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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F23L
管理番号 1314180
審判番号 不服2015-10034  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-29 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2011-222503「流動焼却炉システムにおける多管式熱交換器の運転方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 83384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月7日の出願であって、平成26年6月6日付けで拒絶理由が通知され、平成26年8月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月23日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年5月29日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年8月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
汚泥を焼却する焼却炉から排出される高温の排ガスにより、該焼却炉に供給される予熱空気を予熱して排熱回収する多管式熱交換器を備えた汚泥を焼却する流動焼却炉システムにおいて、該多管式熱交換器から排出されて上記焼却炉に燃焼空気として供給される予熱空気に、上記多管式熱交換器に導入される予熱空気の一部をバイパスさせると共に、その流量(ゼロを含む)制御を行いながら合流せしめることを特徴とする汚泥を焼却する流動焼却炉システムにおける多管式熱交換器の運転方法。」

第3 引用文献
第3-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の理由に引用された刊行物である特開2008-32345号公報(以下、「引用文献1」という。)には図面とともに次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

ア 「【要約】
【課題】本発明は燃焼溶融炉の燃焼室の熱負荷変動による不安定要因を緩和して燃焼溶融炉の長期安定運転の実現と、燃焼室壁面の耐火材の溶損速度の抑制とを両立する燃焼溶融炉を提供する。
【解決手段】本発明の燃焼溶融炉は、燃焼溶融炉の燃焼室で燃料粒子を燃焼して発生した燃焼ガスを燃焼室から排出する排ガス煙道に燃焼ガスから熱量を回収する熱交換器を設置し、燃焼用空気を燃焼室に供給する第一の空気配管にこの第一の空気配管から分岐した分岐空気配管を設けてこの分岐空気配管の一部を伝熱管として熱交換器に配設し、熱交換器で熱交換されて加熱された燃焼用空気を流下させる分岐空気配管が第一の空気配管に連通するように配設して第一の分岐空気配管を流下する加熱した燃焼用空気と第一の空気配管を流下する低温の燃焼用空気とを混合させ、混合して温度が所望の温度範囲に調整された燃焼用空気を第一の空気配管を通じて燃焼室に供給するように構成した。」(【要約】欄)

イ 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ごみから生成された燃料粒子を供給する燃料配管と燃焼用空気を供給する第一の空気配管とが配設された燃焼室を備え、燃焼室で燃料粒子を燃焼して燃料粒子に含まれた灰分を溶融する燃焼溶融炉において、燃焼溶融炉の燃焼室で燃料粒子を燃焼して発生した燃焼ガスを燃焼室から排出する排ガス煙道に燃焼ガスから熱量を回収する熱交換器を設置し、燃焼用空気を燃焼室に供給する第一の空気配管にこの第一の空気配管から分岐した分岐空気配管を設けてこの分岐空気配管の一部を伝熱管として熱交換器に配設し、熱交換器で熱交換されて加熱された燃焼用空気を流下させる分岐空気配管を第一の空気配管に連通させて分岐空気配管を流下する加熱した燃焼用空気と第一の空気配管を流下する低温の燃焼用空気とを混合させ、混合して温度が所望の温度範囲に調整された燃焼用空気を分岐空気配管と連通した下流側の第一の空気配管を通じて燃焼室に供給するように構成したことを特徴とする燃焼溶融炉。
【請求項2】
請求項1に記載の燃焼溶融炉おいて、燃焼室に燃焼室の壁面温度を計測する温度計を設置し、分岐空気配管が連通した位置より上流側の第一の空気配管に流量調整用のバルブを設置し、温度計で検出した燃焼室の壁面温度に基づいて第一の空気配管に設置した流量調整用のバルブの流量を調整して第一の空気配管を通じて燃焼室に供給する燃焼用空気の温度を所望の温度範囲に制御する制御装置を設置するように構成したことを特徴とする燃焼溶融炉。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃焼溶融炉おいて、燃焼ガスを燃焼室から排出した燃焼ガスが流下する排ガス煙道から熱交換器をバイパスする第二の排ガス煙道を分岐させて配設し、排ガス煙道及び第二の排ガス煙道に燃焼ガスの流量を調節するバルブを夫々設置して排ガス煙道及び第二の排ガス煙道を流下する燃焼ガスの流量を夫々調節し得るように構成したことを特徴とする燃焼溶融炉。
【請求項4】
ごみから生成された燃料粒子を供給する燃料配管と燃焼用空気を供給する第一の空気配管とが配設された燃焼室を備え、この燃焼室で燃料粒子を燃焼して燃料粒子に含まれた灰分を溶融する燃焼溶融炉において、燃焼溶融炉の燃焼室で燃料粒子を燃焼して発生した燃焼ガスを燃焼室から排出する排ガス煙道に燃焼ガスから熱量を回収する熱交換器を設置し、燃焼用空気を燃焼室に供給する第一の空気配管にこの第一の空気配管から分岐した分岐空気配管を設けて分岐空気配管の一部を伝熱管として熱交換器に配設し、熱交換器で熱交換されて加熱された燃焼用空気を流下させる分岐空気配管が第一の空気配管に連通させて分岐空気配管を流下する加熱した燃焼用空気と第一の空気配管を流下する低温の燃焼用空気とを混合させ、混合して温度が所望の温度範囲に調整された燃焼用空気を分岐空気配管と連通した下流側の第一の空気配管を通じて燃焼室に供給し、更に燃焼室に低温の空気を流下させる第二の空気配管を配設して空気を冷却用空気として燃焼室に供給するように構成したことを特徴とする燃焼溶融炉。
【請求項5】
請求項4に記載の燃焼溶融炉おいて、第一の空気配管を通じて導いた燃焼用空気を燃焼室に流入させる燃焼用空気供給口を燃焼室の壁面に配設して燃焼室の内部で燃焼室の壁面に沿って旋回する旋回流を形成させ、この旋回流の流れ方向に沿って燃焼用空気供給口よりも旋回流の流れの下流側の位置に燃料粒子を燃焼室に流入させる燃料粒子供給口を配設し、この旋回流の流れ方向に沿って燃料粒子供給口よりも旋回流の流れの上流側で且つ燃焼用空気供給口よりも旋回流の流れの下流側の位置に第二の空気配管を通じて導いた冷却用空気を燃焼室に流入させる燃焼室壁面冷却用空気口を配設するように構成したことを特徴とする燃焼溶融炉。
【請求項6】
請求項1又は請求項4に記載の燃焼溶融炉おいて、第一の空気配管を通じて燃焼室に供給する燃焼用空気は約150?350℃の温度範囲に調整するように構成したことを特徴とする燃焼溶融炉。
【請求項7】
ごみから生成された燃料粒子と燃焼用空気を燃焼室に供給して燃焼させて燃焼ガスを生成すると共に燃料粒子に含まれた灰分を溶融する燃焼溶融炉の運転方法において、燃焼溶融炉の燃焼室で燃料粒子を燃焼して発生した燃焼ガスを燃焼室から排出する排ガス煙道に設置した熱交換器によって燃焼室から排出された燃焼ガスから熱量を回収し、燃焼室に供給する低温の燃焼用空気の一部を分岐して熱交換器に供給してこの分岐した燃焼用空気を燃焼ガスから回収した熱量で加熱し、加熱された分岐した燃焼用空気を低温の燃焼用空気と混合させて燃焼用空気の温度を所望の温度範囲に調整し、この所望の温度範囲に調整された燃焼用空気を燃焼室に供給するようにしたことを特徴とする燃焼溶融炉の運転方法。
【請求項8】
請求項7に記載の燃焼溶融炉の運転方法おいて、更に低温の空気を燃焼用空気とは独立させて冷却用空気として燃焼室に供給するようにしたことを特徴とする燃焼溶融炉の運転方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の燃焼溶融炉の運転方法おいて、燃焼溶融炉の燃焼室の壁面温度を検出し、検出した燃焼室の壁面温度に基づいて燃焼室から排出された燃焼ガスの熱量を回収して加熱された分岐した燃焼用空気に混合させる低温の燃焼用空気の流量を調整して、燃焼室に供給するこの混合させた燃焼用空気の温度を所望の温度範囲に調節することを特徴とする燃焼溶融炉の運転方法。
【請求項10】
請求項7に記載の燃焼溶融炉の運転方法おいて、燃焼室に供給する燃焼用空気を約150?350℃の温度範囲に調整して燃焼室に供給させたことを特徴とする燃焼溶融炉の運転方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項10】)

