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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29B
管理番号 1313487
審判番号 不服2014-5218  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-19 
確定日 2016-04-06 
事件の表示 特願2007-127521「表面カバーを有する繊維強化熱可塑性シート」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月6日出願公開,特開2007-313893〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成19年5月14日(パリ条約による優先権主張 2006年5月26日 アメリカ合衆国(US))の出願であって,平成22年4月7日に手続補正書が提出され,平成24年8月31日付けで拒絶理由が通知され,平成25年2月28日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,同年11月11日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,平成26年3月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,同年4月30日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され,平成26年7月2日付けで前置報告がなされ,同年10月15日に上申書が提出され,当審において平成27年3月6日付けで拒絶理由が通知され,同年9月9日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。



第2 本願発明

平成27年9月9日付け手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6に係る発明(以下,当該請求項6に係る発明を「本願発明」という。)は,請求項1の記載と請求項6の記載とを併せて独立型式で記載すると以下のとおりであると認められる。

「多孔質コア層を有する複合シート材料であって,
前記コア層は,強化繊維がランダムに横切って配置され,熱可塑性ポリマーによって一緒に保持されることにより形成されている(開放セル構造という)ウェブから成り,
前記ウェブは,前記多孔質コア層の全重量に対して20?80重量パーセントの強化繊維と,前記多孔質コア層の全重量に対して2?13重量パーセントの難燃剤とを含み,前記難燃剤は8.1?9重量パーセントの臭素を含み,さらに前記ウェブの空隙率は,コアの全容積に対して5?95パーセントであり,
それにより,前記複合シート材料が,ASTM法E162-02Aによる試験で平均火炎伝播指数が10以下であり且つASTM法E662-03による試験で4分後の煙密度Dsが200以下であり,
少なくとも1つのスキンを含み,前記スキンは,熱可塑性フィルム,エラストマー・フィルム,金属箔,熱硬化性コーティング,無機コーティング,繊維系スクリム,不織布および織布の内の少なくとも1つを含み,前記スキンは,1996年付けのISO4589-2第1版により,多孔質コア層の表面の少なくとも一部をカバーするために使用される所定の厚さで測定した場合に,22以上の限界酸素指数を有する
ことを特徴とする複合シート材料。」



第3 当審における拒絶理由の概要

当審における平成27年3月6日付けで通知した拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は,以下のとおりのものを含むものである。

「本願発明は,その優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2005/097879号に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」



第4 本願発明に対する判断

1.本願発明
本願発明は,上記第2で認定のとおりのものである。

2.刊行物
国際公開第2005/097879号(当審拒絶理由で引用した刊行物1。以下,「引用例1」という。)

