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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B05B
管理番号 1313072
異議申立番号 異議2015-700233  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-27 
確定日 2016-03-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第5735953号「静電噴霧器用電極集合体」の請求項1、18、28、36に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5735953号の請求項1、18、28、36に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5735953号の請求項1、18、28及び36に係る特許(以下、「請求項1、18、28及び36に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2010年(平成22年)3月19日(パリ条約による優先権主張2009年3月19日、ドイツ)に特許出願され、平成27年4月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成27年11月27日に特許異議申立人 遠藤 昭子(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成27年12月17日付けで特許異議申立人に対して手続補正指令書(方式)による指令がされ、平成27年12月25日に特許異議申立人より手続補正書(方式)が提出され、その後、当審において平成28年2月1日付けで特許異議申立人に対して審尋がされ、平成28年2月18日に特許異議申立人より回答書が提出されたものである。


第2 本件発明
請求項1、18、28及び36に係る特許に係る発明(以下、順に「本件発明1」、「本件発明18」、「本件発明28」及び「本件発明36」という。)は、それぞれ、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、18、28及び36に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

1 本件発明1
「【請求項1】
静電噴霧器用の電極集合体であって、
a)静電場を生じる少なくとも1つの電極(108)を保持するための電極保持装置(101)、及び
b)前記静電噴霧器の噴霧器筐体要素(113)に前記電極保持装置(101)を保持するための接続区域(111)を備え、
c)前記接続区域(111)は、放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を有する、
ことを特徴とする電極集合体。」

2 本件発明18
「【請求項18】
静電噴霧器用の電極集合体を保持するための噴霧器筐体要素(113)であって、
前記静電噴霧器は第1の直径を持つ筐体要素(117)を有する噴霧器筐体を備え、
前記筐体要素(117)はスプレー要素(119)用の支持装置を受け入れ又は覆うために適しており、
前記噴霧器筐体要素(113)は、前記第1の直径とは異なる第2の直径を有し、
前記第1の直径と前記第2の直径との差により前記電極集合体を保持するための電極保持区域(115)が定められており、且つ、
前記電極保持区域(115)は、放電路の延長をなす放電電流用の少なくとも1つの回り込み防止回路を有する、
ことを特徴とする噴霧器筐体要素(113)。」

3 本件発明28
「【請求項28】
スプレー要素(119)用の支持装置及び/又は駆動タービンを受け入れ又は覆うための第1の直径を有する筐体要素(117)を備える、静電噴霧器用の噴霧器筐体であって、
放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を形成する少なくとも1つのネジを備える、
ことを特徴とする噴霧器筐体。」

4 本件発明36
「【請求項36】
ロボット手軸側面を絶縁するための噴霧器筐体用の絶縁袖(201、401)であって、
前記絶縁袖(201、401)は、脱着可能に前記噴霧器筐体と接続するための接続区域(403)を有し、且つ、絶縁材、誘電剤、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択された材料から形成されており、
放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を形成する少なくとも1つのネジを備える、
ことを特徴とする絶縁袖(201、401)。」


第3 特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として、次に示す甲第1ないし5号証及び周知例を提出し、概ね以下の理由を主張している。

1 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2001-113207号公報
(2)甲第2号証:米国特許出願公開第2004/0255849号明細書
(3)甲第3号証:特開2004-148240号公報
(4)甲第4号証:特開平8-108114号公報
(5)甲第5号証:特開平11-262699号公報
(6)周知例:大木正路著、「高電圧工学」、1992年6月20日 1版、槇書店、237及び238ページの「(viii)ひだの影響」の欄

2 理由(特許法第29条第2項について)の概要
(1)理由1
本件発明1は、甲第1号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由1」という。)。
(2)理由2
本件発明1は、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由2」という。)。
(3)理由3
本件発明18は、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由3」という。)。
(4)理由4
本件発明28は、甲第2号証および甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由4」という。)。
(5)理由5
本件発明36は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由5」という。)。
(6)まとめ
本件発明1、18、28及び36は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1、18、28及び36に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


第4 当審の判断
1 理由1について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「静電塗装装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、霧化された帯電塗料粒子を電気力線に沿って被塗物に向け飛行塗着させる静電塗装装置に関する。」(段落【0001】)

b)「【0033】まず、図1ないし図3は本発明の第1の実施の形態による静電塗装装置として回転霧化型塗装機を示している。
【0034】図において、1は塗装機本体を構成する略円柱状のハウジングで、該ハウジング1の前側には、略円筒状に突出した円筒部1Aが設けられ、該円筒部1A内には、後述するエアモータ2が取り付けられている。また、ハウジング1の外周側にはねじ部1Bが設けられ、該ねじ部1Bには後述するリテーナリング9が螺着されている。そして、ハウジング1は、例えばPOM(ポリオキシメチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、HP-PE(高圧ポリエチレン)、HP-PVC(高圧塩化ビニル)、PEI(ポリエーテルイミド)、PES(ポリエーテルサルホン)、ポリメチルペンテン等の絶縁性樹脂材料によって形成されている。
【0035】2はハウジング1の円筒部1A内に取付けられたエアモータで、該エアモータ2は、筒状に形成されたモータ本体2Aと、該モータ本体2A内に収容されたエアタービン2Bと、基端側が該エアタービン2Bに取付けられ先端側がエアモータ2の前側に突出した回転軸2Cと、該回転軸2Cを回転可能に軸支する静圧エア軸受2Dとによって構成されている。そして、エアモータ2は、エアタービン2Bに加圧エアを供給することによって回転駆動するものである。
【0036】3は回転軸2Cの先端に設けられたベル型の回転霧化頭で、該回転霧化頭3にはカップ状の外周面3Aが形成され、回転霧化頭3の内周面が後述のフィードチューブ4から吐出される塗料を平滑化する塗料平滑化面3Bとなっている。また、回転霧化頭3の先端側は、塗料平滑化面3Bから供給される塗料を放出するための塗料放出端縁3Cとなっている。
【0037】4は回転軸2C内に挿通して設けられたフィードチューブで、該フィードチューブ4は、回転霧化頭3に塗料、シンナ等を供給するため、その先端側が回転軸2Cから突出して回転霧化頭3内に延在している。そして、フィードチューブ4は、その基端側がハウジング1内に伸長すると共に、ハウジング1内に設けられたエアシリンダからなる塗料弁5に接続されている。
【0038】また、フィードチューブ4はハウジング1を通じて塗料供給源としての色替弁装置6に接続されると共に、排液弁(図示せず)を介して色替え時の排液を回収する排液タンク7に接続されている。そして、フィードチューブ4は、塗料弁5の開,閉に応じて色替弁装置6から供給される塗料を回転霧化頭3に向けて吐出するものである。
【0039】8は後述するシェーピングエアリング10と共に回転霧化型塗装機のカバー部材を構成するカバーで、該カバー8は、薄肉な円筒状に形成され、ハウジング1のねじ部1Bに螺着された円環状のリテーナリング9によってハウジング1の前側に突出した状態で取り付けられ、その内部にエアモータ2を収容している。また、カバー8、リテーナリング9は、ハウジング1と同様の樹脂材料として例えばPOM(ポリオキシメチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、HP-PE(高圧ポリエチレン)、HP-PVC(高圧塩化ビニル)、PEI(ポリエーテルイミド)、PES(ポリエーテルサルホン)、ポリメチルペンテン等の絶縁性樹脂材料によって形成され、これらの絶縁性樹脂材料は後述する表1に示すように水との接触角が60°以下に設定されている。
【0040】10はカバー8の先端部に螺着されたシェーピングエアリングで、該シェーピングエアリング10は、図2に示すように筒状に形成され、回転霧化頭3の塗料放出端縁3Cよりも後側に位置して外周面3Aを覆っている。また、シェーピングエアリング10は、カバー8と同様の絶縁性樹脂材料によって形成され、その先端部には多数のエア噴出口11(2個のみ図示)が円環状に列設されている。そして、エア噴出口11は、カバー8の外部に設けられたシェーピングエア源(図示せず)に接続され、シェーピングエア源から供給されるシェーピングエアを吐出するものである。
【0041】12はハウジング1を取り囲む状態でハウジング1の後端側に配設された環状の電極取付リングで、該電極取付リング12には、略等間隔に離間して例えば6本(2本のみ図示)の支持腕13が取り付けられている。そして、各支持腕13は、カバー8等と同様の絶縁性樹脂材料からなり、ハウジング1の径方向外側に位置してカバー8の軸方向に延びている。また、各支持腕13の先端には、外部電極14が取り付けられ、該外部電極14は、支持腕13の先端から回転霧化頭3の塗料放出端縁3C近傍に向けて軸方向に伸長している。そして、外部電極14はハウジング1の外部に設けられた高電圧発生装置15に接続され、例えば-60?-120kV程度の高電圧が印加される。これにより、外部電極14は、回転霧化頭3の塗料放出端縁3Cから噴霧される塗料粒子を帯電させるものである。」(段落【0033】ないし【0041】)

