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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1314346
異議申立番号 異議2016-700131  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-17 
確定日 2016-05-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第5765824号「プロトン交換膜の使用、当該プロトン交換膜を含むプロトン交換膜燃料電池、プロトン交換膜、および、プロトン交換膜を製造する方法」の請求項1、2、7、8、10?16、18、20?22に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5765824号の請求項1、2、7、8、10?16、18、20?22に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯

特許第5765824号の請求項1?28に係る特許についての出願は、2009年9月24日を国際出願日として特許出願され、平成27年6月26日にその特許権の設定登録がされたものであり、その後、その特許のうち、請求項1、2、7、8、10?16、18、20?22に係る特許に対し、特許異議申立人東レ株式会社より特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明

特許第5765824号の請求項1、2、7、8、10?16、18、20?22に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2、7、8、10?16、18、20?22に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠として、L. Joerissen et al.,“New membranes for direct methanol fuel cells”, Journal of Power Sources, 2002年3月20日, Volume 105, Issue 2, Pages 267-273(甲第1号証)、また、参考資料として、材料科学の基礎第2号,シグマアルドリッチジャパン株式会社,2010年6月(参考資料1)を提出し、以下の(1)及び(2)によって、請求項1、2、7、8、10?16、18、20?22に係る特許を取り消すべきものである旨主張している(なお、「Joerissen」の「oe」はoウムラウトの代替表示です。)。

(1)本件特許の請求項1、2、7、8、11?16、18、20?22に係る発明は、甲第1号証に記載の発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。
(2)本件特許の請求項1、2、7、8、10?16、18、20?22に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

4 甲号証及び参考資料の記載事項

(1)本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
ア 「Abstract
The performance of direct methanol fuel cells (DMFC) is limited by the cross-over of methanol through the electrolyte. Electrolyte membranes prepared by blending of sulfonated arylene main-chain polymers like sulfonated PEEK Victrex (sPEEK) or sulfonated PSU Udel (sPSU) with basic polymers like poly(4-vinylpyridine) (P4VP) or polybenzimidazole (PBI) show excellent chemical and thermal stability, good proton-conductivity, and good performance in H_(2) PEM fuel cells. Furthermore, these materials have potentially lower methanol cross-over when compared to standard Nafion-type membranes.」(第267頁Abstract欄第1?5行)
(当審訳:「要旨
直接メタノール型燃料電池(DMFC)の性能は、電解質を透過するメタノールのクロスオーバーによって制限される。スルホン化PEEK Victrex(sPEEK)やスルホン化PSU Udel(sPSU)のようなスルホン化したアリーレン主鎖高分子を、ポリ(4-ビニルピリジン)(P4VP)やポリベンゾイミダゾール(PBI)などの塩基性高分子とブレンドすることによって作製した電解質膜は、H_(2)PEM燃料電池において、卓越した化学的、熱的安定性、良好なプロトン伝導性、優れた性能を示す。さらに、これらの材料は、標準的なナフィオン型の膜と比較してメタノールのクロスオーバーが潜在的に低い。」)

イ 「A further promising alternative are composite membranes made from blends of acidic and basic polymers [37]. These membranes are made by blending acidic polymers such as sulfonated polysulfones (sPSU), sulfonated polyetherketones (sPEK) or sulfonated polyetheretherketones (sPEEK) with basic polymers such as poly(4-vinylpyridine) (P4VP), polybenzimidazole (PBI) or a basically substituted polysulfone (bPSU). In these materials, electrostatic forces from salt formation between acidic and basic groups achieve reversible cross-linking of the polymer, which is also clearly visible in IR-spectroscopy [37-39]. The materials show excellent thermal, mechanical, chemical and dimensional stability. Membranes of this type are called polyaryl membranes in the following.」(第268頁左欄第19?32行)
(当審訳:「さらに有望性の高い選択肢は、酸性と塩基性の高分子混合物から作製した複合膜である[37]。これらの膜は、スルホン化ポリスルホン(sPSU)、スルホン化ポリエーテルケトン(SPEK)、あるいは、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sPEEK)などの酸性高分子と、ポリ(4-ビニルピリジン)(P4VP)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、塩基的に置換したポリスルホン(bPSU)などの塩基性高分子をブレンドさせることによって作製される。これらの材料では、酸性基と塩基性基の間の塩形成によって発生する静電力によって高分子の可逆的架橋が実現し、IR分光法でもこれを明確に視認することができる[37-39]。この材料は、熱的、機械的、化学的、さらには寸法的にも卓越した安定性を示す。この種の膜を次節以降ではポリアリール膜と呼ぶこととする。」)