3.引用例1の記載事項
(1) 本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1には,以下のとおりのことが記載されている(下線は当審による。なお,以下の摘示は対応するファミリー文献である特表2007-530320号公報に依った。)
ア 「【請求項1】
少なくとも1つの熱可塑性材料と,多孔質コア層の総重量に基づく,約20重量%?約80重量%の繊維とを備える少なくとも1つの前記多孔質コア層と,
前記少なくとも1つの多孔質コア層の表面の少なくとも一部を被覆する少なくとも1つの外皮であって,熱可塑性膜,弾性膜,金属箔,熱硬化性塗料,無機塗料,繊維ベースのスクリム,不織布および織布のうちの少なくとも1つを含み,ISO4589で測定した約22より大きい限界酸素指数を有する外皮と,
を備える複合シート材料。
【請求項2】
前記熱可塑性膜が,ポリエーテルイミド,ポリエーテルケトン,ポリエーテル・エーテルケトン,ポリフェニレンサルファイド,ポリアリレンスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリアミドイミド,ポリ(1,4-フェニレン),ポリカーボネート,ナイロンおよびシリコーンのうちの少なくとも1つを備える,請求項2に記載の複合シート材料。
【請求項3】
前記繊維ベースのスクリムが,ガラス繊維,アラミド繊維,グラファイト繊維,炭素繊維,無機鉱物繊維,金属繊維,金属化合成繊維および金属化無機繊維のうちの少なくとも1つを備える,請求項1に記載の複合シート材料。
【請求項4】
前記繊維ベースのスクリムが,ポリアクリロニトリル,p-アラミド,m-アラミド,ポリ(p-フェニレン2,6,ベンゾビスオキサゾール),ポリエーテルイミドおよびポリフェニレンサルファイドのうちの少なくとも1つを備える,請求項3に記載の複合シート材料。
【請求項5】
前記熱硬化性塗料が,不飽和ポリウレタン,ビニルエステル,フェノールおよびエポキシのうちの少なくとも1つを備える,請求項1に記載の複合シート材料。
【請求項6】
前記無機塗料が,Ca,Mg,Ba,Si,Zn,TiおよびAlから選択される陽イオンを含む鉱物を備える,請求項1に記載の複合シート材料。
【請求項7】
前記無機塗料が,石こう,炭酸カルシウムおよびモルタルのうちの少なくとも1つを備える,請求項6に記載の複合シート材料。
【請求項8】
第1の面および第2の面を有する第1の多孔質コア層と,前記第1の面および第2の面の少なくとも一方の一部を被覆する少なくとも1つの外皮とを備える,請求項1に記載の複合シート材料。
【請求項9】
各々が第1および第2の面を備える第1および第2の多孔質コア層であって,前記第1のコア層の前記第2の面が,前記第2のコア層の前記第1の面に隣接して配置されている,前記第1および第2の多孔質コア層と,
前記第1のコア層の前記第1および第2の面,および前記第2のコア層の前記第1および第2の面のうちの少なくとも一方の少なくとも一部を被覆する少なくとも1つの外皮と,
を備える,請求項1に記載の複合シート材料。
【請求項10】
前記第1の多孔質コア層が,前記第2の多孔質コア層とは異なる熱可塑性材料および前記第2の多孔質コア層とは異なる繊維のうちの少なくとも一方を備える,請求項9に記載の複合シート材料。
【請求項11】
各々が第1および第2の面を備える第1,第2および第3の多孔質コア層であって,前記第1のコア層の前記第2の面が,前記第2のコア層の前記第1の面に隣接して配置されており,前記第2のコア層の前記第2の面が,前記第3のコア層の前記第1の面に隣接して配置されている,前記第1,第2および第3の多孔質コア層と,
前記第1のコア層の前記第1および第2の面,前記第2のコア層の前記第1および第2の面,および前記第3のコア層の前記第1および第2の面のうちの少なくとも一つを被覆する少なくとも1つの外皮と,
を備える,請求項1に記載の複合シート材料。
【請求項12】
前記多孔質コア層のうちの1つが,前記他の層の少なくとも一方とは異なる熱可塑性材料および異なる繊維のうちの少なくとも一方を備える,請求項11に記載の複合シート材料。
【請求項13】
多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートの製造方法であって,
熱可塑性材料と,約20重量%?約80重量%の繊維とを含む少なくとも1つの多孔質コア層を備える多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートを形成するステップと,
前記多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートの一つの面に少なくとも1つの外皮を積層するステップであって,各外皮が,熱可塑性膜,弾性膜,金属箔,熱硬化性塗料,無機塗料,繊維ベースのスクリム,不織布および織布のうちの少なくとも1つを備え,前記多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートの火炎特性,煙特性,放熱特性およびガス放出特性のうちの少なくとも1つを向上させるために,ISO4589で測定した約22より大きい限界酸素指数を有するステップと,
を含む方法。
【請求項14】
前記熱可塑性膜が,ポリエーテルイミド,ポリエーテルケトン,ポリエーテル・エーテルケトン,ポリフェニレンサルファイド,ポリアリレンスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリアミドイミド,ポリ(1,4-フェニレン),ポリカーボネート,ナイロンおよびシリコーンのうちの少なくとも1つを備える,請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記繊維ベースのスクリムが,ガラス繊維,アラミド繊維,グラファイト繊維,炭素繊維,無機鉱物繊維,金属繊維,金属化合成繊維および金属化無機繊維のうちの少なくとも1つを備える,請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記繊維ベースのスクリムが,ポリアクリロニトリル,p-アラミド,m-アラミド,ポリ(p-フェニレン2,6,ベンゾビスオキサゾール),ポリエーテルイミドおよびポリフェニレンサルファイドのうちの少なくとも1つを備える,請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記熱硬化性塗料が,不飽和ポリウレタン,ビニルエステル,フェノールおよびエポキシのうちの少なくとも1つを備える,請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記無機塗料が,Ca,Mg,Ba,Si,Zn,TiおよびAlから選択される陽イオンを含む