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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
管理番号 1312486
審判番号 不服2014-17385  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-02 
確定日 2016-03-15 
事件の表示 特願2011-511715「電流検知回路と集積電流センサの構成」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日国際公開、WO2009/148823、平成23年 7月28日国内公表、特表2011-522251〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年5月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年6月2日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年7月23日付けの拒絶理由通知に対して平成25年10月23日付けで手続補正がなされたが、平成26年5月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年9月2日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、当審における平成27年5月14日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年8月12日付けで手続補正がなされ、同日付けで意見書の提出がなされたものである。


第2 本願発明

1 本願発明

本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成27年8月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「電流を検知する電子回路であって、
対向する第1および第2の主面を有する回路基板と、前記回路基板は導電回路配線を有するプリント回路基板であり、そして前記プリント回路基板はガラス繊維材料またはセラミック材料からなり、
前記回路基板上に配置された回路配線を含む、前記電流を搬送する電流導体と、
前記電流導体をまたぐような位置で前記回路基板上に配置され前記回路基板に電気的に結合された単一の集積回路と、を備え、前記集積回路が、前記電流に伴う磁界を再方向付けすることなく検知する単一の磁気抵抗素子を含み、
前記電流導体は前記回路基板の第2の面上に配置され、前記集積回路は前記電流導体に近い位置で前記回路基板の第1の面上に配置されている、
電子回路。」


2 当審の拒絶理由の概要
当審において平成27年5月14日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願の請求項1ないし9に係る発明は、本願の優先権主張の基礎となる出願前に頒布された、国際公開第03/107018号(2003年12月24日国際公開、以下「引用例1」という。)、特開2005-195427号公報(平成17年7月21日公開、以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


3 引用例及びその記載事項

(1)引用例1の記載 (下線は、当審で付した。)

a「【要約】電気的絶縁の確保が容易であるとともに、電流センサの小型化を図ることができ、しかも発熱を防止して信頼性を向上するのに好適な電流測定方法を提供する。被測定導体4を有するプリント基板3と、プリント基板3面上に実装する非接触型の電流センサ100とを備え、電流センサ100を、プリント基板3の表面のうち被測定導体4が設けられている面とは反対側の面92に実装している。これにより、電流センサ100を裏面92に実装するので、従来に比して、電流センサ100の二次側導体と被測定導体4との間に電気的絶縁を比較的容易に確保することができる。」 (表紙頁下から6?1行)

b「本発明に係る電流測定装置は、図1および図2に示すように、被測定導体4を有するプリント基板3と、プリント基板3の面上に実装する電流センサ100とを備え、電流センサ100を、プリント基板3の表面のうち被測定導体4が設けられている面とは反対側の面92(以下、単に裏面という。)に実装している。
電流センサ100は、図1に示すように、磁気収束板付きホールASIC2をモールドパッケージ1に内蔵して構成されている。モールドパッケージ1の内部には、モールドパッケージ1の外装面のうち実装時にプリント基板3と対向することとなる面90(以下、単に対向面という。)側に磁気収束板付きホールASIC2が設けられている。」(8頁29行?9頁8行(なお、頁数は、引用例1に記載のものである。以下同様。))

c「プリント基板3は、紙フェノール、紙エポキシまたはガラスエポキシ等の材質で構成されている。もちろん、これらに限定されるものではないが、ポリイミド系材料であれば、プリント基板3の厚さを小さくできてよい。なお、プリント基板3の厚さは、いかなる大きさであってもよいが、厚さが小さければ小さいほどセンサ感度を上げることができるので、極力小さい方が好ましい。ただし、絶縁性と実装位置の自由度を得るためには、必要最小限の厚みは必要とされる。」(9頁26行?10頁2行)

d「信号処理回路10は、ホール素子9により磁電変換して得られるホール起電力を加算増幅する。なお、ホール素子9と信号処理回路10とは、必ずしも、磁気収束板付きホールASIC2としてモノリシックに構成されている必要はなく、ハイブリッドに構成されていても構わない。」(10頁24行?27行)

e「電流センサ100には、一般に広く利用されているTSSOP-16パッケージをモールドパッケージ1として使用した。モールドパッケージ1の厚さは、およそ1[mm]で、底面からおよそ300[μm]の位置にホール素子9を配置する構造とし、被測定導体4に極力近接するように配置した。」(11頁19行?22行)

