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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1313382
審判番号 不服2014-23610  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-19 
確定日 2016-04-04 
事件の表示 特願2010-177885「熱転写受像シート」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月23日出願公開、特開2012- 35521〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年 8月 6日の出願であって、平成26年 4月15日付けで拒絶理由が通知され、同年 6月17日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年 8月28日付けで拒絶査定され、これを不服として、同年11月19日に審判請求がされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、平成27年 2月 9日付けで前置報告書(平成26年12月16日付け)に対する上申書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定
本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成26年 6月17日に提出された手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲を補正する補正事項を含むものであり、特許請求の範囲の請求項1についての補正の内容(補正事項)は、請求項1に係る発明において、「前記基材と前記受容層の間」の層に関して、本件補正前に「中間層および/または断熱層をさらに有し、前記中間層および/または断熱層が、ポリウレタン樹脂を含み、」とあったものを、「ポリウレタン樹脂と、中空粒子とを含む断熱層をさらに有し」と、限定するものである。

2 補正の目的の適否及び新規事項の有無
上記補正事項は、本願明細書に記載された実施例10および11の記載に基づくものであり、出願当初明細書に記載された事項の範囲内においてなされ、新規事項を追加するものではなく、また、補正の前後において、当該発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、限定的減縮を目的とする補正であることは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たし、特許法17条の2第5項2号に規定する要件を満たしている。

そこで、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定を満たすか)否かについて、請求項1に係る発明について検討する。

3 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。) 本願補正発明は、次のとおりである。
「【請求項1】
基材と、前記基材上に受容層とを有する、熱転写受像シートであって、
前記基材と前記受容層の間に、ポリウレタン樹脂と、中空粒子とを含む断熱層をさらに有し、
前記受容層が、7以上のHLB値を有するポリエーテル変性シリコーンと、バインダー樹脂とを含み、
前記バインダー樹脂が、塩酢ビ系樹脂である、熱転写受像シート。」

(2)原査定の拒絶の理由の概要
この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された引用文献1、2及び4にそれぞれ記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し、また、引用文献1、2及び4に記載されたそれぞれの発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(3)引用刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2006-264085号公報(以下「引用文献1」という。)には、「熱転写受像シート」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(なお、下線は、当審で付加したものである。以下同様。)
(引1ア)【背景技術】
「【0005】
受容層形成用樹脂としては、また、染料染着性に優れ、熱転写時に熱転写シートと熱転写受像シートとの間において融着等の異常転写が起こらない点で、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる樹脂が好ましい。この樹脂は、1枚あたりのプリントアウト時間を短縮する高速プリントや、電池などバッテリー駆動が可能な省電力(低エネルギー)プリントに好適でもある。
【0006】
塩化ビニル/アクリル共重合体又は塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる樹脂は、受容層形成のために基材シートに塗工するに際し、従来、有機溶剤に添加して用いられてきた(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。しかしながら、有機溶剤使用により作業環境の悪化が懸念されるほか、形成した受容層における染料拡散後の耐光性能向上の要求がある。」

(引1イ)【発明が解決しようとする課題】
「【0007】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、耐光性が向上した熱転写受像シートを提供することにある。」

(引1ウ)【課題を解決するための手段】
「【0008】
本発明は、基材シートに受容層を形成してなる熱転写受像シートにおいて、受容層が塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体エマルジョン又は塩化ビニル/アクリル化合物共重合体エマルジョンを用いて形成したものであることを特徴とする熱転写受像シートである。・・(略)・・」

(引1エ)
「【0025】
本発明の熱転写受像シートは、上述したように、上記受容層と上記基材シートとの間に中間層を設けたものであってもよい。
本発明において、「中間層」とは、基材シートと受容層との間にある全ての層を意味する。
本発明の熱転写受像シートは、上記中間層を設けることにより、例えば、断熱性、クッション性、バリア性、層間接着性、白色性、隠蔽性、帯電防止性等に優れたものとすることができる。
【0026】
上記中間層を形成する樹脂、その他の高分子としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。」

