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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1312845
審判番号 不服2015-10970  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-10 
確定日 2016-03-24 
事件の表示 特願2013-214334「燃料噴射弁」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月23日出願公開、特開2015- 78603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年10月15日の出願であって、平成26年9月26日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年12月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月20日付けで拒絶査定がされ、平成27年6月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成26年12月3日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
直径が下流側へ向けて徐々に縮小されるように傾斜されているシート面と、前記シート面の下流側に設けられている弁座開口とを有している弁座、
前記シート面に当接されて前記弁座開口からの燃料の流出を阻止するとともに、前記シート面から離されて前記弁座開口からの燃料の流出を許容する弁体、及び
前記弁座の下流側端面に固定されており、前記弁座開口から流出された燃料を外部へ噴射する複数の噴孔を有している噴孔プレート
を備え、
前記噴孔プレートは、前記シート面を下流側へ延長した仮想円錐面と前記噴孔プレートの上流側端面とが交差して仮想円を形成するように配置されており、
前記噴孔は、前記弁座の最小内径である前記弁座開口よりも弁座軸心側に配置され、かつ2方向の集合噴霧を形成するように2つの噴孔群を形成しており、
前記噴孔を前記弁座軸心に直交する平面に対して垂直に投影したとき、前記噴孔の出口中心は入口中心に対して前記弁座軸心から離れた位置に配置されており、
前記入口中心から前記出口中心へ向かう噴孔軸心は、前記弁座軸心から前記入口中心へ向かう放射状の直線に対して、前記集合噴霧の中心軸の方向へ傾斜しており、
その傾斜角度を内向き角βとしたとき、各前記噴孔群の中央部に配置された前記噴孔である中央噴孔の内向き角β1は、各前記噴孔群の両端部に配置された前記噴孔である端部噴孔の内向き角β2よりも小さくなっており、
前記中央噴孔の径は、前記端部噴孔のうち少なくとも吸気ポートの天井内壁面側に配置された前記噴孔の径よりも大きくなっており、
前記端部噴孔のうち少なくとも前記吸気ポートの天井内壁面側に配置された前記噴孔から噴射される燃料噴霧が壁となって、前記中央噴孔から噴射される燃料噴霧の前記天井内壁面側への拡散を抑制することを特徴とする燃料噴射弁。」

3.引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特許第5161853号(以下、「引用文献1」という。)には、「燃料噴射弁」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は主に内燃機関の燃料供給系に使用される燃料噴射弁に関し、特に噴霧特性における微粒化の促進や噴霧形状ばらつきの抑制、および流量特性における流量精度の向上や雰囲気圧変化に対する変化量の抑制を図ることができる電磁式燃料噴射弁に関するものである。
…(後略)…」(段落【0001】)

(イ)「【0005】
図1は一般的な燃料噴射弁1の全体構成を示す断面図であり、ソレノイド装置2、磁気回路のヨーク部分であるハウジング3、磁気回路の固定鉄心部分であるコア4、コイル5、磁気回路の可動鉄心部分であるアマチュア6、弁装置7で構成されている。上記弁装置7は弁体8と弁本体9と弁座10で構成され、弁本体9はコア4の外径部に圧入後、溶接されており、アマチュア6は弁体8に圧入後、溶接されている。弁座10には噴孔プレート11が溶接部11aで弁座下流側に結合された状態で、弁本体9に挿入後、溶接部11bで結合されている。また噴孔プレート11には板厚方向に貫通する複数の噴孔12がプレス成形されている。
【0006】
図8?図11は上記特許文献1の特に図5に相当する燃料噴射弁先端部の詳細断面図であり、次に図1をも参照して燃料噴射弁の動作を説明する。エンジンの制御装置(図示せず)より燃料噴射弁1の駆動回路に動作信号が送られると、コイル5に電流が通電され、アマュア6、コア4、ハウジング3、弁本体9で構成される磁気回路に磁束が発生し、アマチュア6はコア4側へ吸引動作し、アマチュア6と一体構造である弁体8が弁座シート面10aから離れて間隙17が形成される。
【0007】
このとき燃料は弁体8端部に溶接されたボール13の面取り部13aから弁座シート面10aと弁体8との隙間を通って、複数の噴孔12からエンジン吸気管に噴射される。次にエンジンの制御装置より燃料噴射弁の駆動回路に動作の停止信号が送られると、コイル5の電流の通電が停止し、磁気回路中の磁束が減少して弁体8を閉弁方向に押している圧縮ばね14により弁体先端部13と弁座シート面10a間の隙間17は閉じられ、燃料噴射が終了する。弁体8は6aで弁本体9とのガイド部と摺動し、開弁状態ではアマチュア上面6bがコア4の下面と当接する。 」(段落【0005】ないし【0007】)