c)「【0048】本実施の形態による回転霧化型塗装機は上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について図1および図2を参照しつつ説明する。
【0049】まず、各外部電極14に高電圧を印加すると、該各外部電極14とアース電位となる回転霧化頭3との間、および該各外部電極14と被塗物(図示せず)との間には電気力線による静電界域が形成されている。また、該各外部電極14には、例えば-60?-120kVの高電圧が印加され、該各外部電極14の先端近傍はマイナスのイオン化圏域となっている。
【0050】この状態で、エアモータ2によって回転軸2Cおよび回転霧化頭3を高速回転させつつ塗料弁5を開弁することにより、フィードチューブ4を介して回転霧化頭3に塗料が供給される。このとき、回転霧化頭3に供給された塗料は、回転霧化頭3の回転による遠心力によって塗料平滑化面3Bに薄いフィルム状薄膜に拡がりながら塗料放出端縁3Cから径方向外側に飛び出すと共に、フィルム状薄膜から液糸となり、さらに液糸から粒子に微粒化される。
【0051】そして、この微粒化された塗料粒子は、シェーピングエアリング10のエア噴出口11から前方に噴出するシェーピングエアによって、回転霧化頭3の前方に向けて絞り込まれ、噴霧パターンが整形される。また、塗料粒子は、各外部電極14の前方に形成されたイオン化圏域を通過するときに高電圧に帯電され帯電塗料粒子となる。これにより、帯電塗料粒子は、アースに接続された被塗物に向けて飛行して、該被塗物の表面に塗着する。」(段落【0048】ないし【0051】)

イ 甲第1号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記アa)ないしc)(特に、段落【0041】)及び図1の記載によれば、静電塗装装置において、ハウジング1の後端側に配設された環状の電極取付リング12には、例えば6本の支持腕13が取り付けられ、各支持腕13の先端には、外部電極14が取り付けられているから、甲第1号証には、静電塗装装置の外部電極14の集合体が記載されていることが分かる。

b)上記アa)ないしc)(特に、段落【0041】及び【0049】ないし【0051】)及び図1の記載によれば、静電塗装装置の外部電極14の集合体において、静電場を生じる外部電極14を保持するための支持腕13、及び前記静電塗装装置のハウジング1に前記支持腕13を保持するための電極取付リング12を備えたことが分かる。

ウ 甲1発明
上記ア及び上記イを総合して、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「静電塗装装置の外部電極14の集合体であって、
静電場を生じる外部電極14を保持するための支持腕13、及び
前記静電塗装装置のハウジング1に前記支持腕13を保持するための電極取付リング12を備えた
外部電極14の集合体。」

(2)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、「静電塗装ガン及びその外部帯電電極」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0022】
【発明の実施の態様】
以下、本発明の実施例を図1ないし図7に基づき説明する。
1は本実施例による外部帯電式静電スプレーガンを示し、該スプレーガン1は、手持ち式の例を示しハンドル2、引金3をもって操作される。銃身部4は先端に設けた噴霧化装置5より噴出する塗料を制御すると共に、銃身部4の上部に配置された高電圧発生器6に供給する低電圧電源の入出力を制御して、スプレーガン1の外側に設けた外部電極7の先端電極71に荷電する高電圧を制御している。
【0023】
この実施例の場合噴霧化装置5は圧縮空気で塗料を霧化するエアースプレーガンが示されており、塗料ノズル52の周囲に空気キャップ51が配置され、所望の噴霧パターンが、この空気キャップ51により形成されて被塗装物の塗装を行う。これらの構成は広く知られたスプレーガンの構造が採用されているが、静電塗装においては銃身部4を含め電気的絶縁材料で形成されている。本発明において水系もしくは高導電性塗料が使用され外部に荷電電極を設けたスプレーガンの場合、塗料経路はアース側電位と接続されるため、塗料ノズル52内のニードル弁53は金属性で、後部に位置する前記ハンドル2と電気的に接続されている。通常の静電スプレーガンがそうであるようにハンドルは導電性であり、この実施例の場合は半導電性の樹脂を使用して、作業者が手で操作する場合にアース側電位になるようにしている。
【0024】
高電圧発生器6は図2に示すように、低周波トランス61、コッククロフトウォルトン多段倍電圧整流回路62、保護用高抵抗63が絶縁性樹脂で鋳込まれたカートリッジ64で構成されている。カートリッジ64は低電圧の供給側に入力端子65、高電圧出力側に出力端子66を露出している他は電気的に絶縁強度が維持されている。
【0025】
カートリッジ64は、絶縁材で形成されたスプレーガン1の銃身部4に設けた装着部11に挿入され、前記高電圧発生器6の出力端子66が導線12と接続される。スプレーガン1の銃身部4には別に外部電極の電極接続部13が設けられ、前記導線12の他端が接続端子14として絶縁材の電極接続部13の内側で露出している。
【0026】
電極接続部13に装着される外部電極7は先端部に前記先端電極71を露出させ、後端に着脱部72を設けて全体が絶縁材で形成されている。着脱部72の一端より接続端子73を露出させ、該接続端子73と先端電極71との間を導体74で接続している。外部電極7が銃身部4の電極接続部13に装着されたとき、接続端子73と銃身部4側の接続端子14が接触し電気的に接続される。本実施例では接続を確実に行うため接続端子73がバネの構成をしているが、接続端子14側をバネで形成しても良い。
【0027】
外部電極7は図4に一部を示すように、電極接続部13に差し込み、わずかに回転させることによって係止溝15に係止片75を係止させることで固定され、必要な先端電極位置とした外部電極を配置することができる。この係止方法は本例に限らず、通常使用されている係止手段、すなわち単に差し込み、その寸法精度によって密着し摩擦力で必要な固定力を得ても、変形する係止片と溝のかみ合わせにより係止させ、取り外す際は係止片を開放させて外す方法を用いること等選択が可能である。
【0028】
外部電極7は簡単な構成で、かつ容易に着脱できるため交換が容易に可能で噴霧作業による先端電極部の汚損や万が一の破損があっても直ちに交換ができ、作業の大きな中断をせずに続行することができる。また接続部を噴霧化装置の後部に配したことにより、細くできる外部電極7の先端部のみを噴霧領域側に置くことができ、噴霧に影響を与えない範囲で帯電効果をあげうる近い位置に設置することが可能になっている。
【0029】
更に本発明の大きな特徴は、図3から図5に示されている。
外部電極7の着脱部72は中心部の導体74と接続端子73の周囲に同心状の深い溝76が設けられ、これと嵌合するように銃身部4の電極接続部13も同心状の溝16が形成されている。外部電極7を装着したとき、接続部の沿面長さはこの溝内を折り返しながら、接続部の外表面露出端部77に至る。したがって接続端子73に荷電された高電圧は外表面露出端部77に至るまで充分な沿面距離を確保することができ、外表面露出端部77にアース電位にある物体が接触しても不測の放電や絶縁破壊を防止することができる。
放電を防止する沿面距離は、通常10kV当たり15mm前後を必要とするが、本発明によれば折り返しにより着脱部を短くでき、取扱いやすくできると共に、着脱部の構成を短くできるためにスプレーガン自体の長さも短く構成することが可能となる。
【0030】
外部電極7は、スプレーガン1側に設けられた高電圧発生器6の高電圧出力端子66に制限用高抵抗63を通して出力された高電圧が供給されるために不慮の電撃が防止される構成になっているが、外部電極7に使用される導体74に帯電する静電容量に対しては急激な放電が避けられない。このため図7に示すように外部電極7の先端71電極近傍に第2の高抵抗78を設けることによって、更に安全性を得ることが可能となる。第2の高抵抗78は外部電極7が操作、取り扱い性を低下させない程度にその大きさが選定される。
この様な構成は制限用高抵抗の分散を図り、高電圧発生器6側に設けた高抵抗63の大きさを小さくし、高電圧発生器6そのものの小形化を図り、スプレーガンの小形化、軽量化を更に進めることが可能となる。
【0031】
さらに本発明においては、外部電極7を柔軟性もしくは弾性材料で形成することを提案している。すなわち絶縁性樹脂で成型される電極体70はポリエチレン、等の樹脂で形成することによって不慮の落下、操作中の物体との衝突等による衝撃を避け、噴霧化装置の前方に突出する電極体の破損を守ることができる。
衝撃を避けられず破損に至る場合においても、例えば図7に示すように、外部電極7の一部分に曲げ強度の低い材質部分79を包含させることによって、スプレーガン本体側の電気接続部13より強度を弱くし、簡単な構成で消耗品的に取り扱える電極体のみの破損、交換で済ませ、損害を最小限にとどめることができる。
【0032】
なお外部帯電式静電ガンの使用はいうまでもなく、水系等の導電性塗料が塗装されるもので、噴霧化装置から噴出する塗料の微粒子が、その前方に設けられ噴出する塗料への放電により形成されるイオン化域を通過する際に帯電し、対電極に置かれた被塗装物に向かって塗着し、その効果を向上するもので噴霧化装置は本実施例のエアースプレーガンに限定されるものではない。
【0033】
【発明の効果】
以上の如く、本発明は高電圧発生器を有する手持ち式の静電塗装ガンに、外部電極を簡単に着脱、交換できるようにしたため、手持ち式として各種塗装条件に対応が可能で、操作性、取り扱い性の優れた実用性の高い外部帯電式静電塗装機を得ることができる。
【0034】
また外部電極は着脱部に折り返し部を設けたことにより、短い着脱部により必要な沿面放電防止距離を得ることができ、外部電極体の小形化を図り、かつスプレーガン自体の小形化を図ることができるため設置の容易化、操作性の向上等実用的に使用を継続する上での問題点を改善できる。」(段落【0022】ないし【0034】)

