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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1313399
審判番号 不服2014-5217  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-19 
確定日 2016-04-13 
事件の表示 特願2011- 29100「造血細胞内分子相互作用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月26日出願公開、特開2011-102326〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2000年(平成12年)5月12日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年5月14日 3件、1999年10月21日、1999年10月29日、1999年12月13日、2000年1月14日、2000年2月14日、2000年4月11日 5件、いずれも米国)とする特願2000-618312号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成23年2月14日に新たな特許出願としたものであって、平成25年11月14日付けで拒絶査定がされたところ、平成26年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成27年7月16日付け拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という。)に応答して、平成27年10月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成27年10月21日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
そのN-末端でtatペプチドに融合されたC-末端コア配列SIESDVを有する25個以下のアミノ酸からなるNMDA受容体サブユニット・ペプチドであって、該tatペプチドが細胞内への該融合ペプチドの侵入を容易にすることができる前記NMDA受容体サブユニット・ペプチド。」

第3 引用例
1.拒絶理由で引用例1として引用した本願優先日前の1998年2月12日に頒布された刊行物である国際公開98/05347号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。また、下線は当審にて付与した。)。
ア.「1.シグナル変換蛋白とアミノ酸配列(G/S/A/E)-L-G-(F-I/L)を含む細胞質蛋白との間の特異的結合を阻害できる組成物[ここで、各‐はペプチド結合を表し、各括弧は互いに代替可能なアミノ酸を括っており、このような括弧内の各スラッシュは代替可能なアミノ酸を分離している]。
・・・
4.請求項1の組成物であって、前記シグナル変換蛋白は、そのカルボキシル末端にアミノ酸配列(S/T)-X-(V/I/L)を有する組成物[ここで、各‐はペプチド結合を表し、各括弧は互いに代替可能なアミノ酸を括ってり、このような括弧内の各スラッシュは代替可能なアミノ酸を分離しており、Xは20の天然に存在するアミノ酸からなる群より選択されるアミノ酸を表す]。
5.請求項1の組成物であって、該組成物は、抗体、無機化合物、有機化合物、ペプチド、ペプチド類似化合物、ポリペプチド、または蛋白を含有する組成物。
6.請求項5の組成物であって、前記ペプチドは配列(S/T)-X-(V/I/L)-COOHを有する組成物[ここで、各‐はペプチド結合を表し、各括弧は互いに代替可能なアミノ酸を括っており、このような括弧内の各スラッシュは代替可能なアミノ酸を分離しており、Xは20の天然に存在するアミノ酸からなる群より選択されるアミノ酸を表す]。
・・・」(特許請求の範囲)
イ.「興味深い事に、FAP-1は、蛋白ドメイン間の内部および中間分子の相互作用を媒介すると考えられ6つのGLGF(PDZ/DHR)繰り返しを含む。FAP-1の第三GLGF繰り返しは、まずFas受容体(Sato et al.,1995)のC末端との特異的相互作用を示すドメインとして特定された。これによって、GLGFドメインが蛋白を亜膜細胞骨格にターゲテイングする際および/または生化学活性を調整する際に重要な働きをするのではないかという事が示唆される。GLGF繰り返しは、グアニレート・キナーゼのみならず、ショウジョウバエの腫瘍抑制蛋白であるlethal-(1)-disc-large-1[dlg-1](Woods et al.,1991;Kitamura et al.,1994)の相同物であるラットのシナップス後部の密度蛋白(PSD-95)(Cho et al.,1992)でも、以前に発見されている。これらの繰り返しは、ホモおよびヘテロ・ダイマー化を媒介し、これは、PTPase活性、Fasへの結合、および/またはFAP-1と他のシグナル変換蛋白との相互作用に影響を与える可能性がある。近年、種々の蛋白のPDZドメインが、イオンチャンネルおよび他の蛋白のC末端と相互作用する事もまた報告されている(図1)(表1)(Kornau et al.,1995;Kim et al.,1995;Matsumine et al.,1996)。」(2ページ30行?3ページ14行)
ウ.「

」(表1)
エ.「第一に、C末端15アミノ酸の合成ペプチドが、FasおよびFAP-1の結合をインビトロで阻害し得るかどうかがテストされた(図3A)。インビトロで翻訳されたFAP-1とGST-Fasとの結合は劇的に低下し、またFasの合成15アミノ酸の濃度に依存していた。・・・第二に、Fas/FAP-1インビトロ結合に対する、先端切除されたFas C末端合成ペプチドの影響を調べた。図3Bに示すように、FAP-1のFasにとの結合に対して、4-15の合成ペプチドで行なわれたと同レベルの阻害効果を得るために、3つのC末端アミノ酸(Ac-SLV)のみで十分であった。」(29ページ11?25行)
オ.「次に、FAP-1のFas媒介性シグナル変換のネガテイブ・レギュレータとしてのインビボ機能には、FasのC末端の3つのアミノ酸とFAP-1の第三PDZドメインとの間の生理学的会合が不可欠であるという仮説を調べるために、FasおよびFAP-1の両者を発現し且つFas誘導アポトーシスに対して抵抗性である結腸癌細胞系DLD-1において、合成トリペプチドのマイクロインジェクション実験が行なわれた。この実験では、単-細胞の細胞質頭域への合成トリペプチドの直接マイクロインジェクション、およびFasに誘導されたアポトーシスに対する生理学的反応のインビボでのモニタリングが行われた。その結果、Ac-SLVをDLD-1細胞へマイクロインジェクションすると、Fasモノクローナル抗体(CHll、500ng/ml)(図5A,5Eおよび図6)の存在下においてアポトーシスが劇的に誘導されるが、Ac-SLYおよびPBS/Kのマイクロインジェクション(図5B,5F、および図6)では誘導されない事が分かった。これらの結果は、FAP-1とFasのC末端との物理的会合が、Fasに誘導されるアポトーシスから細胞を防御するために必要不可欠であるという仮説が強力に支持している。」(30ページ16?37行)

