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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03H
管理番号 1313607
審判番号 不服2014-19484  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-29 
確定日 2016-04-20 
事件の表示 特願2011-529473「自己現像性ポリマーをベースとする体積ホログラフィックのための媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 8日国際公開、WO2010/037515、平成24年 2月23日国内公表、特表2012-504777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2009年 9月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年10月 1日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月13日付けで拒絶理由が通知され、平成26年 3月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年 7月25日付けで拒絶査定がなされたところ、同年 9月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2 平成26年 9月29日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は、平成26年 3月20日に提出された手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲を補正しようとするものであって、その内容は次のとおりである(下線は補正に関連する箇所を示し、当審で付加したものである。)。
(1)本件補正前の請求項1、6及び8
「【請求項1】
I)担体として、可視スペクトル範囲の光に対して透明(400?780nmの波長範囲において85%より大きい透過率)である透明な材料または複合材料の層と、
II)該担体I)に適用され、ポリウレタン組成物をベースとする少なくとも1つのフォトポリマー層と、
を含み、該ポリウレタン組成物が、
A)ポリイソシアネート成分、
B)イソシアネート反応性成分、
C)化学線の作用下でエチレン性不飽和化合物と重合により反応する基(放射線硬化性基)を有し、それ自体はNCO基を含まない化合物、
D)光開始剤、
E)フリーラジカル安定剤、
を含み、前記フォトポリマー層II)は、該層II)内に適用される全フォトポリマー層に対して5?120μm以下である全層厚みを有し、前記フォトポリマー層II)のポリウレタン組成物は、任意の被覆物を含む担体I)の総表面張力より低い総表面張力を有する、ホログラムを記録するのに適した媒体。」

「【請求項6】
成分C)におけるポリウレタン組成物が、式(I)?(III):
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、
Rは、互いに独立して、いずれの場合にも、放射線硬化性基であり、および
Xは、互いに独立して、いずれの場合にも、RとC=O間で単結合であるか、または任意にヘテロ原子を含むおよび/または任意に官能基により置換された直鎖状、分枝状または環状の炭化水素基である)
で示される1種類以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の媒体。」

「【請求項8】
1以上の任意に多層のフォトポリマー層II)を担体I)に適用し、硬化させる、請求項1?7のいずれかに記載のホログラムを記録するのに適した媒体の製造方法。」

(2)本件補正後の請求項1、6及び8
「【請求項1】
I)担体として、可視スペクトル範囲の光に対して透明(400?780nmの波長範囲において85%より大きい透過率)である透明な材料または複合材料の層と、
II)該担体I)に適用され、ポリウレタン組成物をベースとする少なくとも1つのフォトポリマー層と、
を含み、該ポリウレタン組成物が、
A)ポリイソシアネート成分、
B)イソシアネート反応性成分、
C)化学線の作用下でエチレン性不飽和化合物と重合により反応する基(放射線硬化性基)を有し、それ自体はNCO基を含まない化合物、
D)光開始剤、
E)フリーラジカル安定剤、
を含み、前記フォトポリマー層II)は、該層II)内に適用される全フォトポリマー層に対して5?120μmである全層厚みを有し、前記フォトポリマー層II)のポリウレタン組成物は、担体I)の総表面張力より低い総表面張力を有する、ホログラムを記録するのに適した媒体。」

「【請求項6】
成分C)におけるポリウレタン組成物が、式(I)?(III):
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、
Rは、互いに独立して、いずれの場合にも、放射線硬化性基であり、および
Xは、互いに独立して、いずれの場合にも、RとC=O間で単結合であるか、または直鎖状、分枝状または環状の炭化水素基である)
で示される1種類以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の媒体。」

「【請求項8】
1以上のフォトポリマー層II)を担体I)に適用し、硬化させる、請求項1?7のいずれかに記載のホログラムを記録するのに適した媒体の製造方法。」

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的について
(1)補正事項
本件補正は、以下の補正事項からなるものである。
ア 本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「フォトポリマー層II)内に適用される全フォトポリマー層に対する全層厚み」について、本件補正前の請求項1における「5?120μm以下である」との特定を「5?120μmである」へと補正する。

イ 本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「担体I)」について、本件補正前の請求項1における「任意の被覆物を含む担体I)」との特定を「担体I)」へと補正する。

ウ 本件補正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である「成分C)におけるポリウレタン組成物が含む式(I)?(III)で示される1種類以上の化合物」について、本件補正前の請求項6における「Xは、互いに独立して、いずれの場合にも、RとC=O間で単結合であるか、または任意にヘテロ原子を含むおよび/または任意に官能基により置換された直鎖状、分枝状または環状の炭化水素基である」との特定を「Xは、互いに独立して、いずれの場合にも、RとC=O間で単結合であるか、または直鎖状、分枝状または環状の炭化水素基である」へと補正する。

