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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1314097
審判番号 不服2013-19472  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-07 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2009-509554「生物学的ベースの1,3-プロパンジオールのモノエステルおよびジエステルを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月16日国際公開、WO2008/123845、平成21年 9月10日国内公表、特表2009-532506〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
本願は2007年2月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年2月10日(3件) 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、その後の経緯の概要は次のとおりである。

平成24年 7月24日付け 拒絶理由通知
平成25年 1月23日 意見書・手続補正書の提出
同年 6月 5日付け 拒絶査定
同年10月 7日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提 出
平成26年 7月 9日付け 当審における審尋
平成27年 1月14日 回答書
同年 2月27日付け 当審における拒絶理由通知
同年 9月 3日 意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?25に係る発明は、平成27年9月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「1,3-プロパンジオールのエステルを含むパーソナルケア組成物または洗濯用洗浄剤組成物であって、該1,3-プロパンジオールは生物学的に誘導されたものであり、以下の特徴:1)220nmにおいて0.200未満、および250nmにおいて0.075未満、および275nmにおいて0.075未満の紫外吸収;2)0.15未満のL*a*b*「b*」色値、および270nmにおいて0.075未満の吸収を有する;3)10ppm未満のペルオキシド濃度;ならびに4)400ppm未満の全有機不純物の濃度を有し、該エステルが少なくとも3%の生物ベース炭素を有し、生物ベース炭素は放射性炭素(14C)の量の比率が0より大きい、組成物。」

第3 当審における拒絶理由の概要
当審において、平成27年2月27日付けで通知された拒絶理由のうち理由1は「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、記の欄には
「請求項1?26について
刊行物A:特開昭57-67511号公報
刊行物B:特開昭60-219298号公報
刊行物C:国際公開第2004/101479号(特表2007-502325号公報)(原審で引用された引用文献4のパテントファミリー)
刊行物D:中国特許出願公開第1687433号明細書」
との記載がある。

第4 引用例・引用発明
1 引用例の記載事項
上記刊行物A及び刊行物Cには、以下の事項が記載されている。
・刊行物A
A1)「1一般式
RCOO(CH_(2))_(n)OOCR′
(式中のR及びR′は炭素数13?23の直鎖アルキル基、nは3?10の整数である)
で表わされる直鎖状アルカンジオールジエステルの少なくとも1種から成る化粧料用真珠光沢付与剤。」(特許請求の範囲)

A2)「すなわち、本発明は、一般式
RCOO(CH_(2))_(n)OOCR′ ---(I)
(式中のR及びR′は炭素数13?23の直鎖アルキル基、nは3?10の整数である)
で表わされる直鎖状アルカンジオールジエステルを主成分とする化粧料用真珠光沢付与剤を提供するものである。
本発明における一般式(I)で表わされる直鎖状アルカンジオールジエステルは、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、・・・の直鎖状α,ω-アルカンジオールに、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、・・・の直鎖アルキルカルボン酸を公知の方法例えば前記アルカンジオール1モルに対しアルキルカルボン酸1.5?3モルを無触媒あるいはパラトルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、そのままあるいは芳香族炭化水素溶媒中、常圧あるいは減圧下、50℃?200℃の温度下で反応させ、エステル化することにより得られる。」(2頁左上欄13行?右上欄下から3行)

A3)「本発明の付与剤は、例えば前記化合物をシャンプー、リンス、ローション、クリームなどの液状ないしペースト状の化粧料に0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%添加し、加熱して溶解させたのちかきまぜながら徐冷して真珠様光沢をもつ微細りん片結晶を析出させる方法で使用してもよいし、他方、前記化合物を高温で溶解する例えば界面活性剤含有溶液などの分散媒に高濃度になるように添加して加熱溶解させたのち徐冷して真珠様光沢りん片状結晶分散液としてあらかじめ調製したものを化粧料に配合する方法で使用してもよい。」(3頁左上欄2?13行)

A4)「参考例1
本発明の真珠光沢付与剤に用いる直鎖状アルカンジオールジエステル合計12種類の融点を第1表に示す。

」(3頁右上欄7行?下から2行)

