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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G03F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 G03F
管理番号 1313885
審判番号 不服2015-9982  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-28 
確定日 2016-05-10 
事件の表示 特願2011-242344「ペリクル」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月20日出願公開、特開2013- 97308、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月4日の出願であって、平成26年7月16日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月2日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成27年2月27日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、同年5月28日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年5月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書を補正するものであって、そのうち特許請求の範囲の補正は、補正前(平成26年9月2日付けで補正、以下同様。)の特許請求の範囲の請求項1?8である
「 【請求項1】
ペリクル膜が緊張して覆う多角状の枠体であって、その枠体を成す各辺の長手方向に炭素繊維を配向しつつ樹脂を含有した複合部材が、前記多角状に周回しつつ積層し前記樹脂の硬化によって一体化しており、研磨及び/または切削されて平滑化された前記枠体の表面がカーボンブラックを含有する樹脂被膜で被覆されていることを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項2】
前記複合部材が、一連に繋がる単一部材の前記周回によって積層し、又は各々が少なくとも1周周回する複数部材の前記周回によって積層していることを特徴とする請求項1に記載のペリクルフレーム。
【請求項3】
前記複合部材が、配向している多数本の前記炭素繊維に前記樹脂を含浸させたシート状であることを特徴とする請求項1?2の何れかに記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
前記各辺の内壁及び外壁における前記炭素繊維の長繊維が、共に一方向に配向されていることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
前記樹脂被膜がアクリル樹脂、シリコーン樹脂、又はフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1?4の何れかに記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
多角状の枠体の所望の内寸より小さい芯材に、前記枠体の所望の高さより広い縦幅及び少なくとも前記枠体の一周に渡る横幅で、前記横幅方向に配向した炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、前記枠体の所望の外寸より大きく積層し前記樹脂を加熱硬化して母材とする母材形成工程と、
前記母材を前記枠体の所望の内寸、外寸、及び高さに切削加工し、研磨及び/または切削して平滑化することで枠体にし、前記枠体の表面にカーボンブラックを含有する樹脂被膜を形成する枠体形成工程とを、
有することを特徴とするペリクルフレームの製造方法。
【請求項7】
前記枠体の所望の内寸より小さい芯材に、前記枠体の所望の高さより少なくとも2倍の縦幅及び少なくとも前記枠体の一周に渡る横幅で、前記横幅方向に配向した炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、前記枠体の外寸より大きく積層し前記樹脂を加熱硬化してから、切削加工により前記枠体の辺と平行方向に複数に分割して前記母材とする前記母材形成工程を有することを特徴とする請求項6に記載のペリクルフレームの製造方法。
【請求項8】
請求項1?5の何れかに記載のペリクルフレームに、ペリクル膜が緊張して覆われ貼付けられていることを特徴とするペリクル。」を
「 【請求項1】
ペリクル膜が緊張して覆い、角部が内壁側及び外壁側でともに円弧状となっている多角状の枠体であって、その枠体を成す各辺の長手方向に炭素繊維を配向しつつエポキシ樹脂を含有した複合部材が、前記多角状に周回しつつ積層し前記樹脂の硬化によって一体化しており、研磨及び/または切削されて平滑化された前記枠体の表面が、カーボンブラックを含有する、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜で被覆されていることを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項2】
前記複合部材が、一連に繋がる単一部材の前記周回によって積層し、又は各々が少なくとも1周周回する複数部材の前記周回によって積層していることを特徴とする請求項1に記載のペリクルフレーム。
【請求項3】
前記複合部材が、配向している多数本の前記炭素繊維に前記樹脂を含浸させたシート状であることを特徴とする請求項1?2の何れかに記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
前記各辺の内壁及び外壁における前記炭素繊維の長繊維が、共に一方向に配向されていることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
前記角部が、曲げ半径を最小で3mmの前記円弧状とすることを特徴とする請求項1?4の何れかに記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
角部の内壁側及び外壁側がともに円弧状となっている多角状の枠体の所望の内寸より小さい芯材に、前記枠体の所望の高さより広い縦幅及び少なくとも前記枠体の一周に渡る横幅で、前記横幅方向に配向した炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、前記枠体の所望の外寸より大きく積層し前記エポキシ樹脂を加熱硬化して母材とする母材形成工程と、
前記母材を前記枠体の所望の内寸、外寸、及び高さに切削加工し、研磨及び/または切削して平滑化することで枠体にし、前記枠体の表面にカーボンブラックを含有する、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜を形成する枠体形成工程とを、
有することを特徴とするペリクルフレームの製造方法。
【請求項7】
前記枠体の所望の内寸より小さい芯材に、前記枠体の所望の高さより少なくとも2倍の縦幅及び少なくとも前記枠体の一周に渡る横幅で、前記横幅方向に配向した炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、前記枠体の外寸より大きく積層し前記樹脂を加熱硬化してから、切削加工により前記枠体の辺と平行方向に複数に分割して前記母材とする前記母材形成工程を有することを特徴とする請求項6に記載のペリクルフレームの製造方法。
【請求項8】
請求項1?5の何れかに記載のペリクルフレームに、ペリクル膜が緊張して覆われ貼付けられていることを特徴とするペリクル。」と補正するものである。

