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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02M |
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管理番号 | 1313995 |
審判番号 | 不服2015-9204 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-18 |
確定日 | 2016-04-28 |
事件の表示 | 特願2011-212593「電源回路」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月22日出願公開、特開2013- 74741〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年9月28日の出願であって、平成26年5月21日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成27年5月18日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年5月18日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「昇圧用スイッチング素子と、バッテリと前記昇圧用スイッチング素子との間に設けられるコイルと、前記コイルと補機系負荷との間に設けられる整流用スイッチング素子とを備える昇圧回路と、 一方の端子が前記昇圧回路の入力段に接続され、他方の端子が前記昇圧回路の出力段に接続され、常時オフから常時オンになると、前記バッテリと前記補機系負荷とを電気的に接続させるリレーと、 アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時、前記リレーを常時オフさせるとともに、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動を制御し、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子を交互にオン、オフする、または前記整流用スイッチング素子を常時オンするとともに前記昇圧用スイッチング素子をオン、オフする制御回路と、 を備え、 前記制御回路は、アイドルストップ後のエンジン再始動時、前記リレーの常時オフを維持させるとともに、前記バッテリの電圧が昇圧されて前記負荷に出力されるように、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動を制御し、前記昇圧用スイッチング素子又は前記整流用スイッチング素子が異常であると判断すると、前記リレーを常時オフから常時オンに切り替える ことを特徴とする電源回路。」 と補正された。 本件補正のうちの上記請求項1についての補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動」について「前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子を交互にオン、オフする、または前記整流用スイッチング素子を常時オンするとともに前記昇圧用スイッチング素子をオン、オフする」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-237149号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の(a)ないし(f)のとおりの記載がある。 (a)「【0002】 近年、燃料消費量の節減とエミッションの低減を目的として、信号待ち等の車両停止時にエンジンを一時的に自動停止させるようにしたアイドルストップ車両が実用化されている。この種の車両では、車速・アクセル開度等の所定のアイドル判断情報に基づいて、車両が停止中と推測されるときにエンジンを自動停止させ、その後に運転者の発進意思を表わすエンジン始動条件が成立したときに、スタータによりエンジンを自動始動させて発進に備えている。 【0003】 一般的に、エンジン起動用のスタータの消費電力は大きいため、エンジン起動の瞬間にバッテリ出力系統の電圧が一時的に低下する現象が発生する可能性がある。このような現象は、特に、停車および発進を頻繁に繰返す市街地走行等により、電源として用いられるバッテリの消耗が激しくなった場合に顕著となる。 【0004】 このような電圧低下が発生すると、車両内の電気機器に用いられるマイコン(マイクロコンピュータ)がリセットされて、その時点までの学習内容等の記憶内容が消失してしまったり、計器類の照明等が一時的に暗くなって車両の品質感を大きく損なってしまったりするという不具合が発生してしまう。 【0005】 そこで、アイドルストップ車両において、エンジン再起動時におけるバッテリ出力系統の電圧低下を防止するために昇圧用の電圧補償回路を設け、エンジン起動時のスタータ動作期間において当該昇圧回路を動作させる構成が提案されている(たとえば、特許文献1)。」 (b)「【0012】 好ましくは、車両用電源装置は、予め設定されたエンジン停止条件の成立時にエンジンを停止し、かつ、予め設定されたエンジン起動条件の成立時にスタータユニットを動作させてエンジンを始動させるアイドルストップ車両に搭載され、制御回路は、スタータユニットの動作期間に対応させて昇圧回路を動作させる。」 (c)「【0026】 図1を参照して、この発明による車両用電源装置は、「直流電源」として設けられるバッテリ10と、電源ライン20,50と、「昇圧回路」である昇圧コンバータ30と、「制御回路」として設けられるECU(Electrical Control Unit)60と、電源ライン20の電圧を検出するための電圧検出回路22と、電源ライン50の電圧を検出するための電圧検出回路52とを備える。 