エ 本件補正前の請求項8に係る発明の発明特定事項である「フォトポリマー層II)」について、本件補正前の請求項8における「1以上の任意に多層のフォトポリマー層II)」との特定を「1以上のフォトポリマー層II)」へと補正する。

(2)新規事項の追加の有無
ア 上記(1)アにおける補正事項については、本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の【0029】において、「フォトポリマー層II)は、好ましくは、該層II)内に適用される全フォトポリマー層に対して、200μm以下、特に好ましくは3?200μm、特に非常に好ましくは5?120μm、特に、10?30μmである全層厚みを有する。」と記載されていることから、本願の当初明細書に記載されている技術的事項であると認められる。

イ 上記(1)イないしエにおける補正事項については、いずれも任意的付加事項を削除するものであるから、補正事項による補正の前後で、請求項に係る発明の発明特定事項に実質的な相違は生じない。

ウ したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされた補正であるから、特許法17条の2第3項の規定に適合する。

(3)補正の目的
ア 上記(1)アないしエにおける補正事項は、平成26年 7月25日付けでなされた拒絶査定における、請求項1、6及び8に係る発明を明確に特定できないとの指摘に対応してなされたものであって、補正前の請求項1、6及び8における明りょうでない記載を明りょうな記載に補正するものであるから、特許法17条の2第5項4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当する。

イ したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に適合する。

4 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成26年 9月29日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記2(2)に記載のとおりのものである。

5 引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特表2005-527867号公報(以下「引用例1」という。)」には、「アルミニウム塩化合物と不斉アクリレート化合物を含むホログラフィックデータ記録媒体」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【技術分野】
・・(略)・・
【0002】
本発明は、並外れたダイナミックレンジと高い感度を有し、禁止時間(inhibition time)が無く、低い収縮性を有する光学的に透明なホログラフィックデータ記録媒体の組成物に関する。本発明はまた、高い温度と湿度の条件下で、長期の記録および保存の寿命安定性を有する前記組成物に関する。該化合物の使用は、ホログラフィック光学データ記録、光学レンズ、ビーム方向制御器(steerer)、導波路を含む。
【背景技術】
【0003】
情報記録デバイスおよび方法の開発者は、増大した記録容量を求め続けている。この開発の一部は、いわゆるページ方式(page-wise)のメモリシステム、特にホログラフィックシステムが、従来のメモリデバイスの代替として提案されている。
【0004】
典型的なホログラフィック記録システムでは、2つのコヒーレントな光ビームが直接に記録媒体に向けられる。第1のコヒーレントな光ビームは信号ビームであり、これはデータをエンコードするのに用いられる。第2のコヒーレントな光ビームは参照光ビームである。2つのコヒーレントな光ビームは、記録媒体内で交差して、干渉パターンを生成する。記録媒体は、その屈折率を変化させることによって、この干渉パターンを記録し、干渉パターン像を形成する。
【0005】
記録された情報は、ホログラフィック像として保存され、参照ビームでホログラフィック像を照射することによって、読み取り可能となる。ホログラフィック像が参照ビームによって適切な角度で照射されると、記録された情報を含む信号ビームが生成される。ほとんどの場合、ホログラフィック像を照射するのに適切な角度は、ホログラフィック像を記録するために用いた参照ビームの角度と同じである。1つ以上のホログラフィック像が、例えば、記録中に参照ビームの角度を変化させることで、同一体積内に記録することができる。
【0006】
ホログラフィック記録システムの容量は、ある程度、記録媒体によって制限される。鉄ドープのリチウムニオブ酸塩が、記録媒体として研究目的で長年用いられている。しかしながらリチウムニオブ酸塩は高価であり、弱い感度(1J/cm^(2))を示し、低い屈折率コントラスト(約10^(-4)のΔn)を有し、破壊的な読み出し(即ち、読み出し時に像が破壊される)を示す。それ故、特に感光性のポリマーフィルムの分野において、代替物が求められている。例えば、W.K. Smothers et al., "Photopolymers for Holography," SPIE OE/Laser Conference, 1212-03, Los Angeles, CA, 1990を参照。この文献に記載された材料は、液体モノマー材料(光活性モノマー)と、光開始剤(photoinitiator)(これは、露光時にモノマーの重合を促進する。)とを含有する光画像システムを含む。光画像化システムは、露光に対して実質的に不活性である有機ポリマーのホストマトリクスに存する。材料に情報を書き込んでいる間(データを表現するアレイに記録光を通過させることによって)、モノマーは露光した領域で重合する。重合によって生じたモノマー濃度の低下によって、モノマーは、材料の暗い未露光領域から露光領域へ拡散する。
重合および結果として得られた濃度傾斜は、屈折率の変化を生成して、データを表現するホログラムを形成する。残念ながら、光画像化(photoimageable)システムを含むプリフォームされたマトリクス材料についての基板への成膜は、溶媒の使用を必要とする。それ故、材料の厚さは、溶媒の充分な蒸発を可能とし、安定な材料を達成して空隙(void)形成を低減するためには、例えば、たった約150μmに制限される。上述のような媒体の3次元空間を利用するホログラフィックプロセスでは、記録容量が媒体の厚さに比例する。このように溶媒除去の必要性が媒体の記録容量を抑制している。(このタイプのホログラフィーは、1より大きいクライン-クック(Klein-Cook)のQパラメータが抑制されるため、一般に体積ホログラフィーと称される(W. Klein, B. Cook, "Unified approach to ultrasonic light diffraction," IEEE Transaction on Sonics and Ultrasonics, SU-14, 1967, at 123-134)を参照のこと)。体積ホログラフィーでは、媒体厚さは一般にフリンジ間隔(spacing)より大きくなる。)
【0007】
米国特許第6013454号および米国出願番号08/698142も、その開示内容が番号参照によってここに組み込まれるが、有機ポリマーマトリクスでの光画像化システムに関するものである。特に該出願は、有機オリゴマーマトリクス前駆体と光画像化システムとの液状の混合物から、そのままでマトリクス材料を重合させることによって形成された記録媒体を開示している。同様なタイプで、オリゴマーを含んでいないシステムは、D.J. LougnotらがPure and Appl. Optics, 2, 383(1993)に検討されている。これらのマトリクス材料を成膜するための溶媒が殆どまたは全く不要であるため、例えば200μm以上という、より大きな厚さが可能になる。しかしながら、こうしたプロセスによって有用な結果が得られるが、マトリクスポリマーの前駆体と光反応性モノマーとの間で反応が起きる可能性がある。こうした反応は、マトリクスと重合した光反応性モノマーとの間の屈折率コントラストを減少させ、記録ホログラムの強度に対してある程度影響を及ぼす。
【0008】
こうして、ホログラフィック記録システムでの使用に適した光記録媒体を製造する際の進展はあるが、更なる進展が望まれている。特に、高温高湿の環境で高い性能を長期に渡って維持できる能力とともに、並外れたダイナミックレンジ持つ組成物が強く要望されている。加えて、かなり厚い膜、例えば200μm以上に形成可能な高性能のホログラフィック媒体であり、マトリクス材料と光反応性モノマーとの間の反応を実質的に抑制し、有用なホログラフィック特性を示す媒体の迅速な製造も要望されている。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、先行した記録媒体に関する改良を構成するものである。より高いダイナミックレンジM/#、高い感度および低い収縮性を有する新規な組成物が記載されている。さらに、前記組成物は、高温高湿環境への長期露出下でも高い性能特性を維持することができる。」