2 補正の目的についての検討
上記本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ペリクル膜が緊張して覆う多角状の枠体」に関し、「角部が内壁側及び外壁側でともに円弧状となっている」構成を加える補正事項、同じく発明特定事項である「複合部材」に「含有」された「樹脂」に関し、「エポキシ」であることを特定する補正事項、同じく発明特定事項である「カーボンブラックを含有する樹脂被膜」に関し、「アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜」である構成を特定するとともに、本件補正前の請求項5に係る発明の該構成を省く補正事項、本件補正後の請求項5に係る発明に「角部が、曲げ半径を最小で3mmの前記円弧状とする」構成を加える補正事項、本件補正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である「多角状の枠体」に関し、「角部の内壁側及び外壁側がともに円弧状となっている」構成を加える補正事項、同じく発明特定事項である「シート状の複合部材」に「含浸させた」「樹脂」に関し、「エポキシ」であることを特定する補正事項、及び、同じく発明特定事項である「カーボンブラックを含有する樹脂被膜」に関し、「アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜」である構成を特定する補正事項を有するものである。
これらの補正事項は、明らかに特許請求の範囲を限定して減縮するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の請求項1?8に係る発明(以下「本件補正発明1」?「本件補正発明8」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

3 本件補正発明
本件補正発明1?8は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された上記のとおりのものである。

