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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1312675
審判番号 不服2014-22291  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-04 
確定日 2016-03-23 
事件の表示 特願2011-127249「可撓性骨複合材」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 4日出願公開、特開2011-218183〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
本願は、平成17年6月10日(パリ条約による優先権主張 2004年6月10日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願(特願2007-527764号)の一部を、平成23年6月7日に新たな特許出願としたものであって、平成25年4月30日付けで拒絶理由が通知され、同年11月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年6月23日付けで拒絶査定され、同年11月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同年11月27日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?23に係る発明は、平成25年11月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?23にそれぞれ記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「以下:
第1の面および第2の面を有するポリマー層を形成する工程;
カルシウム化合物を前記ポリマー層の第1の面上に配置することで、第1のカルシウム含有層を前記ポリマー層上に形成する工程;および
前記ポリマー層の第1の面に前記カルシウム化合物を固定させる工程
を含み、前記カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない、可撓性骨複合材を製造する方法。」

第3 刊行物1の記載事項及び引用発明
1 本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開2000-126280号公報(以下、「刊行物1」という。原査定の引用文献1)には、以下の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させプレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させることを特徴とする骨補填用シートの製造方法。
・・・
【請求項3】 前記プレス時に前記基材シートを加熱する請求項1または2に記載の骨補填用シートの製造方法。
・・・
【請求項8】 前記基材シートの厚さは10?1000μmである請求項1ないし7のいずれかに記載の骨補填用シートの製造方法。
【請求項9】 前記粒子の平均粒径が10?1000μmである請求項1ないし8のいずれかに記載の骨補填用シートの製造方法。
【請求項10】 前記粒子の平均粒径は前記基材シートの厚さの0.5?2倍である請求項1ないし9のいずれかに記載の骨補填用シートの製造方法。【請求項11】 前記粒子を前記基材シート片面の表面積の20?100%を占めるよう付着させる請求項1ないし10のいずれかに記載の骨補填用シートの製造方法。
・・・
【請求項16】 前記生体吸収性高分子物質はポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-D,L-ラクチド(P-D,L-LA)、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、L-ラクチド/グリコライド共重合体、D-ラクチド/グリコライド共重合体、L-およびD-ラクチド/グリコライド共重合体(P(LA/GA))、L-ラクチド/カプロラクトン共重合体、D-ラクチド/カプロラクトン共重合体、L-およびD-ラクチド/カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))からなる群から選択された少なくとも1種である請求項1ないし15のいずれかに記載の骨補填用シートの製造方法。
【請求項17】 前記生体吸収性高分子物質はL-およびD-ラクチド/カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))である請求項1ないし15のいずれかに記載の骨補填用シートの製造方法。
・・・
【請求項19】 請求項1ないし18のいずれかに記載の骨補填用シートの製造方法により基材シートの片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子の一部が露出した状態で固定されていることを特徴とする骨補填用シート。」

(イ) 「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、骨欠損部の補填等に有用な骨補填用シートに関するものである。」

(ウ) 「【0002】
【従来の技術】従来、骨の欠損部を固定・補填するものとして種々の材料が提案されている。
【0003】例えば、特開平2-241460号公報にはリン酸カルシウム系化合物を生体吸収性高分子物質からなるシート状物または網状物に担持させた骨修復用複合材料が開示されている。かかる骨修復用複合材料を骨の破損部分の周囲に巻き付けることにより骨を固定し、リン酸カルシウムの働きによる骨の接合および補填の促進を図るものである。このような骨修復用複合材料の使用において、リン酸カルシウム系化合物は骨の欠損部付近に位置し、骨との結合が可能な状態にあることが必要である。
【0004】ところが、特開平2-241460号公報に開示された骨補填用複合材料は、生体吸収性高分子物質からなるシートにリン酸カルシウム系化合物を塗布したり、またはリン酸カルシウム系化合物のスラリー中に浸漬することにより、シートの表面にリン酸カルシウム系化合物粒子を単に付着させたもの、および生体吸収性高分子物質にリン酸カルシウム系化合物粒子を混入・分散させシート状としたものであった。
【0005】したがって、リン酸カルシウム系化合物粒子がシート内に完全に埋入した状態であったり、骨と接触しない側のシート面から露出している場合、リン酸カルシウムと骨との結合が図られず、骨伝導、骨誘導等の機能が発現されず骨の補填が効率よく進行しないおそれがあった。
【0006】また、骨と結合しないリン酸カルシウム系化合物粒子は、該粒子を担持している生体吸収性高分子物質からなるシートが生体に吸収され消失するのにともなって遊離し、体内に散在してしまうおそれがある。さらに、シートに十分に固定されていない粒子は、埋植時等にシートから脱離し体内に散在する場合がある。このように体内に散在するリン酸カルシウム系化合物粒子は、部位によっては組織為害性を発現する懸念があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、リン酸カルシウム等からなる粒子と骨との結合を積極的に図り、体内に散在しない骨補填用シートの製造方法およびかかる方法により製造される骨補填用シートを提供することにある。」

