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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04C
管理番号 1313065
異議申立番号 異議2015-700096  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-15 
確定日 2016-03-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第5745778号「ALCパネルおよびALCパネルの製造方法ならびにALCパネルの目地構造」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5745778号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5745778号(以下「本件特許」という。)は、平成22年3月24日の出願であって、平成27年5月15日に特許の設定登録がなされ、その後、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)の特許に対して、特許異議申立人尾田久敏により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許発明1ないし11は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
一対の鉄筋マットがパネル壁面に沿って平行になるように互いに離されて埋設されたALCパネルであって、
前記ALCパネルは、パネル壁面と短辺小口面と長辺小口面とにより形成される直方体形状の平板パネルであり、
前記ALCパネルの長さ方向の端部および幅方向の端部のうちの少なくとも一端部に、前記一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があり、
長さ方向の端部に一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるALCパネルでは、一方の鉄筋マットのみが存在する部分に、ALCパネルの長さ方向に沿って配置された一方の鉄筋マットの複数本の縦筋に対する横筋が配置されており、
幅方向の端部に一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるALCパネルでは、一方の鉄筋マットのみが存在する部分に、ALCパネルの幅方向に沿って配置された一方の鉄筋マットの複数本の横筋に対する縦筋が配置されていることを特徴とするALCパネル。
【請求項2】
長さ方向の端部に一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるALCパネルでは、一方の鉄筋マットのみが存在する部分の長さl1は、20mm以上パネル長さの2/5以下であり、
幅方向の端部に一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるALCパネルでは、一方の鉄筋マットのみが存在する部分の幅w1は、20mm以上パネル長さの1/2以下であることを特徴とする請求項1に記載のALCパネル。
【請求項3】
一対の鉄筋マットがパネル壁面に沿って平行になるように互いに離されて埋設されたALCパネルであって、
前記ALCパネルは、断面L型形状が長さ方向に連続するL型パネルであり、
前記ALCパネルの長さ方向の端部および幅方向の端部のうちの少なくとも一端部に、前記一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があることを特徴とするALCパネル。
【請求項4】
前記一方の鉄筋マットのみが存在する部分における鉄筋マットが存在しない領域のパネル母材には、短辺小口面あるいは長辺小口面に向かって徐々に厚さが減少するように直線的に傾斜する斜面が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のALCパネル。
【請求項5】
前記一対の鉄筋マットのうちの他方の鉄筋マットの少なくとも一端部において鉄筋が厚さ方向に折曲げられていることにより、前記一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のAL
Cパネル。
【請求項6】
前記一対の鉄筋マットが長さ方向および/または幅方向に互いにずらして配置されることにより、前記一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のALCパネル。
【請求項7】
前記一対の鉄筋マットの長さ方向および/または幅方向の寸法が互いに異なることにより、前記一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のALCパネル。
【請求項8】
前記一方の鉄筋マットのみが存在する部分は、前記ALCパネルの幅方向の端部にあることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のALCパネル。
【請求項9】
一対の鉄筋マットが埋設されるALCパネルの製造方法において、
前記一対の鉄筋マットの長さ方向の端部および幅方向の端部のうちの少なくとも一端部において、前記鉄筋マットの面に直交する方向から見て一方の鉄筋マットに他方の鉄筋マットが重ならない部分が生じるように、前記一対の鉄筋マットを互いに離して平行に型枠内に配置する工程と、
前記一対の鉄筋マットを配置した型枠内にコンクリートスラリーを流し込んだ後、このスラリーを半硬化させて半硬化体を形成する工程と、
前記半硬化体をさらに硬化させる工程と、を有することを特徴とするALCパネルの製造方法。
【請求項10】
複数枚のALCパネルを並べて形成するR壁における2枚のALCパネルの端部同士が突き合わされて構成されるALCパネルの目地構造において、
前記2枚のALCパネルの少なくとも一方の突き合わされる端部に、前記一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があり、前記一方の鉄筋マットのみが存在する部分における鉄筋マットが存在しない領域のパネル母材に、小口面に向かって徐々に厚さが減少するように直線的に傾斜する斜面が形成され、
その斜面同士が、あるいは、その斜面と小口面とが、突き合わされて構成されることを特徴とするALCパネルの目地構造。
【請求項11】
建物のコーナー部に沿って配置する2枚のALCパネルの端部同士が突き合わされて構成されるALCパネルの目地構造において、
前記2枚のALCパネルの両方の突き合わされる端部に、前記一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があり、前記一方の鉄筋マットのみが存在する部分における鉄筋マットが存在しない領域のパネル母材に、小口面に向かって徐々に厚さが減少するように直線的に傾斜する斜面が形成され、その斜面同士が突き合わされて構成されることを特徴とするALCパネルの目地構造。」