4 引用刊行物
(1)引用刊行物1
これに対して、本願の出願前である平成22年5月6日に頒布された「特開2010-102357号公報 」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
ア 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、液晶ディスプレイ(LCD)を構成する薄膜トランジスタ(TFT)やカラーフィルター(CF)等を製造する際のリソグラフィー工程で使用されるフォトマスクやレティクルに異物が付着することを防止するために用いられるペリクルの構成部材である枠体に関する。特に液晶用大型ペリクルの構成部材であって長辺長さが1m以上である大型ペリクルの構成部材である枠体に関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0031】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0032】
本発明の大型ペリクルの枠体は、複数の辺からなる多角形形状を有する枠体であって、該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着された粘着材とを備えることができ、前記枠体の最も長い辺の長さが1m以上である大型ペリクルの前記枠体において、前記枠体が、すべての辺部にそれぞれ把持用の凸部または凹部を有するものである。ここで、枠体の多角形形状とは通常略四角形状であるが、角部に切り欠きやR部を有した多角形形状であっても良い。
【0033】
図1Aは、本実施形態に係る大型ペリクルの枠体の一形態を説明するための斜視図であり、図1A及びDはフォトマスクに接着された大型ペリクル、図1B及びEは枠体を含む部分拡大縦断面図、図1C及びFは大型ペリクルの枠体を示す。図2は、従来の小型ペリクルの枠体の一形態(例えば特許文献2のタイプ)を説明するための斜視図であり、図2Aはフォトマスクに接着されたペリクル、図2Bは枠体の溝を含む部分拡大縦断面図、図2Cはペリクルの枠体、を示す。
【0034】
例えば図1に示すように、大型ペリクルは、枠体10と、枠体10の上縁面3に接着されたペリクル膜1と、枠体10の下縁面4に塗着された粘着材2とからなる。ここでペリクル膜1は枠体10の上縁面3に接着剤(不図示)を介して接着されている。なお、図1A及び図1Bでは、ペリクル枠体10が粘着材2を介してフォトマスク9に接着されている。フォトマスク9に接着される前は、大型ペリクルは、枠体10の下縁面4に、粘着材2を介して保護フィルム(不図示)が粘着された構造を有している。
【0035】
ペリクル膜1の材質、粘着材2の材質・形状、接着剤の材質、保護フィルムの材質・形状は、従来一般的に用いられているものが使用できる。
【0036】
ペリクル膜としては、透明な高分子膜、例えば、ニトロセルロース、セルロース誘導体、またはフッ素ポリマーが使用できる。ペリクル膜の厚さは光線透過率、膜強度を考慮し設定するものであり、例えば、10μm以下0.1μm以上が好ましい。ペリクル膜を枠体の上縁面に接着するにあたっては接着剤、例えば、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、または含フッ素シリコーン接着剤等のフッ素系ポリマーが使用される。
【0037】
粘着材としては、スチレンエチレンブチレンスチレン、スチレンエチレンプロピレンスチレン、もしくはオレフィン系等のホットメルト粘着材、シリコーン系粘着材、アクリル系粘着材、または発泡体を基材とした粘着テープが使用できる。粘着材層の厚さは枠体厚さと粘着材厚さの合計が、規定された膜とマスクの距離を越えない範囲で設定するものであり、例えば、10mm以下0.01mm以上が好ましい。
【0038】
保護フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、またはポリエチレン樹脂からなるフィルムが使用できる。また、粘着材の粘着力に応じて離型剤、例えばシリコーン系離型剤、またはフッ素系離型剤を、保護フィルムの表面に塗布しても良い。保護フィルムの厚さは、例えば、1mm以下0.01mm以上が好ましい。
【0039】
枠体10の材質は、機械的強度が保たれるものならば特に限定はしない。例えば、金属、樹脂、複合材が挙げられ、より、詳しく言えば、アルミニウムやその合金、例えばジュラルミン、鉄や鉄系合金、例えばステンレス、エンジニアリングプラスチック、繊維強化プラスチック(FRP)、及び炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が挙げられる。なお、大型化による自重の増加を考慮すれば、軽量で、かつ、剛性を有するものを用いることが好ましく、例えば、アルミニウムやその合金が好ましい。
【0040】
枠体10の製法は、従来一般的に行われている製法で良い。例えば、一体物の板を、切断・切削加工すれば良い。また、ペリクルの大型化につれ一体物の板の準備が困難な場合は、切断・切削加工に加え、溶接加工や、成型加工(金属ならばダイキャスト成型、樹脂ならば射出成型)することが挙げられる。この時に把持用の凸部または凹部を一体に成型することが好ましいが、後述するように、凸部の場合は脱着自在な部品として成型し、後から取り付けることも好ましい。
【0041】
また、枠体の表面には、反射防止のために黒色クロムメッキ、黒色アルマイト、黒色塗装等の黒色化処理を施してもよい。また、枠体の内側面には、異物を捕捉するために粘着材を塗布してもよい。」
イ 図面の記載
「【図1A】


ウ 引用例1記載の発明
上記ア及びイの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「大型ペリクルは、枠体10と、枠体10の上縁面3に接着されたペリクル膜1と、枠体10の下縁面4に塗着された粘着材2とからなり、
角部に切り欠きやR部を有した多角形形状であり、
材質は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であり、
表面には、反射防止のために黒色クロムメッキ、黒色アルマイト、黒色塗装等の黒色化処理が施されている、
大型ペリクルの枠体10。」
また、同様に、引用例1には、以下の発明(以下「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「大型ペリクルは、枠体10と、枠体10の上縁面3に接着されたペリクル膜1と、枠体10の下縁面4に塗着された粘着材2とからなり、
角部に切り欠きやR部を有した多角形形状であり、
材質は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であり、
表面には、反射防止のために黒色クロムメッキ、黒色アルマイト、黒色塗装等の黒色化処理が施されている、
大型ペリクルの枠体10の製造方法。」