(エ) 「【0029】図1は、本発明の骨補填用シートの一実施形態を示す斜視図、図2および図3は本発明の骨補填用シートの製造方法の一例を示す概略図である。
【0030】本発明の骨補填用シート1の製造方法は、生体吸収性高分子物質からなる基材シート4の少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子3を付着させプレスすることにより、粒子3の一部を該基材シート4に埋入させることを特徴とする。このとき、粒子3を基材シート4上に均一に分散させた状態で埋入させることが好ましい。これにより、基材シート4の少なくとも片面側に粒子3の一部を露出させた状態とすることができるため、かかる面を骨欠損部に被覆、密着させることによって粒子3を高密度で骨と結合させることができ、骨の補填効果が向上する。さらに、粒子3は骨と直接接触することにより結合を生じるため、体内で散在することを防止できる。
【0031】さらに、粒子3と基材シート4との固定が確実に行われ、骨補填用シート1を骨欠損部へ埋植する際または、埋植後に骨との結合を生じる前に粒子3が遊離することがない。したがって、体内で粒子3が散在せず、埋植時および埋植後における生体への安全性に問題を生じるおそれがない。
【0032】生体吸収性高分子物質からなる基材シート4は、公知の方法に従って製造することができ、例えば、溶液流延法、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、吹き付け、刷毛塗り、圧縮成形等が挙げられる。」

(オ) 「【0038】基材シート4の厚さは10?1000μmが好ましい。基材シート4が薄すぎると粒子3が埋入可能な深さを十分に確保することができず、粒子の固定が確実になされない場合がある。一方、基材シート4が厚すぎる場合、基材シート4が厚い分だけ生体吸収性高分子物質の量が多くなり、生体内への吸収が遅延したり、多量の生体吸収性高分子物質の分解・吸収による生体への影響が懸念される。また、基材シート4の柔軟性が低下し取扱性が悪くなる場合がある。」

(カ) 「【0045】上述のような生体吸収性高分子物質からなる基材シート4の片面側に、リン酸カルシウム系化合物からなる粒子3を付着させプレスすることにより前記粒子の一部を該基材シートに埋入させる。このような方法によれば、基材シート4の少なくとも片面側に粒子3を露出させた状態で固定することができ、その表面の生体親和性を向上させることができる。さらに、粒子3の固定部位の選択が容易であり、固定部位を基材シート4の片面のみとすることも両面とすることも可能である。
【0046】すなわち、リン酸カルシウム系化合物からなる粒子と基材シートを構成する生体吸収性高分子物質とを予め混合し、かかる混合物から成形されたシート状物に比べ、基材シートの表面から露出する粒子の密度や割合が多く、リン酸カルシウム系化合物と骨との接触・結合を積極的に図ることができる。このように露出したリン酸カルシウム系化合物の粒子は骨形成の核となって骨形成を促進することができる。さらに、露出する粒子は骨との結合が可能であるため、体内への散在を抑制することができる。
【0047】また、プレスすることにより粒子を固定させる方法によれば、基材シート4の表面において、部分的に粒子の露出量や粒子密度、さらに粒子の大きさ、構成材料等を変えることが容易であり、自由度が非常に大きい。」

