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審決分類 審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1312992
審判番号 不服2015-9462  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-21 
確定日 2016-04-19 
事件の表示 特願2012-193046「絶縁電線及びそれを用いたコイル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月17日出願公開、特開2014- 49377、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月3日の出願であって、平成26年12月3日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月2日付けで手続補正がなされたが、平成27年2月17日付けで拒絶査定がなされたものである。これに対し、平成27年5月21日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされた。

第2 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明は、平成27年2月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「導体と、前記導体の外周に設けられたポリイミドからなる絶縁層とを備えた絶縁電線であって、
前記絶縁層は、下記式(1)で示される繰り返し単位と、下記式(2)で示される繰り返し単位とを有するポリイミドで構成され、
前記式(1)で示される繰り返し単位中の第1の酸成分と、前記式(2)で示される繰り返し単位中の第2の酸成分とは、モル比(第1の酸成分:第2の酸成分)で表した場合、85:15?40:60のモル比の範囲で配合されており、
前記式(1)及び前記式(2)におけるジアミン成分の残基であるRは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基と、下記式(6)、(8)に示されるジアミンの群から選ばれるジアミンの残基とからなり、前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基と、前記式(6)、(8)に示されるジアミンの残基とは、モル比(4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基:前記式(6)、(8)に示されるジアミンの残基)で表した場合、99:1?25:75(ただし、前者がジアミンの全量に対して56モル%以下の場合を除く)のモル比の範囲で構成され、かつ、
前記ポリイミドの325℃の貯蔵弾性率は、50MPa以上である絶縁電線。
【化1】

【化2】

【化3】



第3 原査定の理由の概要
『1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。

(1)特願2014-504713号(国際公開第2013/136807号)

(請求項1乃至3について)
特願2012-057315号(出願日:平成24年3月14日)を基礎とする優先権が主張されている上記国際出願1(特に、特許請求の範囲の欄、発明が解決しようとする課題の欄にある記載を参照)の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明は、
導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆材と、を具備する絶縁電線であって、
導体を被覆する絶縁被覆材として用いるポリイミド樹脂のポリイミド前駆体は、ジアミンと酸二無水物を重縮合することによって得られたものであり、
前記ジアミンは、少なくとも、当該ジアミンの全量に対して19モル%以上56モル%以下であるジアミン成分A(例:4,4’-ジアミノフェニルエーテル)、及び当該ジアミンの全量の対して44モル%以上81モル%以下であるジアミン成分B(例:BAPB、BAPP、BAPS)を構成部分とし、
前記酸二無水物は、少なくとも、当該酸二無水物の全量に対して60モル%以上100モル%以下である酸二無水物成分C(ピロメリット酸無水物)、及び当該酸二無水物の全量に対して0モル%以上40モル%以下である酸二無水物成分D(例:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物)を構成成分とすることを特徴とする絶縁電線、
である。
(なお、ポリイミド樹脂を用いた絶縁電線の利用用途としてコイルがあることは技術常識である。)

そうすると、本願の請求項1乃至3に係る発明と、上記国際出願1の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明とは、構造が同様であることからその特性(ポリイミドの325℃の貯蔵弾性率が50MPa以上)も同様であると認められることから、両者は実質的に同一である。

・・・(省略)・・・』

第4 当審の判断
1.引用発明
本願の拒絶の理由に引用された特願2014-504713号(国際公開第2013/136807号)の優先権主張の基礎とされた特願2012-57315号(出願日:平成24年3月14日)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という)には、次の技術事項が記載されている。
なお、先願明細書等に記載された技術事項は、後の出願であるPCT/JP2013/001743(国際公開第2013/136807号)の明細書、特許請求の範囲又は図面に全て記載されている。

「【請求項1】
ポリイミド前駆体、及び溶媒を含む組成物からなるポリイミド前駆体ワニスであって、
前記組成物を塗布して得られた塗膜をイミド化することにより得られるポリイミド膜は、
前記組成物を塗膜し、昇温5℃/min、300℃で1時間、窒素雰囲気下で加熱処理して得られた乾燥後の塗膜厚みが20?60μmとなるポリイミドフィルムのガラス転移温度が285℃以上、吸水率が2.0%以下、及び引張破断伸度が55%以上であるポリイミド前駆体ワニス。
【請求項2】
前記ポリイミド前駆体は、
ジアミンと、酸二無水物を重縮合することによって得られたものであり、
前記ジアミンは、少なくとも
化学式(1)で示されるジアミン成分A、及び化学式(2)で示されるジアミン成分Bを構成成分とし、
前記酸二無水物は、少なくとも
当該酸二無水物の全量に対して60モル%以上、100モル%以下である化学式(3)で示される酸二無水物成分C、及び
当該酸二無水物の全量に対して0モル%以上、40モル%以下である化学式(4)で示される酸二無水物成分Dを構成成分とすることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体ワニス。
【化12】

