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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1312742 |
審判番号 | 不服2014-26726 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-26 |
確定日 | 2016-04-15 |
事件の表示 | 特願2012-506422「リソグラフィ装置および検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月 4日国際公開、WO2010/124910、平成24年10月18日国内公表、特表2012-524989、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、2010年3月23日(優先権主張 2009年4月27日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年2月7日付けで拒絶理由が通知され、同年5月9日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、同年10月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月26日に該拒絶査定を不服として審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。 その後、当審において、平成27年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月9日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願発明は、平成28年3月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?11により特定される次のとおりのものである(以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応して「本願発明1」などという。)。 「【請求項1】 検出装置であって、 シンチレーション材料層と、前記シンチレーション材料上に設けられたスペーサ材料層と、前記スペーサ材料層上に設けられたスペクトル純度フィルタ層と、を備えるディテクタを含み、 前記スペクトル純度フィルタ層はジルコニウムであり、 前記スペーサ材料層は、シリコン、窒化シリコン、または二酸化シリコンであり、前記スペーサ材料層の厚さは20nm以上100nm以下である、 検出装置。 【請求項2】 前記スペーサ材料層の厚さは少なくとも50nmである、請求項1に記載の装置。 【請求項3】 前記スペーサ材料層は、当該材料の50nm以内でEUV放射の50%未満を吸収する、請求項1に記載の装置。 【請求項4】 前記スペーサ材料層は、当該材料の100nm以内でEUV放射の50%未満を吸収する、請求項3に記載の装置。 【請求項5】 前記スペーサ材料層は、前記シンチレーション材料層によって放出されたシンチレーション放射の波長で実質的に透過性を示す、請求項1?4のいずれか一項に記載の装置。 【請求項6】 前記シンチレーション材料層はGd_(2)O_(2)S:TbまたはYAG:Ceである、請求項1?5のいずれか一項に記載の装置。 【請求項7】 前記ディテクタは結像ディテクタである、請求項1?6のいずれか一項に記載の装置。 【請求項8】 前記結像ディテクタはCCDアレイである、請求項7に記載の装置。 【請求項9】 リソグラフィ装置であって 基板を保持する基板テーブルと、 パターン形成された放射ビームを前記基板のターゲット部分上に投影する投影システムと、を含み、 さらに請求項1?8のいずれか一項に記載の検出装置を含む、リソグラフィ装置。 【請求項10】 前記検出装置は、前記リソグラフィ装置の前記基板テーブル内に設けられる、請求項9に記載のリソグラフィ装置。 【請求項11】 検出方法であって、 EUV放射を、ジルコニウムであるスペクトル純度フィルタ層を通して、前記スペクトル純度フィルタ層の下に設けられたスペーサ材料層を通して、シンチレーション材料層上 に誘導することと、 次いでディテクタを使用して前記シンチレーション材料層によって放出されたシンチレーション放射を検出することと、を含み、 前記スペーサ材料層は、シリコン、窒化シリコン、または二酸化シリコンであり、前記スペーサ材料層の厚さは20nm以上100nm以下である、 検出方法。」 第3 原査定の拒絶理由についての当審の判断 1 原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1-3、7、9-11、14 ・引用文献 1 ・備考 上記請求項に係る発明については、引用文献1から進歩性を有さない。 ・請求項 4-5 ・引用文献 1-2 ・備考 引用文献2(特に、【0035】を参照)には、1nm厚の層を通過するEUV透過率は、Siにおいて99.83%であることが記載されている。 そうすると、引用文献1のシリコン層4において、例えば100nm厚でのEUV放射線の透過率は、80%以上であることが計算できる。 ・請求項 8、12-13 ・引用文献 1、3 ・備考 引用文献3(特に、図8、【0053】を参照)には、EUV光の計測部材を基板ステージに設けたリソグラフィ装置、及び当該計測部材の波長選択フィルムとしてジルコニウムを用いることが記載されている。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開2007-201475号公報 2.特表2007-528608号公報 3.特開2008-192987号公報」 2 本願発明1について (1)引用文献、引用文献の記載事項及び引用発明 ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 (ア)「【0001】 EUV放射線及びビームプロフィールを特徴付ける技術がEUVリソグラフィーで必要とされる。これらの技術は、EUV源の特徴づけに直接関連し、またコレクタ光学系、照射光学系、画像光学系及びマスクなどの下流ビームデリバリー装置の特徴づけにも関連する。一方で、これらの構成要素は仕様を満たすように特徴付けられなければならず、他方で、対応する測定方法が全装置内のプロセス制御のために必要とされる。これに関連して、13.5nmのEUV帯域内領域におけるこれら構成要素の挙動は特に関心が高い。」 (イ)「【0013】 特に有利な態様では、透過したEUV放射線で照射される際可視スペクトル領域の蛍光放射線を放出する少なくとも1つの蛍光材料の層が透過層装置に配置される。蛍光放射線が特徴付けるべき波長から生成されるという事実が絶対的な放射線流れの測定を保証する。」 (ウ)「【0018】 可視スペクトル領域で作動するレシーバ、例えばカメラ、特にデジタルカメラが、少なくとも1つの蛍光材料の層の配置された透過層装置の下流側に配置されるように、EUV放射線を特徴付ける受信装置は構成されてもよい。」 (エ)「【0021】 図1によれば、ウラン、この例では100nmの厚さを有するウラン層が透過におけるEUV帯域内放射線のスペクトルフィルタリングのための際立った特徴を示す。透過率は吸収端の長波側で急に上昇している。ウランは、13nm?16nmの範囲の近くにさらなる特徴的な透過率ウィンドウを示す。特徴付けるべきEUV源の放出スペクトルに依存して、これらの特徴的な透過率ウィンドウは非常に破壊的な効果を有し、十分に抑制されなければならない。層厚さの増加は、透過率が絶対的により小さい全ての領域を相対的に抑制し、より大きい透過率を有する領域を相対的に強める。加えて、層厚さの増加はより狭いスペクトル透過率ウィンドウをもたらす。当然、絶対的な透過率はかなり減少する。これらの効果は、0.5nm?120nm及び5nm?20nmの波長領域における300nmの厚さを有するウラン層の透過率を示す図2に示されている。 【0022】 特徴付けるべきEUV源の放出スペクトルに依存して、ウラン層と他の元素の透過層を組み合わせると有利である。 【0023】 特に、9nm以下、11nm?12nm、65nm?110nmの波長のために純粋なウランのために図1に示された透過率範囲と、12.5nm?20nmの所望の透過率ウィンドウの長波側は、13.365nm?13.635nmのEUV帯域内領域の狭帯域スペクトルフィルタリングのために抑制されなければならない。 【0024】 図3は、150nmの厚さを有するウラン層が400nmの厚さを有するシリコン層と150nmの厚さを有するルテニウム層と組み合わされた、特に有利な透過層装置を示す。13.5nmの波長における所望の透過率ウィンドウの他に、顕著な透過率を有する領域は示されていない。13.365nm?13.635nmの帯域内領域がハイライト領域で示される(b)。ルテニウムの他に、モリブデンなどの他の元素もさらなる層として適する。 【0025】 別な構造としては、図示していないが、透過層装置(6)は、280nm?520nmの範囲の厚さを有するシリコン層、100nm?200nmの範囲の厚さを有するウラン層、及び70nm?130nmの範囲の厚さを有するルテニウム層を有してもよい。 【0026】 透過のための層の順序は重要でないので、化学的に安定しない元素や結合をより安定した元素でコーティングすることでそれらを有害な環境の影響(例えば、酸化)から保護することができる。 【0027】 本発明によれば、広域なスペクトルバンドで放射する、試験されているビームプロフィール1においてウラン含有層がEUV感知放射線検出器2の前に配置され、狭く画定されるEUV波長領域の放射線を特徴付けるための適切な受信装置が得られる。 