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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1314320
異議申立番号 異議2016-700144  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-19 
確定日 2016-04-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第5765228号「二次電池用多孔膜及び二次電池」の請求項1?22に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5765228号の請求項1?22に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5765228号の請求項1?22に係る特許についての出願は、2010年9月29日(優先権主張2009年9月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月26日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人株式会社レクレアルにより特許異議の申立てがされたものである。

2 本件特許
特許第5765228号の請求項1?22に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、国際公開第2005/011043号(以下、「甲第1号証」という)、国際公開第98/39808号(以下、「甲第2号証」という。)、特開平11-149929号公報(以下、「甲第3号証」という)、及び、奥田平、稲垣寛、合成樹脂エマルジョン、株式会社高分子刊行会、1986年2月、初版第3刷、第79?99頁(以下、「甲第4号証」という)を提出し、請求項1?22に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?22に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4 甲号証の記載
(1)本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証には以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審が付した。以下同様。)
ア 「本発明の目的の一つは、多孔膜における樹脂結着剤の含有量を少量に制限するとともに、樹脂結着剤の構成モノマーを選択することにより、耐熱性、必要な強度およびリチウムイオン伝導性を確保し得る多孔膜を用いることにより、安全性とハイレート特性を両立するリチウムイオン二次電池を提供することである。」(明細書第3頁第15?19行)
イ 「本発明は、リチウムイオン二次電池であって、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、
前記正極と負極との間に介在する多孔膜と、
非水電解液からなり、
前記多孔膜は、前記正極および負極の少なくとも一方の表面に接着されており、
前記多孔膜は、フィラーおよび樹脂結着剤からなり、
前記多孔膜における前記樹脂結着剤の含有量は、前記フィラー100重量部あたり、1.5?8重量部であり、
前記樹脂結着剤は、アクリロニトリル単位、アクリレート単位またはメタクリレート単位を含むリチウムイオン二次電池に関する。」(明細書第4頁第22行?第5頁第7行)
ウ 「前記樹脂結着剤は、コアシェル型のゴム粒子からなり、前記ゴム粒子は、粘着性表層部を有することが好ましい。」(明細書第5頁第20?21行)
エ 「本発明は、また、前記正極と前記負極とが、前記多孔膜およびセパレータを介して渦巻状に捲回されているリチウムイオン二次電池に関する。
本発明は、上記リチウムイオン二次電池の製造法であって、(a)フィラー100重量部と、アクリロニトリル単位、アクリレート単位またはメタクリレート単位を含む樹脂結着剤1.5?8重量部と、前記フィラーの分散媒とを含むペーストを調製し、(b)前記ペーストを、正極および負極の少なくとも一方の表面に塗布し、(c)前記電極の表面に塗布されたペーストを100℃以上180℃以下の温度で乾燥する工程を有する製造法に関する。
本発明によれば、多孔膜における樹脂結着剤の含有量が少量に制限され、樹脂結着剤がアクリロニトリル単位、アクリレート単位またはメタクリレート単位を含むことから、耐熱性、必要な強度およびリチウムイオン伝導性がバランス良く確保され、安全性とハイレート特性を両立するリチウムイオン二次電池を提供することができる。」(明細書第6頁第14行?第7頁第1行)
オ 「樹脂結着剤の含有量が、フィラー100重量部あたり、1.5重量部未満では、十分な強度を有する多孔膜を得ることができない。また、好適な伸び率を有する多孔膜を得ることができない。
一方、樹脂結着剤の含有量が、フィラー100重量部あたり、8重量部を超えると、多孔膜内に十分な空隙を形成することができず、レート特性が低下する。」(明細書第8頁第10?15行)
カ 「ここで、樹脂結着剤は、少量でも十分な結着効果を発揮し得る粘着性表層部を有するコアシェル型のゴム粒子を含むことが望ましい。
コアシェル型のゴム粒子を用いる場合、フィラー粒子間を点接着できるため、多孔膜の内部に、より多くの空隙を確保することができ、電解液もしくはリチウムイオンの移動経路を十分に確保することができる。また、多孔膜は、応力に対する耐性を十分に確保することができる。
その様子を図1に概念的に示す。フィラー粒子12同士はコアシェル型のゴム粒子11により点接着されているため、正極13と負極14との間には多くの空隙15が確保されている。したがって、電解液もしくはリチウムイオンの移動が大きく妨げられることがないため、リチウムイオン伝導性は十分に確保され、優れたレート特性を維持することが可能となる。すなわち、リチウムイオンの移動経路の確保が容易になる。また、点接着によれば、少量のゴム粒子の使用であってもセパレータの強度や伸び率を確保することが可能である。
ゴム粒子の平均粒径は、0.05?0.3μmであることが、強度および空隙率のバランスのよい多孔膜を得ることができる点で好ましい。
コアシェル型のゴム粒子の粘着性表層部は、アクリレート単位を含むことが好ましい。アクリレート単位としては、2-エチルヘキシルアクリレートが好適である。」(明細書第9頁第1?19行)
キ 「多孔膜の原料ペーストは、フィラーと樹脂結着剤とを、液状成分に分散させることにより調製する。このときの液状成分には、水、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)、アセトン、低級アルコールなどを用いてもよく、非水電解液を用いてもよい。」(明細書第12頁第16?19行)
ク 「実施例1
図2および図3を参照しながら説明する。
(i)正極の作製
・・・
(ii)負極の作製
・・・
(iii)多孔膜の形成
表1および2に示すような割合で、原料を混合して、多孔膜の原料ペーストを調製した。ペーストにおける原料(フィラーおよび樹脂結着剤の合計)の含有量は、いずれの場合も50重量%とした。
樹脂結着剤がBM500Bを含む場合には、フィラーおよび樹脂結着剤をNMPに分散もしくは溶解させ、混練して、原料ペーストを調製した。
樹脂結着剤がAD-211を含む場合には、フィラーおよび樹脂結着剤を水に分散もしくは溶解させ、混練して、原料ペーストを調製した。
次に、多孔膜の原料ペーストを、負極27の片面に負極合剤26が完全に覆われるように、厚さ20μmで塗工し、多孔膜31を形成した。そして、多孔膜の外観を観察し、剥がれの有無を確認した。