【化13】

(式中、Xは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基またはヘキサフルオロイソプロピリデン基の2価の基を示す)
【化14】

【化15】

(式中、Yは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基またはヘキサフルオロイソプロピリデン基の2価の基を示す)
【請求項3】
前記ジアミンの全量に対して19?56モル%が前記ジアミン成分Aであり、
前記ジアミンの全量に対して44?81モル%が前記ジアミン成分Bであることを特徴とする請求項2に記載のポリイミド前駆体ワニス。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体は、
前記ジアミンと前記酸無水物の合計に対し、前記ジアミン成分Aと前記ジアミン成分Bの合計が47.5?52.5mol%、前記酸二無水物成分Cと前記酸二無水物成分Dの合計が47.5?52.5mol%を満たす範囲で共重合されたものであることを特徴とする請求項2又は3に記載のポリイミド前駆体ワニス。
【請求項5】
前記ジアミン成分Bが、化学式(5)で記載される4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルであることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体ワニス。
【化16】

【請求項6】
前記ジアミン成分Aが、化学式(6)で記載される4,4'-ジアミノジフェニルエーテルであることを特徴とする請求項2?5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体ワニス。
【化17】

【請求項7】
前記酸二無水物成分Dが、化学式(7)で記載される3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする請求項2?6のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体ワニス。
【化18】

【請求項8】
請求項1?7のポリイミド前駆体ワニスから得られた塗膜をイミド化することにより形成したポリイミド樹脂。
【請求項9】
導体表面を被覆する絶縁被覆材として用いることを特徴とする請求項8に記載のポリイミド樹脂。
【請求項10】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁被覆材と、を具備する電子部品であって、
前記絶縁被覆材の少なくとも一部が、請求項8又は9に記載のポリイミド樹脂からなる電子部品。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の絶縁被覆材を形成するのに好適なポリイミド前駆体ワニス、ポリイミド樹脂に関する。また、前記ポリイミド樹脂を具備する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電線配線やケーブル等は、金属導体表面を絶縁被覆材によってコーティングし、導体部を保護している。絶縁被覆材は、用途に応じて様々な製品が開発されているが、電線やモーター巻線などの絶縁被覆材用途としては、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチックが使われている。なかでも、耐熱性、電気絶縁性、機械強度などの観点から極めて優れた特性を示すポリイミドは、特に使用環境が厳しいモーター巻線などに利用されている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エレクトロニクス産業の目覚ましい発展は、各種電子部品・電子部品に用いる素材の開発によって支えられてきた。絶縁素材においても、前述したとおり、精力的な研究開発により優れた素材が提案されてきた。しかしながら、市場ではさらに高性能な素材として、優れた絶縁特性、及び機械的強度に加え、耐熱性と低吸水率化の両者を満足できる素材が求められていた。耐熱性と低吸水率化の両者を実現できれば、高温環境下における耐久性を高め、さらに、例えば、絶縁電線の絶縁被覆材として利用した場合に低伝送損失化を実現することが期待できる。
【0009】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた絶縁特性および機械強度を有し、耐熱性と低吸水率化を両立する素材を提供可能なポリイミド前駆体ワニス、ポリイミド樹脂、及び電子部品を提供することである。」

「【0016】
本発明に係るポリイミド前駆体ワニスは、ポリイミド前駆体、及び溶媒を含む組成物からなるものである。そして、この組成物は、塗布して得られた塗膜をイミド化することにより得られるポリイミド膜が以下の物性を満足するものである。即ち、組成物を塗膜し、昇温5℃/min、300℃で1時間、窒素雰囲気下で加熱処理することにより得た、乾燥後の塗膜厚みが20μm以上、60μm以下の範囲となるポリイミドフィルム(以下、単に「ポリイミドフィルム」と云う)が、(i)ガラス転移温度が285℃以上、(ii)吸水率が2.0%以下、及び(iii)引張破断伸度が55%以上を満たすものである。乾燥後の塗膜厚みが20?60μmとなるようにするためには、例えば、ポリイミド前駆体ワニスの塗膜を300?400μmに塗膜すればよい。ガラス転移温度は、290℃以上であることがより好ましい。また、吸水率は、1.9%以下とすることがより好ましく、1.8%以下とすることがさらに好ましい。また、引張破断伸度は、70%以上であることがより好ましい。また、絶縁材として部分放電電圧耐性を向上させる観点から、ポリイミド樹脂の測定周波数1Hzでの誘電率は、3.6以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3.4以下であることがさらに好ましい。なお、本発明に係るポリイミド樹脂は、上記ポリイミドフィルムを作製した際に上記範囲を満たすものであればよく、乾燥後の塗膜厚みが20?60μmの範囲のものに限定されるものではなく、種々の膜厚に対して好適に適用できるものである。」