【0027】 (中略) 【0028】 (中略) 【0029】 (中略) 【0030】 電源ライン50へは、電気負荷55の電源電圧である出力電圧Voが供給される。電気負荷55は、電源電圧の変動により悪影響を受けやすい電気回路群を総称するものであり、電源電圧の著しい低下に伴ってリセットされてその記憶内容が失われてしまうマイクロコンピュータや、電源電圧に応じてその照度が変化する照明類が相当する。 【0031】 このため、電気負荷55の電源電圧Voは、昇圧コンバータ30の出力電圧とされ、必要に応じて昇圧コンバータ30によって昇圧可能な構成とされる。」 (d)「【0034】 ECU60は、アイドル運転中にエンジン100の停止を指示するための停止指令信号Ssp、アイドル運転からの復帰時にスタータユニット110の起動を指示する起動指令信号Sst、昇圧コンバータ30に動作を指示する起動指令信号Vcv、および昇圧コンバータ30の動作時における出力電圧Voの基準値に相当する目標電圧Vrefを生成する。ECU60によって生成された停止指令信号Sspおよび起動指令信号Sstは、エンジン100およびスタータユニット110へそれぞれ与えられ、起動指令信号Sstおよび目標電圧Vrefは、昇圧コンバータ30へ与えられる。さらに、電圧検出回路22,52による、入力電圧Viの検出値Vidおよび出力電圧Voの検出値Vodは、必要に応じて、ECU60でサンプリング可能な構成となっている。 【0035】 昇圧コンバータ30は、電源ライン20および50の間に直列に接続された平滑リアクトル32およびダイオード34と、パワースイッチング素子36および平滑コンデンサ38と、コンバータ制御部40とを含む。 【0036】 コンバータ制御部40は、パワースイッチング素子36のオンおよびオフを制御するためのゲート信号Ggtを生成するデューティ制御部42と、デューティ制御部42からのゲート信号Ggtに従ってパワースイッチング素子36をオンまたはオフさせるドライバ45とを有する。 【0037】 昇圧コンバータ30は、いわゆる非絶縁型昇圧チョッパの構成であり、パワースイッチング素子36の各スイッチング周期Tにおけるオン時間Tonおよびオフ時間Toffの比、すなわちデューティ比を設定することにより、入力電圧Viに対する出力電圧Voの比すなわち昇圧比Vo/Viを制御する。具体的には、下記(1)式で、昇圧コンバータの昇圧比は決定される。」 (e)「【0040】 このように、昇圧コンバータ30は、ECU60からの起動指令信号Vcvに応答して間欠的に動作し、動作時において、バッテリ10の出力電圧に相当する入力電圧Viを昇圧して、目標電圧Vrefに従った出力電圧Voを出力する。 【0041】 すなわち、電源ライン50は、昇圧コンバータ30の非動作時にはバッテリ10の出力電圧を受ける一方で、昇圧コンバータ30の動作時には目標電圧Vrefに従った昇圧コンバータからの出力電圧を受ける。」 (f)「【0081】 また、「昇圧回路」の代表例として、非絶縁型の昇圧コンバータ(昇圧チョッパ)を例示したが、与えられた目標電圧Vrefに従った出力電圧を出力可能であれば、任意の回路構成を適用することができる。」 まず、引用例1の段落【0026】の記載によれば、引用例1には、昇圧コンバータ(30)を備える車両用電源装置が記載されている。 また、引用例1の図1及び段落【0035】の記載によれば、引用例1には、パワースイッチング素子(36)と、バッテリ(10)と前記パワースイッチング素子との間に設けられた平滑リアクトル(32)と、前記平滑リアクトル(32)と電気負荷(55)との間に設けられるダイオード(34)とを備える昇圧コンバータ(30)が記載されている。 また、引用例1の図1及び段落【0035】,【0036】の記載によれば、昇圧コンバータ(30)には、パワースイッチング素子(36)をオン、オフ制御するコンバータ制御部(40)を有することが記載されている。 また、引用例1の段落【0012】,【0034】,【0040】,【0041】の記載によれば、引用例1のコンバータ制御部(40)は、アイドル運転からの復帰時のスタータユニットの動作期間に昇圧回路を動作させるものである。 したがって、引用例1には、 「パワースイッチング素子(36)と、バッテリ(10)と前記パワースイッチング素子(36)との間に設けられた平滑リアクトル(32)と、前記平滑リアクトル(32)と電気負荷(55)との間に設けられるダイオード(34)とを備える昇圧コンバータ(30)を備え、 前記昇圧コンバータ(30)には、アイドル運転からの復帰時のスタータユニットの動作期間に昇圧動作するように、パワースイッチング素子(36)をオン、オフ制御するコンバータ制御部(40)を備える車両用電源装置。」の発明(以下「引用例1発明」という。)が開示されていると認めることができる。 また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-308935号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の(g),(h)のとおりの記載がある。 (g)「上記コントロールユニット6は、上記各センサ、スイッチからの信号に基づいて主回路部4および界磁コントローラ5を制御することにより電気装置3の作動を制御する作動制御手段21を含むとともに、昇圧チョッパ4bの故障を検出する故障検出手段22と、この故障検出手段22による故障検出に応じて作動する接続変更制御手段23とを含んでいる。上記故障検出手段22は、例えば昇圧チョッパ4bの昇圧電圧等に基づき、昇圧チョッパ4bに断線や素子破損等の故障が生じたときにこれを検出するものである。