(2)引用刊行物2
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成10年8月7日に頒布された「特開平10-209340号公報 」(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
ア 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子マネーカードなどのICカードを構成するのに用いるIC封止枠体、すなわち、ICチップを収容し、その周囲に樹脂を充填してICチップを封止するためのIC封止枠体と、そのIC封止枠体を製造する方法に関する。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の技術における上述した問題点を解決するもので、ICカードにより大きな曲げ応力が加わっても、ICチップが基板フィルムから剥がれたり、誤動作したり、動作しなくなったりする心配の少ないIC封止枠体を提供することを目的とする。
【0008】また、本発明は、そのようなIC封止枠体を低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明は、縦弾性係数が少なくとも80GPaであるIC封止枠体を特徴とするものである。封止枠体は、FRP製であるのが好ましい。また、FRP製である場合、FRPに含まれる強化繊維は、封止枠体の枠部に沿って延在しているのが好ましい。本発明のIC封止枠体は、電子マネーカードや銀行カード、IDカードなどのICカードを構成するのに用いることができる。
【0010】また、本発明は、そのようなIC封止枠体を製造する方法として、棒状のコア材の周りにFRP層を形成した後、コア材の軸方向と交差する方向に薄板状に輪切りしてからコア材を抜き取るか、コア材を抜き取ってから輪切りすることを特徴とするIC封止枠体の製造方法を提供する。FRP層の形成は、コア材の周りに強化繊維のストランドを巻き付けた後、そのストランドに樹脂を含浸、固化させることによって行うことができる。また、コア材の周りに樹脂を含浸した強化繊維のストランドを巻き付け、樹脂を固化させることによって行うことができる。強化繊維のストランドは、コア材の軸方向と直交もしくは実質的に直交する方向に巻き付けるのが好ましい。また、コア材の軸方向と直交もしくは実質的に直交する方向に輪切りするのが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】図1において、IC封止枠体1は、強化繊維2と樹脂マトリクス3とを含むFRPからなっている。強化繊維2は、枠部に沿って延在している。このIC封止枠体1は、少なくとも80GPaの縦弾性係数を有し、大きさは、用いるICチップの大きさにもよるが、通常、縦5?20mm、横5?20mm、厚み0.2?1.5mm程度である。
【0012】上記において、強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、有機高弾性率繊維(たとえばポリアラミド繊維)などの高強度、高弾性率繊維である。なかでも、低比重であるうえにより高強度、高弾性率である炭素繊維が最も好ましい。また、樹脂マトリクスは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、PPS樹脂などの熱可塑性樹脂からなっている。
【0013】強化繊維は、樹脂マトリクスと共同してIC封止枠体に少なくとも80GPaの縦弾性係数を与える。より少ない繊維量でかかる縦弾性係数を発現させ、より薄く、軽量なIC封止枠体を得るために、強化繊維は、上述したように枠部に沿って延在しているのが好ましい。FRPは、その特性が強化繊維の方向に依存する異方性材料であり、縦弾性係数はその繊維軸の方向に最も効果的に発現されるからである。しかしながら、多少ずれていても縦弾性係数の発現効果にそれほど大きな影響はない。すなわち、全体として見たとき、枠部に沿って延在していればよい。
【0014】上述したようなIC封止枠体は、フィラメントワインディング法によって製造することができる。
【0015】すなわち、図2に示すように、パッケージ4から強化繊維のストランド5を連続的に繰り出しながら樹脂浴6中に通し、得られた樹脂含浸ストランド7を矢印方向に回転しつつ軸方向に移動する棒状のコア材8に巻き付け、コア材8の周りに強化繊維層9を形成する。次に、強化繊維層9をコア材8とともに金型に入れてホットプレス成形し、コア材8の周りにFRP層10(図3)を形成する。次に、コア材8を抜き取った後、図3に示すように、存在していたコア材の軸と交差する方向に所望の厚みで輪切りし、IC封止枠体1を得る。
【0016】ここで、コア材としては鋼製や木材製のものを用いることができ、そのコア材に、強化繊維のストランドを、コア材の軸と直交するように巻き付けるとともに、存在していた軸と直交する方向に輪切りするのが好ましいが、巻付角度や輪切り角度は、縦弾性係数の発現効果に著しい影響を与えない範囲であればよい。すなわち、実質的に直交する方向であればよい。また、コア材を抜き取らないで輪切りし、しかる後にコア材を分離してもよい。
【0017】以上においては、樹脂含浸ストランドを用いる場合について説明したが、樹脂を含浸していない生のストランドをコア材に巻き付けて形成した強化繊維層に樹脂を含浸するようにしてもよい。また、一方向にシート状に引き揃えたストランドに樹脂を含浸してなる一方向性プリプレグを用い、その一方向性プリプレグをストランドの方向がコア材の軸と直交もしくは実質的に直交するように巻き付けるようにしてもよい。
【0018】上述したIC封止枠体を用いたICカードの製造は、たとえば次のようにして行うことができる。
【0019】すなわち、まず、接着剤を、スクリーン法を用いて基材フィルム(たとえばエポキシ樹脂フィルム)に塗布するか、IC封止枠体に塗布して、基材フィルムにIC封止枠体を接着する。次に、IC封止枠体の内側の基材フィルム上にICチップを搭載した後、IC封止枠体の内側に樹脂(たとえばエポキシ樹脂)を充填してICチップを封止し、ICモジュールを形成する。次に、このICモジュールを合成樹脂(たとえば塩化ビニル樹脂)からなるカード基板上に取り付け、さらにICモジュールを覆うようにカード基板に保護フィルム(たとえばポリエチレンフィルム)を貼り付けて保護層を形成し、ICカードとする。」
イ 図面の記載
「【図1】