「【0018】
また、本明細書においてガラス転移温度は、以下の方法により測定した値をいう。即ち、上記ポリイミドフィルムの固体粘弾性の温度分散測定を、TA instruments社製のRSA-IIを用いて引張モードで測定周波数1Hzの条件で行い、貯蔵弾性率E'と損失弾性率E"を測定する。そして、得られた損失正接tanδ=E"/E'のピーク値から「ガラス転移温度」を導出した値とする。」

「【0029】
ジアミンは、ジアミン成分Aをジアミン全量に対して19?56モル%とし、ジアミン成分Bをジアミン全量に対して44?81モル%とすることが好ましい。この範囲とすることにより、より効果的に低吸水性と高Tgを両立させることができる。より好ましくは、ジアミン成分Aをジアミン全量に対して19?51モル%、ジアミン成分Bをジアミン全量に対して49?76モル%である。」

「【0045】
図1Aに、本発明に係る絶縁電線の一例を示す模式的断面図を示す。絶縁電線1は、導体10、絶縁被覆材によって形成された絶縁被覆層20を有する。導体10は、特に限定されないが、例えば、無酸素銅、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、又はそれらの組み合わせ等の金属等の導電材料からなる。絶縁被覆層20は、導体10の表面を被覆しており、ポリイミド前駆体ワニスを用いて形成されるポリイミド樹脂からなる。図1Aの例においては、絶縁被覆層20が1層のポリイミド樹脂から形成される例を示しているが、図1Bに示すように第1絶縁被覆層21、第2絶縁被覆層22等の2層の積層構造からなる絶縁被覆層20であってもよいし、3層以上の積層構造であってもよい。この場合には、本発明に係るポリイミド前駆体ワニスを用いて形成されるポリイミド樹脂からなる層を複数層積層したものでもよいし、他の絶縁層との積層体であってもよい。他の絶縁層は、特に限定されないが、例えば、導体との密着性を向上させる材料や、柔軟性の高い材料等など、ニーズに応じて適宜設計することができる。」

以上の記載から、先願明細書等には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「導体と、
前記導体を被覆する絶縁被覆材とを具備し、
前記絶縁被覆材が、ポリイミド前駆体ワニスから得られた塗膜をイミド化することにより形成したポリイミド樹脂からなる絶縁電線であって、
前記ポリイミド前駆体ワニスは、
ポリイミド前駆体、及び溶媒を含む組成物からなるポリイミド前駆体ワニスであって、
前記組成物を塗布して得られた塗膜をイミド化することにより得られるポリイミド膜は、
前記組成物を塗膜し、昇温5℃/min、300℃で1時間、窒素雰囲気下で加熱処理して得られた乾燥後の塗膜厚みが20?60μmとなるポリイミドフィルムのガラス転移温度が285℃以上、吸水率が2.0%以下、及び引張破断伸度が55%以上であり、
前記ポリイミド前駆体は、
ジアミンと、酸二無水物を重縮合することによって得られたものであり、
前記酸二無水物は、少なくとも
当該酸二無水物の全量に対して60モル%以上、100モル%以下である化学式(3)で示される酸二無水物成分C、及び
当該酸二無水物の全量に対して0モル%以上、40モル%以下である化学式(7)で示される酸二無水物成分Dを構成成分とし、
【化14】

【化18】

前記ジアミンは、少なくとも
4,4'-ジアミノジフェニルエーテルであるジアミン成分A、及び化学式(2)で示されるジアミン成分Bを構成成分とした、
【化13】

(式中、Xは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基またはヘキサフルオロイソプロピリデン基の2価の基を示す)

ことを特徴とする絶縁電線。」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると次のことがいえる。

・引用発明における「化学式(3)で示される酸二無水物成分C」、「化学式(7)で示される酸二無水物成分D」、「4,4'-ジアミノジフェニルエーテルであるジアミン成分A」、「化学式(2)で示されるジアミン成分B」を重縮合することによって得られたポリイミド前駆体、及び溶媒を含む組成物からなるポリイミド前駆体ワニスから得られた塗膜をイミド化することにより形成したポリイミド樹脂は、化学式(2)において、Xは単結合、スルホン基の2価の基であるから、本願発明の「式(1)で示される繰り返し単位中の第1の酸成分」、「式(2)で示される繰り返し単位中の第2の酸成分」、「4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基」、「式(6)、(8)に示されるジアミンの群から選ばれるジアミンの残基」を有するポリイミドからなる絶縁層に相当する。

