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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1314667
審判番号 不服2014-26767  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-26 
確定日 2016-05-11 
事件の表示 特願2009-507141「印刷用インク」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月15日国際公開、WO2007/129017、平成21年 9月24日国内公表、特表2009-534515〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、特許法第184条の3第1項の規定により、2007年 4月19日(パリ条約による優先権主張 2006年 4月27日(GB)英国)の国際出願日にされたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成20年10月24日 国内書面提出
平成20年12月22日 翻訳文(請求の範囲、明細書等)提出
平成22年 4月16日 出願審査請求
同日 手続補正書
平成24年 6月 5日付け 拒絶理由通知
平成24年12月10日 意見書・手続補正書
平成25年 6月17日付け 拒絶理由通知(最後)
平成25年12月25日 意見書
平成26年 8月29日付け 拒絶査定
平成26年12月26日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成27年 2月25日付け 審査前置移管
平成27年 3月27日付け 前置報告書
平成27年 4月 3日付け 審査前置解除
平成27年12月10日 上申書

第2 平成26年12月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成26年12月26日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成26年12月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正の前後の記載は次のとおりである。

ア 補正前の特許請求の範囲(すなわち,平成24年12月10日付け手続補正書に記載)
「 【請求項1】
少なくとも1つの単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの単官能モノマーと、少なくとも1つのラジカル光重合開始剤と、少なくとも1つの着色剤とを含み、水および揮発性有機溶剤を実質的に含まないインクジェット用インクであって、25℃で100mPas未満の粘度を有し、インク全重量に対して15重量%以下の多官能モノマーを含有し、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマーとの総量が、インク全重量に対して少なくとも60重量%であり、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーの、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの前記単官能モノマーに対するモル比率が1.1?3.5の範囲であるインクジェット用インク。
【請求項2】
少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの前記単官能モノマーとの総量がインク全重量に対して少なくとも70重量%である、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記総量が少なくとも80重量%である、請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
インク全重量に対して10重量%以下の多官能モノマーを含有する、請求項1?3のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
少なくとも1つの多官能モノマーを含有し、該多官能モノマーの1つ以上が多官能(メタ)アクリレートモノマーである、請求項1?4のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートが、フェノキシエチルアクリレート(PEA)、環状TMPホルマールアクリレート(CTFA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、オクタ/デシルアクリレート(ODA)、トリデシルアクリレート(TDA)、イソデシルアクリレート(IDA)およびラウリルアクリレートから選択される、請求項1?5のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートが、環状単官能(メタ)アクリレートである、請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
前記環状単官能(メタ)アクリレートが、フェノキシエチルアクリレート(PEA)、環状TMPホルマールアクリレート(CTFA)、イソボルニルアクリレート(IBOA
)、テトラヒドロフルフリルアクレート(THFA)、またはその混合物である、請求項
7に記載のインクジェット用インク。
【請求項9】
THFA/NVC、IBOA/NVC、PEA/NVC、CTFA/NVC、IBOA/ACMOおよびIBOA/NVPから選択されるモノマーの組合せを含有し、NVCがN-ビニルカプロラクタムであり、ACMOがN-アクリロイルモルホリンであり、NVPがN-ビニルピロリドンである、請求項5から8のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の前記インクジェット用インクを基材上へ印刷し、前記インクを硬化することを含むインクジェット印刷の方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の前記インクジェット用インクをその上に印刷した基材。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかに記載の前記インクジェット用インクを含むインクジェット用インクカートリッジ。」

イ 補正後(すなわち、平成26年12月26日付け手続補正書に記載)の特許請求の範囲
「 【請求項1】
少なくとも1つの単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの単官能モノマーと、少なくとも1つのラジカル光重合開始剤と、少なくとも1つの着色剤とを含み、水および揮発性有機溶剤を実質的に含まないインクジェット用インクであって、25℃で100mPas未満の粘度を有し、インク全重量に対して15重量%以下の多官能モノマーを含有
し、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマーとの総量が、インク全重量に対して少なくとも60重量%であり、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーの、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの前記単官能モノマーに対するモル比率が1.1?3.5の範囲であり、ただし、以下の(1)?(5)のUV硬化性インクを除く、インクジェット用インク。

(1)以下の処方を持つUV硬化性インク:
フェノキシエチルアクリレート 58.0重量%
N-ビニルカプロラクタム 29.0重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%

(2)以下の処方を持つUV硬化性インク:
フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%
N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%
イソボルニルアクリレート 24.8重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 1.8重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%

(3)以下の処方を持つUV硬化性インク:
フェノキシエチルアクリレート 31.1重量%
N-ビニルカプロラクタム 21.7重量%
イソボルニルアクリレート 21.7重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 12.5重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%

(4)以下の処方を持つUV硬化性インク:
フェノキシエチルアクリレート 46.0重量%
N-ビニルカプロラクタム 25.0重量%
イソボルニルアクリレート 10.0重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 6.0重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%

(5)以下の処方を持つUV硬化性インク:
フェノキシエチルアクリレート 40.5重量%
N-ビニルカプロラクタム 13.0重量%
イソボルニルアクリレート 20.0重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 6.0重量%
アクリロイルモルホリン 7.5重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%
(【請求項2】?【請求項12】は省略する。)