上記記載事項ア.によれば、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「カルボキシル末端にアミノ酸配列(S/T)-X-(V/I/L)を有するシグナル変換蛋白と、アミノ酸配列(G/S/A/E)-L-G-(F-I/L)を含む細胞質蛋白との間の特異的結合を阻害できるペプチドであって、シグナル変換蛋白のカルボキシル末端のアミノ酸配列(S/T)-X-(V/I/L)-COOHを有するペプチド[Xは20の天然に存在するアミノ酸からなる群より選択されるアミノ酸を表す]。」

2.拒絶理由で引用例2として引用した本願優先日前の1995年に頒布された刊行物であるScience、1995、Vol.269、p.1737-1740(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。
カ.「NMDA受容体サブユニットの細胞質テイルが、有名なシナプス後肥厚タンパク質PSD-95と相互作用すること示すのに、イーストツーハイブリッドシステムが使用された。PSD-95の2番目のPDZドメインが、NR2サブユニットとある種のNR1スプライスフォームに共通する、末端のtSXVモチーフ(Sはセリン、Xは任意のアミノ酸、Vはバリン)を含むC末端ドメイン7アミノ酸に結合する。」(要約2?7行)
キ.「

」(図1A)

第4 対比
本願発明における「C-末端コア配列SIESDV」とは、本願明細書の【0134】の記載を参酌すれば、「PDZドメインと結合する蛋白」であるNMDA受容体の「C-末端コア配列」であると認められる。
また、引用発明1における「シグナル変換蛋白」は、上記記載事項ア.によれば、アミノ酸配列(G/S/A/E)-L-G-(F-I/L)を含む細胞質蛋白と特異的に結合する蛋白であり、アミノ酸配列(G/S/A/E)-L-G-(F-I/L)は、上記記載事項イ.を参酌すれば、PDZドメインであると認められる。
したがって、引用発明1における「シグナル変換蛋白」とは、「PDZドメインと結合する蛋白」であると認められる。
また、引用発明1における「カルボキシル末端のアミノ酸配列」は、本願発明における「C-末端コア配列」に相当する。
よって、本願発明と引用発明1を対比すると、両者は、「PDZドメインと結合する蛋白のC-末端コア配列(S/T)-X-(V/I/L)を有するペプチド」である点で共通し、以下の点で相違している。

(相違点1)本願発明は、C-末端コア配列(S/T)-X-(V/I/L)が、NMDA受容体のC-末端コア配列であるSIESDVに特定され、該配列を有するペプチドのアミノ酸長が25個以下に特定されているNMDA受容体サブユニット・ペプチドであるのに対し、引用発明1は、C-末端コア配列(S/T)-X-(V/I/L)や、該配列を有するペプチドのアミノ酸長が、そのように特定されていない点。
(相違点2)本願発明は、そのN末端でtatペプチドに融合され、該tatペプチドが細胞内への融合ペプチドの侵入を容易にすることができるものであるのに対し、引用発明1はその旨の特定がされていない点。

第5 判断
まず、相違点1について検討する。
引用例1の記載事項イ.には、種々の蛋白のPDZドメインが、イオンチャンネルおよび他の蛋白のC末端と相互作用する事も記載されており、記載事項ウ.には、そのうちの1つとして、NMDA受容体のNR2サブユニットのC末端と、PDZドメインを含む蛋白であるPSD95とが相互作用すること、及び、該C末端配列がSDVであることが開示されている。
また、引用例1の記載事項イ.及びエ.によれば、PDZドメインと結合する蛋白であるFasのC末端15アミノ酸の合成ペプチドが、Fasと、PDZドメインを有する蛋白であるFAP-1との結合を阻害したことが記載されており、記載事項エ.及びオ.によれば、FAP-1への結合には、FasのC末端3アミノ酸のみで十分であることが記載されている。
引用例1のこれらの記載に接した当業者にとって、表1に記載されたNMDA受容体のNR2サブユニットのC末端ペプチドも当該受容体とPSD95との相互作用を阻害でき、FasのC末端ペプチドの例からみて、NMDA受容体のNR2サブユニットについてもC末端の3ないし15アミノ酸残基程度で足りるであろうことは予測の範囲内のことである。そして、NMDA受容体のNR2サブユニットのアミノ酸配列情報のために、引用例2を参照すると、その記載事項カ.及びキ.には、NMDA受容体のNR2AサブユニットのC末端のアミノ酸配列は、PSIESDVであり、NR2BサブユニットのC末端のアミノ酸配列は、SSIESDVであり、この領域が、PSD-95のPDZドメインと結合することが記載されている。
そうすると、引用発明1における、PDZドメインと結合する蛋白のC末端コア配列として、NMDA受容体のNR2サブユニットのC末端配列SIESDVを有するものを採用し、該配列を有するペプチドのアミノ酸長をPDZドメインとの結合に必要なアミノ酸を含む、25個以下のアミノ酸とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