(キ) 「【0048】基材シート4の少なくとも片面側に粒子3を付着させる方法としては特に限定されず、例えば、図2に示すように基材シート4を粒子3と直接付着させることができる。あるいは、粒子3のスラリーを基材シート4の片面側に浸漬、含浸、噴霧、塗布、滴下する方法等が挙げられるが、直接粒子を付着させる方法が好ましい。この方法では溶媒を必要としないため、生体への安全性の向上・確保が図られる。
【0049】なお、粒子の基材シートへの付着とは、粒子が生体吸収性高分子物質と化学結合することにより基材シート表面に固定された状態および粒子は基材シートに固定されないで単に表面に接触しているだけの状態の両方を意味する。また、粒子の付着と同時にプレスを行なう場合も含まれるものとする。
【0050】基材シート4に付着した粒子3を、図3に示すようにパンチ7を用いてプレスすることにより、粒子3の一部を基材シート4に埋入させる。
【0051】このとき、基材シート4を加熱しながらプレスすることが好ましい。加熱により基材シート4の表面が軟化し、粒子の埋入をより容易に行うことができる。
【0052】・・・
【0053】また、プレス時の加熱温度は、例えば生体吸収性高分子物質により適宜選択されるが、使用される高分子物質のガラス転移点から融点の110%の温度までの範囲とすることが好ましい。この範囲の温度で加熱することにより、生体吸収性高分子物質の分解を抑制しながら、粒子を容易に埋入可能に基材シートを軟化させることができる。
【0054】なお、図3に示される実施形態では、パンチ7により基材シート4を押圧することにより、押圧している面と反対側の面に粒子3を埋入させているが、粒子3を押圧することにより基材シート4の片面に埋入させることも可能である。
【0055】粒子3の平均粒径は特に限定されないが、10?1000μmであることが好ましい。平均粒径が小さすぎる場合、基材シート4に完全に埋入したり、あるいは露出量が極端に少なくなるおそれがあり、基材シートの片面側の骨との親和性を十分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、平均粒径が大きすぎると、基材シートへの埋入部分に対し露出部分が過大になり、粒子の固定が十分になされないおそれがある。
【0056】さらに、粒子3の平均粒径は、基材シート4の厚さの0.5?2倍であることが好ましく、1?2倍がより好ましい。0.5倍未満である場合、粒子が基材シートに埋入したり、あるいは露出量が少なくなり、基材シートの片面側の骨との親和性が低下する場合がある。また、2倍を超えると基材シートへの粒子の固定が不十分となるおそれがある。」

(ク) 「【0068】また、本発明の骨補填用シート1は、骨欠損部に粒子が露出した面を接触させるように巻き付けて骨を固定しながら補填したり、ペースト状または顆粒状の骨補填材を埋め込んだ骨の欠損部に被せて、該骨補填材を固定させるための蓋として使用することも可能である。」

(ケ) 「【0074】(実施例1)
1.骨補填用シートの製造
【0075】1(当審注:○の中に数字の1)ハイドロキシアパタイト粒子の作製
・・・
【0077】・・・粒径分布:300?600μm、平均粒径:384μm、Ca/P比:1.67、気孔率:21%のハイドロキシアパタイトの多孔質粒子を得た。
【0078】2(当審注:○の中に数字の2)基材シートの作製
L-ラクチドとε-カプロラクトンとを用いて、定法にしたがってL-ラクチド/ε-カプロラクトン共重合体(モル比:50/50、GPC法による重量平均分子量:30万)を合成した。
【0079】合成された共重合体を加熱プレス機でプレスすることにより、厚さ:500μm、20cm×20cmの基材シート4を作製した。このとき、加熱温度:160℃、プレス圧:0.22kgf/cm^(2)とした。
・・・
【0081】3(当審注:○の中に数字の3)ハイドロキシアパタイトの付着・埋入
図2に示すように、平板上に敷き詰められたハイドロキシアパタイト粒子3の上に2(当審注:○の中に数字の2)で作製した基材シート4を被せた。このとき、ハイドロキシアパタイト粒子3は基材シート4の片面に付着し、その表面積の約80%を占めていた。
【0082】次に、図3に示すように、基材シート4を160℃に加熱されたパンチ7により加圧力0.22kgf/cm^(2)で押圧し、粒子3の一部を基材シート4に埋入させることにより骨補填用シート1を得た。
【0083】このように製造された骨補填用シート1は、片面側にのみハイドロキシアパタイトの粒子3が露出し、また、粒子3は基材シート4の表面に強固に固定されていた。
【0084】さらに、骨補填用シート1を生理食塩水中に入れて2分間超音波をかけ、基材シート4への固定が不十分な粒子3を完全に除去した。
【0085】こうして得られた骨補填用シート1は、埋植時、あるいは埋植後に粒子3が脱離したり、体内に散在するおそれがないものであった。」