(ウ)「【0026】
実施の形態1.
図1乃至図6に実施の形態1の燃料噴射弁の各部断面図を示す。図1に示す燃料噴射弁の構成および動作は、従来技術において説明したものと同一であるので重複説明は省略する。図2は実施の形態1の燃料噴射弁先端部の詳細断面図であり、図3は図2の矢印Jから見た部分平面図であり、図4は図2のM部拡大図、図5はK-K線断面拡大図、図6はL-L線断面拡大図である。図中、図8?図19と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0027】
実施の形態1になる燃料噴射弁は、噴孔プレート11の上流側端面11cの中央部をプレス加工により前記弁体先端部13とほぼ平行となるように下流側へ窪ませた薄肉部11eを備え、噴孔プレート11を前記弁座シート面10aの下流側へ延長した仮想円錐面10bと前記薄肉部11eの外周側の噴孔プレート上流側端面11cが交差して1つの仮想円15(図3を参照)を形成するように配置している。
【0028】
また、前記噴孔の入口部12aは前記薄肉部11eより外側かつ前記弁座の最小内径である弁座開口内壁10cより内側に配置され、かつ前記噴孔の出口部12bは入口部12aに対して燃料噴射弁軸心Xの径方向外側に配置されている。(図4を参照)
これにより、弁体開弁時において、弁体先端部13と弁座シート面10a間の隙間17aから各噴孔の燃料噴射弁軸心Xの径方向内側の壁12eへ向かう燃料主流として、噴孔入口部12aの燃料噴射弁軸心Xの径方向内側12cに衝突する燃料流れ16aと噴孔入口部12aの径方向外側12dを通過して噴孔壁の燃料噴射弁軸心Xの径方向内側12eに衝突する燃料流れ16bが形成される。
【0029】
また、噴孔プレート上流側端面11cから弁体先端部13への弁座軸方向の距離で表されるキャビティ高さは、噴孔プレート中心から薄肉部最外径11dまではほぼ一定となっているのに対し、薄肉部最外径11dから弁座開口内壁10cまで増加しているため、開弁時の燃料主流16aおよび16bは、薄肉部の最外径部11dから薄肉部のキャビティ形状に沿って放射されるUターン流れ16cの下へ潜り込むことができ、燃料主流とUターン流れが正面衝突しないため、燃料主流が減速せず、また燃料の乱れも小さい構造となっている。
【0030】
これにより、噴孔入口部12aでの流れ剥離により、燃料が噴孔壁12eに強く押付けられることで形成される液膜19a(図5を参照)がさらに薄くなり、その後噴孔内の流れは噴孔の曲率に沿った流れ16dとなり、噴孔出口12bから三日月状の液膜19bとして放射され、微粒化を促進することが可能である(図6を参照)。」(段落【0026】ないし【0030】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図1ないし6及び図8ないし11の記載から、以下の事項が分かる。

(カ)上記(1)(ア)及び(ウ)並びに図1ないし6および図8ないし11の記載から、引用文献1には、弁座10、弁体8および噴孔プレート11を備える燃料噴射弁1が記載されていることが分かる。

(キ)図2において、弁座10の弁座シート面10aは、直径が下流側に向けて徐々に縮小されるように傾斜していること、及び弁座シート面10aの下流側に弁座開口内壁10cが設けられていることが看取されるから、引用文献1に記載された燃料噴射弁1において、弁座10は、直径が下流側に向けて徐々に縮小されるように傾斜している弁座シート面10aと、該弁座シート面10aの下流側に設けられた弁座開口とを有していることが分かる。