鉱物を備える,請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記無機塗料が,石こう,炭酸カルシウムおよびモルタルのうちの少なくとも1つを備える,請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートを形成するステップが,第1の面および第2の面を有する第1の多孔質コア層を備える多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートを形成するステップを含み,前記少なくとも1つの外皮を積層するステップが,前記第1および第2の面のうちの少なくとも一方を被覆する少なくとも1つの外皮を積層するステップを含む,請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートを形成するステップが,各々が第1および第2の面を有する第1および第2の多孔質コア層を備える多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートを形成するステップを含み,,前記第1のコア層の前記第2の面が,前記第2のコア層の前記第1の面に隣接して配置されており,前記少なくとも1つの外皮を積層するステップが,前記第1のコア層の前記第1および第2の面,および前記第2のコア層の前記第1および第2の面のうちの少なくとも一方を被覆する少なくとも1つの外皮を積層するステップを含む,請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートを形成するステップが,各々が第1および第2の面を有する第1,第2および第3の多孔質コア層を備える多孔質繊維強化熱可塑性プラスチックシートを形成するステップを含み,前記第1のコア層の前記第2の面が,前記第2のコア層の前記第1の面に隣接して配置されており,前記第2のコア層の前記第2の面が,前記第3のコア層の前記第1の面に隣接して配置されており,前記少なくとも1つの外皮を積層するステップが,前記第1のコア層の前記第1および第2の面,前記第2のコア層の前記第1および第2の面,および前記第3のコア層の前記第1および第2の面のうちの少なくとも1つを被覆する少なくとも1つの外皮を積層するステップを含む,請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記外皮が,繊維ベースのスクリム,不織布および織布のうちの少なくとも1つを備える,請求項13に記載の方法。
【請求項24】
熱可塑性樹脂と一緒に接合された不連続繊維を備える透過性コアであって,約0.2gm/cc?約1.8gm/ccの密度を有し,表面領域を含む透過性コアと,
前記表面領域に隣接する接着層であって,ISO4589で測定した約22より大きい限界酸素指数を有する材料を含む前記接着層と,
を備える,複合シート材料。
【請求項25】
前記透過性コアが,オープンセル構造を有する,請求項24に記載の複合シート材料。
【請求項26】
前記透過性コアが,金属繊維,金属化無機繊維,金属化合成繊維,ガラス繊維,グラファイト繊維,炭素繊維,セラミック繊維およびアラミド繊維のうちの少なくとも1つを備える,請求項24に記載の複合シート材料。
【請求項27】
前記透過性コアが,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,アクリロニトリルスチレン,ブタジエン,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリブチレンテラクロレート,ポリ塩化ビニル,ポリフェニレンエーテル,ポリカーボネート,ポリエステルカーボネート,熱可塑性ポリエステル,ポリエーテルイミド,アクリロニトリルブチルアクリレートスチレンポリマー,非晶質ナイロン,ポリアリレンエーテルケトン,ポリフェニレンサルファイド,ポリアリルスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリ(1,4フェニレン)化合物,シリコーンおよびこれらの混合物からなる群から選択される熱可塑性樹脂を備える,請求項24に記載の複合シート材料。
【請求項28】
前記コアが,約20重量%?約80重量%の繊維と,約20重量%?約80重量%の熱可塑性樹脂とを備える,請求項24に記載の複合シート材料。
【請求項29】
前記コアが,約35重量%?約55重量%の繊維と,約45重量%?約65重量%の熱可塑性樹脂とを備える,請求項24に記載の複合シート材料。
【請求項30】
前記複合材料が,ASTM E662に従って試験したときに,約200未満の4分煙濃度D_(S)を有する,請求項24に記載の複合シート材料。
【請求項31】
約0.5mm?約25mmの厚さを有する,請求項26に記載の複合シート材料。
【請求項32】
前記接着層が,約25μm?約2.5mmの厚さを有する,請求項26に記載の複合シート材料。
【請求項33】
前記接着層が,熱可塑性膜,弾性膜,金属箔,熱硬化性塗料,無機塗料,繊維ベースのスクリム,不織布および織布のうちの少なくとも1つを備え,前記外皮が,ISO4589で測定した約22より大きい限界酸素指数を有する,請求項26に記載の複合シート材料。
【請求項34】
前記熱可塑性膜が,ポリエーテルイミド,ポリエーテルケトン,ポリエーテル・エーテルケトン,ポリフェニレンサルファイド,ポリアリレンスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリアミドイミド,ポリ(1,4フェニレン),ポリカーボネート,ナイロンおよびシリコーンのうちの少なくとも1つを備える,請求項33に記載の複合シート材料。
【請求項35】
前記繊維ベースのスクリムが,ガラス繊維,アラミド繊維,グラファイト繊維,炭素繊維,無機鉱物繊維,金属繊維,金属化合成繊維および金属化無機繊維のうちの少なくとも1つを備える,請求項33に記載の複合シート材料。
【請求項36】
前記繊維ベースのスクリムが,ポリアクリロニトリル,p-アラミド,m-アラミド,ポリ(p-フェニレン2,6,ベンゾビスオキサゾール),ポリエーテルイミドおよびポリフェニレンサルファイドのうちの少なくとも1つを備える,請求項33に記載の複合シート材料。
【請求項37】
前記熱硬化性塗料が,不飽和ポリウレタン,ビニルエステル,フェノールおよびエポキシのうちの少なくとも1つを備える,請求項33に記載の複合材料。
【請求項38】
前記無機塗料が,Ca,Mg,Ba,Si,Zn,TiおよびAlから選択される陽イオンを含む鉱物からなる,請求項33に記載の複合材料。
【請求項39】
前記無機塗料が,石こう,炭酸カルシウムおよびモルタルのうちの少なくとも1つを備える,請求項38に記載の複合材料。」(特許請求の範囲請求項1?39)

