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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1313996
審判番号 不服2015-11279  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-16 
確定日 2016-04-28 
事件の表示 特願2011-174660「通信機能内蔵コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月21日出願公開、特開2013- 37975〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月10日の出願であって、平成27年2月24日付けで拒絶理由が通知され、平成27年4月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年5月7日付け(発送日:平成27年5月12日)で拒絶査定され、これに対し、平成27年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年6月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の結論]
平成27年6月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成27年6月16日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の特許請求の範囲の請求項1の下記(1)に示す記載を、特許請求の範囲の請求項1の下記(2)に示す記載へと補正することを含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ハウジングと、相手側通信装置に接続するために設けられている接続部と、前記ハウジングに設けられ前記相手側通信装置と通信する通信部と、を備えた通信機能内蔵コネクタにおいて、
前記通信部が、前記相手側通信装置との間の通信で用いる通信アドレスを設定するための設定用端子を備えているとともに、
少なくとも一部が前記ハウジングから突出して露出するように取り付けられ、前記設定用端子に前記通信アドレスに対応した導通パターンを設定するとともに、前記通信アドレスに対応した色による識別が施されている通信アドレス設定手段を有している
ことを特徴とする通信機能内蔵コネクタ。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ハウジングと、相手側通信装置に接続するために設けられている接続部と、前記ハウジングに設けられ前記相手側通信装置と通信する通信部と、を備えた通信機能内蔵コネクタにおいて、
前記通信部が、前記相手側通信装置との間の通信で用いる通信アドレスを設定するための設定用端子を備えているとともに、
一部が前記ハウジングから突出して露出するように取り付けられ、前記設定用端子に前記通信アドレスに対応した導通パターンを設定するとともに、前記通信アドレスに対応した色による識別が施されている通信アドレス設定手段を有している
ことを特徴とする通信機能内蔵コネクタ。」

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「通信アドレス設定手段」について「少なくとも一部が前記ハウジングから突出して露出するように取り付けられ」を「一部が前記ハウジングから突出して露出するように取り付けられ」と限定する補正であり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正の請求項1に関する補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

(1)刊行物1
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-218990号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下のアないしカの事項が記載されている。

ア「【0003】
前述したワイヤハーネスのコネクタとして、各種のアクチュエータなどの電子機器とコンピュータなどの電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)とをデータ通信によるネットワークで接続するために、回路素子などを内蔵した機能内蔵コネクタ(例えば、特許文献1参照)が用いられている。この種の機能内蔵コネクタは、回路素子などを実装したリードフレームをハウジング内に内蔵している。」

イ「【0009】
また、上述した複数の機能内蔵コネクタを共通の通信線に接続して通信を行う場合、通信アドレスやID(identification data)を、上述したように設定可能な構成を設ける、予め内蔵回路に設定する、不揮発性メモリ等に予め記憶する等を行うことで、各機能内蔵コネクタ同士の信号の授受を可能としていた。しかしながら、機能内蔵コネクタは個別にID等を設定する必要があり、外観が同じものだと誤接続される可能性があったため、通信システムにおける機能内蔵コネクタの形状、外見を異ならせることで、誤組み付けの防止が図られてきた。即ち、機能内蔵コネクタの共通化を図ることが困難であるという問題が生じていた。また、機能内蔵コネクタはID等の割り振り機能を設ける必要があった場合は、コストが高くなってしまうという問題が生じていた。」

