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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1312999
審判番号 不服2014-16359  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-19 
確定日 2016-03-31 
事件の表示 特願2009- 4841「放熱構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月 5日出願公開、特開2010-171030〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯・本願発明
本願は、平成21年1月13日(優先権主張 平成20年12月22日、日本国)の出願であって、平成24年11月15日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月15日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成25年8月6日付けで拒絶理由が通知され、平成25年10月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年5月15日付け(発送日:平成26年5月20日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、その後、平成27年3月17日付けで拒絶理由が通知され、平成27年5月14日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成27年9月7日付けで拒絶理由が通知され(以下「当審拒絶理由」という。)、平成27年11月2日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

そして、その請求項1ないし4に係る発明は、平成27年11月2日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
発熱体と、前記発熱体を固定する基板と、熱拡散フィルムと、前記熱拡散フィルムを前記発熱体に対向させて支持する支持体と、前記発熱体、前記熱拡散フィルムおよび前記基板に接する熱伝導性材料層とを備え、
前記熱拡散フィルムは、面方向の熱伝導率が1000W/mK以上で厚さが500μm以下のフィルムを含み、前記熱伝導性材料層は前記発熱体の表面全体を被覆しており、前記熱伝導性材料層の熱伝導率が0.9W/mK以上である放熱構造体であって、
前記発熱体と前記熱拡散フィルムと前記基板のいずれにも直接接触することを特徴とする、放熱構造体。」

なお、「前記発熱体と前記熱拡散フィルムと前記基板のいずれにも直接接触する」のは、「熱伝導性材料層」であると解される。

第2 刊行物
これに対して、当審拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の日より前に頒布された特開2006-210940号公報(以下「刊行物」という。)には、「通信機器」に関して、図面(特に、図1参照。)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
この発明は、通信機器に関するものであり、詳しくは、筐体内に配置された発熱性の素子により発生する熱を放熱する放熱構造に関するものである。」

(2)「【0018】
実施の形態1.
第1図は本発明の実施の形態1による携帯用通信機器の主要構成を示す断面構成図である。図において、1は発熱性の素子(以下発熱素子と記す)、2は発熱素子1を有する通信回路を実装するプリント基板、3は外部からの電磁波による雑音の入射を抑えるために通信回路を覆う樹脂系シールドケース、4はシールドケース3およびプリント基板2類を収納する筐体である。5はシールドケース3の内壁に沿って装着された、面方向に熱拡散を行なう熱拡散シート(熱拡散部材)である。熱拡散シート5の材料としては、高熱伝導率の金属薄片、例えばアルミニウム(熱伝導率:236W/mK)や銅(熱伝導率:403W/mK)の他、厚み0.02?0.1mm程度のグラファイトシート(面方向の熱伝導率:800W/mK、厚み方向の熱伝導率:5W/mK)等が使用できる。6はシールドケース3と筐体4の内壁と間に設けられた断熱層であり、空気層(熱伝導率:0.026W/mK)や断熱材により構成されている。断熱材としてはウレタンフォーム(熱伝導率:0.018?0.03W/mK)等を使用するとよい。7は熱拡散シート5と発熱素子1と間に装着された熱伝導性シート(熱伝導性部材)であり、熱伝導性シート7の材料としては、シリコン系で電気絶縁性があり、熱伝導率が1?10W/mK程度の材料、例えばシリコンゴム等が使用できる。」

(3)「【0027】
以上のように、本実施の形態では小体積、軽量な熱拡散シート5と熱伝導性シート7の装着により、筐体の温度が局所的に高温になることが抑制できるとともに、発熱素子の温度を効率よく低下させることができる効果がある。」

(4)刊行物の「1は発熱性の素子(以下発熱素子と記す)、2は発熱素子1を有する通信回路を実装するプリント基板」(段落【0018】)との記載及び図1から、プリント基板2は、発熱性の素子1を固定するものといえる。

(5)刊行物の「1は発熱性の素子(以下発熱素子と記す)、2は発熱素子1を有する通信回路を実装するプリント基板、3は外部からの電磁波による雑音の入射を抑えるために通信回路を覆う樹脂系シールドケース・・・5はシールドケース3の内壁に沿って装着された、面方向に熱拡散を行なう熱拡散シート(熱拡散部材)である。」(段落【0018】)との記載及び図1から、樹脂系シールドケース3は、熱拡散シート5を発熱性の素子1に対向させて支持するものといえる。

(6)刊行物の「7は熱拡散シート5と発熱素子1と間に装着された熱伝導性シート(熱伝導性部材)であ」(段落【0018】)るとの記載及び図1から、熱伝導性シート7は、発熱性の素子1の上面を被覆しており、発熱性の素子1と熱拡散シート5に直接接触することが理解できる。

これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「発熱性の素子1と、前記発熱性の素子1を固定するプリント基板2と、熱拡散シート5と、前記熱拡散シート5を前記発熱性の素子1に対向させて支持する樹脂系シールドケース3と、前記発熱性の素子1および前記熱拡散シート5に接する熱伝導性シート7とを備え、
前記熱拡散シート5は、面方向の熱伝導率が800W/mKで厚さが0.02?0.1mm程度のグラファイトシートであり、前記熱伝導性シート7は前記発熱性の素子1の上面を被覆しており、前記熱伝導性シート7の熱伝導率が1?10W/mK程度である通信機器の放熱構造であって、
前記熱伝導性シート7が、前記発熱性の素子1と前記熱拡散シート5に直接接触する、通信機器の放熱構造。」