(引1オ)【発明を実施するための最良の形態】
「【0048】
実施例1
基材シートとして、合成紙(ユポFPG-150、厚さ150μm、王子油化社製)を用い、この一方の面に、下記組成のプライマー層用塗工液をワイヤーバーにより、乾燥(100℃、1分)後1.0g/m^(2)の量となるように塗布し、更に得られたプライマー層上に、下記組成の受容層用塗工液をワイヤーバーにより、乾燥(130℃、1分)後、4.0g/m^(2)の量となるように塗布して、本発明の熱転写受像シートを得た。
(プライマー層用塗工液)
ポリエステル(バイロナールMD-1480、固形分濃度25%;東洋紡積社製) 100部
水 25部
(受容層用塗工液組成)
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体エマルジョン(ビニブラン601、固形分濃度43%;日信化学工業社製) 100部
ポリエーテル変性シリコーン(KF-615A、信越化学工業社製)
2.15部
水 124部」

上記記載(引1ウ)及び(引1オ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「 基材シートに受容層を形成してなる熱転写受像シートにおいて、
下記組成の受容層用塗工液を塗布・乾燥した熱転写受像シート
(受容層用塗工液組成)
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体エマルジョン(ビニブラン601、固形分濃度43%;日信化学工業社製)100部
ポリエーテル変性シリコーン(KF-615A、信越化学工業社製)2.15部
水 124部。」

イ 周知技術について
(ア)本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-264089号公報(以下「周知例1」という。)には、「熱転写受像シート」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(周1ア)【背景技術】
「【0005】
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体は、受容層形成のために基材シートに塗工するに際し、従来、有機溶剤に添加して用いられてきた。しかしながら、有機溶剤使用により作業環境の悪化が懸念されるほか、形成した受容層における染料拡散後の耐光性能向上の要求がある。
【0006】
熱転写受像シートとしては、また、耐熱性及びクッション性の付与を目的として、中空粒子とバインダー樹脂とからなる多孔層を基材シートと受容層との間に設けたものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この積層構造は、受容層が樹脂を有機溶剤に溶解して形成したものであるので、該有機溶剤が多孔層中の中空粒子に浸透して中空粒子を溶解・膨潤させてしまい、断熱性等の中空粒子の効果が不充分となる問題があった。」

(周1イ)【発明を実施するための最良の形態】
「【0059】
実施例1
1.基材シートの作成
ホワイト原紙(厚み168g/m^(2)、三菱製紙社製)をスーパーカレンダーで平滑処理し、ベック平滑度を2000秒とした後に、その片面に、ポリプロピレン樹脂(製品名:サンアロマーPHA03A、サンアロマー社製)を押し出しコーターにて、乾燥後の厚みが30μmとなるよう積層し、他方の面に、高密度ポリエチレン樹脂(製品名:ジェイレックスKH578A、日本ポリオレフィン社製)を押し出しコーターにて、乾燥後の厚みが30μmとなるよう積層し、基材シート(1)を作成した。
2.多孔層の形成
上記基材シート(1)のポリプロピレン樹脂面上に、下記組成からなる多孔層A塗工液をグラビアコートにて、乾燥後の厚みが30μmとなるよう塗布し、110℃、1分間乾燥し、多孔層Aを形成した。
(多孔層A塗工液)
・アクリル系中空粒子(製品名: ローペイクHP-1055、固形分26.50%、中空率55%、中空粒子径1.0μm、ロームアンドハース社製)
100部
・水性ポリウレタン樹脂(製品名:ネオステッカー400、固形分37%、日華化学社製) 30部
・水 5部
・イソプロピルアルコール 10部
【0060】
3.受容層の作成
上記多孔層A上に、下記組成の受容層塗工液1をワイヤーバーにより、乾燥(130℃、1分)後の塗布量が4.0g/m^(2)の量となるように塗布して、本発明の熱転写受像シートを得た。
(受容層塗工液1組成)
エチレン/塩化ビニル/アクリル酸エステル共重合体エマルジョン(SE1320、固形分濃度50%;住化ケミテックス社製) 100部
ポリエーテル変性シリコーン(KF-615A、信越化学工業社製)
2.5部
水 160部」