イ 「【0023】
本発明でのマトリクスポリマー形成のために考えられる重合反応の例は、イソシアネート-ヒドロキシルステップ重合(ウレタン形成)、イソシアネート-アミンステップ重合(尿素形成)、カチオンエポキシ重合、カチオンビニルエーテル重合、カチオンアルケニルエーテル重合、カチオンアレンエーテル重合、カチオンケテンアセタール重合、エポキシ-アミンステップ重合、エポキシ-メルカプタンステップ重合、不飽和エステル-アミンステップ重合(マイケル付加による)、不飽和エステル-メルカプタンステップ重合(マイケル付加による)、ビニル-シリコンハイドライドステップ重合(ヒドロシリル化)などを含む。」

ウ 「【0032】
当業者に知られていて商業的に入手可能な種々の光開始剤が、本発明での使用に適している。スペクトルの可視光、特に従前のレーザ光源から利用可能な波長、例えば、Ar+レーザ(458,488,514nm)およびHe-Cdレーザ(442nm)の青ラインと緑ラインや、周波数二倍のYAGレーザ(532nm)の緑ライン、He-Neレーザ(633nm)およびKr+レーザ(647,676nm)の赤ライン、に感度を持つ光開始剤を使用することが好都合である。好都合なフリーラジカル光開始剤は、ビス(η-5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス[2,6-ジフロロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル]チタニウムであり、チバ(Ciba)社からIrgacure-784として入手できる。他の可視光フリーラジカル光開始剤(これは共開始剤(co-initiator)を必要とする)は、5,7,ジイオド-3-ブトキシ-6-フルオロンであり、スペクトラグループリミテッド(Spectra Group Limited)社からH-Nu 470として入手できる。色素-水素のドナーシステムからなるフリーラジカル光開始剤も使用できる。適切な色素の例は、エオシン、ローズベンガル、エリスロシンおよびメチレンブルーを含み、適切な水素ドナーは、3級アミン、例えばn-メチルジエタノールアミンを含む。カチオン重合モノマーの場合、スルホニウム塩やイオドニウム塩などのカチオン性光開始剤が用いられる。これらのカチオン性光開始剤は、スペクトルの紫外部を主に吸収し、典型的には色素を用いて感光性が与えられて、スペクトルの可視部の使用を可能にしている。代わりの可視光カチオン性光開始剤は、(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)(η6-イソプロピルベンゼン)-鉄(II)ヘキサフルオロリン酸であり、チバ社からIrgacure 261として入手できる。光画像化システムに他の添加剤を用いることも想定され、例えば、比較的高い又は低い屈折率を有する不活性拡散剤である。」