イ 甲第3号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記ア並びに図1及び3ないし7の記載によれば、甲第3号証には、外部帯電式スプレーガン1用の外部電極7が記載されていることが分かる。

b)上記ア(特に、段落【0029】、【0032】及び【0034】)並びに図1及び3ないし7の記載によれば、外部帯電式スプレーガン1用の外部電極7において、外部帯電式スプレーガン1の銃身部4に電極体70を保持するための着脱部72を備え、前記着脱部72は、鉛面距離の延長をなす溝76を有することが分かる。

ウ 甲3-1技術
上記ア及び上記イを総合して、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第3号証には、次の事項からなる技術(以下「甲3-1技術」という。)が記載されていると認める。

「外部帯電式スプレーガン1用の外部電極7において、
外部帯電式スプレーガン1の銃身部4に電極体70を保持するための着脱部72を備え、
前記着脱部72は、鉛面距離の延長をなす溝76を有する技術。」

(3)対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明における「静電塗装装置」は、本件発明1における「静電噴霧器」に相当し、以下同様に、「外部電極14の集合体」は「電極集合体」に、「静電場を生じる外部電極14」は「静電場を生じる少なくとも1つの電極」に、「支持腕13」は「電極保持装置」に、「ハウジング1」は「噴霧器筐体要素」に、「電極取付リング12」は「接続区域」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「静電噴霧器用の電極集合体であって、
静電場を生じる少なくとも1つの電極を保持するための電極保持装置、及び
前記静電噴霧器の噴霧器筐体要素に前記電極保持装置を保持するための接続区域を備えた、電極集合体。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本件発明1においては、「接続区域は、放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を有する」のに対して、甲1発明においては、「電極取付リング12」が、そのようなものであるか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

(4)判断
ア 上記相違点の判断にあたり、まず、本件発明1における「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路」について、その技術的意味を検討すると、本件出願の願書に添付された明細書の段落【0034】ないし【0037】、【0048】、【0111】、【0112】及び【0201】ないし【0203】並びに図1ないし3、5、10a及び12aないし12eの記載によれば、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が接続区域の箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものと認められる。

イ 次に、甲3-1技術について、本件発明1の用語で表現するために本件発明1との対応関係を検討する。
・甲3-1技術における「外部帯電式スプレーガン1」は本件発明1における「静電噴霧器」に相当し、以下同様に、「銃身部4」は「噴霧器筐体要素」に、「電極体70」は「電極保持装置」に、「着脱部72」は「接続区域」に、それぞれ相当する。
・甲3-1技術における「外部電極7」は、本件発明1における「電極集合体」に、「電極構造体」という限りにおいて一致する。
・甲3-1技術における「着脱部72は、鉛面距離の延長をなす溝76を有する」は、本件発明1における「接続区域は、放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を有する」に、「接続区域は、放電路の延長をなす手段を有する」という限りにおいて一致する。
そうすると、甲3-1技術は、本件発明1の用語を用いて表現すると、「静電噴霧器用の電極構造体において、
静電噴霧器の噴霧器筐体要素に電極保持装置を保持するための接続区域を備え、
前記接続区域は、放電路の延長をなす手段を有する技術。」といえる。

ウ そこで相違点について検討すると、甲3-1技術において、「着脱部72は、鉛面距離の延長をなす溝76を有する(本件発明1の用語で表すと、「接続区域は、放電路の延長をなす手段を有する」といえる。)」という事項は、甲第3号証の段落【0029】に記載されているように、着脱部72(本件発明1の「接続区域」に相当。)と銃身部4の電極接続部13との接続部の外表面露出端部77にアース電位にある物体が接触しても、着脱部72に設けられた接続端子73に荷電された高電圧による不測の放電や絶縁破壊を防止するためのものであって、外部帯電式スプレーガン1(本件発明1の「静電噴霧器」に相当。)の内部から外部に向かう放電を防止するためのものであり、本件発明1のように、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が接続区域の箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものではない。
一方、甲1発明において、外部電極14(本件発明1の「電極」に相当。)の先端から静電塗装装置(本件発明1の「静電噴霧器」に相当。)の外部に放電された放電電流が電極取付リング12(本件発明1の「接続区域」に相当。)の箇所から静電塗装装置の内部に回り込むことを防止する課題を有することは、甲第1号証には記載も示唆もされておらず、技術常識を考慮しても明らかであるとはいえない(これについて、甲第1号証の段落【0049】及び図1には、外部電極14は、電極取付リング12よりもアース電位となる回転霧化頭3に近接していることが記載されていることからみても、甲1発明において、上記課題を有するものとはいえない。)。
そうすると、甲1発明において、甲3-1技術を適用する動機付けはないものというべきである。

エ 仮に、甲1発明において、甲3-1技術を適用することができたとしても、甲1発明が、もともと外部電極14の先端から静電塗装装置の外部に放電された放電電流が電極取付リング12の箇所から静電塗装装置の内部に回り込むものであるとはいえない以上、電極取付リング12に設けた鉛面距離の延長をなす溝(本件発明1の用語で表すと、「放電路の延長をなす手段」といえる。)が必ずしも放電電流用の回り込み防止を図るものになるとまではいえず、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項とはならない。

オ よって、甲1発明及び甲3-1技術に基づいて、相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(5)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲3-1技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 理由2について
(1)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、「INTEGRATED CHARGE RING」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0017] In a known and conventional way, the high-speed rotary atomizer shown schematically in FIG. 1 contains in its outer housing body 1 with the illustrated, essentially hollow cylindrical shape a turbine 2 driven with compressed air. The cone plate 4 rotating in front of the front end of the housing body 1 is mounted on the hollow shaft 3 of this turbine. The line for the coating material to the cone plate 4 runs through the hollow shaft 3 in a known way in an paint tube construction 5.
・・・中略・・・
[0036] With the two electrode arrangements separated from each other in the described way, an improved regulation behavior can be achieved, because the operating current (for a large part flowing into the grounded cone plate) is better distributed. In addition, in principle, similarly to the known combined internal and external charging (DE 4105116), the charging is improved, but preferably with a grounded cone plate, wherein the front electrode ring with the needle electrodes 105 is used primarily for charging the coating material and the rear and external electrode ring is also used for guidance and shielding of the spray jet. Preferably, the two (or more) separate electrode arrangements of the described type are each connected to a separate high-voltage generator and set to different potentials, wherein the electrodes lying closer to the spray head, as a rule, are at a lower potential. However, it is also possible to connect the two electrode arrangements to a common high-voltage generator. 」(段落[0017]ないし[0036])

