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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1313496
審判番号 不服2014-17005  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-27 
確定日 2016-04-06 
事件の表示 特願2010-547180「ハロゲン非含有難燃性TPU」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月27日国際公開、WO2009/103765、平成23年 4月21日国内公表、特表2011-512449〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成21年2月19日(パリ条約による優先権主張 平成20年2月21日,欧州特許庁(EP))にされたとみなされる特許出願であって,平成25年5月20日付けで拒絶理由が通知され,同年11月25日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され,平成26年4月23日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年8月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年11月6日付けで同法164条3項の規定による報告がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成26年8月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年8月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ,特許請求の範囲全体の記載のうち,本件補正前の請求項1並びに当該請求項に対応する本件補正後の【請求項1】の記載を掲記すると,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(平成25年11月25日の手続補正書)
「(A)成分Aとして,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタン,
(B)成分Bとして,メラミン化合物,リン化合物及び金属水酸化物,並びにこれらの混合物からなる群から選択される難燃剤,及び
(C)成分Cとして,少なくとも1種の架橋剤,
を含む難燃性混合物であって,
前記少なくとも1種の架橋剤が,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタンに溶解した少なくとも1種のイソシアネートであり,イソシアネートが熱可塑性ポリウレタンの質量に対して,20?70質量%溶解していることを特徴とする難燃性混合物。」
・ 本件補正後
「(A)成分Aとして,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタン,
(B)成分Bとして,リン酸エステル及びメラミン化合物からなる難燃剤,及び
(C)成分Cとして,少なくとも1種の架橋剤,
を含む難燃性混合物であって,
前記少なくとも1種の架橋剤が,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタンに溶解した少なくとも1種のイソシアネートであり,イソシアネートが熱可塑性ポリウレタンの全質量に対して,20?70質量%溶解していることを特徴とする難燃性混合物。」

2 本件補正の目的
本件補正は,請求項1の記載に係る発明を特定するために必要な事項である「難燃剤」について,補正前において「メラミン化合物,リン化合物及び金属水酸化物,並びにこれらの混合物からなる群から選択される」と特定していたものを「リン酸エステル及びメラミン化合物からなる」と特定することで,補正前の発明特定事項を限定するものである。そして,本件補正の前後で,請求項1の記載に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。
よって,本件補正は,請求項1についてする補正については,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。
なお,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。
(審決注:本件補正の前後の請求項1には,架橋剤中でイソシアネートが20?70質量%溶解しているとの記載があるところ,本件補正は,上述の補正事項についてするもののほか,その溶解割合について,補正前において「熱可塑性ポリウレタンの質量に対して」と特定していたものを「熱可塑性ポリウレタンの全質量に対して」と特定することで,補正前の明りようでない記載を明りようにするものでもあるともいえる。そして,当該補正事項は,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものでないから,厳密には,特許法17条の2第5項各号に掲げるいずれの目的にもあたらないといわざるを得ないが,当合議体は,当該補正事項のいわゆる目的要件についての違法性は問わないこととする。なお,当該補正事項の根拠については,本願の明細書の【0040】などに認めることができる。)

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,以下説示のとおり,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお,引用文献2は,原査定の理由で引用された「引用文献2」と同じである。)。
・ 引用文献2: 国際公開第2006/134138号