エ 「【0049】
一実施形態において、本発明は下記の成分を含む。
NCO末端プレポリマー 20?50重量%
アクリレートモノマー 1?15 重量%
光開始剤 0.2?3重量%
ポリオール 40?75重量%
触媒 0.1?3重量%
熱安定剤および酸化剤 0.001?0.5重量%
【0050】
NCO末端プレポリマーは、ジオールおよびジイソシアネートの副生成物であって、NCO含量が10?25重量%の範囲のものから選択される。NCO含量は、プレポリマー、未反応のジイソシアネート、および高性能特性を達成するために任意に添加される生のジイソシアネートに基づいて決定される。好ましいNCO末端プレポリマーは、ポリエーテルとポリイソシアネートの反応生成物である。幾つかの商業的に入手可能な製品が使用でき、例えば、バイエル(Bayer)社のBaytec WE-シリーズ、ME-シリーズ、MP-シリーズ、MS-シリーズ、およびエアプロダクト・アンド・ケミカル(Air Products and Chemicals)社のAirthaneシリーズである。脂肪族ポリイソシアネート系のプレポリマーが好ましい。しかしながら、NCO末端プレポリマーが脂肪族ジイソシアネート系である場合、NCO含量の5?100重量%は、芳香族ジイソシアネート又は脂肪族ポリイソシアネートから由来する必要がある。好ましい芳香族ジイソシアネートは、限定されないが、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、およびトルエンジイソシアネート(TDI)である。より好ましいのは、脂肪族ポリイソシアネート、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびそのビウレット、イソシアヌレート、ウレチジオン(uretidione)誘導体、メチレンジ(シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネートなどである。
【0051】
好ましい光反応性モノマーは、下記の化学構造によって表現できる。
【化4】

但し、Rはフェニル基、一置換または多置換されたフェニル基、ブロモフェニル基、またはナフタレン基で、R_(1)およびR_(3)はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、またはブチレン基で、R2はHまたはアルキル基で、R_(3)はCOCH=CH_(2)、COCCH_(3)=CH_(2)、またはCH=CH_(2)である。
【0052】
上記化学構造の例として2つのアクリレート化合物は、2,4-ビス(2-ナフチルチオ)-2-ブチルアクリレート、および1,4-ビス(4ブロモフェニルチオ)-2-ブチルアクリレートである。好ましいアクリレートモノマーは、単官能である。これらは、2,4,6-トリブロモフェニルアクリレート、ペンタブロモアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェニルチオエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2,4-ビス(2-ナフチルチオ)-2-ブチルアクリレート、1-ビニル-2-ピロリジノン、1,4-ビス(4-ブロモベンゼンチオ)-2-ブタノール、2-フェノキシエチルアクリレートなどを含む。最も好ましいアクリレートモノマーは、2,4-ビス(2-ナフチルチオ)-2-ブチルアクリレート、および1,4-ビス(4-ブロモベンゼンチオ)-2-ブタノールである。
【0053】
好ましくは、光開始剤は光源に対する感度に従って選択される。例えば、Irgacure 369、Irgacure 819、Irgacure 907は、市販の青レーザ系に適している。Irgacure 784は、緑レーザ系に適しており、CB-650は赤レーザ系に適している。Irgacure製品はチバ社から入手でき、CB-650はスペクトラグループから入手できる。
【0054】
ポリオールは、ポリテトラメチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリプロピレンオキサイドのジオールおよびトリオールから選択される。好ましいポリオールは、分子量450?6000のポリプロピレンオキサイドのトリオールである。ポリオールは水分を含まないことが好ましい。高温真空蒸留処理又は水分除去剤等の添加物は、使用前にポリオール中に水分が残存しないようにするために使用してもよい。
【0055】
錫(スズ)触媒が使用可能であろう。これらは、ジメチル錫カルボキシレート、ジラウリン酸ジメチル錫、ジラウリン酸ジブチル錫、オクタン酸第一錫など、である。
【0056】
添加物は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリ(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩(NPAL)、フェノチアジン、ヒドロキノン、およびヒドロキンのメチルエーテルなどの熱安定剤と、過酸化物、ホスフィット、およびヒドロキシアミンなどの還元剤(reducers)と、トラップされた気泡を除去するための脱泡剤又は脱気剤とを含む。
【0057】
アルミニウム塩化合物は、単独で又は他の熱安定剤との組合せで用いられ、高温高湿で所望の安定性を提供することが判った。驚異なことに、このアルミニウム塩化合物は、媒体の高いM/#、高い感度および低い収縮性などの他の高性能な特性を維持しつつ、禁止時間を排除していた。
【0058】
好ましくは、アルミニウム塩化合物は、下記の化学式を有する。
【化5】