<翻訳文>特許異議申立人が平成28年2月18日に回答書により提出した甲第2号証の翻訳文は以下のとおりである。
「[0017] 既知且つ従来の方法では、概略的に図1に示す高速回転噴霧器は、図示の基本的に中空の円筒形状を有するその外側ハウジング本体1の中に、圧縮空気によって駆動されるタービン2を収容している。ハウジング本体1の前端の前方で回転するコーンプレート4は、このタービンの中空軸3上に取り付けられる。コーンプレート4への被覆材料の管路は、塗料管構造5における既知の方法で中空軸3を通過する。
[0018] 高電圧供給装置用のホルダ本体6は、ハウジング本体1の後端上に配置される。このホルダ本体は、ハウジング本体1をその円筒形リング部61と共に同心状に取り囲み、半径方向に延びるその端壁62上に、高電圧ケーブルホルダ63が軸方向外側に配置される。
[0019] ハウジング本体1のコーンプレート4に面する側で、ホルダ本体6に隣接するハウジング本体の周辺領域にリング本体8が設置され、その後端上の突起81には、噴霧器の回転軸の周囲に均等に分布した孔が形成されている。突起は、ホルダ本体6内に軸方向平行に延在する。リング本体8の外面とホルダ本体6は、連続した隙間のない移行部を形成する。ハウジング本体1、リング本体8、及びホルダ本体6は、絶縁材料からなる。特に、本体1及び6、しかし、リング本体8もまた、その表面特性によって比較的汚染されにくいPTFEで構成することができる。
[0020] 図示のタイプの噴霧器のコーンプレート4は有利な高電圧での直接充電に使用することができるが、ここでは、その回動端から半径方向に噴霧される被覆材料は最初は充電されておらず、噴霧器の外側の電界によって充電されるものとする。このため、回転軸を取り囲む針電極10のカラーは、均一な角度間隔で同心円上にリング本体8に埋め込まれる。図示の実施例の電極は噴霧器の前端に位置しているため、被覆対象物に面するチップは回転軸と平行である。代わりに、それらの電極は、回転軸の方向に対して斜めに、又は回転軸の方向からそれた向きに配置することもできる。
[0021] 有利なことに、電極は、それらのチップの端部が隙間なく(休みなく)端部を取り囲む絶縁リング部の端面82又はその他の面、従ってここではリング本体8とぴったり重なるように埋め込むことができるので、電極チップは汚染されず、リング本体の周囲表面領域の場合により必要な洗浄が妨げられることがない。ここで、1つの可能性として、例えば、セラミック、又は同様に高強度特性を有する他の何らかの材料からなる、電極チップの領域のリング本体又はその表面を形成すること、及び、針チップで発生する可能性がある静電界への大きな悪影響もなく可能である、しっかりと挿入された電極との非積極嵌合を形成することが考えられる。別の可能性として、静電界を弱めない量で鋳造することができる、又は任意に薄型保護膜で覆うこともできる、周囲絶縁表面の中空への針チップの配置が考えられる。
[0022] 針電極10は、リング本体8の突起81の孔に挿入された充電用抵抗器12を介して、ホルダ本体6に絶縁状態で存在し、半径方向に配置された1つ以上のその他の高電圧コンダクタ15と、ケーブルホルダ63内に位置する別の抵抗器16を収容することができる軸方向接続装置とを介して、その側面で高電圧ケーブル17に接続される、回転軸と同心の円形リングコンダクタ14に電気的に接続することができる。リングコンダクタ14は、全ての電極10をケーブル17に接続する。
[0023] 対応する充電用抵抗器を各々が有する多数の帯電用電極の均一分布は、とりわけ、動作中、電極配置が、アーク放電又は短絡につながる可能性がある接地した加工物に容認できないほど近く接近した場合のプロセス信頼性を向上させる。この状況は、高電圧発生器の電子制御及び調整回路による既知の方法で避けられる。しかしながら、各々の電極を別個の充電用抵抗器に割り当てる代わりに、2つ以上の電極を共通の充電用抵抗器を介して噴霧器の高電圧供給装置に接続することも可能である。
[0024] 一般的に小型カスケード構造からなる高電圧発生器は、外部ケーブル(例えば17)を介して電極配置に接続してはいけないが、その代わりに、直接噴霧器の中又は上に組み込むこともできる。各々の電極又は個々の電極群に対して、例えば、突起81の孔と同様の電極付近の凹部に、別個の高電圧発生器を備えることも可能である。
[0025] 噴霧器の回転軸、ひいてはコーンプレート4のスプレーエッジ4’から針電極10のチップの半径方向距離が現在一般的な同等の噴霧器よりも著しく小さいことがわかる。スプレーエッジ4’から電極チップの半径方向距離は、図示の実施例では、例えば、その半径方向距離がエッジ直径の2倍より大きくなければいけないEP0171042及び0238031とは対照的に、その直径よりも小さい。外部充電で機能する空気噴霧器では、同様の状況は、スプレーヘッドの周辺部の導電部から噴霧器の長手方向軸、即ち、塗料ノズルの中心軸の周囲に分布した帯電用電極の半径方向距離が同様に小さくなければいけないという条件に当てはまる。更にまた、電極チップを、コーンプレート4のスプレーエッジ4’の後ろ(又はスプレーヘッド、例えば、空気噴霧器の導電部の後ろ)に、場合により接地したスプレーヘッドと電極配置の間の必要な空隙分離経路が維持され、且つ、給気を通してそれらの間を流れるイオン電流が許容値に限定されているような距離だけ軸方向に後退させることが必要である。プロセスの安全性に必要な制御及び調整手段に関して、噴霧器の関連構成要素の信頼性の高い接地が重要になるはずであり、これらの構成要素、例えば、とりわけ、スプレーヘッド及び隣接する構成要素に被覆材料を供給する管路は、有利には、プラスチック又はセラミック等の低導電又は非導電材料から構成することができる。
[0026] 図2では、基本的に図1に対応する噴霧器の電極配置が、ここでは、例えば、12個の電極チップ102が、ハウジング本体1’上に配置されたリング本体8’の端面82の回転軸周囲に均一に分布して三次元的に示されている。
[0027] 更にまた、ハウジング本体1’の前部開口部に挿入された誘導空気リング20が、図2で回転軸の周囲に同心状にカラーに分布した空気ノズル21を有して見ることができる。誘導空気リングは、スプレージェットを所望の形状にする、及び被覆対象物に向かう方向の軸方向成分を噴霧した被覆材料に与えるという既知の機能を有する。誘導空気は、噴霧した塗料粒子を乾燥させ、ひいてはスプレーエッジからの距離の増加と共に充電能力を低下させるので、特に既知の噴霧器では、不良な充電の理由となり得る。本発明によれば、スプレーエッジでの、従ってまだ基本的に「湿った」状態の塗料滴が電極配置の半径方向近接性による高い電気力線密度の領域に直接導かれると、その位置で特に強くイオン化された空気によって容易に充電することができるので、有利であることがわかった。
[0028] スプレーヘッド、ひいてはそこで噴霧された塗料粒子に向かう方向の追加の運動成分を、リング本体8等の、好ましくは直接電極チップ又はその付近に電極チップを収容するリング部に位置する、回転軸と同心のノズル状(図示せず)空気孔の別のカラーを通して電極チップによってイオン化された空気分子のイオン流に与えることが有利であり得る。外側ハウジング、図1では、外側ハウジング本体1の表面上のジャケットのように有利に誘導されたこの空気は、この領域における外側ハウジングの汚染を同時に防ぎ、加工物に向かって軸方向にそれた塗料粒子の更なる誘導装置としても使用することができる。空気孔のカラーの代わりに、円形環状のノズル状空隙もまた設けることができる。
[0029] 空気の代わりに、説明したノズル構成には、別の適切な誘導ガスを供給することもできる。更に、電極チップの領域の空気分子の導電率の増加には、所望のノズル構成からの、ガス、例えば、水分が増加した空気又は導電率を増加させるガスを吹き付けること、及び/又は、導電率を増加させるガスを吐出した空気に添加することが意味を持ち得る。コロナ効果を増加させるガスの使用もまた考えられる。
[0030] 噴霧器ハウジングの外側の導電塗料粒子層は、噴霧器の電極と接地部の間の導電性ブリッジを形成することができる。噴霧器ハウジングの周囲の空気又はガスジャケットと同様に、ハウジングの汚染は、多孔質通気性材料(導入で挙げたEP0283918も参照)のジャケットで噴霧器のハウジング、好ましくは外面全体を取り囲むことによって防止することもできる。噴霧器の外側の汚染又は自己被覆に対する別の可能な手段は、湿潤性の特に低い特性を有する、及び/又は、汚染リスクが低いという意味において静電荷に影響を及ぼす材料から、ハウジング及び/又はその他の繊細な外側部分の表面を製造することである。特に水溶性塗料に関して界面化学から既知のその他の材料又は被覆剤、例えば、既知のロータス効果を有する材料に加えて、同様に微細構造表面が適している(それはPTFEによって実現することもできる)ことがわかった。
[0031] ここで説明した実施形態の針電極の代わりに、関連する絶縁リング部において、境界の明瞭なナイフエッジを有する噴霧器軸と同心の円形電極リングを使用することもまた考えられる。
[0032] 図3は、図2から修正した実施形態を示しており、外側ハウジング30は、例えば、ハウジングと一体として形成され、且つ、スプレーヘッドの後部上にシールド(ここでは、コーンプレート34)のようにその前端で軸方向に突出するエンドリング31を有して延在する。従来のように、金属又は他の何らかの導電材料から構成することができるコーンプレート34は、電極チップ103及び最大電気力線密度の領域に直接対向しないように、エンドリング31によって遮蔽される。従って、エンドリング31は、コーンプレートと電極チップの間の直接(直線)接続経路に存在する。これらの手段によって、電極チップをコーンプレート又はスプレーヘッド付近の軸方向に配置することが可能である。更に、図3は、電極チップ103の数を図2よりも更に増やすことが可能であることを示している。
[0033] 図4に従った、本発明及び図3の実施形態の改良では、噴霧器の外側ハウジング40の周辺部は、図示のトラフ状形状を有する軸方向に細長い凹部42を収容しており、その後端で、回転軸の周囲に分布した針電極104のうちの1つのチップが露出している。凹部のトラフ形状は、できるだけ簡単に洗浄しなければならない。それらの凹部42にそのチップが沈み込んだ電極104は、例えば、図1のように、別個のリング本体に、又は代わりに直接外側ハウジング40自体にも埋め込むことができる。リング本体又は外側ハウジングは、電極チップを半径方向に取り囲み、従って被覆対象物に面する、且つ、それらの端部でトラフ状凹部42に接する端面領域84を形成する。図3と同様に、ここでは、コーンプレート44自体が、高過ぎる電気力線集中に対して軸方向に延在するエンドリング41によって(噴霧した塗料粒子とは対照的に)同じく遮蔽される。
[0034] 本発明の噴霧器の図5に図示した別の実施形態は、噴霧器の後部において、特に高電圧供給装置に関して、図1の実施形態に対応している。しかしながら、針電極10’は、図1のように別個のリング本体には位置していないが、その代わりに、図1のように、ハウジング本体1’の前方周縁部に移行する円形の連続した端面82’を形成する、リング本体8上に同様に形成された外側ハウジング本体1’の部分8’に位置している。
[0035] 更にまた、図5に示す実施形態に関する本発明の改良では、電極10’に加えて、回転軸の周囲に等しい相互角度間隔で同心状に分布した針電極105のうちのこの1つと同様の第2の配置が示されている。針電極105及び/又は電極10’は、図示通りに軸方向平行に存在してもよく、又は、長手方向と有利な角度を形成してもよい。針電極105は、ハウジング本体1’自体の周壁を形成するリング部8”、又はその代わりにハウジング本体上に配置された別個のリング本体に、図示通りの電極10’のように同様に埋め込むことができる。この更なる電極配置のイオン化端部は、好ましくは、これらとコーンプレート54の間にオフセットされた電極10’の端部に対して軸方向に存在する半径方向平面に存在し、図示するように、回転軸からのそれらの半径方向距離は、後方電極10’のイオン化端部のものよりも小さくなり得る。電極105は、電極10’と同様に、充電用抵抗器56を介して、回転軸と同心のリング部8”に位置決めされ、その側面が図示しない方法で高電圧装置に接続される、リングコンダクタ57に接続される。
[0036] 説明した方法で互いに区別される2つの電極配置によって、動作電流(その大部分が接地したコーンプレートに流れ込む)がより良好に分布するので、改善された調整挙動を達成することができる。更に、原則として、既知の内部及び外部充電の組み合わせ(DE4105116)と同様に、充電が向上するが、好ましくは接地したコーンプレートによるものであり、そこでは、針電極105を有する前方電極リングが主に被覆材料の充電に使用され、後方及び外部電極リングは更にスプレージェットの誘導及び保護に使用される。好ましくは、説明したタイプの2つ(又はそれ以上)の別個の電極配置は、各々別個の高電圧発生器に接続され、異なる電位に設定されており、スプレーヘッド付近に存在する電極は、概して、より低い電位である。しかしながら、2つの電極配置を共通の高電圧発生器に接続することも可能である。」