以下に原料について説明する。
[樹脂結着剤]
樹脂結着剤には、コアシェル型のゴム粒子と、分子量35万のポリフッ化ビニリデン(PVDF)もしくはカルボキシメチルセルロース(CMC)とを併用した。
ここでは、コアシェル型のゴム粒子には、それぞれアクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるゴム粒子である日本ゼオン(株)製のBM500BもしくはAD-211を用いた。ゴム粒子の平均粒径は、いずれも0.2μmである。
・・・
[フィラー]
フィラーには、Al_(2)O_(3)を用いた。ここでは、平均粒径0.4μmのアルミナaを単独で、もしくはアルミナaと平均粒径0.01?0.15μmのアルミナbとの混合物を用いた。・・・
(iv)電池の組立
その後、図2に示すように多孔膜31の上に正極23を配し、一対の正極と負極からなる積層型の単電池を構成した。この単電池をアルミニウムラミネートシートからなる外装体32で被覆し、その後、非水電解液を外装体内に注入した。
ここで、非水電解液には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:1:1の混合溶媒に、1mol/リットルの濃度になるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6))を溶解したものを用いた。また、混合溶媒に対して4体積%のビニレンカーボネートを非水電解液に添加した。
次いで、正極リード24と負極リード28の一部を覆う樹脂シール材33を、それぞれ外装体32の開口端部に位置合わせし、各リードの自由端部を外部に引き出した状態で真空下で外装体32を密閉した。こうして、図3に示されるような理論容量600mAhのリチウムイオン二次電池を完成した。」(明細書第19頁第9行?第23頁第16行)
ケ 「(viii)評価結果
表1の結果より、多孔膜内の樹脂結着剤の量が少ないと、多孔膜に剥がれが生じることから、十分な強度を有する多孔膜が得られないことがわかる。また、樹脂結着剤が多すぎると、レート特性が大きく低下することがわかる。
一方、多孔膜における樹脂結着剤の含有量を、フィラー100重量部あたり、1.5?8重量部とした場合には、高度な安全性と好適なハイレート特性が得られている。このことは、フィラーと樹脂結着剤との混合割合が重要であることを示唆している。また、樹脂結着剤がリチウムイオン伝導性を維持しながら多孔膜強度を維持するのに好適な物性を有することを示唆している。
次に、アルミナaとアルミナbとの平均粒径の比(B/A値)が大きくなるに従い、レート特性が漸減する傾向があることがわかる。一方、B/A値が小さすぎると、多孔膜の強度が低下する傾向があることがわかる。
なお、フィラーの平均粒径が小さすぎると、その表面積が大きくなるため、樹脂結着剤が不足して、多孔膜に剥がれが生じる傾向が見られる。一方、フィラ一の平均粒径が大きすぎると、樹脂結着剤が余剰となって、ハイレー卜特性が低下する傾向が見られる。」(明細書第24頁第11行?第25行第5行)