(イ)本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-264092号公報(以下「周知例2」という。)には、「熱転写受像シート」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(周2ア)【背景技術】
「【0006】
塩化ビニル/アクリル共重合体又は塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる樹脂は、受容層形成のために基材シートに塗工するに際し、従来、有機溶剤に添加して用いられてきた(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。しかしながら、有機溶剤使用により作業環境の悪化が懸念されるほか、形成した受容層における染料拡散後の耐光性能向上の要求がある。
【0007】
熱転写受像シートとしては、また、耐熱性及びクッション性の付与を目的として、中空粒子とバインダー樹脂とからなる多孔層を基材シートと受容層との間に設けたものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この積層構造は、受容層が樹脂を有機溶剤に溶解して形成したものであるので、該有機溶剤が多孔層中の中空粒子に浸透して中空粒子を溶解・膨潤させてしまい、断熱性等の中空粒子の効果が不充分となる問題があった。」

(周2イ)【発明を実施するための最良の形態】
「【0060】
実施例1
1.基材シートの作成
ホワイト原紙(厚み168g/m^(2)、三菱製紙社製をスーパーカレンダーで平滑処理し、ベック平滑度を2000秒とした後に、その片面に、ポリプロピレン樹脂(製品名:サンアロマーPHA03A、サンアロマー社製)を押し出しコーターにて、乾燥後の厚みが30μmとなるよう積層し、他方の面に、高密度ポリエチレン樹脂(製品名:ジェイレックスKH578A、日本ポリオレフィン社製)を押し出しコーターにて、乾燥後の厚みが30μmとなるよう積層し、基材シート(1)を作成した。
2.多孔層の形成
上記基材シート(1)のポリプロピレン樹脂面上に、下記組成からなる多孔層A塗工液をグラビアコートにて、乾燥後の厚みが30μmとなるよう塗布し、110℃、1分間乾燥し、多孔層Aを形成した。
(多孔層A塗工液)
・アクリル系中空粒子(製品名: ローペイクHP-1055、固形分26.50%、中空率55%、中空粒子径1.0μm、ロームアンドハース社製)
100部
・水性ポリウレタン樹脂(製品名:ネオステッカー400、固形分37%、日華化学社 20部
・水 5部
・イソプロピルアルコール 10部
【0061】
3.受容層の作成
上記多孔層A上に、下記組成の受容層塗工液1をワイヤーバーにより、乾燥(130℃、1分)後の塗布量が4.0g/m^(2)となるように塗布して、本発明の熱転写受像シートを得た。
(受容層塗工液1組成)
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体エマルジョン(ビニブラン601、固形分濃度43%;日信化学工業社製) 100部
ポリエーテル変性シリコーン(KF-615A、信越化学工業社製)
2.15部
水 124部」

(ウ)上記周知例1及び2の(ア)、(イ)で摘記した記載事項を整理すると、
「 塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる樹脂は、受容層形成のために基材シートに塗工するに際し、従来、有機溶剤に添加して用いられてきた。しかしながら、有機溶剤使用により作業環境の悪化が懸念されるほか、形成した受容層における染料拡散後の耐光性能向上の要求があるところ、熱転写受像シートとしては、また、耐熱性及びクッション性の付与を目的として、中空粒子とバインダー樹脂とからなる多孔層を基材シートと受容層との間に設けたものが提案されている。しかしながら、この積層構造は、受容層が樹脂を有機溶剤に溶解して形成したものであるので、該有機溶剤が多孔層中の中空粒子に浸透して中空粒子を溶解・膨潤させてしまい、断熱性等の中空粒子の効果が不充分となる問題」
があり、これを解決する手段として
「 熱転写受像シートとして、また、耐熱性及びクッション性の付与を目的として、中空粒子とバインダー樹脂とからなる多孔層を基材シートと受容層との間に設けたものにおいて、受容層をエマルジョンにより形成し、多孔層を中空粒子とウレタン樹脂とから形成すること。」
が周知である。(以下「熱転写受像シートの周知技術」という。)

