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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C
管理番号 1314185
審判番号 不服2014-8720  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-12 
確定日 2016-04-27 
事件の表示 特願2011-511476号「タイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月 4日国際公開、WO2010/126144〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年4月30日(優先権主張2009年4月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月2日付けで拒絶理由が通知され、同年10月9日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年3月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年5月12日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともにこれと同時に明りょうでない記載の釈明を目的とする手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?22に係る発明は、平成26年5月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「タイヤサイド部のタイヤ表面に、内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた空気入りタイヤであって、前記各乱流発生用突起は、径方向断面で見たときにエッジ部を有すると共に、タイヤ表面に対して空気流が突き当たる前壁面との前壁角度が70度?110度の範囲であり、且つ前記タイヤサイド部を構成するサイド補強ゴムに、共役ジエン系重合体の末端と第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物との変性反応により該末端に第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体が導入され、さらに該変性反応の途中及び又は終了後に該変性反応系に縮合促進剤が加えられることにより得られる変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が20?90m^(2)/gであるカーボンブラックを10?100質量部配合してなるゴム組成物を用いることを特徴とするタイヤ。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成25年8月2日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由1であり、その概要は、この出願の請求項1?16、18?24に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、その引用文献1は、特開2009-29404号公報(以下「刊行物1」という。)であり、引用文献2は、国際公開第2008/114668号(以下「刊行物2」という。)である。

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物の記載事項
ア 刊行物1
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコア、カーカス層、トレッドゴム層、インナーライナー、サイド補強層及びビードフィラーを具える空気入りタイヤであって、(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上を含み、かつ加硫ゴム物性において、100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上及び正接損失tanδの28℃?150℃におけるΣ値が6.0以下であるゴム組成物を用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
ゴム組成物において、(B)カーボンブラックが、FEF級グレード、FF級グレード、HAF級グレード、ISAF級グレード及びSAF級グレードの中から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
(B)カーボンブラックがFEF級グレードである請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
ゴム組成物において、(A)ゴム成分が、アミン変性共役ジエン系重合体を含むものである請求項1?3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
・・・
【請求項6】
アミン変性共役ジエン系重合体が、一級アミン変性共役ジエン系重合体である請求項4又は5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
一級アミン変性共役ジエン系重合体が、共役ジエン系重合体の活性末端に、保護化一級アミン化合物を反応させて得られたものである請求項6に記載の空気入りタイヤ。
・・・
【請求項10】
保護化一級アミン化合物が、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシランである請求項7?9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
サイド補強層に、前記ゴム組成物を用いてなる請求項1?10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」(特許請求の範囲の欄、請求項1?4、6、7、10、11)
(1b)「【0001】
