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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 A62C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A62C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A62C
管理番号 1312610
審判番号 不服2015-9921  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-27 
確定日 2016-04-05 
事件の表示 特願2013-255287「消火ガス噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日出願公開、特開2014- 79633、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年12月11日に出願した特願2009-282302号(以下、「原出願」という。)の一部を平成25年12月10日に新たな特許出願としたものであって、同年12月10日に上申書が提出され、平成26年8月4日付けで拒絶理由が通知され、同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年2月25日付けで拒絶査定がされ、同年5月27日に拒絶査定審判請求がされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成28年1月13日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年2月9日に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成28年2月9日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
消火ガス供給源から高圧の消火ガスが供給される導管の消火対象空間に臨んで開口する取付け部に設けられる消火ガス噴射装置であって、
(a)取付け部に接続されるノズル部材であって、
取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル部材の軸線を有する筒状であり、
前記導管から供給される前記高圧の消火ガスを噴出するノズル孔であって、取付け部の軸線に直交する軸線を有する複数のノズル孔が設けられるノズル部材と、
(b)案内部材であって、
(b1)取付け部の軸線と共通な前記一直線上に軸線を有する直円筒状の周壁であって、
ノズル部材よりも周壁の軸線方向一方に突出して延びる遊端部を有し、かつノズル孔よりも周壁の軸線方向他方に延びる基端部を有する周壁と、
(b2)中央に取付け部が挿通され、周壁の基端部を塞いで設けられ、取付け部の軸線に垂直な円板状端板とを有する案内部材とを含み、
(c)取付け部における周壁の前記軸線方向一方寄りの先端部は、端板よりも周壁の前記軸線方向一方に突出して延び、かつ、周壁の遊端部よりも軸線方向他方にあり、
この先端部の突出部分は、ノズル部材内に嵌り込み、
ノズル部材は、周壁の前記軸線方向一方側で円板状部材で塞がれ、
(d)ノズル部材の外周面と、案内部材の周壁の内周面と端板とによって規定されるガス案内面によって、各ノズル孔から噴出する消火ガスを周壁の前記軸線方向一方へ導き、かつその導かれる方向とは反対方向への噴射反力を低減させることを特徴とする消火ガス噴射装置。
【請求項2】
端板は、取付け部に固定されることを特徴とする請求項1に記載の消火ガス噴射装置。」

第3 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要
(1)平成26年8月4日付けで通知した拒絶理由の概要
平成26年8月4日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-4
・引用文献等 1-2
・備考
引用文献1(特に、第1図を参照。)には、取付け部の軸線に直交する軸線を有するノズル孔を複数備えたノズル部材とノズル孔から出た高圧の消火ガスを案内部材で噴出する方向を案内させた消火ガス噴射装置が記載されている。
引用文献2(特に、第1図を参照。)には、案内部がノズル孔に直交し、直円筒面の周壁と円板状の端板とから構成された案内部材が記載されている。
引用文献1に記載された発明の案内部材に代えて、引用文献2に記載の案内部材を用いることは、単なる設計変更にすぎず、当業者であれば容易に想到し得るものである。

・請求項 5
・引用文献等 1-3
・備考
周壁側から流体を案内する部材については、引用文献3(特に、図7を参照。)に記載されている。

・請求項 6
・引用文献等 1-4
・備考
ガスの案内部に吸音手段を備えることについては、引用文献4(特に、図1を参照。)に記載されている。

引 用 文 献 等 一 覧
1.実願平01-148647号(実開平03-088561号)のマイクロフィルム
2.実願平02-087953号(実開平04-045554号)のマイクロフィルム
3.特開2007-167557号公報
4.特開平09-324617号公報
・・・(略)・・・」