A5)「実施例1?9、比較例1?3
ポリオキシエチレン(p=3)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム16重量部、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド8重量部及び水76重量部からなる界面活性剤水溶液に真珠光沢付与剤3.5重量部を加えて85℃にまで加熱し均一溶液としたのち、かきまぜながら30℃まで徐冷して真珠光沢のある界面活性組成物を調製し、これを黒色紙上に展開してその真珠光沢を視覚判定した。
一方、得られた界面活性剤組成物を45℃の恒温槽内に10日間又は20日間保存したものについても、上記と同様にして真珠光沢を視覚判定することにより高温保存安定性を評価した。結果を第2表に示す。
視覚判定の方法は市販品のゲナポールTSの常温での光沢に対して、一対比較により行った。
評価基準:◎ゲナポールTS(常温)より優れる。
○ 〃 と同等。
△ 〃 より劣る。
× 〃 より著しく劣る。
無真珠光沢を示さない。

*1:ゲナポールTSはトリエチレングリコールのステアリン酸とパルミチン酸の混合酸ジエステル
・・・

実施例10
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド45重量部、実施例6で用いた真珠光沢付与剤20重量部及び水35重量部の混合物を80℃以上に加熱して均一溶液としたのちかきまぜながら30℃まで徐冷し真珠光沢付与剤の高濃度分散液を調製し、実施例1と同様にして真珠光沢性を調べたところ、非常に優れたものであった。
使用例1?3
ヘアーリンス;実施例10で調製した真珠光沢付与分散剤10重量%、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム2重量%、ポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤1重量%及び精製水(残り)から真珠光沢性ヘヤーリンスを調製した。このものの真珠光沢は優れたものであった。
スキンローション;・・・優れたものであった。」(審決注:「ポリオキシエチレン(p=3)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム」におけるpについて、原文では上に線がある。)(3頁左下欄4行?4頁左下欄17行)

・刊行物C(刊行物Cは英文であるため、刊行物Cの翻訳文に相当する特表2007-502325号公報の記載を参考にした当審による和訳を記載する。)
C1)「かかる生物学的方法によって得ることができる十分な純度のモノマーが有用な高品質ポリマーを製造できるように、高度に精製された生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを発酵培地から効率良く、かつ、経済的に得る方法を求める要求が当該技術に存在する。布、および他の用途向けに使用されるポリマーへの重合を含むジオールのある種の最終使用のために、生物源または化学源をはじめとする任意の源から誘導された1,3-プロパンジオールの高度に精製された組成物を得るさらなる必要性が当該技術に存在する。
発明の要約
本発明は、1,3-プロパンジオールを生産することができる有機体の発酵培地からの生物学的に生産された1,3-プロパンジオールの精製方法であって、a)発酵培地を濾過にかける工程と、b)工程aの生成物を、アニオンおよびカチオン分子が除去されるイオン交換精製にかける工程と、c)工程bの生成物を少なくとも2つの蒸留塔を含む蒸留手順にかける工程であって、前記蒸留塔の1つが1,3-プロパンジオールの沸点を超える沸点を有する分子を除去し、前記蒸留塔の他が1,3-プロパンジオールの沸点より下の沸点を有する分子を除去する工程とを含む方法に関する。」(3頁27行?4頁7行)

C2)「「実質的に精製された、」は、本発明の方法によって製造される、生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを記載するために出願人らによって用いられるところでは、次の特性の少なくとも1つを有する1,3-プロパンジオールを含む組成物を意味する:1)220nmで約0.200未満の、および250nmで約0.075未満の、および275nmで約0.075未満の紫外吸収、または2)約0.15未満のL*a*b*「b*」色値および270nmで約0.075未満の吸光度を有する組成物、または3)約10ppm未満の過酸化物組成、または4)約400ppm未満の全有機不純物の濃度。」(5頁24?33行)

