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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 B42D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B42D
管理番号 1313285
審判番号 不服2013-25925  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-13 
確定日 2016-02-25 
事件の表示 特願2012-277387「暗記学習用教材、及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月4日の出願であって、原審において、平成25年8月23日付けで手続補正がなされ、同年11月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月13日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、上記の平成25年8月23日付け手続補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「原文文字列の一部を伏字とすることにより作成された暗記学習用虫食い文字列が表示された暗記学習用教材であって、
前記暗記学習用虫食い文字列は、
前記原文文字列を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、
前記原文文字列を対象として前記第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列と、を含み、
前記原文文字列は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものである、
暗記学習用教材。」(以下「本願発明」という。)


第3 発明の成立性について(特許法第29条第1項柱書き)
1 特許法は、「発明」について、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義し(特許法第2条第1項)、また、「産業上利用することができる発明」に対して、所定の要件を充足した場合に、特許を受けることができると規定する(同法第29条第1項)。
そして、ここでいう「技術的思想」とは、一定の課題を解決するための具体的な手段を提示する思想と解されるから、発明は、自然法則を利用した一定の課題を解決するための具体的な手段が提示されたものでなければならず、専ら、人間の精神的活動を介在させた原理や法則、社会科学上の原理や法則、人為的な取り決めのように、自然法則を利用していないものは、発明に該当しないというべきである。そして、この点は、技術的思想の創作中に、自然法則を利用した部分が全く含まれない場合はいうまでもないが、自然法則を利用した部分が含まれていても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用しないと判断される場合も、同様に、発明に該当しないというべきである。

2 そこで、本願発明について検討する。
(1)本願発明の「暗記学習用虫食い文字列は、前記原文文字列を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、前記原文文字列を対象として前記第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列と、を含み、前記原文文字列は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものである」との発明特定事項は、いずれも教材に表示された文字列の内容を規定するものである。また、本願発明の「暗記学習用」との発明特定事項も、前記「原文文字列」が「暗記学習」すべきものであることを規定したものである。
すなわち、本願発明は、特定内容の文字列が表示された教材であると認めることができる。
(2)しかるところ、文字列が表示された教材それ自体は、学習用教材として広く一般に知られているものであって、本願発明の学習用教材は、この点にいおいて、文字列の内容は別として、従来のものと何ら変わるところはない。
(3)そうすると、本願発明の創作的特徴部分は、本願明細書の段落【0005】、【0006】、【0008】及び【0019】によれば、「原文文字列を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、前記原文文字列を対象として前記第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列と、を含み、前記原文文字列は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものである」との文字列の内容、すなわち、暗記学習に供する文字列の内容そのものにのみ存在するということができる。
すなわち、本願発明は「教材」という物品に関するものであるが、その創作的特徴部分は、暗記学習に供する文字列の内容そのものにあるということができる。
(4)しかるところ、暗記学習に供する文字列の内容をどのように表現し、暗記学習に適したものとするかは、人間の精神活動そのものに向けられたものというべきであって、それ自体は何ら自然法則を利用したものではないから、本願発明を、自然法則を利用した技術的思想であるということはできない。
(5)また、本願発明は「(文字列が表示された)暗記学習用教材」に関するものであるところ、そのような教材そのものが自然法則を利用した発明に該当する余地が全くないわけではない。しかしながら、本願発明は教材そのものを技術的に改良したものでないことは明らかであって、その創作的特徴部分には自然法則が利用されておらず、単に既存の「自然法則を利用した技術により創作されたもの(教材)」が一部利用されているにすぎないものである。
(6)なお、「特許・実用新案審査基準」には、「第II部 第1章 産業上利用することができる発明 1.1「発明」に該当しないものの類型 (5) 技術的思想でないもの」において、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」として、録音された音楽にのみ特徴を有するCD等が例示されている。
しかるところ、本願発明は、特定の文字列を伏字として表示した教材に関するものであって、上記した「情報の単なる提示」といえることから、上記した「特許・実用新案審査基準」に照らしても、本願発明は「技術的思想でないもの」であり、「発明」に該当するものでないことは明らかである。

3 よって、本願発明は、何ら自然法則を利用したものではなく、「発明」に該当しないものであり、特許法第29条第1項柱書きに規定されている「産業上利用することができる発明」に該当するものではない。
以上のとおり、本願請求項1に記載された事項は、特許法第29条第1項柱書きに規定されている「産業上利用することができる発明」に該当しないものであるから、同項の規定により特許をすることができない。