(コ) 「【0086】
【発明の効果】以上述べたように、本発明の骨補填用シートの製造方法によれば、骨補填用シートの片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を露出させることができるため、骨と粒子との結合を積極的に図ることができ、優れた骨形成能が発揮される。
【0087】また、粒子の殆どは骨と結合するため、骨補填用シートから粒子が遊離し、体内に散在することがほとんどなく、生体為害性の発現のおそれがない。」

(サ) 「【図2】

【図3】



2 摘示(ア)(特に請求項1、19)、(イ)から、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させプレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させる、基材シートの片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子の一部が露出した状態で固定されている骨補填用シートの製造方法。」

第4 対比・判断
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「生体吸収性高分子物質からなる基材シート」、「リン酸カルシウム系化合物」は、それぞれ本願発明の「第1の面および第2の面を有するポリマー層」、「カルシウム化合物」といえる。
加えて、引用発明の「骨補填用シート」は、「骨欠損部に粒子が露出した面を接触させるように巻き付けて骨を固定しながら補填」(摘示(ク))するというように巻いて使用できるものであることから、本願発明の「可撓性骨複合材」といえる。
(2) 以上から、両者は「可撓性骨複合材を製造する方法」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
本願発明は「第1の面および第2の面を有するポリマー層を形成する工程」を含むのに対し、引用発明はそのような特定を有さない点

相違点2:
本願発明は「カルシウム化合物を前記ポリマー層の第1の面上に配置することで、第1のカルシウム含有層を前記ポリマー層上に形成する工程;および前記ポリマー層の第1の面に前記カルシウム化合物を固定させる工程」を含むのに対し、引用発明は「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させプレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させる」ものである点

相違点3:
可撓性骨複合材が、本願発明は「前記カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」のに対し、引用発明は「基材シートの片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子の一部が露出した状態で固定されている」点