ウ 「【0001】
本発明は、都市ごみを熱分解して得られた可燃性の燃焼粒子を燃焼して燃焼ガスを生成し、燃焼粒子が燃焼した灰分を溶融してスラグ化して回収する燃焼溶融炉及び燃焼溶融炉の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市ごみの増加に伴ってごみを燃焼して生じた焼却灰の埋め立て処分場の容量が逼迫している。そのため、焼却炉から排出される灰をごみの持つエネルギーを直接利用して溶融し減容化するごみ処理施設が考えられている。
【0003】
特に、ごみを熱分解装置にて還元雰囲気で加熱して熱分解ガスと固体残渣とを生成し、固体残渣から不燃物を除いた燃料粒子を燃焼溶融炉にて燃焼し、この燃料粒子の燃焼で発生した熱を利用して燃料粒子の焼却灰を溶融しスラグ化して回収する燃焼溶融炉を備えたごみ処理施設が注目されている。
【0004】
燃焼溶融炉には、燃焼粒子及び燃焼用の空気を燃焼室の内部で旋回させて燃焼する旋回型の燃焼溶融炉の方式が多く見られる。旋回型の燃焼溶融炉では燃焼溶融炉の燃焼室の内部に燃焼用空気によって高速の旋回流を形成し、その旋回流の中でごみから生成した燃料粒子を燃焼させると共に、ごみの燃焼で生じた焼却灰を旋回流の遠心力によって燃焼室の壁面に捕捉させて溶融スラグ化させている。
【0005】
この溶融スラグは燃焼溶融炉の燃焼室の壁面を下方に流下して燃焼室の底面に設けられたスラグ排出口から炉外に排出されるので、燃焼溶融炉の運転を長時間安定に保つには燃焼室の壁面の温度をスラグの溶融点以上に保つことが重要である。
【0006】
特許第3,557,912号公報には、ごみから生成した燃料粒子を燃焼させる旋回型の燃焼溶融炉において、空気比が1未満の還元雰囲気よりなる一次燃焼と空気比が1以上の酸化雰囲気よりなる二次燃焼とを一つの燃焼室で燃焼させるように構成して、燃焼溶融炉の構造を簡素化した技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特許第3,557,912号公報」(段落【0001】ないし【0007】)

エ 「【0008】
ところで、都市ごみを熱処理して得られる燃料粒子の熱量は一定ではない。即ち、ごみの組成が不均一であることに起因した燃料粒子の熱量の変動と、熱処理するごみの量の変化に応じて生成される燃料粒子の量の増減によって、ごみを熱処理して得られる燃料粒子の全体の熱量は変化する。
【0009】
このため、特許第3,557,912号公報に記載された構成のごみから生成した燃料粒子を燃焼させる燃焼溶融炉では、燃料粒子の全体の熱量の変化により燃料粒子を燃焼して発生する熱負荷が変動することになり、以下の課題が生じる。
【0010】
(1)燃焼溶融炉の燃焼室内で熱負荷が減少した場合は、燃焼室内の平均温度は低下して燃焼室壁面が冷却されるため、焼却灰を溶融スラグ化する燃焼溶融性が低下して燃焼溶融炉の長期安定運転が困難となる。このため、熱負荷が減少した場合の燃焼溶融性を確保するために灯油等の助燃が必要となり燃料費が増加する。
【0011】
(2)燃焼溶融炉の燃焼室内で熱負荷が増加した場合は、燃焼室内の平均温度は上昇して燃焼室壁面の温度が上昇するため、燃焼室を構成する燃焼室壁面の耐火材の溶損速度が速くなる。また、燃焼室内に供給される燃料粒子が増量して熱負荷が増加した場合は、燃焼室内の壁面を流下する溶融スラグが増量するため、耐火材の溶損速度は更に速くなる。
【0012】
燃焼室壁面の耐火材の溶損はごみ処理施設の連続運転時間の制約となるばかりではなく、高額で長期の耐火材補修頻度が増えるため極めて重大な障害である。
【0013】
また、燃焼溶融炉の補修にはごみ処理施設を構成する他の機器も降温が必要となるため、降温、昇温に起因する腐食等の問題によって他の機器の寿命が短くなる問題もある。
【0014】
以上説明したように、ごみを熱処理して得られる燃料粒子を燃料とする燃焼溶融炉の燃焼室内の熱負荷に変動が生じて熱負荷が減少した場合は燃焼溶融炉の長期安定運転が困難となる課題があり、一方、熱負荷が増加した場合は燃焼室壁面の耐火材の溶損速度が速くなる課題がある。
【0015】
本発明の目的は、燃焼溶融炉の燃焼室内での熱負荷変動に起因する不安定要因を緩和して燃焼溶融炉の長期安定運転の実現と、燃焼室壁面の耐火材の溶損速度の抑制とを両立させた燃焼溶融炉を提供することにある。」(段落【0008】ないし【0015】)