ウ「【0011】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項1記載の通信中継装置は、電子制御装置に接続された第1電線及び複数の電子機器に接続された第2電線が電気的に接続されて、前記電子制御装置と前記複数の電子機器との間の通信を中継する通信中継手段を有する通信中継装置において、前記第1電線及び前記第2電線の少なくとも一方が電気的に接続される複数の圧接端子と、前記通信中継手段を封止し且つ該通信中継手段に接続された前記複数の圧接端子を幅方向に沿って外部に突出させた状態で列設させた封止体と、前記通信中継手段と電気的に接続され且つ前記封止体から突出した複数の設定用端子と、前記通信中継手段が通信で用いる通信アドレスに対応した導通パターンを、前記複数の設定用端子に対して設定する通信アドレス設定手段と、を有し、前記複数の圧接端子と前記複数の設定用端子との各々が、前記封止体の長手方向に交互に設けられていることを特徴とする。
【0012】
上記請求項1に記載した本発明によれば、複数の圧接端子と複数の設定用端子の各々を、封止体の長手方向に交互に並べて封止体から突出させるようにしたことから、圧接端子の隣には設定用端子が位置しているため、該設定用端子の部分を圧接装置、治具等のスペースとして確保することができる。そして、通信アドレス設定手段は設定用端子に前記導通パターンを設定すると、通信中継ユニットは当該設定された導通パターンから通信アドレスを検出して、電子制御装置と複数の電子機器との間の通信を中継する。」

エ「【0021】
本発明に係る通信中継装置及び通信中継コネクタの一実施形態を、図1乃至図5の図面を参照して説明する。
【0022】
図1乃至図3において、通信中継装置20は、図5に示す電子制御装置3に接続された第1電線5及び複数の電子機器4に接続された第2電線6がそれぞれ電気的に接続されて、前記電子制御装置3と前記複数の電子機器4との間の通信を中継する通信中継手段21を有している。
【0023】
通信中継装置20はさらに、複数(図1中では3本)の圧接端子22と、複数(図1中では10本)の端子23と、扁平箱状の封止体24と、複数(図1中では3本)の設定用端子25と、通信アドレス設定手段26と、を有している。
【0024】
通信中継手段21は、例えば集積回路、複数のディスクリートで構成した部品、マイクロ・プロセッサ、DSP(digital signal processor)、ASIC(application specific IC)等の任意の構成で実現することができる。
【0025】
複数の圧接端子22の各々は、平行部22aと、立設部22bとを一体に有している。平行部22aは、導電性部材によって帯板状に形成され、かつ両表面が通信中継手段21の両表面と同一平面上に設けられている。複数の圧接端子22の平行部22aは、図2に示すように、所定の隙間Sを介在させて、互いに平行に配置されている。所定の隙間Sは、隣の設定用端子25よりも若干広く形成されており、該設定用端子25との接触を防止する間隔となっている。また、複数の圧接端子22の平行部22aは、通信中継手段21と間隔をあけて封止体24からその外部に突出した状態で配置されている。」