(2)本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「このように公知のゴムをバインダーとして使用した場合には、結着持続性に対してはゴムが有する弾性が大きな効果を示すものの活物質と集電体や活物質同士の結着性に対しては十分な効果がない。
・・・従って、結着性および結着持続性に優れ、かつ電池特性にも優れた新たなリチウム二次電池用バインダーの開発が求められているのが現状である。
発明の開示
上記のような従来技術に鑑み、本発明の目的は、結着性と結着持続性とのバランスがよく、優れた電池特性を示すリチウム二次電池電極用バインダーを提供することにある。」(明細書第2頁第20行?第3頁第3行)
イ 「本発明の電池電極用バインダーを構成する複合ポリマー粒子は、化学構造が異なる2以上のポリマーが異相構造を形成している粒子である。ここで、「異相構造」とは、粒子構造体が、単一の均一相ではなく、互いに異なる2以上の相から構成されることを意味する。異相構造を形成する各ポリマーは、単に緻密に集合して凝集状態にあるのではなく、化学結合によって相互に結ばれている。好ましくは、複合ポリマー粒子を構成する2以上のポリマーの中には、ガラス転移温度(以下、Tgという)差が5℃以上である2種のポリマーが含まれる。
本発明で用いる複合ポリマー粒子は、・・・すなわち、単一粒子に化学構造が異なる2以上のポリマー(これらのポリマーは通常、主として結着性に寄与するポリマーと結着持続性に寄与するポリマーとである)があることを必須としている。」(明細書第3頁第27行?第4頁第11行)
ウ 「すなわち、集電体と活物質および活物質同士の結着性に寄与するポリマーは高Tgポリマーであり、充放電の繰り返しによる活物質の体積変動による活物質の脱着を防止する結着持続性に寄与するポリマーは低Tgポリマーであり、両方のポリマーを含有する複合ポリマー粒子が、バインダーとして結着性と結着持続性とをバランスよく保有すると考えられる。」(明細書第8頁第5?9行)
エ 「以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例中の部は、すべて重量部を表す。」(第16頁第25?26行)
オ 「実施例8
(ポリマーの製造)
攪拌機付き50Kgf/cm^(2)耐圧オートクレーブに、1,3-ブタジエン150部、メタクリル酸メチル30部、スチレン300部、架橋剤としてジビニルベンゼン5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム25部、イオン交換水1,500部を加え、重合開始剤としてアゾビスブチロニトリル15部を入れ、十分攪拌した後、80℃に加温し重合した。モノマー消費量が95%となった時、さらにアクリル酸n-ブチル340部、スチレン100部、イタコン酸20部、メタクリル酸メチル20部、アクリロニトリル20部、架橋剤としてジビニルベンゼン5部、イオン交換水200部を加え、十分に混合し、重合させ、モノマー消費量が99.8%となった時点で冷却し、反応を止め、複合ポリマー粒子gのラテックスを得た。この複合ポリマー粒子gは粒子径0.25μmであり、部分粒子径は0.20μmであった。そのTgは5℃と112℃であった。また、ゲル含量は94%であった。
実施例1と同様に透過型電子顕微鏡で観察した。複合ポリマー粒子dの殆どはコアシェル異相構造(図1)であり、いいだこ状異相構造(図4)および並置型異相構造(図5)を有する粒子も含まれていた。
(電池の製造と性能の評価)
この複合ポリマー粒子gのラテックスを用い、NMPの代わりにγ-ブチロラクトンを用いた他は、実施例1と同様にバインダー組成物Gを調整し、電池特性を測定した。」(明細書第26頁第21行?第27頁12行)