4 本願補正発明
本願補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「(A)成分Aとして,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタン,
(B)成分Bとして,リン酸エステル及びメラミン化合物からなる難燃剤,及び
(C)成分Cとして,少なくとも1種の架橋剤,
を含む難燃性混合物であって,
前記少なくとも1種の架橋剤が,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタンに溶解した少なくとも1種のイソシアネートであり,イソシアネートが熱可塑性ポリウレタンの全質量に対して,20?70質量%溶解していることを特徴とする難燃性混合物。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明
ア 引用文献2には,次の記載がある。(なお,引用文献2は外国語(独語)で記載された刊行物であるので,審決の便宜上,その記載については,引用文献2に係る国際出願による特許出願の公表特許公報(特表2008-544009号公報)を用いることとする。この点,上記拒絶理由においても,引用文献2の記載事項について,上記公表特許公報を援用していたところ,このような援用について,請求人は何ら異議を唱えていない。また,下線の一部は当合議体による。以下同じ。)
・「【請求項1】
イソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタン(i)の全質量に対して,熱可塑性ポリウレタン中に溶解したイソシアネートを20質量%から70質量%の間で含有する熱可塑性ポリウレタン(i)。…
【請求項14】
熱可塑性ポリウレタンとイソシアネートとの反応法において,イソシアネートとして請求項1から6までのいずれか1項記載のイソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタンを使用することを特徴とする,熱可塑性ポリウレタンとイソシアネートとの反応法。…
【請求項16】
熱可塑性ポリウレタン(i)を熱可塑性ポリウレタンと一緒に押出機中に導入しかつ溶融することを特徴とする,請求項14記載の方法。
【請求項17】
熱可塑性ポリウレタンの射出成形法において,熱可塑性ポリウレタンを請求項1から6までのいずれか1項記載のイソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタン(i)と一緒に射出成形することを特徴とする,熱可塑性ポリウレタンの射出成形法。…
【請求項19】
請求項17または18記載の方法によって得られる射出成形品。
【請求項20】
請求項14から16までのいずれか1項記載の方法によって得られる押出品。
【請求項21】
請求項14から16までのいずれか1項記載の方法によって得られるフィルム。」(【特許請求の範囲】)
・「以下でTPUとも略される熱可塑性ポリウレタンの製造は一般的に公知である。…
TPUの特性プロフィールの改善のために,TPUに架橋を導入することが文献から公知であり,それによって強度が高められ,耐熱性が改善され,引張永久歪および圧縮永久歪が軽減され,全ての種類の媒体に対する安定性,弾性力およびクリープ挙動が改善される。…
本発明の課題は,非常に良好なプロセス信頼性,例えば溶融安定性にて,出来る限り際立った架橋が達成されうるように化学的な成分を最適化するという点にあった。加えて成分は,殊に射出成形において使用可能であり,かつ架橋することができる製品へと結びつくべきである。
これらの課題は,冒頭で示された濃縮物,すなわち高い濃度でイソシアネートを含有する本発明によるTPU(i)を用いてイソシアネートの計量供給を実施することによって解決することができた。」(【0002】?【0007】)
・「本発明による熱可塑性ポリウレタン(i)において,イソシアネートはTPU中,殊に熱可塑性ポリウレタンの軟質相に溶解して存在する。TPUとのイソシアネートの反応およびそれによるTPUの分解または架橋は,殊に混入に際しての温度を十分低く選択することによって回避されうる。通常,TPUの分子量は,イソシアネートの本発明による混入に際して変化しないかまたは非常にわずかにしか変化しない。他方で有利なのは,TPU中でのイソシアネートの出来る限り高い濃度を出来る限り素早く達成することができるようにするために熱可塑性ポリウレタンがイソシアネートの混入に際して溶融して存在することである。有利には,イソシアネートを含有する本発明による熱可塑性ポリウレタン(i)は処理されるまで40℃より小さい温度で貯蔵される。
加えて,本発明による濃縮物,すなわちイソシアネートを含有するTPU(i)は,架橋されるべきTPUへの添加に際して外部ポリマーが供給されないという利点を有する。従って,架橋されるべきTPUにイソシアネートを含有する同じTPU(i)が加えられる。従って,配合の変更による,すなわち外部ポリマーの添加による大幅な調整と同様,混合物が回避されうる。」(【0011】?【0012】)
・「本発明による熱可塑性ポリウレタン(i)中のイソシアネートとして,一般的に公知のイソシアネート,例えば一般的に2個のイソシアネート基を有する脂肪族の,脂環式のおよび/または芳香族のイソシアネートが存在してよい。比較的高い官能性のイソシアネート,例えばポリマーMDIまたは変性されたイソシアネート,例えばビウレット基を含有する,2?10個のイソシアネート基を有するイソシアネート,有利には2?8個の,とりわけ有利には3個のイソシアネート基を有するイソシアヌレート,および/または2?10個のイソシアネート基を有するプレポリマー,すなわちイソシアネートと,イソシアネートに対して反応性の化合物,一般的にアルコールとの反応に従って得られるイソシアネートも考慮の対象となる。」(【0023】)
・「イソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタン(i)の製造のために,一般的に公知の熱可塑性ポリウレタン,例えば脂肪族のまたは芳香族の出発物質をベースとする熱可塑性ポリウレタンを使用してよい。その中にイソシアネートが導入され,引き続きイソシアネートを含有する本発明による熱可塑性ポリウレタン(i)となる熱可塑性ポリウレタンは,一般的に公知の硬度を有しうる。…」(【0028】)
・「冒頭で記載されたように,殊に本発明はまた熱可塑性ポリウレタンとイソシアネートとの反応法にも関し,その際,イソシアネートとして,イソシアネートを含有する本発明による熱可塑性ポリウレタン(i)が使用される。…
イソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタン(i)の熱可塑性ポリウレタンへの添加による過剰のイソシアネート基によって,これらのイソシアネート基が,TPUと熱可塑性ポリウレタン(i)の混合中および/または混合後に成分の低温のまたは有利には高温の,とりわけ有利には溶融された状態において,ポリイソシアネート重付加生成物の改善された特性につながる,例えばウレタン-,アロファネート-,ウレトジオン-,および/またはイソシアヌレート構造ならびに場合により尿素-およびビウレット結合の形における架橋を形成することが達成される。…
有利には濃縮物(i)は,有利には造粒された熱可塑性ポリウレタン,すなわち濃縮物(i)によってイソシアネート基が供給されるべき熱可塑性ポリウレタンを,有利には造粒された熱可塑性ポリウレタン(i),すなわちイソシアネートを含有する濃縮物と一緒に押出機中に導入しかつ溶融しかつ有利には溶融された状態で混合する形で熱可塑性ポリウレタンに計量供給される。
代替的にまた可能であるのは,熱可塑性ポリウレタンを押出機中に導入し,溶融し,引き続き濃縮物(i)を,有利には顆粒として溶融物に供給することである。…
TPUおよびイソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタン(i)が押出機に供給される,押出機におけるまたは射出成形装置における供給補助装置の有利な使用によって,固体のTPU顆粒を一緒にまたは分離して,有利にはイソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタン(i)と一緒に押出機または射出成形装置中に素早くかつ確実に供給することが可能になる。とりわけ有利には,熱可塑性ポリウレタン(i)は熱可塑性ポリウレタンと一緒に供給補助装置によって押出機にまたは射出成形装置に導入され,すなわち同じ供給補助装置がTPUおよび熱可塑性ポリウレタン(i)のために用いられる。」(【0035】?【0041】)
・「本発明による方法生成物,すなわちイソシアネートを有する熱可塑性ポリウレタン(i)を含有するTPUは,一般的に公知の方法に従って,例えば射出成形によってまたは,全ての種類の成形体,ローラー,靴底,自動車における内張り,チューブ,ケーブルプラグ,蛇腹,牽引ケーブル,ワイパーブレード,ケーブル被覆,ガスケット,ベルトまたは減衰エレメント,フィルムまたは繊維を得るための押出によって処理されうる。…所望されたフィルム,成形体および/または繊維を得るための混合物の処理は,有利には本発明によるポリウレタン(i)とのTPUの混合直後または混合中に行われる。…」(【0054】)
・「本発明によるTPU(i)の製造のためのみならず,また架橋のための,すなわちイソシアネートを含有する本発明による熱可塑性ポリウレタン(i)と混合するためのTPUとして,一般的に公知のTPUが使用されうる。…
TPUの製造法は一般的に公知である。例えば熱可塑性ポリウレタンは,(a)イソシアネートと(b)500?10000の分子量を有するイソシアネートに対して反応性の化合物および場合により,(c)50?499の分子量を有する鎖延長剤との,場合により(d)触媒および/または(e)通常の助剤の存在における反応によって製造されうる。」(【0061】?【0062】)
・「…e)触媒(d)の他に,構造成分(a)?(c)に通常の助剤(e)も添加してよい。例えば挙げられるのは,表面活性物質,難燃剤,核形成剤,酸化安定剤,滑剤および離型剤,染料および顔料,例えば加水分解,光,熱または変色に対する安定剤,無機充填剤および/または有機充填剤,補強材および可塑剤である。…」(【0063】)
・「例…
イソシアネート:
Lupranat^((R))MM103: カルボジイミドで変性された4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI);NCO含量:29.5質量%
Lupranat^((R))MP102: MDI,ジプロピレングリコールおよび分子量450を有するエチレンオキシド/プロピレンオキシドをベースとするポリエーテルジオールをベースとするプレポリマー;NCO含量:23.0質量%
Basonat^((R))H100: 三量体化されたヘキサメチレンジイソシアネート;NCO含量:22.0質量%
熱可塑性ポリウレタン(TPU):
Elastollan^((R))C78A,C80A,C85A: MDI,鎖延長剤としてのブタンジオール-1,4および分子量2000を有するポリエステルジオール(ブタンジオール-ヘキサンジオール-アジピン酸-コポリエステル)をベースとするポリエステル-ポリウレタン。
Elastollan^((R))1195A,1154D,1174D: MDI,鎖延長剤としてのブタンジオール-1,4および分子量1000を有するポリテトラメチレングリコールをベースとするポリエーテル-ポリウレタン。
Elastollan^((R))C85A,15HPM: MDI,ブタンジオール-1,4,Elastollan^((R))Cタイプの場合と同じポリエステルジオールおよび硬質相としてのポリブチレンテレフタレート-セグメントをベースとする硬質相変性ポリエステル-ポリウレタン。
例1
請求項1に記載のポリウレタン(i),10のバレルに分割された35Dのプロセスセクション長さ(Verfahrensteillaenge)を有するBerstorff社のZE40A型の二軸押出機を使用した。スクリューエレメント装置は,バレル2内にTPU顆粒のための溶融ユニットとして2つの後方に搬送するニーディングブロックを有していた。バレル3は,TPU溶融物への液状のイソシアネートの添加の機能を有していた。バレル3,6および7は,通常の搬送エレメントに加えて鋸歯状板ブロックの形における混合エレメントを有していた。
バレル温度をまず全て210℃に設定し,かつ15.0kg/hでElastollan^((R))C85Aの顆粒を連続的に重量計量供給によってバレル1内に添加した。その後,5.0kg/hでLupranat^((R))MM103を歯車ポンプおよびバレル3内への重量計量供給によって連続的にTPU溶融物中に導入し,かつ後続するバレル内で集中的に混合した。Lupranat^((R))MM103の添加後,バレル4から全ての他のバレル温度を150℃に下げた。押出機ダイヘッドから排出される光学的に明澄な溶融ストランドが150?160℃の温度に達した後,それらを水浴中で冷却し,抽水装置を介して付着水を除去し,かつ通常の方法において造粒した。その結果,硬質の,結晶性に優れかつ粘稠性でない顆粒が生じ,後乾燥することなく使用することができた(濃縮物No.1)。」(【0097】?【0099】)
・「【表1】

