• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1313676
審判番号 不服2015-1155  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-21 
確定日 2016-04-22 
事件の表示 特願2011-509271「膜緻密性評価方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月21日国際公開、WO2010/119811〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年4月9日(優先権主張2009年4月16日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月13日付けで拒絶理由が通知され、同年10月21日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年3月4日付けで拒絶理由が通知され、同年5月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月17日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成27年1月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成27年11月20日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月22日付けで意見書及び手続補正書が提出された。


第2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
1.当審で通知した拒絶理由
当審が平成27年11月20日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)において、以下のとおり、拒絶理由を通知している。

「この審判事件に関する出願は、合議の結果、以下の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。

理 由

1.(略)
2.(略)

3.本願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



本願の明細書段落【0041】には、「理論密度d2」の算出方法として、「上記分析により得られたTa_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出し、さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出した。」と記載され、【表1】、【表2】が示されているが、「Ta_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出」する具体的方法、及び、「さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出」する具体的方法が、本願の明細書には記載されておらず、かつ、これら具体的方法が、本願の出願前に当業者の技術常識であったという事情もないから、当業者といえども、本願発明1?4の「理論密度d2」の算出を実施することができず、本願明細書の記載に基づいて、本願発明1?4を実施することはできない。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1?4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(なお、平成27年10月19日付けの上申書の「4.計算式」のように、意見書等で説明することのみにより、上記不備が解消されるものではないことは言うまでもない。)」

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、ぞれぞれ、「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成28年1月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
透明基板上に複数の成分からなる混合ターゲットを用いてスパッタリングで形成された薄膜を有するマスクブランクから前記薄膜をパターニングして作製される転写用マスクに対してArFエキシマレーザが累積照射されることにより生じるマスク寸法変化を、DRAMハーフピッチで45nm未満に要求されるマスクの寸法均一性を満たすか否かを評価する、ArFエキシマレーザ用のマスクブランクに形成された前記薄膜の緻密性を評価する方法であって、
前記薄膜の実密度をd1とし、
前記薄膜の材料組成を分析しその材料組成から算出される理論密度をd2とし、
前記理論密度d2は、分析装置を用いて前記薄膜の組成を求め、単体及び安定に存在する合金組成の重量混合比および体積混合比を算出し、単体及び安定に存在する合金組成の原子量及び密度の文献値を用いることで算出された値であって、
前記実密度d1と前記理論密度d2とから、相対密度dを
d=(d1/d2)×100
により算出して、該相対密度dにより薄膜の緻密性を評価することを特徴とする膜緻密性評価方法。
【請求項2】
透明基板上に反応性スパッタリングで形成された薄膜を有するマスクブランクから前記薄膜をパターニングして作製される転写用マスクに対してArFエキシマレーザが累積照射されることにより生じるマスク寸法変化を、DRAMハーフピッチで45nm未満に要求されるマスクの寸法均一性を満たすか否かを評価する、ArFエキシマレーザ用のマスクブランクに形成された前記薄膜の緻密性を評価する方法であって、
前記薄膜の実密度をd1とし、
前記薄膜の材料組成を分析しその材料組成から算出される理論密度をd2とし、
前記理論密度d2は、分析装置を用いて前記薄膜の組成を求め、単体及び安定に存在する合金組成の重量混合比および体積混合比を算出し、単体及び安定に存在する合金組成の原子量及び密度の文献値を用いることで算出された値であって、
前記実密度d1と前記理論密度d2とから、相対密度dを
d=(d1/d2)×100
により算出して、該相対密度dにより薄膜の緻密性を評価することを特徴とする膜緻密性評価方法。
【請求項3】
前記薄膜の実密度d1は、XRR法により算出されるXRR算出密度であることを特徴とする請求項1または2に記載の膜緻密性評価方法。」

上記のとおり、本願発明1?3は、
「前記薄膜の材料組成を分析しその材料組成から算出される理論密度をd2とし、
前記理論密度d2は、分析装置を用いて前記薄膜の組成を求め、単体及び安定に存在する合金組成の重量混合比および体積混合比を算出し、単体及び安定に存在する合金組成の原子量及び密度の文献値を用いることで算出された値であって、」という発明特定事項(以下、単に「発明特定事項」という。)を有する。
そこで、当審拒絶理由で通知したとおり、発明特定事項について、「理論密度d2」の算出方法が、本願の発明の詳細な説明に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かを、以下に、検討する。