第3 申立て理由の概要
1 申立人の主張の概要
申立人は、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出し、概ね以下のとおり主張している。

(1)取消理由1(新規性欠如/進歩性欠如)
ア 本件特許発明1、5、8及び9は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

イ 本件特許発明9は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性欠如)
ア 本件特許発明1、2、4、5、6及び8は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3、4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

イ 本件特許発明3、4、6及び8は、甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

ウ 本件特許発明5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

エ 本件特許発明7は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3、4、6、7号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載されて発明及び甲第5ないし7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

オ 本件特許発明10及び11は、甲第8号証に記載された発明及び甲第2、3、5ないし7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開平5-309641号公報
甲第2号証:特開平11-6245号公報
甲第3号証:特開昭61-252104号公報
甲第4号証:白山和久,「ALCの構造基準」,コンクリートジャーナル,日本コンクリート工学会,1965年10月,Vol.3,No.6,29ないし33頁
甲第5号証:特開平11-310975号公報
甲第6号証:特開平4-211905号公報
甲第7号証:特開平11-5212号公報
甲第8号証:特開平11-36495号公報

第4 当審の判断
1 各甲号証の記載
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「外方と内方に一対の断面J字状の第一及び第二の金網20、21を発泡材にて埋設した平板状の建築用パネルブロック1であって、
一端部に第一の金網20のみが存在する部分がある建築用パネルブロック1。」(以下「甲1発明1」という。)

「外方と内方に一対の断面J字状の第一及び第二の金網20、21を発泡材にて埋設した平板状の建築用パネルブロック1の製造方法であって、
第一及び第二の金網20、21を一端部において、第一及び第二の金網20、21の面に直交する方向から見て第一の金網20に第二の金網21が重ならない部分が生じるように、第一及び第二の金網20、21を型枠8内へ収容し、
型枠8内へ発泡材を打設し所定時間養生する建築用パネルブロック1の製造方法。」(以下「甲1発明2」という。)

(2)甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「ファスナー2cを取り付けた鉄筋籠5が埋設された大型ALCパネルAであって、
大型ALCパネルAが躯体に取り付けられたときに、上階と下階の間の目地部14が形成される端部において、躯体外方及び内方の縦筋5aのうちの一方の縦筋5aのみが存在する部分がある大型ALCパネルA。」(以下「甲2発明1」という。)

「大型ALCパネルAの製造方法であって、
大型ALCパネルAが躯体に取り付けられたときに、上階と下階の間の目地部14が形成される端部において、躯体外方及び内方の縦筋5aのうちの一方の縦筋5aのみが存在する部分があるように、型枠にファスナー2を取り付けた鉄筋籠5を配置し、
型枠に発泡性のモルタルを打設し、
半硬化状態でピアノ線7によって大型ALCパネルAの裏面1a側を切断し、
オートクレーブ養生して硬化させる大型ALCパネルAの製造方法。」(以下「甲2発明2」という。)

(3)甲第3号証の記載
甲第3号証には、次の記載がある。

ア 「プレキャストコンクリート製品、例えば第6図及び第7図に示す様なボックスカルバート1は、両端部に接続用の凹部2及び凸部3を有している。」(1頁右下欄9ないし11行)