2 上記相違点1?3について検討する。
(1) 相違点1
引用発明の「生体吸収性高分子物質からなる基材シート」は、刊行物1の摘示(エ)の【0032】をみると、公知の方法に従って製造できるものであるから、引用発明は、生体吸収性高分子物質からなる基材シートを公知の方法で製造する工程を実質的に含んでいるといえる。
そして、引用発明の生体吸収性高分子物質からなる基材シートを公知の方法で製造する工程は、本願発明の「第1の面および第2の面を有するポリマー層を形成する工程」といえる。
よって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
(2) 相違点2
ア 引用発明の「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させプレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させる」は、摘示(カ)、(キ)、(ケ)からみて、「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させ」る工程と、「プレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させる」工程とに分けることができるといえる。
イ まず、引用発明の「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させ」る工程が、本願発明の「カルシウム化合物を前記ポリマー層の第1の面上に配置することで、第1のカルシウム含有層を前記ポリマー層上に形成する工程」に相当するか検討する。
本願発明の「配置」は、本願明細書に特段定義がないことを考慮すると、単にその場所に位置付けることを意味すると解される。
一方、引用発明の「付着」は、摘示(キ)の【0049】の「粒子の基材シートへの付着とは、粒子が生体吸収性高分子物質と化学結合することにより基材シート表面に固定された状態および粒子は基材シートに固定されないで単に表面に接触しているだけの状態の両方を意味する。」という記載からすれば、粒子は基材シートに固定されないで単に表面に接触しているだけの状態も意味するから、本願発明の「配置」に相当する。
また、引用発明の「付着」は、「前記粒子を前記基材シート片面の表面積の20?100%を占めるよう付着させる」(摘示(ア)の請求項11)のであるから、リン酸カルシウム系化合物の付着量はリン酸カルシウム系化合物含有層を形成する程度のものであるといえるから、引用発明の「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させ」る工程は、生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも「片面側」にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を配置することで、前記基材シートの「片面側」にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子含有層を形成する工程といえる。
そして、本願発明の「第1の面」は、図1、2からみて、ポリマー層の片面を意味し、当該片面上に配置されたカルシウム含有層を「第1のカルシウム含有層」と称していると解されるから、引用発明の「片面」は本願発明の「第1の面」に相当し、引用発明で形成された「リン酸カルシウム系化合物からなる粒子含有層」は、本願発明の「第1のカルシウム含有層」に相当する。
そうすると、引用発明の「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させ」る工程は、本願発明の「カルシウム化合物を前記ポリマー層の第1の面上に配置することで、第1のカルシウム含有層を前記ポリマー層上に形成する工程」に相当する。
ウ 次に、引用発明の「プレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させる」工程が、本願発明の「前記ポリマー層の第1の面に前記カルシウム化合物を固定させる工程」に相当するか検討する。
引用発明では、「プレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させる」工程により、「骨補填用シート」の「片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子の一部が露出した状態で固定されている」ことになることから、引用発明の「プレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させる」工程が、本願発明の「前記ポリマー層の第1の面に前記カルシウム化合物を固定させる工程」に相当する。
なお、本願明細書にも「ポリマー層にカルシウム化合物を固定または物理的および/または化学的に付着させる方法では、加圧を行うことができる。」(【0120】)とプレスの採用についても触れている。仮に、この加圧による固定は加熱等による固定との併用を意味するとしても(【0096】)、刊行物1には、プレスと加熱を併用して固定することも記載されている(摘示(ア)の請求項3、摘示(キ)の【0051】、【0053】、摘示(ケ)、(サ))。
エ よって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
(3) 相違点3
ア 本願発明の「前記カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」という特定事項の意味が必ずしも明らかでないことから、当該特定事項の意味を検討する。
「カルシウム化合物」について、本願明細書をみると、主に顆粒等の形状のあるものであるから(【0078】、【0079】、実施例15?22)、その「外表面」は、顆粒等の形状を有するカルシウム化合物の外表面を意味すると解される。
また、「ポリマー」について、本願発明は、「カルシウム化合物を前記ポリマー層の第1の面上に配置することで、第1のカルシウム含有層を前記ポリマー層上に形成する工程;および前記ポリマー層の第1の面に前記カルシウム化合物を固定させる工程」を含んでいることから、「第1の面および第2の面を有するポリマー層」の「ポリマー」を意味すると解される。
そして、「ほとんどがポリマーで覆われていない」について、その「ほとんど」とは、本願明細書の「カルシウム化合物の外面被覆が限定的であることで、吸収を促進することができる。」(【0069】)という効果の記載から、「前記カルシウム化合物の外表面」が「ポリマーで覆われていない」面積の割合を特定する用語であると解される。また、「前記カルシウム化合物の外表面」には、本願発明が上記工程を含んでいることから、ポリマー層の「ポリマー」で覆われていない部分と、覆われている部分の2つ部分があると解される。そうすると、「ほとんどがポリマーで覆われていない」とは、上記2つの部分において、ポリマー層の「ポリマー」で覆われていない部分が覆われている部分よりも多いこと、つまり、ポリマー層の「ポリマー」で覆われていない部分が50%を超える面積であることを意味するものと解される。
以上から、本願発明の「前記カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」とは、要するに、顆粒等の形状を有する前記カルシウム化合物の外表面の50%を超える面積が前記ポリマー層のポリマーで覆われていないことを意味するものと解される。(この解釈内容は、請求人が上記手続補正書(方式)で、「上記「外表面」とは、顆粒とポリマー層とが接触している部分と、顆粒とポリマー層とが接触していない部分とを含む、顆粒自体の表面全体を意味する。このことは本願の明細書及び図面の記載から当業者にとって明らかであるものと思料する。」、「カルシウム化合物の外表面のほとんどはポリマーで覆われていない」とは、カルシウム化合物の外表面の50%を超える面積がポリマーに覆われていないことを意味する。このことは、出願時の技術常識に基づき、「ほとんど(majority、過半数)」の意味から明らかであるものと思料する。」と述べていることと同様である。)
そこで、以下、相違点3について検討する。
イ 引用発明の「基材シートの片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子の一部が露出した状態で固定されている骨補填用シート」は、「生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させプレスすることにより」製造されるものであるから、粒子の形状を有するリン酸カルシウム系化合物の外表面のすべての面積が前記基材シートの生体吸収性高分子物質で覆われてるものではないと解される。(本願明細書の【0080】に記載された顆粒の平均直径は約0.05mm?約10mmであり、引用発明の「粒子」の平均粒径は10?1000μm(0.01?1mm)(摘示(ア)の請求項9)であるから、引用発明の「粒子」は、本願明細書でいう「顆粒」といえるものである。)
そして、このことは、引用発明において、リン酸カルシウム系化合物の粒子の一部が基材シートの片面側から露出した状態であることから、この露出した状態の割合が刊行物1でいうリン酸カルシウム系化合物の粒子の露出量(以下、単に「露出量」という。)(摘示(カ)の【0047】、(キ)の【0055】)に相当する。
そうすると、結局、相違点3は、引用発明において、露出量を50%を超えるものとすることが容易であるか否かを検討すれば良いことになる。
そこで、引用発明において、露出量を50%を超えるものとすることが容易といえるか検討する。
ウ 引用発明の目的は、「リン酸カルシウム等からなる粒子と骨との結合を積極的に図り、体内に散在しない骨補填用シートの製造方法を提供すること」(摘示(ウ))であるから、露出量をどの程度とするかは、リン酸カルシウム系化合物の粒子と骨との結合と、リン酸カルシウム系化合物の粒子の体内への散在とを比較衡量して、当業者が適宜決めるものといえる。
そして、摘示(カ)の【0047】からすれば、引用発明の方法によれば露出量を変えることは容易なのであり、また、摘示(エ)の【0030】の「基材シート4の少なくとも片面側に粒子3の一部を露出させた状態とすることができるため、かかる面を骨欠損部に被覆、密着させることによって粒子3を高密度で骨と結合させることができ、骨の補填効果が向上する。さらに、粒子3は骨と直接接触することにより結合を生じるため、体内で散在することを防止できる。」、摘示(カ)の【0046】の「リン酸カルシウム系化合物からなる粒子と基材シートを構成する生体吸収性高分子物質とを予め混合し、かかる混合物から成形されたシート状物に比べ、基材シートの表面から露出する粒子の密度や割合が多く、リン酸カルシウム系化合物と骨との接触・結合を積極的に図ることができる。このように露出したリン酸カルシウム系化合物の粒子は骨形成の核となって骨形成を促進することができる。さらに、露出する粒子は骨との結合が可能であるため、体内への散在を抑制することができる。」との記載からすれば、リン酸カルシウム化合物の粒子と骨欠損部分等とが直接接触する部分を大きくし、リン酸カルシウム化合物の粒子と骨との結合を促進することができると解されることから、リン酸カルシウム系化合物の粒子の露出量を大きくする動機付けも認められる。
そうであれば、引用発明において、露出量を50%を超えるものとすることも容易である。
(4) 本願発明の効果について検討する。
本願明細書には、「カルシウム化合物の外面被覆が限定的であることで、吸収を促進することができる。」(【0069】)と本願発明の効果が記載されている。
ここで、本願発明の「可撓性骨複合材」は、「空洞中に入れたり、骨または複数の骨の上に置いたり、巻いて空洞中に充填したり、折り畳んだり、空洞中に充填するなど」(【0129】)して使用されるものであって、カルシウム化合物と骨とを接触させずに使用する態様(図3、6)を包含していることから、当該態様と上記効果との関係は不明である。
そこで、引用発明と同様にカルシウム化合物と骨とを接触させて使用する態様で検討すると、本願発明の「前記カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」という特定事項を採用しても、顆粒等の形状を有するカルシウム化合物の外表面のポリマーで覆われていない部分のすべてが骨と接触するとは考えられないから(例えば、図1で、顆粒の外表面の上面部分と骨とを接触させても、顆粒の外表面の下面部分と骨とは接触しない。)、上記特定事項を採用したことによる効果は格別であるとは認められず、摘示(コ)の「骨補填用シートの片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を露出させることができるため、骨と粒子との結合を積極的に図ることができ、優れた骨形成能が発揮される。」という引用発明の効果から予測し得る範囲内のものといえる。
(5) 以上から、本願発明は、引用発明に基づいて、容易に発明をすることができたものである。