3 本願の発明の詳細な説明
本願の発明の詳細な説明には、「理論密度 d2」の算出方法についての記載として、下記の記載が存在する。

(1)「【0041】
次に、実施例1-1?実施例1-5および比較例1の相対密度dを求めた。
(1)XRR(X線反射率)法を用いて、TaxB_(y)膜の実密度(g/cm^(3))を算出した。X線を試料表面に極浅い角度で入射させ、その入射角対鏡面方向に反射したX線強度プロファイルを測定する。この測定で得られた結果をシミュレーション結果と比較し、シミュレーションパラメータを最適化することによって、XRR算出密度(実密度)d1を求めた。
(2)文献値より、理論密度d2を算出する。Ta_(x)B_(y)膜は、Taを33原子%よりも多く含有している場合、TaB_(2)(Ta:B=33:67)とTaとの混合体であると仮定する。また、逆にTa_(x)B_(y)膜が、Taを33原子%未満含有している場合、TaB_(2)(Ta:B=33:67)とBとの混合体であると仮定する。計算に用いた文献値を表1に記載する。
ここで、Ta_(x)B_(y)膜の実際の組成を求める分析方法は、XPS(X線光電子分光法)、AES(原子発光分析法)、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)を用いる。いずれも場合でも、XRF(蛍光X線分析)やICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)の分析値により補正する必要がある。XRFやICP-MSで補正する材料は、理論密度の計算で用いた安定に存在する合金組成、TaB_(2)(Ta:B=33:67)を用いる。以下の実施例においても同様である。上記分析により得られたTa_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出し、さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出した。
(3)相対密度d=(XRR算出密度d1/理論密度d2)×100を求めた。表2に、XRR算出密度(実密度)d1、理論密度d2および相対密度dを示す。
【0042】
【表1】」

【0043】
【表2】



(2)「【0049】
上記実施例1と同様にして、上記実施例2-1?実施例2-3および比較例2-1、比較例2-2の相対密度dを求めた。
(1)XRR(X線反射率)法を用いて、Ta_(x)N_(y)膜のXRR算出密度(実密度)d1を求めた。
(2)文献値より理論密度d2を算出した。Ta_(x)N_(y)膜は、Taが50原子%未満含有している場合、TaN(Ta:N=1:1)とTaとの混合体であると仮定する。計算に用いた文献値を表3に記載する。
実施例1の場合と同様にして分析により得られたTa_(x)N_(y)膜の組成から、TaとTaNの重量混合比および体積混合比を算出し、さらに表3の数値を用いてTa_(x)N_(y)膜の理論密度を算出した。
(3)相対密度d=(XRR算出密度d1/理論密度d2)×100を求めた。表4にその算出結果を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】



(3)「【0057】
次に、上記実施例3-1?実施例3-4および比較例3の相対密度dを求めた。
(1)XRR法を用いて、Mo_(x)Si_(y)膜のXRR算出密度(実密度)d1を求めた。
(2)文献値より、理論密度d2を求めた。Mo_(x)Si_(y)膜は、Moが33原子%以下の場合、MoSi_(2)(Mo:Si=33:67)とSiとの混合体であると仮定する。また、逆にMo_(x)Si_(y)膜が、Moを33原子%よりも多く含有している場合、MoSi_(2)とMoとの混合体であると仮定する。計算に用いた文献値を表5に記載する。実施例1の場合と同様にして分析により得られたMo_(x)Si_(y)膜の組成から、MoSi_(2)とSiの重量混合比および体積混合比を算出し、さらに表5の数値を用いてMo_(x)Si_(y)膜の理論密度を算出した。
(3)相対密度d=(XRR算出密度d1/理論密度d2)×100を求めた。表6にその算出結果を示す。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】