本発明は、加硫ゴム特性において、100%伸張時弾性率がある値以上であり、かつ正接損失tanδの28℃?150℃におけるΣ値がある値以下のゴム組成物を、特にサイド補強層及び/又はビードフィラーに用いてなる、通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく、ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤに関する。」
(1c)「【0002】
従来、空気入りタイヤ、特にランフラットタイヤにおいて、サイドウォール部の剛性向上のために、ゴム組成物単独又はゴム組成物と繊維等の複合体によるサイド補強層が配設されている。(例えば、特許文献1参照)
空気入りタイヤは、パンク等によりタイヤの内部圧力(以下、内圧という)が低下した場合での走行、いわゆるランフラット走行状態になると、タイヤのサイドウォール部やビードフィラーの変形が大きくなり、発熱が進み、場合によっては200℃以上に達する。このような状態では、サイド補強層を具えた空気入りタイヤであっても、サイド補強層やビードフィラーが破壊限界を超え、タイヤ故障に至る。
このような故障に至るまでの時間を長くする手段として、サイド補強層やビードフィラーに用いるゴム組成物に硫黄を高配合し、ゴム組成物を高弾性化することにより、タイヤのサイドウォール部やビードフィラーの変形量を抑える手法があるが、タイヤの通常走行時の転がり抵抗が高くなり低燃費性が低下する問題がある。」
(1d)「【0006】
本発明は、このような状況下で、通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく、ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することを目的とするものである。」
(1e)「【0008】
本発明によれば、加硫ゴム物性において、100%伸張時弾性率が10MPa以上であり、かつ正接損失tanδの28℃?150℃におけるΣ値が6.0以下のゴム組成物を、特にタイヤのサイド補強層及び/又はビードフィラーに用いることにより、通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく、ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することができる。」
(1f)「【0010】
[ゴム組成物]
前述した本発明の空気入りタイヤにおいては、サイド補強層8及び/又はビードフィラー7に、(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上を含み、かつ加硫ゴム物性において100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上及び正接損失tanδの28℃?150℃におけるΣ値が6.0以下であるゴム組成物を用いることができる。
((A)ゴム成分)
本発明に係るゴム組成物における(A)ゴム成分としては、共役ジエン系重合体をアミン変性したアミン変性共役ジエン系重合体を含むものを好ましく用いることができ、このようなアミン変性共役ジエン系重合体を30質量%以上、好ましくは50質量%以上の割合で含むものを用いることができる。ゴム成分が上記変性共役ジエン系重合体を30質量%以上含むことにより、得られるゴム組成物は低発熱化し、ランフラット走行耐久性が向上した空気入りタイヤ与えることができる。」
(1g)「【0026】
<縮合促進剤>
本発明では、前記した変性剤として用いる保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために、縮合促進剤を用いることが好ましい。
・・・
ここで用いる縮合促進剤は、前記変性反応前に添加することもできるが、変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することが好ましい。変性反応前に添加した場合、活性末端との直接反応が起こり、活性末端に保護された第一アミノ基を有するヒドロカルビロキシ基が導入されない場合がある。
縮合促進剤の添加時期としては、通常、変性反応開始5分?5時間後、好ましくは変性反応開始15分?1時間後である。
・・・
【0031】
本発明における縮合反応は、上述の縮合促進剤と、水蒸気又は水の存在下で進行する。
・・・
【0032】
なお、縮合反応時間は、通常、5分?10時間、好ましくは15分?5時間程度である。
・・・
本発明の変性共役ジエン系重合体の変性剤由来の一級アミノ基は、上述のように脱保護処理を行うことによって生成する。上述したスチームストリッピング等の水蒸気を用いる脱溶媒処理以外の脱保護処理の好適な具体例を以下に詳述する。
すなわち、一級アミノ基上の保護基を加水分解することによって遊離した一級アミノ基に変換する。これを脱溶媒処理することにより、一級アミノ基を有する変性共役ジエン系重合体を得ることができる。なお、該縮合処理を含む段階から、脱溶媒して乾燥ポリマーまでのいずれかの段階において必要に応じて変性剤由来の保護された一級アミノ基の脱保護処理を行うことができる。」
(1h)「【0036】
((B)カーボンブラック)
本発明に係るゴム組成物においては、(B)成分としてカーボンブラックを、前述の(A)ゴム成分100質量部に対して、55質量部以上の割合で用いることを要す。・・・当該カーボンブラックの好ましい量は55?70質量部であり、より好ましくは60?70質量部である。・・・」
(1i)「【0047】
実施例1?4及び比較例1?4
第1表に示す配合A?Hの配合組成を有する8種のゴム組成物を調製し、それぞれ加硫ゴム物性、すなわちM100及びΣtanδ(28?150℃)を求めた。
次に、これらの8種のゴム組成物を、図1に示すサイド補強層8及びビードフィラー7に配設し、それぞれタイヤサイズ215/45ZR17の乗用車用ラジアルタイヤを定法に従って製造し、それらのタイヤについてランフラット耐久性及び乗り心地性を評価した。それらの結果を第1表に示す。なお、サイド補強層の最大厚みを補強ゴムゲージとして求め、第1表に示した。
【0048】