f「ホール素子9より得られたセンサ信号をモールドパッケージ1内に内臓した信号処理回路10で演算増幅することによって、最終的な電流センサ100単体での磁気感度を160[mV/mT]にできる電流センサ100を利用した。」(11頁24行?27行)(なお、「内臓」は「内蔵」の誤記と認められる。)

g 図1には、電流センサ100と被測定導体4が近い位置にあることが示されるとともに、被測定導体4をまたぐような位置に、ホールASIC2が設けられ、モールドパッケージ1のリードフレーム6が、プリント基板3に結合していることが示されている。

h 図1、図2には、単一のモールドパッケージ1を用いた電流センサ100が示されている。

上記引用例1の摘示事項及び図面の記載を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める(なお、括弧内は、引用箇所を示す。)。

「電流測定装置は、被測定導体4を有するプリント基板3と、プリント基板3の面上に実装する電流センサ100とを備え、(a、b)
電流センサ100を、プリント基板3の表面のうち被測定導体4が設けられている面とは反対側の面92に実装し 、(a、b)
電流センサ100は、
一般に広く利用されているパッケージをモールドパッケージ1として使用し、(e)
磁気収束板付きホールASIC2をモールドパッケージ1に内蔵し、(b)
ホール素子9と信号処理回路10とは、磁気収束板付きホールASIC2としてモノリシックに構成され、(d)
電流センサ100と被測定導体4が近い位置にあり、(g)
被測定導体4をまたぐような位置に、ホールASIC2が設けられ、単一のモールドパッケージ1のリードフレーム6が、プリント基板3に結合され、(g、h)
ホール素子9より得られたセンサ信号をモールドパッケージ1内に内蔵した信号処理回路10で演算増幅し、(f)
プリント基板3は、ガラスエポキシ等の材質で構成されている、(c)
電流測定装置。(b)」


4 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「被測定導体4を有するプリント基板3と、プリント基板3の面上に実装する電流センサ100とを備え」る「電流測定装置」は、本願発明の「電流を検知する電子回路」に相当する。

イ 引用発明の「プリント基板3」が、対向する第1および第2の主面を有することは明らかであるから、引用発明の「プリント基板3」と、本願発明の「対向する第1および第2の主面を有する回路基板と、前記回路基板は導電回路配線を有するプリント回路基板」とは、「対向する第1および第2の主面を有する基板と、前記基板はプリント基板」である点で共通する。

ウ 引用発明の「プリント基板3」は、「ガラスエポキシ等の材質で構成されて」おり、「ガラスエポキシ」は、ガラス繊維を含むものであるから、本願発明とは、「前記プリント基板はガラス繊維材料またはセラミック材料からな」る点で共通する。

エ 引用発明において「プリント基板3の表面のうち被測定導体4が設けられている面」を有することは、プリント基板3上に被測定導体4が設けられているといえる。そして、被測定導体4に電流が流れることは明らかであるから、「被測定導体4」は、電流を搬送する電流導体と捉えることができる。
したがって、引用発明の「被測定導体4」は、本願発明の「前記回路基板上に配置された回路配線を含む、前記電流を搬送する電流導体」と、「前記基板上に配置された、前記電流を搬送する電流導体」である点で共通する。

オ 引用発明の「電流センサ100」は、「磁気収束板付きホールASIC2をモールドパッケージ1に内蔵し、」「ホール素子9と信号処理回路10とは、磁気収束板付きホールASIC2としてモノリシックに構成され」るものであるから、「ホールASIC2」は、「ホール素子9と信号処理回路10」を含み、「モノリシックに構成され」るものである。ここで、「モノリシックに構成され」るとは、単一の半導体基板上に、素子を一体に形成して機能を実現したものであるから、「集積回路」と捉えることができる。
また、引用発明は、「被測定導体4をまたぐような位置に、ホールASIC2が設けられ、単一のモールドパッケージ1のリードフレーム6が、プリント基板3に結合」されているから、本願発明の「前記電流導体をまたぐような位置で前記回路基板上に配置され前記回路基板に電気的に結合された単一の集積回路と、を備え」と、「前記電流導体をまたぐような位置で前記基板上に配置され前記基板に結合された単一の集積回路と、を備え」る点で共通する。
そして、「ホールASIC2」に含まれる、ホール素子9が、被測定導体4に流れる電流に伴う磁界を検知するものと捉えることができるから、引用発明の「磁気収束板付きホールASIC2」は、「ホール素子9と信号処理回路10」を含むことと、本願発明の「前記集積回路が、前記電流に伴う磁界を再方向付けすることなく検知する単一の磁気抵抗素子を含」むこととは、「前記集積回路が、前記電流に伴う磁界を検知する磁気検知素子を含」む点で共通する。