イ 甲第2号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023]及び[0026])並びにFIG-1及び2の記載によれば、静電界を用いた噴霧器において、リング本体8には、複数個の針電極10の電極チップ102が回転軸周囲に均一に分布して配置されているから、甲第2号証には、静電界を用いた噴霧器の電極集合体が記載されていることが分かる。

b)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023])並びにFIG-1及び2の記載によれば、静電界を用いた噴霧器用の電極集合体において、静電界を生じる少なくとも1つの針電極10を保持するためのリング本体8、及び前記静電界を用いた噴霧器のホルダ本体6に前記リング本体8を保持するための突起81を備えたことが分かる。

ウ 甲2-1発明
上記ア及び上記イを総合して、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第2号証には、次の事項からなる発明(以下「甲2-1発明」という。)が記載されていると認める。

「静電界を用いた噴霧器用の電極集合体であって、
静電界を生じる少なくとも1つの針電極10を保持するためのリング本体8、及び
前記静電界を用いた噴霧器のホルダ本体6に前記リング本体8を保持するための突起81を備えた
電極集合体。」

(2)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項
甲第3号証の記載事項は、前記1(2)アに記載したとおりである。

イ 甲第3号証の記載事項及び図面の記載から分かること
甲第3号証の記載事項及び図面の記載から分かることは、前記1(2)イに記載したとおりである。

ウ 甲3-1技術
甲3-1技術は、前記1(2)ウに記載したとおりである。

(3)対比
本件発明1と甲2-1発明とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲2-1発明における「静電界を用いた噴霧器」は、本件発明1における「静電噴霧器」に相当し、以下同様に、「電極集合体」は「電極集合体」に、「静電界を生じる少なくとも1つの針電極10」は「静電場を生じる少なくとも1つの電極」に、「リング本体8」は「電極保持装置」に、「ホルダ本体6」は「噴霧器筐体要素」に、「突起81」は「接続区域」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「静電噴霧器用の電極集合体であって、
静電場を生じる少なくとも1つの電極を保持するための電極保持装置、及び
前記静電噴霧器の噴霧器筐体要素に前記電極保持装置を保持するための接続区域を備えた、電極集合体。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本件発明1においては、「接続区域は、放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を有する」のに対して、甲2-1発明においては、「突起81」が、そのようなものであるか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

(4)判断
ア 前記1(4)アの検討によれば、本件発明1における「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路」は、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が接続区域の箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものと認められる。

イ 前記1(4)イの検討によれば、甲3-1技術は、本件発明1の用語を用いて表現すると、「静電噴霧器用の電極構造体において、
静電噴霧器の噴霧器筐体要素に電極保持装置を保持するための接続区域を備え、
前記接続区域は、放電路の延長をなす手段を有する技術。」といえる。

ウ そこで相違点について検討すると、甲3-1技術において、「着脱部72は、鉛面距離の延長をなす溝76を有する(本件発明1の用語で表すと、「接続区域は、放電路の延長をなす手段を有する」といえる。)」という事項は、甲第3号証の段落【0029】に記載されているように、着脱部72(本件発明1の「接続区域」に相当。)と銃身部4の電極接続部13との接続部の外表面露出端部77にアース電位にある物体が接触しても、着脱部72に設けられた接続端子73に荷電された高電圧による不測の放電や絶縁破壊を防止するためのものであって、外部帯電式スプレーガン1(本件発明1の「静電噴霧器」に相当。)の内部から外部に向かう放電を防止するためのものであり、本件発明1のように、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が接続区域の箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものではない。
一方、甲2-1発明において、針電極10(本件発明1の「電極」に相当。)の先端から静電界を用いた噴霧器(本件発明1の「静電噴霧器」に相当。)の外部に放電された放電電流が突起81(本件発明1の「接続区域」に相当。)の箇所から静電界を用いた噴霧器の内部に回り込むことを防止する課題を有することは、甲第2号証には記載も示唆もされておらず、技術常識を考慮しても明らかであるとはいえない。
そうすると、甲2-1発明において、甲3-1技術を適用する動機付けはないものというべきである。

エ 仮に、甲2-1発明において、甲3-1技術を適用することができたとしても、甲2-1発明が、もともと針電極10の先端から静電界を用いた噴霧器の外部に放電された放電電流が突起81の箇所から静電界を用いた噴霧器の内部に回り込むものであるとはいえない以上、突起81に設けた鉛面距離の延長をなす溝(本件発明1の用語で表すと、「放電路の延長をなす手段」といえる。)が必ずしも放電電流用の回り込み防止を図るものになるとまではいえず、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項とはならない。

オ よって、甲2-1発明及び甲3-1技術に基づいて、相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(5)まとめ
したがって、本件発明1は、甲2-1発明及び甲3-1技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 理由3について
(1)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証の記載事項は、前記2(1)アに記載したとおりである。

イ 甲第2号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023]及び[0026])並びにFIG-1及び2の記載によれば、静電界を用いた噴霧器において、リング本体8には、複数個の針電極10の電極チップ102が回転軸周囲に均一に分布して配置されており、また、リング本体8の後端上の突起81は、ホルダ本体6内に軸方向平行に延在することで、リング本体8は、ホルダ本体6に保持されているから、甲第2号証には、静電界を用いた噴霧器用の電極集合体を保持するためのホルダ本体6が記載されていることが分かる。

b)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023])並びにFIG-1及び2の記載によれば、静電界を用いた噴霧器は、第1の直径(最外径)を持つハウジング本体1を有する噴霧器筐体を備えることが分かる。

c)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023])並びにFIG-1及び2の記載によれば、ハウジング本体1の中にタービン2が収容され、タービン2の中空軸3上にコーンプレート4が取り付けられているから、ホルダ本体6において、ハウジング本体1はコーンプレート4用のタービン2を受け入れ又は覆うために適していることが分かる。

d)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023])並びにFIG-1及び2(特に、FIG-1)の記載によれば、ホルダ本体6は、ハウジング本体1における第1の直径(但し、最外径。)とは異なる第2の直径(但し、最外径。)を有することが分かる。

e)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023])並びにFIG-1及び2の記載によれば、ホルダ本体6において、ハウジング本体1における第1の直径とホルダ本体6における第2の直径との差により定められる区域に前記電極集合体を保持するための円筒形リング部61が設けられたことが分かる。