「【図2】


ウ 引用例2記載の発明
上記ア及びイの記載事項によると、引用例2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「炭素繊維2とエポキシ樹脂からなる樹脂マトリクス3とを含むFRPからなり、
炭素繊維2が枠部に沿って延在している、
ICカードを構成するのに用いるIC封止枠体1。」
また、同様に、引用例2には、以下の発明(以下「引用方法発明2」という。)が記載されていると認められる。
「パッケージ4から炭素繊維のストランド5を連続的に繰り出しながらエポキシ樹脂の樹脂浴6中に通し、得られたエポキシ樹脂含浸ストランド7を回転しつつ軸方向に移動する棒状のコア材8に巻き付け、コア材8の周りに炭素繊維層9を形成し、次に、炭素繊維層9をコア材8とともに金型に入れてホットプレス成形し、コア材8の周りにFRP層10を形成し、次に、コア材8を抜き取った後、コア材の軸と交差する方向に所望の厚みで輪切りし、ICカードを構成するのに用いるIC封止枠体1を得る方法。」

(3)引用刊行物3
さらに、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成18年8月10日に頒布された「特開2006-207642号公報 」(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
ア 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受における玉やころなどの転動体を保持するための転がり軸受用保持器に関する。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1はこの発明の実施形態であるアンギュラ玉軸受用保持器(10)をその一部を切り欠いて示す斜視図である。同図に示すようにこの保持器(10)は、保持器基体(11)と、基体(11)の表面に被覆形成された被覆層(12)とを備えている。
【0022】
保持器基体(11)は、炭素繊維強化材料をもって構成されている。さらに保持器基体(11)は、短尺円筒形状(保持器用環状部材11a)に、周方向に沿って所定間隔おきに複数の円形ポケット孔(11b)が形成されることによって構成されている。
【0023】
ここで炭素繊維強化材料としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)や、CFRPを焼成して黒鉛化した炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)を好適に使用することができる。これらの材料のうち、加工性や生産性を考慮すると、CFRPを用いるのが好ましく、また耐熱性などを考慮すると、C/Cコンポジットを用いるのが好ましい。
【0024】
保持器基体(11)の製作方法としては、シートワインディング法が好んで用いられる。すなわち炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などの強化繊維をその繊維方向を一方向に揃えた状態で、マトリックス樹脂として、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂(高分子材料)を含浸させて、シート状の一方向プリプレグを準備する。
【0025】
そしてこのプリプレグを、円柱状のマンドレル(内型)に積層状態に複数枚巻き付けて、加圧硬化させて成形した後、マンドレルを抜き取って、長尺な円筒部材を製作する。
【0026】
なおプリプレグを積層状態に巻き付ける際には、繊維方向を交差させつつ積層するのが良い。すなわちこのようにクロス配向させることによって、保持器基体(11)の強度を向上させることができ、耐久性や耐衝撃性をより一層向上させることができる。
【0027】
次に上記長尺な円筒部材を輪切りにして、炭素繊維強化材料からなる短尺な円筒部材(保持器用環状部材11a)を製作する。
【0028】
続いてこの環状部材(11a)に対し、周方向に沿って所定間隔おきに複数の円形ポケット孔(11b)を機械加工によって形成し、これにより保持器基体(11)を製作する。」
イ 図面の記載
「【図1】


