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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1313982 |
審判番号 | 不服2015-306 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-01-07 |
確定日 | 2016-04-28 |
事件の表示 | 特願2010-120036「美白剤、抗酸化剤、皮膚外用剤、及び機能性経口組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 8日出願公開、特開2011-246375〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年5月26日の出願であって、平成25年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月19日付けで拒絶査定がされ、平成27年1月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年2月4日付けで前置審査の結果が報告されたものである。 第2 本願発明 本願請求項1?2に係る発明は、平成27年1月7日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「ショウガ科ウコン属(Curcuma属)植物の地下茎の芽の抽出物を有効成分とする美白剤。」 第3 引用例及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前に頒布されたことが明らかである「特開平6-227960号公報」(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。 (1a) 「【請求項1】 チョウジ、ウコン、ビンロウジ、およびモッコウからなる群から選ばれた生薬の水、親水性有機溶媒またはこれらの混合物による抽出物1種または2種以上を有効成分として含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。」 (1b) 「また、ウコン(姜黄)はショウガ科の多年草・Curcuma longalの根茎部であって、胆肝機能改善薬や止血剤に使われている。」(【0005】) (1c) 「実施例3 下記組成の乳液を常法により製造した。 実施例1によるウコン抽出物 5.0重量% (省略) 得られた乳液は美白作用にすぐれ、しっとりした使用感のものであった。また保存安定性にもすぐれていた。」(【0014】) (1d) 「生薬抽出物を有効成分とする本発明のメラニン生成抑制剤および化粧料は、チロシナーゼ阻害作用に基づく優れた美白作用を有するだけでなく、使用感、安全性および安定性にも優れている。」 (【0017】) 第4 引用例に記載された発明 引用例の上記(1a)の記載からみて、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「生薬であるウコンの水、親水性有機溶媒またはこれらの混合物による抽出物を有効成分として含有するメラニン生成抑制剤。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比する。 1.本願発明の「ショウガ科ウコン属植物」は、本願明細書【0009】の記載によれば、「ウコン(Curcuma Longa)」を含むものである。 一方、引用発明の「ウコン」について検討するに、上記(1b)の摘示に加えて、「根茎」が「地下茎の一種」を意味すること考慮すると、引用発明の「ウコン」は、本願発明の「ショウガ科ウコン属(Curcuma属)植物の具体的一例であるウコンの地下茎」に相当する。 2.引用発明の「メラニン生成抑制剤」は、上記摘示(1c)、(1d)によれば、美白効果を有するため、「美白剤」であるともいえる。 以上のことから、両発明は次の一致点及び相違点を有する。 一致点:「ショウガ科ウコン属(Curcuma属)植物の具体的一例であるウコンの地下茎の抽出物を有効成分とする美白剤。」 相違点: 本願発明では「地下茎の芽」を用いるのに対し、引用発明は「地下茎」ではあるものの、それ以上の特定がない点。 第6 判断 上記相違点について検討する。 1.相違点について 植物の抽出物を有効成分とする剤を調製する際には、具体的な抽出部位を選択する必要があるが、植物を構成する全ての部位は相互に連結、一体化しているため、どの部位であっても、含有量の多少はあれ、同じ有効成分が含まれることは、当業者にとって自明であること、加えて本願明細書の【0003】にも「これまでにも、美白作用または抗酸化作用を有する成分として、ショウガ科ウコン属ウコンの地下茎抽出物(特許文献1、2参照)やウコンの葉抽出物(特許文献3参照)が有効であることは知られていたが」と記載され、実際に本願明細書の【0004】において特許文献3として提示されている下記文献Aにも同様のことが記載されていることから、植物のうち、特にウコンについては、本願出願時において、地下茎の抽出物だけでなく、葉の抽出物も美白作用を有することは公知であったことをも考慮すれば、引用例1の記載に触れた当事者が、ウコンの地下茎(根茎部)以外の種々の抽出部位を検討するという動機付けは十分あったといえる。 そして、植物の「芽」自体は、本願出願時にはよく知られた抽出部位であることに鑑みれば(下記文献B?E参照)、当業者が、引用発明の「ウコン」に関して、地下茎以外の抽出部位として、ウコンの「芽」、即ち「地下茎の芽」を想起し、その美白作用について確認し、その結果本願発明に至ることは、当業者が容易になし得るというべきである。 