オ 「【0019】
本発明によれば、燃焼溶融炉の燃焼室内での熱負荷変動に起因する不安定要因を緩和して燃焼溶融炉の長期安定運転の実現と、燃焼室壁面の耐火材の溶損速度の抑制とを両立させた燃焼溶融炉が実現できる。」(段落【0019】)

カ 「【0021】
図1は本発明の一実施例であるごみを処理する燃焼溶融炉の構成を示す。
【0022】
図1において、燃焼溶融炉1を構成する主要機器の燃焼室1aは、燃焼室1aの内壁面を耐火材で構成している。
【0023】
燃焼室1aを内側の空間部に形成する燃焼溶融炉1の胴部には、都市ごみを熱分解して得られた固体物質或いは石炭などの可燃性固体物質を粉砕して生成した燃料粒子を燃焼室1の内部に供給する燃料粒子供給口2と、燃焼用空気を燃焼室1に供給する燃焼用空気供給口3と、助燃用の燃料を燃焼室1aに供給する助燃バーナ5とが夫々設置されている。
【0024】
そして、燃焼溶融炉1の燃焼室1aにて燃料粒子供給口2から供給された燃料粒子を、燃焼用空気供給口3から供給された燃焼用空気、及び助燃バーナ5から供給された助燃用の燃料によって燃焼させるように構成されている。
【0025】
燃焼室1aの胴部の上部には燃焼室1aの内部にて供給された燃料粒子を燃焼して生じた燃焼ガスを燃焼溶融炉1から外部に排出する燃焼ガス排出口6が設けられている。
【0026】
燃焼溶融炉1の胴部の内側で燃焼室1aの下部には、燃焼室1aで燃料粒子を燃焼させることにより生成した灰分が溶融して溶融スラグとなるので、この溶融スラグを燃焼室1aから排出するスラグ排出口4と、このスラグ排出口4から排出されたスラグを冷却した後に外部に排出するスラグ水槽13が設置されている。
【0027】
燃料粒子供給口2に供給される燃料粒子は、燃料供給装置12に貯蔵した都市ごみ等のこみを熱分解して得られた固体物質或いは石炭などの可燃性固体物質を粉砕して生成した燃料粒子を燃料配管57に導き、燃料配管57の上流側に設置した空気送風機11から送給される空気によって燃料粒子を搬送することにより燃料配管57を通じて燃料粒子供給口2に供給される。
【0028】
燃焼用空気供給口3に供給される燃焼用空気は、空気送風機7から空気配管53を通じて供給される。
【0029】
助燃バーナ5に供給される灯油等の助燃用の燃料は、助燃燃料供給装置14から燃料配管59を通じて供給される。助燃バーナ5に供給される燃焼用空気は、空気送風機11から空気配管58を通じて供給される。
【0030】
燃焼溶融炉1の燃焼室1aにて燃料供給装置12から供給された燃料粒子を燃焼して発生した高温の燃焼ガスは、燃焼ガス排出口6から排ガス煙道51を通じて排出される。
【0031】
排ガス煙道51の経路の途中には熱交換器8が設置され、この熱交換器8の下流側には排ガス処理装置16が設置されて燃焼ガスに含まれる有害分を除去している。
【0032】
排ガス処理装置16を経た燃焼ガスは排ガス煙道51を流下して煙突17から大気に放出される。
【0033】
排ガス煙道51の経路途中に熱交換器8を設置することにより、燃焼溶融炉1の燃焼室1aで生じた燃焼ガスが保有する廃熱を有効利用できる。
【0034】
即ち、送風機7から燃焼用空気を燃焼用空気供給口3に供給する空気配管53の上流側部分で空気配管53から空気配管55が分岐しており、空気配管55には送風機7から送給された燃焼用空気の一部が流下する。
【0035】
この空気配管55はその一部が伝熱管として熱交換器8に配設されており、送風機7から送給された燃焼用空気の一部が熱交換器8に配設された空気配管55を流下する。
【0036】
熱交換器8において排ガス煙道51を流れる高温の燃焼ガスと空気配管55を流下する燃焼用空気とが熱交換されて燃焼用空気が加熱され、この加熱された燃焼用空気は熱交換器8の下流側の空気配管55を流下して空気配管53と合流点27で合流する。
【0037】
そして、この合流点27にて空気配管55を流下して加熱された燃焼用空気と、送風機7から送給されて空気配管53を流下する低温の燃焼用空気とが混合され、温度調節された燃焼用空気が合流点27の下流側の空気配管53を更に流下して燃焼用空気供給口3に供給されることによって、温度調節された燃焼用の空気を燃焼溶融炉1の燃焼室1aに流入させている。
【0038】
熱交換器8にて排ガス煙道51を流下する燃焼ガスとの熱交換によって加熱された燃焼用空気が流れる熱交換器8の下流側の空気配管55には、バルブ9と流量計18とが設置されている。
【0039】
また、非加熱の低温の燃焼用空気が流れる合流点27より上流側の空気配管53には、バルブ10と流量計19が設置されている。
【0040】
そして、空気配管55に設置したバルブ9及び空気配管53に設置したバルブ10の各バルブ開度を調整して空気配管55及び空気配管53を夫々流下する燃焼用空気の流量配分を調節することにより、燃焼用空気供給口3から燃焼室1aに供給される燃焼用空気の温度を適正な約150?350℃の温度範囲に調整することが可能となっている。」(段落【0021】ないし【0040】)