・引用発明の「酸二無水物成分C」、「酸二無水物成分D」は、それぞれ、「酸二無水物の全量に対して60モル%以上、100モル%以下」、「酸二無水物の全量に対して0モル%以上、40モル%以下」であるから、本願発明の「第1の酸成分:第2の酸成分が85:15?40:60のモル比の範囲」と重なる範囲を含んでおり、この範囲で両者は一致している。

・引用発明では、「4,4'-ジアミノジフェニルエーテルであるジアミン成分A」と、「化学式(2)で示されるジアミン成分B」とのモル比については特定されていない。
また、明細書の【0029】には、「ジアミンは、ジアミン成分Aをジアミン全量に対して19?56モル%とし、ジアミン成分Bをジアミン全量に対して44?81モル%とすることが好ましい。この範囲とすることにより、より効果的に低吸水性と高Tgを両立させることができる。」と記載されているが、この記載は、ジアミン成分のモル%をこれらの範囲のみに限定しているのではなく、ジアミン成分のモル%のより好ましい範囲について言及しているにすぎないと理解できる。
よって、引用発明は、ジアミン成分Aをジアミンの全量に対して56モル%以下の場合に限定したものとはいえず、56モル%以上の場合も含むと考えられ、この範囲は、本願発明の「4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基と、前記式(6)、(8)に示されるジアミンの残基とは、モル比(4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基:前記式(6)、(8)に示されるジアミンの残基)で表した場合、99:1?25:75(ただし、前者がジアミンの全量に対して56モル%以下の場合を除く)のモル比の範囲」と重なる範囲を含んでおり、この範囲で両者は一致しているといえる。

・引用発明では、ポリイミドの325℃の貯蔵弾性率については特定されておらず、また、先願明細書等にもそれを示唆する記載はない。
先願明細書等の【0016】、【0018】には、ガラス転移温度を285℃以上とし290℃以上であることがより好ましいこと、ガラス転移温度の測定方法として、ポリイミドフィルムの固体粘弾性の温度分散測定を、TA instruments社製のRSA-IIを用いて引張モードで測定周波数1Hzの条件で行い、貯蔵弾性率E'と損失弾性率E"を測定し、得られた損失正接tanδ=E"/E'のピーク値から導出した値とすることは記載されているが、これらのことから、引用発明のポリイミドの325℃の貯蔵弾性率が50MPa以上であることを直ちに導くことはできない。

したがって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
導体と、前記導体の外周に設けられたポリイミドからなる絶縁層とを備えた絶縁電線であって、
前記絶縁層は、下記式(1)で示される繰り返し単位と、下記式(2)で示される繰り返し単位とを有するポリイミドで構成され、
前記式(1)で示される繰り返し単位中の第1の酸成分と、前記式(2)で示される繰り返し単位中の第2の酸成分とは、モル比(第1の酸成分:第2の酸成分)で表した場合、85:15?40:60のモル比の範囲で配合されており、
前記式(1)及び前記式(2)におけるジアミン成分の残基であるRは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基と、下記式(6)、(8)に示されるジアミンの群から選ばれるジアミンの残基とからなり、前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基と、前記式(6)、(8)に示されるジアミンの残基とは、モル比(4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの残基:前記式(6)、(8)に示されるジアミンの残基)で表した場合、99:1?25:75(ただし、前者がジアミンの全量に対して56モル%以下の場合を除く)のモル比の範囲で構成される絶縁電線。
【化1】

【化2】

【化3】



(相違点)
本願発明では、「前記ポリイミドの325℃の貯蔵弾性率は、50MPa以上である」のに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

3.判断
本願発明と引用発明とは上記相違点があり、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえないから、両者が実質的に同一であるとはいえない。
また、本願の請求項2に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用発明と同一であるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1、2に係る発明は、引用発明と同一ではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-04 
出願番号 特願2012-193046(P2012-193046)
審決分類 P 1 8・ 161- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 千葉 輝久
稲葉 和生
発明の名称 絶縁電線及びそれを用いたコイル  
代理人 遠藤 和光  
代理人 中村 恵子  
代理人 平田 忠雄  
代理人 伊藤 浩行  
代理人 角田 賢二  
代理人 岩永 勇二  
代理人 野見山 孝  

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