」(【0101】)
・「例3:
請求項1記載の本発明による熱可塑性ポリウレタン(i)の製造のために,12のバレルに分割された48Dのプロセスセクション長さを有するWerner & Pfleiderer社のZSK58型の二軸押出機を使用した。押出機からの溶融物の搬出を,加熱された歯車ポンプを用いて行い,造粒は通常の水中造粒装置(UWG)を用いて行った。スクリューエレメント装置は,例1に記載された装置と合致していた。
全体のバレル温度をまず210℃に設定しかつ,75.0kg/hでElastollan^((R))C85Aを連続的に重量測定によりバレル1内に計量供給し,溶融し,同様に210℃に加熱された歯車ポンプを介して押出機から搬出しかつ,押出されたEC85A-材料の分子量の測定のためにUWG中で造粒した。
その後,TPU溶融物を得るのにLupranat^((R))MP102 75.0kgを連続的に重量測定によりバレル5内に添加し,混合しかつ温度を低下させることなく搬出した。水中造粒は,極めて低い溶融粘度ゆえに可能ではなかった。しかしながら,分子量低下を測定するために試料を採取した(濃縮物No.3)。
引き続き,バレル5の後のバレル温度および歯車ポンプの温度を140℃に低下させた。排出される光学的に明澄な溶融物が同様に140?145℃の温度に達した後に,問題のない水中造粒が可能であった。発生する顆粒から,遠心分離機中で表面的に付着する水を分離しかつ,さらに乾燥することなく収集した(濃縮物No.4)。」(【0103】?【0106】)
・「【表2】