但し、X=H,CH_(3),OCH_(3),F,Cl,CF_(3)またはSOCH_(3)で、Rは、好ましくは1?18個の炭素原子を持つ脂肪族(aliphatic)、脂環式(alicyclic)または芳香族(aromatic)化合物であり、n=0?5で、M^(2)は、水素、I族?III族の金属、VIIIB族の金属、または置換もしくは未置換のNH_(4)基である。好ましくは、n=3のとき、M^(2)はAl^(3+)であり、n=0のとき、M^(2)はNH_(4)^(+)である。
【0059】
最も好ましい化合物は、アルミニウム塩、トリ(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩(NPAL)、であり、アルベマール(Albemarle)社から入手可能である。
【0060】
特に、NPALは、光反応性モノマーの未熟な重合を防止するのに有効であることが判った。NPALは、単独で又は他の熱安定剤、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)との組合せで使用できる。好ましい量は、組成全体の0.001?0.1重量%の範囲である。」

オ 「【0066】
耐高温高湿の記録物品を製造するには、NCO末端プレポリマーおよびポリオールをまず反応させ、未反応のままのアクリレートモノマーが存在するマトリクスを形成する必要がある。
【0067】
NCO末端プレポリマーとポリオールの反応は2成分系であるので、ポシラティオ(Posiratio)の2成分の計量、混合および分配を行う装置(リキッドコンロール(Liquid Control)社から入手可能)の保管タンクの一つの中に投入する前に、NCO末端プレポリマー、アクリレートモノマー、光開始剤、および熱安定剤は予め溶解して、均一な溶液を形成する。ポリオール、錫触媒、および他の添加剤を予め混合し、別の保管タンクに投入する。そして、各タンクを脱気し、リキッドコンロール社によって説明された手順に従って、タンクからの材料分配を所望の量に調整する。
【0068】
気泡トラップの無い2成分の精密で正確な混合は、両方のタンクから螺旋型スタティックミキサーへの同時計量によって実施される。
【0069】
ホログラフィック記録物品を形成するために、よく混合した溶液の所望な量が、平行プレートの一方に保持された底基板の内側表面上に分配される。そして、1999年8月3日発行の米国特許第5932045号(その開示内容は、文献参照によってここに組み込まれる。)に記載された手順に従って、他方の平行プレートに保持された上側基板は降下して、溶液と接触し、底プレートから所定の距離で保持される。装置全体は、溶液が固体化するまで保持され、光学的にフラットな物品の生産が確保される。
・・(略)・・
(比較例)
【0072】
この比較例は、下記の成分を用いたこと以外は上述した手順に従って準備され評価されたもので、商業的に入手可能な光反応性化合物、トリブロモフェニルアクリレートの性能特性を説明するものである。この比較例は、不安定な組成についてのM/#測定での減衰を説明する。
・・(略)・・
1)Baytech WE-180、バイエル社から入手可能であり、ビスシクロヘキシルメタンジイソシアネートと、ビスシクロヘキシルメタンジイソシアネートおよびポリテトラメチレングリコールに基づくNCO末端プレポリマーとの50/50ブレンドである。
2)ポリプロピレンオキサイドトリオールの分子量は、1000。
(実施例1)
【0073】
実施例1のサンプルは、下記の成分を用いたこと以外は比較例の手順に従って準備され評価されたもので、禁止時間を除去するという追加の利点とともに該組成の有用な寿命を延ばす点においてNPALの有用性を説明するものである。
【表3】



カ 引用例1の上記【表3】からは、実施例1の溶液が、Baytech WE-180と、トリブロモフェニルアクリレートと、Irgacure 784と、NPALと、BHTと、ポリプロピレンオキサイドトリオールと、t-ブチルパーオキサイドと、ジラウリン酸ジブチル錫とを含有することが看取できる。