イ 「本発明は,一般に,多孔質繊維強化熱可塑性ポリマー複合材シートに関し,より具体的には,火炎拡散の低減,煙濃度の低減,放熱の低減,ガス放出の低減のうちの少なくとも1つを実現できる,表面被覆を有する多孔質繊維強化熱可塑性ポリマー複合材シートに関する。」([0001],公表公報【0001】)

ウ 「繊維強化熱可塑性プラスチックシートは多様な用途のために様々な性能検査を受ける。例えば,繊維強化熱可塑性プラスチックシートの火炎拡散特性,煙濃度特性,ガス放出特性は,形成された商品が火災等の火炎性の事象を受ける可能性がある環境で使用される場合に重要である。安全上のため,繊維強化熱可塑性プラスチックシート製品の火炎,煙および毒性能力を改善する必要がある。」([0003],公表公報【0003】)

エ 「コア層12は,1つ以上の熱可塑性樹脂により,少なくとも部分的に一体に保持された強化用繊維からなるランダムな交差によって形成されたオープンセル構造からなる繊維ウェブで形成されており,この場合,多孔質コア層12の気孔率は,一般に,コア層12の全容積の約5%?約95%,特に,約30%?約80%である。別の実施形態においては,多孔質コア層12は,1つ以上の熱可塑性樹脂により,少なくとも部分的に一体に保持された強化用繊維からなるランダムな交差によって形成されたオープンセル構造からなり,この場合,セル構造の約40%?約100%は開かれており,空気およびガスの流れを可能にする。
・・・
一実施形態において,熱可塑性材料は少なくとも部分的に粒子状形態である。 適当な熱可塑性プラスチックは限定するものではないが,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,アクリロニトリルスチレン,ブタジエン,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリブチレンテラクロレート,ポリ塩化ビニル,これらの材料の可塑物,非可塑物および混合物,または,他の高分子材料を含む。他の適当な熱可塑性プラスチックは限定するものではないが,ポリアリレンエーテル,ポリカーボネート,ポリエステルカーボネート,熱可塑性ポリエステル,ポリエーテルイミド,アクリロニトリルブチルアクリレートスチレンポリマー,非晶質ナイロン,ポリアリレンエーテルケトン,ポリフェニレンサルファイド,ポリアリルスルホン,ポリエーテルスルホン,液晶性ポリマー,PARMAX(登録商標)として商業的に知られているポリ(1,4フェニレン)化合物,Bayer社のAPEC(登録商標)PC,高温ナイロンおよびシリコーン等の高熱ポリカーボネート,ならびにこれらの材料の合金および混合物または他の高分子材料を含む。好ましくは,熱可塑性材料は,ISO4589の検査方法に従って測定した場合に,約22より大きい限界酸素指数(limited oxygen index;LOI)を有する。水によって化学的に侵されない,および化学的または熱的に分解することなく,融解および/または成形を可能にするように,熱によって十分に軟化させることができるいかなる熱可塑性樹脂も用いることができることが期待される。」([0012]及び[0017],公表公報【0009】及び【0014】)