(4)対比・判断
ア 本願補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明の「基材シート」、「受容層」及び「熱転写受像シート」は、本願補正発明の「基材」、「受容層」及び「熱転写受像シート」に相当する。
(イ)本願補正発明の補正の根拠が本願明細書に記載された実施例10および11の記載に基づくものであり、各実施例10及び11では、それぞれ受容層用塗布液15、16を用いており、受容層用塗布液15、16は、それぞれ実施例8、9でその組成が特定されているところ、実施例8、9で特定されている受容層用塗布液15、16の組成には、いずれも「VB603(塩酢ビ系樹脂(水系エマルジョン))」が用いられている。
また、本願明細書の【0018】に例示されたバインダー樹脂に、「塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系樹脂(塩酢ビ系樹脂)」との記載がある。
したがって、本願補正発明における「塩酢ビ系樹脂」は、「塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系樹脂」であって、「水系エマルジョン」であるものも含まれていることは明らかである。
以上の点から、引用発明の「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体エマルジョン(ビニブラン601、固形分濃度43%;日信化学工業社製)」は、本願補正発明の「塩酢ビ系樹脂」に相当する。
(ウ)引用発明のポリエーテル変性シリコーン(KF-615A、信越化学工業社製)」は、信越化学工業のカタログ(http://www.silicone.jp/products/type/oil/detail/search/deg10.shtml)によれば、HLB10であるから、本願補正発明の「7以上のHLB値を有するポリエーテル変性シリコーン」に相当する。
(エ)引用発明の受容層を形成する受容層用塗工液の組成から、引用発明の「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体エマルジョン(ビニブラン601、固形分濃度43%;日信化学工業社製)」は、バインダー樹脂としての機能を奏していることは明らかであり、上記(イ)、(ウ)の点も踏まえると、引用発明の「受容層」は、本願補正発明の「7以上のHLB値を有するポリエーテル変性シリコーンと、バインダー樹脂とを含み、前記バインダー樹脂が、塩酢ビ系樹脂である」との構成を有しているものである。

イ 一致点及び相違点
上記「ア(ア)」?「ア(エ)」から、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。
(ア)一致点
「 基材と、前記基材上に受容層とを有する、熱転写受像シートであって、
前記受容層が、7以上のHLB値を有するポリエーテル変性シリコーンと、バインダー樹脂とを含み、
前記バインダー樹脂が、塩酢ビ系樹脂である、熱転写受像シート。」
(イ)相違点
本願補正発明は、「前記基材と前記受容層の間に、ポリウレタン樹脂と、中空粒子とを含む断熱層をさらに有し」ているのに対して、引用発明には、そのような層が無い点。

ウ 相違点についての判断
引用文献1の記載事項(引1ア)には、「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる樹脂は、受容層形成のために基材シートに塗工するに際し、従来、有機溶剤に添加して用いられてきた・・。しかしながら、有機溶剤使用により作業環境の悪化が懸念されるほか、形成した受容層における染料拡散後の耐光性能向上の要求がある。」との課題が説明されており、また、記載事項(引1エ)には、「本発明の熱転写受像シートは」、「上記受容層と上記基材シートとの間に中間層を設けたものであってもよい」こと。そして、「『中間層』とは、基材シートと受容層との間にある全ての層を意味する」こと。また、「中間層を設けることにより、例えば、断熱性、クッション性」、「等に優れたものとすることができる」との説明もなされている。
上記の点から引用文献1には、「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる樹脂を、受容層形成のために基材シートに塗工する際に、有機溶剤を使用したくないこと」、また、「断熱性、クッション性」の優れたものとするために、「受容層と上記基材シートとの間に層(中間層)を設けてもよい」ことが説明されているものであり、当該引用文献1に記載された引用発明においてもその様な層を形成することを否定すべき理由は認められない。