C3)「1,3-プロパンジオールの純度キャラクタリゼーション
出願人らの方法から出てくる精製製品は、高度に精製された1,3-プロパンジオールであろう。純度のレベルは多数の異なる方法で特徴づけることができる。例えば、汚染有機不純物の残留レベルの測定は有用な一手段である。出願人らの方法は、約400ppm未満、好ましくは約300ppm未満、最も好ましくは約150ppm未満の全有機異物純度レベルを達成することができる。用語ppm全有機純度は、ガスクロマトグラフィによって測定されるように百万当たりの部レベルの炭素含有化合物(1,3-プロパンジオール以外の)を意味する。
精製製品はまた、様々な波長での紫外光吸光度のような、多数の他のパラメーターを用いて特徴づけることもできる。波長220nm、240nmおよび270nmが組成物の純度レベルを測定する際に有用であることが分かった。出願人らの方法は、220nmでのUV吸収が約0.200未満であり、240nmで約0.075未満であり、270nmで約0.075未満である、純度レベルを達成することができる。
精製1,3-プロパンジオールでの約0.15未満のb*色値(CIE L*a*b*)もまた出願人らの方法によって成し遂げられる。
そして最後に、1,3-プロパンジオール組成物の純度は過酸化物のレベルを測定することによって有意義に評価できることが分かった。出願人らの方法は、約10ppm未満の過酸化物の濃度を有する精製1,3-プロパンジオールの組成物を達成する。」(22頁1?23行)

C4)「実施例#9
純度キャラクタリゼーション
下のチャートで、本発明の方法によって精製した生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを、幾つかの純度態様で、化学的に生産された1,3-プロパンジオールの2つの別個の商業的に得られる調製物と比較する。
表17

純度態様の典型的なプロフィールを、本発明の方法によって精製した生物学的に生産された1,3-プロパンジオールのサンプルについて下に提供する。
表18

全有機不純物の単位ppmは、水素炎イオン化検出器のガスクロマトグラフで測定されるように、1,3-プロパンジオール以外の、最終調製物中の全有機化合物の百万部当たりの部を意味する。結果をピーク面積によって報告する。水素炎イオン化検出器は水に対して感受性がないので、全不純物は全面積%の合計(1,3-プロパンジオールを含む)に対する比率で表したすべての非1,3-プロパンジオール有機ピーク(面積%)の合計である。用語「有機物質」または「有機不純物」は、炭素を含有する異物を意味する。」(40頁10行?41頁15行)

2 引用発明
刊行物Aには、「一般式RCOO(CH_(2))_(n)OOCR′(I)(式中のR及びR′は炭素数13?23の直鎖アルキル基、nは3?10の整数である)で表わされる直鎖状アルカンジオールジエステルの少なくとも1種から成る化粧料用真珠光沢付与剤」が記載されているところ(摘示A1、A2)、該一般式(I)のエステルは、1,3-プロパンジオール等の直鎖状α,ω-アルカンジオールに、ミリスチン酸等の直鎖アルキルカルボン酸を公知の方法により反応させてエステル化することにより得られるものであり(摘示A2)、エステルの具体例として、アルコール成分が1,3-プロパンジオールであるものが記載されている(摘示A4、第1表、摘示A5、実施例1、2)。また、上記真珠光沢付与剤は、化粧料用のものであり(摘示A1、A2)、シャンプー等の化粧料に配合するものであり(摘示A3)、ヘアーリンス等の化粧料に配合した具体例の記載もある(摘示A5)。
してみると、刊行物Aには、「一般式RCOO(CH_(2))_(n)OOCR′(I)(式中のR及びR′は炭素数13?23の直鎖アルキル基、nは3?10の整数である)で表わされる直鎖状アルカンジオールジエステルであって、該直鎖状アルカンジオールが1,3-プロパンジオールである該ジエステルを含む化粧料」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

第5 判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の一般式RCOO(CH_(2))_(n)OOCR′(I)(式中のR及びR′は炭素数13?23の直鎖アルキル基、nは3?10の整数である)で表わされる直鎖状アルカンジオールジエステルであって、該直鎖状アルカンジオールが1,3-プロパンジオールである該ジエステルは本願発明の1,3-プロパンジオールのエステルに相当する。また、引用発明の化粧料は本願発明のパーソナルケア組成物に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「1,3-プロパンジオールのエステルを含むパーソナルケア組成物」である点で一致し、
相違点1:本願発明が、「該1,3-プロパンジオールは生物学的に誘導されたものであり、以下の特徴:1)220nmにおいて0.200未満、および250nmにおいて0.075未満、および275nmにおいて0.075未満の紫外吸収;2)0.15未満のL*a*b*「b*」色値、および270nmにおいて0.075未満の吸収を有する;3)10ppm未満のペルオキシド濃度;ならびに4)400ppm未満の全有機不純物の濃度を有」するとしているのに対し、引用発明ではかかる特定がされていない点、
相違点2:本願発明が、「該エステルが少なくとも3%の生物ベース炭素を有し、生物ベース炭素は放射性炭素(14C)の量の比率が0より大きい」と特定しているのに対し、引用発明はかかる特定がされていない点
で相違する。