キ 上記アないしカから、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「Baytech WE-180と、トリブロモフェニルアクリレートと、Irgacure 784と、トリ(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩(NPAL)と、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)と、ポリプロピレンオキサイドトリオールと、t-ブチルパーオキサイドと、ジラウリン酸ジブチル錫とを含有する溶液の所望な量が、平行プレートの一方に保持された底基板の内側表面上に分配され、他方の平行プレートに保持された上側基板は降下して、溶液と接触し、底プレートから所定の距離で保持され、溶液が固体化するまで保持されて形成されたホログラフィック記録物品。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-214117号公報(以下「引用例2」という。)」には、「ホログラム及びその貼着方法」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。
ア 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、可撓性を有する高分子材料よりなる基板の一方の面上に、ホログラム感光膜を形成し、前記基板上において、前記ホログラム感光膜を露光しホログラムとなし、該ホログラムの前記基板と接する面と対向する面を所望の被着基板に貼着させるホログラムの貼着方法を提供するものである。
・・(略)・・
【0010】基板の複屈折は、低く押さえることが好ましい。複屈折が高い場合には、干渉現象において、偏波面の整合性及び保護の悪化を来すおそれがある。例えば、波長633nmにて測定した場合には70nm以下であることが好ましい。また、基板の散乱の指標となるヘイズは小さく押さえ、光線透過率は大きいことが好ましい。ヘイズが大きく、光線透過率が小さい場合には、基板側から入射した光が、十分な光量を保持してホログラム感光膜に入射することが困難である。例えば、基板の厚さが0.1mmの場合には、ヘイズは1%以下、光線透過率は85%以上である。」

イ 上記アから、引用例2には次の事項が記載されているものと認められる。
「基板の一方の面上に、ホログラム感光膜を形成し、前記基板上において、前記ホログラム感光膜を露光してホログラムとなすものにおいて、基板の光線透過率が小さい場合には、基板側から入射した光が、十分な光量を保持してホログラム感光膜に入射することが困難であるから、光線透過率は大きいことが好ましく、85%以上であること。」(以下「引用例2の記載事項」という。)

4 対比
(1)引用発明における「底基板」は、その内側表面上にBaytech WE-180と、トリブロモフェニルアクリレートと、Irgacure 784と、トリ(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩(NPAL)と、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)と、ポリプロピレンオキサイドトリオールと、t-ブチルパーオキサイドと、ジラウリン酸ジブチル錫とを含有する溶液の所望な量が分配され、当該溶液が固体化するので、本願発明における「I)担体」に相当する。

(2)引用例1の【0072】には、「Baytech WE-180」が、バイエル社から入手可能であり、ビスシクロヘキシルメタンジイソシアネートと、ビスシクロヘキシルメタンジイソシアネートおよびポリテトラメチレングリコールに基づくNCO末端プレポリマーとの50/50ブレンドである旨が記載されており、「ビスシクロヘキシルメタンジイソシアネート」は、本願発明における「A)ポリイソシアネート成分」に相当する。

(3)引用例1の【0066】には、NCO末端プレポリマーおよびポリオールを反応させる旨が記載されているところ、「NCO」はイソシアネート基を意味し、引用発明における「ポリプロピレンオキサイドトリオール」はポリオールであると認められるから、本願発明における「B)イソシアネート反応性成分」に相当する。

(4)本願の当初明細書の【0064】には、「ビニルエーテル、アクリレートまたはメタクリレート基、特に好ましくは、アクリレートおよび/またはメタクリレート基を有する化合物が、成分C)に好ましく使用される。」との記載があるところ、引用発明における「トリブロモフェニルアクリレート」は、NCO基を含まず、アクリレート基を有する化合物であるので、本願発明における「C)化学線の作用下でエチレン性不飽和化合物と重合により反応する基(放射線硬化性基)を有し、それ自体はNCO基を含まない化合物」に相当する。

(5)引用例1の【0053】には、「Irgacure 784」が光開始剤である旨が記載されているから、引用発明における「Irgacure 784」は、本願発明における「D)光開始剤」に相当する。

(6)本願の当初明細書の【0081】には、「E)フリーラジカル安定剤」の好適な類型の物質であるフェノールとして、「2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール」が例示されているところ、「ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)」は、「2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール」の別名であるから、引用発明における「ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)」は、本願発明における「E)フリーラジカル安定剤」に相当する。