ウ 引用例3記載の発明
上記ア及びイの記載事項によると、引用例3には、以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「保持器基体(11)と、基体(11)の表面に被覆形成された被覆層(12)とを備え、
保持器基体(11)は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をもって構成され、
炭素繊維をその繊維方向を一方向に揃えた状態で、マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂を含浸させた、
アンギュラ玉軸受用保持器(10)。」
また、同様に、引用例3には、以下の発明(以下「引用方法発明3」という。)が記載されていると認められる。
「炭素繊維をその繊維方向を一方向に揃えた状態で、マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂を含浸させて、シート状の一方向プリプレグを準備し、このプリプレグを、円柱状のマンドレルに積層状態に複数枚巻き付けて、加圧硬化させて成形した後、マンドレルを抜き取って、長尺な円筒部材を製作し、次に上記長尺な円筒部材を輪切りにして、炭素繊維強化材料からなる短尺な円筒部材である保持器用環状部材(11a)を製作する、
/アンギュラ玉軸受用保持器(10)の製作方法。」

5 本件補正発明1について
5-1 対比
以下、本件補正発明1と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「大型ペリクルの枠体10」は、本件補正発明1の「ペリクルフレーム」及び「枠体」の両方に相当する。また、引用発明の「ペリクル膜1」は、本件補正発明1の「ペリクル膜」に相当する。
(2)引用発明は、その「ペリクル膜1」が「枠体10の上縁面3に接着された」ものであるから、技術常識からして、本件補正発明1の「ペリクル膜が緊張して覆」う構成に相当する構成を有するものである。
(3)引用発明の「角部に切り欠きやR部を有した多角形形状であ」る構成と、本件補正発明1の「角部が内壁側及び外壁側でともに円弧状となっている多角状」である構成とは、「角部が円弧状となっている多角状」である構成で共通する。
(4)引用発明の「材質は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であ」る構成と、本件補正発明1の「枠体を成す各辺の長手方向に炭素繊維を配向しつつエポキシ樹脂を含有した複合部材が、前記多角状に周回しつつ積層し前記樹脂の硬化によって一体化して」いる構成とは、「炭素繊維を配向しつつ樹脂を含有した複合部材」からなる構成で共通する。
(5)引用発明の「表面には、反射防止のために黒色クロムメッキ、黒色アルマイト、黒色塗装等の黒色化処理が施されている」構成と、本件補正発明1の「枠体の表面が、カーボンブラックを含有する、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜で被覆されている」構成とは、「枠体の表面に、黒色化処理が施されている」構成で共通する。

上記(1)ないし(5)の点から、本件補正発明1と引用発明は、
「ペリクル膜が緊張して覆い、角部が円弧状となっている多角状の枠体であって、炭素繊維を配向しつつ樹脂を含有した複合部材からなり、前記枠体の表面に、黒色化処理が施されている、
ペリクルフレーム。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
ア 本件補正発明1は、「角部が内壁側及び外壁側でともに円弧状となっている」のに対し、引用発明は、単に「角部に切り欠きやR部を有」するだけである点。
イ 「炭素繊維を配向しつつ樹脂を含有した複合部材」が、本件補正発明1は、「枠体を成す各辺の長手方向に炭素繊維を配向しつつエポキシ樹脂を含有した複合部材が、前記多角状に周回しつつ積層し前記樹脂の硬化によって一体化して」いるのに対し、本件補正発明1は、そのような構成を有するか不明である点。
ウ 「枠体の表面」が、本件補正発明1は、「研磨及び/または切削されて平滑化され」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を有するか不明である点。
エ 「黒色化処理」が、本件補正発明1は、「カーボンブラックを含有する、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜で被覆され」たものであるのに対し、引用発明は、「黒色クロムメッキ、黒色アルマイト、黒色塗装等」である点。