(2)平成27年2月25日付けでした拒絶査定の概要
平成27年2月25日付けでした拒絶査定の概要は、次のとおりである。

「この出願については、平成26年 8月 4日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

○請求項1について
引用文献1(実願平01-148647号(実開平03-088561号)のマイクロフィルム)には、取付け部の軸線に直交する軸線を有するノズル孔を複数備えたノズル部材とノズル孔から出た高圧の消火ガスを案内部材で噴出する方向を案内させた消火ガス噴射装置が記載されている(特に、第1図を参照。)。
引用文献2(実願平02-087953号(実開平04-045554号)のマイクロフィルム)には、案内部がノズル孔に直交し、直円筒面の周壁と円板状の端板とから構成された案内部材が記載されている(特に、第1図を参照。)。また、案内部材とノズル部材と同軸である。
ここで、出願人は、意見書で定義するところの(A)、(B)について、先の拒絶理由通知で提示した引用文献には記載していないことを主張する。しかしながら、(A)については、上記引用文献2に記載された事項である(引用文献2において、デフレクタ2が備えられているのは、ノズル部材であるから案内部材とは無関係である)。また、(B)についても、「噴射反力を低減させる案内部材」との記載を補正により追加しているが、どの噴射反力を基準として「低減」したかが明らかでないものの、本願図面等に記載されるように案内部材と取付部材の軸線が共通であり、直円筒面の周壁を有しているから、案内部材としては「噴射反力を低減させる」形状であり、この点についても、上記引用文献2に記載された事項である。よって、上記主張は拒絶理由を覆すに足りる根拠としては不十分であり、採用することができない。
そして、引用文献1に記載された発明の案内部材に代えて、引用文献2に記載の案内部材を用いることは、単なる設計変更にすぎず、当業者であれば容易に想到し得るものである旨は先の拒絶理由通知に述べたとおりのものである。仮に、意見書における主張の(A)について、引用文献2の「案内部材」が「直円筒状」でないとの趣旨の意見なのであったとしても、引用文献2に記載された案内部材の端板部分は面取りされているものの、加工コスト等に鑑みて、直円筒状にすること自体は当業者が適宜設計し得た事項であり、消火ガスの流れ場が著しく変わる形状でもないため、それによる効果も予測し得る範囲のものに過ぎない。
よって、請求項1に係る発明は、引用文献1-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、仮に、上記「噴射反力を低減させる案内部材」に関し、本願図1に記載される流れ場を運動量保存則に当てはめれば確かにノズル孔で半径方向成分の力は円周方向で積分されて全体で0となるが、導管の静水圧による力と導管における消火ガスの動圧による力と、案内部材の開口の静水圧による力と案内部材の開口部における消火ガスの動圧による力が釣り合っていないことは、本願の発明の詳細な説明で「噴射反力R」として紹介されていることからも明らかである。そして、導管の入口と出口において、運動量保存則を当てはめれば、導管の軸線方向成分の力は、「(消火ガスの密度)×(導管内の平均流速)×(導管内の流量)+(導管内の静水圧による力)」であり、この力は「ノズル部材36」に生じているから、出願人の意見書における「ノズル部材は、複数の各ノズル孔からの消火ガスの噴射によってノズル部材の軸線に直交する反力は相殺されるのは勿論、ノズル部材の軸線に沿う反力を受ける端板が取付け部に固定されることによって、ノズル部材にその軸線に沿う反力は作用しない。したがって、ノズル部材にいずれの反力も作用せず、」との主張は物理法則に反する現象であり、拒絶理由を覆すに足りる根拠としては採用できない。

○請求項2-4について
補正により追加された請求項であるため、拒絶査定においては判断を要しない。

○請求項5-7について
先の拒絶理由通知の備考の請求項4-6を参照。
・・・(略)・・・」

2 原査定の拒絶の理由についての判断
(1)引用文献1の記載等
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である実願平1-148647号(実開平3-88561号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、「ガス系消火装置用ノズル」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、「引用文献1の記載」という。)がある。

・「この考案を第1図?第3図によって説明する。ノズル本体1には、先端に側方に向けて複数個の放出口2を、さらにその先に穴4a、切り欠き3a等の隙間を設けたデフレクター3、4を一ないし複数枚配置し、この放出口2及びデフレクター3、4を覆うホーン5を設けてなるガス,系消火装置用ノズルである。
第1図、第2図に挙げる一実施例において、ノズル本体1には放出口2が四方に2個づつあけてある。さらにその先の雄ねじ部1aには、ナット1aでデフレクター3を2枚平行に、かつ串刺し状に間隔おいて固定してある。3bは雄ねじを通す穴である。
このデフレクター3には放射状の切り欠き3aよりなる隙間を多数設けてある。
ホーン5は、基部に径の大きい膨出部5aをこの膨出部5aに連続して円錐筒部5bを形成してある。この両部の接続部は径が小さくくびれ部5cを形成している。 そして、デフレクターの外周部はこのくびれ部5cに接近している。
第3図に挙げる他の実施例はデフレクター4に多数の穴4aをあけたものである。このデフレクター4も全実施例同様にノズル本体1の先端に設ける。
(作用)
消火用のガスは、ノズル本体1の放出口2より噴出し、ホーン5の膨出部5aとデフレクターで囲まれた空間に入り膨張する、そしてデフレクターの隙間を通過して拡散し、ホーン5によって所定の方向に放射される。
実験結果によれば、消火ガスは従来品に比較して同一到達距離における拡散径は約2倍以上となった。
デフレクターはガスの拡散状態を変えるために、適当の隙間のものを、単独でまた組み合わせまた取付枚数も1乃至複数枚適宜とする。」(明細書第2ページ第8行ないし第4ページ第3行)