ウ 「For the work described in this paper, a DMFC using liquid fuel feed has been chosen since it allows for a simple system, allows operation at temperatures up to 130 ℃ requiring no or only limited cathode humidification.」(第268頁左欄第33?36行)
(当審訳:「本稿に詳述する研究では、液体燃料供給を使用するDMFCを選定した。それは、簡単なシステムが可能で、最高130℃で動作させることができ、カソードの加湿が不要であるか、もしく限定的なものですむからである。」

エ 「2.3. MEA preparation
Wet membranes were fixed in an aluminum frame, allowed to dry and covered by a mask (5cm×5cm). The catalyst ink was dispersed on the membranes by an air brush in multiple layers. In each layer, approximately 1 mg/cm^(2) of catalyst was deposited. The loading was determined by weighing the dried MEA. Membrane coating was carried out at a temperature of 120℃ for Nafion membranes, polyaryl type membranes sometimes required lower coating temperatures. Nafion-based MEAs were hot pressed at 130℃ at 140 bar for 3 min. The anode loading typically was 5 mg/cm^(2) Pt/Ru, the cathode loading was approximately 6 mg/cm^(2) Pt.
Toray graphite paper (TGP 60) was used as a media diffusion layer. At the cathode side teflonized (25 wt.% PTFE) TGP 60 was used.」(第268頁右欄第12?27行)
(当審訳:「2.3 MEAの作製
湿潤した膜をアルミニウムフレームに固定し、乾燥させてマスク(5cm×5cm)で被覆した。エアブラシを用いて触媒インクを膜上に複数の層に散布し、層ごとに約1mg/cm^(2)の触媒を付着させた。担持量は乾燥したMEAを計量することによって求めた。膜のコーティングは、ナフィオン膜では120℃で実施したが、ポリアリールタイプの膜ではこれよりも低いコーティング温度が必要な場合もあった。ナフィオンベースのMEAには、130℃、140barで3分間ホットプレスを行った。アノード担持量は通常は5mg/cm^(2)Pt/Ru、カソード担持量は約6mg/cm^(2)Ptであった。
東レのグラファイトペーパー(TGP60)を媒質拡散層として使用した。カソード側ではテフロン加工した(25wt%のPTFE)TGP60を使用した。」

オ 「2.4. Determination of current-voltage curves
All measurements were carried out in a graphite cell housing using serpentine type flow fields of 1 mm depth and width. The distance between channels was 1 mm. Current-voltage curves were determined galvanostatically. Aqueous methanol solution (1 mol/l) was fed by mass flow controllers at a flow rate of 4 ml/min. The anode pressure was 2.5 bar. The solution was preheated to cell temperature by heated tubing. Air was fed at a flow rate of 1.5 l/min at a pressure of 4 bar. CO_(2) evolution at the cathode was measured by a Fisher-Rosemound infrared analyzer as a measure for methanol cross-over. No correction has been applied for CO_(2) diffusion through the electrolyte membrane [41].」(第268頁右欄第28?40行)
(当審訳:「2.4 電流-電圧曲線の測定
すべての測定は、深さと幅が1mmの蛇行形状のフローフィールドを使用して、グラファイトセル筐体の中で実施した。チャネル間の距離は1mmとし、電流-電圧曲線を定電流的に求めた。マスフローコントローラにより、4ml/分の流量でメタノール水溶液(1mol/l)を供給した。アノード圧力は2.5barであった。溶液は加熱したチューブを用いてセル温度まで予熱した。空気は、4barの圧力で1.5l/分の流量で供給を行った。メタノールクロスオーバーを示す尺度としてFisher-Rosemountの赤外線分析計により、カソードにおけるCO_(2)の発生量を測定した。電解質膜からのCO_(2)拡散に対する修正は適用していない[41]。」)