(ク)上記(1)(イ)の段落【0006】及び【0007】に、燃料噴射弁1の駆動回路に動作信号が送られると、弁体8が弁座シート面10aから離れて、その隙間17を燃料が通って、エンジン吸気管に噴射され、燃料噴射弁1の駆動回路に動作の停止信号が送られると、弁体8と弁座シート面10aとの間の隙間17が閉じられ、燃料噴射が終了する旨が記載されているから、引用文献1に記載された燃料噴射弁1において、弁体8は、弁座シート面10aに当接されて弁座開口からの燃料の流出を阻止するとともに、弁座シート面10aから離されて弁座開口からの燃料の流出を許容するものであることが分かる。

(ケ)上記(1)(イ)の段落【0005】及び【0007】に、弁座10の下流側に噴孔プレート11が結合されており、噴孔プレート11に形成された複数の噴孔12から、弁座シート面10aと弁体8との隙間を通った燃料がエンジン吸気管に噴射する旨が記載されているから、引用文献1に記載された燃料噴射弁1において、噴孔プレート11は、弁座10の下流側に結合されており、弁座シート面10aと弁体8との隙間を通った燃料をエンジン吸気管に噴射する複数の噴孔12を有することが分かる。

(コ)上記(1)(ウ)の段落【0027】並びに図2及び3の記載から、引用文献1に記載された燃料噴射弁1において、噴孔プレート11は、弁座シート面10aを下流側へ延長した下層円錐面10bと噴孔プレート上流側端面が交差して仮想円15を形成するように配置していることが分かる。

(サ)上記(1)(ウ)の段落【0028】に、噴孔の入口部12aが弁座の最小内径である弁座開口内壁10cより内側に配置され、噴孔の出口部12bが入口部12aに対して燃料噴射弁軸心Xの径方向外側に配置されている旨が記載されているほか、図3の左半分に記載された噴孔のいずれもが、出口部12bの中心は入口部12aの中心よりも左側にあり、同図の右半分に記載された噴孔のいずれもが、出口部12bの中心は入口部12aの中心よりも右側にあることにより、同図の左半分に記載された噴孔群と右半分に記載された2つの噴孔群が、それぞれ左方向及び右方向の集合噴霧を形成するものであることが看取されるから、引用文献1に記載された燃料噴射弁1において、噴孔12は、弁座10の最小内径である弁開口内壁10cよりも燃料噴射弁軸心X側に配置され、かつ2方向の集合噴霧を形成するように2つの噴孔群を形成するものであることが分かる。

(シ)上記(1)(ウ)の段落【0028】の、噴孔の出口部12bが入口部12aに対して燃料噴射弁軸心Xの径方向外側に配置されている旨並びに図2及び3の記載からみて、引用文献1に記載された燃料噴射弁1において、噴孔12を燃料噴射弁軸心Xに直交する平面に対して垂直に投影したとき、噴孔12の出口部12bの中心は入口部12aの中心に対して燃料噴射弁軸心Xから離れた位置に配置されていることが分かる。

(ス)図3に示された各噴孔群の5つの噴孔のうち中央の噴孔において、噴孔12の入口部12aの中心と出口部12bの中心とをつなぐ直線と、燃料噴射弁の中心と噴孔12の入口部12aの中心とをつなぐ直線は重なっているから、両直線のなる角度は0°であるといえる。また、図3に示された各噴孔群の5つの噴孔のうち中央を除く4つの噴孔について、噴孔12の入口部12aの中心と出口部12bの中心とをつなぐ直線と、燃料噴射弁の中心と噴孔12の入口部12aの中心とをつなぐ直線のなす角度からみて、引用文献1に記載された燃料噴射弁1において、噴孔12の入口部12aの中心から出口部12bの中心へ向かう噴孔12の軸心は、燃料噴射弁軸心Xから噴孔12の入口部12aの中心へ向かう放射状の直線に対して、集合噴霧の中心軸の方向に傾斜しており、その傾斜角度を内向き角αとしたとき、各噴孔群の5つの噴孔のうち中央及び中央に隣接する噴孔の内向き角α1は、噴孔群の両端に配置された噴孔の内向き角α2よりも小さくなっていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし6及び図8ないし11の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「直径が下流側に向けて徐々に縮小されるように傾斜している弁座シート面10aと、該弁座シート面10aの下流側に設けられた弁座開口とを有している弁座10、
弁座シート面10aに当接されて弁座開口からの燃料の流出を阻止するとともに、弁座シート面10aから離されて弁座開口からの燃料の流出を許容する弁体8、及び
弁座10の下流側に結合されており、弁座シート面10aと弁体8との隙間を通った燃料をエンジン吸気管に噴射する複数の噴孔12を有する噴孔プレート11
を備え、
噴孔プレート11は、弁座シート面10aを下流側へ延長した下層円錐面10bと噴孔プレート上流側端面が交差して仮想円15を形成するように配置されており、
噴孔12は、弁座10の最小内径である弁開口内壁10cよりも燃料噴射弁軸心X側に配置され、かつ2方向の集合噴霧を形成するように2つの噴孔群を形成しており、
噴孔12を燃料噴射弁軸心Xに直交する平面に対して垂直に投影したとき、噴孔12の出口部12bの中心は入口部12aの中心に対して燃料噴射弁軸心Xから離れた位置に配置されており、
噴孔12の入口部12aの中心から出口部12bの中心へ向かう噴孔12の軸心は、燃料噴射弁軸心Xから噴孔12の入口部12aの中心へ向かう放射状の直線に対して、集合噴霧の中心軸の方向に傾斜しており、
その傾斜角度を内向き角αとしたとき、各噴孔群の5つの噴孔のうち、中央及び中央に隣接する噴孔の内向き角α1は、噴孔群の両端に配置された噴孔の内向き角α2よりも小さくなっている燃料噴射弁1。」