5-2 本件補正発明1についての判断
まず、上記アないしエの相違点のうち、上記イの相違点について検討する。
引用発明2は、「炭素繊維2とエポキシ樹脂からなる樹脂マトリクス3とを含むFRPからなり、炭素繊維2が枠部に沿って延在している」構成を有するから、本件補正発明1の「枠体を成す各辺の長手方向に炭素繊維を配向しつつエポキシ樹脂を含有した複合部材が、」「前記樹脂の硬化によって一体化して」いる構成に相当する構成を有する。
しかしながら、引用発明は、「大型ペリクルの枠体10」に関する発明であるのに対し、引用発明2は、「ICカードを構成するのに用いるIC封止枠体」に関する発明であって、これらの発明は、「枠体」に関する発明である点で共通するものであるものの、引用発明の「大型ペリクル」と、引用発明2の「ICカード」とは、技術分野が異なるものであって、使用環境や大きさが大きく異なるものである。
また、引用例2には、「ICカードにより大きな曲げ応力が加わっても、ICチップが基板フィルムから剥がれたり、誤動作したり、動作しなくなったりする心配の少ないIC封止枠体を提供すること」(【0007】)が課題であることが記載されているものの、引用発明の「大型ペリクルの枠体10」に加わる応力と、引用発明2の「ICカード」に加わる応力とは大きく異なるものであって、引用発明の「大型ペリクルの枠体10」には、上記のような課題は存在しない。
したがって、引用発明の「大型ペリクルの枠体10」において、引用発明2を適用する動機付けが存在しないから、該適用は当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、引用発明3は、「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をもって構成され、炭素繊維をその繊維方向を一方向に揃えた状態で、マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂を含浸させた」構成を有するから、本件補正発明1の「炭素繊維を配向しつつエポキシ樹脂を含有した複合部材が、」「前記樹脂の硬化によって一体化して」いる構成に相当する構成を有する。
しかしながら、引用発明は、「大型ペリクルの枠体10」に関する発明であるのに対し、引用発明3は、「アンギュラ玉軸受用保持器」に関する発明であって、これらの発明は、技術分野が異なるものであって、形状や使用環境が大きく異なるものであるから、当然求められる強度等も異なるものである。
したがって、引用発明の「大型ペリクルの枠体10」において、引用発明3を適用する動機付けが存在しないから、該適用は当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、上記イの相違点に係る本件補正発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
よって、上記ア、ウ、エの相違点について検討するまでもなく、本件補正発明1は、引用発明、及び、引用発明2または引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

6 本件補正発明2?5について
本件補正発明2?5は、本件補正発明1の発明特定事項を全て有するものであって、本件補正発明1が、引用発明、及び、引用発明2または引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件補正発明2?5も本件補正発明1と同様に、引用発明、及び、引用発明2または引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

7 本件補正発明6について
7-1 対比
以下、本件補正発明6と引用方法発明とを対比する。
(1)引用方法発明の「大型ペリクルの枠体10」は、本件補正発明6の「ペリクルフレーム」及び「枠体」の両方に相当する。
(2)本件補正発明6は、「芯材に、」「炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、」「積層し前記エポキシ樹脂を加熱硬化して母材と」し、「前記母材を前記枠体の所望の内寸、外寸、及び高さに切削加工し、」「枠体にし」ているから、本件補正発明6の「枠体」は、「炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させた」部材により形成されているといえる。
そうすると、引用方法発明の「大型ペリクルの枠体10」の「材質は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であ」る構成と、本件補正発明6の「角部の内壁側及び外壁側がともに円弧状となっている多角状の枠体の所望の内寸より小さい芯材に、前記枠体の所望の高さより広い縦幅及び少なくとも前記枠体の一周に渡る横幅で、前記横幅方向に配向した炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、前記枠体の所望の外寸より大きく積層し前記エポキシ樹脂を加熱硬化して母材とする母材形成工程」「を有」し、「前記母材を前記枠体の所望の内寸、外寸、及び高さに切削加工し、研磨及び/または切削して平滑化することで枠体に」する構成とは、「枠体」が「炭素繊維に樹脂を含浸させた」部材により形成されている構成で共通する。
(3)引用方法発明の「表面には、反射防止のために黒色クロムメッキ、黒色アルマイト、黒色塗装等の黒色化処理が施されている」構成と、本件補正発明6の「枠体の表面にカーボンブラックを含有する、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜を形成する」構成とは、「枠体の表面に黒色の被膜を形成する」構成で共通する。

上記(1)ないし(3)の点から、本件補正発明6と引用方法発明は、
「枠体が炭素繊維に樹脂を含浸させた部材により形成されており、
枠体の表面に黒色の被膜を形成する、
ペリクルフレームの製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
ア 「炭素繊維に樹脂を含浸させた」「枠体」の「形成」に際し、本件補正発明6は、「角部の内壁側及び外壁側がともに円弧状となっている多角状の枠体の所望の内寸より小さい芯材に、前記枠体の所望の高さより広い縦幅及び少なくとも前記枠体の一周に渡る横幅で、前記横幅方向に配向した炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、前記枠体の所望の外寸より大きく積層し前記エポキシ樹脂を加熱硬化して母材とする母材形成工程」「を有」し、「前記母材を前記枠体の所望の内寸、外寸、及び高さに切削加工し、研磨及び/または切削して平滑化することで枠体に」するのに対し、引用方法発明は、どのようなに形成するのか不明である点。
イ 「枠体の表面」の「黒色の被膜」の「形成」に際し、本件補正発明6は、「前記枠体の表面にカーボンブラックを含有する、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる樹脂の被膜を形成する」のに対し、引用方法発明は、「黒色クロムメッキ、黒色アルマイト、黒色塗装等の黒色化処理」を行う点。