【0028】 図4に従う有利な構造では、ウラン含有層3、シリコン層4及びルテニウム層5の組み合わせを有するフォイル状の透過層装置6が放射線検出器2の前に配置される。 【0029】 図5によれば、放射線検出器2のアクティブ表面を直接コーティングすることも可能である。層3,4及び5は固定した基板に配置されるので、機械的安定性がかなり増加する。 【0030】 本発明の他の構造では、透過したEUV放射線7が可視放射線に変えられ、VIS範囲で感知できるレシーバ2’で検出される。 【0031】 これは、透過したEUV放射線7で照射される際可視スペクトル領域の蛍光放射線8を放出する少なくとも1つの蛍光材料の層11が透過層装置に配置されることで実現できる。 【0032】 例えば、CE:YAG結晶が蛍光材料として使用されるとき、それは層3,4及び5でコーティングされるキャリア9として働く(図6)。 【0033】 蛍光材料が自立していないとき(例えば、P43)、可視スペクトル領域のための透過性のキャリア10が図7に従い層3,4,5及び蛍光材料の層11のために使用される。 【0034】 最後に、層3,4,5及び蛍光材料がレシーバ2’に直接配置されることで、レシーバ自体をキャリアとして使用することができる(図8)。 【0035】 適切な検出器は、例えば、フォトダイオード、CCD及び蛍光スクリーンである。しかしながら、透過層装置と、EUVビームプロフィールの空間の特徴づけを可能にするCCDアレー又は蛍光スクリーンなどの空間分解検出器との組み合わせは特に有利である。」 (オ)図8 「 」 (カ)図8より、蛍光体材料層の層11と、前記蛍光体材料層上に設けられたシリコン層4と、前記シリコン層4上に設けられたウラン含有層3と、前記ウラン含有層3上に設けられたルテニウム層5が、レシーバ2’上に配置される検出器が看取できる。 上記(ア)ないし(カ)より、引用文献1には、 「蛍光体材料層の層11と、前記蛍光体材料層上に設けられたシリコン層4と、前記シリコン層4上に設けられたウラン含有層3と、前記ウラン含有層3上に設けられたルテニウム層5が、レシーバ2’上に配置される検出器。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 イ 引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。) 「【0035】 代替的に、シリコンベースの高温多層膜ミラーを式中のZが薄い障壁層を表しているMo/Z/Y/Zで被覆するのではなく、本出願人は、本発明の実施形態の態様に従って、シリコン層を使用せずに最上部層として例えばイットリウムを有するMo/Z/Y/Z多層膜MLMスタックのみを用いるリチウム適合性の高温MLMを構成することを提案する。更に、障壁層Zは削除することができる。本出願人は、そのような構成においては、高温においても層の混合は殆どないことになると考えており、従って、薄い中間層に対する少なくとも1つの必要性、すなわち、熱的不安定性をもたらすそのような混合の抑止が恐らく解消される。1nm厚の層を通過するワンパスEUV透過率は、シリコンベースの材料については、Siに対して99.83%、SiO_(2)に対して99.0%であり、イットリウムベースの材料に対しては、Yに対して99.79%、Y_(2)O_(5)に対して99.83%、YB6に対して99.57%である。」 ウ 引用文献3には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。) (ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0003】 ところで、デバイスパターンの更なる微細化の要求に対応するために、露光光として極端紫外(EUV:Extreme Ultra-Violet)光を用いるEUV露光装置が案出されている。極端紫外光は、ガラス部材を透過しないため、センサは極端紫外光を受光することが困難となる。そのため、例えばガラス部材を省略することが考えられる。ところが、ガラス部材を省略すると、遮光膜を支持する部材が無くなるので、遮光膜の形状を維持することが困難となる可能性がある。その場合、センサの計測精度が劣化する可能性がある。 【0004】 本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、計測精度の劣化を抑制できるセンサを提供することを目的とする。また、計測精度の劣化が抑制されたセンサの検出結果を用いて基板を良好に露光できる露光装置、及びその露光装置を用いるデバイスの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、計測精度の劣化を抑制できるセンサの製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0005】 上記の課題を解決するため、本発明は実施の形態に示す各図に対応付けした以下の構成を採用している。