カ 「3.2. Cells using polyaryl membranes
In the experiments using polyaryl type electrolyte membranes, anode loadings of 5 mg/cm^(2) and constant air flow of 1.5 l/min at a pressure at the cell exit of 4 bar were used. All polyaryl type membranes were stable to thermal decomposition above a temperature of 200 ℃. However, membranes containing PBI as a basic polymer proved to be most stable against mechanical stresses under fuel cell operating conditions. Addition of a basically substituted PSU (bPSU) proved to be possible. Therefore, MEAs made from membranes consisting of acidic polymers (sPEEK and sPEK) using PBI and different bPSU materials were studied. The details of membrane preparation were described in [39]. Table 2 shows some properties of the membranes used in this work. Structure formulas of the polymers used are depicted in Fig. 4.
Fig. 5 shows a current-voltage curve of a MEA using membrane sample 442. It is evident that this material shows excellent methanol blocking properties. However, the electrical performance was limited.
Fig. 6 shows the performance of a MEA made from membrane sample 504. Its electrical performance is comparable to the one achieved with Nafion 105. The electrical performance reaches almost the target of 500 mV at the rate of 500 mA/cm^(2). However, the methanol cross-over for this membrane is comparable to the one observed for Nafion 117. At a current density of 500 mA/cm^(2), the methanol cross-over amounts to an equivalent of approximately 90 mA/cm^(2).
Table 3 shows a comparison of the current densities achieved at different temperatures, when different membrane materials were used. Fig. 7 shows a plot of the current density at 500 mV and the methanol losses at a current density of 200 mA/cm^(2) at an operating temperature of 110 ℃. Nafion 105 and E504 are showing the best electrical performance. However, E504 shows reduced methanol losses. The lowest methanol losses were observed for E442.」(第270頁左欄第13行?第271頁右欄第7行)
(当審訳:「3.2 ポリアリール膜を用いたセル
ポリアリールタイプの電解質膜を用いた実験では、5mg/cm^(2)のアノード担持量と、4barのセル出口圧力で1.5l/分の一定気流を適用した。すべてのポリアリールタイプの膜は、200℃の温度を超える温度でも熱分解に対して安定性を示した。ただし、塩基性高分子としてPBIを含有する膜は、燃料電池の動作条件下において力学的応力に最も高い安定性を示すことが立証された。塩基的に置換したポリスルホン(bPSU)の添加が可能であることが証明された。これらのことから、PBI及び別のbPSU材料を用いて酸性高分子(sPEEK及びsPEK)で構成される膜から作製したMEAについて研究を行った。膜作製の詳細は[39]に記載さている。表2は、本研究で使用した膜のいくつかの特性を提示する。使用した高分子の構造式を図4に示す。
図5は、膜サンプル422を用いたMEAの電流-電圧曲線を示したものである。この材料が優れたメタノール遮断特性を示すことは明らかである。ただし、電気的性能は限定的なものであった。
図6は、膜サンプル504から作製したMEAの性能を提示する。電気的性能はナフィオン105で実現したものとほぼ同等である。その電気的性能は、500mA/cm^(2)のレートで500mVの目標にほぼ達成している。ただし、この膜におけるメタノールクロスオーバーはナフィオン117にみられたものと類似している。500mA/cm^(2)の電流密度におけるメタノールクロスオーバーは、約90mA/cm^(2)である。
表3は、異なる膜材料を使用した場合に、多様な温度において到達した電流密度を比較したものである。図7は、500mVにおける電流密度と、110℃の動作温度と200mA/cm^(2)の電流密度におけるメタノール損失の関係を示す。ナフィオン105とE504は最も優れた電気的性能を示している。しかしながら、E504の方がメタノール損失量は少ない。最も少ないメタノール損失量が観察されたのはE442であった。」)

キ「Table 2. Properties of polyaryl type membranes


(当審訳:「表2 ポリアリールタイプの膜の特性」)