オ 「例示のためだけに提示されており,かつ本発明の範囲を限定しようとするものではない以下の実施例を参照して,本発明をさらに説明する。別に指し示されていない限り,全ての量は重量部で記載されている。
比較サンプルの火炎,煙およびガス放出を比較する比較例はサンプルAを指し示し,本発明の実施形態の例示的なサンプルはサンプルBおよびCを指し示す。サンプルAは,ULTEMという商標でGeneral Electric Companyから入手可能なポリエーテルイミドと,LEXANという商標でGeneral Electric Companyから入手可能な,臭素ベースの難燃添加剤を含有するビスフェノールAポリカーボネート樹脂との混合物から形成された多孔質繊維強化シートであり,これらの樹脂は,5%および55%の重量比で混合されている。混合樹脂は,16ミクロンの公称繊維径と,12.7mmの平均長とを有する約40重量%のガラス繊維を含む多孔質繊維強化シート中に分散されている。サンプルBは,本発明の実施形態による,ULTEMという商標でGeneral Electric Companyから入手可能な76ミクロン厚のポリエーテルイミド膜が積層されたサンプルAの多孔質繊維強化シートである。サンプルCは,本発明の実施形態による,外面に積層されたKEVLARという商標でE.I.du Pont de Nemours and Companyから入手可能な27g/m^(2)のアラミドスクリムが積層されたサンプルAの多孔質繊維強化シートである。サンプルDは8ミル厚のポリプロピレン膜が積層されたサンプルAの多孔質繊維強化シートである。サンプルDは17のLOIを有する積層ポリプロピレン膜を含む比較サンプルである。結果を以下の表1および表2に示す。
サンプルE,すなわち,それぞれ25%の重量比のポリエーテルイミド樹脂およびポリカーボネート樹脂と,直径が16ミクロンで長さが12.7mmの50重量%のガラス繊維との混合物から形成された多孔質繊維強化シート,サンプルF,すなわち,直径が16ミクロンで長さが12.7mmの40重量%のガラス繊維と結合した重量比5%および55%のポリエーテルイミドおよび環境に優しい難燃剤ベースのポリカーボネート樹脂の混合物から形成された多孔質繊維強化シート,サンプルG,すなわち,ポリカーボネート樹脂と,直径が16ミクロンで長さが12.7mmの50重量%のガラス繊維とから形成された多孔質繊維強化シート,サンプルH,すなわち,ポリプロピレンと,直径が16ミクロンで長さが12.7mmの55重量%のガラス繊維とから形成された多孔質繊維強化シート,サンプルI,すなわち,ポリアリレンエーテル樹脂と,50重量%のガラス繊維とから形成された多孔質繊維強化シート,およびサンプルJ,すなわち,それぞれ,重量比33%および17%で結合したポリカーボネートおよびポリブチレンテレフタレートと,直径が16ミクロンで長さが12.7mmの50重量%のガラス繊維の混合物から形成された多孔質繊維強化シートの火炎特性および煙特性を比較する比較実施例テストを,以下の表3に示す。
サンプルA?Jのための繊維強化熱可塑性プラスチックシートは,英国特許第1129757号明細書および同第1329409号明細書に記載されているウェットレイド製紙プロセスを用いて作成した。該繊維強化熱可塑性プラスチックシートはさらに,該シートを部分的に固結させ,かつ該樹脂で該繊維を濡らすように,325℃および2バールで,二重ベルトラミネータ内で熱および圧力にさらされる。サンプルBは,上述した条件下で,二重ベルトラミネータを用いて,サンプルAと同じ繊維強化熱可塑性プラスチックシートであるが,75μm厚のポリエーテルイミド膜が表面を被覆しているシートから作成した。サンプルCは,上述した条件下で,二重ベルトラミネータを用いて,サンプルAと同じ繊維強化熱可塑性プラスチックシートであるが,27g/m^(2)のアラミドスクリムが該表面を被覆しているシートから作成した。サンプルDは,上述した条件下で,二重ベルトラミネータを用いて,サンプルAと同じ繊維強化熱可塑性プラスチックシートであるが,8ミル厚のポリプロピレン膜が該表面を被覆しているシートから作成した。
火炎特性は,放射熱源と,放射熱エネルギ源を用いた,物質の表面燃焼性に対する標準的方法であるASTM法E-162-02Aに準拠するサンプル物質の傾斜試料とを用いて測定した。火炎拡散指数は,火炎の進行速度と,テスト用の物質による放熱速度とから得た。重要な基準は,火炎拡散指数(flame spread index;FSI)と滴下/燃焼の滴下観察とである。内装材に対する旅客バス用途の米国およびカナダの要件は,火炎滴下物なしで35以下のFSIである。アンダーライターズ・ラボラトリー(Underwriters Laboratory;UL)は,10平方フィートより大きいパーツは,ULからのリスティングを得るために,200以下のFSIを有しなくてはならないことを要求する。
煙特性は,固体材料により生成された煙の特定の光学濃度に対する標準検査方法であるASTM法E-662-03に従って,閉塞されたチャンバ内で,テスト試料を火炎状態および非火炎状態にさらすことによって測定した。光透過率測定を行って,テスト期間中に生成された煙の特定の光学濃度を計算するのに用いた。重要な基準は,放射炉または放射炉プラス多数の炎にさらしたサンプルにより生じた煙の光学濃度(D_(S))である。光学濃度は,概して20分間の対時間でプロットする。最大光学濃度およびこの最大値に達する時間は,重要な出力である。米国およびカナダの鉄道規定,およびいくつかの米国およびカナダのバスのガイドラインは,1.5分で100以下の最大D_(S),4分で200以下の最大D_(S)を設定している。国際航空規定は,多くの内装用途に対して,4分で200以下のD_(S)を設定している。
また,毒性および火に対するFAA要件も,ボーイング社により開発されたFAA検査BSS-7239,およびFAR25.853(a)別表F,パートIV(OSU65/65)熱量計に従って測定した。
航空機の客室内装の大部分は,典型的には,上述したASTM E162およびASTM E662,ならびに4分で200の最大D_(S)を満たす必要があるであろう。従来,プラスチックに対する難しい検査は,OSU65/65放熱テストであった。このテストでは,テスト材料が,放熱源を画成するように露出され,熱量計測定値が記録される。重要な基準は,65kW/m^(2)を超えるべきではない,5分間のテスト中の平均最大放熱と,65kW-分/m^(2)を超えるべきではない,該テストの最初の2分間に放熱された平均総熱量である。
60秒の垂直燃焼試験において,パーツは,小規模の裸火に60秒間さらされ,重要な基準は,150mm以下の燃焼距離,15秒以下の残炎時間,および3秒以下の滴下物燃焼時間である。
【表1】