4.引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特許第4138778号(以下、「引用文献2」という。)には、「燃料噴射弁」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は,主として内燃エンジンの燃料供給系に使用される燃料噴射弁に関し,特に,弁座及びその中心部を貫通する弁孔を有する弁座部材と,前記弁座と協働して前記弁孔を開閉する弁体と,前記弁孔の軸線周りに配置される複数の燃料噴孔を有して前記弁座部材の外端面に接合されるインジェクタプレートとを備え,前記弁座部材及びインジェクタプレート間に,前記弁孔及び燃料噴孔間を連通させる燃料拡散室を形成し,前記複数の燃料噴孔を,前記弁孔の軸線を含む一平面を境にして二組の燃料噴孔群に分け,これら二組の燃料噴孔群からの噴射燃料により,エンジンの二股型の吸気ポートに供給する二本の噴霧フォームを形成するようにした燃料噴射弁の改良に関する。
…(後略)…」(段落【0001】)

(イ)「【0017】
先ず,図1において,内燃機関EのシリンダヘッドEhは,1シリンダEcに対応して,隔壁43を挟んで二股状に分岐した第1及び第2吸気ポートP1,P2を備えており,その第1及び第2吸気ポートP1,P2に連通する共通の吸気路を持つ吸気マニホールドEmがシリンダヘッドEhの一側面に接合される。本発明の電磁式燃料噴射弁Iは,この吸気マニホールドEmに装着されて,開弁時には,噴射燃料により形成される二本の噴霧フォームF1,F2が上記第1及び第2吸気ポートP1,P2に向けて供給されるようになっている。こゝで,第1及び第2吸気ポートP1,P2の配列方向をX,その配列方向と直交する方向をYとする。
…(中略)…
【0022】
図3及び図4に示すように,弁座部材3の前端面には鋼板製のインジェクタプレート10が液密に全周溶接される。弁座部材3の,インジェクタプレート10との対向面には,弁孔7の軸線Aを中心とする円形で浅い凹部40が形成されており,これが弁座部材3及びインジェクタプレート10間の燃料拡散室41を構成する。またこのインジェクタプレ
ート10には,弁孔7の軸線Aを中心とし且つ弁孔7より大径の単一の仮想円C上に全て配置されて燃料拡散室41に開口する多数の燃料噴孔38a,38b;38a,38bが穿設される。
【0023】
上記燃料噴孔38a,38b;38a,38bは,弁孔7の軸線Aを通ってY方向に延びる平面L(図4参照)を境にして,第1組G1の燃料噴孔38a,38b群と第2組G2の燃料噴孔38a,38b群とに対称的に分けられる。その際,第1及び第2組G1,G2間には,各組G1,G2における燃料噴孔38a,38b相互間距離より大きい間隔が設けられる。
【0024】
また各組G1,G2の燃料噴孔38a,38b群は,各組G1,G2の中央部で前記単一の仮想円C上に並ぶ複数の燃料噴孔38aからなる第1群Gaと,この第1群Gaの両側で前記単一の仮想円C上に並ぶ複数の燃料噴孔38bからなる第2群Gbとで構成される。その際,第1及び第2組G1,G2の外側の燃料噴孔38b,38b同士間の間隔は,各組G1,G2における燃料噴孔38a,38b間の間隔より充分に広く設定される。また全ての燃料噴孔38a,38bは前記軸線Aと平行に形成される。さらに第2群Gbの燃料噴孔38bの本数は,第1群Gaの燃料噴孔38aの本数より多く設定される。図示例では,第1群Gaの燃料噴孔38aが3本,第2群Gbの燃料噴孔38bが4本となっている。」(段落【0017】ないし【0024】)