(7)上記(3)のとおり、引用例1の【0066】には、NCO末端プレポリマーおよびポリオールを反応させる旨が記載されており、また、引用例1の【0023】には、マトリクスポリマー形成のために考えられる重合反応の例として、イソシアネート-ヒドロキシルステップ重合(ウレタン形成)が例示されているところ、引用発明においては、「Baytech WE-180」に含まれるNCO末端プレポリマーと「ポリプロピレンオキサイドトリオール」とが反応してポリウレタンを形成するものと認められる。そして、上記(2)ないし(6)のとおり、引用発明における「Baytech WE-180に含まれるビスシクロヘキシルメタンジイソシアネート」、「ポリプロピレンオキサイドトリオール」、「トリブロモフェニルアクリレート」、「Irgacure 784」及び「ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)」は、それぞれ本願発明における「A)ポリイソシアネート成分」、「B)イソシアネート反応性成分」、「C)化学線の作用下でエチレン性不飽和化合物と重合により反応する基(放射線硬化性基)を有し、それ自体はNCO基を含まない化合物」、「D)光開始剤」及び「E)フリーラジカル安定剤」に相当するから、引用発明における「Baytech WE-180と、トリブロモフェニルアクリレートと、Irgacure 784と、トリ(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩(NPAL)と、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)と、ポリプロピレンオキサイドトリオールと、t-ブチルパーオキサイドと、ジラウリン酸ジブチル錫とを含有する溶液」は、本願発明における「A)ポリイソシアネート成分、B)イソシアネート反応性成分、C)化学線の作用下でエチレン性不飽和化合物と重合により反応する基(放射線硬化性基)を有し、それ自体はNCO基を含まない化合物、D)光開始剤、E)フリーラジカル安定剤、を含むポリウレタン組成物」に相当する。

(8)引用例1の【0066】には、NCO末端プレポリマーおよびポリオールを反応させ、未反応のままのアクリレートモノマーが存在するマトリクスを形成する旨が記載されているところ、引用発明においては、Baytech WE-180と、トリブロモフェニルアクリレートと、Irgacure 784と、トリ(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩(NPAL)と、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)と、ポリプロピレンオキサイドトリオールと、t-ブチルパーオキサイドと、ジラウリン酸ジブチル錫とを含有する溶液の所望な量が、平行プレートの一方に保持された底基板の内側表面上に分配され、他方の平行プレートに保持された上側基板は降下して、溶液と接触し、底プレートから所定の距離で保持され、溶液が固体化するまで保持されており、底基板と上側基板の間に配置された溶液は、固体化して未反応のままのトリブロモフェニルアクリレートが存在する層を形成しているものと認められるので、引用発明における「溶液が固体化して未反応のままのトリブロモフェニルアクリレートが存在する層」は、本願発明における「ポリウレタン組成物をベースとする少なくとも1つのフォトポリマー層」に相当する。

(9)引用発明における「ホログラフィック記録物品」は、本願発明における「ホログラムを記録するのに適した媒体」に相当する。

(10)上記(1)ないし(9)から、本願発明と引用発明とは、
「I)担体と、
II)該担体I)に適用され、ポリウレタン組成物をベースとする少なくとも1つのフォトポリマー層と、
を含み、該ポリウレタン組成物が、
A)ポリイソシアネート成分、
B)イソシアネート反応性成分、
C)化学線の作用下でエチレン性不飽和化合物と重合により反応する基(放射線硬化性基)を有し、それ自体はNCO基を含まない化合物、
D)光開始剤、
E)フリーラジカル安定剤、
を含み、ホログラムを記録するのに適した媒体。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
「担体I)」が、本願発明では、可視スペクトル範囲の光に対して透明(400?780nmの波長範囲において85%より大きい透過率)である透明な材料または複合材料の層であるのに対し、引用発明1では、そのような特定がなされていない点。

相違点2:
「フォトポリマー層II)」が、本願発明では、該層II)内に適用される全フォトポリマー層に対して5?120μmである全層厚みを有するのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

相違点3:
「フォトポリマー層II)のポリウレタン組成物」が、本願発明では、担体I)の総表面張力より低い総表面張力を有するのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

5 判断
(1)上記相違点1について検討する。
ア 反射層を有していないことから、引用発明が透過型ホログラムであることは明らかであって、引用発明において、ホログラムの記録、再生時に、記録を行う光や、再生する光が底基板及び上側基板を通過することは当業者に自明である。しかるに、引用例1の【0032】には、「スペクトルの可視光、特に従前のレーザ光源から利用可能な波長、例えば、Ar+レーザ(458,488,514nm)およびHe-Cdレーザ(442nm)の青ラインと緑ラインや、周波数二倍のYAGレーザ(532nm)の緑ライン、He-Neレーザ(633nm)およびKr+レーザ(647,676nm)の赤ライン、に感度を持つ光開始剤を使用することが好都合である。」との記載があり、当該記載からは、引用発明における「ホログラフィック記録物品」への記録を行う光として、可視スペクトル範囲の様々な波長の光を想定しているものと認められる。また、ホログラムにおいて、再生する光として、記録を行う光と同じ波長のものを用いることは、技術常識である。

