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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1313422 |
審判番号 | 不服2014-20968 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-16 |
確定日 | 2016-04-15 |
事件の表示 | 特願2013- 22362「CrもしくはMoが基になった触媒系を用いてシンジオタクテック1,2-ポリブタジエンとゴム状弾性重合体のブレンド物を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月20日出願公開,特開2013-122060〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成13年 4月12日(優先権主張:2000年 4月13日(2件):アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2001-576903号の一部を平成25年 2月 7日に新たな特許出願としたものであって,平成26年 1月17日付け拒絶理由通知書により拒絶理由が通知され,同年 3月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年 7月11日付けで拒絶査定がなされ,同査定の謄本は同年 7月16日に請求人に送達された。これに対して,同年10月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され,同年11月10日に特許法第164条第3項の報告がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は,平成26年10月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「シンジオタクテック1,2-ポリブタジエンゴムとゴム状弾性重合体のブレンド物を製造する方法であって, (a)ゴムセメントと1,3-ブタジエンの混合物を準備し,ここで,ゴムセメントは有機溶媒に溶解したゴム状弾性重合体を含む,そして (b)(1)クロム含有化合物と有機マグネシウム化合物,または (2)モリブデン含有化合物と有機アルミニウム化合物, のいずれかとハイドロジエンホスファイトを含んで成る材料の組み合わせもしくは反応生成物である触媒組成物を調製するが,この触媒組成物の調製を前記ゴムセメントと1,3-ブタジエンの非存在下で行い, (c)上記触媒組成物を用いて前記1,3-ブタジエンを前記ゴムセメント内で重合させることによりシンジオタクテック1,2-ポリブタジエンを生成させる, ことを含んで成り, ここで,クロム化合物の量は1,3-ブタジエン100g当たり0.01?2ミリモルであり,有機マグネシウム化合物とクロム化合物のモル比が1:1?50:1であり,そしてハイドロジエンホスファイトとクロム化合物のモル比が0.5:1?50:1である方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開平1-282231号公報(以下,「引用例1」という。),特開平11-255817号公報(以下,「引用例2」という。),及び,特開平11-349623号公報(以下,「引用例3」という。)に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。 第4 当審の判断 1.刊行物の記載事項 (1)引用例1には,次の事項が記載されている。 ア.「3.(1)少なくとも1種のジエンモノマーを有機溶媒中,溶液重合条件下で重合してゴム状エラストマーの有機溶媒中ポリマーセメントを形成し, (2)1,3-ブタジエンモノマーを該ポリマーセメント中で,シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンが分散されているゴムセメントを形成させる条件と触媒の存在の下で重合し,そして (3)該シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンのゴム状エラストマー中高度分散ブレンドを該ゴムセメント中の有機溶媒から回収する ことを特徴とする,シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンのゴム状エラストマー中高度分散ブレンドの製造法。」(特許請求の範囲請求項3) イ.「発明の概要 本発明の方法を用いることによってSPBD(審決注:SPBDは「シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン」の略称である。以下同じ。)等の結晶性ポリマーの良好なゴム状エラストマー中分散体が容易にかつ経済的に製造することができる。本発明の方法によればまた高温度での混合と関連して起こるポリマー分解が排除され,しかも常用混合技術と結び付いた多くのプロセス制限も除かれる。