(3)本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】かかる従来技術のもと、本発明者らは、新たな電池用バインダーを得るべく鋭意研究の結果、pHが調整されたある種のラテックスを含むバインダー組成物を用いて電極を製造すると、活物質同士および活物質と集電体との結着性と結着持続性に優れ、さらに高い容量を与える優れた電池特性を示すことを見いだし、本発明を完成するに到った。」
イ 「【0019】本発明において複合ポリマー粒子は異形構造をとるが、この異形構造とは、通常ラテックスの分野でコアシェル構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造などと言われる構造(「接着」34巻1号第13?23頁記載、特に第17頁記載の図6参照)であり、具体的には図1に示すような各種の断面を有する構造である。図1に示されるコアシェル構造を有する複合ポリマー粒子の場合、核となるポリマー(以下、コア部という)とコア部を被覆するポリマー(以下、シェル部という)のガラス転移温度(以下、Tgということがある)は同一であっても良いし、Tgの低いポリマーとTgの高いポリマーのいずれがコア部となるポリマーであってもよい。またシェル部のポリマーはコア部全体を被覆していても部分的に被覆していても良いが、被覆率はコア部の表面積の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上となる量でシェル用モノマーを反応させるのがよい。コア部ポリマーやシェル部ポリマーはそれぞれ1種ずつ、または2種以上あってもよい。」
ウ 「【0037】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例に於ける部およびgは、特に断りがない限り重量基準である。・・・
【0038】実施例1
(ラテックスの製造)スチレン98部、メタクリル酸2部、t-ドデシルメルカプタン0.8部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部、過硫酸カリウム0.4部、イオン交換水200部を攪拌しながら、窒素雰囲気下70℃で6時間重合し、シードポリマー粒子を得た。
・・・
【0042】(バインダー組成物の製造)上述の方法により得られたラテックスAに、カルボキシメチルセルロースをポリマー粒子aに対して2:1(重量比)となる様に添加し、バインダー組成物Aを得た。
・・・
【0047】実施例2?9、比較例1?3
実施例1のシードポリマー粒子を用いて、実施例2?5(当審注:「5」は「9」の誤記である。)および比較例1?3のモノマー成分や組成を、表1、2または3に記載の成分や組成に変えた他は実施例1と同様にラテックスB?Kを作製した。・・・
・・・
【0050】
【表3】



(4)本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「6.2.2 カルボキシル化変性
特に疎水性ポリマーのエマルジョンの場合,アクリル酸またはメタクリル酸などの不飽和酸モノマーを共重合して中和すると,界面活性剤による保護の水準をはるかにこえる高い機械的安定性が得られる(図-10)^(6,7))。これは前述したように,図-2(b)に示したようなエマルジョン粒子と化学的に結合した保護層が形成されるためと考えられる。」(第88頁第13?21行)
イ 「疎水性ポリマーエマルジョンではカルボキシル化変性したエマルジョンが高いドライピグメント法(顔料混和性)を示すことが知られている。」(第98頁第2?3行)

5 申立理由の検討
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載事項クの実施例1に注目して、上記4(1)の記載事項ア?ケを整理すると、甲第1号証には、次に示した「甲1発明1」?「甲1発明3」が記載されているといえる。

ア 甲1発明1
「樹脂結着剤及びアルミナフィラーからなり、前記樹脂結着剤は、アクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるコアシェル型のゴム粒子を含む、リチウムイオン二次電池用多孔膜」

イ 甲1発明2
「樹脂結着剤、アルミナフィラー、液状成分を含み、前記樹脂結着剤は、アクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるコアシェル型のゴム粒子を含む、リチウムイオン二次電池用多孔膜の原料ペースト」

ウ 甲1発明3
「樹脂結着剤、アルミナフィラー、液状成分を含み、前記樹脂結着剤は、アクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるコアシェル型のゴム粒子を含む、リチウムイオン二次電池用多孔膜の原料ペーストを、負極の表面に塗布する工程と、負極の表面に塗布されたペーストを乾燥する工程を含む、リチウムイオン二次電池用多孔膜の製造方法」

(2)請求項1に係る発明について
ア 本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1の「樹脂結着剤」、「アルミナフィラー」、「リチウムイオン二次電池用多孔膜」は、本件特許発明1の「多孔膜用バインダー」、「非導電性粒子」、「二次電池用多孔膜」にそれぞれ相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明1とは、「多孔膜用バインダー、及び非導電性粒子を含んでなる二次電池用多孔膜」で一致し、「多孔膜用バインダー」が、本件特許発明1では、「ビニル単量体成分を重合してなるポリマーを内層とし、親水性官能基を有する単量体成分を重合してなるポリマーを外層とする異相構造を有するポリマー粒子であり、前記ビニル単量体成分を構成する単量体は、脂肪族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、アミド基含有(メタ)アクリル単量体、多官能ジ(メタ)アクリル単量体、芳香族ビニル単量体のいずれかを含み、ポリマー粒子における内層と外層との割合は、重量比(外層:内層)で10:90?70:30である」「多孔膜用バインダー」のに対して、甲1発明1では、「アクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるコアシェル型のゴム粒子を含む」「多孔膜用バインダー」である点で相違している。

