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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1312489
審判番号 不服2014-19285  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-26 
確定日 2016-03-15 
事件の表示 特願2010-543482「高圧反応を行なうための反応装置、反応を開始する方法、および反応を実施する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月30日国際公開、WO2009/092724、平成23年 4月21日国内公表、特表2011-512241〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2009年1月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2008年1月25日、2008年7月16日、ともに欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成22年 9月24日 翻訳文・条約34条補正翻訳文提出
平成25年 3年21日付 拒絶理由通知
同年 8月 1日 意見書提出
平成26年 5月27日付 拒絶査定
同年 9月26日 審判請求書・手続補正書提出
同年12月 5日付 前置報告

第2 平成26年9月26日付け手続補正についての補正の却下の決定

1 補正の却下の決定の結論

平成26年9月26日付け手続補正を却下する。

2 理由

(1) 請求項1についてする補正の内容
ア 平成26年9月26日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてする補正を含むところ、本件補正前後の請求項1の記載は次のとおりである(なお、下線は、補正箇所を示す。)。
・本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
少なくとも1つの管(31)を含み、該管の末端がそれぞれ、管板(33)を通っており、かつ管板(33)に結合されており、管板(33)および少なくとも1つの管(31)が外部ジャケットによって囲まれており、それによって管(31)と外部ジャケットとの間に外部スペース(39)が形成されている、100?325バールの圧力範囲用に設計されている高圧反応を行なうための反応装置において、
管板(33)がそれぞれ、ニッケルベース合金から成る少なくとも1つの面を有し、少なくとも1つの管(31)が、各場合に、ニッケルベース合金から成る面に溶接されており、ニッケルベース合金から成る面が、各場合に、その都度の反応装置末端の方向に向き、外部ジャケットは、異なる膨張の場合に温度差によって管(31)と外部ジャケットとの間に生じる引張力を吸収するのに十分な厚さを有することを特徴とする、前記反応装置。」
・本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
少なくとも1つの管(31)を含み、該管の末端がそれぞれ、管板(33)を通っており、かつ管板(33)に結合されており、管板(33)および少なくとも1つの管(31)が外部ジャケットによって囲まれており、それによって管(31)と外部ジャケットとの間に外部スペース(39)が形成されている、100?325バールの圧力範囲用に設計されている高圧反応を行なうための反応装置において、
管板(33)がそれぞれ、ニッケルベース合金から成る少なくとも1つの面を有し、少なくとも1つの管(31)が、各場合に、ニッケルベース合金から成る面に、溶接ルートを有する溶接継目によって溶接されており、ニッケルベース合金から成る面が、各場合に、その都度の反応装置末端の方向に向き、外部ジャケットは、異なる膨張の場合に温度差によって管(31)と外部ジャケットとの間に生じる引張力を吸収するのに十分な厚さを有し、ニッケルベース合金が、メッキ(41)として管板(33)に塗布されており、メッキの厚さは、溶接ルートの高さがメッキの厚さより低くなるように選択されることを特徴とする、前記反応装置。」
イ 上記の請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「溶接」及び「メッキ」の形態を限定するものであり、また、当該補正は、請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2) 独立特許要件の検討
ア 上記のとおり、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合するか)について検討する。
イ 引用刊行物とその記載事項