次に、相違点2について検討する。
引用例1の記載事項オ.によれば、引用発明1のペプチドも、細胞内に導入することにより、細胞内におけるPDZドメインと結合する蛋白(Fas)とPDZドメインを含む蛋白(FAP-1)との相互作用を阻害するのに用い得るものと認められる。
また、細胞内に所望のペプチドを導入する際に、tatペプチドのような細胞内への輸送活性を有する蛋白をN末端に融合した融合ペプチドとすることは本願優先日前に既に周知の技術であったと認められる(要すれば、特表平5-505102号公報、特表平7-503617号公報、米国5652122号明細書等参照)。
そうすると、引用発明1のペプチドを細胞内に導入する際に、tatペプチドとの融合ペプチドとし、該tatペプチドが細胞内への融合ペプチドの侵入を容易にすることができるものとすることは当業者が容易に想到し得ることである。

最後に、効果について検討する。
本願明細書においては、NMDA受容体が、造血細胞において発現していることが確認されたいくつかのPDZドメイン含有タンパク質と相互作用すること(【0047】、表2)、SIESDVは、NMDA受容体のC末端コア配列であり、神経細胞においてPDZを含有するタンパク質を標的とするのに用いてもよいこと(【0134】)が記載されているのみで、N-末端でtatペプチドに融合されたC-末端コア配列SIESDVを有する25以下のアミノ酸からなるNMDA受容体サブユニット・ペプチドの具体的な機能については示されていないから、本願発明のペプチドが、引用例1?2及び周知技術から予測できないほど格別な効果を奏するものであると認めることはできない。

したがって、本願発明は、引用例1?2の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張
審判請求人は、平成27年10月21日付けの意見書において、以下の2点について主張している。
(1)引用文献1(国際公開第98/5347号)は、アポトーシスを刺激して癌細胞を殺すために、シグナル変換蛋白FASと細胞内蛋白FAP-1の相互作用を阻害するための化合物について討議しており、具体的に好ましいペプチドとして示されたペプチドのアミノ酸配列は、いずれも、本願発明に規定するようなSIESDV配列を有していないから、FAS-FAP-1相互作用を阻害するために、引用文献1のペプチド配列に代えて、SIESDVを使用することは当業者が容易に想到することができたとは言えない。
(2)引用文献1の表1は、FASが、PDZドメインをもつ幾つかタンパク質の内の1つであるということを指摘する際の背景情報としてのみ、NMDARとPSD95の相互作用を言及しており、NMDAR-PSD95機能の阻害が、FAS-FAP-1と同様に癌の治療に有用なアポトーシスの刺激において効果を奏すること、又は本願明細書に開示する造血細胞に免疫機能や他の有益な機能の阻害において効果を奏することを一切教示も示唆もしていないから、NMDAR-PSD95相互作用を阻害するために、C-末端コア配列SIESDVを有するペプチドを使用することを当業者が容易に想到することができたとは言えない。

上記主張(1)について検討する。
上記第3において記載したとおり、引用例1の記載事項ア.からみて、引用例1に記載された発明は、特定のシグナル変換蛋白FASと特定の細胞内蛋白FAP-1の相互作用を阻害するためのペプチドに関するものに限定されてはおらず、「カルボキシル末端にアミノ酸配列(S/T)-X-(V/I/L)を有するシグナル変換蛋白と、アミノ酸配列(G/S/A/E)-L-G-(F-I/L)を含む細胞質蛋白との間の特異的結合を阻害できるペプチドであって、シグナル変換蛋白のカルボキシル末端のアミノ酸配列(S/T)-X-(V/I/L)-COOHを有するペプチド[Xは20の天然に存在するアミノ酸からなる群より選択されるアミノ酸を表す]。」と認定できるのであるから、引用例1の限定的解釈を前提とする上記審判請求人の主張(1)は、採用できない。
上記主張(2)について検討する。
上記第5の効果についての検討で記載したとおり、本願明細書においても、NMDARとPSD95の相互作用を阻害することが、癌の治療に有用なアポトーシスの刺激において効果を奏すること、又は造血細胞に免疫機能や他の有益な機能の阻害において効果を奏することについて何ら具体的に示されていないから、上記審判請求人の主張(2)も採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-12 
結審通知日 2015-11-17 
審決日 2015-12-03 
出願番号 特願2011-29100(P2011-29100)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒木 英則  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 飯室 里美
長井 啓子
発明の名称 造血細胞内分子相互作用  
代理人 中村 和広  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  

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