[注]
1)天然ゴム:TSR20
2)未変性ポリブタジエン:JSR社製BR01
3)一級アミン変性ポリブタジエン:製造例1で得られたもの
4)カーボンブラック:FEF(N550)、旭カーボン社製「旭#60」
・・・」

イ 刊行物2
(2a)「[0001]本発明は、空気入りタイヤに関し、特に、特に劣化が生じやすいタイヤサイド部の温度低減を図ることができる空気入りタイヤに関する。」
(2b)「[0002]一般に、空気入りタイヤにおけるタイヤ温度の上昇は、材料物性の変化などの経時的変化を促進したり、高速走行時にはトレッド部の破損などの原因になり、耐久性の観点から好ましくないとされている。特に、重荷重での使用となるオフザロードラジアルタイヤ(ORR)や、トラック・バスラジアルタイヤ(TBR)、パンク走行時(内圧0kPa走行時)のランフラットタイヤにおいては、耐久性を向上させるために、タイヤ温度を低減させることが大きな課題となっている。
[0003]例えば、トレッド幅方向の断面形状が三日月状のサイドウォール補強層を有するランフラットタイヤでは、パンク走行時にタイヤ径方向の変形がサイドウォール補強層に集中して、該サイドウォール補強層が非常に高温に達してしまい、耐久性に多大な影響を与えている。」
(2c)「[0008]そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、効率の良い放熱によってタイヤ温度、特に、タイヤサイド部内の温度低減を図り、耐久性を向上させることができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。」
(2d)「[0009]本発明は、次のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴に係る発明は、タイヤ表面に、内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた空気入りタイヤであって、乱流発生用突起が、延在方向に対する直交方向で切断した断面形状で見たときにエッジ部を有し、空気流が突き当たる乱流発生用突起の前壁面とタイヤ表面とがなす前壁角度が、70°?110°の範囲に設定されることを要旨とする。」
(2e)「[0010]かかる特徴によれば、空気入りタイヤが回転すると、タイヤ表面には相対的にほぼタイヤ周方向に沿って流れる空気流が発生する。この空気流は、乱流発生用突起によって乱流となってタイヤ表面を流れ、該タイヤ表面と積極的な熱交換を行う。
[0011]タイヤ表面を流れる乱流の流れを詳しく説明すると、空気流は、乱流発生用突起の位置では上昇し、乱流発生用突起の存在しない位置では下降する上下乱流となる。特に、乱流発生用突起がエッジ部を有していることによって、空気入りタイヤの回転に伴い空気流が乱流発生用突起を乗り越える際に、タイヤ表面から剥離され易い。このため、タイヤ表面から一旦剥離された空気流は、乱流発生用突起のタイヤ回転方向後側(下流側)で発生する負圧により急激にタイヤ表面に下降して衝突する乱流となり、タイヤ表面との熱交換を促進させることができる。
[0012]また、乱流発生用突起の前壁角度θ1が70°?110°の範囲に設定されることによって、上下乱流は、エッジ部で剥離する空気の角度をある程度大きくすることができ、乱流発生用突起の下流側で激しい下降流となってタイヤ表面に突き当たるため、タイヤ表面と積極的な熱交換が行われる。これにより、タイヤ表面に設けられた乱流発生用突起によって、タイヤ温度の低減を確実に図ることができ、耐久性を向上させることができる。」
(2f)「〔0058〕この乱流発生用突起10は、トレッド幅方向断面断面で見たときにエッジ部10fを有している(図1及び図3参照)。すなわち、エッジ部10fは、乱流発生用突起10の内側面10cと上面10eとによって形成されている。
〔0059〕また、乱流発生用突起10は、延在方向に対する直交方向Aで切断した断面(以下、突起幅断面)で見たときにエッジ部10gを有している。すなわち、エッジ部10gは、乱流発生用突起10の前壁面10aと上面10eとによって形成されている。」

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1の摘示(1a)によれば、刊行物1には、
ア ビードコア、カーカス層、トレッドゴム層、インナーライナー、サイド補強層及びビードフィラーを具える空気入りタイヤであって、(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上を含み、かつ加硫ゴム物性において、100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上及び正接損失tanδの28℃?150℃におけるΣ値が6.0以下であるゴム組成物を用いた空気入りタイヤ(請求項1)であって、
イ 前記サイド補強層に、前記ゴム組成物を用いること(請求項11)、
ウ 前記(A)ゴム成分が、アミン変性共役ジエン系重合体を含むものであり(請求項4)、該アミン変性共役ジエン系重合体が、一級アミン変性共役ジエン系重合体であり(請求項6)、該一級アミン変性共役ジエン系重合体が、共役ジエン系重合体の活性末端に、保護化一級アミン化合物を反応させて得られたものであり(請求項7)、該保護化一級アミン化合物が、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシランであること(請求項10)、及び、
エ 前記(B)カーボンブラックがFEF級グレードであること(請求項2、3)、が記載されているものといえる。