ウ 甲2-2発明
上記ア及び上記イを総合して、本件発明18の表現にならって整理すると、甲第2号証には、次の事項からなる発明(以下「甲2-2発明」という。)が記載されていると認める。

「静電界を用いた噴霧器用の電極集合体を保持するためのホルダ本体6であって、
前記静電界を用いた噴霧器は第1の直径を持つハウジング本体1を有する噴霧器筐体を備え、
前記ハウジング本体1はコーンプレート4用のタービン2を受け入れ又は覆うために適しており、
前記ホルダ本体6は、前記第1の直径とは異なる第2の直径を有し、
前記第1の直径と前記第2の直径との差により定められる区域に前記電極集合体を保持するための円筒形リング部61が設けられた、ホルダ本体6。」

(2)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項
甲第3号証の記載事項は、前記1(2)アに記載したとおりである。

イ 甲第3号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記ア並びに図1及び3ないし7の記載によれば、甲第3号証には、外外部帯電式スプレーガン1用の外部電極7を保持するための銃身部4が記載されていることが分かる。

b)上記ア(特に、段落【0029】、【0032】及び【0034】)並びに図1及び3ないし7の記載によれば、外部帯電式スプレーガン1用の外部電極7を保持するための銃身部4において、外部電極7を保持するための電極接続部13が定められており、電極接続部13は、鉛面距離の延長をなす溝76を有することが分かる。

ウ 甲3-2技術
上記ア及び上記イを総合して、本件発明18の表現にならって整理すると、甲第3号証には、次の事項からなる技術(以下「甲3-2技術」という。)が記載されていると認める。

「外部帯電式スプレーガン1用の外部電極7を保持するための銃身部4において、
前記外部電極7を保持するための電極接続部13が定められており、
前記電極接続部13は、鉛面距離の延長をなす溝76を有する技術。」

(3)対比
本件発明18と甲2-2発明とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲2-2発明における「静電界を用いた噴霧器」は、本件発明18における「静電噴霧器」に相当し、以下同様に、「電極集合体」は「電極集合体」に、「第1の直径」は「第1の直径」に、「コーンプレート4」は「スプレー要素」に、「タービン2」は「支持装置」に、「第2の直径」は「第2の直径」に、「円筒形リング部61」は「電極保持区域」に、それぞれ相当する。

・本件出願の願書に添付された特許請求の範囲における【請求項18】、明細書の段落【0043】、【0044】、【0123】及び【0127】並びに図1及び2の記載を参酌すると、本件発明18における「噴霧器筐体要素」及び「筐体要素」は、「噴霧器筐体」を構成するものであるところ、甲2-2発明における「ホルダ本体6」及び「ハウジング本体1」も「噴霧器筐体」を構成するものであるから、甲2-2発明における「ホルダ本体6」は本件発明18における「噴霧器筐体要素」に相当し、以下同様に、「ハウジング本体1」は「筐体要素」に、「噴霧器筐体」は「噴霧器筐体」に、それぞれ相当する。

・甲2-2発明における「第1の直径と前記第2の直径との差により定められる区域に前記電極集合体を保持するための円筒形リング部61が設けられた」は、本件発明18における「第1の直径と前記第2の直径との差により前記電極集合体を保持するための電極保持区域が定められており」に相当する。

したがって、両者は、
「静電噴霧器用の電極集合体を保持するための噴霧器筐体要素であって、
前記静電噴霧器は第1の直径を持つ筐体要素を有する噴霧器筐体を備え、
前記筐体要素はスプレー要素用の支持装置を受け入れ又は覆うために適しており、
前記噴霧器筐体要素は、前記第1の直径とは異なる第2の直径を有し、
前記第1の直径と前記第2の直径との差により前記電極集合体を保持するための電極保持区域が定められた、噴霧器筐体要素」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本件発明18においては、「電極保持区域は、放電路の延長をなす放電電流用の少なくとも1つの回り込み防止回路を有する」のに対して、甲2-2発明においては、「電極保持区域」が、そのようなものであるか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

(4)判断
ア 上記相違点の判断にあたり、まず、本件発明18における「放電路の延長をなす放電電流用の少なくとも1つの回り込み防止回路」について、その技術的意味を検討すると、本件出願の願書に添付された明細書の段落【0034】ないし【0037】、【0048】、【0055】、【0111】、【0112】及び【0201】ないし【0203】並びに図1ないし3、5、10a及び12aないし12eの記載によれば、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が電極保持区域の箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものと認められる。

イ 次に、甲3-2技術について、本件発明18の用語で表現するために本件発明18との対応関係を検討する。
・甲3-2技術における「外部帯電式スプレーガン1」は本件発明18における「静電噴霧器」に相当し、以下同様に、「銃身部4」は「噴霧器筐体要素」に、「電極接続部13」は「電極保持区域」に、それぞれ相当する。
・甲3-2技術における「外部電極7」は、本件発明18における「電極集合体」に、「電極構造体」という限りにおいて一致する。
・甲3-2技術における「電極接続部13は、鉛面距離の延長をなす溝76を有する」は、本件発明18における「電極保持区域は、放電路の延長をなす放電電流用の少なくとも1つの回り込み防止回路を有する」に、「電極保持区域は、放電路の延長をなす少なくとも1つの手段を有する」という限りにおいて一致する。
そうすると、甲3-2技術は、本件発明18の用語を用いて表現すると、「静電噴霧器用の電極集合体を保持するための噴霧器筐体要素において、
前記電極集合体を保持するための電極保持区域が定められており、
前記電極保持区域は、放電路の延長をなす少なくとも1つの手段を有する技術。」といえる。

ウ そこで相違点について検討すると、甲3-2技術において、「電極接続部13は、鉛面距離の延長をなす溝76を有する(本件発明18の用語で表すと、「電極保持区域は、放電路の延長をなす少なくとも1つの手段を有する」といえる。)」という事項は、甲第3号証の段落【0029】に記載されているように、着脱部72と銃身部4の電極接続部13(本件発明18の「電極保持区域」に相当。)との接続部の外表面露出端部77にアース電位にある物体が接触しても、着脱部72に設けられた接続端子73に荷電された高電圧による不測の放電や絶縁破壊を防止するためのものであって、外部帯電式スプレーガン1(本件発明18の「静電噴霧器」に相当。)の内部から外部に向かう放電を防止するためのものであり、本件発明18のように、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が電極保持区域の箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものではない。
一方、甲2-2発明において、針電極10の先端から静電界を用いた噴霧器(本件発明18の「静電噴霧器」に相当。)の外部に放電された放電電流が円筒形リング部61(本件発明18の「電極保持区域」に相当。)の箇所から静電界を用いた噴霧器の内部に回り込むことを防止する課題を有することは、甲第2号証には記載も示唆もされておらず、技術常識を考慮しても明らかであるとはいえない。
そうすると、甲2-2発明において、甲3-2技術を適用する動機付けはないものというべきである。

エ 仮に、甲2-2発明において、甲3-2技術を適用することができたとしても、甲2-2発明が、もともと針電極10の先端から静電界を用いた噴霧器の外部に放電された放電電流が円筒形リング部61の箇所から静電界を用いた噴霧器の内部に回り込むものであるとはいえない以上、円筒形リング部61に設けた鉛面距離の延長をなす溝(本件発明18の用語で表すと、「放電路の延長をなす少なくとも1つの手段」といえる。)が必ずしも放電電流用の回り込み防止を図るものになるとまではいえず、上記相違点に係る本件発明18の発明特定事項とはならない。

オ よって、甲2-2発明及び甲3-2技術に基づいて、相違点に係る本件発明18の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(5)まとめ
したがって、本件発明18は、甲2-2発明及び甲3-2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


4 理由4について
(1)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証の記載事項は、前記2(1)アに記載したとおりである。

イ 甲第2号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023])並びにFIG-1及び2の記載によれば、甲第2号証には、静電界を用いた噴霧器用の噴霧器筐体が記載されていることが分かる。

b)上記ア(特に、段落[0017]ないし[0023])並びにFIG-1及び2の記載によれば、静電界を用いた噴霧器用の噴霧器筐体において、コーンプレート4用のタービン2を受け入れ又は覆うための第1の直径を有するハウジング本体1を備えることが分かる。