イ 引用発明
引用文献1に記載された「ガス系消火装置用ノズル」が、消火ガス供給源から高圧の消火ガスが供給される導管の消火対象空間に臨んで開口する取付け部に設けられるものであることは、技術常識である。
また、引用文献1に記載された「ガス系消火装置用ノズル」は、「放出口2」が四方に2個づつあけられているものであるから、噴出する消火ガスが導かれる方向とは反対方向への噴射反力が低減されるものであることは、明らかである。
したがって、引用文献1の記載及び図面を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「消火ガス供給源から高圧の消火ガスが供給される導管の消火対象空間に臨んで開口する取付け部に設けられるガス系消火装置用ノズルであって、
(a)取付け部に接続されるノズル本体1であって、
取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル本体1の軸線を有する筒状であり、
前記導管から供給される前記高圧の消火ガスを噴出する放出口2であって、取付け部の軸線に直交する軸線を有する複数の放出口2が設けられるノズル本体1と、
(b)ホーン5であって、
(b1)取付け部の軸線と共通な前記一直線上に軸線を有する筒状の周壁であって、
ノズル本体1よりも周壁の軸線方向一方に突出して延びる遊端部を有し、かつ放出口2よりも周壁の軸線方向他方に延びる基端部を有する周壁と、
(b2)中央にノズル本体1が挿通され、周壁の基端部を塞いで設けられた端部とを有するホーン5とを含み、
(c)ノズル本体1は、周壁の前記軸線方向一方側で塞がれ、
(d)ノズル本体1の外周面と、ホーン5の周壁の内周面と端部とによって規定されるガス案内面によって、各放出口2から噴出する消火ガスを周壁の前記軸線方向一方へ導き、かつその導かれる方向とは反対方向への噴射反力を低減させるホーン5とを含むガス系消火装置用ノズル。」

(2)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である実願平2-87953号(実開平4-45554号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、「低圧式二酸化炭素消火装置用ノズル」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、「引用文献2の記載」という。)がある。

・「この考案を実施例第1図によって説明する。
放出部1の前方にデフレクター2を配置し、この放出部1とデフレクター2とをホーン3で覆って空間部4を形成し、放出部1には噴出口5を設けその噴出ガス流をデフレクター2によって導き、前記空間部4に噴出するようにし、別に放出部1には他のガス噴出口6を設け、前記両ガス噴出口5,6のガス噴出流が空間部4内において衝突し、ホーンとデフレクターの隙間7から放射する低圧式二酸化炭素消火装置用ノズルである。」(明細書第3ページ第2ないし11行)

・第1図から、ホーン3が、ガス噴出口5,6に直交する筒状の周壁と円板状の端板から構成されていることが看取される。

(3)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2007-167557号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「微細気泡噴出ノズル及びそれを利用した微細気泡発生装置」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、「引用文献3の記載」という。)がある。