イ そして、引用例2には、基板の一方の面上に、ホログラム感光膜を形成し、前記基板上において、前記ホログラム感光膜を露光してホログラムとなすものにおいて、基板の光線透過率が小さい場合には、基板側から入射した光が、十分な光量を保持してホログラム感光膜に入射することが困難であるから、光線透過率は大きいことが好ましく、85%以上であることが記載されているところ、引用発明においても、フォトポリマー層への記録を行う光や再生する光を入射させる場合に、底基板や上側基板の光線透過率が小さい場合には、十分な光量を保持してフォトポリマー層に入射させることが困難であるから、底基板や上側基板の光線透過率が高い程望ましいことは明らかである。

ウ したがって、引用発明において、フォトポリマー層への記録や再生を行う可視スペクトル範囲の様々な波長の光を入射させる場合に、十分な光量を保持してフォトポリマー層に記録を行う光や再生する光を入射させるために、引用例2の記載事項に基づいて、可視スペクトル範囲である400?780nmの波長範囲における底基板や上側基板の透過率を85%より大きくすることにより上記相違点1にかかる本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)上記相違点2について検討する。
ア ホログラフィック記録物品を構成する「フォトポリマー層」の具体的な厚みは、当業者がホログラフィック記録物品の記録容量や製造の容易性等を考慮して適宜決定し得る設計事項である。

イ また、引用例1の【0069】において、ホログラフィック記録物品を形成するための手順が記載されているとされる米国特許第5932045号明細書の14欄61、62行に「The polymer layer thickness was adjusted to about 100 μm, and parallelism was confirmed with the Fizeau method.」(和訳:ポリマ層厚は約100μmに調整され、フィゾー法で平行度を確認した。)と記載され、引用例2の【0018】に「ホログラム3としては、厚さ0.017mmの重クロム酸ゼラチンを用いる。」と記載され、原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2008/105510号の[0079]に「また、本発明に用いられる体積ホログラム層の厚みは、所望のホログラム像を記録できる程度であれば特に限定されるものではないが、通常、1μm?50μmの範囲内であることが好ましく、なかでも3μm?40μmの範囲内であることが好ましく、さらに5μm?30μmの範囲内であることが好ましい。」と記載されていることから、本願優先日前に、5?120μmという範囲内の膜厚は、ホログラム層の膜厚としてごくありふれたものであったと認められる。

ウ したがって、引用発明において、フォトポリマー層の膜厚を、本願優先日前にありふれた膜厚であった5?120μmという範囲内の値に設定することは、当業者が適宜なし得た設計事項である。また、本願の当初明細書には、実施例としてフォトポリマー層の層厚が55μmであるホログラフィック媒体が記載されているのみであり、「5?120μm」というフォトポリマー層の全層厚みの範囲に臨界的意義を認めることもできない。

(3)上記相違点3について検討する。
ア 基板上に塗布する溶液の濡れ性をよくするために、基板の表面張力や溶液の表面張力を調整して、基板の総表面張力よりも溶液の総表面張力を低くすることは、特開昭60-15135号公報の2頁右上欄18行?3頁左上欄18行や、原査定の拒絶の理由において引用された特開2005-189256号公報の【0038】、原査定の拒絶の理由において引用された特開平6-138807号公報の【請求項1】、【0006】に記載されているように本願優先日前の周知技術である。

イ また、引用例1の【0069】には、「装置全体は、溶液が固体化するまで保持され、光学的にフラットな物品の生産が確保される。」との記載があり、引用発明においては、光学的にフラットなホログラフィック記録物品を製造することを意図していると認められるところ、光学的にフラットなホログラフィック記録物品を製造するためには、底基板に対する溶液の濡れ性をよくして溶液を底基板全体に濡れ広がらせる必要があることは、当業者にとって自明である。

ウ したがって、引用発明において、上記周知技術に基づいて、ポリウレタン組成物の総表面張力を担体の総表面張力よりも低くすることにより上記相違点3にかかる本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本願発明の奏する効果は、引用例1及び2の記載及び上記周知技術に基づいて、当業者が予測できた程度のものである。

(5)以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用発明、引用例2の記載事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2の記載事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-18 
結審通知日 2015-11-24 
審決日 2015-12-07 
出願番号 特願2011-529473(P2011-529473)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸竹村 真一郎  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
本田 博幸
発明の名称 自己現像性ポリマーをベースとする体積ホログラフィックのための媒体  
代理人 岩木 郁子  
代理人 田中 光雄  
代理人 森住 憲一  
代理人 山田 卓二  

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