ウ 甲2-3発明
上記ア及び上記イを総合して、本件発明28の表現にならって整理すると、甲第2号証には、次の事項からなる発明(以下「甲2-3発明」という。)が記載されていると認める。

「コーンプレート4用のタービン2を受け入れ又は覆うための第1の直径を有するハウジング本体1を備える、静電界を用いた噴霧器用の噴霧器筐体。」

(2)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、「塗装装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0034】
【実施例】以下、図1ないし図8に本発明の実施例による塗装装置として回転霧化型塗装機を用いた塗装装置を例に挙げて説明する。
【0035】まず、図1および図2に本発明の第1の実施例を示す。
【0036】図において、41は本実施例による塗装装置を示し、該塗装装置41は、後述する塗装機本体42,トリガ弁49,ダンプ弁50,色替弁装置55から大略構成されている。
【0037】42は塗装装置41の塗装機本体を示し、該塗装機本体42は、段付筒状に形成されたハウジング43と、該ハウジング43の前部側に内蔵され、エア軸受44Aに回転自在に支持された中空の回転軸44Bをエアタービン44Cで回転駆動するエアモータ44と、該塗装機本体の前端部に位置して該エアモータ44の回転軸44B先端に取付けられた塗料噴霧手段としての回転霧化頭45と、前記ハウジング43を覆うように設けられたフロントカバー46とから大略構成されている。そして、前記ハウジング43内には、上流側が色替弁装置55のマニホールド56に接続され、下流側が前記エアモータ44の回転軸44B内を軸方向に伸長するフィードチューブ47Aとなった塗料通路としての塗料管路47が設けられている。また、前記フロントカバー46の後端側には、後述するリヤカバー52が螺着されるねじ部46Aが形成されている。
【0038】48は塗装機本体42の後部側に取付けられた弁組立体を示し、該弁組立体48は、塗料管路47の途中に設けられたトリガ弁49と、該トリガ弁49に接続されたダンプ弁50とから構成され、該ダンプ弁50は排液配管51を介して廃液タンク(図示せず)に接続されている。また、前記トリガ弁49およびダンプ弁50は、図2に示す如く、それぞれ2ポート2位置のパイロットエア式開閉弁として構成され、トリガ弁49は色替弁装置55から供給される塗料を回転霧化頭45側に供給するときに開弁し、ダンプ弁50は色替洗浄時に前色塗料やシンナを排出するときに開弁する。
【0039】52は塗装機本体41の後部側に設けられたリヤカバーで、該リヤカバー52は塗装機本体42の後方に向けて伸長する筒状に形成され、前端側に形成されたねじ部52Aを介してフロントカバー46のねじ部46Aに螺着されている。
【0040】53はリヤカバー52の後端部を閉塞したキャップで、該キャップ53にはインシュレートサポート54が一体に固着され、該インシュレートサポート54は、塗装装置41をレシプロケータの往復動アーム(いずれも図示せず)に接続するものである。
【0041】55はリヤカバー52内に位置して後部側に組付けられた色替弁装置を示し、該色替弁装置55は、マニホールド56と、該マニホールド56に取付けられた3ポート2位置のパイロットエア式切換弁からなるA色,B色,…M色,N色の塗料弁57A,57B,…57M,57Nと、前記マニホールド56の最上流部に取付けられた2ポート2位置のパイロットエア式開閉弁からなるエア弁58,シンナ弁59とから大略構成されている。また、前記塗料弁57A,57B,…57M,57Nには、A色,B色,…M色,N色の塗料が流通する塗料配管60A,60B,…60M,60Nが接続され、前記エア弁58,シンナ弁59はエア源A,シンナ源Tに接続されている。
【0042】61A,61B,…61M,61Nはリヤカバー52外であって塗料弁57A,57B,…57M,57Nの上流側に離間して位置し、塗料配管60A,60B,…60M,60Nの途中に設けられた容積型ポンプとしてのギヤポンプで、該ギヤポンプ61A,61B,…61M,61Nは、駆動モータによって駆動されることにより、塗料源(いずれも図示せず)からの塗料を塗料弁57A,57B,…57M,57N側に定量吐出するものである。
【0043】62は色替弁装置55とトリガ弁49とを接続する塗料供給配管で、該塗料供給配管62の長さ寸法は極めて短尺であって、実質的には零に近いものとなっている。」(段落【0034】ないし【0043】)

イ 甲第4号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記ア(特に、段落【0037】及び【0039】)及び図1の記載によれば、フロントカバー46、リアカバー52及びキャップ53により塗装装置41用の筐体が形成されていることから、甲第4号証には、フロントカバー46を備える、塗装装置41用の筐体が記載されていることが分かる。

b)上記ア(特に、段落【0037】、【0039】及び【0040】)及び図1の記載によれば、フロントカバー46は、回転霧化頭45用のハウジング43及びエアモータ44を受け入れ又は覆うための第1の直径を有することが分かる。

c)上記ア(特に、段落【0037】、【0039】及び【0040】)及び図1の記載によれば、塗装装置41用の筐体において、フロントカバー46に、リヤカバー52のねじ部52Aに螺着されるねじ部46Aを備えることが分かる。

ウ 甲4技術
上記ア及び上記イを総合して、本件発明28の表現にならって整理すると、甲第4号証には、次の事項からなる技術(以下「甲4技術」という。)が記載されていると認める。

「回転霧化頭45用のハウジング43及びエアモータ44を受け入れ又は覆うための第1の直径を有するフロントカバー46を備える、塗装装置41用の筐体において、
前記フロントカバー46に、リヤカバー52のねじ部52Aに螺着されるねじ部46Aを備える技術。」

(3)対比
本件発明28と甲2-3発明とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲2-3発明における「コーンプレート4」は、本件発明28における「スプレー要素」に相当し、以下同様に、「タービン2」は「支持装置及び/又は駆動タービン」に、「第1の直径」は「第1の直径」に、「ハウジング本体1」は「筐体要素」に、「静電界を用いた噴霧器」は「静電噴霧器」に、「噴霧器筐体」は「噴霧器筐体」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「スプレー要素用の支持装置及び/又は駆動タービンを受け入れ又は覆うための第1の直径を有する筐体要素を備える、静電噴霧器用の噴霧器筐体」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本件発明28においては、「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を形成する少なくとも1つのネジを備える」ものであるのに対して、甲2-3発明においては、そのようなネジを備えるものであるか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

(4)判断
ア 上記相違点の判断にあたり、まず、本件発明28における「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路」について、その技術的意味を検討すると、本件出願の願書に添付された明細書の段落【0034】ないし【0037】、【0056】ないし【0059】、【0111】、【0112】及び【0201】ないし【0203】並びに図1ないし3、5、10a及び12aないし12eの記載によれば、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が筐体要素のネジを設けた箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものと認められる。

イ 次に、甲4技術について、本件発明28の用語で表現するために本件発明28との対応関係を検討する。
・甲4技術における「回転霧化頭45」は本件発明28における「スプレー要素」に相当し、以下同様に、「ハウジング43及びエアモータ44」は「支持装置及び/又は駆動タービン」に、「第1の直径」は「第1の直径」に、「フロントカバー46」は「筐体要素」に、それぞれ相当する。
・甲4技術における「塗装装置41用の筐体」は、本件発明28における「静電噴霧器用の噴霧器筐体」に、「噴霧器用の噴霧器筐体」という限りにおいて一致する。
・甲4技術における「フロントカバー46に、リヤカバー52のねじ部52Aに螺着されるねじ部46Aを備える」は、本件発明28における「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を形成する少なくとも1つのネジを備える」に、「少なくとも1つのネジを備える」という限りにおいて一致する。
そうすると、甲4技術は、本件発明28の用語を用いて表現すると、「スプレー要素用の支持装置及び/又は駆動タービンを受け入れ又は覆うための第1の直径を有する筐体要素を備える、噴霧器用の噴霧器筐体において、
少なくとも1つのネジを備える技術。」といえる。

ウ そこで相違点について検討すると、甲4技術において、「フロントカバー46に、リヤカバー52のねじ部52Aに螺着されるねじ部46Aを備える(本件発明28の用語で表すと、「少なくとも1つのネジを備える」といえる。)」という事項を有するところ、甲4技術は静電場を用いた静電噴霧器についての技術ではないから、たとえ、前記第3の1(6)に挙げた周知例に記載されているように、凹凸部分によって放電路が延長されて、沿面放電が抑制されることが周知の技術事項であるとしても、甲4技術におけるねじ部46Aが、本件発明28のように、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が筐体要素のネジを設けた箇所から静電噴霧器の内部に回り込むことを防止するものであるということはできない。
一方、甲2-3発明において、針電極10の先端から静電界を用いた噴霧器(本件発明28の「静電噴霧器」に相当。)の外部に放電された放電電流がハウジング本体1(本件発明28の「筐体要素」に相当。)における他の噴霧器筐体の要素との接続箇所から静電界を用いた噴霧器の内部に回り込むことを防止する課題を有することは、甲第2号証には記載も示唆もされておらず、技術常識を考慮しても明らかであるとはいえない。
そうすると、甲2-3発明において、甲4技術を適用する動機付けはないものというべきである。