・「【0025】
図6は,本実施の形態における更に別の微細気泡噴出ノズルの図である。図6(1)はノズル本体を垂直方向に切断したX-X断面図,図6(2)はノズル本体を水平方向に切断したY-Y断面図である。このノズルも,ノズル本体60の先端にノズルカバー64が取り付けられている。そして,ノズル本体60の先端の側壁にはその円周方向に向かう3つの噴出孔61が設けられ,先端の底面は閉じられている。一方,ノズルカバー64は,ノズル本体60の噴出孔61から噴出される液体の外部への直接的な開放を阻止する側壁65と,液体を外部に噴出する1個のオリフィス66が設けられた底面67とを有する。
【0026】
ノズル本体60の矢印方向に圧送された溶解空気を含む液体は,ノズル本体の先端側壁に設けられた噴出孔61を通過してノズルカバー64の側壁65に衝突し,ノズル本体の接線方向または円周方向に向きを変え,ノズルカバー64の底面のオリフィス66から図中下方向に噴出される。この噴出により液体の圧力が大気圧に低下し,溶解空気が析出し白濁の微細気泡が発生する。特に,ノズル本体60の側壁に円周方向に向いた複数の噴出孔61により,圧送されてきた液体がノズルカバー64内を円周方向に流れ一旦圧力を低下させる。そしてノズルカバー64のオリフィス66から液体を噴出させる。この場合も,液体の圧力の関係は前述と同様にV1>V2>V3となり,オリフィス66から噴出する液体の圧力V2はノズル本体内での圧力V1より低下しているので,オリフィス66からの高速流の周囲の負圧の程度が緩和され,大泡の発生が緩和されるものと思われる。その結果,キーンという大きな金属音の発生も抑制される。
【0027】
図7は,本実施の形態における更に別の微細気泡噴出ノズルの図である。図7(1)はノズル本体を垂直方向に切断したX-X断面図,図7(2)はノズル本体を水平方向に切断したY-Y断面図である。図7(1)のX-X断面図は,図6(1)と同じである。ただし,図7(2)のY-Y断面図に示されるとおり,ノズルカバー64の内側側壁には,垂直方向に延びる複数の溝が形成され,Y-Y断面図ではノズルカバー64の内壁が凹凸構造を有する。
【0028】
したがって,図7のノズル例の場合も,図6のノズルと同様に,溶解空気を含む液体がノズル本体60から噴出孔61を経由してノズルカバー64内に噴出され,圧力低下され,さらにノズルカバー64の外部にオリフィス66から噴出される。そして,外部での低圧力により溶解していた空気が析出し微細気泡が発生する。
【0029】
図7の微細気泡噴出ノズルの場合,ノズル本体60の先端部の側壁に円周方向(接線方向)に向いた複数の噴出孔61が設けられ,その噴出孔61から噴出される液体がノズルカバー64の内壁に衝突する。その内壁には凹凸構造が設けられているので,噴出孔61から液体が噴出される時に発生する大泡は,ノズルカバー64の内壁の凹凸構造に衝突して細かい泡に砕かれる。よって,ノズルカバー64から大泡が外部に噴出されることはない。また,ノズルカバー64内で液体の圧力がやや低下することで,ノズルカバー64のオリフィス66から噴出される高速流の周囲の負圧状態が緩和され,大泡の発生とそれに起因する金属音の発生が抑制される。
【0030】
ノズルカバー64の内壁の凹凸形状は,必ずしも図7のように垂直方向に延びる溝による形状に限定されない。水平方向に延びる溝による凹凸形状でもよい。」(段落【0025】ないし【0030】)

(4)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開平9-324617号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「消音器」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、「引用文献4の記載」という。)がある。

・「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る消音器の1実施の形態を示す。この消音器は、円筒、角筒等の筒形をなす気体の導入管3と、導入管3と同形かつ大形の筒形をなし、底部8aによつて先端が閉塞されたケース8とを有する。導入管3は、その先端部をケース8の開口部8bから挿入させ、導入管3の先端をケース8の中間部に位置させ、ケース8の内部であつて導入管3よりも先方に、膨張室4を区画してある。この導入管3は、ケース8に中心軸線を合致させて挿入されている。
【0007】このようにして、ケース8の内部であつて導入管3よりも先方に、膨張室4が形成されると共に、導入管3の先端部の外周部3aとケース8との間に、環状の排気路5が形成されている。勿論、膨張室4の断面積は、導入管3の通路断面積よりも大きくなつている。なお、導入管3の外周部3aとケース8との間は、周方向及び中心軸線方向に適宜の間隔で配置した間隔部材9により、相互に固定されている。この導入管3の基端部には、エアータンクの排気部・真空吸着機の排気部等が接続される。
【0008】そして、導入管3の先端部の外周面(外周部3a)に密着させて吸音材7を固着させ、また、ケース8の内周面に密着させて吸音材6a,6bを固着させてある。吸音材6aは、排気路5の外壁面の全面に取付け、吸音材6bは、底部8aを除く膨張室4の外壁面の全面に取付けてある。各吸音材6a,6b,7は、多孔質材からなり、グラスウール、ロックウール、焼結金属等である。かくして、排気路5の主たる流路となる主排気路5aが、両吸音材6a,7の間に、吸音材6a,7が存在しない環状断面の空間として区画されている。主排気路5aの流路面積となる断面積は、導入管3の通路断面積よりも大きく、かつ、膨張室4の断面積よりも小さく設定してある。従つて、吸音材7は、排気路5の内壁面に取付けられている。」(段落【0006】ないし【0008】)

