の第1の製造方法または第2の製造方法で得られた化合物である。
〔第1の製造方法〕第1の製造方法は,多価メルカプタンとビニル系化合物とをマイケル付加反応させる方法である。
【0015】多価メルカプタンとしては,1分子内に2個以上のメルカプト基を有する化合物であれば特に限定はなく,たとえば,水酸基を2個以上有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタン類とを反応させて得られるポリエステル化合物;<省略>等を挙げることができ,これらが1種または2種以上使用される。
【0016】水酸基を2個以上有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタン類とを反応させて得られるポリエステル化合物としては,たとえば,<省略>;ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG),<省略>等の,ペンタエリスリトール等の水酸基を4個有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタン類とを反応させて得られるテトラエステル化合物;<省略>等を挙げることができ,これらが1種または2種以上使用される。
【0017】ビニル系化合物としては,1価ビニル系化合物や,2官能以上の多価ビニル系化合物を挙げることができ,これらが1種または2種以上使用される。1価ビニル系化合物としては,たとえば,<省略>等を挙げることができ,これらが1種または2種以上使用される。
【0018】多価ビニル系化合物としては,たとえば,<省略>トリメチロールプロパントリアクリレート,<省略>等の,1分子当たり3個以上の水酸基を有する化合物とアクリル酸とを反応させて得られるポリエステル化合物;<省略>等を挙げることができ,これらが1種または2種以上使用される。」

(2e)「【0035】<省略>
重合開始剤および連鎖移動剤
本発明にかかる重合開始剤および連鎖移動剤は,いずれも,上記化合物(1),化合物(2)および化合物(3)から選ばれた少なくとも1種の有機スルフィド化合物を必須成分とし,ビニル系単量体を温和に重合させ,高収率で重合体を製造するのに用いられる。
〔重合開始剤〕本発明の重合開始剤は,化合物(1),化合物(2),化合物(3)のいずれであってもよい。
【0036】重合開始剤として好ましい化合物(1)の構造としては,<省略>等を挙げることができるが,これらに限定されない。」

(2f)「【0045】<省略>
ビニル系単量体の重合方法
本発明にかかるビニル系単量体の重合方法は,上記重合開始剤および/または連鎖移動剤を用いて,ビニル系単量体をラジカル重合させる重合方法であり,ビニル系単量体は温和に重合し,得られる重合体の収率は高い。
【0046】ビニル系単量体としては,たとえば,(メタ)アクリル酸;炭素原子数1?30のアルキル(メタ)アクリレート,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,グリシジル(メタ)アクリレート,メトキシエチル(メタ)アクリレート,エトキシエチル(メタ)アクリレート,エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートなどに代表される(メタ)アクリレート類;α-メチルスチレン,ビニルトルエン,スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;<省略>等を挙げることができ,これらが1種または2種以上使用される。
【0047】ラジカル重合は,通常のラジカル重合方法である塊状重合,溶液重合,懸濁重合,乳化重合等で行うことができる。安価な重合体を得るためには,余分な揮発成分を含まない塊状重合が好ましい。重合温度は,30?200℃が好ましく,より好ましくは重合開始剤を使用しないで安定に塊状重合できる100?150℃である。
【0048】本発明のビニル系単量体の重合方法に用いられる重合開始剤としては,特に限定はないが,たとえば,一般式(1)中,o=m=0,かつ,k≧1,n≧3を満たす化合物(1A)を必須成分とするものが好ましく,重合開始剤が化合物(1A)のみからなるとさらに好ましい。化合物(1A)を必須成分とする重合開始剤を用いてラジカル重合させると,化合物(1A)からそのメルカプト基のプロトンが解離した残りの部分である多価メルカプタン部分を中心として,ビニル系単量体がラジカル重合して得られる重合体部分が,化合物(1A)中のメルカプト基に由来するイオウ原子に結合する形で,放射状に伸びた枝分かれの多い構造の星型重合体が得られる。
【0049】この星型重合体は,多くの枝分かれ構造を有し,同一組成,同一分子量の直鎖状の重合体と比較して,引張強さおよび弾性率が低下することなく,低粘度で,凝集力が高くなる。このため,高分子加工を行う上で,非常に有用である。この星型重合体としては,GPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS) とGPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC) との比(Mw^(LALLS) /Mw^(GPC) )が3.0以上である高度に枝分かれした重合体が好ましく,有用である。
【0050】この星型重合体は,高分子量,高い凝集力を有しながら,低粘度で使用できるため,作業性がよく,熱可塑性樹脂,塗料,接着剤,粘着剤等の各種用途に好ましく使用でき,大変有用である。」