キ 「【0041】
燃焼溶融炉1には燃焼用空気供給口3から燃焼室1aの内部の壁面に沿って流入させる燃焼用空気の温度を、燃焼室1aの壁面を構成する耐火材の溶損速度が長期間使用できる低い耐火材溶損速度に低減するように、約150?350℃の温度範囲に調整する制御装置30が設置されている。
【0042】
この制御装置30には、検出器である流量計18で検出した熱交換器8の下流側の空気配管55を流下する加熱された燃焼用空気の流量と、流量計19で検出した合流点27より上流側の空気配管53を流下する低温の燃焼用空気の流量の検出信号が入力される。
【0043】
燃焼室1aの内部の壁面には燃焼室1aの壁面の温度を検出する温度計21が設置されているが、温度計21で検出する壁面の温度は燃焼溶融炉1の熱負荷と、燃焼室1aで燃焼する燃料粒子に対する燃焼用空気の比である空気比とに依存するので、熱負荷のみの指標とはならない。
【0044】
燃焼室1aの内部で燃料粒子供給口2から供給された燃料粒子を燃焼させた燃焼室内の燃焼温度は約1400℃であり、温度計21で検出される燃焼室1aの壁面温度は約900?950℃にもなる。そこで、温度計21で検出した燃焼室1aの壁面温度の検出信号を制御装置30に入力させ、燃焼室1aの壁面を構成する耐火壁の溶損速度の進展を抑制するためにこの制御装置30によって燃焼室1aに流入させる燃焼用空気の温度制御を行う。
【0045】
また、合流点27より下流側の空気配管53を流下して燃焼用空気供給口3に供給される燃焼用空気の温度は、合流点27の下流側の空気配管53に設置された温度計20により測定される。
【0046】
この温度計20で検出される空気の温度は、空気配管55で導かれた熱交換器8で加熱した燃焼用空気と、合流点27より上流側の空気配管53を流下する低温の燃焼用空気とを合流点27で混合して温度が調整されて、合流点27の下流側の空気配管53を流れる燃焼用空気の温度をモニターするものであり、温度計20の検出信号も監視用に制御装置30に入力される。
【0047】
そして、制御装置30では、温度計21によって測定された燃焼室1aの壁面の温度の検出信号をメインの検出値として、燃焼溶融炉1の燃焼室1aの壁面を構成する耐火材の溶損速度が長期間使用できる低い耐火材溶損速度に低減するように、燃焼用空気供給口3に供給される燃焼用空気の流量を調節してこの燃焼用空気の温度を所望の温度範囲に制御する。
【0048】
即ち、温度計21で検出した燃焼室1aの壁面温度に基づいて制御装置30によって空気配管53のバルブ10の開度を制御して燃焼用空気の流量を調節し、燃焼用空気供給口3を通じて燃焼室1aに供給する燃焼用空気の温度を約150?350℃の所望の温度範囲となるように調整する。
【0049】
尚、熱交換器8の伝熱管となる空気配管55の耐熱性を考慮して常時一定流量の燃焼用空気を空気配管55に流す必要があるので、熱交換器8で加熱された燃焼用空気を流す空気配管55に設置したバルブ9は制御装置30によって一定開度に制御する。
【0050】
したがって、制御装置30では燃焼用空気の流量に対応した空気配管53のバルブ10の開度を温度計21で測定した燃焼室1aの壁面温度の検出信号に基づいて演算し、このバルブ10に対する弁開度の指令信号を制御装置30から出力して、バルブ9は一定開度に、バルブ10は燃焼室1aの壁面温度の変化に対応した適切な開度に夫々操作して、燃焼用空気供給口3を通じて燃焼室1aの壁面に沿って流入させる燃焼用空気の温度を所望の温度範囲の約150?350℃に制御するようにしている。
【0051】
ところで、燃焼用空気供給口3の配設位置は、図2に示したように燃焼溶融炉1の燃焼室1aの断面に対して例えば燃焼室1aの外周の接線方向に沿って4箇所の燃焼用空気供給口3a、3b、3c、3dを相互に離間させて設置することによって、燃焼室1aの内部には空気配管53を通じて供給され流入した燃焼用空気を燃焼室1aの内壁に沿って流下する旋回流が形成できる。
【0052】
燃焼溶融炉1の燃焼室1aの内部では燃焼用空気供給口3a、3b、3c、3dから流入させた燃焼用空気によって壁面に沿って流下する旋回流を形成させているので、燃料粒子供給口2から燃焼室1aの内部に供給された燃料粒子は燃焼用空気による旋回流の中で約1400℃で燃焼して燃焼ガスを生成する。
【0053】
また、燃焼室1aの内部に供給された燃料粒子は燃焼ガスの生成と同時に焼却灰も生成し、この焼却灰が燃焼用空気の旋回流による遠心力で燃焼室1aの壁面に捕捉されて溶融スラグとなる。
【0054】
生成した溶融スラグは燃焼室1aからスラグ排出口4を経由して排出されて、燃焼室1aの下方に設置されたスラグ水槽13に流入して冷却される。
【0055】
次に、本実施例の燃焼溶融炉1によって燃焼用空気を所望の温度範囲の約150?350°に温度調整して燃料粒子の燃焼試験を実施した結果を説明する。
【0056】
燃焼試験では、熱交換器8を流下する燃焼ガスによって加熱された燃焼用空気の流量が一定になるようにバルブ9の開度を調整し、燃焼室1aの熱負荷の変動を燃焼室1aの壁面に設置した温度計21で検出した所望の温度範囲から変動した温度偏差に基づいて、制御装置30によってバルブ10の開度を調整して非加熱の燃焼用空気の空気量を調節し、この加熱された燃焼用空気と非加熱の燃焼用空気とを混合し、燃焼用空気供給口3から燃焼室1aの内部に供給する燃焼用空気としての温度を所望の温度の範囲に自動調整した。
【0057】
即ち、燃焼室1aの内部の壁面に設置した温度計21によって燃焼室1aの内部の熱負荷に連動した燃焼室1aの壁面の温度を検出して制御装置300にその検出信号を入力させる。
【0058】
制御装置300では、予め定めた例えば730℃の設定温度の比較して温度計21で検出した燃焼室1aの壁面温度との偏差信号に基づいて、燃焼用空気が所望の約150?350℃の温度範囲となるように温度制御を行う。
【0059】
即ち、温度計21で検出する燃焼室1aの壁面温度が730℃を越えて燃焼室1aの壁面を構成する耐火材が長期間使用できる低い耐火材溶損速度の上限に上昇した場合には、空気配管53に設けられたバルブ10の開度を開けて非加熱の燃焼用空気の流量を増やし、燃焼用空気供給口3に供給する燃焼用空気の温度を約150?350℃の範囲の中で下限の約150℃に近い温度に低下するように調節して供給する。
【0060】
逆に、温度計21で検出する燃焼室1aの壁面温度が730℃を下回って燃焼室1aの壁面を構成する耐火材が長期間使用できる低い耐火材溶損速度の下限に低下した場合には、空気配管53に設けられたバルブ10の開度を減じて非加熱の燃焼用空気の流量を減少させ、燃焼用空気供給口3に供給する燃焼用空気の温度を約150?350℃の範囲の中で上限の約350℃に近い温度に上昇するように調節して供給する。
【0061】
このような燃焼用空気の温度制御を制御装置300によって行うことによって燃焼用空気供給口3に供給される燃焼用空気の温度を、燃焼室1aの壁面を構成する耐火材が長期間使用できる低い耐火材溶損速度に低減し得る所望の温度範囲の約150?350℃に制御し、燃焼室1aの壁面の温度を、例えば約730℃に一定に維持することによって燃焼室壁面の耐火材の溶損速度の進行を抑制する。」(段落【0041】ないし【0061】)