原査定において、引用文献3として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2006-509705号公報(以下、単に「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床触媒の存在下で酸素分子を含有するガス流を用いる塩化水素の気相酸化により塩素を製造する方法において、この方法を、反応器縦方向で相互に平行に配置されていて、それらの端部で管板(3)中に固定されている接触管(2)の管束を有し、反応器(1)の両端にそれぞれ1個のフード(4)を有し、かつ接触管(2)の間の中間スペース(5)内で反応器縦方向に対して垂直に配置されていて、反応器(1)の内壁のきわに交互に、対向している流路(7)を空ける1以上のじゃま板(6)を有する反応器であって、この際、接触管(2)には固定床触媒が充填されており、塩化水素及び酸素分子を含有するガス流が反応器の1端部からフード(4)を経て接触管(2)に導通され、ガス状反応混合物が反対側の反応器端部から第2のフード(4)を経て取り出され、かつ、液状熱交換媒体が中間スペース(5)を通り接触管(2)の周りに導びかれる反応器(1)中で実施することを特徴とする、塩化水素の気相酸化により塩素を製造する方法。
・・・
【請求項9】
方法を、その接触管(2)が反応器(1)の内部スペース内に、分離比、即ち直接隣接している接触管(2)の中心点の距離と接触管(2)の外径との比が1.15?1.6の範囲、好ましくは1.2?1.4の範囲内にあるように配置されている(この際、接触管の三角形配置が好ましい)、反応器(1)中で実施することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
・・・
【請求項19】
反応ガスと接触する反応器(1)の全ての構成部材は、純ニッケル又はニッケルベース合金から製造されているか又は純ニッケル又はニッケルベース合金でメッキされていることを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
接触管(2)は純ニッケル又はニッケルベース合金から製造されており、管板(3)は純ニッケル又はニッケルベース合金でメッキされており、かつ接触管(2)はメッキのところだけで管板と溶接されていることを特徴とする、請求項19に記載の方法。」
(イ) 「【0005】
気相酸化(ここでは、塩化水素の塩素までの酸化)における公知の技術的問題は、ホット-スポット、即ち触媒物質及び接触管物質の破壊をもたらしうる局所的過熱の形成である。従って、ホット-スポットの形成を減少又は阻止するために、WO01/60743中では、接触管の異なる範囲内でそれぞれ異なる活性を有する触媒充填物、即ち反応の温度プロフィルに適合された活性を有する触媒を用いることが提案されていた。触媒充填床の不活性物質での合目的希釈により、類似の結果が達成されると言われている。
【0006】
これらの解決の欠点は、2種以上の触媒系を開発し、かつ接触管中で使用しなければならないか、又は不活性物質の使用によって反応器キャパシティが悪影響されることである。
【0007】
それに反して本発明の課題は、固定床触媒の存在下での酸素分子を含有するガス流を用いる塩化水素の気相酸化によって、大工業的規模で塩素を製造するための、熱の有効な排除を保証し、かつ高腐食性の反応混合物にも関わらず満足しうる運転時間を有する方法を提供することであった。更に、触媒活性の低下なしに又は活性の僅かな低下のみで、又は触媒の希釈なしに、このホット-スポットの問題を減少させる又は避けるべきである。」
(ウ) 「【0026】
同様に、高腐食性反応ガス混合物と接触する反応器の全ての他の構成部材も、純ニッケル又はニッケルベース合金から形成されているか又はニッケル又はニッケルベース合金でメッキされているのが有利である。
【0027】
ニッケルベース合金として、インコネル(Inconel)600又はインコネル625が有利に使用される。これらの記載の合金は、純ニッケルに比べて高い耐熱性の利点を有する。インコネル600は、ニッケル約80%と共になおクロム並びに鉄約15%を含有する。インコネル625は、主としてのニッケル、クロム21%、モリブデン9%並びにニオブ2?3%を含有する。
【0028】
これら接触管は、両端部で管板中に液密に固定されており、好ましくは溶接されている。管板は、好ましくは耐熱性系列の炭素鋼、不錆鋼、例えば材料番号1.4571又は1.4541を有する不錆鋼又は混粒鋼(材料番号1.4462)から成り、反応ガスと接触する側は純ニッケル又はニッケルベース合金でメッキされているのが有利である。接触管は、メッキのところのみで管板と溶接されている。
・・・
【0030】
原則的に、メッキを適用する任意の工業的可能性、例えばロール-メッキ、爆発メッキ、肉盛溶接又はストリップ溶接(Streifenplattieren)を使用することも可能である。」
(エ) 「【0049】
熱膨張の補整のために、反応器ジャケット中に、反応器ジャケットにリング状に取り付けられた1以上の補整器を備えているのが有利である。」
(オ) 「【0058】
従って、充分な分離は、この分離板が約15?60mmの比較的大きい厚さで構成されることにより既に達成され、この際、接触管と分離板との間の約0.1?0.25mmの細いギャップが可能である。これによって、殊に、接触管を必要に応じて簡単に交換することも可能である。
(カ) 「【0069】
図1は、反応混合物と熱交換媒体との交叉向流を示している、本発明の方法のための反応器の第1の有利な実施形の縦断面図であり、
-図IAには、横断面図
-図IBには、導管の拡大図及び
-図ICには、接触管とじゃま板の配置を示す拡大図が示されている。
・・・
【0078】
図10は、接触管と管板のメッキとの結合を示す図である。

