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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08B
管理番号 1313619
審判番号 不服2015-5311  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-19 
確定日 2016-04-20 
事件の表示 特願2013-142275「運動を促すためにコンピュータスクリーンでユーザの動作を監視する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-214322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年8月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年8月7日、米国)を国際出願日とする特願2009-523424号(以下「親出願」という。)の一部を、平成25年7月8日に新たな特許出願としたものであって、平成26年7月24日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年10月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月14日付け(発送日:11月20日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成26年10月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「コンピュータのユーザの運動を促すシステムであって、
前記コンピュータに関連付けられたディスプレイと、
前記コンピュータを用いて作業をしている前記ユーザの位置または姿勢を経時的に監視するための、前記ディスプレイに関連付けられたカメラを含む監視システムと、
前記監視システムにより、予め決められた期間に亘る前記ユーザの前記ディスプレイに対する位置または姿勢の変化が閾値よりも少ないことが検出された場合に、前記ディスプレイ上に前記ユーザに対してフィードバックを生成する手段とを有し、
前記フィードバックは、前記ユーザの運動を促すための、前記ディスプレイ上に表示された要素の視覚的特徴の変化を有する、システム。」

第3 刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、親出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された特表2004-530503号公報(以下「刊行物1」という。)には、「人間工学上の問題を避けるための座席装置」に関し、図面(特に、図2、3参照)とともに、次の事項が記載されている。
以下、下線は当審で付与するものである。

ア.「【0001】
本発明は、人体の肢体の位置を感知する手段を持つ座席装置に関し、センサから値を受け取るように設けられた制御手段と、人体の肢体の位置を感知するように配置されたセンサを備えている。」

イ.「【0003】
座席装置は多くの場所で使用されており、例えば、人々が情報をタイプしたり読んだりするためにパーソナルコンピュータを操作するときに使用するためにオフィスに設置したり、他の用途として、車、や乗物、電車、バス、飛行機などの公の交通機関に設置される。座席装置は、また、人が、例えば、歯医者や空港などの待合室のような待合室で座るときに使用される。他の使用は、家庭において、娯楽施設、プラントにおける運転者として作業する製造環境において、レストランにおいて、映画館、劇場において、その他座るのに適した場所において使用される。」

ウ.「【0015】
好ましい実施例においては、制御手段は人間工学的データを入力したり、人間工学的データを検索したり、又は警報信号を出力するようにされたデータ入力装置を有する。このデータ入力装置はキーボード、ディスプレイ、又はディスプレイとしてのコンピュータモニターを有することができる。データ入力装置は、また、例えば、コンピュータマウス、タッチスクリーン、デジタルペンなど、ジョイスティック、ゲームパッド、リモートコントロール、或いは他のデータ入力装置のようなポインティング装置であってもよい。これにより、座席装置に座っているユーザは種々の方法で制御手段と通信し情報を引き出すことができる。」

エ.「【0030】
ステップ109において、座席装置に座っている人の人体肢体に緊張又は障害が生じているかどうかにつての人間工学上の決定がなされる。…(略)…更に、人間工学上の決定は、センサにより検知された人体肢体の一部を反復して検出したときの回数と時間を有するようにすることができる。もし、ユーザが特定の反復緊張障害の不具合を持つか、或いは他の痛みを感じるときは、これらの状況は人間工学上のデータとなり得るものであり、また、人間工学上の決定を行うためのセンサ値の組合せと共に考慮に入れることができるものである。人間工学的決定がなされると、反復緊張障害が起こりそうか,-もし動きが停止しなければ、-又は人体肢体の一部が長時間静止していてその状態が終わらなければ他の痛みが起こりそうになるか、のいずれかを指示する。換言すれば、この人間工学的決定は着席している人の肢体に緊張又は障害が生じているかどうかを決定する。これはステップ110において警告を与えることにより示される。」

オ.「【0032】
もし、人間工学的決定が行われれば、本方法はステップ110に進み、警告が出される。ステップ110で与えられる警告信号は簡単なブザー音、バイブレーション、音声メッセージ又は音、図形を伴うテキストメッセージ、パーソナルコンピュータに送られえる警告信号又は警告メッセージを示す1又は複数のLEDS又はランプ、又は他の座席装置とワイヤレスで通信する電子装置であってもよい。ステップ110で与えられる警告信号は警告の原因が何かを伝える。即ち、座席装置に座っている人の肢体に緊張又は障害が生じているかどうかが警告される。この警告信号は、例えば、更にユーザに悪い位置から良い位置に変更すること、運動の繰り返しを止めること、休息をとるか、又は座席を離れて歩いてみること、又は座席装置が勧める運動を行うことなどを伝える。本方法はステップ111で終了する。」