ク 「【0068】
図7は、この試験炉に流入させる混合空気を所定の流量に保ち、試験炉の壁面温度を変化させた場合の壁面を構成する耐火材の溶損速度を実験した結果である。
【0069】
図7では、壁面温度が950℃の場合の耐火材の溶損速度を100として規格化して耐火材の溶損速度を評価したものであり、図7に示した通り燃焼用空気温度を約150?350℃の範囲に調節して試験炉に供給した場合に耐火材の溶損速度は著しく減ずることを実験により確認できた。
【0070】
ここで、壁面温度が約950℃の場合とは、通常の燃焼溶融炉で燃焼ガスを熱源として熱交換器にて熱回収した加熱空気を燃焼用空気にそのまま用いて非加熱の空気を混合しない場合の上限の温度である。
【0071】
この熱回収した加熱空気を燃焼用空気として用いると、燃焼室1aを構成する試験炉で燃料粒子を燃焼して所定の約1400℃の温度を維持するのに必要な助燃燃料を不要、或いは減少させることが出来る。
(中略)
【0077】
一方、燃焼室1aの内部の熱負荷減少によって生じる燃焼不安定の課題に対して、燃焼空気の温度を上げることにより燃焼室1aの壁面の温度を上昇させた長期安定運転の可能性を検討した。
【0078】
この場合、燃焼空気(審決注:「燃焼用空気」の誤記と認める。)の温度は高い方が理想的であるが、実用的には、通常の熱交換器の効率で得られる温度の範囲内であることと、耐熱性を満足する配管材料が350℃を超えると著しく高価になるコストの制約から燃焼空気の上限温度は350℃となる。」(段落【0068】ないし【0078】)

ケ 「【0084】
図3は本発明の他の実施例であるごみを処理する燃焼溶融炉の構成を示す。
【0085】
本実施例における燃焼溶融炉は図1乃至図2に示した実施例と基本的な構成は同じであるので、共通した構成及び作用の説明は省略して相違した部分のみ説明する。
【0086】
図3の燃焼溶融炉において、図1に示した実施例の燃焼溶融炉と異なる点は、燃焼溶融炉1の燃焼室1aの内部に燃料粒子を燃焼して生じた燃焼ガスを燃焼ガス排出口6から外部に排出する排ガス煙道51が排ガス煙道51に設置したバルブ22の上流側で分岐して丁度、熱交換器8をバイパスする排ガス煙道52が配設されている。
【0087】
この排ガス煙道52にもバルブ23を設置して、排ガス煙道52を熱交換器8の下流側にて排ガス煙道51に合流するように構成している。
【0088】
図1に示した実施例の構成では燃焼溶融炉1の燃焼室1aから排出された燃焼ガスは全て熱交換器8を通過するため、熱交換器8の伝熱管となる空気配管55の耐熱性を考慮して常時一定流量の燃焼用空気を空気配管55に流す必要があり、よって燃焼溶融炉1の燃焼室1aに供給する燃焼用空気の温度を低下させる必要が生じた際にその自由度が制限される。
【0089】
特に、燃焼溶融炉1の燃焼室1aでの熱負荷が小さく、つまり全燃焼用空気の流量が少ない条件の場合において燃焼用空気の温度を低下させる自由度が制限される状況は顕著となる。
【0090】
これに対して図3に示した本実施例では、熱交換器8が設置される排ガス煙道51にバルブ22を、排ガス煙道51から分岐した排ガス煙道52にバルブ23を夫々設置し、これらのバルブ51、及びバルブ52の開度を制御装置30からの指令信号によって夫々調整することによって、熱交換器8をバイパスして排ガス煙道52を流下するガスの流量を増加し、排ガス煙道51を流下して熱交換器8を流れる燃焼ガスの流量を減少させることが出来るので、実施例1の排ガス煙道51を流れる燃焼ガスの流量よりも本実施例の排ガス煙道51を流れる燃焼ガスの流量を少なくすることが可能となる。
【0091】
これにより、熱交換器8を介して排ガス煙道51を流れる燃焼ガスによって加熱される燃焼用空気の温度を図1に示す実施例よりも容易に所望の約150?350℃の温度範囲に調整することができ、よって燃焼用空気の温度を調節する自由度が増加する。
【0092】
よって、燃焼溶融炉1の燃焼室1aにおける全ての熱負荷に亘って燃焼用空気の温度を適切な温度範囲に調整でき、燃焼溶融炉1の助燃量を増大させずに燃焼溶融炉1の燃焼室1aの壁面を構成する耐火材の溶損速度を長期間使用できる温度にまで十分に低下させることができる。
【0093】
従って、本実施例によれば、燃焼溶融炉の燃焼室内での熱負荷変動に起因する不安定要因を緩和して燃焼溶融炉の長期安定運転の実現と、燃焼室壁面の耐火材の溶損速度の抑制とを両立させた燃焼溶融炉が実現できる。」(段落【0084】ないし【0093】)

(2)上記(1)及び図面から分かること

サ 上記(1)アないしク及び図面の記載から、引用文献1には、燃焼溶融炉から排出される高温の燃焼ガスにより、該燃焼溶融炉に供給される燃焼用空気を加熱して廃熱を有効利用する熱交換器を備えたごみを焼却する燃焼溶融炉システムが記載されていることが分かる。

シ 上記(1)ウ(特に段落【0003】)、カ(特に段落【0026】)等の記載から、引用文献1に記載された燃焼溶融炉システムは、燃料粒子を燃焼させることにより生成した灰分が溶融して溶融スラグとなり、この溶融スラグをスラグ排出口4から外部に排出するものであるから、流動焼却炉であるといえる。