(2g)「【0051】
【実施例】以下に実施例を挙げて,本発明を詳細に説明するが,本発明は以下の実施例により限定されるものではない。以下では,「%」は「重量%」,「部」は「重量部」を示す。
(実施例1)攪拌装置,窒素導入管,温度計,冷却管を備えた2リットルの4つ口フラスコにトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)59.2g,メチルエチルケトン600g,ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)259.2gを加え,窒素雰囲気下,反応混合物を攪拌しながら還流温度まで昇温した。上記仕込みにおいて,TMPTA/PETG(官能基比)=3/4,TMPTA/PETG(モル比)=1/3であった。2時間攪拌した後,冷却してマイケル付加反応を終了させた。得られた有機スルフィド化合物(1)の化学構造は,NMR,IR,元素分析結果から,TMPTA1個とPETG3個とが反応した生成物であり,TMPTAのすべての炭素-炭素2重結合に対して,PETGのSH基がマイケル付加した,下記化学式(a)で示される構造であることが確認された。
【0052】
【化7】
<省略>
【0053】<省略>」

(2h)「【0061】<省略>
(実施例6)実施例1と同様の反応容器に,スチレン160g,ブチルアクリレート40gおよび実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)27gを加え,窒素雰囲気下,反応混合物を攪拌しながら還流温度まで昇温した。5時間攪拌した後,冷却して重合を終了させた。得られた重合体(6)の重合率は97%,GPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC) に対するGPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS)の比率(Mw^(LALLS)/Mw^(GPC) )は3.49であった。
【0062】ここで,Mw^(LALLS)/Mw^(GPC) は,平均回転自乗半径の比であるgと比例し,gと重合体中の枝の数fとは,g=f^(2)/(3f-2)の経験式がある。Mw^(LALLS)/Mw^(GPC) >1の場合は,分枝構造をとることが知られており,重合体(6)が枝分かれ構造になっていることが確認された。上記経験式にg=3.49を代入して,計算上の枝分かれ数fは10であった。
(実施例7)ジペンタエリスリトールヘキサキスアクリレート(DPEHA)72.7g,メチルエチルケトン500g,ジペンタエリスリトールヘキサキスチオグリコレート(DPEHG)526.8gを加え,実施例1と同様にしてマイケル付加反応させた。なお,上記仕込み時に,DPEHA/DPEHG(官能基比)=6/6,DPEHA/DPEHG(モル比)=1/6であった。化学反応式からは,1分子平均30個のメルカプト基が放射状に伸びた化合物が生成するはずであるが,同定できなかった。この化合物を実施例6の有機スルフィド化合物(1)に代えて反応を行い,GPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC) に対するGPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS)の比率(Mw^(LALLS)/Mw^(GPC) )が6.5である重合体を得た。また,実施例6の経験式から,計算上の枝分かれ数fは19であった。
(実施例8)実施例1と同様の反応容器に,スチレン160g,ブチルアクリレート40gおよび実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)27gを加え,窒素雰囲気下,反応混合物を攪拌しながら80℃まで昇温した。反応混合物の温度が安定した後,AIBN(アゾビスブチロニトリル)2gを反応混合物に投入した。5時間攪拌した後,冷却して重合を終了した。その間,反応混合物の温度は80℃±5℃以内で推移した。得られた重合体(7)の重合率は95%,Mw^(LALLS)/Mw^(GPC) は2.2であり,重合体(7)が枝分かれ構造になっていることが確認された。なお,計算上の枝分かれ数は6であった。
(実施例9)<省略>
(比較例1)実施例1と同様の反応容器に,スチレン160gおよびブチルアクリレート40gを加え,窒素雰囲気下,還流温度まで昇温した。5時間攪拌した後,冷却して重合を終了した。得られた比較重合体(1)の重合率は60%,Mw^(LALLS)/Mw^(GPC) 1.0であり,比較重合体(1)が直鎖構造になっていることが確認された。
【0063】上記実施例6では,有機スルフィド化合物を用いてビニル系単量体を重合させており,比較例1よりも重合体が高収率で得られている。このことから有機スルフィド化合物が開始剤として有用であることがわかる。」

(2i)「【0065】
【発明の効果】本発明にかかる有機スルフィド化合物は,ビニル系単量体を温和に重合させ,高収率で重合体を製造する等の目的に用いることができ,新規な化合物である。本発明にかかる重合開始剤および連鎖移動剤は,上記有機スルフィド化合物を必須成分とするため,ビニル系単量体を温和に重合させ,高収率で重合体を製造するのに用いられる。
【0066】本発明にかかるビニル系単量体の重合方法は,ビニル系単量体を温和に重合させ,高収率で重合体を得させることができる。本発明にかかる重合体は,GPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS) とGPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC) との比(Mw^(LALLS) /Mw^(GPC) )が3.0以上であり,高度に枝分かれしている。」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「接着シート」は,「『接着剤組成物をシート状に成形した接着層を備える』『基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に』『基材及び半導体チップの表面における凹部に』『接着層を埋め込む』ことを可能とした『接着シート』」である。