7-2 本件補正発明6についての判断
まず、上記アの相違点について検討する。
引用方法発明2は、「パッケージ4から炭素繊維のストランド5を連続的に繰り出しながらエポキシ樹脂の樹脂浴6中に通し、得られたエポキシ樹脂含浸ストランド7を」「棒状のコア材8に巻き付け、コア材8の周りに炭素繊維層9を形成し、次に、炭素繊維層9をコア材8とともに金型に入れてホットプレス成形し、コア材8の周りにFRP層10を形成し、次に、コア材8を抜き取った後、コア材の軸と交差する方向に所望の厚みで輪切り」するものであるから、本件補正発明6の「芯材に、」「炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させた」「部材を、巻き付け、」「前記エポキシ樹脂を加熱硬化して母材とする母材形成工程」に相当する工程を有する。
しかしながら、引用方法発明は、「大型ペリクルの枠体10」に関する発明であるのに対し、引用方法発明2は、「ICカードを構成するのに用いるIC封止枠体」に関する発明であって、これらの発明は、「枠体」に関する発明である点で共通するものであるものの、引用方法発明の「大型ペリクル」と、引用方法発明2の「ICカード」とは、技術分野が異なるものであって、使用環境や大きさが大きく異なるものである。
また、引用例2には、「ICカードにより大きな曲げ応力が加わっても、ICチップが基板フィルムから剥がれたり、誤動作したり、動作しなくなったりする心配の少ないIC封止枠体を提供すること」(【0007】)が課題であることが記載されているものの、引用方法発明の「大型ペリクルの枠体10」に加わる応力と、引用方法発明2の「ICカード」に加わる応力とは大きく異なるものであって、引用方法発明の「大型ペリクルの枠体10」には、上記のような課題は存在しない。
したがって、引用方法発明の「大型ペリクルの枠体10」において、引用方法発明2を適用する動機付けが存在しないから、該適用は当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、引用発明3は、「炭素繊維をその繊維方向を一方向に揃えた状態で、マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂を含浸させて、シート状の一方向プリプレグを準備し、このプリプレグを、円柱状のマンドレルに積層状態に複数枚巻き付けて、加圧硬化させて成形した後、マンドレルを抜き取って、長尺な円筒部材を製作し、次に上記長尺な円筒部材を輪切りにして、炭素繊維強化材料からなる短尺な円筒部材」「を製作する」ものであるから、本件補正発明6の「芯材に、」「炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたシート状の複合部材を、巻き付け、」「積層し前記エポキシ樹脂を加熱硬化して母材とする母材形成工程」に相当する構成を有する。
しかしながら、引用方法発明は、「大型ペリクルの枠体10」に関する発明であるのに対し、引用方法発明3は、「アンギュラ玉軸受用保持器」に関する発明であって、これらの発明は、技術分野が異なるものであって、形状や使用環境が大きく異なるものであるから、当然求められる強度等も異なるものである。
したがって、引用方法発明の「大型ペリクルの枠体10」において、引用方法発明3を適用する動機付けが存在しないから、該適用は当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、上記アの相違点に係る本件補正発明6の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
よって、上記イの相違点について検討するまでもなく、本件補正発明6は、引用方法発明、及び、引用方法発明2または引用方法発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

8 本件補正発明7,8について
本件補正発明7,8は、本件補正発明6の発明特定事項を全て有するものであって、本件補正発明6が、引用方法発明、及び、引用方法発明2または引用方法発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件補正発明7,8も本件補正発明6と同様に、引用方法発明、及び、引用方法発明2または引用方法発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

したがって、本件補正の補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

9 本件補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2」「1」参照。)
そして、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明である本件補正発明1ないし8が、上記「第2」「5」ないし「8」で検討したように、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明も同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2011-242344(P2011-242344)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03F)
P 1 8・ 572- WY (G03F)
P 1 8・ 575- WY (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関口 英樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
松川 直樹
発明の名称 ペリクル  
代理人 小宮 良雄  
代理人 大西 浩之  

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