【表2】

【表3】

上記のテスト結果は,サンプルBのポリエーテルイミド外皮を有し,サンプルCのアラミドスクリムを有する繊維強化熱可塑性プラスチックシートが,サンプルAよりも優る低減された火炎拡散指数FS,低減された煙濃度D_(S),低減された放熱および低減されたガス放出を呈することを示す。表1に示すように,サンプルBおよびCは,サンプルAのテスト結果よりも優れているテスト結果を呈する。例えば,サンプルBおよびCは,FSが10であったサンプルAよりも低い火炎拡散指数5.5および6.0をそれぞれ呈した。特に,サンプルBおよびCは,ASTM E-162,ASTM E-662,FAR25.853(a)による試験,および60秒垂直燃焼試験に対して,より低いテスト結果を呈した。唯一の例外は,サンプルCの4分煙濃度D_(S)の結果である。たった17のLOIを有する熱可塑性膜を含んだ比較例Dは,200より大きい火炎拡散指数FSを呈し,また,火炎滴下物を呈した。さらにサンプルE?Jの各々は,サンプルBおよびCの火炎拡散指数FSおよび4分煙濃度D_(S)よりも著しく高い,火炎拡散指数FSおよび4分煙濃度D_(S)の少なくとも一方を呈する。」([0031]?[0039],公表公報【0027】?【0039】)