また,引用例1の上記摘記(1g)には,「【0028】図1は,本発明の好適な実施形態に係る接着シートを示す模式断面図である。この接着シート10は,支持フィルム(基材フィルム)1と,その表面上に形成された接着層2とを備える。」と記載されている。

一方,本願発明1は,「ダイボンディングフィルム」の発明であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,「ダイボンディングフィルム」について,次のように記載されている。
(本a)「【背景技術】
【0002】
従来,半導体チップと半導体チップ搭載用支持部材の接合には,銀ペーストが主に使用されていた。ところが,近年の半導体チップの小型化,高性能化に伴い,使用される支持部材にも小型化,細密化が要求されるようになってきた。さらに,携帯機器等の小型化,高密度化の要求に伴って,内部に複数の半導体チップを積層した半導体装置が開発,量産されており,前記銀ペーストでは,はみ出しや半導体チップの傾きに起因するワイヤボンディング時における不具合の発生,接着剤層の膜厚の制御困難性及び接着剤層のボイド発生などにより前記要求に対処しきれなくなってきている。そのため,近年,フィルム状のダイボンディング材(以下,ダイボンディングフィルムという)が使用されるようになってきた。」

(本b)「【0106】
本発明のダイボンディングフィルムは,星型アクリル共重合体を含有する接着剤層を有する構成をしており,通常は,星型アクリル共重合体を含有する接着剤層と基材層とをこの順に備えた2層構造のダイボンディングフィルムとして用いられ,必要に応じ接着剤層の両面に基材層を備えた3層構造としたものであってもよい。」

してみれば,本願発明1において,「ダイボンディングフィルム」とは,通常は,半導体チップと半導体チップ搭載用支持部材の接合に用いる,接着剤層と基材層とをこの順に備えた2層構造のフィルム状の部材を意味しているものと理解することができる。

そうすると,引用発明の「接着シート」と,本願発明1の「ダイボンディングフィルム」とは,後述する相違点に係る構成を除き,「ダイボンディングフィルム」である点で共通するといえる。

なお,本願の発明の詳細な説明には,次のようにも記載されている。
(本c)「【0108】
まず,本発明のダイボンディングフィルムと半導体ウェハを貼り合わせる。例えば,ダイボンディングフィルムの接着剤層と半導体ウェハを貼り合わせた後,ダイボンディングフィルムから基材層を剥がし,ダイシングテープの粘着剤層と貼り合せる方法,又は,ダイボンディングフィルムの接着剤層とダイシングテープの粘着剤層を貼り合わせた後,ダイボンディングフィルムから基材層を剥がし,半導体ウェハを貼り合せる方法が挙げられる。」

上記記載からは,本願発明1において,「ダイボンディングフィルム」とは,「基材層」を「剥がし」得るもの,すなわち,「接着剤層」のみから構成されたものであると解する余地もあるが,仮に,上記のように解したとしても,引用例1の上記摘記(1l)の「【0096】例えば,本発明の別の実施形態において,接着シートは接着層のみから構成されてもよい。」との記載に照らして,引用発明の「接着シート」と,本願発明1の「ダイボンディングフィルム」とは,後述する相違点に係る構成を除き,「ダイボンディングフィルム」である点で共通するといえることに変わりはない。

イ 「重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体」は,「高分子」の範疇に含まれる材料といえる。
そうすると,本願発明1の,「ガラス転移温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体」と,引用発明における,「重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,前記(a)成分を除く。)であって,アクリル共重合体である前記高分子量成分15?40質量部」とは,「ガラス転移温度と,重量平均分子量が,それぞれ所定の範囲に特定されたアクリル共重合体」である点で共通するといえる。

以上をまとめると,本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ガラス転移温度と,重量平均分子量が,それぞれ所定の範囲に特定されたアクリル共重合体を含有する接着剤層を有するダイボンディングフィルム。」

<相違点>
アクリル共重合体が,本願発明1では,「ガラス転移温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体」であるのに対し,引用発明では,「重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,前記(a)成分を除く。)であって,)アクリル共重合体である前記高分子量成分」と特定されている点。
すなわち,本願発明1の接着剤層が,「ガラス転移温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体」を含有するのに対して,引用発明の接着層が含有するアクリル共重合体について,このような特定がされていない点。

(2)判断
ア 相違点について
(ア)引用発明が解決しようとする課題は,「接続信頼性を向上させるために,基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に,従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても,基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことを可能」とすることと認められる。

(イ)そして,引用例1の「【0021】この本発明の接着シートは,基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に,従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても,基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シートとなる。これは,本発明の接着剤組成物が,従来よりも低粘度であることに起因する。」(上記摘記(1f)参照。)との記載より,引用発明は,接着剤組成物を,低粘度とすることで,前記課題を解決していると認められる。

(ウ)そうすると,引用発明において,接着剤組成物を構成する材料の一つである「高分子量成分」は,「(b)重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,前記(a)成分を除く。)であって,アクリル共重合体である前記高分子量成分」と特定されているところ,引用発明において,課題解決のために,前記「高分子量成分」として,低粘度のものを用いることは,引用例1における,引用発明の課題とその解決手段に関する記載に接した当業者が当然に行い得るものといえる。