オ「【0029】
複数の設定用端子25の各々は、封止体24内で通信中継手段21と電気的に接続されている。複数の設定用端子25の各々は、複数の圧接端子22の突出方向と同一方向に向かって封止体24から突出している。各設定用端子は、導電性部材によって帯板状に形成され、かつ両表面が通信中継手段21の両表面と同一平面上に設けられている。なお、本実施形態では、各設定用端子を圧接端子22の平行部22aと類似形状としたが、端子23のようなリードフレームとするなど種々異なる実施形態とすることができる。
【0030】
設定用端子25の形状は、上記間隔Sに収まる板状としても良いし、リードフレーム状に形成して上記間隔Sに複数配置するなど種々異なる実施形態とすることができる。即ち、設定用端子25を複数のピン状端子とすることで、より多くの通信アドレスを設定することができ、封止体24の長手方向Wの長さを最小に抑えることができる。また、複数の圧接端子22と複数の設定用端子25との各々が、封止体24の長手方向Wに沿って交互に設けられている。本実施形態では、圧接端子22と設定用端子25の数を同一とした場合について説明するが、圧接端子22に接続する第1電線5の本数、通信アドレスの設定数等の対応させるシステム構成に応じて任意の数とすることができる。
【0031】
通信アドレス設定手段26は、図1及び図3に示すように、通信で用いる通信アドレスに対応した導通パターンを、複数の設定用端子25に対して設定する。通信アドレス設定手段26は、基部26aと、複数(図1中では3つ)の収容部26bと、を有しており、非導電性の合成樹脂等によって一体に形成されている。基部26は、複数の設定用端子25に対向するように複数の収容部26bの各々を位置付けている。収容部26bは、内部に設定用端子25を収容する収容孔26cを有している。
【0032】
複数の収容部26bは、複数の設定用端子25を選択的にショートさせることで、通信アドレスを設定する。本実施形態では、収容部26bの数を、図3に示すように導通パターンに応じて変更することにより、作業者等がその導通パターンを視認できるようにしている。複数の収容孔26c内の各々には、基部26a内に配設された接続部材(図示せず)が設けられている。即ち、複数の収容孔26c内に設定用端子25が収容されて前記接続部材と電気的に接続されることで、複数の設定用端子25を選択的にショートさせて、通信アドレスが設定される。
【0033】
複数の収容部26b内の接続部材のうちの1つは、通信アドレス設定手段26内等で接地され、その他の2つの前記接続部材は所定の電圧(例えば、5V)が印加されている。このような構成とすることで、通信アドレス設定手段26によってショートされた設定用端子25はローレベルとなり、また、ショートされない設定用端子25はハイレベルとなる。よって、通信中継手段21はその設定用端子25の導通パターンを検出し、該導通パターンに対応した通信アドレスを検出する。
【0034】
なお、本実施形態では、説明を簡単化するために、最大で3つの収容部26bを設けて、2進数の1?3を通信アドレスとして設定する場合について説明する。これに代えて、4以上の値を通信アドレスとして設定する場合は、収容部26bを4つ以上設けることで対応することができる。また、2進数の0を用いる場合、通信アドレス設定手段26は収容部26bが形成されずに、基部26aのみが形成される。そして、図3(a)?(c)に示す3種類の通信アドレス設定手段26の中から、設定すべき導通パターンに対応した通信アドレス設定手段26が選択され、該通信アドレス設定手段26に対応した設定用端子25を収容することで、封止体24に対して固定される。
【0035】
上述した通信中継装置20によれば、圧接端子22の隣に位置付けられる設定用端子25の部分を圧接装置、治具等のスペースとして確保することができるため、複数の圧接端子22同士が並ぶ長手方向Wの封止体24の小型化を図ることができる。そして、その設定用端子25に通信アドレスを設定することができるため、通信中継装置20にID等の割り振り機能を備えさせる必要がなくなり、共通化を図ることができる。従って、隣り合う圧接端子22同士の間隔Sを設け且つ任意のIDを割り振ることが可能な通信中継装置20を提供することができる。また、封止体24を小型化できるため、軽量化及びコストダウンを図ることができる。さらに、第1電線5を圧接端子25に接続するときや、接続前後などの任意にタイミングで、通信アドレス設定手段26を設けることができるため、作業効率の向上を図ることができる。また、圧接端子22の数を増やしても、封止体24における複数の圧接端子22の配置範囲を最小に抑えることができるため、圧接端子22の増加にも容易に対応することができ、通信中継装置20の多様化を図ることができる。
【0036】
また、通信中継装置20によれば、複数の設定用端子25の各々を板状に形成するようにしたことから、設定用端子25の幅を圧接装置、治具等のスペースとして十分に確保することができるため、圧接装置、治具等の必要スペースに容易に対応することができる。
【0037】
次に、図3において、通信中継コネクタ1は、ハウジング10と、該ハウジング10に収容された上記通信中継装置20と、を有している。そして、ハウジング10は、ユニットハウジング11と、カバー部12と、電線保持部13と、を有している。ハウジング10は、ユニットハウジング11とカバー部12が組み付けられることで、扁平な箱状に形成される。」