4. 引用例1に記載された発明
上記3(1)ア及びエで摘示したところによれば,引用例1には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「少なくとも1つの熱可塑性材料と,多孔質コア層の総重量に基づく,20重量%?80重量%の繊維とを備える少なくとも1つの前記多孔質コア層と,
前記少なくとも1つの多孔質コア層の表面の少なくとも一部を被覆する少なくとも1つの外皮であって,熱可塑性膜,弾性膜,金属箔,熱硬化性塗料,無機塗料,繊維ベースのスクリム,不織布および織布のうちの少なくとも1つを含み,ISO4589で測定した22より大きい限界酸素指数を有する外皮と,
を備え,
前記コア層は,1つ以上の熱可塑性樹脂により,少なくとも部分的に一体に保持された強化用繊維からなるランダムな交差によって形成されたオープンセル構造からなる繊維ウェブで形成されており,多孔質コア層の気孔率は,コア層の全容積の5%?95%である,
複合シート材料。」

5. 対比
まず,本願発明の「ASTM法E162-02Aによる試験で平均火炎伝播指数」及び「ASTM法E662-03による試験で4分後の煙密度Ds」についてみると,これらは,引用例1に記載(摘示オ)された「ASTM E-162 平均火炎拡散指数Fs」及び「ASTM法E-662-03に従う煙の4分での光学濃度(D_(S))」と,それぞれ同じものであると認められる。
本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,「多孔質コア層を有する複合シート材料」である点で共通するものであって,引用発明の「熱可塑性材料」は,本願発明の「熱可塑性ポリマー」に,「繊維ウェブ」は,「ウェブ」に,各々相当する。
そして,引用発明の「繊維」は,本願発明の「強化繊維」に相当し,その数値範囲は,コア層(コア)の重量に対して20重量%?80重量%であるから,両者で重複一致している。
また,引用発明の「多孔質コア層の気孔率」は,本願発明の「ウェブの空隙率」に相当し,その数値範囲は,コア層(コア)の全容積の5%?95%であるから,両者で重複一致している。
そして,引用発明の「1つ以上の熱可塑性樹脂により,少なくとも部分的に一体に保持された強化用繊維からなるランダムな交差によって形成されたオープンセル構造からなる繊維ウェブ」は,本願発明の「強化繊維がランダムに横切って配置され,熱可塑性ポリマーによって一緒に保持されることにより形成されている(開放セル構造という)ウェブ」に相当するといえる。
さらに,引用発明の「多孔質コア層の表面の少なくとも一部を被覆する」「外皮」は,本願発明の「スキン」に対応し,そしてその材質について,引用発明の「熱可塑性膜,弾性膜,金属箔,熱硬化性塗料,無機塗料,繊維ベースのスクリム,不織布および織布のうちの少なくとも1つ」は,本願発明の「熱可塑性フィルム,エラストマー・フィルム,金属箔,熱硬化性コーティング,無機コーティング,繊維系スクリム,不織布および織布の内の少なくとも1つ」に相当する。また,引用発明の「ISO4589で測定した22より大きい限界酸素指数」は,本願発明の「1996年付けのISO4589-2第1版により,多孔質コア層の表面の少なくとも一部をカバーするために使用される所定の厚さで測定した場合に,22以上の限界酸素指数」に相当するといえる。
そうすると,両発明は,以下の点で一致し,以下の点で相違するといえる。

<一致点>
「多孔質コア層を有する複合シート材料であって,
前記コア層は,強化繊維がランダムに横切って配置され,熱可塑性ポリマーによって一緒に保持されることにより形成されている(開放セル構造という)ウェブから成り,
前記ウェブは,前記多孔質コア層の重量に対して20重量パーセント?80重量パーセントの強化繊維を含み,さらに前記ウェブの空隙率は,コアの全容積に対して5?95パーセントであり,
少なくとも1つのスキンを含み,前記スキンは,熱可塑性フィルム,エラストマー・フィルム,金属箔,熱硬化性コーティング,無機コーティング,繊維系スクリム,不織布および織布の内の少なくとも1つを含み,前記スキンは,1996年付けのISO4589-2第1版により,多孔質コア層の表面の少なくとも一部をカバーするために使用される所定の厚さで測定した場合に,22以上の限界酸素指数を有する,
複合シート材料。」

<相違点1>
本願発明では,ウェブが,「前記多孔質コア層の全重量に対して2?13重量パーセントの難燃剤を含み,前記難燃剤は8.1?9重量パーセントの臭素を含み」と特定するのに対し,引用発明ではそのような特定がない点。

<相違点2>
本願発明では,複合シート材料が,「ASTM法E162-02Aによる試験で平均火炎伝播指数が10以下であり且つASTM法E662-03による試験で4分後の煙密度Dsが200以下である」と特定するのに対し,引用発明ではそのような特定がない点。