但し、各要素に付した括弧付き符号はその要素の例示に過ぎず、各要素を限定するものではない。 【0006】 本発明の第1の態様に従えば、露光装置(EX)に用いられるセンサであって、少なくとも一つの開口(16)を有する遮光膜(17)と、遮光膜(17)の開口(16)より入射した電磁波(波長1nm?1000nm)を所定信号に変換する変換部材(22)とを備え、遮光膜(17)の一方の面が変換部材(22)に密着して形成されているセンサ(7)が提供される。」 (イ)「【0039】 本実施形態においては、遮光膜17は、クロム(Cr)で形成されている。なお、遮光膜17は、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、及びタンタル(Ta)の少なくとも1つで形成されていてもよい。」 (ウ)「【0052】 <第2実施形態> 次に、第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。 【0053】 図8は、第2実施形態に係る計測部材18を示す図である。図8において、計測部材18は、シンチレータ22と、そのシンチレータ22の表面に形成された開口16を有する遮光膜17とを備えている。本実施形態においては、投影光学系PLとシンチレータ22との間に、EUV光以外の波長の光がシンチレータ22に入射することを抑制する波長選択部材27が配置される。本実施形態においては、計測部材18には、波長選択部材27として、入射面24及び遮光膜17の表面を覆うように波長選択フィルムが配置されている。波長選択フィルム27は、例えばジルコニウム(Zr)で形成可能である。本実施形態においては、一例として、厚み50nmのジルコニウムの膜が形成されている。 【0054】 光源8は、極端紫外領域のスペクトルを有する光(EUV光)のみならず、紫外領域、可視領域、及び赤外領域のスペクトルを有する光も発生する可能性がある。以下の説明において、紫外領域、可視領域、及び赤外領域等、極端紫外領域以外のスペクトルを有する光を適宜、非露光光、と称する。すなわち、光源8から射出される光は、極端紫外領域(軟X線領域)の電磁波(光)であるEUV光(露光光)と、EUV光以外の波長を有する非露光光とを含む。 【0055】 光源8から射出された非露光光は、照明系ILの各光学素子IR1?IR4、マスクM、及び投影光学系PLの各光学素子PR1?PR4を介して、投影光学系Pの像面側に配置された計測部材18に到達する可能性がある。非露光光のうち、特に可視光成分は、空間像計測システム7に対するノイズ成分として作用する可能性がある。例えば、非露光光がシンチレータ22を通過し、受光装置19に入射すると、空間像計測システム7の計測精度が劣化する可能性がある。 【0056】 本実施形態においては、露光光(EUV光)ELを通過させ、非露光光の通過を遮ることができる波長選択フィルム27が配置されているので、非露光光がシンチレータ22に入射することを抑制できる。したがって、空間像計測システム7の計測精度が劣化することを抑制できる。 【0057】 なお、本実施形態においては、露光光(EUV光)ELを通過させ、非露光光の通過を遮ることができるジルコニウムの膜を配置しているが、露光光(EUV光)ELを通過させ、非露光光の通過を遮ることができる機能を有する材料でれば、任意の材料を使用可能である。また、波長選択部材は、計測部材18の上面に接続(密着)されている必要は無く、計測部材18から離れた状態で、投影光学系PLと計測部材18との間に配置されていてもよい。」 (エ)図8 「 」 (2)対比・判断 ア 対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)引用発明1の「検出器」、「蛍光体材料の層11」、「シリコン層4」、「ウラン含有層3」及び「レシーバ2’」は、本願発明1の「検出装置」、「シンチレーション材料層」、「スペーサ材料層」、「スペクトル純度フィルタ層」及び「ディテクタ」に、それぞれ相当する。 (イ)引用発明1「シリコン層4」が「設けられ」ることは、本願発明1の「前記スペーサ材料層は、シリコン、窒化シリコン、または二酸化シリコンであ」ることに相当する。 上記(ア)及び(イ)より、本願発明1と引用発明1は、 「検出装置であって、 シンチレーション材料層と、前記シンチレーション材料上に設けられたスペーサ材料層と、前記スペーサ材料層上に設けられたスペクトル純度フィルタ層と、を備えるディテクタを含み、 前記スペーサ材料層は、シリコン、窒化シリコン、または二酸化シリコンである、検出装置。」 である点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。 <相違点1> 「スペクトル純度フィルタ層」が、本願発明1では、「ジルコニウムであ」るのに対して、引用発明1では、「ウラン含有層3」である点。 <相違点2> 「スペーサ材料層の厚さ」が、本願発明1では、「20nm以上100nm以下である」のに対して、引用発明1の「シリコン層4」の厚さは明確でない点。 イ 判断 相違点1について検討する。 引用文献3に記載の計測部材18について、引用文献3には、「波長選択フィルム27は、例えばジルコニウム(Zr)で形成可能である。」(上記「(1)」「ウ」「(ウ)」)と記載されている。そして、引用文献3に記載のセンサ(7)は、「ガラス部材を省略すると、遮光膜を支持する部材が無くなるので、遮光膜の形状を維持することが困難となる可能性がある。その場合、センサの計測精度が劣化する可能性がある」(上記「(1)」「ウ」「(ア)」)ことを課題として、「遮光膜(17)の一方の面が変換部材(22)に密着して形成されているセンサ(7)が提供される」(上記「(1)」「ウ」「(ア)」)ものである。すると、引用文献3に記載の計測部材18は、遮光膜が必須であるといえる。 してみると、引用文献1には、「ウラン含有層3」を「ジルコニウム」に置き換える動機付けはない上、引用発明1の「シリコン層4上に設けられた」「ウラン含有層3」を、引用文献3に記載の計測部材18の遮光膜17上に設けられた「ジルコニウム」に置き換えることは、容易に想到し得ることとはいえない。 また、引用文献2にも、「スペクトル純度フィルタ層」を「ジルコニウム」とすることは、記載されていない。 したがって、引用発明1において、「ウラン含有層3」を「ジルコニウム」に置き換えることは、引用発明1、引用文献2、3の記載からは、当業者が容易に想到し得ないものであるから、引用発明1において、上記相違点1にかかる構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 よって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3 本願発明2?10について 本願発明2?10は、本願発明1をさらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明1、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4 本願発明11について (1)引用文献、引用文献の記載事項及び引用発明 引用文献、引用文献の記載事項は、上記「2」で示したとおりである。 ア 引用文献1の「透過したEUV放射線で照射される際可視スペクトル領域の蛍光放射線を放出する少なくとも1つの蛍光材料の層」(上記「2」「(1)」「ア」「(イ)」)との記載と、図8(上記「2」「(1)」「ア」「(オ)」)も参酌すると、引用文献1の検出器は、EUV放射線を、ルテニウム」層5を通して、前記ルテニウム層5の下に設けられたウラン含有層3を通して、前記ウラン含有層の下に設けられたシリコン層4を通して、蛍光体材料層の層11に誘導することは、明らかである。 イ 引用文献1の「透過したEUV放射線で照射される際可視スペクトル領域の蛍光放射線を放出する少なくとも1つの蛍光材料の層」(上記「2」「(1)」「ア」「(イ)」)、「可視スペクトル領域で作動するレシーバ」(上記「2」「(1)」「ア」「(ウ)」)との記載と、図8(上記「2」「(1)」「ア」「(オ)」)も参酌すると、引用文献1の検出器は、レシーバ2’を使用して前記蛍光体材料層の層11によって放出された蛍光放射線を検出することは、明らかである。 上記「2」「(1)」「ア」、上記ア及びイより、引用文献1には、 「EUV放射線を、ルテニウム層5を通して、前記ルテニウム層5の下に設けられたウラン含有層3を通して、前記ウラン含有層の下に設けられたシリコン層4を通して、蛍光体材料層の層11に誘導することと、 次いでレシーバ2’を使用して前記蛍光体材料層の層11によって放出された蛍光放射線を検出することと、含む、検出方法。」 の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 (2)対比・判断 ア 対比 本願発明11と引用発明2とを対比する。 (ア)引用発明2の「EUV放射線」、「ウラン含有層3」、「シリコン層4」、「蛍光体材料の層11」及び「レシーバ2’」は、本願発明11の「EUV放射」、「スペクトル純度フィルタ層」、「スペーサ材料層」、「シンチレーション材料層」及び「ディテクタ」に、それぞれ相当する。 (イ)引用発明2の「シリコン層4」が「設けられ」ることは、本願発明1の「前記スペーサ材料層は、シリコン、窒化シリコン、または二酸化シリコンであ」ることに相当する。 上記(ア)及び(イ)より、本願発明11と引用発明2は、 「検出方法であって、 EUV放射を、スペクトル純度フィルタ層を通して、前記スペクトル純度フィルタ層の下に設けられたスペーサ材料層を通して、シンチレーション材料層上に誘導することと、 次いでディテクタを使用して前記シンチレーション材料層によって放出されたシンチレーション放射を検出することと、を含み、 前記スペーサ材料層は、シリコン、窒化シリコン、または二酸化シリコンである、 検出方法。」 