(ウ)「【0036】
コイル30を通電により励磁すると,それにより生ずる磁束が固定コア5,コイルハウジング31,弁ハウジング2及び可動コア12を順次走り,その磁力により可動コア12が弁体16と共に固定コア5に吸引され,弁座8が開放されるので,弁ハウジング2内の高圧燃料が弁体16の面取り部17を経て,弁孔7から燃料拡散室41に移り,該室41で高圧燃料は周囲に拡散しながら第1及び第2組G1,G2の燃料噴孔38a,38b;38a,38b群に分配され,そして図1及び図6に示すように,第1組G1の燃料噴孔38a,38b群からはエンジンEの第1吸気ポートP1の出口に向けて,また第2組G2の燃料噴孔38a,38b群からはエンジンEの第2吸気ポートP2の出口に向けてそれぞれ燃料が微粒化されながら噴射され,その噴射燃料によって噴霧フォームF1,F2が形成される。
【0037】
図6において(A)は,二本の噴霧フォームF1,F2をX方向に見たときの状態を示し,(B)は,噴霧フォームF1,F2をY方向に見たときの状態を示すもので,両噴霧フォームF1,F2間の挟み角度をα,各噴霧フォームF1,F2の前記平面Lに沿う開き角度をβとして,各噴霧フォームF1,F2の形成過程を図4及び図5を参照しながら説明する。
【0038】
弁孔7を出た燃料は,燃料拡散室41で半径方向に拡散する。そして両組G1,G2の相対向する第1群Gaの燃料噴孔38aから噴射される燃料は,それぞれ上記拡散方向の流れ成分aの影響を受けて噴霧フォーム主流Faを形成し,各組G1,G2の,第1群Gaの燃料噴孔38aの両側に位置する第2群Gbの燃料噴孔38bから噴射される燃料は,上記拡散方向の流れ成分aと,第1及び第2組G1,G2間の燃料拡散室41の内面に沿う流れ成分bとの影響を受けて噴霧フォーム側流Fbを形成し,これら噴霧フォーム主流Faと噴霧フォーム側流Fbとで,対応する吸気ポートP1,P2に供給される噴霧フォームF1,F2が構成される。
【0039】
而して,各噴霧フォーム主流Faは,上記拡散方向の流れ成分aの影響を受けること,
及び第1群Gaの燃料噴孔38aは,その内径D1が比較的大きく,したがってT/D1(Tは図3に示すように燃料噴孔38aの長さであり,この実施例ではインジェクタプレート10の板厚に相当する。)の値が比較的小さく燃料の流れに対する軸方向の誘導作用が比較的弱いことから,両方の組G1,G2に対応する噴霧フォーム主流Fa,Faは互いに比較的大きく離反する方向に向かう。
【0040】
一方,各噴霧フォーム側流Fbは,上記拡散方向の流れ成分aと,第1及び第2組G1,G2間の燃料拡散室41の内面に沿う流れ成分bとの影響を受けること,及び第2群Gbの燃料噴孔38bは,その内径D2は比較的小さく,したがってT/D2(Tは図3に示すように燃料噴孔38bの長さであり,この実施例ではインジェクタプレート10の板厚に相当する。)の値が比較的大きく燃料の流れに対する軸方向の誘導作用が比較的強いことから,各噴霧フォーム側流Fbは指向性が強く,これをX及びYの何れの方向から見た場合にも,各噴霧フォーム側流Fbの前記軸線Aに対する傾きは噴霧フォーム主流Faのそれより小さくなる。その結果,両方の組G1,G2に対応する両噴霧フォーム側流Fb,Fbによって,二本の噴霧フォームF1,F2間の挟み角度α及び各噴霧フォームF1,F2の開き角度βは小さく制御されることになる。こうして,各噴霧フォームF1,F2の輪郭は明確になり,その結果,両噴霧フォームF1,F2の相互干渉を防いで,各噴霧フォームF1,F2のペネトレーション性を高めることができるので,噴射燃料の第1及び第2吸気ポートP1,P2内壁への付着を効果的に防ぎ,エンジン出力の向上,燃費の低減及び排気エミッションの低減を図ることができる。
【0041】
しかも各組G1,G2において,第1及び第2群Ga,Gbの燃料噴孔38a,38b;38a,38bは,全て,前記軸線Aを中心とする単一の仮想円C上に配置されるので,上記噴霧フォーム主流Fa及びその両側の噴霧フォーム側流Fbからなる噴霧フォームF1,F2を,各吸気ポートP1,P2の内周壁に対応した良好な形状にすることができ,噴射燃料の第1及び第2吸気ポートP1,P2内壁への付着をより効果的に防ぐことができる。」(段落【0036】ないし【0041】)