(エ)次に,本願の優先権の主張の日前における接着材・粘着材に使用される重合体の技術分野における公知の技術的知見について検討する。

(オ)引用例2の上記摘記(2f)の【0048】には,「本発明のビニル系単量体の重合方法に用いられる重合開始剤としては,特に限定はないが,たとえば,一般式(1)中,o=m=0,かつ,k≧1,n≧3を満たす化合物(1A)を必須成分とするものが好ましく,重合開始剤が化合物(1A)のみからなるとさらに好ましい。化合物(1A)を必須成分とする重合開始剤を用いてラジカル重合させると,化合物(1A)からそのメルカプト基のプロトンが解離した残りの部分である多価メルカプタン部分を中心として,ビニル系単量体がラジカル重合して得られる重合体部分が,化合物(1A)中のメルカプト基に由来するイオウ原子に結合する形で,放射状に伸びた枝分かれの多い構造の星型重合体が得られる。」との記載がある。
そして,引用例2の上記摘記(2g)の【0051】には,引用例2の実施例1において,「トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)59.2g,メチルエチルケトン600g,ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)259.2g」を用いて「有機スルフィド化合物(1)」を得ること,及びこのようにして得られた「有機スルフィド化合物(1)」の化学構造は,「TMPTA1個とPETG3個とが反応した生成物であり,TMPTAのすべての炭素-炭素2重結合に対して,PETGのSH基がマイケル付加した」構造である旨が記載されている。
ここで,引用例2の上記摘記(2d)の【0015】,【0016】及び【0018】の記載によれば,PETGは多価メルカプタンであり,また,TMPTAは多価ビニル系化合物であるから,「有機スルフィド化合物(1)」は,多価ビニル系化合物である「TMPTA1個」と多価メルカプタンである「PETG3個」とが反応した生成物といえる。
さらに,引用例2の上記摘記(2h)の【0061】及び【0062】には,引用例2の実施例6において,「スチレン160g,ブチルアクリレート40gおよび実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)27g」を使用して,「重合体(6)」を得ること,前記「重合体(6)」は,「枝分かれ構造」になっていること,及び,「計算上の枝分かれ数fは10であった」ことが記載されている。
そうすると,引用例2の上記の記載,及び技術常識を勘案すると,引用例2の実施例6で得られた「重合体(6)」は,「実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)」からそのメルカプト基のプロトンが解離した残りの部分である多価メルカプタン部分を中心として,ビニル系単量体がラジカル重合して得られる重合体部分が,前記「実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)」中のメルカプト基に由来するイオウ原子に結合する形で得られた,放射状に伸びた枝分かれの多い構造の星型重合体であると認められるから,「星型アクリル共重合体」であるといえる。

(カ)そして,このような星型重合体が,同じ分子量の直鎖状の重合体に比べて,分子構造がコンパクトであることに起因して,低い粘性を示すことは,引用例2の上記摘記(2f)の【0049】の「この星型重合体は,多くの枝分かれ構造を有し,同一組成,同一分子量の直鎖状の重合体と比較して,引張強さおよび弾性率が低下することなく,低粘度で,凝集力が高くなる。」との記載,及び,下記の周知例1の(周1f)の「【0027】実施例2で合成した4本のポリメタクリル酸メチルの枝を持つスター型ポリマーGと,光錯乱法で求めた絶対分子量がポリマーGとほぼ等しい直鎖状ポリマーDとで,フローテスターによる溶融粘性特性を比較した。図3にみるように,ポリマーGのほうが低い粘性を示した。これは,スター型ポリマーは同じ分子量の直鎖状ポリマーに比べて,分子構造がコンパクトであるということに起因している。」との記載にみられるように,周知の技術的事項といえる。

(キ)加えて,星型重合体の用途として,接着剤,粘着剤等の各種用途に好ましく使用でき,大変有用であることは,引用例2の上記摘記(2f)に「【0050】この星型重合体は,高分子量,高い凝集力を有しながら,低粘度で使用できるため,作業性がよく,熱可塑性樹脂,塗料,接着剤,粘着剤等の各種用途に好ましく使用でき,大変有用である。」との記載や,下記の周知例1の(周1b),(周1f),及び,周知例2の(周2a),(周2b),(周2c)等の記載にみられるように,周知の技術的事項といえる。