以上によれば、刊行物1には、
「ビードコア、カーカス層、トレッドゴム層、インナーライナー、サイド補強層及びビードフィラーを具える空気入りタイヤであって、(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上を含み、かつ加硫ゴム物性において、100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上及び正接損失tanδの28℃?150℃におけるΣ値が6.0以下であるゴム組成物を用いた空気入りタイヤであって、
前記サイド補強層に、前記ゴム組成物を用いるものであり、
前記(A)ゴム成分が、アミン変性共役ジエン系重合体を含むものであり、該アミン変性共役ジエン系重合体が、一級アミン変性共役ジエン系重合体であり、該一級アミン変性共役ジエン系重合体が、共役ジエン系重合体の活性末端に、保護化一級アミン化合物を反応させて得られたものであり、該保護化一級アミン化合物が、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシランであり、
前記(B)カーボンブラックがFEF級グレードである、空気入りタイヤ。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「空気入りタイヤ」は、本願発明の「空気入りタイヤ」及び「タイヤ」に相当する。
イ 引用発明の「ゴム組成物」は、空気入りタイヤの「サイド補強層」に用いられるものであるから、本願発明の「タイヤサイド部を構成するサイド補強ゴム」及び「ゴム組成物」に相当する。
ウ 引用発明の「共役ジエン系重合体の活性末端」は、本願発明の「共役ジエン系重合体の末端」に相当する。
エ 本願明細書には、「活性末端に効率よく第一アミノ基を導入する変性剤として、加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物が用いられる。
例えば・・・N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン・・・である」(段落【0033】)と記載されているから、引用発明の「N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン」からなる「保護化一級アミン化合物」は、本願発明の「加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物」に相当する。
オ 引用発明の「共役ジエン系重合体の活性末端に、保護化一級アミン化合物を反応させ」ることは、その技術的意義において、本願発明の「共役ジエン系重合体の末端と第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物との変性反応により該末端に第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体が導入され」ることに相当する。
カ 引用発明の「一級アミン変性共役ジエン系重合体」からなる「アミン変性共役ジエン系重合体」と本願発明の「変性共役ジエン系重合体」とは、少なくとも上記オの変成反応を経て生成されるものであるから、かかる限度において、両者は「変成共役ジエン系重合体」として共通するものといえる。
キ 引用発明の「(B)カーボンブラック」は、本願発明の「カーボンブラック」に相当する。
ク 引用発明の「ゴム組成物」は、「(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上を含み」構成されるものであり、上記(A)ゴム成分は「アミン変性共役ジエン系重合体を含むもの」であるから、かかるゴム組成物と本願発明の「変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が20?90m^(2)/gであるカーボンブラックを10?100質量部配合してなるゴム組成物」とは、「変性共役ジエン系重合体を含むゴム成分に対して、カーボンブラックを配合してなるゴム組成物」の点で共通するものといえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「空気入りタイヤであって、タイヤサイド部を構成するサイド補強ゴムに、共役ジエン系重合体の末端と第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物との変性反応により該末端に第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体が導入されることにより得られる変性共役ジエン系重合体を含むゴム成分に対して、カーボンブラックを配合してなるゴム組成物を用いるタイヤ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
空気入りタイヤについて、本願発明は、「タイヤサイド部のタイヤ表面に、内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた」ものであって、「前記各乱流発生用突起は、径方向断面で見たときにエッジ部を有すると共に、タイヤ表面に対して空気流が突き当たる前壁面との前壁角度が70度?110度の範囲」で構成されているのに対し、引用発明はそのような乱流発生用突起を具備していない点。

(相違点2)
変性共役ジエン系重合体の変性反応に関し、本願発明は、「さらに該変性反応の途中及び又は終了後に該変性反応系に縮合促進剤が加えられる」のに対して、引用発明はそのように特定されていない点。

(相違点3)
ゴム組成物について、本願発明は、「変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が20?90m^(2)/gであるカーボンブラックを10?100質量部配合してなるゴム組成物」を用いるのに対し、引用発明は、「(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上」を含み構成されるものであり、上記(A)ゴム成分は「アミン変性共役ジエン系重合体を含むもの」であり、「前記(B)カーボンブラックがFEF級グレード」のものを用いる点。

4 検討
(1)相違点1について
ア 引用発明は、従来の空気入りタイヤにおける問題、すなわち、少なくとも、ランフラット走行状態時に、タイヤのサイドウォール部やビードフィラーの変形が大きくなり、発熱が進み、場合によってはサイド補強層やビードフィラーが破壊限界を超えタイヤ故障に至るといった問題等に鑑みて(摘示(1c))、通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく、ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供するという課題を解決しようとするものである(摘示(1d))。
イ 他方、刊行物2には、特に劣化が生じやすいタイヤサイド部の温度低減を図ることができる空気入りタイヤについて開示されているところ(摘示(2a))、少なくとも、サイドウォール補強層を有するランフラットタイヤにおいて、パンク走行時にタイヤ径方向の変形がサイドウォール補強層に集中し、該サイドウォール補強層が高温になることで耐久性に多大な影響を与えるという問題に鑑みて(摘示(2b))、効率の良い放熱によってタイヤ温度、特に、タイヤサイド部内の温度低減を図り、耐久性を向上させることができる空気入りタイヤを提供することを課題とするものであるから(摘示(2c))、引用発明と刊行物2に記載された技術事項は、技術分野のみならず、その解決すべき課題も多分に共通したものということができる。
ウ そして、刊行物2には、かかる課題を解決するために、空気入りタイヤのタイヤ表面に、内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設け、前記乱流発生用突起が、延在方向に対する直交方向で切断した断面形状で見たときにエッジ部を有し、空気流が突き当たる乱流発生用突起の前壁面とタイヤ表面とがなす前壁角度が、70°?110°の範囲に設定することが記載されており(摘示(2d))、また、上記乱流発生用突起は、その内側面10cと上面10eとによって形成されているエッジ部10f、及びその前壁面10aと上面10eとによって形成されているエッジ部10gが設けられていることから(摘示(2f))、径方向断面で見たときにエッジ部を有することも明らかである。
そうすると、引用発明において、ランフラット耐久性をさらに向上させることを目的として、刊行物2に記載された上記乱流発生用突起に係る技術事項の適用を試みることは、かかる課題を認知する当業者にとって格別困難なこととはいえず、その適用を試みる動機付けも十分存在するものといえる。
エ したがって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明に上記刊行物2に記載された技術事項を適用し、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(2)相違点2について
刊行物1には、「本発明では、前記した変性剤として用いる保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために、縮合促進剤を用いることが好ましい。・・・ここで用いる縮合促進剤は、前記変性反応前に添加することもできるが、変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することが好ましい。・・・」(摘示(1g))と記載されており、引用発明において、縮合促進剤を、変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することは想定されている。
したがって、上記相違点2に係る本願発明の構成は、当業者が適宜なし得る程度のものである。