2 本件補正内容の検討
(1)補正内容
本件補正のうち、【請求項1】について見ると,その内容は次のとおりである。
本件補正前の請求項1に係るインクジェット用インクについて,上記(1)?(5)のUV硬化性インクを除く旨、新たに特定すること。
(2)補正の目的
上記補正内容については,本件補正前の請求項1に係るインクジェット用インクについて,「上記(1)?(5)のUV硬化性インクを除く」事項によって限定するものであり,また,当該補正は、請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの該当する。

3 独立特許要件
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

(3-1)引用出願及びその記載事項
・引用出願:特願2006-116810号(国際公開第2007/097049号)[なお,原査定で引用された出願2(特願2008-501603号「引用文献等2」)は、本願優先日前の平成18年4月20日を出願日とする上記特願2006-116810号を国内優先の基礎とする出願である。]
(以下「先願」といい,該先願の明細書、請求の範囲又は図面を「先願明細書等」という。)

・先願明細書等に記載された事項
先願明細書等には,次の事項が記載されている(なお,「」内は特願2006-116810号の記載であり、『』内の記載は、前記「」の記載に対応する国際公開第2007/097049号の記載を参考のために併記したものである。)

(A-1)
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記背景技術からも明らかなように、UVインクジェット用インクにおいては、主成分として単官能ラジカル重合性モノマーを採用するも、その選択、更には組み合わせについて、十分な検討が行われていないが故に、柔軟性に富んだ良好な成形性及び接着性、更にはタック性に関する改善を得るには至っていない。
【0012】
このような状況に鑑み、本発明においては、光重合反応性組成物として、特定の単官能ラジカル重合性モノマーをベースとしたうえで、必要に応じて他の単官能ラジカル重合性モノマー、更には多官能ラジカル重合性オリゴマーと組み合わせることによって、柔軟性に富んだ成形性及び接着性の向上、更にはタック性のうちの少なくとも2個の要素において良好であって、他の1個の要素において、決して不良ではないUVインクジェット用インクの製造方法を提供すると共に、当該方法に基づくUVインクジェット用インク、及び当該インクを使用した加飾印刷物、加飾シート成形物、インサートモールディング成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決することを目的とする本発明の基本的方法に関する構成は、以下のとおりである。
(1)光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分としているインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法において、光重合反応性組成物が、フェノキシエチルアクリレートと水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマー、複素環式単官能ラジカル重合性モノマーの何れかから選択された1個のモノマーとによる合計2個のモノマーによる組み合わせであって、フェノキシエチルアクリレートと他の単官能ラジカル重合性モノマーとの重量比が1:0.5?1.5の範囲であることに基づくインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法。
・・・
(5)光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分としているインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法において、光重合反応性組成物が、多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合したうえで、フェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーのうちの1個の単官能ラジカル重合性モノマーと、その他全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマー(但し、フェノキシエチルアクリレート、及びフェノキシエチルアクリレートと共に配合された前記脂環式単官能性アクリレートモノマーを除く)のうちから選択された他の1個の単官能ラジカル重合性モノマーとによる合計3個のモノマーによる組み合わせであって、多官能ラジカル重合性オリゴマーとフェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーと、他の単官能ラジカル重合性モノマーとの重量比が、それぞれ0.05?0.4:1:0.1?0.7:0.1?0.7の範囲内であることに基づくインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法。」
『発明の開示
前記背景技術からも明らかなように、UVインクジェット用インクにおいては、主成分として単官能ラジカル重合性モノマーを採用するも、その選択、更には組み合わせについて、十分な検討が行われていないが故に、柔軟性に富んだ良好な成形性及び接着性、更にはタック性に関する改善を得るには至っていない。
このような状況に鑑み、本発明においては、光重合反応性組成物として、特定の単官能ラジカル重合性モノマーをベースとしたうえで、必要に応じて他の単官能ラジカル重合性モノマー、更には多官能ラジカル重合性オリゴマーと組み合わせることによって、柔軟性に富んだ成形性及び接着性の向上、更にはタック性のうちの少なくとも2個の要素において良好であって、他の1個の要素において、決して不良ではないUVインクジェット用インクの製造方法を提供すると共に、当該方法に基づくUVインクジェット用インク、及び当該インクを使用した加飾印刷物、加飾シート成形物、インサートモールディング成形品を提供することを課題としている。
前記課題を解決するため、本発明の基本的方法に関する構成は、
(1)光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分としているインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法において、光重合反応性組成物が、フェノキシエチルアクリレートと水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマー、複素環式単官能ラジカル重合性モノマーの何れかから選択された1個のモノマーとによる合計2個のモノマーによる組み合わせであって、フェノキシエチルアクリレートと他の単官能ラジカル
重合性モノマーとの重量比が1:0.5?1.5の範囲であることに基づくインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法。
・・・
(5)光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分としているインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法において、光重合反応性組成物が、多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合したうえで、フェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーのうちの1個の単官能ラジカル重合性モノマーと、その他全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマー(但し、フェノキシエチルアクリレート、及びフェノキシエチルアクリレートと共に配合された前記脂環式単官能性アクリレートモノマーを除く)のうちから選択された他の1個の単官能ラジカル重合性モノマーとによる合計3個のモノマーによる組み合わせであって、多官能ラジカル重合性オリゴマーとフェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーと、他の単官能ラジカル重合性モノマーとの重量比が、それぞれ0.05?0.4:1:0.1?0.7:0.1?0.7の範囲内であることに基づくインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法。』(第2頁下から2行?5頁10行)