(ク)上記(ウ)のとおり,引用発明において,課題解決のために,「(b)重量平均分子量が10万?120万,かつTgが-50?+50℃であって,分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし,前記(a)成分を除く。)であって,アクリル共重合体である前記高分子量成分」として低粘度のものを用いることは,引用例1における,引用発明の課題とその解決手段に関する記載に接した当業者が,当然に行い得るものといえる。
そして,上記(オ)より,引用例2には星型アクリル共重合体が記載されており,また,(力)及び(キ)より,星型共重合体が低い粘性を示すこと,及び星型共重合体が接着剤,粘着剤等の用途に使用できることは,引用例2,周知例1及び2にみられるように周知の技術的事項と認められる。
そうすると,引用発明において,課題解決のために低粘度の上記「高分子量成分」を選択する際に,星型アクリル共重合体を選択することは,引用例2に記載の発明,及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(ケ)ところで,引用例1には,引用発明における「高分子量成分」の重量平均分子量と接着層の特性との関係について,「【0047】高分子量成分の重量平均分子量は,好ましくは10万以上100万以下である。この分子量が10万未満であると接着層の硬化後の耐熱性及び接着力が低下する傾向があり,分子量が120万を超えると接着層の流動性が低下する傾向がある。」と記載され,また,上記「高分子量成分」のガラス転位温度と接着層の特性との関係について,「【0050】高分子量成分のガラス転移温度(Tg)は-50?+50℃であることが好ましい。Tgが-50℃未満であると,-50?+50℃の範囲内にある場合と対比して,接着層の柔軟性が高くなりすぎる傾向にある。これにより,ウエハダイシング時に接着層を切断し難くなり,その結果バリが発生してダイシング性が低下する傾向にある。またTgが+50℃を超えると,-50?+50℃の範囲内にある場合と対比して,接着層の柔軟性が低下する傾向にある。」と記載されている。(引用例1の摘記(1h)参照。)
してみれば,引用発明において,引用例2に記載の発明,及び引用例2,周知例1及び2にみられるような周知の技術的事項に基づき,「高分子量成分」として星型アクリル共重合体を選択する際に,そのガラス転位温度及び重量平均分子量を,引用例1の上記の記載を参酌し,接着層の特性を考慮のうえ,最適化又は好適化することは,当業者が普通に行い得るものと認められる。
そして,本願明細書には,合成例3で得られた,3官能開始剤を用いて合成した,Tg44℃,Mw20万の星型アクリル共重合体を,特定の配合比及び種類のエポキシ樹脂,硬化剤,フィラー,硬化促進剤,カップリング剤に配合した接着材層を有するダイボンディングフィルムにおいて,所定の効果を奏することが記載されているにとどまり,本願明細書の記載をみても,本願発明1におけるガラス転位温度を下限値(30℃)又は上限値(70℃)とした場合と,これを僅かに下回る場合又は僅かに上回る場合とで,それぞれ,如何なる作用効果上の相違がどの程度生じるかは不明であり,また,本願発明1における重量平均分子量を下限値(1万)又は上限値(100万)とした場合と,これを僅かに下回る場合又は僅かに上回る場合とで,それぞれ,如何なる作用効果上の相違がどの程度生じるかは不明であるから,本願発明1のガラス転位温度,及び重量平均分子量それぞれの下限値及び上限値に臨界的意義があるとは認められない。
そうすると,引用発明において,引用例2に記載の発明,及び引用例2,周知例1及び2にみられるような周知の技術的事項に基づき,「高分子量成分」として星型アクリル共重合体を選択する際に,そのガラス転位温度及び重量平均分子量を,それぞれ,引用発明において特定される数値範囲と一部重複する,30?70℃,及び1万?100万の範囲とすることは,引用例1におけるガラス転位温度,及び重量平均分子量それぞれと,接着層の特性との関係に関する記載に基づいて,当業者が適宜なし得たものと認められる。

(コ)以上から,引用発明において,接着層を,ガラス転位温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体を含有する構成とすること,すなわち相違点に係る構成とすることは,引用例2に記載の発明,及び引用例2,周知例1及び2にみられるような周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認める。
そして,本願発明1が奏する作用効果も,引用発明において,引用例2に記載の発明,及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に予測し得る範囲内のものであって,格別のものとは認められない。

・周知例1:特開平6-199952号公報
(周1a)「【請求項1】 3官能以上の多官能チオールを核として,この核に対しスルフィド結合により結合した枝を有し,前記枝の数平均分子量が1000?100000であり,ポリマーとしての重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が5以下であるスター型ポリマー。
【請求項2】 枝の中に,ヒドロキシル基,カルボキシル基,エポキシ基,アミノ基,スルホン酸基,シリル基,アリル基のうちの少なくとも1種類の官能基を有する請求項1記載のスター型ポリマー。
【請求項3】 枝構成成分としてビニル系モノマー,開始剤として3官能以上の多官能チオール,重合促進剤として金属塩および/または金属錯体をそれぞれ用いて,重合反応を行う請求項1記載のスター型ポリマーの製造方法。」

(周1b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,フィルム,シート,成形物,塗料用樹脂,接着剤,コーティング剤,分散剤等に用いることのできる特定の構造を有するポリマーとその製造方法に関する。」