また上記接続変更制御手段23は後述のバイパスライン4cおよびリレー4d(第3図に示す)とともに、上記故障が検出されたときに上記昇圧チョッパ4bをバイパスしてバッテリ9を上記インバータ4aに接続する接続変更手段を構成するものである。」(第3ページ左上欄第19行?右上欄第14行) (h)「上記昇圧チョッパ4bは、一対のトランジスタ(MOS・FET)45a、45bと、その各々と並列に接続されたダイオード46a、46bを有し、一対のMOS・FET45a、45b間がリアクトル47を介してバッテリ9に接続されており、さらに昇圧チョッパ4bには平滑コンデンサ48が接続されでいる。そして、電気装置3がモータとして使用されるときに、ゲートアンプ49に与えられる信号(C1,C2)に応じたゲート電圧によりMOS・FET45a、45bの導通状態が制御されることにより、バッテリ電圧が所定電圧VC(例えば33V)にまで昇圧されるようになっている。 上記各ゲートアンプ42?44,49は入力がLレベルのとき通電される。 さらにこの主回路部4に対し、昇圧チョッパ4bをバイパスしてインバータ4aどバッテリ9を接続するバイパスライン4cと、このバイパスライン4cを断続するりリレー4dとが設けられており、通常時はバイパスライン4cがオフとなっている。そして、第1図中に示したコントロールユニット6の接続変更制卸手段23によって与えられる制御信号(R)に応じてリレー4dが作動したときに、バイパスライン4cがオンとなる。」(第4ページ左上欄第7行?右上欄第10行) 以上の記載と引用例2の図1,3によれば、引用例2には、「MOS・FET素子とリアクトルを含む昇圧チョッパ回路と、素子破損等の故障を検出したときに前記昇圧チョッパ回路をバイパスしてバッテリと昇圧チョッパ回路出力とを接続するリレーを備える電源回路」の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているといえる。 3.対比 そこで、本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、次のことがいえる。 引用例1発明の「車両用電源装置」は、「電源回路」ともいい得るものである。 また、引用例1発明の「パワースイッチング素子(36)」、「バッテリ(10)」、「平滑リアクトル(32)」は、それぞれ、本願補正発明の「昇圧用スイッチング素子」、「バッテリ」、「コイル」に相当するものである。 また、引用例1発明の「電気負荷(55)」は、引用例1の段落【0030】の記載によれば、マイクロコンピュータや照明などであるから、「補機系負荷」といい得るものである。 また、引用例1発明の「ダイオード」と本願補正発明の「整流用スイッチング素子」とは、いずれも「整流用素子」である点で共通する。 したがって、引用例1発明の「パワースイッチング素子(36)と、バッテリ(10)と前記パワースイッチング素子との間に設けられた平滑リアクトル(32)と、前記平滑リアクトル(32)と電気負荷(55)との間に設けられるダイオード(34)とを備える昇圧コンバータ(30)」と、本願補正発明の「昇圧用スイッチング素子と、バッテリと前記昇圧用スイッチング素子との間に設けられるコイルと、前記コイルと補機系負荷との間に設けられる整流用スイッチング素子とを備える昇圧回路」とは、「昇圧用スイッチング素子と、バッテリと前記昇圧用スイッチング素子との間に設けられるコイルと、前記コイルと補機系負荷との間に設けられる整流用素子とを備える昇圧回路」である点で共通する。 また、引用例1発明の「アイドル運転からの復帰時のスタータユニットの動作期間に昇圧動作するように、パワースイッチング素子(36)のオンおよびオフ制御するコンバータ制御部(40)」と本願補正発明の「アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時、前記リレーを常時オフさせるとともに、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動を制御し、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子を交互にオン、オフする、または前記整流用スイッチング素子を常時オンするとともに前記昇圧用スイッチング素子をオン、オフする制御回路」とは、「昇圧用スイッチング素子の駆動を制御し、前記昇圧用スイッチング素子をオン、オフする制御回路」である点で共通する。 また、引用例1発明の「昇圧コンバータ(30)」が、アイドルストップ後のエンジン再始動時にバッテリ電圧を昇圧して負荷に出力するのは明らかであり、「コンバター制御部(40)」が昇圧のためのパワースイッチング素子の制御をしていることは明らかである。 以上によれば、本願補正発明と引用例1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 [一致点] 「昇圧用スイッチング素子と、バッテリと前記昇圧用スイッチング素子との間に設けられるコイルと、前記コイルと補機系負荷との間に設けられる整流用素子とを備える昇圧回路と、 昇圧用スイッチング素子の駆動を制御し、前記昇圧用スイッチング素子をオン、オフする制御回路と、 を備え、 前記制御回路は、アイドルストップ後のエンジン再始動時、前記バッテリの電圧が昇圧されて前記負荷に出力されるように、前記昇圧用スイッチング素子を制御する 電源回路。」 [相違点1] 本願補正発明は、「一方の端子が前記昇圧回路の入力段に接続され、他方の端子が前記昇圧回路の出力段に接続され、常時オフから常時オンになると、前記バッテリと前記補機系負荷とを電気的に接続させるリレー」を有し、本願補正発明の制御回路は「アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時、リレーを常時オフさせ」、また、「アイドルストップ後のエンジン再始動時、リレーの常時オフを維持させるとともに、昇圧用スイッチング素子又は整流用スイッチング素子が異常であると判断すると、リレーを常時オフから常時オンに切り替える」のに対し、引用例1発明ではそうではない点。 [相違点2] 整流用素子が、本願補正発明では「整流用スイッチング素子」であるのに対し、引用例1発明では「ダイオード」である点。 [相違点3] 制御回路が、本願補正発明においては「昇圧用スイッチング素子及び整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動を制御し、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子を交互にオン、オフする、または前記整流用スイッチング素子を常時オンするとともに前記昇圧用スイッチング素子をオン、オフする」制御を行うのに対し、引用例1発明では「昇圧用スイッチング素子のみをオン、オフする」制御を行うものである点。 [相違点4] 制御回路によるスイッチング素子のオン、オフの駆動制御が、本願補正発明においてはアイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時においてもなされるのに対し、引用例1発明では、アイドルストップ後のエンジン再始動時のみなされ、通常時においてはなされない点。 4.判断 (1)[相違点1]について スイッチング素子としてのトランジスタが、発熱などにより故障することは一般に知られており、引用例1発明のスイッチング素子についても発熱などによる故障は想定される。そしてそのような故障時にも引用例1発明の電気負荷(補機系負荷)を動作可能にするのが望ましいことは、当然のことである。したがって、引用例1発明において、スイッチング素子が故障した場合にも補機系負荷が動作するように、昇圧チョッパ回路における素子破損等の故障を検出して、昇圧チョッパ回路をバイパスするリレーを設ける引用例2発明を採用し、「一方の端子が前記昇圧回路の入力段に接続され、他方の端子が前記昇圧回路の出力段に接続され、常時オフから常時オンになると、前記バッテリと前記補機系負荷とを電気的に接続させるリレー」を設け、「通常時は、リレーを常時オフさせ、スイッチング素子が異常であると判断すると、リレーを常時オフから常時オンに切り替える」構成を採用することは当業者にとって容易である。 そして、そのようにする際には、スイッチング素子の故障時以外にリレーをオンさせるべき理由はないから、「アイドルストップ後のエンジン再始動時」かそれ以外の「通常時」かにかかわらず、リレーは常時オフに維持される構成となる。 以上のことは、引用例1発明において相違点1に係る本願補正発明の構成を採用することが、当業者にとって容易であったことを意味している。 この点に関し、請求人は、「引用例1発明は、アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時、昇圧コンバータ30を非動作にするものであり、その昇圧コンバータ30の非動作時には、整流用素子における電圧降下の影響を避けるため、(引用例1には記載がないが引用例2発明を適用することで導入される)バイパスリレーをオンにするはずである」といった趣旨の主張をしている(平成27年6月24日付けの審判請求理由についての手続き補正書第4頁)が、以下の理由で採用できない。 ア.引用例1発明が、アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時、昇圧コンバータ30を非動作にするような形態で実施することが想定されているものであることは、請求人の主張するとおりであるが、引用例1には、引用例1発明がそのようなものであるにもかかわらず、バイパスリレーについての記載がない。また、技術常識に照らしても、電圧負荷の大きさや性質によって、整流用素子による電圧の影響を無視して差し支えない場合も十分に想定される。 以上によれば、引用例1発明は、「バイパスリレーを設け、そのバイパスリレーを「アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時」に常時オンとすること」、を必須の構成とするものではないと考えるのが自然である。 イ.引用例2には、バイパスリレーを設けることの記載があり、引用例1発明に引用例2発明を適用した場合には、バイパスリレーを有する電源装置が構成されることにはなるが、その場合であっても、そのバイパスリレーを、「アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時」に常時オンとすべき理由はない。 なぜならば、引用例2発明のバイパスリレーは、スイッチング素子の故障時にも最低限の電圧の供給を可能にするために設けられるものであって、整流用素子における電圧降下の影響を避けるために設けられるものではないし、引用例1にも整流用素子における電圧降下の影響を避けるべく「アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時」にオンするバイパスリレーを設けることに対する示唆はないからである。 (2)[相違点2][相違点3]について 引用例1の段落【0081】の記載によれば、引用例1に記載された昇圧回路は、整流用素子がダイオードである昇圧チョッパ回路に限らず、その構成は任意のものである。そして、昇圧チョッパ回路において、整流用素子としてトランジスタを使用することは、そうすることにより、損失の低減が可能であることが特開2009-207272号公報(段落【0027】参照)に記載されている事実、昇圧チョッパ回路の整流用素子としてダイオードでもトランジスタでもよいことが特2009-219193号公報(段落【0034】参照)に記載されている事実等に照らし、本願出願前に周知技術であったと認められる。