イ 上記相違点について検討する。
甲第2号証には、上記4(2)の記載事項オによれば、実施例8として、コアシェル異相構造の複合ポリマー粒子からなるラテックスのバインダー組成物が記載され、複合ポリマー粒子に関して、コア部は、メタクリル酸メチルとスチレンを含み、シェル部は親水性官能基を有するイタコン酸を含み、コア部の単量体が485重量部(=150重量部+30重量部+300重量部+5重量部)とシェル部の単量体が505重量部(=340重量部+100重量部+20重量部+20重量部+20重量部+5重量部)である複合ポリマー粒子が記載されている。
また、甲第3号証には、上記4(3)の記載事項イ及びウによれば、実施例9として、コアシェル異相構造の複合ポリマー粒子からなるラテックスのバインダー組成物が記載され、複合ポリマー粒子に関して、コア部はアクリル酸n-ブチルとアクリルアミドを含み、シェル部は親水性官能基を有するイタコン酸を含み、コア部の単量体が850重量部(=300重量部+100重量部+20重量部+10重量部+10重量部+10重量部+160重量部+240重量部)とシェル部の単量体が425重量部(=200重量部+20重量部+200重量部+5重量部)である複合ポリマー粒子が記載されている。
これらの記載からみて、「ビニル単量体成分を重合してなるポリマーを内層とし、親水性官能基を有する単量体成分を重合してなるポリマーを外層とする異相構造を有するポリマー粒子であり、前記ビニル単量体成分を構成する単量体は、脂肪族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、アミド基含有(メタ)アクリル単量体、多官能ジ(メタ)アクリル単量体、芳香族ビニル単量体のいずれかを含み、ポリマー粒子における内層と外層との割合は、重量比(外層:内層)で10:90?70:30である」ポリマー粒子のバインダーは公知技術であるといえる。

ウ しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証に記載されたバインダーは、上記4(2)の記載事項ア?ウ、及び、上記4(3)の記載事項アによれば、集電体と活物質及び活物質同士の結着性と結着持続性の向上を目的とした二次電池用電極のバインダーであり、二次電池用多孔膜のバインダーとして用いることは、甲第2号証及び甲第3号証に記載されていないし、二次電池用電極のバインダーを二次電極用多孔膜のバインダーに用いることができるとの技術常識があるともいえない。
しかも、上記4(1)の記載事項ア、ウ、オ、カ及びケによれば、甲1発明1において、アクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるコアシェル型のゴム粒子を含む樹脂結着剤を用いることで、多孔膜の応力に対する耐性やイオン伝導性を確保し得る多孔膜を提供しているところ、甲第2号証又は甲第3号証に記載されたバインダーは、多孔膜の応力に対する耐性やイオン伝導性を確保できることは記載されていない。
したがって、甲1発明1のバインダーと、甲第2号証及び甲第3号証に記載されたバインダーとは、用途も目的も違うものであるから、甲1発明1の「二次電池用多孔膜」のバインダーに代えて、甲第2号証及び甲第3号証に記載されたバインダーを適用することは、当業者が容易になし得るとはいえない。

エ また、本件特許の明細書の【0010】、【0019】及び【0046】に記載されているように、本件特許発明1は、「ビニル単量体成分を重合してなるポリマーを内層とし、親水性官能基を有する単量体成分を重合してなるポリマーを外層とする異相構造を有するポリマー粒子であり、前記ビニル単量体成分を構成する単量体は、脂肪族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、アミド基含有(メタ)アクリル単量体、多官能ジ(メタ)アクリル単量体、芳香族ビニル単量体のいずれかを含み、ポリマー粒子における内層と外層との割合は、重量比(外層:内層)で10:90?70:30である」ポリマー粒子のバインダーを用いることで、リチウムイオン導電性を維持しつつ、多孔膜の柔軟性や割れが改善されるとの効果を奏するところ、甲第1号証?甲第3号証には、このような効果を奏することは記載も示唆もなされていない。
また、甲第4号証には、上記4(4)の記載事項ア及びイによれば、疎水性ポリマーのエマルジョンをカルボキシル化変性することで、顔料混和性が向上することが記載されているから、甲第2号証又は甲第3号証に記載された、親水性官能基を複合ポリマー粒子のバインダーを用いることで、バインダーと混和する活物質の混和性が向上することを当業者が予測できたとしても、多孔膜の柔軟性や割れが改善されるとの効果を奏することを予測できるとまではいえない。
したがって、本件特許発明1は、いずれの甲号証にも記載されていない格別の効果を奏するものであるといえる。