である点で一致し、以下の相違点3、4で相違する。 <相違点3> 「スペクトル純度フィルタ層」が、本願発明11では、「ジルコニウムである」のに対して、引用発明2では、「ウラン含有層3」である点。 <相違点4> 「スペーサ材料層の厚さ」が、本願発明11では、「20nm以上100nm以下である」のに対して、引用発明2の「シリコン層4」の厚さは明確でない点。 イ 判断 相違点3について検討すると、上記「2 本願発明1について」「(2)」「イ」で示したのと同様の理由により、引用発明2において、「ウラン含有層3」をジルコニウムに置き換えることは、引用発明2、引用文献2、3の記載からは、当業者が容易に想到し得ないものであるから、引用発明2において、上記相違点3にかかる構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 よって、相違点4について検討するまでもなく、本願発明11は、引用発明2、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 5 まとめ 以上のとおり、本願発明1?11は、引用文献1?3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 第4 当審の拒絶理由についての当審の判断 1 当審の拒絶理由の概要 「理由1(サポート要件) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由2(明確性要件) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 理由1(サポート要件)について 請求項1、12において、「スペクトル純度フィルタ層はジルコニウムまたはクロム」と記載されている。また、請求項1ないし5、7ないし12においては、「スペーサ材料層」は特定されていない。 しかしながら、発明の詳細な説明の【0057】?【0056】の発光量子効率について記載されている「スペクトル純度フィルタ層」の具体的な材料は、ジルコニウムのみであり、「スペーサ材料層」の具体的な材料は、窒化シリコンのみである。そして、特開2008-192987号公報の【0039】に記載されているようにクロムは遮光膜として用いられることが一般的である。また、透過性や密着性は材料によって異なることが技術常識であって、それらが量子効率に影響を及ぼすことは明らかである。そうすると、スペクトル純度フィルタ層としてクロムを用い、シンチレータ層の表面に設けられる層としてシリコン系以外の無機材料や有機材料からなるスペーサ材料層を用いることで、高い量子効率が得られることが、出願時の技術常識であるとも認められられない。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1ないし12に係る発明の「スペクトル純度フィルタ層は」「クロムであ」ることまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、出願時の技術常識に照らしても、請求項1ないし5、7ないし12に係る発明の「スペーサ材料層」の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、請求項1ないし12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 理由2(明確性要件)について 請求項1、12において、「スペーサ材料層はEUV放射に対して実質的に透過性」との記載は、スペーサ材料層がEUV放射をどの程度透過するのか不明であるので、「スペーサ材料層」が不明確なものとなっている。 請求項1を引用する請求項も同様に不明確である。 よって、請求項1ないし12に係る発明は明確でない。」 2 当審の判断 請求項1、11において、「スペクトル純度フィルタ層はジルコニウムであ」ること、「スペーサ材料層は、シリコン、窒化シリコン、または二酸化シリコンであ」ることに補正されたので、当審の拒絶理由は解消された。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-04-05 |
出願番号 | 特願2012-506422(P2012-506422) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 赤尾 隼人、宮川 数正 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 松川 直樹 |
発明の名称 | リソグラフィ装置および検出装置 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 大貫 敏史 |