」(【0107】)
・「例4:
Elastollan^((R))C80A10の顆粒を,濃縮物No.1および濃縮物No.4の顆粒と混ぜ,これらの顆粒混合物を射出成形において通常の方法において検板へと処理し,該検板を20時間,100℃で焼きなましを行い,かつ機械的な特性を測定した。
このようなイソシアネートが富化した濃縮物の貯蔵安定性を調べるために,濃縮物No.4の4ヶ月の貯蔵期間後にElastollan^((R))C80A10を用いた比較可能な一連の混合を実施した。
結果は表3に記載されている。」(【0109】?【0111】)
・「【表3】

」(【0112】)
・「イソシアネート濃縮物の添加による機械的な特性の変化は,引張伸びの減少,殊に100℃での永久圧縮歪の値の低下,VICAT(ビカット)A120に従って測定された熱変形安定性の増加に関する。
これらの効果は,イソシアネートの添加によるElastollan^((R))C85A10の架橋に基づく。」(【0113】?【0114】)
・「例5:
Elastollan^((R))C80A15HPMの顆粒を,例4に記載されたのと同じ方法において濃縮物No.4と混ぜ,処理しかつ試験した。」(【0116】)
・「【表4】

」(【0117】)
・「結果から,硬質相変性TPUへの添加に際しての本発明によるポリウレタン(i)の作用の仕方が,Elastollan^((R))Cタイプに従った構造を有するTPUを使用した場合の効果と比較可能であることがわかる。」(【0118】)
イ 上記アでの摘記,特に特許請求の範囲の記載などを総合すると,引用文献2には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「押出機又は射出成形装置に一緒に導入し,溶融されることで混合された,イソシアネートを含有する熱可塑性ポリウレタン(i)であって,イソシアネートが熱可塑性ポリウレタン(i)の全質量に対して20質量%から70質量%の間で溶解している熱可塑性ポリウレタン(i)と,熱可塑性ポリウレタンとを含む混合物。」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「熱可塑性ポリウレタン(i)」は「イソシアネートが熱可塑性ポリウレタン(i)の全質量に対して20質量%から70質量%の間で溶解」しているものであることから,本願補正発明の成分Cとしての「少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタンに溶解した少なくとも1種のイソシアネートであり,イソシアネートが熱可塑性ポリウレタンの全質量に対して,20?70質量%溶解している」とされる「架橋剤」に相当するといえる。また,上記熱可塑性ポリウレタン(i)と混合するとされる引用発明の「熱可塑性ポリウレタン」は,本願補正発明の成分Aとしての「熱可塑性ポリウレタン」に相当する。さらに,本願補正発明の「難燃性混合物」も引用発明の「混合物」も,混合物である点で一応相当するものであるといえる。
イ したがって,本願補正発明と引用発明との一致点,相違点(相違点1及び2)は,それぞれ次のとおりのものと認めることができる。
・ 一致点
「少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタン及び少なくとも1種の架橋剤を含む混合物であって,前記少なくとも1種の架橋剤が少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタンに溶解した少なくとも1種のイソシアネートであり,イソシアネートが熱可塑性ポリウレタンの全質量に対して20?70質量%溶解している混合物。」
・ 相違点1
混合物の構成成分として,本願補正発明は成分Bとして「リン酸エステル及びメラミン化合物からなる難燃剤」をさらに含むと特定するのに対し,引用発明はそのような特定事項を有しない点。
・ 相違点2
本願補正発明は混合物が「難燃性」であると特定するのに対し,引用発明はその旨を特定しない点。