カ 引用発明は、「電流センサ100を、プリント基板3の表面のうち被測定導体4が設けられている面とは反対側の面92に実装」するものであって、「電流センサ100と被測定導体4が近い位置にある」から、本願発明の「前記電流導体は前記回路基板の第2の面上に配置され、前記集積回路は前記電流導体に近い位置で前記回路基板の第1の面上に配置されている」と、「前記電流導体は前記基板の第2の面上に配置され、前記集積回路は前記電流導体に近い位置で前記基板の第1の面上に配置されている」点で共通する。

すると、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。


(一致点)

「電流を検知する電子回路であって、
対向する第1および第2の主面を有する基板と、前記基板はプリント基板であり、そして前記プリント基板はガラス繊維材料またはセラミック材料からなり、
前記基板上に配置された、前記電流を搬送する電流導体と、
前記電流導体をまたぐような位置で前記基板上に配置され前記基板に結合された単一の集積回路と、を備え、前記集積回路が、前記電流に伴う磁界を検知する磁気検知素子を含み、
前記電流導体は前記基板の第2の面上に配置され、前記集積回路は前記電流導体に近い位置で前記基板の第1の面上に配置されている、
電子回路。」


(相違点)

(相違点ア)
基板について、本願発明が、「回路基板」であって、「前記回路基板は導電回路配線を有するプリント回路基板」であり、また、「前記回路基板上に配置された回路配線を含む」ものであるのに対し、引用発明は、「プリント基板」であるものの、「導電回路配線」を有したり、「基板上に配置された回路配線」を含んだりする「プリント回路基板」であるとの特定がない点。

(相違点イ)
集積回路について、本願発明が、前記「回路」基板上に配置され前記「回路」基板に「電気的に」結合された集積回路であるのに対し、引用発明は、「電気的に」結合されることについて特定がない点。

(相違点ウ)
磁界検知素子について、本願発明は、磁界を「再方向付けすることなく」検知する「単一の磁気抵抗素子」であるのに対し、引用発明は、「磁気収束板付きホールASIC2をモールドパッケージ1に内蔵し」たものにおいて、「磁気収束板付きホールASIC2としてモノリシックに構成され」る「ホール素子9」である点。


5 判断

(相違点ア)について
プリント基板に、回路配線を設けてプリント回路基板とすることは当業者が普通になし得る事項であるから、相違点アは格別の相違点ではないか、もしくは、本願発明の相違点アに係る発明のようにすることに格別の困難性を有しない。

(相違点イ)について
プリント基板に、リードフレームを有するパッケージ部品を設ける際に、リードフレームを、回路を設けたプリント基板に電気的に結合させることは、当業者が普通になし得る事項であるから、相違点イは格別の相違点ではないか、もしくは、本願発明の相違点イに係る発明のようにすることに格別の困難性を有しない。

(相違点ウ)について
一般に、パッケージ化された電流センサにおいて、ホール素子、磁気抵抗素子を用いることは周知技術であるから(平成27年5月14日付けの拒絶理由通知において引用例2として提示した特開2005-195427号公報(【0036】(ワンパッケージ電流センサ21において、ホール素子、磁気抵抗素子などを使用することができる旨の記載参照。))、ホール素子9が構成される、磁気収束板付きホールASIC2が内蔵されたパッケージとして使用される電流センサにおいて、磁気抵抗素子を用いることに格別の困難性はなく、また、磁気抵抗素子を用いる際に、磁気収束板を不要とすることは当業者にとって普通になし得る事項である。
したがって、本願発明の相違点ウに係るようにすることは、格別なことではない。


そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用発明及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成27年8月12日付け意見書において、下記(1)の事項を主張している(下線は、請求人が付したものである。)。
(1)「引例1は、図2に示すように、水平型ホール効果素子9を磁気収束板11と組み合わせ、磁気収束板11は水平型ホール効果素子9を垂直に通るように磁界を再方向付けするために使用されている。この構成は、引例1に開示された全ての発明に適用されている。水平型ホール効果素子と磁気収束板11の組み合わせを除去することは、引例1の発明の趣旨を没却することである。引例1において、水平型(プランナー)ホール効果素子9は、磁気収束されていない位置、または電流導体4により生成される磁界が信号処理回路10の表面に平行な方向において水平型ホール効果素子9を素通りする位置に配置されている。磁気収束板11により磁界に再方向付けすることなしには、水平型ホール効果素子9は電流導体4に流れる電流を殆どまたは全く感知することはできない。引例1の発明の趣旨は、磁界が基板に垂直である水平型ホール効果素子を有する電流センサを形成することである。このため、基板に平行な感度をもつ異なる型の磁界検知素子(例えば、垂直型ホール効果素子または磁気抵抗素子)を使用するか、または図2に示す磁気収束板11を取り除くことは、引例1の発明の趣旨を変更するだけではなく、発明が意図する機能(再方向付けする)を没却することである。
引例2の段落[0036]には、図3を参照し、「なお、磁気センサ23a、23bとしては、ホール素子、磁気抵抗素子、コイルなどを使用することができる。」と記載されている。しかし、上述のように引例1の発明は、水平型ホール効果素子を有する電流センサを形成することにあり、当業者は引例1の水平型ホール効果素子に替えて引例2の磁気抵抗素子を採用することは、引例1の発明の趣旨を没却するもので、引例1の発明を阻害するものである。」
と主張している。

上記主張を検討するに、引用例1の第25頁第10行ないし第26行には、次のように記載されている。
「産業上の利用可能性
以上説明したように、本発明に係る請求の範囲第1ないし第9項記載の電流測定方法、または請求の範囲第10ないし第20項記載の電流測定装置によれば、電流センサを、基板面のうち被測定導体が設けられている面とは反対側の面に実装するので、従来に比して、電流センサの二次側導体と被測定導体との間に電気的絶縁を比較的容易に確保することができるという効果が得られる。また、被測定導体を流れる電流を非接触で測定することにより、被測定導体を流れる電流が大きくなっても電流センサのサイズを大きくしなくて済むので、電流センサの小型化を図ることができるという効果も得られる。さらに、被測定導体を流れる電流を非接触で測定することにより、被測定導体との接触抵抗による発熱がないため、従来に比して、電流センサの信頼性を損なう可能性を低減することができるという効果も得られる。さらに、電流センサを、基板面のうち被測定導体が設けられている面とは反対側の面に実装するので、被測定導体を流れる電流により発生した均一な磁気を電流センサで検出できる。さらに、磁気収束手段により、被測定導体を流れる電流により発生した磁束がホール素子の感磁面に収束しやすくなるので、被測定導体に対して基板の反対面から電流センサを実装するとセンサ感度を向上させることができるという効果も得られる。」

すなわち、引用発明の電流測定装置の効果については、
a「電流センサを、基板面のうち被測定導体が設けられている面とは反対側の面に実装するので、従来に比して、電流センサの二次側導体と被測定導体との間に電気的絶縁を比較的容易に確保することができるという効果が得られる。」
b「また、被測定導体を流れる電流を非接触で測定することにより、被測定導体を流れる電流が大きくなっても電流センサのサイズを大きくしなくて済むので、電流センサの小型化を図ることができるという効果も得られる。」
c「さらに、被測定導体を流れる電流を非接触で測定することにより、被測定導体との接触抵抗による発熱がないため、従来に比して、電流センサの信頼性を損なう可能性を低減することができるという効果も得られる。」などの効果の記載に続いて、
d「さらに、電流センサを、基板面のうち被測定導体が設けられている面とは反対側の面に実装するので、被測定導体を流れる電流により発生した均一な磁気を電流センサで検出できる。」
e「さらに、磁気収束手段により、被測定導体を流れる電流により発生した磁束がホール素子の感磁面に収束しやすくなるので、被測定導体に対して基板の反対面から電流センサを実装するとセンサ感度を向上させることができるという効果も得られる。」
と記載されていることから、
引用発明の電流測定装置の効果の主たるものは、上記a、bの効果についてのものであって、上記eの「磁気収束手段により、被測定導体を流れる電流により発生した磁束がホール素子の感磁面に収束しやすくなる」との効果は、副次的なものである。
そして、引用発明に周知な磁気抵抗素子を用いたとしても、主たる効果である上記a、上記bに記載の効果を奏することができるのであるから、請求人が主張するように「当業者は引例1の水平型ホール効果素子に替えて引例2の磁気抵抗素子を採用することは、引例1の発明の趣旨を没却するもので、引例1の発明を阻害するものである。」ということはできない。
よって、請求人の上記主張(1)を採用することができない。