上記相違点1、2について検討する。
<相違点1について>
刊行物Cには、高度に精製された生物学的に生産された1,3-プロパンジオール及びその精製方法が記載されており(摘示C1、C3)、精製された1,3-プロパンジオールを含む組成物が、その特性として、1)220nmで約0.200未満の、および250nmで約0.075未満の、および275nmで約0.075未満の紫外吸収、または2)約0.15未満のL*a*b*「b*」色値および270nmで約0.075未満の吸光度を有する組成物、または3)約10ppm未満の過酸化物組成、または4)約400ppm未満の全有機不純物の濃度の少なくとも1つの特性を有することが記載されている(摘示C2)。そして、精製した1,3-プロパンジオールの具体例として、表17(バイオ-PDO)、表18に、220nm、250nm、275nmでのUV吸光度(単位AU)がそれぞれ、0.12、0.017、0.036及び0.144、0.017、0.036であり、L*a*b*(単位b*)がそれぞれ、0.1、0.10であり、過酸化物(単位ppm)がいずれも2であるものが記載されている(摘示C4)。また、表17には、全有機不純物が80ppmであることが、表18には、270nm、1:5希釈でのUV吸光度(単位AU)が0.01であることが記載されている。そして、それら刊行物Cに記載された各波長での紫外吸収、吸光度又はUV吸光度、L*a*b*「b*」色値、過酸化物濃度(ペルオキシド濃度)、全有機不純物の濃度はいずれも本願発明において特定される範囲と同じか、本願発明において特定される範囲内のものである。なお、本願明細書の実施例4において、生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールの純度の特性決定として表1、表2に各波長でのUV吸収、L*a*b*「b*」色値、ペルオキシド濃度、総有機不純物の濃度等が記載されているところ、その内容は、それぞれ、刊行物Cに記載された上記摘示C4にある表17、表18と同様の内容であり、この点からも、刊行物Cに記載された各波長での紫外吸収、吸光度又はUV吸光度、L*a*b*「b*」色値、過酸化物濃度(ペルオキシド濃度)、全有機不純物の濃度はいずれも本願発明において特定される範囲内のものであるであるといえる。
刊行物Cには、同刊行物に記載の高度に精製された生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを化粧料に用いるジエステルの製造に用いることについての記載はない。しかし、一般に化粧料に配合する成分の原料として、人体に危険を生じるおそれがある不純物を含まないものを用いることは明らかであること、引用発明のジエステルを製造する際には、何らかの方法により製造した1,3-プロパンジオールを用いる必要があることから、引用発明のジエステルを製造する際に、その原料として高度に精製された刊行物Cに記載の公知の1,3-プロパンジオールを用いることは当業者が容易に行うことである。
そして、刊行物Cについて上で述べたことから、刊行物Cに記載の1,3-プロパンジオールを用いた場合には、当該1,3-プロパンジオールは生物学的に誘導されたものであり、以下の特徴:1)220nmにおいて0.200未満、および250nmにおいて0.075未満、および275nmにおいて0.075未満の紫外吸収;2)0.15未満のL*a*b*「b*」色値、および270nmにおいて0.075未満の吸収を有する;3)10ppm未満のペルオキシド濃度;ならびに4)400ppm未満の全有機不純物の濃度を有するものとなる。
したがって、相違点1に係る技術的事項を採用することは当業者が容易になし得たものである。