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
押出機や射出成形装置へ導入するとされる引用発明の「混合物」は,引用文献2の記載(【0041】,【0054】など)によれば,熱可塑性ポリウレタンを主成分とする押出成形品又は射出成形品の成形材料である。
ところで,熱可塑性ポリウレタンを主成分とするこれら成形品に難燃性を付与すること,そしてその難燃性を高めるために成形材料中に難燃剤を含有することは,例を挙げるまでもなく自明の課題であり,その解決手段であるといえる。この点,引用文献2の【0063】にも,難燃剤を通常の助剤として添加することができる旨の記載がある。
そうすると,熱可塑性ポリウレタンを主成分とする成形品に難燃性を付与するため,その成形材料中に添加する難燃剤としてリン酸エステル及びメラミン化合物からなる難燃剤を用いる技術は本願の優先日当時に周知であるから(要すれば,特開平11-302979号公報(例えば【特許請求の範囲】,【0012】?【0015】),特開平7-48509号公報(例えば【特許請求の範囲】,【0029】,【0030】,【0041】)を参照できる。なお,これら文献は,拒絶理由において引用された引用文献3及び4である。),引用発明に上記周知技術を適用すること,すなわち引用発明の混合物にリン酸エステル及びメラミン化合物からなる難燃剤を含有することは,当業者であれば想到容易である。
そして,本願の明細書の記載をみても,本願補正発明が相違点1に係る構成を有すること,すなわち本願補正発明の難燃性混合物が特定の難燃剤(リン酸エステル及びメラミン化合物からなる難燃剤)を含んでなることについて格別の技術的意義を見いだすことができず,せいぜい成形品に難燃性を付与するために添加する難燃剤として上記特定の難燃剤を用いたというにすぎない。本願補正発明の相違点1に係る構成が奏する効果は,当業者が予期し得ないものではない。
請求人は,引用文献2には難燃剤の記載が一切無い旨主張する(審判請求書7頁)。しかし,上述のとおり,引用文献2の【0063】には難燃剤を通常の助剤として添加することができる旨の記載があり,請求人の上記主張は全くの失当である。
イ 相違点2について
上記アで述べたように,相違点1に係る構成が想到容易であることからすれば,必然的に,相違点2に係る構成も想到容易である。すなわち,引用発明の「混合物」を「難燃性混合物」とすることは,格別困難でない。

(4) 小括
よって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 まとめ
以上のとおり,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成25年11月25日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(A)成分Aとして,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタン,
(B)成分Bとして,メラミン化合物,リン化合物及び金属水酸化物,並びにこれらの混合物からなる群から選択される難燃剤,及び
(C)成分Cとして,少なくとも1種の架橋剤,
を含む難燃性混合物であって,
前記少なくとも1種の架橋剤が,少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタンに溶解した少なくとも1種のイソシアネートであり,イソシアネートが熱可塑性ポリウレタンの質量に対して,20?70質量%溶解していることを特徴とする難燃性混合物。」

2 原査定の理由
原査定の理由は,要するに,本願発明は,引用文献2に記載された発明(引用発明)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用発明
引用発明は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,本願補正発明との比較において,本願補正発明の「リン酸エステル及びメラミン化合物からなる難燃剤」を,その上位概念である「メラミン化合物,リン化合物及び金属水酸化物,並びにこれらの混合物からなる群から選択される難燃剤」と特定するものである(上記第2_1参照)。すなわち,本願補正発明は,本願発明の構成を包含するものであるといえる。
そして,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。
原査定の理由は妥当なものである。
そうすると,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-29 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2010-547180(P2010-547180)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤澤 高之  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 須藤 康洋
平塚 政宏
発明の名称 ハロゲン非含有難燃性TPU  
代理人 江藤 聡明  

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