イ 「次に上記構成の型枠装置によりボックスカルバート1を成形する手順につき説明する。尚、ここで説明する成形は、超硬練り状態のコンクリートを打ち込むことによって、その打ち込み後、直ちに型枠を外すことができる即時脱型法である。
まず外型枠16を下型枠14上に図示しないクランプによって取着し、この外型枠16を下型枠14と共に内型枠13に嵌合して型枠主体17を構成する。次にこの型枠主体17の空洞部18内に四角筒状に構成された鉄筋29を挿入配置し、その上で振動盤11を上下振動させつつ空洞部18内に超硬練りされたコンクリート30を打込む。……そして、上型枠19をそのコンクリート30の天端面に乗せて空洞部18の上端を塞ぐと共に、第1図及び第2図に示す様に連結部材27の両端部の軸棒27bを夫々レバー25の先端及びエアシリンダ26のロッド26aの先端に掛合させて連結部材27により上型枠19とエアシリンダ26との間を連結する。この状態で再度振動盤11を上下振動させると共に、エアシリンダ26に圧縮空気を供給し且つその圧縮空気の供給方向を所定の短時間毎に切換えてロッド26aを比較的短いストロークで上下動させる。すると、……上型枠19は振動盤11の振動による締め固めが不充分な上部のコンクリート30を振動的な強い圧力でもって締め固める様にしながら空洞部18内に沈み込んで行き、その沈み込みに伴ってコンクリート30が上型枠19の成形用凹部20内に侵入してこれを満す。……この後、上型枠19を取外し、その上で外型枠16を下型枠14と共に引上げて成形されたボックスカルバート1を内型枠13がら扱出し、そして下型枠14上に成形されたボックスカルバート1を残して外型枠19を引上げる。以上によりボックスカルバート1の成形を終了するものであり、取外された外型枠16及び上型枠19は次の成形に直ちに使用できる。」(2頁右下欄12行ないし3頁右上欄17行)

ウ 上記イを踏まえて第3図をみると、型枠主体17の空洞部18内に四角筒状に構成された鉄筋29を挿入配置し、超硬練りされたコンクリート30を打込んだ状態において、一端部に内型枠13側の縦筋のみが存在する部分があり、当該内型枠13側の縦筋のみが存在する部分に横筋が配置されている点がみてとれる。

(4)甲第4号証の記載
甲第4号証には、次の記載がある。

ア 「(3)主筋及び横筋のかぶり厚さは,1.2cm以上とし、最端部の横筋はパネル端より3cm以内に配置しなければならない。」(31頁右欄26ないし28行)

イ 31頁左上部の表によると、屋根および帳壁のALCパネルの厚さは、第1種コンクリートによるものは、l/35以上かつ7.5cm以上、第2種コンクリートによるものは、l/40以上かつ7.5cm以上であることが記載されている。

(5)甲第5号証の記載
甲第5号証には、次の記載がある。

ア 「【請求項1】 コーナー部の両側に平面部を有する断面が実質的にL字型のALCコーナーパネルにおいて、このパネル内に補強鉄筋を埋設すると共に、前記各平面部の縦方向の下部と中間部とに、めねじを有するアンカーをそれぞれ埋設し、前記各アンカーを前記補強鉄筋に固定したことを特徴とするALCコーナーパネル。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ベランダ構造などに適用されるALCコーナーパネルおよびその取付構造に関するものであり、さらに詳しくは、ベランダ構造などを構築する際に、同じALC材質からなる平板状ALCパネルと組合わせて使用可能で、建物躯体に取付けるための座堀り作業や座堀り部の補修作業が不要であり、外観および取付強度を損なうことのないALCコーナーパネルおよびその取付構造に関するものである。」

(6)甲第6号証の記載
甲第6号証には、次の記載がある。

ア 「【請求項1】 PC板の片面に直線状でかつ、V字型断面の切り欠きを設けるとともに少なくとも、切り欠きにより薄くなった部分に網が埋設してあることを特徴とする折曲げ可能なPC型枠。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、折曲げ可能なPC型枠およびその製造方法に関し、特に、品質が安定で、製造時間が短く、しかも狭隘なスペースで大量の保管や運搬が可能で、かつ建設現場での使用が容易な上記PC型枠およびこれを製造する方法に関する。」