<相違点2について>
本願明細書に、「「生物-PDOエステル」、「生物ベースのPDOエステル」、「生物学的に誘導されたPDOエステル」、および「生物学的ベースの1,3-プロパンジオールエステル」、および同様の用語は、本明細書で使用される場合、生物学的に産生された1,3-プロパンジオールから産生されるモノエステルおよびジエステルをいう。」(段落0016)、「生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールは、生物ベース炭素を含む。1,3-プロパンジオール中の3つすべての炭素原子は生物ベース炭素である。」(段落0044)、「例えば、ジステアリン酸プロパンジオールは39個の炭素原子を含むが、18個がステアリン酸の炭素鎖の各々からであり、3個が1,3-プロパンジオールからである。従って、ステアリン酸が生物ベースでない場合、ジステアリン酸プロパンジオールの全体で39個からの36個の炭素は生物ベースでない炭素である。・・・上記の例におけるステアリン酸が生物ベースである場合、得られるジステアリン酸プロパンジオールは、100%の生物ベース含量を有する。」(段落0045?0047)と記載されていることからみて、生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールは3つの炭素の全てが生物ベース炭素であるといえる。
そして、刊行物Aに具体的に記載された(摘示A4)1,3-プロパンジオールとラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸又はステアリン酸とのジエステルを製造する際に、1,3-プロパンジオールとして刊行物Cに記載の生物学的に誘導されたものを用いた場合には、製造されたジエステルの生物ベース炭素は、それぞれ、少なくとも約11.1%、9.7%、8.6%、7.7%と計算され(なお、これらの数値はいずれも酸が生物ベースでない場合のものである。)、該ジエステルは少なくとも3%の生物ベース炭素を有するものである。
また、本願明細書に、「「大気起源の炭素」とは、本明細書で使用される場合、最近、過去数十年間に地球の大気中で遊離した二酸化炭素分子からの炭素原子をいう。このような炭素の質量は、本明細書に記載される特定の放射性同位元素の存在によって同定可能である。「緑の炭素」、・・・および「生物ベース炭素」は、本明細書で同義語として使用される。」(段落0024)、「大気中の少量の二酸化炭素は放射活性である。この14C二酸化炭素は、窒素が、中性子を生じる紫外線によって攻撃されるときに作られ、窒素がプロトンを失い、分子量14の炭素を形成することをもたらし、すぐに二酸化炭素に酸化される。この放射活性アイソトープは、大気の炭素の小さいが測定可能な画分を表す。大気の二酸化炭素は緑色植物によって循環して、光合成として知られる方法の間に有機分子を作る。該サイクルは、緑色植物または他の形の生命が有機分子を代謝するときに完了し、二酸化炭素を産生し、これは、大気に再び放出される。地球上の実質的にすべての形の生命は、この緑色植物による有機分子の産生に依存して、成長および再生を促進する化学エネルギーを産生する。それゆえに、大気中に存在する14Cは、すべての生命の形、およびそれらの生物学的生成物の一部分となる。CO_(2)に生物分解するこれらの再生可能な有機分子は、全世界的な温暖化には寄与していない。なぜなら、大気に放出される二酸化炭素の正味の増加が存在していないからである。対照的に、化石燃料ベース炭素は、大気の二酸化炭素の特徴的な放射性炭素の比率を有さない。
物質中の再生可能な炭素の評価は、標準的な試験方法を通して実施することができる。放射性炭素およびアイソトープ比質量分析を使用して、物質の生物ベースの含量を決定することができる。以前には米国材料試験協会(the American Society for Testing and Materials)として知られたASTM Internationalは、材料の生物ベースの内容物を評価するための標準的方法を確立した。ASTMの方法は、ASTM-D6866と称する。
「生物ベースの内容物」を誘導するためのASTM-D6866の適用は、放射性炭素年代測定法と同じ概念で構築されているが、年齢方程式の使用を伴わない。該分析は、最新参照標準の量に対する、未知サンプル中の放射性炭素(14C)の量の比率を誘導することによって実施される。比率は、「pMC」(現代炭素レベル)という単位を用いてパーセンテージとして報告される。分析される材料が今日の放射性炭素および化石炭素(放射性炭素を含まない)の混合物であるならば、得られるpMC値は、サンプルに存在するバイオマス材料の量に直接相関する。」(段落0036?0038)との記載があり、これらの記載から、生物学的生成物である生物ベースの炭素は放射性炭素(14C)を含むものであるといえるところ、前記したとおり、生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールは3つの炭素の全てが生物ベース炭素であり、該1,3-プロパンジオールを用いて製造されたエステルは生物ベース炭素を有するから、該エステルに存在する生物ベース炭素は放射性炭素(14C)を含むものである。したがって、該エステルが有する生物ベース炭素は放射性炭素(14C)の量の比率が0より大きいといえる。
よって、刊行物Aに記載のジエステルを製造する際に刊行物Cに記載の1,3-プロパンジオールを用いた場合には、該エステルが有する生物ベース炭素は放射性炭素(14C)の量の比率が0より大きいものとなる。
以上に述べたことから、相違点2に係る技術的事項は、刊行物Aに記載のジエステルを製造する際に刊行物Cに記載の1,3-プロパンジオールを用いることにより自ずと採用されることとなる事項であるといえるところ、相違点1についてで述べたとおり、刊行物Aに記載のジエステルを製造する際に刊行物Cに記載の1,3-プロパンジオールを用いることは当業者が容易になし得たものであるから、相違点2に係る技術的事項を採用することも当業者が容易になし得たものである。