(3)相違点3について
ア 刊行物1には、引用発明に係る実施例1、2として、天然ゴム30質量部及び一級アミン変性ポリブタジエン70質量部からなるゴム成分が記載され、また、実施例3として、天然ゴム50質量部及び一級アミン変性ポリブタジエン50質量部からなるゴム成分が記載されており(摘示(1i))、いずれも一級アミン変性ポリブタジエンを10質量%以上含むことが明らかであるから(単純計算すれば、実施例1,2は70質量%、実施例3は50質量%)、引用発明において、ゴム成分として、変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むものを用いることは想定の範囲といえる。
イ また、引用発明の「(B)カーボンブラック」は、「FEF級グレード」のものからなり、FEF級グレードの窒素吸着比表面積が20?90m^(2)/gの範囲を充足することは技術常識であるから(必要ならば、国際公開2006/9002号:段落〔0026〕、株式会社ブリヂストン編著「自動車用タイヤの基礎と実際」 東京電機大学出版局 2008年4月10日発行 267?270頁 表5-1-8 等参照)、引用発明の「(B)カーボンブラック」として、窒素吸着比表面積が20?90m^(2)/gの範囲のものを採用することも、想定の範囲といえる。
ウ さらに、引用発明のゴム組成物は、「(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上を含み」構成されるものであるところ、刊行物1には、カーボンブラックの好ましい量として「55?70質量部」で設定することが記載され(摘示(1h))、「10?100質量部」の範囲を充足する範囲で設定することも記載されている。
エ 以上、上記ア?ウによれば、ゴム成分として、変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むものを用いること、(B)カーボンブラックとして、窒素吸着比表面積が20?90m^(2)/gの範囲のものを採用すること、さらに、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを10?100質量部配合することとは、引用発明においても、想定され実施の範囲といえるから、上記相違点3に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(4)発明の効果について
請求人は、平成26年5月12日付けの審判請求書の「(引用文献1と引用文献2との組み合わせについて)」の項で、刊行物1は、空気入りタイヤに用いるゴム組成物に関する発明であり、刊行物2は、空気入りタイヤ表面の形状に関する発明であるので、双方の技術的思想には関連性がなく、当業者であっても双方の発明を組み合わせることにより格別顕著な効果を予期し得ない旨主張する。
しかし、上記(1)で述べたとおり、引用発明と刊行物2に記載された技術事項は、技術分野のみならず、解決すべき課題も多分に共通するものであるから、両者を組み合わせる動機付は十分存在するし、その組み合わせを妨げる事情が存在するものと解すべき理由もない。
また、刊行物1及び刊行物2に接した当業者は、空気入りタイヤにおいて、そのゴム組成物によるランフラット耐久性を向上させるという効果(摘示(1e)(1f))、及びその表面に乱流発生用突起を設けることによるランフラット耐久性を向上させるという効果(摘示(2b)(2e))をそれぞれ理解し得るのであるから、その組み合わせによるランフラット耐久性がさらに向上するという効果も予測の範囲といえ、請求人の上記主張は採用できない。
したがって、本願発明が奏する作用効果は、刊行物1及び刊行物2に接した当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

5 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-02 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-21 
出願番号 特願2011-511476(P2011-511476)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 博之  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 出口 昌哉
氏原 康宏
発明の名称 タイヤ  
代理人 大谷 保  

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