ス 上記(1)キ(特に段落【0049】)等の記載から、引用文献1に記載された熱交換器は、伝熱管を有する熱交換器であることが分かる。

セ 上記(1)ク(特に段落【0070】)及び図7の記載から、引用文献1に記載された熱交換器の運転方法において、熱回収した加熱空気を燃焼用空気にそのまま用いて非加熱の空気を混合しない場合があることが分かる。この場合、バイパスさせる流量はゼロであることが分かる。

ソ 上記(1)キ(特に段落【0049】)、ケ(特に段落【0088】ないし【0090】)並びに図1及び3の記載から、図1の実施例の場合には熱交換器8の伝熱管となる空気配管55の耐熱性を考慮して常時一定流量の燃焼用空気を空気配管55に流す必要があるが、図3の実施例の場合には、図1の実施例の場合よりも排ガス煙道51を流れる燃焼ガスの流量を減少させることができ、したがって空気配管55に流す燃焼用空気の量も減少させることができることが分かる。

タ 上記(1)ク(特に段落【0078】)の記載から、燃焼用空気の温度は高い方が理想的であるが、配管材料のコストの制約から、燃焼用空気の上限を350℃としていることが分かる。

(3)引用発明
以上の(1)及び(2)並びに図1ないし7の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ごみを焼却する燃焼溶融炉から排出される高温の燃焼ガスにより、該燃焼溶融炉に供給される燃焼用空気を加熱して廃熱を有効利用する伝熱管を有する熱交換器を備えたごみを焼却する燃焼溶融炉システムにおいて、該伝熱管を有する熱交換器から排出されて上記燃焼溶融炉に燃焼用空気として供給される燃焼用空気に、上記熱交換器に導入される燃焼用空気の一部をバイパスさせると共に、その流量(ゼロを含む)制御を行いながら合流せしめる、ごみを焼却する燃焼溶融炉システムにおける伝熱管を有する熱交換器の運転方法。」

第3-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の理由に引用された刊行物である特開2010-144999号公報(以下、「引用文献2」という。)には図面とともに次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

ア 「【0001】
本発明は、多管式熱交換器、特に高温側管板を冷却する多管式熱交換器に関するものである。」(段落【0001】)

イ 「【0002】
従来のこの種の多管式熱交換器としては、図2および図3に示すように、焼却炉S等の熱源装置の高温排ガスF1(例えば、850?900℃)を導入する排ガス導入室1と、外筒2a内に形成されると共に高温排ガスと予熱空気を熱交換する熱交換室2と、熱交換された低温排ガスF2を排出する排ガス排出室3から成り、上記排ガス導入室1と熱交換室2を隔てる高温側管板4と、上記熱交換室2と排ガス排出室3を隔てる低温側管板5と、上下端部が上記高温側管板4と低温側管板5にそれぞれ接続されて、上記排ガス導入室1および上記排ガス排出室3に連通する複数の伝熱管6と、上記熱交換室2に予熱用空気P1を導入する予熱空気導入口7と、上記熱交換室2から予熱用空気P2(例えば、650?700℃)を排出して上記焼却炉Sに供給する予熱空気排出口8と、上記高温側管板4の上記熱交換室2側に設置される副室9から構成され、上記排ガス導入室1に導入される上記排ガスF1は、上記伝熱管6を通って上記排ガス排出室3から低温排ガスとして排出され、一方、送風器V1により上記予熱空気導入口7から上記熱交換室2に導入される予熱用空気P1は、該熱交換室2において上記伝熱管6内を流れる高温排ガスと熱交換されて昇温され、予熱用空気P2として上記予熱空気排出口8から上記焼却炉S等の熱源装置に供給される。なお、上記熱交換室2には多数枚のバッフルプレート(邪魔板)2bが設置されていて、導入された予熱用空気P1を上記伝熱管6に対する直交および並行の流れに整流して、熱交換効率を高めるようにしている。」(段落【0002】)

ウ 「【0008】
本発明の多管式熱交換器は、焼却炉等の熱源装置の高温排ガスを導入する排ガス導入室と、外筒内に形成されると共に上記高温排ガスと予熱空気を熱交換する熱交換室と、熱交換された低温排ガスを排出する排ガス排出室から成り、上記排ガス導入室と熱交換室を隔てる高温側管板と、上記熱交換室と排ガス排出室を隔てる低温側管板と、上下端部が上記高温側管板と低温側管板にそれぞれ接続されて、上記排ガス導入室および上記排ガス排出室に連通する複数の伝熱管と、上記高温側管板の上記熱交換室側に設置される副室と、該副室に予熱用空気を導入する予熱空気導入口と、上記副室から上記熱交換室に延設されて、上記予熱用空気を該熱交換室の下方に流出せしめるリターンパイプと、上記熱交換室から予熱用空気を排出して上記熱源装置に供給する予熱空気排出口と、から構成されることを特徴とする。」(段落【0008】)

エ 「【0010】
図1は、本発明装置の一実施例の説明図であって、1は排ガス導入室、2は熱交換室、3は排ガス排出室、4は高温側管板、5は低温側管板、6は伝熱管、11は予熱空気導入口、8は予熱空気排出口、9は副室、10はリターンパイプである。
【0011】
上記排ガス導入室1には、焼却炉S等の熱源装置の高温排ガスF1(例えば、850?900℃)が導入される。該排ガス導入室1の下方には外筒2aが一体的に接続され、該外筒2a内に熱交換室2が形成される。該熱交換室2内では、上記高温排ガスと後述する予熱空気が熱交換される。上記排ガス排出室3は、熱交換された低温排ガスF2を排出する。
【0012】
上記高温側管板4は、上記排ガス導入室1と上記熱交換室2を隔てる。また、上記低温側管板5は、上記熱交換室2と排ガス排出室3を隔てる。これら上記高温側管板4と低温側管板5間には、複数の伝熱管6の上下端部がそれぞれ接続される。上記排ガス導入室1内の高温排ガスは、上記伝熱管6を通って上記排ガス排出室3に流れる。
【0013】
上記高温側管板4の上記熱交換室2側には、副室9が設置される。該副室9から上記熱交換室3内にリターンパイプ10が垂下される。上記副室9には上記予熱空気導入口11が接続され、予熱用空気P3が導入され、該副室9を通じて上記高温側管板4を冷却する。該副室9内の予熱用空気は、上記リターンパイプ10から上記熱交換室3の下方に流出される。V3は、上記予熱空気導入用の送風器である。
【0014】
上記熱交換室3内に流入した予熱用空気は、バッフルプレート(邪魔板)2bにより整流されながら上記伝熱管6内を流れる高温排ガスと熱交換を行う。熱交換されて昇温化された予熱用空気は、上記予熱空気排出口8から燃焼炉S(図2参照)に燃焼用空気として供給される。」(段落【0010】ないし【0014】)