ウ 「【0022】
【実施例】図1は、本発明に係る製造方法の一実施例をコンクリート打設直後の状態で示したもので、本例では棒状仮部材として面木5を使用している。同図に示すように、先ず、型枠板2を組み合わせて水平板状の型枠を構成し、この型枠内に所望の間隔……を置いて所定数(本例では2本)の面木5を平行にセットする。
【0023】この面木5は、水平板状型枠の底部に接して設けたが、図2のように後述する網6をセットした後、適宜の支持部材により、または周囲立ち上がり(側)型枠に架け渡すなどして、上部に浮かして、逆三角形にセットしてもよい。
【0024】また、PC型枠の補強筋としての役目を果たす網6を配置する。この網6は、金網でもよいが、コンクリートのかぶり厚の不足によるさびの発生防止や、殊に折曲時の折り曲げ性を良好に確保するために、比較的柔軟で且つ高い引張強度を有し、また軽量化を図ることができる、アラミド繊維,ビニロン繊維,炭素繊維,ガラス繊維等の繊維材を採用することが好ましい。そして、図のようにダブルメッシュに配置する場合は、水平板状型枠の上方部には全面に配置し、下方部には面木5の部分を除いて配置する。従って、面木5が存在する部分は上方部のみのシングルメッシュとなり、面木5が存在しない部分は上・下方部のダブルメッシュとなる。」

(7)甲第7号証の記載
甲第7号証には、次の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、傾斜した通路の側部において板面を鉛直にして取付られる縦壁などに適した軽量気泡コンクリートパネルを製造するための製造方法に関するものである。」

イ 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について、図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。この実施の形態に係る製造対象たるALCパネル10は、長辺10aに平行にほぼ等間隔に配置した複数の縦筋11と、該縦筋11に直交する方向の直交横筋12と、両端寄りの位置において縦筋11に対し斜めに交差する方向に配置した傾斜横筋13とからなる補強筋を内部に有し、先ず、図2に示すような長方形ALCパネル14として製造し、その後に、切断線Lに沿って両端を切除し、両端に互いに平行な傾斜短辺10b,10bを形成する。
【0008】縦筋11は、ALCパネル10の両端近傍に配置した両傾斜横筋13,13の位置に合わせた長さにするとともに該傾斜横筋13,13の位置に両端を合わせて配置してある。傾斜横筋13は、長辺10aに対し傾斜した傾斜短辺10b,10bとなるべき切断線Lを含むそれぞれの平面の近傍にあって、該平面に予めほぼ平行に配置してある。」

(8)甲第8号証の記載
甲第8号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「2枚の軽量気泡コンクリートパネルが、互いのなす角度が可変となるようにその2枚の軽量気泡コンクリートパネルの端部に於いて可動連結部材で相互に接合されているコーナーパネルの目地構造であって、
2枚の軽量気泡コンクリートパネルの小口端部を長手方向全長に渡って傾斜切断した傾斜部によって所定の幅の目地が形成されるコーナーパネルの目地構造。」(以下「甲8発明」という。)

2 取消理由1について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点1>
ALCパネルの補強材に関し、本件特許発明1では、補強材は一対の鉄筋マットであり、ALCパネルの長さ方向の端部および幅方向の端部のうちの少なくとも一端部に、一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるのに対し、甲1発明1では、補強材は一対の第一及び第二の金網20、21であり、建築用パネルブロック1の一端部に第一の金網20のみが存在する部分がある点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲第1号証には、「鉄筋の結束作業は作業員がフックを用いて手作業で行っているため、きわめて作業能率が悪いという問題となっている。又、鉄筋は所定のピッチで配筋しなければならず、その配筋作業は作業員が手作業で行っており、これもまた作業能率が悪いという問題となっている。特に、建築用パネルブロックが湾曲している場合には、鉄筋もその湾曲に対応して曲げ形成されているので、それらの結束作業及び配筋作業は困難であった。」(段落【0003】)及び「そこで、本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は鉄筋の代わりに金網を使用し、鉄筋の結束作業と配筋作業の工程がなくなることにより、容易に製造することができ、又、湾曲した建築用パネルブロックであっても金網の成形が容易である建築用パネルブロック用金網の製造方法を提供することにある。」(段落【0004】)と記載されている。
上記記載によると、甲1発明1は、鉄筋の結束作業及び配筋作業が困難であるとの課題を解決するために、建築用パネルブロック1の補強材として鉄筋の代わりに、結束作業と配筋作業の工程がなく、湾曲した建築用パネルブロックであっても成形が容易である金網を使用したものと認められる。
してみると、甲1発明1において第一及び第二の金網20、21に代えて一対の鉄筋マットを用いることには阻害要因があるから、例えALCパネルの補強材として、一対の鉄筋マットを用いることが周知技術であったとしても、甲第1号証には、甲1発明1において補強材として一対の鉄筋マットを用いること、すなわち上記相違点1に係る本件特許発明1の構成が実質的に記載されているとすることはできないし、当業者が甲1発明1に基づいて容易に想到し得たとすることもできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとも、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものともすることはできない。