文献A:国際公開第2005/084613号 「従来より、ウコンについては、 その根茎エキス及びその主成分であるクルクミンの利胆作用が知られており(株式会社南江堂の生薬学改訂第4版参照)、生薬として用いられている。また、近年では、クルクミンの抗酸化作用や根茎エキスの消炎作用を利用して、化粧品の抗酸化剤や抗炎症剤、美白成分等の有効成分にも利用されているが、葉エキスについては、その効能は知られておらず、廃棄されていたのが現状である。」(第6頁第6?11行) 「6.水及びエタノールで抽出したウコン葉エキスを1?20質量%含有する皮膚美白剤。」(請求の範囲) 文献B:特開2009-185007号公報(拒絶査定において、周知事項を示す文献として提示) 「【請求項2】 イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の新芽より抽出した新芽抽出物を有効成分とするケラチノサイト増殖因子産生促進剤。」 文献C:特表2006-515311号公報(拒絶査定において、周知事項を示す文献として提示) 「【請求項1】 第1の固/液抽出工程、続く第2の固/液分離工程、次の第3の液相回収工程によって得られるCryptomeria japonica D. Donの芽の抽出物。 ・・・ 【請求項15】 請求項1に記載のCryptomeria japonicaの芽の抽出物を含む化粧品組成物。」 文献D:特開2004-256464号公報(拒絶査定において、周知事項を示す文献として提示) 「【請求項1】 エンドウの若芽からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。」 文献E:特開平9-227397号公報(拒絶査定において、周知事項を示す文献として提示) 「【請求項1】 ブナの木の幼芽からの抽出物を主成分としていることを特徴とする、皮膚外用剤。」 2.本願発明の効果について 本願明細書の実施例(【0035】【表5】)には、「美白効果(メラニン産生抑制作用)」として、地下茎の抽出物と、芽の抽出物の効果を、「総メラニン量」と「目視評価」の2項目で評価している。 総メラニン量については、芽の抽出物の添加量が1.6(μg/mL)、8.0(μg/mL)の場合は、有効成分不含有のネガティブコントロールより、総メラニン量が増えており、メラニン産生が抑制されているどころか、メラニン産生が増強される結果が示されている。 また、添加量が40(μg/mL)の場合には、芽の抽出物は、ネガティブコントロールより、総メラニン量は減少しており、「メラニン産生抑制作用」を有しているといえるものの、地下茎の抽出物と比較すると、地下茎の総メラニン量が0.075であるのに対し、芽の抽出物の総メラニン量は0.069と、その差は0.006であり、ネガティブコントロールの2回の測定で、0.105と0.106で0.001の差が生じることに鑑みれば、0.006の差は格別顕著な差ではない、即ち総メラニン量において、芽の抽出物と地下茎の抽出物とでは、格別顕著な差はないといえる。 次に目視評価について検討するに、芽の抽出物は、添加量が1.6(μg/mL)、8.0(μg/mL)の場合は、ネガティブコントロールと同じ評価「5」であり、「メラニン産生抑制作用」を有しているとはいえない。 また、添加量が40(μg/mL)の場合については、芽の抽出物は、ネガティブコントロールより、目視評価は向上しており、「メラニン産生抑制作用」を有しているといえ、さらに地下茎の抽出物と比較すると、地下茎の抽出物が「4」であったのに対し、芽の抽出物は「2」と、2段階向上するという評価を得ているが、肉眼で判定する細胞沈殿物の黒化状況が、メラニン量に依存するのは当然であることに鑑みれば、地下茎の抽出物と、芽の抽出物とは、目視評価は「4」と「2」とで2段階異なるものの、目視評価の元となる総メラニン量にすると、上記したとおり0.006というわずかな差でしかない。そして、先に述べたとおり、構成自体容易に想到できるものといえるので、多少の効果が見られるとしても、それをもって予期せぬ効果とまでいうことはできない。 仮に、本願発明は「美白剤」であるため、「見た目」の効果、即ち「目視評価」を総メラニン量という数値に優先して評価するということであっても、実施例で行っているのはB16マウスメラノーマ細胞を用いたメラニン産生抑制の試験であって、美白剤としての効果を直接確認する試験ではないし、また、40(μg/mL)の濃度でメラノサイトに送達しなければ美白効果が得られないと解されるところ、この目視評価をもって、そのまま美白効果として受け入れることはできない。さらに、美白剤として効果についての記載を、本願明細書の他の箇所に探してみても、「実施例1?実施例14に示した皮膚外用剤は、美白作用、抗酸化作用を有する組成物であった。また実施例15?実施例18に示した機能性経口組成物は美白作用、抗酸化作用を有する組成物であった。」(【0062】)と記載されるのみで、美白の程度や、地下茎の抽出物と比較した結果については記載されていない。したがって、本願発明の芽の抽出物が美白剤として格別顕著な効果を奏するとは認められない。 以上より、本願発明の効果については、条件によっては、メラニン産生抑制作用を有する場合があることを確認したにとどまるものであり、美白剤として格別顕著な効果を奏するとまでいえるものではない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-25 |
結審通知日 | 2016-03-01 |
審決日 | 2016-03-14 |
出願番号 | 特願2010-120036(P2010-120036) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 弘實 謙二 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
齊藤 光子 小川 慶子 |
発明の名称 | 美白剤、抗酸化剤、皮膚外用剤、及び機能性経口組成物 |