また、請求人は、同意見書において、次の事項(2)を主張している(下線は、請求人が付したものである。)。
(2)「また、引例2の発明は、「複数の磁気センサと、前記磁気センサの電流感度の差異が反映された出力信号に基づいて、被測定導体に流れる電流の値を算出する信号処理手段を備えることを特徴とする。これにより、被測定導体に流れる電流の値を算出する際に、磁気センサの電流感度を互いに異ならせることが可能となり、外乱磁場の影響を軽減するために、磁気センサの感度を互いに一致させる必要がなくなる。このため、磁気センサの配置位置および被測定導体の形状に対する制約を緩和しつつ、被測定導体に流れる電流の測定精度を向上させることが可能になり、磁気センサの低価格化および小型化を図りつつ、被測定導体に流れる電流の測定を手軽に行うことが可能となる。」(段落[0007])のものである。引例2は、複数の(少なくとも2つの)感度の異なる磁気センサを必ず備え、電流感度の差異が反映された出力信号に基づいて、被測定導体に流れる電流の値を算出することを特徴としている。請求項1の発明は、「前記電流導体をまたぐような位置で前記回路基板上に配置され前記回路基板に電気的に結合された単一の集積回路と、を備え、前記集積回路が、前記電流に伴う磁界を再方向付けすることなく検知する単一の磁気抵抗素子を含み」と記載されており、引例2の発明と課題および構成が全く異なり、引例2の発明が必須とする複数の磁気センサを備える構成ではない。
請求項1の発明は、引例1の発明を没却する特徴「前記集積回路が、前記電流に伴う磁界を再方向付けすることなく検知する単一の磁気抵抗素子を含み」が明瞭に記載されている。請求項1の発明は、引例1の発明の主要必須構成である、電流に伴う磁界を再方向付けする磁気収束版11を含むことなく検知できる、「磁気抵抗素子」を含む。さらに、引例2の発明からは想定できない「単一の磁気抵抗素子」を必須構成要素としている。引例1と引例2の発明から、請求項1の発明を当業者は想起させることはあり得ない。引例1と引例2は、それぞれ異なる技術思想に基づく発明であり、引例1と引例2の各技術思想は本発明の技術思想と全く相いれないものである。また、引例1と引例2またはその組み合わせから当業者が本発明を想起することは理論的にあり得ない。」

しかしながら、一般に、パッケージ化された電流センサにおいて、ホール素子や磁気抵抗素子を用いることは周知技術であり、これを例示するために、引用例2のワンパッケージ電流センサにおいて、ホール素子、磁気抵抗素子などを使用することができる旨の記載(段落【0036】)を挙げたものであって(上記(相違点ウ)について)、ワンパッケージ電流センサにおいて、ホール素子、磁気抵抗素子などを使用することができることを限度として、引用例2を引用したものにすぎない。そして、引用例2に用いられる磁気抵抗素子が、複数の(少なくとも2つの)感度の異なる磁気センサを必ず備えるものであるとしても、これをもって電流センサに磁気抵抗素子を用いることが周知技術ではなくなるということもできない。
よって、出願人の主張(2)を採用することができない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2015-10-20 
結審通知日 2015-10-21 
審決日 2015-11-04 
出願番号 特願2011-511715(P2011-511715)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川瀬 正巳菅藤 政明  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 酒井 伸芳
関根 洋之
発明の名称 電流検知回路と集積電流センサの構成  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
代理人 西山 文俊  

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