イ 本件特許発明5及び8について
本件特許発明5及び8は、本件特許発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとも、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものともすることはできない。

ウ 本件特許発明9について
(ア)甲第1号証に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如
a 対比
本件特許発明9と甲1発明2とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点2>
ALCパネルの補強材に関し、本件特許発明9では、補強材は一対の鉄筋マットであり、一対の鉄筋マットの長さ方向の端部および幅方向の端部のうちの少なくとも一端部において、一方の鉄筋マットに他方の鉄筋マットが重ならない部分が生じるように、一対の鉄筋マットを互いに離して平行に型枠内に配置するのに対し、甲1発明2では、補強材は一対の第一及び第二の金網20、21であり、第一及び第二の金網20、21を一端部において、第一の金網20に第二の金網21が重ならない部分が生じるように、第一及び第二の金網20、21を型枠8内へ収容する点。

b 判断
上記相違点2について検討すると、上記ア(イ)における検討と同様に、甲1発明2において第一及び第二の金網20、21に代えて一対の鉄筋マットを用いることには阻害要因があるから、例えALCパネルの補強材として、一対の鉄筋マットを用いることが周知技術であったとしても、甲第1号証には、甲1発明2において補強材として一対の鉄筋マットを用いること、すなわち上記相違点2に係る本件特許発明9の構成が実質的に記載されているとすることはできないし、当業者が甲1発明2に基づいて容易に想到し得たとすることもできない。

c 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明であるとも、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものともすることはできない。

(イ)甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如
a 対比
本件特許発明9と甲2発明2とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点3>
ALCパネルの補強材に関し、本件特許発明9では、補強材は一対の鉄筋マットであり、一対の鉄筋マットの長さ方向の端部および幅方向の端部のうちの少なくとも一端部において、一方の鉄筋マットに他方の鉄筋マットが重ならない部分が生じるように、一対の鉄筋マットを互いに離して平行に型枠内に配置するのに対し、甲2発明2では、補強材は鉄筋籠5であり、大型ALCパネルAが躯体に取り付けられたときに、上階と下階の間の目地部14が形成される端部において、ファスナー2cを取り付けた鉄筋籠5の躯体外方及び内方の縦筋5aのうちの一方の縦筋5aのみが存在する部分があるように、型枠にファスナー2を取り付けた鉄筋籠5を配置する点。

b 判断
上記相違点3について検討する。
甲2発明2のALCパネルは、大型ALCパネルであって、鉄筋籠5には、(躯体に取り付ける際に用いる)ファスナー2を取り付けることを考慮すると、鉄筋籠5に代えて、敢えて強度的に劣る一対の鉄筋マットを用いる動機付けがあるとは認められない。
また、本件特許の明細書には、「本発明が解決しようとする課題は、ALCパネルの端部を整形加工する際に、埋設されている鉄筋マットの鉄筋を切断する作業を省くことができ、作業性に優れるALCパネルを提供することにある。」(段落【0007】)と記載されており、本件特許発明9において、一方の鉄筋マットに他方の鉄筋マットが重ならない部分は、ALCパネルの端部を整形加工するための部分であると認められる。一方、甲2発明2において、一方の縦筋5aのみが存在する部分は、目地部14が形成される端部の形状に合わせ縦筋5aのかぶり厚さを確保するためのものであって、大型ALCパネルAの端部を整形加工できる程の寸法を有するものとは認められない。
してみると、例えALCパネルの補強材として、一対の鉄筋マットを用いることが周知技術であったとしても、甲第2号証には、甲2発明2において、上記相違点3に係る本件特許発明9の構成とすることが実質的に記載されているとすることはできない。

c 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明9は、甲第2号証に記載された発明とすることはできない。