オ したがって、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲第2?4号証に記載された事項から当業者が容易になし得るものではない。

(3)請求項2?9、20?22に係る発明について
本件特許の請求項2?9、20?22に係る発明は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記(2)で検討したとおり、甲1発明1及び甲第2?4号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)請求項10に係る発明について
ア 本件特許の請求項10に係る発明(以下、「本件特許発明10」という。)と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2の「樹脂結着剤」、「アルミナフィラー」、「液状成分」、「リチウムイオン二次電池用多孔膜の原料ペースト」は、本件特許発明10の「多孔膜用バインダー」、「非導電性粒子」、「溶媒」、「二次電池多孔膜用スラリー」にそれぞれ相当する。
したがって、本件特許発明10と甲1発明2とは、「多孔膜用バインダー、非導電性粒子、及び溶媒を含む、二次電池多孔膜用スラリー」で一致し、「多孔膜用バインダー」が、本件特許発明10では、「ビニル単量体成分を重合してなるポリマーを内層とし、親水性官能基を有する単量体成分を重合してなるポリマーを外層とする異相構造を有するポリマー粒子であり、前記ビニル単量体成分を構成する単量体は、脂肪族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、アミド基含有(メタ)アクリル単量体、多官能ジ(メタ)アクリル単量体、芳香族ビニル単量体のいずれかを含み、ポリマー粒子における内層と外層との割合は、重量比(外層:内層)で10:90?70:30である」「多孔膜用バインダー」のに対して、甲1発明2では、「アクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるコアシェル型のゴム粒子を含む」「多孔膜用バインダー」である点で相違している。

イ 上記相違点は、上記(2)アで検討したのと同様の相違点であるから、上記(2)イ?キで検討したのと同様に、本件特許発明10は、甲1発明2及び甲第2?4号証に記載された事項から当業者が容易になし得るものではない。

(5)請求項11?18に係る発明について
本件特許の請求項11?18に係る発明は、本件特許発明10を更に減縮したものであるから、上記(4)で検討したとおり、甲1発明2及び甲第2?4号証に記載された事項から当業者が容易になし得るものではない。

(6)請求項19に係る発明について
本件特許の請求項19に係る発明(以下、「本件特許発明19」という。)と甲1発明3とを対比すると、甲1発明3の「樹脂結着剤」、「アルミナフィラー」、「液状成分」、「リチウムイオン二次電池用多孔膜の原料ペースト」、「負極」は、本件特許発明19の「多孔膜用バインダー」、「非導電性粒子」、「溶媒」、「二次電池多孔膜用スラリー」、「基材」にそれぞれ相当する。
したがって、本件特許発明19と甲1発明3とは、「多孔膜用バインダー、非導電性粒子、及び溶媒を含む、二次電池多孔膜用スラリーを基材に塗布する工程、及び前記スラリーが塗布された基材を乾燥する工程を含む、二次電池用多孔膜の製造方法」で一致し、「多孔膜用バインダー」が、本件特許発明19では、「ビニル単量体成分を重合してなるポリマーを内層とし、親水性官能基を有する単量体成分を重合してなるポリマーを外層とする異相構造を有するポリマー粒子であり、前記ビニル単量体成分を構成する単量体は、脂肪族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、アミド基含有(メタ)アクリル単量体、多官能ジ(メタ)アクリル単量体、芳香族ビニル単量体のいずれかを含み、ポリマー粒子における内層と外層との割合は、重量比(外層:内層)で10:90?70:30である」「多孔膜用バインダー」のに対して、甲1発明3では、「アクリロニトリル-アクリレート共重合体からなるコアシェル型のゴム粒子を含む」「多孔膜用バインダー」である点で相違している。

イ 上記相違点は、上記(2)アで検討したのと同様の相違点であるから、上記(2)イ?キで検討したのと同様に、本件特許発明19は、甲1発明3及び甲第2?4号証に記載された事項から当業者が容易になし得るものではない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-04-11 
出願番号 特願2011-534278(P2011-534278)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 小川 進
宮澤 尚之
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5765228号(P5765228)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 二次電池用多孔膜及び二次電池  
代理人 堀江 一基  
代理人 前田 均  
代理人 鈴木 亨  
代理人 松浦 孝  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  
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