(周1c)「【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は,3官能以上の多官能チオールを核として,この核に対しスルフィド結合により結合した枝を有し,前記枝の数平均分子量が1000?100000であり,ポリマーとしての重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が5以下であるスター型ポリマーとその製造方法に関する。
【0007】枝の数平均分子量は1000?100000であることが好ましい。1000未満では,スター型ポリマーの特徴である粘度低減効果において,直鎖状ポリマーとの優位差があまりない。100000超では,枝の絡み合いが増えて粘度が大きくなってしまう。
(1)枝構成成分
枝構成成分となるものとしては,重合性を有するビニル系モノマーが用いられる。具体的には,(メタ)アクリル酸,(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸とそのエステル;スチレン,α-メチルスチレン等の芳香族系ビニルモノマー;マレイン酸,フマル酸等の不飽和ジカルボン酸とそのエステル;(メタ)アクリロニトリル,酢酸ビニル,塩化ビニル等のビニル化合物;等が挙げられる。以上のモノマーを単独重合してもよく,共重合してもよい。
【0008】
枝の中に,ヒドロキシル基,カルボキシル基,エポキシ基,アミノ基,スルホン酸基,シリル基,アリル基のうちの少なくとも1種類の官能基を有するようにするために前記ビニル系モノマーと共重合させる官能性モノマーとしては,アクリル酸,メタアクリル酸,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,アミノエチル(メタ)アクリレート,グリシジル(メタ)アクリレート,マレイン酸,フマル酸,2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸,アリル(メタ)アクリレート,メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ビニル系モノマーを0.1?99.9重量部,官能性モノマーを残部として用いればよい。
(2)多官能チオール
この発明に開始剤として用いる3官能以上の多官能チオールとしては,トリメチロールプロパン(トリス)チオグリコレート,トリメチロールプロパン(トリス)β-チオプロピオネート,ペンタエリスリトール(テトラキス)チオグリコレート,ペンタエリスリトール(テトラキス)β-チオプロピオネート等が挙げられる。」

(周1d)「【0013】
【作用】チオールが金属塩あるいは金属錯体により一電子酸化されてチイルラジカルを生じ,そこから重合性の二重結合をもつモノマーを重合させることができる。これにより,多官能チオールを開始剤としてラジカル重合で一段階でスター型ポリマーを合成できる。」

(周1e)「【0018】<省略>
-参考例5-
攪拌機,還流冷却管および温度計を備えた3つ口フラスコに,トルエン160部,メタクリル酸メチル40部,エチレングリコールジチオグリコレート(EGTG)1.68部,バナジウム(III)アセチルアセトナートトルエン溶液(10^(-5)mol/g)0.4部を仕込んだ。反応液を80℃まで昇温した後,その温度を保ちながら6時間重合させた。反応液を冷却後,n-ヘキサンで再沈殿を行い,数平均分子量約9800,Mw/Mn=1.8のポリマーEを得た。
【0019】-実施例1-
エチレングリコールジチオグリコレート(EGTG)の代わりにトリメチロールプロパン(トリス)チオグリコレート(TMTG)1.90部を用いた他は参考例5と同様にして重合を行った。反応液を冷却後,n-ヘキサンで再沈殿を行い,数平均分子量約11000,Mw/Mn=1.8のポリマーFを得た。
【0020】-実施例2-
エチレングリコールジチオグリコレート(EGTG)の代わりにペンタエリスリトール(テトラキス)チオグリコレート(PETG)1.73部を用いた他は参考例5と同様にして重合を行った。反応液を冷却後,n-ヘキサンで再沈殿を行い,数平均分子量約12300,Mw/Mn=1.8のポリマーGを得た。」

(周1f)「【0023】-ポリマーの分析-
多官能チオールを用いて合成したスター型ポリマーの構造の確認を以下のように行った。
(1)モデル化合物との比較
モデル化合物として参考例2で合成した構造の明確なスター型ポリマーBと,実施例2で合成したポリマーGとで,GPCのリテンションタイムの比較を行った。結果を図1,2に示す。
【0024】図1,2にみるように,スター型ポリマーBとポリマーGのGPCによるリテンションタイムは,ほぼ同じ値であった。したがって,ポリマーGは4本の枝を有するスター型構造のポリマーであることが確認される。
(2)光錯乱法による絶対分子量の測定
参考例3,5および実施例1,2において,それぞれモノマーの仕込み量に対するメルカプト基の数が等しくなるような量のチオールを開始剤として用いた。この場合,メルカプト基は全て用いた1?4官能チオール由来で反応性は同じであると考えられるので,それぞれの枝の分子量は同じになる。これら枝の分子量が同じで枝の数が1?4本であるポリマーの絶対分子量について,2?4官能のチオールを用いたポリマーは,1官能のチオールを用いたポリマーの2倍,3倍,4倍となっていくことが予測される。
【0025】
【表2】
<省略>
【0026】
表2にみるように,枝が1本であるポリマーCを基準とすれば,ポリマーE,F,Gの絶対分子量は,それぞれポリマーCの2倍,3倍,4倍となっている。したがって,ポリマーE,F,Gは,それぞれ枝を2,3,4本有するスター型構造のポリマーであることが確認される。
(3)溶融粘性特性の測定
スター型ポリマーの溶融粘性特性をフローテスターで測定し,直鎖状のポリマーと比較した。
【0027】実施例2で合成した4本のポリメタクリル酸メチルの枝を持つスター型ポリマーGと,光錯乱法で求めた絶対分子量がポリマーGとほぼ等しい直鎖状ポリマーDとで,フローテスターによる溶融粘性特性を比較した。図3にみるように,ポリマーGのほうが低い粘性を示した。これは,スター型ポリマーは同じ分子量の直鎖状ポリマーに比べて,分子構造がコンパクトであるということに起因している。
【0028】
【発明の効果】この発明によれば,工業的に有利なラジカル重合法により,フィルム,シート,成形物,塗料用樹脂,接着剤,コーティング剤,分散剤等に用いることのできるスター型ポリマーを一段階で製造できる。」