第5 請求人の主張
(1) 請求人は、上記手続補正書(方式)において、「引用文献1の段落0055には、「一方、平均粒径が大きすぎると、基材シートへの埋入部分に対し露出部分が過大になり、粒子の固定が十分になされないおそれがある」と記載され、露出部分が過大になると粒子の固定が十分になされない可能性があることが述べられており、本願発明の構成が否定されている。同様に、引用文献1の段落0038には、「基材シート4が薄すぎると粒子3が埋入可能な深さを十分に確保することができず、粒子の固定が確実になされない場合がある」と記載され、粒子を基材シートに埋入れることによって粒子を確実に固定することの重要性が強調されている。このような引用文献1に基づき、「カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」との本願発明の技術思想は当業者にとって想到困難であり、したがって、上述のような本願発明の顕著な効果は予測不可能である。
また、引用文献1の段落0006では、「シートに十分に固定されていない粒子は、埋植時等にシートから脱離し体内に散在する場合がある。このように体内に散在するリン酸カルシウム系化合物粒子は、部位によっては組織為害性を発現する懸念があった」旨記載され、従来技術の問題点が指摘されている。引用文献1記載の発明は、上記問題点を解決すべく、粒子を基材シートに埋入させて確実に固定するものであるから、これに反して、当業者が「カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」との本願発明の特異な構成を導出する必然性はない。」と述べている。