…本発明は更に, (1)少なくとも1種のジエンモノマーを有機溶媒中,溶液重合条件下で重合してゴム状エラストマーの有機溶媒中ポリマーセメントを形成し, (2)1,3-ブタジエンモノマーをそのポリマーセメント中で,シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンが分散されているゴムセメントを形成させる条件と触媒の存在の下で重合し,そして (3)そのシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンのゴム状エラストマー中高度分散ブレンドをそのゴムセメント中の有機溶媒から回収する ことから成る,シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンのゴム状エラストマー中高度分散ブレンドの製造法を開示する。」(第4頁右上欄7行?右下欄20行) ウ.「SPBDは,1,3-ブタジエンモノマーをゴムセメント中で(1)有機金属化合物,(2)遷移金属化合物及び(3)二硫化炭素から構成される触媒組成物の存在下において重合することによって製造することができる。斯る触媒系は米国特許第3,778,424号明細書に詳細に記載されている。この米国特許明細書全体を本明細書で引用,参照するものとする。」(第17頁左上欄15行?右上欄2行) (2)引用例2には,次の事項が記載されている。 エ.「【請求項1】(a)有機マグネシウム化合物 (b)クロム化合物 (c)亜燐酸水素ジヒドロカルビル の触媒的に有効な量の存在下に,炭化水素溶媒中で1,3-ブタジエンを重合することを含んでなる,シンジオタクテイック1,2-ポリブタジエン生成物の生成方法。」(特許請求の範囲請求項1) オ.「【従来の技術】… 以下のコバルト含有触媒系がシンジオタクテイック1,2-ポリブタジエンの製造について広く知られている:… II.宇部興産株式会社に譲渡された米国特許第3778424号に開示されるコバルトトリス(アセチルアセトネート)/トリエチルアルミニウム/水/二硫化炭素 これらの二つの触媒系には,重大な欠点がある。…第二の触媒系は,二硫化炭素を触媒成分の一つとして使用するが,その高い揮発性,低い還流温度並びに毒性のために特殊な安全装置を必要とする。従って該触媒系の工業的的応用には多くの制約が存在する。」(段落【0002】) カ.「触媒は,重合系の外で成分を予備的に混合することにより前以て生成し,得られた予備的に混合された触媒を重合系に加えてもよい。」(段落【0017】) キ.「有機マグネシウムのクロム化合物に対するモル比(Mg/Cr)は,約2:1ないし約50:1に変えることができる。しかしながら,好ましいMg/Crモル比は,約3:1ないし約20:1である。亜燐酸水素ジヒドロカルビルのクロム化合物に対するモル比(P/Cr)は約0.5:1ないし25:1であり,P/Crモル比の好ましい範囲は,約1:1ないし10:1である。」(段落【0019】) ク.「一般的にクロム化合物の使用量は1,3-ブタジエン100グラム当たり0.01ないし2ミリモルの範囲で変化させることができ,好ましい範囲は,1,3-ブタジエン100グラム当たり0.05ないし1.0ミリモルの範囲である。」(段落【0021】) (3)引用例3には,次の事項が記載されている。 ケ.「【請求項1】 炭化水素溶媒中,触媒的に有効量の(a)有機マグネシウム化合物,(b)クロム化合物,及び(c)環式亜燐酸水素エステルの存在下に1,3-ブタジエンを重合することを含んでなるシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンを製造する方法であって,クロム化合物及び有機マグネシウム化合物が随時炭化水素溶媒に可溶であり且つ随時分子量調節剤の存在下に製造を行なう,該シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの製造法。」(特許請求の範囲請求項1) コ.「【従来の技術】… 次のコバルト含有触媒系はシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの製造に関してよく知られている。… II.コバルトトリス(アセチルアセトネート)/トリエチルアルミニウム/水/二硫化炭素(宇部興産の米国特許第3,778,424号(1970),…。 これら2つの触媒系は,致命的な欠点を有する。…コバルトトリス(アセチルアセトネート)/トリエチルアルミニウム/水/二硫化炭素系は触媒成分の1つとして二硫化炭素を使用するが,この高い揮発性,低い引火性,並びに毒性のために特別な安全性の手段を講じる必要がある。」(段落【0002】?【0004】) サ.「本発明の触媒は,3つの触媒成分を,単量体/溶媒混合物に,段階的に又は同時に添加することによってその場で生成させうる。成分を段階的に添加する時の順序は重要でないが,好ましくは有機マグネシウム化合物,クロム化合物,及び最後に環式亜リン酸水素エステルの順で添加される。また3つの触媒成分は,重合系以外の所で予め混合し,ついで得られた混合物を重合系に添加してもよい。」(段落【0018】) シ.「有機マグネシウム化合物とクロム化合物のモル比(Mg/Cr)は約2:1?約50:1で変化しうる。しかしながら,Mg/Crモル比の好適な範囲は約3:1?約20:1である。環式亜リン酸水素エステルとクロム化合物のモル比(P/Cr)は約0.5:1?約25:1で変化させ得,好適なP/Crモル比の範囲は約1:1?10:1である。」(段落【0021】) ス.「一般に使用されるクロム化合物の量は1,3-ブタジエン100グラム当たり0.01?2ミリモルであり,好適な範囲は1,3-ブタジエン100グラム当たり約0.05?