」(当審注:段落【0069】中の「図IA」、「図IB」及び「図IC」は、それぞれ「図1A(あるいはFIG.1A)」、「図1B(あるいはFIG.1B)」及び「図1C(あるいはFIG.1C)」の誤記と認定する。)
(キ) 「【0080】
図1は、本発明の方法のための、管板3中に固定されている接触管2を有する反応器1の第1の実施形を縦断面で示している。
【0081】
反応器の両端は、フード4によって外部に対して閉じられている。1つのフードを通って、接触管2への反応混合物の供給が行われ、反応器1の他端部のフードを通って生成物流が取り出される。このフード中には、ガス流を均一化するためのガス分配器が、例えばプレート8、特に多孔板の形で配置されているのが有利である。
【0082】
接触管2の間の中間スペース内にじゃま板6が配置されており、図1では、例えば6個のじゃま板6が図示されている。これらじゃま板6は、反応器内壁のところに交互に、対向している流路7を空ける。図1に例示されている態様では、反応混合物は上から下方に接触管を通って、かつ熱交換媒体は交叉向流で下から上方に、接触管2の間の中間スペースを通って導かれる。
【0083】
図1Aの横断面図は、バイパス流を阻止するための反応器内壁に付いているプレート片19が示されている。
【0084】
図1Bの部分図には、分離比の計算のために必要な幾何学的パラメータ 接触管2の中点間の距離(t)と外径(da)が示されている。
【0085】
図1Cの部分図には、接触管2とじゃま板6との間のギャップ20が示されている。
【0086】
反応器外ジャケットには、調整器9並びにブラケット10が備えられている。熱交換媒体は、反応器ジャケットに付いているポート25を経て導入又は排出される。
・・・
【0096】
図10の部分図は、溶接継目24の形の、接触管2と管板3のメッキ23との結合を示している。
・・・
【符号の説明】
【0099】
・・・24 接触管(2)とメッキ(23)との間の溶接継目・・・」
ウ 引用発明
引用刊行物には、摘記事項(ア)のとおり、固定床触媒の存在下で酸素分子を含有するガス流を用いる塩化水素の気相酸化により塩素を製造する方法が記載されているところ、当該方法を実施するために、摘記事項(カ)のとおり、反応器(1)が使用されており、図1にはその全体像が、図10にはその部分拡大図がそれぞれ示されている。
そこで、摘記事項(ア)の【請求項1】、【請求項9】及び摘記事項(キ)を参酌しながら、まず図1を仔細にみると、当該反応器(1)は、次の構成要素(部材)を具備することが理解できる。
・反応器ジャケット
・複数の接触管(2)
・管板(3)
そして、図1より明らかなとおり、複数の接触管(2)及び管板(3)は反応器ジャケットによって囲まれるとともに、接触管(2)と反応器ジャケットとの間及び各接触管(2)の間には、熱交換媒体が通過し得るスペース(中間スペース(5)、流路(7)あるいは内部スペースと呼称されている部分)が存在することを看取することができる。
次に、摘記事項(ア)の【請求項20】、摘記事項(ウ)の段落【0028】及び摘記事項(キ)の【0096】を参酌しながら、上記図10を仔細にみると、接触管(2)の末端がそれぞれ、管板(3)を通り、当該管板(3)と溶接されていること、管板(3)は純ニッケル又はニッケルベース合金でメッキされており(メッキ(23))、かつ接触管(2)は当該メッキ(23)のところのみで管板(3)に溶接されていること、及び、当該メッキ(23)は、反応器末端の方向に向いていることを把握することができる。
そうすると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「複数の接触管(2)を含み、該管の末端がそれぞれ、管板(3)を通っており、かつ管板(3)に溶接されており、管板(3)および複数の接触管(2)が反応器ジャケットによって囲まれており、管(3)と反応器ジャケットとの間及び各接触管(2)の間に熱交換媒体が通過し得るスペースが形成されている、反応器(1)において、
管板(3)がそれぞれ純ニッケル又はニッケルベース合金から成るメッキ(23)を有し、各接触管(2)の末端は、それぞれ該メッキ(23)のみで管板(3)に溶接されており、該メッキ(23)が、それぞれ反応器末端の方向に向いている、前記反応器(1)。」
エ 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明における「反応器(1)」、「複数の接触管(2)」、「反応器ジャケット」及び「ニッケルベース合金から成るメッキ(23)」は、それぞれ本願補正発明における「反応装置」、「少なくとも1つの管(31)」、「外部ジャケット」及び「ニッケルベース合金から成る面」(あるいは「メッキ(41)」)に相当するものといえる。
また、両者のメッキの形成手法についてみると、引用発明のメッキ(23)につき、引用刊行物の摘記事項(ウ)の段落【0030】には、「ロール-メッキ、爆発メッキ、肉盛溶接又はストリップ溶接」が例示され、一方、本願補正発明のメッキにつき、本願明細書の段落【0015】には、「ニッケルベース合金のメッキは一般に、溶接、圧延またはブラストメッキ(Sprengplattieren)によって塗布される。」と記載されている。そうすると、両者のメッキは形成手法が重複するものであるから、引用発明のメッキについても「ニッケルベース合金が、メッキとして管板に塗布されている」ということができる。
さらに、引用発明における「各接触管(2)の末端は、それぞれ該メッキ(23)のみで管板(3)に溶接されており、該メッキ(23)が、それぞれ反応器末端の方向に向いている」という形態は、各接触管(2)(本願補正発明における「少なくとも1つの管」に相当)が、それぞれニッケルベース金属から成るメッキ(23)(本願補正発明における「ニッケルベース合金から成る面」あるいは「メッキ(41)」に相当)に溶接されており、各管板の該メッキ(23)が、それぞれ反応器末端の方向(本願補正発明における「反応装置末端の方向」に相当)に向いていることを示すものであるから、本願補正発明における「少なくとも1つの管が、各場合に、ニッケルベース合金から成る面に溶接されており、ニッケルベース合金から成る面が、各場合に、その都度の反応装置末端の方向に向き」という形態に相当するものといえる。