(周1g)【0025】の【表2】から,ポリマーF,及び,ポリマーGのMw(光錯乱法)の値が,それぞれ,23500,及び,30300であることを読み取ることができる。

・周知例2:特開2000-186126号公報
(周2a)「【請求項1】 末端に架橋性シリル基を有する星型構造のビニル系重合体(I)を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】 重合体(I)は,ビニル系モノマーのリビングラジカル重合を行い,その重合終点において,重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する化合物を添加することにより製造されたものである請求項1記載の樹脂組成物。
<省略>
【請求項5】 ビニル系モノマーは,(メタ)アクリル系モノマー,アクリロニトリル系モノマー,芳香族ビニル系モノマー,フッ素含有ビニル系モノマー及びケイ素含有ビニル系モノマーからなる群より選択される少なくとも1種である請求項2,3又は4記載の樹脂組成物。
<省略>
【請求項15】 請求項1?13のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いた接着剤。」

(周2b)「【0118】重合体(I)含有組成物を接着剤用組成物として用いる場合,重合体(I)の分子量(重量平均分子量)は,1000から1000000であることが好ましい。この重合体(I)を,従来公知の縮合硬化剤など組み合わせることにより,一液型もしくは二液型接着剤として用いることができる。重合体(I)含有組成物を接着剤用組成物として用いる場合,この組成物中には,必要に応じて,従来公知の,粘着性付与剤,カップリング剤,揺変剤,無機充填剤および安定剤などの添加剤が含まれていてもよい。粘着性付与剤としては,特に限定されないが,,例えば,テルペン樹脂,フェノール樹脂,テルペン-フェノール樹脂,ロジン樹脂,キシレン樹脂などを挙げることができる。カップリング剤としては,特に限定はされないが,シランカップリング剤,チタンカップリング剤などが挙げられる。無機充填剤としては,特に限定はされないが,例えば,カーボンブラック,チタン白,炭酸カルシウム,クレーなどを挙げることができる。揺変剤としては,特に限定されないが,エアロジル,ディスパロン等が挙げられる。安定剤としては,特に限定はされないが,例えば,例えば,紫外線吸収剤,酸化防止剤,耐熱安定剤,耐加水分解安定剤などを挙げることができる。以上に挙げた粘着性付与剤,カップリング剤,揺変剤,無機充填剤および安定剤は,各々について,1種のみを用いてもよいし,2種以上を併用してもよい。
【0119】上記接着剤の用途としては,特に限定はされないが,例えば,食品包装用接着剤,靴・履物用接着剤,美粧紙用接着剤,木材用接着剤,構造用(自動車,浄化槽,住宅)接着剤,磁気テープバインダー,繊維加工用バインダー,繊維処理剤などが挙げられる。」

(周2c)「【0135】<用途>第二の本発明の樹脂組成物の用途について説明する。
<熱可塑エラストマー>本発明の樹脂組成物は,既存のスチレン系エラストマーと同等の用途に使用できる。具体的には,樹脂やアスファルトの改質用途,樹脂とブロック体とのコンパウンド用途(必要に応じて可塑剤や充填材,安定剤等を加えてもよい),熱硬化性樹脂の収縮防止剤,粘・接着剤,制振材のベースポリマーとして使用することができる。具体的な応用分野としては,自動車の内装・外装部品,電気・電子分野,食品の包装用フィルムやチューブ,医薬・医療用容器やシール性物品等が挙げられる。」