<本願発明の効果について>
本願明細書に「さらに、本明細書に記載される組成物中で利用される生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールの純度が、化学合成されたpdoおよび他のグリコールよりも高くなるにつれて、刺激をもたらし得る不純物を導入する危険性は、その使用によって、プロピレングリコールなどの一般的に使用されるグリコールを超えて、減少される。」(段落0057)との記載があるが、かかる記載からは、本願発明によって、刺激をもたらし得る不純物を導入する危険性が減少することが理解できる程度であり、どのような刺激をもたらす、どのような不純物が導入する危険性がどの程度減少するかは具体的に理解することはできず、一般に化粧料において、不純物が人体に対する危険を生じ得ることは技術常識であることから、かかる記載を以て本願発明が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するということはできない。
審判請求人は、平成25年10月7日付け審判請求書において参考資料1?3を提示し、平成27年1月14日付け回答書において参考資料1?6を提示し、平成27年9月3日付け意見書において参考資料Aを提示し、いずれも皮膚刺激性についての試験結果等を示し、本願発明は優れた効果を奏する旨主張する。しかしながら、上記審判請求書、回答書、意見書で示された参考資料に記載の試験はいずれも1,3-プロパンジオールについての試験であるところ、本願発明は、1,3-プロパンジオールのエステルを含有するパーソナルケア組成物又は洗濯用洗浄剤組成物であり、1,3-プロパンジオールからそれら組成物を製造するにあたっては、1,3-プロパンジオール以外の各種材料を用いるものであって、皮膚刺激性については、それら各種材料に起因するものが当然に考えられ、本願発明においては、それら各種材料についての特定は何らなされていないから、1,3-プロパンジオールの皮膚刺激性の試験結果のみを以て本願発明が予測し得ない顕著な効果を奏すると結論付けることはできない。また、1,3-プロパンジオール自体が皮膚刺激性が低いものであることから、それを用いて製造したパーソナルケア等の組成物の皮膚刺激性を相対的に低くすることができると解するとしても、刊行物Cに記載の1,3-プロパンジオールは本願発明と同様に高度に精製されたものであり(摘示C1?C2)、一般に不純物が皮膚刺激性の原因となり得ることは技術常識であるから、精製によって不純物が低減することで皮膚刺激性が低減することも当業者が予測し得る事項である。なお、上記意見書の参考資料Aに記載のサンプル3?5は1,3-プロパンジオールの純度が比較的高いのに皮膚刺激性を有することが示されているが、それでもサンプル3?5の1,3-プロパンジオールの純度は本願発明に係るサンプル1、2よりも低いものであり、また、サンプル3?5は病原性の生物触媒を用いて製造したものであって、そのことが皮膚刺激性に影響したことも否定できないから、それらの比較によっても本願発明が予測し得ない顕著な効果を奏するということはできない。
また、化石燃料の減少を取り除く、大気への二酸化炭素の正味の付加を行わず、温室ガスの排出に寄与しない、環境に対してより少ない影響を有する(本願明細書段落0056)との効果は、生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールを用いることで得られる、当業者が予測し得る範囲内の効果である。

以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物A及びCに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の理由を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-30 
結審通知日 2015-12-01 
審決日 2015-12-18 
出願番号 特願2009-509554(P2009-509554)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一三輪 繁  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小川 慶子
冨永 保
発明の名称 生物学的ベースの1,3-プロパンジオールのモノエステルおよびジエステルを含む組成物  
代理人 田中 夏夫  
代理人 平木 祐輔  
代理人 新井 栄一  
代理人 藤田 節  

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