(2)引用文献2記載技術
上記(1)及び図1ないし6の記載から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されているといえる。
「エンジンの二股型の吸気ポートに供給する二本の噴霧フォームを形成する燃料噴射弁において、インジェクタプレート10に穿設された第1組G1及び第2組G2の各組の中央部に配置された複数の燃料噴孔38aの内径D1を、各組の両端部に配置された複数の燃料噴孔38bの内径D2よりも大きく設定することにより、両方の組G1,G2に対応する両噴霧フォームF1,F2の輪郭を明確にし、各噴霧フォームF1,F2のペネトレーション性を高めることにより、噴射燃料の第1及び第2吸気ポートP1,P2内壁への付着を効果的に防ぐ技術。」

5.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「弁座シート面10a」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「シート面」に相当し、以下同様に、「弁座開口」は「弁座開口」に、「弁座10」は「弁座」に、「弁体8」は「弁体」に、「弁座10の下流側に結合」は「弁座下流側端面に固定」に、「弁座シート面10aと弁体8との隙間を通った」は「弁座開口から流出された」に、「エンジン吸気管」は「外部」に、「噴孔12」は「噴孔」に、「噴孔プレート11」は「噴孔プレート」に、「弁座シート面10aを下流側へ延長した下層円錐面10b」は「シート面を下流側へ延長した下層円錐面」に、「噴孔プレート上流側端面」は「噴孔プレートの上流側端面」に、「仮想円15」は「仮想円」に、「集合噴霧」は「集合噴霧」に、「噴孔群」は「噴孔群」に、「噴孔12の出口部12bの中心」は「出口中心」に、「(噴孔12の)入口部12aの中心」は「入口中心」に、「噴孔12の軸心」は「噴孔軸心」に、「燃料噴射弁1」は「燃料噴射弁」に、それぞれ相当する。
また、引用発明において、「燃料噴射弁軸心X」は「弁座10」の軸心であると認められるから、引用発明における「燃料噴射弁軸心X」は本願発明における「弁座軸心」に相当し、以下同様に、「弁座10の最小内径である弁開口内壁10cよりも燃料噴射弁軸心X側に配置され」ることは「弁座の最小内径である前記弁座開口よりも弁座軸心側に配置され」ることに、「燃料噴射弁軸心Xに直交する平面」は「弁座軸心に直交する平面」に、「燃料噴射弁軸心Xから離れた位置」は「弁座軸心から離れた位置」に、「燃料噴射弁軸心Xから噴孔12の入口部12aの中心へ向かう放射状の直線」は「弁座軸心から入口中心へ向かう放射状の直線」に、それぞれ相当する。
さらに、引用発明における「内向き角α」は、その構成からみて、本願発明における「内向き角β」に相当する。
そして、引用発明における「各噴孔群の5つの噴孔のうち中央及び中央に隣接する噴孔の内向き角α1」は、その構成からみて本願発明における「各噴孔群の中央部に配置された噴孔である中央噴孔の内向き角β1」に相当し、同様に、「噴孔群の両端に配置された噴孔の内向き角α2」は、「各噴孔群の両端部に配置された噴孔である端部噴孔の内向き角β2」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「 直径が下流側へ向けて徐々に縮小されるように傾斜されているシート面と、シート面の下流側に設けられている弁座開口とを有している弁座、
シート面に当接されて弁座開口からの燃料の流出を阻止するとともに、シート面から離されて弁座開口からの燃料の流出を許容する弁体、及び
弁座の下流側端面に固定されており、弁座開口から流出された燃料を外部へ噴射する複数の噴孔を有している噴孔プレート
を備え、
噴孔プレートは、シート面を下流側へ延長した仮想円錐面と噴孔プレートの上流側端面とが交差して仮想円を形成するように配置されており、
噴孔は、弁座の最小内径である弁座開口よりも弁座軸心側に配置され、かつ2方向の集合噴霧を形成するように2つの噴孔群を形成しており、
噴孔を弁座軸心に直交する平面に対して垂直に投影したとき、噴孔の出口中心は入口中心に対して弁座軸心から離れた位置に配置されており、
入口中心から出口中心へ向かう噴孔軸心は、弁座軸心から入口中心へ向かう放射状の直線に対して、集合噴霧の中心軸の方向へ傾斜しており、
その傾斜角度を内向き角βとしたとき、各噴孔群の中央部に配置された噴孔である中央噴孔の内向き角β1は、各噴孔群の両端部に配置された噴孔である端部噴孔の内向き角β2よりも小さくなっている燃料噴射弁。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明においては、「中央噴孔の径は、端部噴孔のうち少なくとも吸気ポートの天井内壁面側に配置された噴孔の径よりも大きくなっており、端部噴孔のうち少なくとも吸気ポートの天井内壁面側に配置された噴孔から噴射される燃料噴霧が壁となって、中央噴孔から噴射される燃料噴霧の天井内壁面側への拡散を抑制するのに対し、引用発明においては、各噴孔群の5つの噴孔のうち中央及び中央に隣接する噴孔の径と、噴孔群の両端に配置された噴孔の径との大小関係が不明である点(以下、「相違点」という。)。