カ「【0041】
上述した構成のハウジング10は、ユニットハウジング11とカバー部12との間に通信中継装置20を位置付けて、当該通信中継装置20を収容する。ハウジング10内の通信中継装置20は、封止体24の一方側24a(図中の上側)で3本の第1電線5が圧接されている。そして、複数の圧接用端子25は、通信アドレスに対応した圧接用端子25が通信アドレス設定手段26の収容部26bに収容されることで、選択的に導通される。
【0042】
このように構成した通信中継コネクタ1の組み立ての一例を、図4の図面を参照して以下に説明する。
【0043】
まず、ハウジング10の収容室15内に通信中継装置20が収容されてハウジング10に保持される。該通信中継コネクタ1に対して通信アドレスが割り振られると、該通信アドレスに対応した通信アドレス設定手段26が図3に示す複数種類の中から選択され、封止体24に徐々に近づけられることで、通信アドレス設定手段26の収容部26bに設定用端子25が選択的に収容される。
【0044】
そして、カバー部12に設けられた第1保持部13aに複数の第1電線5を保持し、カバー部12の係合部12aをハウジング10の係合受け部17に係合させながら、カバー部12を開口16に徐々に近づける。すると、第1保持部13aの電線収容溝内に保持された第1電線5が、対応する圧接端子22の立設部22bの圧接刃間に徐々に挿入される。そして、カバー部12が、開口16を完全に塞いで、ユニットハウジング11に取り付けられると、第1電線5が圧接刃22c間に圧入されて、圧接刃22cは、第1電線5の被覆部を切り込んで、芯線と接触する。
【0045】
こうして、前述した構成の通信中継コネクタ1が組み立てられて複数の電線5に接続されると、図4に示す車両通信システム2の車内ネットワークに組み込まれる。そして、車両通信システム2は、上述した複数の通信中継コネクタ1と、電子制御装置3と、該電子制御装置3の通信対象となる複数の電子機器4と、を有している。
【0046】
通信中継コネクタ1は、通信中継装置20の複数の端子23に相手方コネクタが嵌合することで、該相手方コネクタに第2電線6を介して接続された複数の電子機器4と複数の端子23の各々が電気的に接続される。その結果、各通信中継コネクタ1は、第1電線5を介して電子制御装置3と通信可能に接続されるとともに、電子制御装置3によって動作等が制御される複数の電子機器4と第2電線6を介して通信可能に接続される。そして、複数の通信中継コネクタ1の各々は、通信中継装置20に電力が供給されると、複数の設定用端子25の導通パターンから通信アドレスを設定し、該通信アドレスを用いて電子制御装置3と複数の電子機器4との間の通信を中継する。
【0047】
以上説明した通信中継コネクタ1によれば、小型化及び軽量化した通信中継装置20をハウジング10の収容室15内に収容するようにしたことから、ハウジング10の小型化及び軽量化を図ることができるため、通信中継コネクタ1の部品コストの削減を図ることができる。
【0048】
なお、上述した実施形態では、通信中継装置20の設定用端子25が、圧接端子22の平行部22aと同一の長さで形成した場合について説明した。これに代えて、設定用端子25を平行部22aよりも長くする又は短くするなど種々異なる実施形態とすることができる。」

キ 記載事項エの「通信中継装置20は、図5に示す電子制御装置3に接続された第1電線5及び複数の電子機器4に接続された第2電線6がそれぞれ電気的に接続されて、前記電子制御装置3と前記複数の電子機器4との間の通信を中継する通信中継手段21を有している。」(段落【0022】)との記載、記載事項カの「複数の通信中継コネクタ1の各々は、通信中継装置20に電力が供給されると、複数の設定用端子25の導通パターンから通信アドレスを設定し、該通信アドレスを用いて電子制御装置3と複数の電子機器4との間の通信を中継する。」(段落【0046】)との記載及び【図5】の図示内容から、通信中継手段21は、電子制御装置3との通信で通信アドレスを用いると認められる。