(4)「【0062】
次に、実施例4-1および比較例4の相対密度dを求めた。
(1)XRR法を用いて、TaxSiy膜のXRR算出密度(実密度)d1を求めた。
(2)文献値より、理論密度d2を求めた。TaxSiy膜は、Taが33原子%以下の場合、TaSi(Ta:Si=33:67)とSiとの混合体であると仮定する。また、逆にTa_(x)Si_(y)膜が、Taを33原子%よりも多く含有している場合、TaSi_(2)とTaとの混合体であると仮定する。計算に用いた文献値を表7に記載する。
実施例1の場合と同様にして分析により得られたTa_(x)Si_(y)膜の組成から、TaSi_(2)とSiの重量混合比および体積混合比を算出し、さらに表7の数値を用いてTa_(x)Si_(y)膜の理論密度を算出した。
(3)相対密度d=(XRR算出密度d1/理論密度d2)×100を求めた。表8にその算出結果を示す。
【0063】
【表7】

【0064】
【表8】



(5)上記(1)?(4)の他に、段落【0073】?【0090】に、「・・実施例1と同様の手法で理論密度を算出するとよい。」という記載が多数存在する。

4 当審の判断
(1)上記3(1)?(5)から明らかなように、本願の発明の詳細な説明には、「理論密度d2」の算出方法についての記載として、結局、実質的に、段落【0041】?【0043】(上記3(1))の記載が存在するのみである。

(2)そして、上記段落【0041】?【0043】には、
まず、「Ta_(x)B_(y)膜の実際の組成を求める分析方法は、XPS(X線光電子分光法)、AES(原子発光分析法)、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)を用いる。いずれも場合でも、XRF(蛍光X線分析)やICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)の分析値により補正する必要がある。XRFやICP-MSで補正する材料は、理論密度の計算で用いた安定に存在する合金組成、TaB_(2)(Ta:B=33:67)を用いる。」と記載される方法で、「Ta_(x)B_(y)膜の実際の組成」、すなわち、TaとBの原子量の割合(【表2】の「膜組成[atm%]」の値が相当)を求め、
次に、「上記分析により得られたTa_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出し、さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出」することが記載されるのみである。なお、【表2】には、「重量混合比[wt%]」、「体積混合比[vol%]」及び「理論密度d2[g/cm^(3)]」の値が記載されている。

(3)すると、上記記載では、「Ta_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出」する具体的方法、及び、「さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出」する具体的方法が全く説明されていないことは明らかである。
また、「Ta_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出」する具体的方法、及び、「さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出」する具体的方法が、当業者の周知技術や技術常識であるという事情もなく、当業者の周知技術や技術常識を踏まえれば、上記記載から、「Ta_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出」する具体的方法、及び、「さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出」する具体的方法が、当業者には自明であるとも認められない。

5 審判請求人の主張について
審判請求人(以下、単に「請求人」という。)は、平成28年1月22日付け意見書において、
「(i)審判官殿は、理論密度d2の算出方法として、「Ta_(x)B_(y)膜の組成から重量混合比及び体積混合比」を算出する具体的方法、および、「表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出」する具体的方法が記載されていない点と出願前に技術常識であったという事情もない、としており、当業者といえども「理論密度d2」を算出することはできない、とご認定されています。
それに対し、出願人の見解を以下に示します。
理論密度の算出は、本願【0041】で「混合体であると仮定する」と記載しています。
Ta_(x)B_(y)の組成がTaとTaB_(2)で構成される場合は、化学式1で示すことができます。

(x-0.5y)Ta+0.5yTaB_(2)→Ta_(x)B_(y) (式1)

右辺のBの価数がyであり、TaとTaB_(2)のみから構成されるものであれば、質量保存の法則に基づきTaB_(2)の係数が0.5yになることは明らかであり、Taも同様に質量保存の法則を考慮すれば左辺のTaの係数がx-0.5yになることも明らかです。製膜されたTa_(x)B_(y)の組成、つまり、xとyが分析などによってわかれば、上記式1のTaとTaB_(2)がどのような係数であるか算出することができ、どのような割合の混合体であるかも容易に仮定することが可能です(実例は後述します)。
各係数から求められた混合比に基づいて体積混合比や重量混合比を求めるのは、TaやTaB_(2)それぞれの物質の密度が既知であれば容易です。係数からそれぞれの物質量比(原子数比)がわかり、物質量比(原子数比)と原子量(分子量)から混合した重量比を求めることができ、重量比と密度から体積混合比を求めることができるからです。
これらの算出作業は、分析によって得られたTa_(x)B_(y)の具体的な組成と、表1に示している事項と、化学の一般的な法則である質量保存の法則と、そして単純な密度計算(基本公式)であることから、自明な事項であると考えます。