(2)上記(1)及び図面から分かること

カ 上記(1)アないしウ及び図1ないし3から、引用文献2には、焼却炉等の高温排ガスにより、焼却炉に供給される空気を予熱する多管式熱交換器が記載されていることが分かる。

(3)引用文献2記載の技術
以上の(1)及び(2)並びに図1ないし3の記載を総合すると、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「焼却炉から排出される高温の排ガスにより、焼却炉に供給される空気を予熱する多管式熱交換器の技術。」


第4 対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
引用発明における「燃焼ガス」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「排ガス」に相当し、同様に、「燃焼用空気」は「燃焼空気」及び「予熱空気」に、「加熱」は「予熱」に、「廃熱を有効利用」は「排熱回収」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「(ごみを焼却する)燃焼溶融炉」は、「(廃棄物を焼却する)焼却炉」という限りにおいて、本願発明における「(汚泥を焼却する)焼却炉」に相当し、同様に、引用発明における「燃焼溶融炉システム」は、「廃棄物を焼却する流動焼却炉システム」という限りにおいて、本願発明における「汚泥を焼却する流動焼却炉システム」に相当する。
また、引用発明における「伝熱管を有する熱交換器」は、「伝熱管を有する熱交換器」という限りにおいて、本願発明における「多管式熱交換器」に相当する。
したがって、本願発明と、引用発明とは、
「廃棄物を焼却する焼却炉から排出される高温の排ガスにより、該焼却炉に供給される予熱空気を予熱して排熱回収する伝熱管を有する熱交換器を備えた廃棄物を焼却する流動焼却炉システムにおいて、該伝熱管を有する熱交換器から排出されて上記焼却炉に燃焼空気として供給される予熱空気に、上記伝熱管を有する熱交換器に導入される予熱空気の一部をバイパスさせると共に、その流量(ゼロを含む)制御を行いながら合流せしめる、廃棄物を焼却する流動焼却炉システムにおける伝熱管を有する熱交換器の運転方法。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)「廃棄物を焼却する焼却炉」に関して、本願発明においては「汚泥を焼却する焼却炉」であるのに対して、引用発明においては「ごみを焼却する燃焼溶融炉」である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「廃棄物を焼却する流動焼却炉システム」に関して、本願発明においては「汚泥を焼却する流動焼却炉システム」であるのに対して、引用発明においては「ごみを焼却する燃焼溶融炉システム」である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)「伝熱管を有する熱交換器」に関して、本願発明においては「多管式熱交換器」であるのに対して、引用発明においては「伝熱管を有する熱交換器」である点(以下、「相違点3」という。)。

第5 判断
上記相違点について判断する。
(1)相違点1及び2について
本願発明においては汚泥を焼却し、引用発明においては都市ごみを焼却しているが、汚泥は焼却する前に加熱処理されて汚泥ケーキとされ(本願明細書の段落【0003】を参照。)、都市ごみは焼却される前に加熱処理されて固体残渣とされ(引用文献1の段落【0003】及び【0023】を参照。)たのちに燃焼される。
このように、汚泥と都市ごみは、焼却される前に加熱処理されて固体状のものとなり、該固体状のものが流動焼却炉において焼却される点で共通している。
また、下水汚泥の汚泥ケーキは都市において多く発生するから、汚泥ケーキは都市ごみの一種であるということもできる。
そして、「汚泥を焼却する焼却炉」及び「汚泥を焼却する流動焼却炉システム」は、本件出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開2001-74220号公報[例えば、段落【0001】ないし【0003】、【0008】ないし【0011】及び図1ないし3を参照。]及び特開2005-114218号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1及び2、段落【0002】並びに図1ないし6を参照。]等の記載を参照。)である。
してみると、引用発明における「ごみを焼却する燃焼溶融炉」を汚泥に適用して「汚泥を焼却する焼却炉」とすること、及び、引用発明における「ごみを焼却する燃焼溶融炉システム」を汚泥に適用して「汚泥を焼却する流動焼却炉システム」とすることにより、相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点3について
引用文献2には、
「焼却炉から排出される高温の排ガスにより、焼却炉に供給される空気を予熱する多管式熱交換器の技術。」(上記「引用文献2記載の技術」)
が記載されている。
そして、引用発明における「伝熱管を有する熱交換器」と、引用文献2記載の技術とは、共に、焼却炉から排出される高温の排ガスにより、焼却炉に供給される空気を予熱する熱交換器に関するものである。
してみれば、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用して、相違点3に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、以下のア及びイのように主張しているので、これらについて検討する。
ア 「引用発明1の燃焼溶融炉と本願発明の汚泥を焼却する焼却炉とでは、要求される予熱空気の顕熱量が全く異なっております。このことは、引用発明1では、燃焼用空気供給口3を通じて燃焼室1aの壁面に沿って流入させる燃焼用空気の所望の温度範囲が約150?350℃であるのに対して、本願発明では、焼却される汚泥の性状によって予熱空気の温度が約402?650℃(明細書段落0023)の範囲であって、両者の温度範囲が著しく異なっていることから明らかであります。したがって、引用発明1の燃焼溶融炉の制御方法では、汚泥を焼却する焼却炉において必要とされる予熱空気温度(熱量)の制御を実現することは不可能であり、それゆえ、引用発明1の燃焼溶融炉の制御方法を、汚泥を焼却する焼却炉に適用しようとする動機付けはありません。また仮に、汚泥を焼却することが周知であったとしても、それによって引用発明1の技術内容の解釈が変わるわけではないので、引用発明1を、汚泥を焼却する焼却炉に適用する動機付けがないことには変わりはありません。
更に、焼却炉に供給される予熱空気の温度が、本願発明では約402?650℃であるのに対して、引用発明1では約150?350℃であることから、両者において使用される熱交換器は設定すべき温度範囲や運転環境が全く異なっております。そして、当業者であれば、それぞれの焼却炉の特性に合った熱交換器を設計して使用するはずであるから、引用発明1の熱交換器8を、本願発明のように汚泥を焼却する焼却炉に用いられる多管式熱交換器に置き換えることは本来回避すべきことであります。」(【請求の理由】の3.イ)の欄)