一方、上記(3)イ(ウ)で整理した「熱転写受像シートの周知技術」のように、「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる樹脂を、受容層形成のために基材シートに塗工する際に、有機溶剤を使用したくない」との課題のもと、
「熱転写受像シートとして、また、耐熱性及びクッション性の付与を目的として、中空粒子とバインダー樹脂とからなる多孔層を基材シートと受容層との間に設けたものにおいて、受容層をエマルジョンにより形成し、多孔層を中空粒子とウレタン樹脂とから形成すること。」
が周知技術である。

したがって、共通の課題のもと、共通の「断熱性、クッション性」を有する層を形成する手段として、「熱転写受像シートの周知技術」の多孔層を引用発明に適用することは当業者ならば容易に想到し得たものである。

エ 効果について
(ア)本件審判の請求人は、平成27年 2月 9日付けの上申書において、「本願発明は、ポリウレタン樹脂および中空粒子を含む断熱層と、ポリエーテル変性シリコーンおよび塩酢ビ系樹脂を含む受容層との特定の組み合わせの層構成を有する熱転写受像シートに関するものです。本願発明においては、このような特定の断熱層と受容層の組み合わせにより、サバキ性が向上するという有利な効果が得られるのです。一方、引用文献2に記載のポリビニルアルコールおよび中空粒子を含む断熱層と、ポリエーテル変性シリコーンおよび塩酢ビ系樹脂を含む受容層とを有する熱転写受像シートがサバキ性に劣ることは、平成26年 6月17日付けで提出した実験成績証明書により実証されております。」(上申書1頁下から7行?2頁1行)と主張している。
しかしながら、上記(4)の対比判断においては、中空粒子とウレタン樹脂からなる多孔層自体が上記(3)イ(ウ)で整理した「熱転写受像シートの周知技術」のように周知であることから、引用発明に当該「熱転写受像シートの周知技術」を適用することで本願発明となすことは当業者が容易に想到し得たものであると判断したものであり、「ポリビニルアルコール」の使用を前提としたものではないから、上記実験成績証明書によって、上記判断を変えることにはならない。