上記主張について検討すると、刊行物1ではリン酸カルシウムの平均粒径を10?1000μm(0.01?1mm)、生体吸収性高分子物質からなる基材シートの厚さを10?1000μm(0.01?1mm)とすることが記載されている(摘示(ア)の請求項8、9)。(本願明細書の【0080】には、カルシウム化合物が顆粒形態である場合、顆粒の平均直径は約0.05mm?約10mm、【0055】には、ポリマー層の厚さは約0.01?約1mmであることが記載されている。刊行物1記載の平均粒径、厚さは本願明細書記載の平均直径、厚さと重複している。)
具体化に際しては、大きすぎないリン酸カルシウムの平均粒径、薄すぎない生体吸収性高分子物質からなる基材シートの厚さを適宜採用するものであり、その他は上記「第4 2 (3)」で述べたとおりであるから、上記主張は採用できない。
(2) また、請求人は、上記手続補正書(方式)において、「引用文献1には、「プレスすることにより粒子を固定させる方法によれば、基材シート4の表面において、部分的に粒子の露出量や粒子密度、さらに粒子の大きさ、構成材料等を変えることが容易であり、自由度が非常に大きい」(段落0047)と記載され、露出量等を変更し得ることが開示されている。しかしながら、露出量を変更し得るとはいっても、引用文献1の図3のプレスした後の状態(図3の基材シート4の両端部と思われる)に示すように、粒子3の半分以上が基材シート4に埋め込まれて固定される範囲内での変更であり、「カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」との本願発明の構成は到底導出し得ないものと思料する。」と述べている。

上記主張について検討すると、刊行物1の摘示(3)の図3から、引用発明の製造方法で得られた「基材シートの片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子の一部が露出した状態で固定されている骨補填用シート」を読みとることができるとしても、具体的な露出量までは読みとることはできない。
また、上記「第4 1 (2)」、「第4 2 (1)」、「第4 2 (2)」で述べたように、本願発明と引用発明とは、「可撓性骨複合材を製造する方法」の点で一致し、当該方法に含まれる工程の点でも実質的に相違しないのであるから、引用発明において、本願発明の「前記カルシウム化合物の外表面のほとんどがポリマーで覆われていない」という「可撓性骨複合材」の構造等を導出し得ないとは認められない。
よって、上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-23 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-11 
出願番号 特願2011-127249(P2011-127249)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 倫子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
小久保 勝伊
発明の名称 可撓性骨複合材  
代理人 菊田 尚子  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  
代理人 小原 淳史  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  

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