カ.「【0034】
プロセッサはカメラ203からの画像データを処理するイメージプロセッサに接続さあれる。カメラが座席装置に座っている人の画像を撮影するために使用される。画像は人体の肢体の位置を決定するのに使用され、処理される。カメラは制御手段に接続された複数のセンサのうちの1つである。それらに加え、又はそれに替えて、圧力センサ、温度センサ、近接センサ、又は他の人体またはその一部を検知、或いは観察することのできる他のタイプとすることができる。」

キ.摘記事項ア、エ、カからみて、刊行物1には、カメラによりユーザの人体の肢体の位置を決定し、ユーザに人間工学的決定により警告信号を与えるシステムが記載されていると認められる。

ク.記載事項ウからみて、ディスプレイはコンピュータ(制御手段)に関連付けられていることは明らかであり、また、記載事項カのとおり、カメラは制御手段に接続されているから、当該カメラはディスプレイに関連付けられているといえる。

ケ.記載事項エの「人体肢体の一部が長時間静止していてその状態が終わらなければ他の痛みが起こりそうになるか、のいずれかを指示する。換言すれば、この人間工学的決定は着席している人の肢体に緊張又は障害が生じているかどうかを決定する。これはステップ110において警告を与えることにより示される」及び記載事項オの「人間工学的決定が行われれば、本方法はステップ110に進み、警告が出される」との記載からみて、人体肢体が長時間静止している場合、警告を出力するものであり、このときの警告には記載事項オのとおり、図形を伴うテキストメッセージがあり、図形を伴うテキストメッセージはディスプレイに表示されるものといえる。

上記記載事項、認定事項および図示内容を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「パーソナルコンピュータを操作するときに使用する座席装置に係るシステムであって、
コンピュータに関連付けられ、警告をユーザに提示するディスプレイと、
パーソナルコンピュータを操作するために座席装置に座っている人の画像撮影に使用される、ディスプレイに関連付けられたカメラを含むシステムと、
前記システムにより、人体肢体が長時間静止している場合、図形を伴うテキストメッセージをディスプレイに出力する制御手段を有し、
前記図形を伴うテキストメッセージは、ディスプレイ上に表示され、該メッセージにより、休息をとるか、又は座席を離れて歩いてみること、又は座席装置が勧める運動を行うことなどを伝える、システム。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「警告」は、図形を伴うテキストメッセージであって、「休息をとるか、又は座席を離れて歩いてみること、又は座席装置が勧める運動を行うこと」をユーザに伝えるものであるから、当該警告はユーザに運動を促すものといえ、引用発明の「パーソナルコンピュータを操作するときに使用する座席装置に係るシステム」は、本願発明の「ユーザに運動を促すためのシステム」に相当する。
b.引用発明の「パーソナルコンピュータを操作するために座席装置に座っている人」は、本願発明の「コンピュータを用いて作業をしている」ユーザに相当し、カメラは「人の画像撮影に使用され」、「人体肢体が長時間静止している場合」を判断するために用いられるから、「ユーザの位置または姿勢を経時的に監視する」ものといえる。
したがって、引用発明の「パーソナルコンピュータを操作するために座席装置に座っている人の画像撮影に使用される、ディスプレイに関連付けられたカメラを含むシステム」は、本願発明の「前記コンピュータを用いて作業をしている前記ユーザの位置または姿勢を経時的に監視するための、前記ディスプレイに関連付けられたカメラを含む監視システム」に相当する。
c.引用発明の「図形を伴うテキストメッセージ」は、ユーザに伝えるものであるから、本願発明の「フィードバック」に相当し、引用発明の「図形を伴うテキストメッセージをディスプレイに出力する制御手段」は、本願発明の「前記ディスプレイ上に前記ユーザに対してフィードバックを生成する手段」に相当する。
d.引用発明の「図形を伴うテキストメッセージ」は「休息をとるか、又は座席を離れて歩いてみること、又は座席装置が勧める運動を行うことなどを伝える」ものであるから、「ユーザの運動を促すための、ディスプレイ上に表示された要素」といえる。