第4 進歩性について(特許法第29条第2項)
上記第3で検討したように、本願発明は特許法にいう発明とはいえないものであるが、仮に本願発明が発明であるとの仮定に立った上で、進歩性を備えたものかについても検討する。
1 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平9-160476号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 学習すべき課題の一つ一つについて、異なる角度から提起する二つの設問を、互いに解答も供給する相互補完の内容で構築し、これらを対向させて並列する双方向学習の方式。
【請求項2】 請求項1に記載する学習方式を配列して構成する学習用教材。」
イ 「【0004】単一方向で画一的に機能する方式は、一度に大量の情報を押しつける傾向が強く、現実に詰めこみ型の教育が行なわれている。 知識の吸収能力に劣る学習者は消化不良になりがちで、学習した知識が記憶の中に定着する歩留まりも悪い。能力に差のある学習者たちを画一的ににあつかう従来の単一軌道の方式が、大量の落伍者を生み出している原因である。」
ウ 「【0007】
【作用】この学習方式を具体化した図1は、漢字を習わせる国語の学習である。 同一ページの中で並列して対向する左右の設問は、同じ熟語であり、それぞれ別の半分がカナ文字になっている。
【0008】学習者はまず左側のカナ文字を自力で漢字にする。 それぞれ縮む、宿る、祝う、という意味をもつ系統の熟語が集められており、一つでも意味をつかむと、それがヒントの作用をして、連鎖的に同系統の漢字をすべて書くことができる。
【0009】次に右側の設問に眼を移すと、同じ問題の別の部分がカナ文字で記され、左側設問のカナ文字が漢字で示されている。 学習者は直ちに正解を得ると同時に、別のカナ文字に挑戦する。
【0010】そこで学習者は右側設問のカナ文字を自力で漢字に変えるのだが、一度読んだ漢字が案外書けない。 読んだだけでは実力にならないことを自覚させる作用をする。
【0011】そこで再び眼を左側設問に移して、そこから正解を得る。 即ち双方向で学習することで、学習者は漢字の熟語を半分づつ正確に吸収していくのである。」
エ 「【0019】本発明の方式で構成する学習書は、左開きで右へ進んで一冊を学習してもよいし、右開きで左へ逐次学習を進めても一冊を完了することができる。 同じ問題を二度、ただし別の角度から学習させることになる。
【0020】本発明の方式を文字や音声をともなう映像情報で実施する場合は、画面に最初は一つの設問を提示し、これが消えてから別の設問を画面に出して、学習者の頭のなかで両設問を対向させることができる。 即ち両設問を交互に画面に出すことで、解答を見せずに学習者の頭脳を訓練する作用が起きる。

【0023】文章の一部を空白にして、そこを埋めさせる学習問題が一般に多用されているが、同じ文章を左右に二つ設置して異なる個所を空欄にすれば、相互に解答を示しながら二個所の空白部を学習させることができる。」
オ 「【0029】相互補完型の二つの設問は、ちょうどオスねじとメスねじとの関係にあり、二つのねじが合体することで堅固な安定が生み出されるように、この学習方式によって学習者の知識の把握は、より確実で安定したものとなる。 記憶の歩留まりは向上する。

【0032】左開きと右開きと双方向学習の間に若干の時間差を設けると、二回目の学習は“思い出す”効果で吸収と記憶が強化される。 学習者の頭脳が忘れかけた知識を取り戻して更新するのに、自分自身に最も適した時間差を設定すれば、学習効果は飛躍的に向上し、記憶の歩留まりは著しく改善される。」
カ 上記ア乃至オを参照して図1をみると、暗記学習用教材は、熟語の一部をカナ文字とすることにより作成された暗記学習用カナ文字熟語が表示されたものであって、前記暗記学習用カナ文字熟語は、前記熟語を対象として作成され、第1のカナ文字部分が設けられた第1のカナ文字熟語と、前記熟語を対象として前記第1のカナ文字熟語とは別に作成され、第1のカナ文字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2のカナ文字部分が設けられた第2のカナ文字熟語と、を含むものである、ことが看取できる。
したがって、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。
「熟語の一部をカナ文字とすることにより作成された暗記学習用カナ文字熟語が表示された暗記学習用教材であって、
前記暗記学習用カナ文字熟語は、
前記熟語を対象として作成され、第1のカナ文字部分が設けられた第1のカナ文字熟語と、
前記熟語を対象として前記第1のカナ文字熟語とは別に作成され、第1のカナ文字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2のカナ文字部分が設けられた第2の仮名文字熟語と、を含むものである、
暗記学習用教材。」(以下「引用発明」という。)

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「熟語」は、文字列の一種であることは明らかであり、また、暗記する対象であることから、本願発明の「原文文字列」に相当する。
(2)引用発明の「カナ文字」は、暗記すべき事項との概念で、本願発明の「伏字」と共通する。
よって、本願発明と引用発明は、
「原文文字列の一部を暗記すべき事項とすることにより作成された暗記学習用暗記すべき事項文字列が表示された暗記学習用教材であって、
前記暗記学習用暗記すべき事項文字列は、
前記原文文字列を対象として作成され、第1の暗記すべき事項部分が設けられた第1の暗記すべき事項文字列と、
前記原文文字列を対象として前記第1の暗記すべき事項文字列とは別に作成され、第1の暗記すべき事項部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の暗記すべき事項部分が設けられた第2の暗記すべき事項文字列と、を含むものである、
暗記学習用教材。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
暗記すべき事項が、本願発明は、伏せ字であるのに対し、引用発明は、カナ文字である点。
[相違点2]
原文文字列が、本願発明は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものであるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

3 判断
(1)相違点1について
上記エ【0023】によれば、引用刊行物には、文章(本願発明の記憶すべき事項である原文文字列に相当。)の一部を空白にして、そこを埋めさせる学習問題が一般に多用されていることが記載されているから、引用発明1において、カナ文字を空白、すなわち伏字表記とすることは、当業者が容易になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
引用発明において、暗記すべき文字列の内容をどのような文字列とするかは、学習する内容に従って学習者が適宜に定めるべき設計的事項であって、本願発明において、原文文字列をこの特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものとした点に設計的事項の域を超える程の格別の技術的意義があるものとは認められない。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

よって、本願発明は、引用発明及び刊行物の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書きに規定される「産業上利用することができる発明」に該当しないから、同項の規定により特許をすることができない。
また、上記第4のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明及び刊行物の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-14 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-11 
出願番号 特願2012-277387(P2012-277387)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B42D)
P 1 8・ 14- Z (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒井 隆一  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 黒瀬 雅一
藤本 義仁
発明の名称 暗記学習用教材、及びその製造方法  

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