イ 「また、引用文献1には、「尚、熱交換器8の伝熱管となる空気配管55の耐熱性を考慮して常時一定流量の燃焼用空気を空気配管55に流す必要があるので、熱交換器8で加熱された燃焼用空気を流す空気配管55に設置したバルブ9は制御装置30によって一定開度に制御する。」(段落0049)及び「したがって、制御装置30では燃焼用空気の流量に対応した空気配管53のバルブ10の開度を温度計21で測定した燃焼室1aの壁面温度の検出信号に基づいて演算し、このバルブ10に対する弁開度の指令信号を演算装置30から出力して、バルブ9は一定開度に、バルブ10は燃焼室1aの壁面温度の変化に対応した適切な開度に夫々操作して、燃焼用空気供給口3を通じて燃焼室1aの壁面に沿って流入させる燃焼用空気の温度を所望の温度範囲の約150?350℃に制御するようにしている。」(段落0050)と記載されています。このことから引用文献1には、燃焼溶融炉1から排出される高温の排ガスにより、燃焼溶融炉1に供給される燃焼用空気を予熱して廃熱回収する熱交換器8を備えた燃焼溶融炉のシステムにおいて、熱交換器8から排出されて燃焼溶融炉1に供給される予熱された燃焼用空気に、熱交換器8に導入される常時一定流量の燃焼用空気とは別に送風機7からの燃焼用空気をバイパスさせて、そのバイパスさせた燃焼用空気の流量制御を行いながら合流させるという運転方法が記載されております。それゆえ、引用文献1には、熱交換器8に導入される燃焼用空気が常時一定流量であることが記載されているのであって、熱交換器8に導入される燃焼用空気の一部をバイパスさせると共に流量制御すること、言い換えると、バイパスさせた燃焼用空気の流量制御により、熱交換器8に導入させる燃焼用空気の流量を制御することは記載されておりません。」(【請求の理由】の3.イ)の欄)

<上記アについて>
本願発明において、予熱空気の温度や燃焼温度が限定されているわけではないから、請求人の主張アは特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
また、引用文献1に記載された実施例1において燃焼用空気の温度を約150℃?350℃の範囲としているのは、配管材料のコストを抑える(上記第3 第3-1(2)タ及び引用文献1の段落【0078】を参照。)ためであって、配管材料のコストの制約がなければ、「燃焼空気の温度は高い方が理想的」(引用文献1の段落【0078】を参照。)であるから、燃焼用空気の温度はもっと高くできることになる。
次に、多管式熱交換器については、引用文献2に「従来のこの種の多管式熱交換器としては、図2および図3に示すように、焼却炉S等の熱源装置の高温排ガスF1(例えば、850?900℃)を導入する排ガス導入室1と・・・」(引用文献2の段落【0002】)と記載されているように、焼却炉等の高温排ガスに対して適用されるものであり、引用発明においても、高温排ガスを発生するのであるから、引用文献2の多管式熱交換器を適用可能である。
なお、仮に熱交換器を使用する温度範囲や運転環境が異なるとしても、管の材質や厚み、管の径等を調節することにより、異なる温度範囲や運転環境においても使用でき、その程度の調整は、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。

<上記イについて>
請求人は、段落【0049】及び【0050】の記載を根拠にして、「熱交換器8に導入される燃焼用空気の一部をバイパスさせると共に流量制御すること、言い換えると、バイパスさせた燃焼用空気の流量制御により、熱交換器8に導入させる燃焼用空気の流量を制御することは記載されておりません。」と主張している。
しかし、上記段落【0050】には、バイパス流路に設けたバルブ10の開度を制御すること、すなわち、熱交換器8に導入される燃焼用空気の一部をバイパスさせると共に流量制御することが記載されているから、請求人の主張は失当である。
また、請求人は、段落【0049】及び【0050】の記載によれば、熱交換器8に導入される燃焼用空気が常時一定流量であると主張しているが、「空気配管55の耐熱性を考慮して常時一定流量の燃焼用空気を空気配管55に流す必要がある」という記載からすれば、「一定流量」とは、「一定流量以上」という意味であると考えられる。
それに対し、本願発明の実施例においては、熱交換器を通過する予熱空気の流量割合は50%以上(段落【0023】)とされているから、本願発明においても、熱交換器8に導入される燃焼用空気が常時一定流量以上であり、引用文献1に記載されたものと軌を一にするものである。
仮に、請求人が主張するように、引用文献1に記載されたものにおいて「バルブ9は一定開度」であるとしても、上記のように、バイパス流路に設けたバルブ10の開度が制御されてバイパス流路を通過する燃焼用空気の流量が変わることに伴って、バイパス流路以外に設けられたバルブ9を通過する燃焼用空気の量が変わることは自明であり、したがって、引用文献1に記載されたものにおいても、「バイパスさせた燃焼用空気の流量制御により、熱交換器8に導入させる燃焼用空気の流量を制御する」ことが実質的に記載されていると考えられる。
なお、請求人が引用した段落【0049】及び【0050】の記載は、引用文献の図1の実施例(実施例1)についての記載であって、図3の実施例(実施例2)についての記載(上記第3-1(1)ケ)を参照すれば、図3の実施例の場合には、常時一定流量の燃焼用空気を空気配管55に流す必要はないことが分かる。
実際、引用文献1の段落【0040】には、「空気配管55に設置したバルブ9及び空気配管53に設置したバルブ10の各バルブ開度を調整して空気配管55及び空気配管53を夫々流下する燃焼用空気の流量配分を調節する」と記載され、バルブ9及びバルブ10のバルブ開度を調整して燃焼用空気の流量配分を調節することが明記されている。

(3)周知技術の適用についての補足
上記周知技術1を示す文献である特開2001-74220号公報には、汚泥を焼却する流動焼却炉システム(流動床焼却炉システム)において、熱交換器から排出されて焼却炉に燃焼空気として供給される予熱空気に、熱交換器に導入される予熱空気の一部をバイパスさせると共に、その流量制御を行いながら合流せしめること(段落【0009】ないし【0011】を参照。)も記載されており、このことからも、汚泥を焼却する流動焼却炉システムに、引用発明を適用することは容易である。

(4)作用効果について
そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明並びに周知技術1及び引用文献2記載の技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-26 
結審通知日 2015-11-30 
審決日 2015-12-11 
出願番号 特願2011-222503(P2011-222503)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 流動焼却炉システムにおける多管式熱交換器の運転方法および装置  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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