3 取消理由2について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点4>
ALCパネルの補強材に関し、本件特許発明1では、補強材は一対の鉄筋マットであり、ALCパネルの少なくとも一端部に、一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があり、長さ方向の端部に一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるALCパネルでは、一方の鉄筋マットのみが存在する部分に、ALCパネルの長さ方向に沿って配置された一方の鉄筋マットの複数本の縦筋に対する横筋が配置されているのに対し、甲2発明1では、補強材は鉄筋籠5であり、上階と下階の間の目地部14が形成される端部において、ファスナー2cを取り付けた鉄筋籠5の躯体外方及び内方の縦筋5aのうちの一方の縦筋5aのみが存在する部分がある点。

(イ)判断
上記相違点4について検討する。
甲第1号証には、甲1発明1が記載されている(上記1(1)を参照。)。甲第3号証には、ボックスカルバート1の成形において、型枠主体17の空洞部18内に四角筒状に構成された鉄筋29を挿入配置し、超硬練りされたコンクリート30を打込んだ状態において、一端部に内型枠13側の縦筋のみが存在する部分があり、当該内型枠13側の縦筋のみが存在する部分に横筋が配置されていることが記載されている(上記1(3)を参照。)。甲第4号証には、最端部の横筋はパネル端より3cm以内に配置しなければならないこと、帳壁のALCパネルの厚さは、7.5cm以上であることが記載されている(上記1(4)を参照。)。
しかし、甲1発明1は、一対の断面J字状の第一及び第二の金網を補強材とするものであり、上記甲第3号証の記載事項は、ボックスカルバートに関するものであって、四角筒状に構成された鉄筋を補強材とするものであり、上記甲第4号証に記載の事項は、ALCパネルにおける横筋のかぶり厚さとパネル厚さの基準を示すものであって、いずれも甲第2発明1において、上記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることを教示するものではない。
また、例えALCパネルの補強材として、一対の鉄筋マットを用いることが周知技術であったとしても、甲2発明1のALCパネルは、大型ALCパネルであって、鉄筋籠5には、(躯体に取り付ける際に用いる)ファスナー2を取り付けることを考慮すると、鉄筋籠5に代えて、敢えて強度的に劣る一対の鉄筋マットを用いる動機付けがあるとは認められない。
さらに、本件特許の明細書の記載によると(上記2ウ(イ)bを参照。)、本件特許発明1において、一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分は、ALCパネルの端部を整形加工するための部分であると認められるところ、甲2発明1において、一方の縦筋5aのみが存在する部分は、目地部14が形成される端部の形状に合わせ縦筋5aのかぶり厚さを確保するためのものであって、大型ALCパネルAの端部を整形加工できる程の寸法を有するものとは認められない。
してみると、上記甲第1、3及び4号証に記載の事項を踏まえても、甲2発明1において、上記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者が甲2発明1及び甲第1、3、4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、当業者が甲2発明1及び甲第1、3、4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

ウ 本件特許発明3について
(ア)対比
本件特許発明3と甲2発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点5>
ALCパネルの補強材に関し、本件特許発明3では、補強材は一対の鉄筋マットであり、ALCパネルの少なくとも一端部に、一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるのに対し、甲2発明1では、補強材は鉄筋籠5であり、上階と下階の間の目地部14が形成される端部において、ファスナー2cを取り付けた鉄筋籠5の躯体外方及び内方の縦筋5aのうちの一方の縦筋5aのみが存在する部分がある点。

(イ)判断
上記相違点5について検討する。
甲第5号証には、補強鉄筋を埋設したL字型のALCコーナーパネルが記載されている(上記1(5)を参照。)。しかし、甲第5号証は、L字型のALCコーナーパネルが周知であること示すために引用されたものであって、甲第2発明1において、上記相違点5に係る本件特許発明3の構成とすることを教示するものではない。
また、例えALCパネルの補強材として、一対の鉄筋マットを用いることが周知技術であったとしても、甲2発明1のALCパネルは、大型ALCパネルであって、鉄筋籠5には、(躯体に取り付ける際に用いる)ファスナー2を取り付けることを考慮すると、鉄筋籠5に代えて、敢えて強度的に劣る一対の鉄筋マットを用いる動機付けがあるとは認められない。
さらに、本件特許の明細書の記載によると(上記2ウ(イ)bを参照。)、本件特許発明3において、一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分は、ALCパネルの端部を整形加工するための部分であると認められるところ、甲2発明1において、一方の縦筋5aのみが存在する部分は、目地部14が形成される端部の形状に合わせ縦筋5aのかぶり厚さを確保するためのものであって、大型ALCパネルAの端部を整形加工できる程の寸法を有するものとは認められない。
してみると、上記甲第5号証に記載の事項を踏まえても、甲2発明1において、上記相違点5に係る本件特許発明3の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明3は、当業者が甲2発明1及び甲第5号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1ないし3のいずれかを引用してさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1ないし3についての判断と同様の理由により、当業者が甲2発明1及び甲第1、3、4号証に記載された事項、又は甲2発明1及び甲第5号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