(ii)
本願表2において、膜組成[at%}は、Ta:B=80:20で、原子数比は、Ta:B=8:2です。これを、「単体」(Ta)と、「安定に存在する合金組成」(TaB_(2))に分けると、Ta:TaB_(2)=7:1です。このように、どのような割合の混合体であるかは容易に仮定することが可能です。また、上記の式(1)から必ず求めることができます。
重量混合比は、「原子量×原子数」の比、で求まるので、(これは基本公式です)
180.95(Taの原子量)×7(Taの原子数)=1266.65と、
202.57(TaB2の分子量)×1(TaB2の分子数)=202.57と、から
合計重量1469.22であり、
重量混合比[wt%]は、
Ta:1266.65÷1469.22=86.21≒86.2(wt%)
TaB_(2):202.57÷1469.22=13.78≒13.8(wt%)です。
これらの値は、表2の重量混合比[wt%]と一致します。

重量÷密度=体積なので、(これも基本公式です)
Ta:86.2g、TaB_(2):13.8gとして(合計重量100g)、
Taの体積:86.2g(Taの重量)÷16.60(Taの密度:表1)=5.193cm^(3)≒5.19cm^(3)
TaB_(2)の体積:13.8g(TaB2の重量)÷11.15(TaB_(2)の密度:表1)=1.238cm^(3)≒1.24cm^(3)
合計体積6.43cm^(3)であり、
論理密度は、合計重量÷合計体積から、100g÷6.43cm^(3)=15.55となります。(これも基本公式です)
ちなみに体積混合比は、
Ta:5.193÷6.43=80.76(vol%)≒=80.8(vol%)
TaB_(2):1.238÷6.43=19.25(vol%)≒19.2(vol%)(合計で100となるよう調整)となります。
これらの値は、表2の体積混合比[vol%]と一致します。

以上のように、理論密度d2は、本願請求項1、2の記載、本願【0041】の記載(特に「混合体であると仮定する」との記載)、本願表1および表2の記載、密度計算の基本公式から容易に算出することができます。特に、本願表2は論理密度を算出する途中経過およびそのデータが示されており、本願表1のデータを使用し、本願表2の左側から右側へ向かって、順を追うことで、理論密度を容易に算出(検算)することができます。」
と主張する。