約1.0ミリモルである。」(段落【0022】) 2.刊行物に記載された発明 (1)引用発明 引用例1には,特に前記摘示ア.,イ.を参照すると,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「(1)少なくとも1種のジエンモノマーを有機溶媒中,溶液重合条件下で重合してゴム状エラストマーの有機溶媒中ポリマーセメントを形成し, (2)1,3-ブタジエンモノマーを該ポリマーセメント中で,シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンが分散されているゴムセメントを形成させる条件と触媒の存在の下で重合し,そして (3)該シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンのゴム状エラストマー中高度分散ブレンドを該ゴムセメント中の有機溶媒から回収する, シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンのゴム状エラストマー中高度分散ブレンドの製造法。」 3.対比・判断 (1)本願発明と引用発明との対比 そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「ゴム状エラストマー」及び「ポリマーセメント」は,それぞれ,本願発明の「ゴム状弾性重合体」及び「ゴムセメント」に相当する。 したがって,本願発明と引用発明とは, 「シンジオタクテック1,2-ポリブタジエンゴムとゴム状弾性重合体のブレンド物を製造する方法であって, (a)ゴムセメントと1,3-ブタジエンの混合物を準備し,ここで,ゴムセメントは有機溶媒に溶解したゴム状弾性重合体を含む, (b)触媒組成物を調製し,そして (c)上記触媒組成物を用いて,前記1,3-ブタジエンを前記ゴムセメント内で重合させることによりシンジオタクテック1,2-ポリブタジエンを生成させる, ことを含んで成る,方法。」 の点で一致し,次の点で相違する。 <相違点> 触媒組成物について,本願発明は「(1)クロム含有化合物と有機マグネシウム化合物,または(2)モリブデン含有化合物と有機アルミニウム化合物,のいずれかとハイドロジエンホスファイトを含んで成る材料の組み合わせもしくは反応生成物」で「クロム化合物の量は1,3-ブタジエン100g当たり0.01?2ミリモルであり,有機マグネシウム化合物とクロム化合物のモル比が1:1?50:1であり,そしてハイドロジエンホスファイトとクロム化合物のモル比が0.5:1?50:1である」ものと特定するのに対し,引用発明はそのような特定をしていない点。 (2)相違点についての判断 引用発明の触媒について検討すると,引用例1では,使用する触媒について,米国特許第3,778,424号明細書を引用・参照して二硫化炭素を含む触媒を使用できる旨記載している(摘示ウ.)が,引用例1全般の記載を検討しても,かかる触媒が他の触媒と比較検討して優れている等の記載はなく,引用発明において使用される触媒が,かかる二硫化炭素を含む触媒に限定されるとまでいうことはできない。 一方で,引用例2,3には,シンジオタクテック1,2-ポリブタジエンの生成触媒として,クロム含有化合物,有機マグネシウム化合物及びハイドロジエンホスファイトを含んで成る組成物を用いることが示されている(摘示エ.,ケ.)。また,引用例2,3には,触媒組成物の調製を反応系の外で行うこと(摘示カ.,サ.),及び,触媒組成物の使用量や成分比を本願発明と同程度とすること(摘示キ?ク.,シ?ス.)が記載され,さらに,前記米国特許第3,778,424号明細書の二硫化炭素を含む触媒には問題があったこと(摘示オ.,コ.)も記載されている。 してみると,引用発明の触媒として,引用例2,3の前記記載を参考にして,本願発明と同じ「クロム含有化合物と有機マグネシウム化合物,またはモリブデン含有化合物と有機アルミニウム化合物,のいずれかとハイドロジエンホスファイトを含んで成る材料の組み合わせもしくは反応生成物」の特定組成を用いてみることは,当業者が容易に想到し得たことである。 そして,二硫化炭素を含まない触媒を用いることにより,二硫化炭素を用いた場合の問題点が解消されるのは当然のことであり,また,本願明細書の記載をみても,触媒の違いによる比較・検討はなされていないことも併せ勘案すると,本願発明により格別顕著な効果が奏せられるものとも認められない。 (3)まとめ よって,本願発明は,引用発明及び引用例2,3に例示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-05 |
結審通知日 | 2016-02-17 |
審決日 | 2016-03-04 |
出願番号 | 特願2013-22362(P2013-22362) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 淳、阪野 誠司 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 前田 寛之 |
発明の名称 | CrもしくはMoが基になった触媒系を用いてシンジオタクテック1,2-ポリブタジエンとゴム状弾性重合体のブレンド物を製造する方法 |
代理人 | 特許業務法人小田島特許事務所 |