6. 判断
(1)相違点1について
引用発明は,「繊維強化熱可塑性プラスチックシートの火炎拡散特性,煙濃度特性,ガス放出特性は,形成された商品が火災等の火炎性の事象を受ける可能性がある環境で使用される場合に重要であ」り,「安全上のため,繊維強化熱可塑性プラスチックシート製品の火炎,煙および毒性能力を改善する必要があ」(摘示ウ)ることを前提とし,「火炎拡散の低減,煙濃度の低減,放熱の低減,ガス放出の低減」(摘示イ)を課題とするものであると認められる。
そうすると,引用発明において,さらなる難燃性の向上を目指すことには十分な動機付けが存在するといえる。
実際のところ,例えば引用例1の実施例では,「ポリエーテルイミドと,臭素ベースの難燃添加剤を含有するビスフェノールAポリカーボネート樹脂との混合物から形成された多孔質繊維強化シート」(摘示オ)が記載されている。
してみると,引用発明において,さらなる難燃性の向上を目指して,繊維ウェブ(ウェブ)に,それ自体本願優先日前に周知の臭素を含む難燃剤を配合することに想到し,かかる難燃剤として具体的に臭素含有量8.1?9重量パーセントである難燃剤を選択し,その配合量を多孔質コア層の総重量に基づき2重量%?13重量%と特定する程度のことは,当業者が適宜なし得ることにすぎず,それによる効果も格別のものでもない。
以上のとおりであるから,相違点1は,当業者が想到容易である。

(2)相違点2について
ア 火炎特性について,引用例1には,「火炎特性は,…物質の表面燃焼性に対する標準的方法であるASTM法E-162-02Aに準拠するサンプル物質の傾斜試料とを用いて測定した。…重要な基準は,火炎拡散指数(flame spread index;FSI)と滴下/燃焼の滴下観察とである。内装材に対する旅客バス用途の米国およびカナダの要件は,火炎滴下物なしで35以下のFSIである。」(摘示オ)と記載されており,表1には,「ASTM E-162 平均火炎拡散指数Fs」が「サンプルA,B及びCでそれぞれ10,5.5及び6.0」であることが記載されている。
そうすると,引用発明の複合シート材料は,旅客輸送の内装基準としてASTM法E-162-02Aの平均火炎拡散指数Fsが,例えば35以下と設定されており,サンプルA,B及びCが10以下を満たしていることが理解される。
イ また,煙特性について,引用例1には,「煙特性は,固体材料により生成された煙の特定の光学濃度に対する標準検査方法であるASTM法E-662-03に従って,閉塞されたチャンバ内で,テスト試料を火炎状態および非火炎状態にさらすことによって測定した。…重要な基準は,放射炉または放射炉プラス多数の炎にさらしたサンプルにより生じた煙の光学濃度(D_(S))である。…米国およびカナダの鉄道規定,およびいくつかの米国およびカナダのバスのガイドラインは,…4分で200以下の最大D_(S)を設定している。国際航空規定は,多くの内装用途に対して,4分で200以下のD_(S)を設定している。」(摘示オ)と記載されており,表1には,「ASTM E-662 4.0分での煙濃度」が「サンプルA,B及びCでそれぞれ65,25及び133」であることが記載されている。
そうすると,この記載から,旅客輸送の内装基準としてASTM法E-662-03に従う煙の光学濃度(D_(S))が4分で200以下と設定されており,サンプルA,B及びCがいずれも200以下を満たしていることが理解される。
ウ してみると,引用発明において,複合シート材料の難燃性の指標として,サンプルA?Cがいずれも満足する範囲でもある,「ASTM E-162による平均火炎拡散指数Fsが10以下」且つ「ASTM法E-662-03に従う4分後の煙の光学濃度(D_(S))が200以下」と設定する程度のことは,当業者が適宜なし得ることにすぎず,それによる効果も格別のものでもない。
以上のとおりであるから,相違点2は,当業者が想到容易である。

7.まとめ
上記検討のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。



第5 むすび

以上のとおり,本願発明,すなわち,平成27年9月9日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項6に係る発明は,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
当審における拒絶理由は妥当なものである。
したがって,他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-06 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2007-127521(P2007-127521)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 康之  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 大島 祥吾
小野寺 務
発明の名称 表面カバーを有する繊維強化熱可塑性シート  
代理人 鈴木 弘男  

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