してみると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致するといえる。
「少なくとも1つの管を含み、該管の末端がそれぞれ、管板を通っており、かつ管板に溶接(結合)されており、管板および管が外部ジャケットによって囲まれており、それによって管と外部ジャケットとの間に外部スペースが形成されている、反応装置において、
管板がそれぞれ、ニッケルベース合金から成る少なくとも1つの面を有し、少なくとも1つの管が、各場合に、ニッケルベース合金から成る面に溶接されており、ニッケルベース合金から成る面が、各場合に、その都度の反応装置末端の方向に向き、ニッケルベース合金が、メッキとして管板に塗布されている、前記反応装置。」
そして、両者は次の点で一応相違するものと認められる。
・相違点1:本願補正発明における反応装置は、「100?325バー ルの圧力範囲用に設計されている高圧反応を行なうための 」ものであるのに対して、引用発明はこの点の明示がない 点。
・相違点2:本願補正発明における外部ジャケットは、「異なる膨張の 場合に温度差によって管と外部ジャケットとの間に生じる 引張力を吸収するのに十分な厚さを有し」ているのに対し て、引用発明はこの点の明示がない点。
・相違点3:本願補正発明における管と管板のメッキとの溶接は、「溶 接ルートを有する溶接継目によって溶接されており」、「 メッキの厚さは、溶接ルートの高さがメッキの厚さより低 くなるように選択される」のに対して、引用発明は、これ らの点の明示がない点。
オ 相違点1についての検討
本願補正発明は、100?325バールの圧力範囲用に設計されている高圧反応を行うための反応装置であるが、このような「100?325バール」程度の反応圧力を想定した多管式(管束式)反応装置は、当該技術分野において既によく知られている(当該周知技術について、必要であれば、下記周知例参照)。
<周知例(原査定において既に例示された文献)>
A.特開2000-143238号公報(原査定の引用文献1)
(特に【請求項4】、【請求項17】、【0024】参照)
B.特開昭61-078738号公報(原査定の引用文献2)
(特に1頁左下欄下から3行目?右下欄3行参照)
C.国際公開第2008/006749号(原査定の引用文献4)
(特にPatentanspruche 11参照)
D.国際公開第2006/097468号(原査定の引用文献5)
(特にPatentanspruche 11参照)
E.国際公開第2007/036496号(原査定の引用文献6)
(特にPatentanspruche 6参照)
また、引用刊行物の摘記事項(イ)の段落【0005】には、塩素の製造方法に関する従来技術として「WO01/60743」が引用されているところ、この文献には、「反応圧力は、通常0.1?5MPa」(バールに換算すると100?5000バール)(4頁9行参照)と記載されていることから、引用発明に係る反応器は、100バール以上の反応圧力での塩素の製造方法に供されることをも想定したものと解するのが合理的である。
そうすると、引用発明は、確かに、反応圧力を明示するものではないものの、本願補正発明が規定する、「100?325バールの圧力範囲用に設計されている高圧反応」をも予定したものというべきであるから、両者は、当該相違点1に係る技術的事項において本質的に異なるものではない。
したがって、上記相違点1は実質的なものとはいえない。
カ 相違点2についての検討
引用発明における反応器ジャケットは、確かに、「異なる膨張の場合に温度差によって管と外部ジャケットとの間に生じる引張力を吸収するのに十分な厚さを有し」ているか否かを明示するものではないが、一般に、発熱反応を伴う多管式(管束式)反応装置において、管と外部ジャケットの軸方向の熱膨張差を考慮して反応装置を設計することは(外部ジャケットの厚さを含む。)、当業者として当然のことというべきであり(例えば、上記周知例B:特開昭61-078738号公報(3頁左下欄下から7行目?右下欄1行)には、反応管とシエル7(本願補正発明における管と外部ジャケットに相当)の軸方向の熱膨張差に着目した記載を認めることができ、発熱反応を伴う多管式(管束式)反応装置を設計するにあたり、管と外部ジャケットの軸方向の熱膨張差は、当業者として当然対処すべき事項の一つということができる。)、また、引用発明に係る反応器が使用される塩素の製造方法は発熱反応を伴うところ、引用刊行物の摘記事項(エ)には、熱膨張の補整のために、反応器ジャケット中に補整器を備えることが有利である旨記載されていることから、引用発明は、上記発熱反応に伴う各部材の熱膨張差を補整(考慮)するものであることは明らかである。
そうすると、当該熱膨張差を補整(考慮)するものとして設計された反応装置では、当然のことながら、その外部ジャケットは、当該熱膨張差に耐えることができるように強度設計されていると解すべきであるから(そうでないと、反応装置自体が、該熱膨張差により破壊されてしまうこととなる。)、引用発明においても、上記補整器を備えているなりに、「異なる膨張の場合に温度差によって管と外部ジャケットとの間に生じる引張力を吸収するのに十分な厚さを有し」ていると考えるのが合理的である。
したがって、当該相違点2も実質的なものではない。
キ 相違点3についての検討
引用刊行物の上記図10は、接触管(2)と管板(3)のメッキ(23)との結合を示すものであり、同図中の「24」は、「接触管(2)とメッキ(23)との間の溶接継目」にあたるものである(上記摘記事項(キ)の【0096】、【0099】)。そして、当該溶接継目(24)の形態は、本願の下記図2に記載された溶接継目(35)の形態と図面上で比較すると、溶接継目の高さや溶接部の開先形状などにおいて一応異なることが見て取れる。