(イ)ところで、確かに、上記実験成績証明書の表Aには、「塩酢ビ系樹脂」を受容層のバインダー樹脂として用いた場合に、基材と受容層の間のバインダー樹脂を「水性ポリウレタン樹脂」とした実施例11では、サバキ性が「3」、「ポリビニルアルコール」とした比較例13では、サバキ性が「2」である事が示されているので、一応、本願明細書の開示内容との関係を確認してみると、本願明細書には、サバキ性向上及び断熱層に関して、次の記載がある。
a サバキ性向上に関する記載
「【0004】・・(略)・・受像シートの表面(受容層)の帯電防止性が低い場合、印画物同士の静電張り付きが生じることで、取扱い性(以下、「サバキ性」とする)が悪くなるという問題が発生している。」
「【0015】
受容層
・・(略)・・受容層に、ポリエーテル変性シリコーンとバインダー樹脂とを併用して加えることで、受容層の帯電防止性を向上させて、印画物のサバキ性を改善することができる。・・(略)・・
【0016】
ポリエーテル変性シリコーン
本発明において用いられるポリエーテル変性シリコーンは、7以上、好ましくは7以上20以下のHLB値を有するものである。ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が上記範囲程度であれば、印画物のサバキ性をより向上させることができる.・・(略)・・」
b 断熱層に関する記載
「【0021】
断熱層
本発明における断熱層は、熱転写による画像形成時に加えられた熱が、基材等への伝熱によって損失されることを防止できる断熱性やクッション性を有するものである。本発明における断熱層は、中空粒子を含むものであり、親水性バインダーやその他の添加剤をさらに含んでもよい。断熱層は、中空粒子を含むことにより、クッション性を備えることができる。・・(略)・・
【0022】
中空粒子
本発明で用いる中空粒子の体積平均粒径は、・・(略)・・上記範囲程度であれば、断熱性およびクッション性を断熱層に与えることができる。また、中空粒子の平均中空率は、・・(略)・・上記の範囲程度であれば、断熱性およびクッション性を断熱層に与えることができる。・・(略)・・」
「【0024】
親水性バインダー
本発明の好ましい態様によれば、断熱層や中間層等の他の層を水系塗布により形成する場合、親水性バインダーを用いることができる。親水性バインダーとしては、ゼラチン・・(略)・・ポリビニルアルコール・・・(略)・・・」
c ウレタンに関する記載
「【0012】
熱転写受像シート
【0013】
基材
本発明における基材は、受容層を保持するという役割を有するとともに、熱転写時には熱が加えられるため、過熱された状態でも取り扱い上支障のない程度の機械的強度を有する材料であることが好ましい。
【0014】
このような基材の材料としては、例えば、・・(略)・・ポリウレタン・・(略)・・」
「【0027】
熱転写インクシート
・・(略)・・
【0031】
さらに、上記基材シートの接着処理として、基材シート上に接着層を塗工して形成することも可能である。接着層は、例えば、・・(略)・・ポリウレタン系樹脂・・(略)・・
【0035】
上記染料を担持するためのバインダー樹脂としては、例えば、・・(略)・・ポリウレタン系樹脂・・(略)・・
【0038】
耐熱滑性層
耐熱滑性層は、主に耐熱性樹脂からなるものである。耐熱性樹脂としては、特に限定されず、例えば、・・(略)・・ポリウレタンアクリレート、・・(略)・・ウレタンまたはエポキシのプレポリマー、・・(略)・・」
「【0045】
実施例1
基材シートの作製
・・(略)・・
中間層塗布液の組成
・N-5199(日本ポリウレタン(株)製) ・・(略)・・
【0062】
実施例10
熱転写受像シート17の作製
基材シート・・(略)・・を用い、下記組成の断熱層用塗布液1および上記の受容層用塗布液15を・・(略)・・塗布・・(略)・・乾燥し、熱転写受像シート17(層構成:基材/断熱層/受容層)を得た。
断熱層用塗布液1の組成
・MH5055(中空粒子、日本ゼオン(株)製、体積平均粒径0.5μm) 70重量部
・RR(ゼラチン、新田ゼラチン(株)製) 25重量部
・AP40(水性ポリウレタン樹脂、DIC(株)製) 5重量部
固形分が17%となるように純水にて希釈を行った。
【0063】
実施例11
受容層用塗布液15を受容層用塗布液16に変更した以外は、実施例10と同様にして、熱転写受像シート18を作製した。
・・(略)・・
【0066】
比較例10
受容層用塗布液15を受容層用塗布液17に変更した以外は、実施例10と同様にして、熱転写受像シート21を作製した。
【0067】
比較例11
受容層用塗布液15を受容層用塗布液18に変更した以外は、実施例10と同様にして、熱転写受像シート22を作製した。」