ク「


(当審訳:「図4 酸塩基混合膜の作製に使用したアリーレン主鎖の高分子:(1)繰り返し単位ごとに0.6個のスルホン酸基を持つスルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン);(2)繰り返し単位ごとに0.4個のSO_(3)H基を持つスルホン化ポリ(エーテルケトン);(3)ポリベンゾイミダゾールCelazole(登録商標)PBI;(4)繰り返し単位ごとに1個のR1基で修飾したポリスルホン;(5)2個のR_(1)基で修飾したポリスルホン;(6)0.4個のR_(1)基で修飾したポリ(フェニレンオキサイド);(7)繰り返し単位ごとに2個のR_(2)基で修飾したポリスルホン。」)

ケ「Table 3. Temperature dependence current density (in mA/cm^(2)) achieved at a cell voltage of 500 mV


(当審訳:「表3 500mVのセル電圧で到達した電流密度(mA/cm^(2))の温度依存性」)

(2)参考資料1には以下の事項が記載されている。
ア 「§3-1.電解質膜
電解質膜の評価としては、プロトン伝導性、燃料や酸素の透過性、寸法変化率、化学的・機械的安定性などの測定が行われる。
電解質膜のプロトン伝導性評価セルの例を図3に示す。プロトン伝導率は、二端子法(図3a)や四端子法(図3b)を用いた交流インピーダンス法により測定される。四端子法は、電圧検出電極と通電電極で異なる電極を用いるため、より精度が高い手法であるといえる。電解質膜のプロトン伝導に由来する抵抗成分R_(membrane)[Ω]のみに由来する応答が得られることが理想であるが、二端子法を用いた場合など、実際の測定では電極と電解質膜の界面抵抗に由来する応答が表れるため、図3cに示すような等価回路を設定して解析を行う。図3cでRは界面に由来する抵抗成分、Cは界面に由来する容量成分を表す。得られたR_(membrane)から、式(3)を用いて、電解質膜のプロトン伝導率σ[S/cm]が求められる。
σ=l/R_(membrane)wd (3)
ここでl[cm]は電極間距離、w[cm]は試料の幅、d[cm]は膜厚である。実際の測定では電極間距離lを変えて複数回測定を行い、lとR_(membrane)が比例関係にあることを確認することが望ましい。

プロトン伝導率は、膜中のイオン交換基(スルホン酸基など)の量を表すイオン交換容量(IEC[meq/g])や、イオン伝導性ポリマーのミクロな構造と関連があることが知られている。ここで、IECはイオン交換基1当量に対応する膜の乾燥樹脂重量(EW[g/eq])の逆数の千倍である。」(第10頁右欄第3?26行)

(3)甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1)ア及びイの記載事項によれば、直接メタノール型燃料電池に使用する良好なプロトン伝導性の電解質膜であって、前記電解質膜は、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sPEEK)などの酸性高分子と、ポリベンゾイミダゾール(PBI)などの塩基性高分子をブレンドさせたポリアリール膜からなることが記載されているといえる。そして、上記(1)カ、キ及びクの記載事項、特に、上記(1)キの表2の「サンプル442」に注目すると、前記ポリアリール膜は、酸性高分子として、次の構造式のスルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)(sPEEK)と、

塩基性高分子として、次の構造式のポリベンズイミダゾール(PBI)と、

のブレンドを含むポリアリール膜といえ、このサンプル442の膜を使用したセルの結果に関して、上記(1)ケの表3によれば、500mVのセル電圧で到達した温度110℃での電流密度は302mA/cm^(2)であるといえる。

イ 上記アの記載事項を、本件特許の請求項1に係る発明の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、
「110℃で動作する直接メタノール型燃料電池における電解質膜の使用に関し、当該電解質膜が、
次の構造式のポリベンズイミダゾールと、

次の構造式のスルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)と、

のブレンドを含み、
前記電解質膜を使用したセルの500mVのセル電圧で到達した温度110℃での電流密度が302mA/cm^(2)である、
直接メタノール型燃料電池における電解質膜の使用」の発明が記載されているといえる。

5 当審の判断

(1)請求項1に係る発明について
ア 本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証に記載の発明は、本件特許の請求項1に係る発明の「前記プロトン交換膜Mは、含水量が前記プロトン交換膜Mの合計重量に基づいて10重量%以下の状態であり、インピーダンス法で測定した100℃以上の温度におけるプロトン伝導率が少なくとも10^(-5)S/cmである」との発明特定事項を備えておらず、また、甲第1号証には、当該発明特定事項が記載されているに等しいともいえない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明といえない。