以上の点からみて、本願発明と引用発明とは、
[一致点]
「コンピュータのユーザの運動を促すシステムであって、
前記コンピュータに関連付けられたディスプレイと、
前記コンピュータを用いて作業をしている前記ユーザの位置または姿勢を経時的に監視するための、前記ディスプレイに関連付けられたカメラを含む監視システムと、
前記監視システムにより、前記ディスプレイ上に前記ユーザに対してフィードバックを生成する手段とを有し、
前記フィードバックは、前記ユーザの運動を促すための、前記ディスプレイ上に表示された要素を有する、システム。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
フィードバックの生成が、本願発明では、「予め決められた期間に亘る前記ユーザの前記ディスプレイに対する位置または姿勢の変化が閾値よりも少ないことが検出された場合」であるのに対して、引用発明では、人体肢体が長時間静止している場合である点。
[相違点2]
ディスプレイ上に表示された要素が、本願発明では、「視覚的特徴の変化を有する」ものであるのに対して、引用発明では、図形を伴うテキストメッセージである点。

なお、審判請求人は、平成27年3月19日付けの審判請求書において、審査官が指摘した相違点1、2だけではなく、さらに、「[相違点3]本願発明1では、フィードバックはユーザの運動を促すためのものであるのに対して、引用発明1では、フィードバックはユーザに対し警告するためのものである点。」(4頁下から8?5行)で相違すると主張するが、上記a、dのとおり、引用発明の警告である「休息をとるか、又は座席を離れて歩いてみること、又は座席装置が勧める運動を行うこと」は、運動を促していることに他ならず、引用発明のディスプレイ上の表示も「運動を促す」ものといえ、請求人の主張は採用できない。

第5 相違点の判断
1.相違点1について
刊行物1には、引用発明の制御手段が、カメラで撮影した人体肢体の画像の何を以て、ユーザが静止している状態にあると判断しているのか、記載されていない。
しかしながら、人体肢体のどのような変化を「動いた」と判断するのか、換言すれば、人体肢体の動きのどの範囲までを「静止状態」と判断して警告を表示するのか、その判断基準が必要になることは自明である。
そして、登録実用新案第3075971号公報(以下「刊行物2」という。)には、段落【0016】に「最適なまばたきの回数は1分につき12?15回である。」、段落【0017】に「理想的な照明は300から500luxの間であり、」、段落【0018】に「VDTユーザーとディスプレイ14の間の適当な視覚距離は±60cmである」と記載され、その最適な数値から外れた時に、ディスプレイ上にアラームを表示することが記載されており(段落【0017】、【0018】等参照)、この数値範囲の上限値・下限値、或いは、距離に係る限界値は、閾値であるから、アラーム(警告)を表示する判断基準として閾値を採用することが刊行物2に記載されているといえる。
してみると、引用発明の人体肢体が静止状態にあるか否かを判断するについて、その判断基準に閾値を設定し、人体肢体の動き、すなわち、予め決められた期間に亘る姿勢の変化が当該閾値より小さいことを検出することにより、静止状態か否かを判断することは、刊行物2に記載の事項に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

2.相違点2について
相違点2に係る「ディスプレイ上に表示された要素」は、ユーザに運動をするように注意を促すもの、すなわち、一種の注意喚起のための表示と言えるものであるところ、ディスプレイ上に表示される要素(ポインタ、カーソル、その他の図形等)を、注意喚起のため、その視覚的特徴を変化させることは、例えば、カーソルをソリッドカラーのハンドとしたり、カーソルを振動させること(特開平8-286874号公報の段落【0037】、図2等参照)やマウスカーソルの形状、大きさを変更すること(特開平4-198986号公報の3頁左上欄参照)に見られるように、周知の技術手段である。
また、引用発明はテキストメッセージに加え図形を伴うものであるから、当該図形(ディスプレイ上の表示要素である。)を、上記周知の技術手段に倣って、その視覚的特徴(色、形、大きさ等)を変化させるようにすることは、周知の技術手段に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

3.作用効果について
本願発明による効果も、引用発明、刊行物2に記載の事項及び周知の技術手段から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとは言えない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載の事項及び周知の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-20 
結審通知日 2015-11-24 
審決日 2015-12-08 
出願番号 特願2013-142275(P2013-142275)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芝井 隆  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 森川 元嗣
大内 俊彦
発明の名称 運動を促すためにコンピュータスクリーンでユーザの動作を監視する方法及び装置  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 小松 広和  

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