イ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,「(エ)請求項1に係るダイボンディングフィルムは,『ガラス転移温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体』を用いることによって,優れた効果を奏します(段落0024?0026,実施例)。本願の実施例1及び2では,アクリル共重合体として,Tg44℃,Mw20万の星型アクリル共重合体が使用され,比較例1?4では,Tg25℃,Mw80万の直鎖状のアクリル共重合体,又は,Tg25℃,Mw30万の直鎖状のアクリル共重合体が使用されています。実施例1及び2と,比較例1?4とを比較すると,実施例1及び2では,良好な埋め込み性,高い接着強度,かつ良好な吸湿リフロー耐性が得られているのに対して,比較例1?4では,良好な埋め込み性が得られているものの,接着強度は低く,比較例1,3及び4では,吸湿リフロー耐性も劣っています。また,実施例1及び2では,良好なピックアップ性及び低い反り量が得られているのに対して,比較例1?4では,いずれもピックアップ性が不良であり,チップ反り量も高いという結果です。これらの効果に対し,引用文献1には,星型アクリル共重合体に関する記載がなく,引用文献2には,星型重合体を半導体の封止に用いる場合に求められる効果,すなわち,接着強度(ダイシェア強度),吸湿リフロー耐性,ピックアップ性,チップ反り量等について記載がありません。引用文献1の実施例1?5では,フェノール樹脂(XLC-LL),直鎖状のアクリルゴム(HTR-860P-3)等を含有する接着シートが,良好な溶融粘度,タック強度,接着強度,及び耐リフロー性を有することが示されています。しかし,引用文献1の実施例1?5の接着シートは,本願の比較例に相当するものであるに過ぎません。請求項1に係る発明が奏する効果は,引用文献1及び2に記載されていない有利な効果であって,引用文献1及び2が奏する効果とは異なる,当業者が予測することができない効果です。」と主張するが,審判請求人の前記主張は,以下の理由により採用することはできない。

(イ)すなわち,審判請求人は,「請求項1に係るダイボンディングフィルムは,『ガラス転移温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体』を用いることによって,優れた効果を奏します」と主張するが,本願の実施例1及び実施例2において,高い接着強度,吸湿リフロー耐性等を得ていることが示されているのは,合成例3で得られた,3官能開始剤を用いて合成した,Tg44℃,Mw20万の星型アクリル共重合体に加えて,特定の配合比及び種類のエポキシ樹脂,硬化剤,フィラー,硬化促進剤,カップリング剤を配合した接着材層を有するダイボンディングフィルムの場合だけである。
そして,本願の発明の詳細な説明の「【0074】[熱硬化性成分]本発明では,前記接着剤層は熱硬化性成分を含んでいても良い。」等の記載に照らして,本願発明1の接着剤層が,前記エポキシ樹脂等を含むことは必須の構成要件とはいえないところ,本願の発明の詳細な説明の記載,及び,技術常識に照らしても,ダイボンディングフィルムが,Tg44℃,Mw20万の星型アクリル共重合体を有するのみで,他の材料を備えていない場合,合成例3で得られた3官能開始剤を用いて合成した星型アクリル共重合体以外の星型アクリル共重合体を用いた場合,あるいは,本願の実施例1,2に記載された配合比及び種類以外の材料が配合された場合にまで,本願の発明の詳細な説明の実施例1,2において奏すると記載されている,高い接着強度,吸湿リフロー耐性等の優れた性質が発揮されるものとは認めることはできない。

(ウ)また,本願の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,ガラス転移温度が30℃,あるいは70℃である星型アクリル共重合体,重量平均分子量が1万,あるいは100万である星型アクリル共重合体等においても,本願の実施例1及び実施例2において示されているのと同程度の高い接着強度等を得ることができるとは認められない。

(エ)したがって,審判請求人が主張する,「本願の実施例1及び2では,・・・良好な埋め込み性,高い接着強度,かつ良好な吸湿リフロー耐性が得られているのに対して,比較例1?4では,良好な埋め込み性が得られているものの,接着強度は低く,比較例1,3及び4では,吸湿リフロー耐性も劣っています。また,実施例1及び2では,良好なピックアップ性及び低い反り量が得られているのに対して,比較例1?4では,いずれもピックアップ性が不良であり,チップ反り量も高いという結果です。」との理由によっては,「請求項1に係るダイボンディングフィルムは,『ガラス転移温度が30?70℃及び重量平均分子量が1万?100万の範囲である星型アクリル共重合体』を用いることによって,優れた効果を奏します」とする主張は,請求項の記載に基づかない主張,及び,発明の詳細な説明の記載に基づかない主張と言わざるを得ず,これを採用することはできない。

ウ 判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,引用発明において,上記相違点に係る本願発明1の構成を採用することは,引用例2及び周知例1,2に接した当業者であれば容易になし得たことである。
したがって,本願発明は,引用発明,並びに引用例2に記載の技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-14 
結審通知日 2016-01-19 
審決日 2016-02-02 
出願番号 特願2009-231461(P2009-231461)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 浩之小田 浩  
特許庁審判長 小野田 誠
特許庁審判官 加藤 浩一
河口 雅英
発明の名称 ダイボンディングフィルム及びこれを用いた半導体装置  
代理人 三好 秀和  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