この主張によると、理論密度を算出する具体的方法は、
(1)TaとBの「膜組成[atm%]」において、Ta_(x)B_(y)がTa単体とTaB_(2)の混合体と仮定すると、Ta単体とTaB_(2)の混合比(分子数比)が仮定でき、この混合比(分子数比)と原子量から、単純に、混合比(分子数比)と原子量を掛け合わせて、Ta単体とTaB_(2)の「重量混合比[wt%]」を算出する。(【表2】の実施例1-1では、Ta:B=80:20[atm%]、Ta:TaB_(2)=86.2:13.8[wt%])
(2)Ta単体とTaB_(2)の合計重量を100gと仮定して、Ta単体とTaB_(2)の「重量混合比[wt%]」から、Ta単体とTaB_(2)の重量を、それぞれ、算出する。
(3)Ta単体とTaB_(2)の重量のそれぞれと、【表1】の数値(Ta単体とTaB_(2)の密度の文献値)から、Ta単体とTaB_(2)の体積を、それぞれ、単純に、重量/密度として、算出する。(なお、実際に、薄膜中では、Ta単体とTaB_(2)が明確に分かれて存在しているわけではない。)
(4)Ta単体とTaB_(2)、それぞれの体積を、単純に、足し合わせて、合計体積とする。
(5)単純に、理論密度=合計重量/合計体積と定義して、理論密度を算出する。
という手順(1)?(5)であると理解され、これら手順(1)?(5)が自明な事項であると主張するものと理解される。(なお、上記手順(1)?(5)では、「体積混合比[vol%]」は、理論密度の算出に使用されないことは明らかである。)
これについて、上記のような理論密度の具体的算出方法のうち、TaとBの「膜組成[atm%]」において、Ta_(x)B_(y)がTa単体とTaB_(2)の混合体と仮定すると、Ta単体とTaB_(2)の混合比(分子数比)が仮定でき、この混合比(分子数比)と原子量から、単純に、混合比(分子数比)と原子量を掛け合わせて、Ta単体とTaB_(2)の「重量混合比[wt%]」を算出するという手順(1)までであれば、本願の発明の詳細な説明の、Ta_(x)B_(y)がTa単体とTaB_(2)の混合体と仮定する旨の記載や、【表1】の記載から、当業者であれば、把握し得る可能性がないとはいえない。
しかし、特開2006-297868号公報(当審拒絶理由で挙げた引用文献2:特に、段落【0079】参照)、特開2004-76064号公報(特に、段落【0054】参照)、特開2004-190120号公報(特に、段落【0067】参照)に、それぞれ、異なる理論密度の算出方法が記載されているように、一般に、理論密度の算出方法は1つに定まるものではないことが当業者の技術常識である。
また、理論密度の算出方法として、ある組成物を単体と安定に存在する合金の混合物と仮定して、重量混合比の100%を合計重量100gとおいて、それぞれの重量を算出し、密度の文献値からそれぞれの体積を算出して、これらを単純に足し合わせて合計体積を求め、合計重量/合計体積を理論密度と定義して算出する方法が、一般に、知られているという事情はないことを考慮すると、上記手順(2)の重量混合比の100%を合計重量100gとおくこと、手順(3)のTa単体とTaB_(2)の体積を、それぞれ、単純に、重量/密度として算出すること、手順(4)?(5)のTa単体とTaB_(2)、それぞれの体積を、単純に、足し合わせて合計体積として、単純に、理論密度=合計重量/合計体積と定義して、算出する方法は、請求人が任意に決定した算出方法である(理論的に、おのずと導かれる算出方法ではない)から、上記手順(2)?(5)までもが、当業者にとって自明であるとはいえない。(なお、一般に、密度=重量/体積は「基本公式」であるが、この「基本公式」を手順(1)?(5)の中で上述のように使用することまでが、「基本公式」ではない。)
さらに、上記「3」で挙げた本願の発明の詳細な説明中の「上記分析により得られたTa_(x)B_(y)膜の組成から、TaとTaB_(2)の重量混合比および体積混合比を算出し、さらに表1の数値を用いてTa_(x)B_(y)膜の理論密度を算出した。」(段落【0041】)という記載及び【表2】の記載からは、「体積混合比」も理論密度の算出に使用されると解し得る、また、重量混合比及び体積混合比を算出した後に、【表1】の数値を理論密度d2の算出に使用すると解し得るところ、上記の手順(1)?(5)では、「体積混合比」は理論密度の算出には使用されないこと、また、【表1】の数値は理論密度d2の算出ではなく、重量混合比やTa単体、TaB_(2)の体積の算出に使用することと合致していない。他に、本願の発明の詳細な説明には、理論密度を単体と安定に存在する合金との混合体であると仮定して算出することの技術的意義が原理的に説明されている箇所はなく、技術原理から理論密度の具体的算出方法を読み解く契機となる記載もない。

以上のとおりであるから、上記のように、意見書において、理論密度の具体的算出方法を説明された後であれば、本願の発明の詳細な説明に、その具体的算出法の途中結果(【表2】の「膜組成[atm%]」や「重量混合比[wt%]」)、理論密度が記載されていることは理解し得るとしても、このような説明が全くなされていない、本願の発明の詳細な説明の記載のみに基づいて、上記のような理論密度の具体的算出方法が、当業者には自明であるとは認められない。

6 結論
以上のとおり、発明特定事項における「理論密度d2」の算出方法について、本願の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められないから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
したがって、本願は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第3 むすび
よって、本願は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-15 
結審通知日 2016-02-17 
審決日 2016-03-08 
出願番号 特願2011-509271(P2011-509271)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤尾 隼人久保田 創  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
松川 直樹
発明の名称 膜緻密性評価方法  
代理人 藤村 康夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