6.判断
上記相違点について検討する。
吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁の技術分野において、燃料噴霧の微粒化とともに、吸気ポートへの燃料付着を抑制するためにペネトレーション性を高めることは、一般的な技術課題であるといえる。
そして、引用発明と引用文献2記載技術は、いずれもエンジンの吸気ポートにおいて二本の噴霧フォームを形成する燃料噴射弁に係るものである。また、引用文献2記載技術において、各組の燃料噴孔群の両端のうちの一端は、吸気ポートの天井側に配置されたものであるといえる。
以上を考え合わせると、引用発明において、引用文献2記載技術を適用することによって、各噴孔群の5つの噴孔のうち中央及び中央に隣接する噴孔の径を、噴孔群の両端に配置された噴孔の径よりも大きく設定することにより、吸気ポートの中央及び中央に隣接する噴孔の径を、天井内壁側に配置された噴孔の径よりも大きく設定することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎない。そして、それによって、噴孔群の両端に配置された噴孔のうち少なくとも吸気ポートの天井内壁側に配置された噴孔から噴射される燃料噴霧が壁となって、中央及び中央に隣接する噴孔から噴射される燃料噴霧の天井内壁面側への拡散を少なからず抑制することは、引用文献2の段落【0040】(上記4.(1)(ウ)参照)の、「各噴霧フォーム側流Fbは指向性が強く、…(中略)…各噴霧フォームF1,F2の輪郭は明確になり、その結果…(中略)…各噴霧フォームF1,F2のペネトレーション性を高めることができるので、噴射燃料の第1及び第2吸気ポートP1,P2内壁への付着を効果的に防」ぐ旨の記載からみて明らかである。
したがって、引用発明において、引用文献2記載技術を適用することによって、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2記載技術から予測できる作用効果以上の格別な作用効果を奏するものではない。

7.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

8.むすび
上記6.のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-25 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-08 
出願番号 特願2013-214334(P2013-214334)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤間 充  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 梶本 直樹
中村 達之
発明の名称 燃料噴射弁  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 梶並 順  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  
代理人 上田 俊一  
代理人 飯野 智史  

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