イ また、甲第1号証に記載の発明の電解質膜が「含水量が前記プロトン交換膜Mの合計重量に基づいて10重量%以下の状態であり、インピーダンス法で測定した100℃以上の温度におけるプロトン伝導率が少なくとも10^(-5)S/cmである」との特性を有することを示す先行技術文献は示されておらず、また、このような事項が技術常識ともいえない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 特許異議申立人は、甲第1号証に記載の発明において、「電解質膜を使用したセルの500mVのセル電圧で到達した温度110℃での電流密度が302mA/cm^(2)である」こと、前記セルの触媒層の大きさが、上記4(1)エの記載事項のとおり「5cm×5cm」であること、サンプル442の電解質膜の膜厚が、上記4(1)キの記載事項のとおり「95μm」であることを根拠にして、上記4(2)アの記載事項とおり、参考文献1に記載された交流インピーダンス法における電解質膜のプロトン成分に由来する抵抗成分とプロトン伝導率との関係式を用いて、甲第1号証に記載の発明のプロトン伝導率が「5.8×10^(-3)S/cm」であることを算出して、甲第1号証に記載の発明のプロトン伝導率は、本件特許の請求項1に係る発明のプロトン伝導率を満足していると主張している。

エ しかしながら、本件特許の請求項1に係る発明の「前記プロトン交換膜Mは、含水量が前記プロトン交換膜Mの合計重量に基づいて10重量%以下の状態であり、インピーダンス法で測定した100℃以上の温度におけるプロトン伝導率が少なくとも10^(-5)S/cmである」との発明特定事項における「プロトン伝導率」は、「含水量が前記プロトン交換膜Mの合計重量に基づいて10重量%以下の状態」における「プロトン交換膜M」の「プロトン伝導率」といえる。

オ これに対して、甲第1号証に記載の発明のプロトン伝導率の算出の根拠である「電流密度」は、上記4(1)ウ及びオの記載事項のとおり、燃料としてメタノール水溶液を供給した直接メタノール型燃料電池として測定されており、当該測定時の電解質膜は、メタノール水溶液に接触して湿潤しているから、甲第1号証に記載の発明の上記「電流密度」も、電解質膜がメタノール水溶液で湿潤した状態で測定された値であるといえる。

カ そうしてみると、上記ウに記載したように、参考資料1に記載された交流インピーダンス法における電解質膜のプロトン成分に由来する抵抗成分とプロトン伝導率との関係式を用いて算出されたプロトン伝導率の値についても、電解質膜がメタノール水溶液で湿潤した状態での値といえ、電解質膜の含水量が10重量%以下の状態での値であるとは必ずしもいえないから、甲第1号証に記載の発明のプロトン伝導率が「5.8×10^(-3)S/cm」であることが、本件特許の請求項1に係る発明のプロトン伝導率を満足しているとは必ずしもいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張も妥当なものといえない。

キ 以上のとおり、特許異議申立人の主張は妥当なものでなく、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明といえないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明といえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるといえない。

(2)請求項2、7、8、10?16、18,20?22
本件特許の請求項2、7、8、10?16、18,20?22に係る発明は、本件特許の請求項1に係る発明を更に減縮したものである。
したがって、上記(1)で検討したとおり、本件特許の請求項2、7、8、11?16、18,20?22に係る発明は、甲第1号証に記載の発明といえず、特許法第29条第1項第3号に該当する発明といえない。また、上記(1)で検討したとおり、本件特許の請求項2、7、8、10?16、18,20?22に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるといえない。

6 むすび

したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、7、8、10?16、18,20?22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、7、8、10?16、18,20?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-06 
出願番号 特願2012-530131(P2012-530131)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (H01M)
P 1 652・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 進
宮澤 尚之
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5765824号(P5765824)
権利者 エーヴェーエー・フォルシュングスツェントルム・フュア・エネルギーテヒノロギー・エー・ファウ
発明の名称 プロトン交換膜の使用、当該プロトン交換膜を含むプロトン交換膜燃料電池、プロトン交換膜、および、プロトン交換膜を製造する方法  
代理人 特許業務法人R&C  

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