オ 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1ないし4のいずれかを引用してさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1ないし4についての判断と同様の理由により、当業者が甲2発明1及び甲第1、3、4号証に記載された事項、又は甲2発明1及び甲第1、5号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

カ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明1ないし5のいずれかを引用してさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1ないし5についての判断と同様の理由により、当業者が甲2発明1及び甲第1、3、4号証に記載された事項、又は甲2発明1及び甲第5号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

キ 本件特許発明7について
(ア)対比
本件特許発明7と甲2発明1とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点4(請求項1を引用する場合)又は上記相違点5(請求項3を引用する場合)で相違する。

(イ)判断
上記相違点4及び5について検討する。
甲第1号証には、甲1発明1が記載されている(上記1(1)を参照。)。甲第3号証には、ボックスカルバート1の成形において、型枠主体17の空洞部18内に四角筒状に構成された鉄筋29を挿入配置し、超硬練りされたコンクリート30を打込んだ状態において、一端部に内型枠13側の縦筋のみが存在する部分があり、当該内型枠13側の縦筋のみが存在する部分に横筋が配置されていることが記載されている(上記1(3)を参照。)。甲第4号証には、最端部の横筋はパネル端より3cm以内に配置しなければならないこと、帳壁のALCパネルの厚さは、7.5cm以上であることが記載されている(上記1(4)を参照。)。甲第5号証には、補強鉄筋を埋設したL字型のALCコーナーパネルが記載されている(上記1(5)を参照。)。甲第6号証には、PC板の片面に直線状でかつ、V字型断面の切り欠きを設けた折曲げ可能なPC型枠において、切り欠きを設けた部分は上方部のみに補強筋としての役目を果たす網6を設け、切り欠きが存在しない部分は上・下方部に網6を設けることが記載されている(上記1(6)を参照。)。甲第7号証には、長辺10aに平行にほぼ等間隔に配置した複数の縦筋11と、該縦筋11に直交する方向の直交横筋12と、両端寄りの位置において縦筋11に対し斜めに交差する方向に配置した傾斜横筋13とからなる補強筋を内部に有するALCパネル10において、切断線Lに沿って端部を切除することが記載されている(上記1(7)を参照。)。
しかし、甲1発明1は、一対の断面J字状の第一及び第二の金網を補強材とするものであり、上記甲第3号証の記載事項は、ボックスカルバートに関するものであって、四角筒状に構成された鉄筋を補強材とするものであり、上記甲第4号証に記載の事項は、ALCパネルにおける横筋のかぶり厚さとパネル厚さの基準を示すものであり、上記甲第5号証に記載の事項は、L字型のALCコーナーパネルが周知であること示すものであり、上記甲第6号証に記載の事項は、折曲げ可能なPC型枠に関するものであって、網を補強材とするものであり、上記甲第7号証に記載の事項は、縦筋11と、直交横筋12と、傾斜横筋13とからなる補強筋を補強材とするものであって、いずれも甲第2発明1において、上記相違点4又は5に係る本件特許発明7の構成とすることを教示するものではない。
また、例えALCパネルの補強材として、一対の鉄筋マットを用いることが周知技術であったとしても、甲2発明1のALCパネルは、大型ALCパネルであって、鉄筋籠5には、(躯体に取り付ける際に用いる)ファスナー2を取り付けることを考慮すると、鉄筋籠5に代えて、敢えて強度的に劣る一対の鉄筋マットを用いる動機付けがあるとは認められない。
さらに、本件特許の明細書の記載によると(上記2ウ(イ)bを参照。)、本件特許発明7において、一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分は、ALCパネルの端部を整形加工するための部分であると認められるところ、甲2発明1において、一方の縦筋5aのみが存在する部分は、目地部14が形成される端部の形状に合わせ縦筋5aのかぶり厚さを確保するためのものであって、大型ALCパネルAの端部を整形加工できる程の寸法を有するものとは認められない。
してみると、上記甲第1及び3ないし7号証に記載の事項を踏まえても、甲2発明1において、上記相違点4又は5に係る本件特許発明7の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明7は、当業者が甲2発明1及び甲第1、3、4、6、7号証に記載された事項、又は甲2発明1及び甲第5ないし7号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