(5)対比
本願発明1と引用発明を対比する。
引用発明における「ガス系消火装置用ノズル」は、その機能、構成または技術的意味からみて、本願発明1における「消火ガス噴射装置」に相当し、以下、同様に、「ノズル本体1」は「ノズル部材」に、「放出口2」は「ノズル孔」に、「ホーン5」は「案内部材」に、それぞれ、相当する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「消火ガス供給源から高圧の消火ガスが供給される導管の消火対象空間に臨んで開口する取付け部に設けられる消火ガス噴射装置であって、
(a)取付け部に接続されるノズル部材であって、
取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル部材の軸線を有する筒状であり、
前記導管から供給される前記高圧の消火ガスを噴出するノズル孔であって、取付け部の軸線に直交する軸線を有する複数のノズル孔が設けられるノズル部材と、
(b)案内部材であって、
(b1)取付け部の軸線と共通な前記一直線上に軸線を有する筒状の周壁であって、
ノズル部材よりも周壁の軸線方向一方に突出して延びる遊端部を有し、かつノズル孔よりも周壁の軸線方向他方に延びる基端部を有する周壁と、
(b2)周壁の基端部を塞いで設けられた端部とを有する案内部材とを含み、
(c)ノズル部材は、周壁の前記軸線方向一方側で塞がれ、
(d)ノズル部材の外周面と、案内部材の周壁の内周面と端部とによって規定されるガス案内面によって、各ノズル孔から噴出する消火ガスを周壁の前記軸線方向一方へ導き、かつその導かれる方向とは反対方向への噴射反力を低減させる案内部材とを含む消火ガス噴射装置。」

そして、以下の点で相違する、
<相違点1>
「案内部材」に関して、本願発明1においては、「(b)案内部材であって、
(b1)取付け部の軸線と共通な前記一直線上に軸線を有する直円筒状の周壁であって、
ノズル部材よりも周壁の軸線方向一方に突出して延びる遊端部を有し、かつノズル孔よりも周壁の軸線方向他方に延びる基端部を有する周壁と、
(b2)中央に取付け部が挿通され、周壁の基端部を塞いで設けられ、取付け部の軸線に垂直な円板状端板とを有する案内部材とを含」むものであるのに対し、引用発明においては、「(b)ホーン5であって、
(b1)取付け部の軸線と共通な前記一直線上に軸線を有する筒状の周壁であって、
ノズル本体1よりも周壁の軸線方向一方に突出して延びる遊端部を有し、かつ放出口2よりも周壁の軸線方向他方に延びる基端部を有する周壁と、
(b2)中央にノズル本体1が挿通され、周壁の基端部を塞いで設けられた端部とを有するホーン5とを含」むものである点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
本願発明1においては、「(c)取付け部における周壁の前記軸線方向一方寄りの先端部は、端板よりも周壁の前記軸線方向一方に突出して延び、かつ、周壁の遊端部よりも軸線方向他方にあり、
この先端部の突出部分は、ノズル部材内に嵌り込み、
ノズル部材は、周壁の前記軸線方向一方側で円板状部材で塞がれ」るのに対し、引用発明においては、「(c)ノズル本体1は、周壁の前記軸線方向一方側で塞がれ」るものである点(以下、「相違点2」という。)。

(6)判断
そこで、相違点1及び2について、以下に検討する。
ア 相違点1について
引用文献2の記載及び図面によると、引用文献2には、案内部材の周壁を直円筒状とすることが記載されていることから、引用発明において、引用文献2に記載された技術を適用して、「案内部材」を「直円筒状の周壁」を含むものとすることは、当業者であれば容易に想到したことということができる。
しかし、「中央に取付け部が挿通され、周壁の基端部を塞いで設けられ、取付け部の軸線に垂直な円板状端板とを有する」ことについては、引用文献2ないし4のいずれにも記載されていないし、引用発明において、「ノズル本体1」が「取付け部」に設けられるのは、「ホーン5」の外側であるから、「中央に取付け部が挿通され」るような構成は採り得ないし、そのような構成を採る動機付けもない。
したがって、引用発明において、引用文献2ないし4に記載された技術を適用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