してみれば、引用例1発明において、整流用素子としてダイオードに代えてトランジスタ、すなわち、整流用スイッチング素子を採用することは当業者にとって容易である。 また、整流用スイッチング素子を採用した場合に、昇圧用スイッチング素子と整流用スイッチング素子のオン、オフが交互となることは、特開2009-207272号公報(段落【0027】参照)、特開2009-219193号公報(段落【0018】?【0022】参照)に記載されているとおり、自明な事項である。 (3)[相違点4]について 上述したように、引用例1発明は、アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時、昇圧コンバータ30を非動作するような形態で実施することが想定されているものではあるが、引用例1の段落【0041】等の記載から明らかなように、昇圧コンバータ30動作時に目標電圧Vrefに従った出力電圧を供給可能なものとして実施することが想定されているものであるから、電気負荷を正常に動作されるという観点からは、アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時にも昇圧コンバータ30を動作されるようにして、何ら差し支えのないものである。 一方、引用例1の段落【0030】の記載によれば、引用例1発明は、昇圧コンバータの出力に接続される電気負荷としては電源電圧の変動により悪影響をうけやすい負荷を接続するものであるから、アイドルストップ後のエンジン再始動時以外にも安定した電圧の確保が必要であることは当業者に明らかである。してみれば、引用例1発明において、アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時においても安定した電圧を確保できるようにスイッチング素子のオン、オフ制御を行う構成とすることは当業者が容易に想到し得た事項である。 (4)総合判断 以上判断したとおり、本願補正発明における上記相違点1ないし4に係る構成はいずれも当業者が容易に想到し得たものであり、また、各相違点を総合しても本願補正発明は当業者が想到することが困難なものとはいえない。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1及び引用例2に記載された事項及び技術常識から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づき、周知技術を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 平成27年5月18日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成26年7月23日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「昇圧用スイッチング素子と、バッテリと前記昇圧用スイッチング素子との間に設けられるコイルと、前記コイルと補機系負荷との間に設けられる整流用スイッチング素子とを備える昇圧回路と、 一方の端子が前記昇圧回路の入力段に接続され、他方の端子が前記昇圧回路の出力段に接続され、常時オフから常時オンになると、前記バッテリと前記補機系負荷とを電気的に接続させるリレーと、 アイドルストップ後のエンジン再始動時以外の通常時、前記リレーを常時オフさせるとともに、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動を制御する制御回路と、 を備え、 前記制御回路は、アイドルストップ後のエンジン再始動時、前記リレーの常時オフを維持させるとともに、前記バッテリの電圧が昇圧されて前記負荷に出力されるように、前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動を制御し、前記昇圧用スイッチング素子又は前記整流用スイッチング素子が異常であると判断すると、前記リレーを常時オフから常時オンに切り替える ことを特徴とする電源回路。」 1.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例は、前記「第2」の「2.」の欄に記載したとおりである。 2.対比・判断 本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子のそれぞれの駆動」の限定事項である「前記昇圧用スイッチング素子及び前記整流用スイッチング素子を交互にオン、オフする、または前記整流用スイッチング素子を常時オンするとともに前記昇圧用スイッチング素子をオン、オフする」との構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」の「4.」ないし「5.」に記載したとおり、引用例1及び引用例2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び引用例2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-26 |
結審通知日 | 2016-03-01 |
審決日 | 2016-03-14 |
出願番号 | 特願2011-212593(P2011-212593) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02M)
P 1 8・ 575- Z (H02M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 神山 貴行 |
特許庁審判長 |
小曳 満昭 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 高瀬 勤 |
発明の名称 | 電源回路 |
代理人 | 大菅 義之 |