ここで、一般に知られている管と管板の溶接技術(周知ないし慣用技術)についてみると、管板表面の被覆層に管を溶接する技術が下記周知例FないしHに、さらに、管と管板を溶接する技術が周知例I、Jにそれぞれ記載されている。
<管と管板の溶接技術に関する周知例>
F:特許第3263302号公報
(特に図1の管端溶接部12参照)
G:特公平2-52595号公報
(特に図の溶接ビード6参照)
H:米国特許第3257710号明細書
(特にFig.3参照)
I:特開昭54-69537号公報
(特に第5図の溶接15参照)
J:実願昭54-68035号(実開昭55-171491号) のマイクロフィルム(特に第2図の溶接13参照)
これらの周知例に照らすと、本願の図2に記載された如き溶接形態(溶接継目の高さと溶接部の開先形状)により、管と管板を溶接することは慣用の溶接技術であるということができる。
また、本願補正発明において上記溶接形態を採用することの意義(作用効果)についてみると、本願明細書の段落【0018】には、管と管板のメッキとの溶接について、次のように記載されている。
「【0018】
メッキは、好ましくは、30mmまでの厚さを有する。メッキの厚さは、管壁の厚さ、およびそれから生じる溶接継目の深さに依存する。メッキの厚さは、溶接ルートの高さがメッキの厚さより低くなるように選択される。これは、溶接継目が、管板の材料に届かないことを確実にする。このメッキ厚のさらなる利点は、メッキを新しくする必要なしに、または溶接によって生じる応力を散逸させるために装置の熱処理をする必要なしに、管の交換が可能なことである。」
そうすると、本願補正発明の溶接形態による意義(作用効果)は、「溶接継目が、管板の材料に届かないことを確実にすること」及び「メッキを新しくする必要なしに、または溶接によって生じる応力を散逸させるために装置の熱処理をする必要なしに、管の交換が可能なこと」であると解され、重要な点は、溶接継目が管板材料に届かないこと、つまり、メッキのところのみで管が管板と溶接されていることであり、これにより、管の交換が容易になることであると解するのが相当である。一方、引用発明においても接触管の交換が予定されているところ(摘記事項(オ))、溶接継目があまりに強固であると当該管の交換に支障を来すことは当業者であれば容易に予測し得る事項である上、実際、引用発明は、メッキのところのみで管が管板に溶接されていることからみて、上記した本願補正発明の溶接形態による意義(作用効果)である「溶接継目が、管板の材料に届かないことを確実にすること」及び「メッキを新しくする必要なしに、または溶接によって生じる応力を散逸させるために装置の熱処理をする必要なしに、管の交換が可能なこと」を実質的に具備するものということができる。加えて、本願明細書を仔細にみても、溶接ルートの高さとメッキの厚さの大小関係を最適化することにより奏される管交換のしやすさという作用効果が、当業者が予想し得ない程のものであると認めるに足りる根拠(データ等)は見当たらない。
してみると、引用発明において、上記慣用の溶接技術に照らし、本願補正発明のような溶接形態とすることは当業者にとって容易なことというべきであるから、本願補正発明の当該相違点3に係る技術的事項は、引用発明及び慣用の溶接技術に基いて当業者が容易に想到し得た事項であると認められる。
ク 相違点の検討のまとめ
上記のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明及び周知・慣用技術(周知の多管式反応炉(管束式反応炉)・慣用の溶接技術)に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められる。
ケ 独立特許要件の検討の小括
以上の検討のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知・慣用技術(周知の多管式反応炉(管束式反応炉)・慣用の溶接技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし26に係る発明は、平成22年9月24日に提出された特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 2(1)ア」に示した本件補正前のものであって、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも1つの管(31)を含み、該管の末端がそれぞれ、管板(33)を通っており、かつ管板(33)に結合されており、管板(33)および少なくとも1つの管(31)が外部ジャケットによって囲まれており、それによって管(31)と外部ジャケットとの間に外部スペース(39)が形成されている、100?325バールの圧力範囲用に設計されている高圧反応を行なうための反応装置において、
管板(33)がそれぞれ、ニッケルベース合金から成る少なくとも1つの面を有し、少なくとも1つの管(31)が、各場合に、ニッケルベース合金から成る面に溶接されており、ニッケルベース合金から成る面が、各場合に、その都度の反応装置末端の方向に向き、外部ジャケットは、異なる膨張の場合に温度差によって管(31)と外部ジャケットとの間に生じる引張力を吸収するのに十分な厚さを有することを特徴とする、前記反応装置。」