(ウ)上記(イ)aの記載から、サバキ性の向上の為には、「受容層に、ポリエーテル変性シリコーンとバインダー樹脂とを併用して加えること」及び「ポリエーテル変性シリコーンは、7以上、好ましくは7以上20以下のHLB値」とすることが示されているにすぎず、受容層のバインダー樹脂と断熱層のバインダー樹脂との組み合わせによって、サバキ性が向上するとの効果については何ら説明も示唆もされていない。
加えて、上記(イ)bの記載には、中空粒子を含有する断熱層において、「ポリウレタン樹脂」をバインダー層とする旨の説明は一切されておらず、「ポリウレタン樹脂」とサバキ性との関係についても何ら言及されていない。
本願の明細書中には、「ポリウレタン樹脂」に関する説明は、上記(イ)cのように、一般記載として、熱転写受像シートの基材の材料、熱転写インクシートの接着層、染料の担持用のバインダー樹脂及び耐熱滑性層に用いることが記載されているにすぎず、断熱層に「ポリウレタン樹脂」を用いる一般記載は無く、単に、実施例1の中間層塗布液の成分の一つとして「N-5199(日本ポリウレタン(株)製)」、並びに、実施例10及び11、比較例10及び11において用いられている「断熱層用塗布液1」の成分の一つとして「AP40(水性ポリウレタン樹脂、DIC(株)製)」が挙げられているにすぎず、断熱層の成分として「ポリウレタン樹脂」を用いる説明及びその効果については何らの説明もなされていない。
むしろ、断熱層のバインダー樹脂としては、上記(イ)bのように、【0021】には、断熱層に「親水性バインダーやその他の添加剤をさらに含んでもよい」こと、【0024】には、親水性バインダーを用いる場合の材料の例示として「ポリビニルアルコール」が挙げられており、「ポリウレタン樹脂」は、例示されていない。
したがって、本願明細書には、「ポリビニルアルコール」に比べ、「ポリウレタン樹脂」を用いることでサバキ性がより向上するとの効果については、何ら記載されていないことは明らかであり、平成26年 6月17日付け意見書に添付した実験成績証明書に基づく知見・効果を採用することはできない。

(6)まとめ
以上のとおり、引用発明において、上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものであり、本願補正発明は、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1、2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定の結論
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
1 上記「第2 補正の却下の決定」での検討のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正前の請求項1?3に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
基材と、前記基材上に受容層とを有する、熱転写受像シートであって、
前記基材と前記受容層の間に、中間層および/または断熱層をさらに有し、前記中間層および/または断熱層が、ポリウレタン樹脂を含み、
前記受容層が、7以上のHLB値を有するポリエーテル変性シリコーンと、バインダー樹脂とを含み、
前記バインダー樹脂が、塩酢ビ系樹脂である、熱転写受像シート。」

2 引用刊行物の記載事項
引用文献1の記載事項及び周知例1、2の記載事項については、前記「第2 [理由]3(3)」のとおりである。

3 対比・判断
上記「第2[理由]1」及び「第2[理由]2」で検討したように、本願補正発明は、本願発明の「前記基材と前記受容層の間」の層に関して、「中間層および/または断熱層をさらに有し、前記中間層および/または断熱層が、ポリウレタン樹脂を含み、」とあったものを、「ポリウレタン樹脂と、中空粒子とを含む断熱層をさらに有し」と、限定したものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをさらに限定したものである本願補正発明が、上記「第2[理由]3」において検討したとおり、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1、2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1、2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本願発明において、「基材と前記受容層の間」の層が「ポリウレタン樹脂を含」む、「中間層」の場合は、本願発明と引用発明との相違点は、「中間層」の有無とその材料に関する事項となるが、引用文献1の記載事項を摘記した(引1エ)に、「上記受容層と上記基材シートとの間に中間層を設けたものであってもよ」く、「中間間層を設けることにより、例えば、断熱性、クッション性、バリア性、層間接着性、白色性、隠蔽性、帯電防止性等に優れたものとすることができ 」、「上記中間層を形成する樹脂、・・としては、例えば、ポリウレタン樹脂、・・等が挙げられる。」ことが説明されていることから、本願発明は、引用文献1に記載された引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1、2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-09 
結審通知日 2016-02-12 
審決日 2016-02-23 
出願番号 特願2010-177885(P2010-177885)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神尾 寧  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 本田 博幸
藤原 敬士
発明の名称 熱転写受像シート  
代理人 小島 一真  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 永井 浩之  
代理人 浅野 真理  
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