エ 仮に、甲2-3発明において、甲4技術を適用することができたとしても、甲4技術は放電路の延長を意図したものではなく、しかも、甲2-3発明が、もともと針電極10の先端から静電界を用いた噴霧器の外部に放電された放電電流がハウジング本体1における他の噴霧器筐体の要素との接続箇所から静電界を用いた噴霧器の内部に回り込むものであるとはいえないことから、ハウジング本体1に設けたねじが必ずしも放電電流用の回り込み防止を図るものになるとまではいえず、上記相違点に係る本件発明28の発明特定事項とはならない。

オ よって、甲2-3発明及び甲4技術に基づいて、相違点に係る本件発明28の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(5)まとめ
したがって、本件発明28は、甲2-3発明及び甲4技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 理由5について
(1)甲第5号証
ア 甲第5号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、「回転霧化頭型塗装装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0046】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態による回転霧化頭型塗装装置を塗装用ロボットに取付けた場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0047】まず、図1ないし図11は本発明の第1の実施の形態を示すに、1は塗装作業機となる塗装用ロボットで、該塗装用ロボット1は、基台2と、該基台2上に回転可能かつ揺動可能に設けられた垂直アーム3と、該垂直アーム3の先端に揺動可能に設けられた水平アーム4と、該水平アーム4の先端に設けられた手首5とにより大略構成されている。
【0048】また、塗装用ロボット1には、電源線6Aを介して電源装置6が接続され、エアホース7Aを介して制御エア源7が接続され、負圧ホース8Aを介して真空ポンプ、エゼクタ等の負圧発生手段をなす負圧発生源8が接続され、エアホース9Aを介して取外し用エア源9が接続され、エアホース10Aを介して塗料弁用パイロットエア源10が接続され、エアホース11Aを介してシンナ弁用パイロットエア源11が接続され、シンナホース12Aを介して押出し液体貯留源となるシンナ貯留源12が接続されている。そして、電源線6A、ホース7A,8A,9A,10A,11Aは、垂直アーム3、水平アーム4を通って手首5まで達し、後述の回転霧化頭型塗装装置21に接続されている。また、シンナホース12Aは垂直アーム3を通って後述のシンナ供給装置56に接続されている。
【0049】21は塗装用ロボット1に設けられた回転霧化頭型塗装装置(以下、塗装装置21という)で、該塗装装置21は、図2、図3に示す如く、後述のハウジング22、塗装機28、フィードチューブ挿通孔27,34、カートリッジ35、ピストン40、シンナ通路43,48、塗料弁46、シンナ弁54等から大略構成されている。
【0050】22は例えばPTFE、PEEK、PEI、POM、PI、PET等の高機能樹脂材料(エンジニアリングプラスチック)によって形成されたハウジングで、該ハウジング22は、手首5の先端に取付けられている。そして、ハウジング22は、筒状に形成された締付部23Aを介して塗装用ロボット1の手首5先端に着脱可能に取付けられるネック部23と、該ネック部23の先端に一体形成されたヘッド部24により構成されている。」(段落【0046】ないし【0050】)

イ 甲第5号証の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記ア並びに図1及び2の記載によれば、甲第2号証には、塗装用ロボット1の水平アーム4の先端に設けられた手首5が記載されていることが分かる。

b)上記ア並びに図1及び2の記載によれば、手首5において、締付部23Aによって脱着可能に塗装装置21のハウジング22と接続するための接続区域を有することが分かる。

ウ 甲5発明
上記ア及び上記イを総合して、本件発明36の表現にならって整理すると、甲第5号証には、次の事項からなる発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

「塗装用ロボット1の水平アーム4の先端に設けられた手首5であって、
前記手首5は、締付部23Aによって脱着可能に塗装装置21のハウジング22と接続するための接続区域を有し、
前記接続区域に前記締付部23Aが締め付けられる部分を備える、
手首5。」

(2)対比
本件発明36と甲5発明とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲5発明における「塗装装置21のハウジング22」は本件発明36における「噴霧器筐体」に相当し、同様に、「接続区域」は「接続区域」に相当する。

・甲5発明における「塗装用ロボット1の水平アーム4の先端に設けられた手首5」又は「手首5」は、本件発明36における「ロボット手軸側面を絶縁するための噴霧器筐体用の絶縁袖」に、「ロボット手軸に関する部材」という限りにおいて、一致する。

・甲5発明における「手首5は、締付部23Aによって脱着可能に塗装装置21のハウジング22と接続するための接続区域を有し」は、本件発明36における「絶縁袖は、脱着可能に前記噴霧器筐体と接続するための接続区域を有し」に、「ロボット手軸に関する部材は、脱着可能に噴霧器筐体と接続するための接続区域を有し」という限りにおいて一致する。

・甲5発明における「接続区域に締付部23Aが締め付けられる部分を備える」は、本件発明36における「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を形成する少なくとも1つのネジを備える」に、「接続区域に所定の接続手段を備える」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「ロボット手軸に関する部材であって、
前記ロボット手軸に関する部材は、脱着可能に噴霧器筐体と接続するための接続区域を有する、
ロボット手軸に関する部材。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
「ロボット手軸に関する部材」に関して、本件発明36においては、「ロボット手軸側面を絶縁するための噴霧器筐体用の絶縁袖」であるのに対して、甲5発明においては、「塗装用ロボット1の水平アーム4の先端に設けられた手首5」である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
本件発明36においては、「絶縁袖」は、「絶縁材、誘電剤、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択された材料から形成されて」いるのに対して、甲5発明においては、「手首5」がどのような材料から形成されているのか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
「接続区域に所定の接続手段を備える」ことに関し、本件発明36においては、「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路を形成する少なくとも1つのネジを備える」のに対して、甲5発明においては、「接続区域に締付部23Aが締め付けられる部分を備える」点(以下、「相違点3」という。)。

(4)判断
ア 本件発明36について
上記相違点1ないし3の判断にあたり、まず、本件発明36における「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路」について、その技術的意味を検討すると、本件出願の願書に添付された明細書の段落【0034】ないし【0037】、【0070】、【0111】、【0112】、【0135】ないし【0137】及び【0201】ないし【0203】並びに図1ないし3、5、10a及び12aないし12eの記載によれば、電極の先端から静電噴霧器の外部に放電された放電電流が絶縁袖のネジを設けた箇所からロボット手軸等の内部に回り込むことを防止するものと認められる。

イ 相違点1及び2について
甲5発明において、手首5に放電電流が回り込むことを防止するという課題を有することは、甲第5号証に記載も示唆もされていないから、甲5発明において、手首5を、絶縁材、誘電剤、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択された材料から形成された絶縁袖を備えたものとし、上記相違点1及び2に係る本件発明36の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

ウ 相違点3について
甲第4号証のねじ部46A,52Aに示すように、一般的に、2部材を締め付け接続する手段として、ねじを用いることが周知、慣用技術であり、また、前記第3の1(6)に挙げた周知例に記載されているように、凹凸部分によって放電路が延長されて、沿面放電が抑制されることが周知の技術事項であるとしても、ねじにより放電路を延長するという技術思想を、当業者が容易に認識し得たものとはいえない。
仮に、ねじにより放電路を延長するという技術思想を当業者が容易に認識し得たとしても、甲5発明において、手首5を形成する材料は不明であって、手首5の接続区域から放電電流が回り込むことを防止する課題を有することは、甲第5号証には記載も示唆もされておらず、技術常識を考慮しても明らかであるとはいえないから、甲5発明において、ねじにより放電路を延長するという技術思想を適用する動機付けはないというべきである。
そうすると、上記アで検討した本件発明36における「放電路の延長をなす放電電流用の回り込み防止回路」の技術的意味を踏まえれば、甲5発明において、上記周知、慣用技術及び上記周知の技術事項を考慮したとしても、上記相違点3に係る本件発明36の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものではない。

(5)まとめ
したがって、本件発明36は、甲5発明、周知、慣用技術及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、18、28及び36に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、特許法第113条第2号に該当するものではない。


第5 結語
上記第4のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、18、28及び36に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、18、28及び36に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-22 
出願番号 特願2012-500153(P2012-500153)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B05B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
梶本 直樹
登録日 2015-04-24 
登録番号 特許第5735953号(P5735953)
権利者 デュール システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 静電噴霧器用電極集合体  
代理人 雨宮 康仁  
代理人 木村 満  
代理人 毛受 隆典  
代理人 森川 泰司  

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