ク 記載事項オの「さらに、第1電線5を圧接端子25に接続するときや、接続前後などの任意にタイミングで、通信アドレス設定手段26を設けることができるため、作業効率の向上を図ることができる。」(【0035】)との記載(審決注:「任意に」は誤記であり、正しくは「任意の」であると認められる。)及び【図4】の図示内容から、ハウジング10には、通信アドレス設定手段26を任意のタイミングで設けるための経路が確保されていると認められる。

ケ 記載事項カの「上述した実施形態では、通信中継装置20の設定用端子25が、圧接端子22の平行部22aと同一の長さで形成した場合について説明した。」(【0048】)との記載、認定事項ク及び【図4】の図示内容から、基部26aのうち収容部26bのある面と反対の面を少なくとも含むアドレス設定手段26の一部は、通信アドレス設定手段26を任意のタイミングで設けるための経路を介してハウジング10から露出すると認められる。

コ 記載事項カの「上述した実施形態では、通信中継装置20の設定用端子25が、圧接端子22の平行部22aと同一の長さで形成した場合について説明した。」(【0048】)との記載、認定事項ク及び【図4】の図示内容から、収容部26bの先端を含むアドレス設定手段26の一部は、通信アドレス設定手段26を任意のタイミングで設けるための経路と基部26aの影に隠れるから、ハウジング10から露出しないと認められる。

サ 記載事項オの「通信アドレス設定手段26は、図1及び図3に示すように、通信で用いる通信アドレスに対応した導通パターンを、複数の設定用端子25に対して設定する。」(【0031】)及び「本実施形態では、収容部26bの数を、図3に示すように導通パターンに応じて変更することにより、作業者等がその導通パターンを視認できるようにしている。」(【0032】)との記載に照らせば、【図3】からは、通信アドレスに対応した、収容部26bの位置及び数による識別が施されている通信アドレス設定手段26が見て取れる。

(2)引用発明
上記(1)の記載事項アないしカ、認定事項キないしコ及び図示内容サを総合して、本件補正発明に則って整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ハウジング10と、電子制御装置3に接続するために設けられている圧接端子22と、ハウジング10に設けられ電子制御装置3と通信する通信中継手段21と、を備えた通信中継コネクタ1において、
通信中継手段21が、電子制御装置3との間の通信で用いる通信アドレスを設定するための設定用端子25を備えているとともに、
一部がハウジング10から露出するように取り付けられ、設定用端子25に通信アドレスに対応した導通パターンを設定するとともに、通信アドレスに対応した、収容部26bの位置及び数による識別が施されている通信アドレス設定手段26を有している
通信中継コネクタ1。」

(3)刊行物2
本願の拒絶査定に周知技術記載刊行物として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-213949号公報(以下、「刊行物2」という。) には、以下の事項が記載されている。

「【0016】
また、上記視覚的標識が電気コネクタ及びイコライザ回路を収容するカバーハウジングの色彩であるとさらに顕著な効果が得られる。このように上記視覚的標識がカバーハウジングの色彩が異なるものであると、このケーブル組立体をPDPおよびチューナに接続するときに必ずユーザがカバーハウジングを視認することを考えれば、カバーハウジングの色彩が異なることでPDP側に接続されるべきあるか、チューナに接続されるべきであるかが接続時に確認され、誤った相互接続が防止される率が非常に高くなる。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ハウジング10」は、その技術的意義及び機能からみて本件補正発明の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「電子制御装置3」は「相手側通信装置」に、「圧接端子22」は「接続部」に、「通信中継手段21」は「通信部」に、「通信中継コネクタ1」は「通信機能内蔵コネクタ」に、「設定用端子25」は「設定用端子」に、「通信アドレス設定手段26」は「通信アドレス設定手段」に、それぞれ相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「ハウジングと、相手側通信装置に接続するために設けられている接続部と、ハウジングに設けられ相手側通信装置と通信する通信部と、を備えた通信機能内蔵コネクタにおいて、
通信部が、相手側通信装置との間の通信で用いる通信アドレスを設定するための設定用端子を備えているとともに、
一部がハウジングから露出するように取り付けられ、設定用端子に通信アドレスに対応した導通パターンを設定するとともに、通信アドレスに対応した識別が施されている通信アドレス設定手段を有している
通信機能内蔵コネクタ。」
で一致し、次の相違点1及び相違点2で相違する。