イ 相違点2について
「取付け部における周壁の前記軸線方向一方寄りの先端部は、端板よりも周壁の前記軸線方向一方に突出して延び、かつ、周壁の遊端部よりも軸線方向他方にあり、
この先端部の突出部分は、ノズル部材内に嵌り込み」という構成とすることは、引用文献2ないし4のいずれにも記載されていないし、引用発明において、「ノズル本体1」が「取付け部」に設けられるのは、「ホーン5」の外側であるから、上記構成は採り得ないし、上記構成を採る動機付けもない。
したがって、引用発明において、引用文献2ないし4に記載された技術を適用して、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(7)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願発明2は、原査定において判断されていないが、本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「1.(新規事項)平成27年5月27日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第1 理由1(新規事項)について
平成27年5月27日付けでした手続補正により補正された請求項1の「(a)取付け部に接続されるノズル部材であって、
取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル部材の軸線を有する直円筒状であり、
前記導管から供給される前記高圧の消火ガスを噴出するノズル孔であって、取付け部の軸線に直交する軸線を有する複数のノズル孔が設けられるノズル部材と、」という記載によると、請求項1ないし7に係る発明は、「取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル部材の軸線を有する直円筒状」のノズル部材を有することになるが、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、正六角形の筒状のノズル部材は記載されているといえるが、「取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル部材の軸線を有する直円筒状」のノズル部材は記載されているとはいえない。
したがって、平成27年5月27日付けでした手続補正による補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

第2 理由2(サポート要件)について
請求項1の「(b3)取付け部における周壁の前記軸線方向一方(図1の左方)寄りの先端部は、端板よりも周壁の前記軸線方向一方(図1の左方)に突出して延び、かつ、周壁の遊端部よりも軸線方向他方(図1の右方)にあり、
この先端部の突出部分は、ノズル部材内に嵌り込み、
ノズル部材は、周壁の前記軸線方向一方(図1の左方)側で塞がれており、」という記載によると、請求項1ないし7に係る発明は、「周壁の前記軸線方向一方(図1の左方)側で塞がれて」いれば、塞ぐための部材はいかなる部材でもよいことになるが、発明の詳細な説明及び図面には、円板状の部材で塞がれたものしか記載されていない。

第3 理由3(明確性)について
a.請求項1及び3において、「(図1の左方)」、「(図1の右方)」及び「(図3、図4の左方)」等の図面を引用した記載は明確でない。

b.請求項1において、(b3)として記載された事項は、「案内部材」ではなく、「取付け部」に関する発明特定事項と考えられるが、「案内部材」に関する記載である(b)の中で記載されているため、何を特定しているのか明確でない。

c.請求項1において、(b4)として記載された事項は、「案内部材」ではなく、「ノズル部材」と「案内部材」の相対的な関係に関する発明特定事項と考えられるが、「案内部材」に関する記載である(b)の中で記載されているため、何を特定しているのか明確でない。
・・・(略)・・・」

2 当審拒絶理由についての判断
平成28年2月9日に提出された手続補正書による補正により、本願の請求項1の「取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル部材の軸線を有する直円筒状」という記載は「取付け部の軸線と共通な一直線上にノズル部材の軸線を有する筒状」という記載に補正されたので、新規事項に関する拒絶理由は解消した。
また、上記補正により、本願の請求項1の「ノズル部材は、周壁の前記軸線方向一方(図1の左方)側で塞がれており」という記載は「ノズル部材は、周壁の前記軸線方向一方側で円板状部材で塞がれ」という記載に補正されたので、サポート要件に関する拒絶理由も解消した。
さらに、上記補正により、本願の請求項1は、上記第2のとおり補正され、当審拒絶理由において意味が明確でないと指摘した記載の意味は明確となり、本願発明1及び2は明確になったので、明確性に関する拒絶理由も解消した。

よって、当審拒絶理由において指摘した拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2013-255287(P2013-255287)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (A62C)
P 1 8・ 55- WY (A62C)
P 1 8・ 121- WY (A62C)
P 1 8・ 537- WY (A62C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉▲崎▼ 覚  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 加藤 友也
梶本 直樹
発明の名称 消火ガス噴射装置  
代理人 西教 圭一郎  

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