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
後者の「発熱性の素子1」は前者の「発熱体」に相当し、以下同様に、
「プリント基板2」は「基板」に、
「熱拡散シート5」は「熱拡散フィルム」に、
「樹脂系シールドケース3」は「支持体」に、
「熱伝導性シート7」は「熱伝導性材料層」に、
「厚さが0.02?0.1mm程度のグラファイトシートであ」ることは「厚さが500μm以下のフィルムを含」むことに、
「上面」は「表面」に、
「熱伝導率が1?10W/mK程度」であることは「熱伝導率が0.9W/mK以上」であることに、
「通信機器の放熱構造」は「放熱構造体」に、それぞれ相当する。

したがって両者は、
「発熱体と、前記発熱体を固定する基板と、熱拡散フィルムと、前記熱拡散フィルムを前記発熱体に対向させて支持する支持体と、前記発熱体および前記熱拡散フィルムに接する熱伝導性材料層とを備え、
前記熱拡散フィルムは、厚さが500μm以下のフィルムを含み、前記熱伝導性材料層は前記発熱体の表面を被覆しており、前記熱伝導性材料層の熱伝導率が0.9W/mK以上である放熱構造体であって、
前記熱伝導性材料層が、前記発熱体と前記熱拡散フィルムに直接接触する、放熱構造体。」
で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
熱伝導性材料層が、本願発明は、「前記発熱体、前記熱拡散フィルムおよび前記基板」に接し、「前記発熱体の表面全体を被覆しており」、「前記発熱体と前記熱拡散フィルムと前記基板のいずれにも直接接触する」のに対し、
引用発明は、「前記発熱性の素子1および前記熱拡散シート5に接」し、「前記発熱性の素子1の上面を被覆しており」、「前記発熱体と前記熱拡散フィルムに直接接触する」点。

[相違点2]
熱拡散フィルムの面方向の熱伝導率が、本願発明は、「1000W/mK以上」であるのに対し、引用発明は、800W/mKである点。

第4 当審の判断
そこで、相違点について検討する。

1 相違点について
(1)相違点1について
放熱構造体において、熱伝導性材料層を、発熱体の表面全体を被覆し、発熱体と熱拡散フィルムと基板のいずれにも直接接触させることは従来周知である(例えば、特開2004-104115号公報の段落【0039】ないし【0041】及び【0055】ないし【0060】並びに図1及び図4、特開2003-234585号公報の段落【0001】、【0023】ないし【0024】、【0077】ないし【0080】並びに図7参照。以下「周知技術1」という。)。

そして、刊行物の「軽量な熱拡散シート5と熱伝導性シート7の装着により、・・・発熱素子の温度を効率よく低下させることができる」(段落【0027】)との記載、特開2004-104115号公報の「安価なヒートシンクと種々の高さを有する発熱部品との間を高熱伝導性を有する部材(例えば樹脂部材)で固定することにより、任意の高さの部品の発熱を高い信頼性を持って・・・効率的にヒートシンクに伝えることが出来る。」(段落【0013】)との記載、特開2003-234585号公報の「高発熱素子21の発生する高温の熱が、充填部材17を介してダイキャストケース25の全方向へ伝導され放熱される」(段落【0024】)との記載からみて、引用発明と周知技術1とは、発熱体の表面を熱伝導性材料層で覆うことにより、効率的に放熱するものである点で共通する。

そうすると、効率的に放熱するために引用発明に周知技術1を適用して、熱伝導性シート7を、「前記発熱体、前記熱拡散フィルムおよび前記基板に接」し、「前記発熱体の表面全体を被覆しており」、「前記発熱体と前記熱拡散フィルムと前記基板のいずれにも直接接触する」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
放熱構造体において、熱拡散フィルムとして、面方向の熱伝導率が1000W/mK以上のフィルムは従来周知である(例えば、特開2008-277432号公報の段落【0014】、段落【0025】、段落【0029】、段落【0050】の【表1】及び段落【0065】の【表2】並びに図1ないし図5、国際公開第2008/096406号の段落【0033】及び段落【0060】ないし【0061】並びに図4を参照。以下「周知技術2」という。)。

そして、刊行物の「熱拡散シート5の材料としては、・・・、厚み0.02?0.1mm程度のグラファイトシート(面方向の熱伝導率:800W/mK、厚み方向の熱伝導率:5W/mK)等が使用できる。」(段落【0018】)との記載、特開2008-277432号公報の「熱拡散フィルム13は、面方向の熱伝導率が500W・m^(-1)・K^(-1)以上で・・・厚さが100μm以下のグラファイトフィルム15を含み」(段落【0014】)との記載及び「グラファイトフィルムの面方向の熱伝導率は、・・・さらに好ましくは1000W・m^(-1)・K^(-1)以上であるとよい。」(段落【0025】)との記載並びに国際公開第2008/096406号の「プリント基板11上で発生した熱が熱伝導シート14によって熱伝導シート14の面方向(広がり方向)に拡散される。」(段落【0048】)との記載及び「グラファイトの厚さ(Z方向)が25μmであったとき、熱伝導シートの面方向への熱伝導率は1600(W/(m・K))(X-Y方向)に設定される。」(段落【0061】)との記載からみて、引用発明において、より効率よく冷却するために、熱拡散シート5の面方向の熱伝導率を「1000W/mK以上」のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 効果について
本願発明が奏する効果は、引用発明、周知技術1及び周知技術2から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

3 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-26 
結審通知日 2016-02-02 
審決日 2016-02-15 
出願番号 特願2009-4841(P2009-4841)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官
島田 信一
大内 俊彦
発明の名称 放熱構造体  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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