第4 原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、「平成25年 3月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由」であって、要するに、本願発明は、下記引用文献3に記載された発明及び周知技術(周知の多管式反応炉(管束式反応炉))に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
<<引用文献>>
3.特表2006-509705号公報
<周知の多管式反応炉(管束式反応炉)の例>
1.特開2000-143238号公報
2.特開昭61-078738号公報
4.国際公開第2008/006749号
5.国際公開第2006/097468号
6.国際公開第2007/036496号

第5 引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用された「引用文献3」は、上記「第2 2(2)イ」における「引用刊行物」であり、その記載事項についても、上記「第2 2(2)イ」に摘記したとおりである。
また、原査定の拒絶の理由において引用された周知の多管式反応炉(管束式反応炉)の例は、上記「第2 2(2)オ」における「周知例」であり、そこには、上記「第2 2(2)オ」のとおり、100バール以上の高圧反応を想定した多管式(管束式)反応装置について記載されている。

第6 当審の判断

1 引用発明

上記引用文献3の摘記事項から認定し得る引用発明は、上記「第2 2(2)ウ」に記載したとおりのものである。

2 対比・検討

上記「第2 2(1)イ」にて説示したとおり、本願補正発明(上述の本件補正後の発明)は、本願発明(上述の本件補正前の発明)を特定するために必要な事項である「溶接」及び「メッキ」の形態を限定するものであるから、逆に、本願発明は、本願補正発明から上記限定事項(「第2 2(2)エ」における相違点3に係る技術的事項)を省いたものであるということができる。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)」にて検討したとおり、引用発明(引用文献3に記載された発明)及び周知技術(周知の多管式反応炉(管束式反応炉))に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-14 
結審通知日 2015-10-19 
審決日 2015-10-30 
出願番号 特願2010-543482(P2010-543482)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01J)
P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知谷水 浩一  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 豊永 茂弘
日比野 隆治
発明の名称 高圧反応を行なうための反応装置、反応を開始する方法、および反応を実施する方法  
代理人 久野 琢也  
代理人 篠 良一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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