[相違点1]
本件補正発明の通信アドレス設定手段は、一部がハウジングから突出して露出するのに対し、引用発明の通信アドレス設定手段26は、一部がハウジング10から露出するものの、一部がハウジングから突出して露出するか否かは判然としない点。

[相違点2]
本件補正発明の識別は、色による識別であるのに対し、引用発明の識別は、収容部26bの位置及び数による識別である点。

(5)当審の判断
以下、相違点1及び相違点2について検討する。

前記(1)の記載事項イの「外観が同じものだと誤接続される可能性があったため、通信システムにおける機能内蔵コネクタの形状、外見を異ならせることで、誤組み付けの防止が図られてきた。」(【0009】)との記載及び記載事項オの「本実施形態では、収容部26bの数を、図3に示すように導通パターンに応じて変更することにより、作業者等がその導通パターンを視認できるようにしている。」(【0032】)との記載から、引用発明の通信アドレス設定手段26には、視認によって誤組み付けの防止を図るという課題が内在していると認められる。

そして、正しい通信アドレス設定手段26であるか否かを視認する場合、組み付けの作業中や確認中に、視線が遮られる割合が少ないほど、視認しやすく、誤組み付けの防止が図りやすくなることは、当業者であれば通常理解し得ることであるところ、ハウジング10は、視線を遮ぎるおそれのある部品である。

そして、組み付け作業が終わった後も、組み付けの確認は必要であり、その際アドレス設定手段26の一部をハウジング10から突出させて露出させる構成とすることで、通信アドレス設定手段26に向けた視線が、ハウジング10によって遮られる割合を減らすことは、当業者が必要に応じて容易になし得たことである。

また、作業者等が、収容部26bの位置や数が見えない方向から視線を向けても、正しい通信アドレス設定手段26を選別して手に取るれるよう、収容部26b以外の外見による識別を通信アドレス設定手段26に設けることは、誤組み付けの防止を図るという課題に照らせば、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、外見による識別は、文字や記号による識別、形状による識別、色による識別等を、単独で、あるいは種々組み合わせて使用することが広く一般に知られているところ、特に色による識別は、前記刊行物2にも見られるように、コネクタの技術分野では従来から周知の技術手段である。
そうであれば、引用発明の識別として、通信アドレス設定手段26の収容部26bの位置及び数による識別に加えて、通信アドレス設定手段26の色による識別を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

さらにまた、本件補正発明が奏する効果は、引用発明及び周知の技術手段から予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 平成27年6月16日付けの手続補正は上記のように却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成27年4月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記理由2[理由]1(1)に記載したとおりである。

2 刊行物
原査定の拒絶理由に引用された刊行物1(特開2010-218990号公報)の記載事項及び引用発明は、前記第2[理由]3(1)アないしカ及び(2)に記載したとおりである。また、拒絶査定に周知技術記載刊行物として引用された刊行物2(特開2004-213949号公報)の記載事項は、前記第2[理由]3(3)に記載したとおりである。

3 対比、判断
本件補正発明は、前記第2[理由]2で検討したように、本願発明の発明特定事項を限定したものに該当する。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2[理由]3(5)に記載したとおり、引用発明及び周知の技術手段に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-23 
結審通知日 2016-03-01 
審決日 2016-03-14 
出願番号 特願2011-174660(P2011-174660)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 仁  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 大内 俊彦
内田 博之
発明の名称 通信機能内蔵コネクタ  
代理人 瀧野 文雄  
代理人 津田 俊明  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 川崎 隆夫  
代理人 鳥野 正司  

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