ク 本件特許発明8について
本件特許発明8は、本件特許発明1ないし7のいずれかを引用してさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1ないし7についての判断と同様の理由により、当業者が甲2発明1及び甲第1、3、4号証に記載された事項、又は甲2発明1及び甲第5号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

ケ 本件特許発明10について
(ア)対比
本件特許発明10と甲8発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点6>
ALCパネルの補強材に関し、本件特許発明10では、補強材は一対の鉄筋マットであり、2枚のALCパネルの少なくとも一方の突き合わされる端部に、一対の鉄筋マットのうちの一方の鉄筋マットのみが存在する部分があるのに対し、甲8発明では、補強材の構成や配置が特定されていない点。

(イ)判断
上記相違点6について検討する。
甲第2号証には、甲2発明1が記載されている(上記1(2)を参照。)。甲第3号証には、ボックスカルバート1の成形において、型枠主体17の空洞部18内に四角筒状に構成された鉄筋29を挿入配置し、超硬練りされたコンクリート30を打込んだ状態において、一端部に内型枠13側の縦筋のみが存在する部分があり、当該内型枠13側の縦筋のみが存在する部分に横筋が配置されていることが記載されている(上記1(3)を参照。)。甲第5号証には、補強鉄筋を埋設したL字型のALCコーナーパネルが記載されている(上記1(5)を参照。)。甲第6号証には、PC板の片面に直線状でかつ、V字型断面の切り欠きを設けた折曲げ可能なPC型枠において、切り欠きを設けた部分は上方部のみに補強筋としての役目を果たす網6を設け、切り欠きが存在しない部分は上・下方部に網6を設けることが記載されている(上記1(6)を参照。)。甲第7号証には、長辺10aに平行にほぼ等間隔に配置した複数の縦筋11と、該縦筋11に直交する方向の直交横筋12と、両端寄りの位置において縦筋11に対し斜めに交差する方向に配置した傾斜横筋13とからなる補強筋を内部に有するALCパネル10において、切断線Lに沿って端部を切除することが記載されている(上記1(7)を参照。)。
しかし、甲2発明1は、上階と下階の間の目地部14に関するものであって、ファスナー2cを取り付けた鉄筋籠5を補強材とするものであり、上記甲第3号証の記載事項は、ボックスカルバートに関するものであって、四角筒状に構成された鉄筋を補強材とするものであり、上記甲第5号証に記載の事項は、L字型のALCコーナーパネルに補強鉄筋を埋設するものであり、上記甲第6号証に記載の事項は、折曲げ可能なPC型枠に関するものであって、網を補強材とするものであり、上記甲第7号証に記載の事項は、縦筋11と、直交横筋12と、傾斜横筋13とからなる補強筋を補強材とするものであって、いずれも甲8発明において、上記相違点6に係る本件特許発明7の構成とすることを教示するものではない。
してみると、上記甲第2、3及び5ないし7号証に記載の事項を踏まえても、甲8発明において、上記相違点6に係る本件特許発明10の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明10は、当業者が甲8発明及び甲第2、3、5ないし7号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

コ 本件特許発明11について
本件特許発明11と甲8発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点6と同様の点で相違する。
そして、上記ケ(イ)における検討と同様に、本件特許発明11は、当業者が甲8発明及び甲第2、3、5ないし7号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし11の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし11の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-10 
出願番号 特願2010-67958(P2010-67958)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (E04C)
P 1 651・ 121- Y (E04C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星野 聡志  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 中田 誠
小野 忠悦
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5745778号(P5745778)
権利者 クリオン株式会社
発明の名称 ALCパネルおよびALCパネルの製造方法ならびにALCパネルの目地構造  
代理人 特許業務法人上野特許事務所  

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