(A-2)
「 【0037】
前記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)の各方法において、必要に応じて顔料、高分子分散剤、添加剤などを加えたことによるインクにおいては、前記各特性のうちの少なくとも2個については、良好な特性が得られる。
なお、当該インクの粘度は3?500cps(25℃でコーンプレート式粘度計で測定)であり、インクジェット印刷に良好に対応する粘度であった。」
『前記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)の各方法において、必要に応じて顔料、高分子分散剤、添加剤などを加えたことによるインクにおいては、前記各特性のうちの少なくとも2個については、良好な特性が得られる。
なお、当該インクの粘度は3?500cps(25℃でコーンプレート式粘度計で測定)であり、インクジェット印刷に良好に対応する粘度であった。』(第20頁下から5行?末行)

(A-3)
「【0042】
以下、実施例に従って説明する。
【実施例1】
【0043】
実施例1は、前記(1)の方法において、水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマーが、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートであり、複素環式単官能ラジカル重合性モノマーが、N-ビニルカプロラクタムであることを特徴としている。
【0044】
顔料として、カーボンブラック2重量(審決注:「2%」は,「2」と「%」との間に「重量」が抜けていることは明らかであるから,訂正して摘記した。)%、光反応開始剤として、ビスアシルホスフィンオキサイド4.3重量%及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1をそれぞれ5.0重量%(合計9.3重量%)、高分子分散剤1.5重量(審決注:「1.5%」は,「1.5」と「%」との間に「重量」が抜けていることは明らかであるから,訂正して摘記した。)%、添加剤として、シリコン系消泡剤、ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤をそれぞれ0.1重量%(合計0.2重量%)用意したうえで、表8-1のように、各配合量のフェノキシエチルアクリレートに対し、所定配合量の単官能ラジカル重合性モノマーを配合することによって、同表に示すような特性に関する結果を得た。
【0045】
各特性の試験方法は、バーコーター8号によって、筒中プラスチック社製EC-100透明PC厚さ0.5mmの上にコーティングしたうえで、紫外線を1000mW/cm^(2)の強度にて積算エネルギーが800mJ/cm^(2)となるに至るまで照射し、以下のような条件による成形試験、接着試験、及びタック試験を行った。
【0046】
成形試験:直径2.5cm、幅1cmの円板を用いて180℃30秒の条件で真空成形を行ったうえで、塗膜の割れ状況を評価した。
【0047】
接着試験:塗膜に幅1mmのマス目を縦方向に5個、及び横方向に5個の合計25個を設け、当該マス目部分にセロハンテープを貼着して角度90°にて剥がした段階における剥離したマス目の程度を評価した。
【0048】
タック性試験:塗膜に指によって接触し、ベタツキ感を評価した。
【0049】
表における○、△、×の評価基準は、前記実施形態の項において説明したとおりである。
【0050】
各特性の結果は、表8-1記載のとおりである。
【表8-1】

【0051】
表8-1の各実施例においては、前記(1)の基本構成における重量比の数値要件について、特に2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタムについて、その限界の比率に至るまで、各特性に関する試験を行っているが、少なくとも2個の特性について、良好な結果が得られることが確認されている。
【0052】
水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマーとして、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート以外のモノマーを使用した場合、及び脂環式単官能ラジカル重合性モノマーとして、N-ビニルカプロラクタム以外のモノマーを採用した場合についても、同じような試験結果が得られることが推定され得ることを考慮するならば、表8-1の試験結果によって、前記(1)の構成の妥当性を確認することができる。」
『(実施例)
実施例1は、前記(1)の方法において、水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマーが、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートであり、複素環式単官能ラジカル重合性モノマーが、N-ビニルカプロラクタムであることを特徴としている。
顔料として、カーボンブラック2重量(審決注:「2%」は,「2」と「%」との間に「重量」が抜けていることは明らかであるから,訂正して摘記した。)%、光反応開始剤として、ビスアシルホスフィンオキサイド4.3重量%及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1をそれぞれ5.0重量%(合計9.3重量%)、高分子分散剤1.5重量(審決注:「1.5%」は,「1.5」と「%」との間に「重量」が抜けていることは明らかであるから,訂正して摘記した。)%、添加剤として、シリコン系消泡剤、ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤をそれぞれ0.1重量%(合計0.2重量%)用意したうえで、表8-1のように、各配合量のフェノキシエチルアクリレートに対し、所定配合量の単官能ラジカル重合性モノマーを配合することによって、同表に示すような特性に関する結果を得た。
各特性の試験方法は、バーコーター8号によって、筒中プラスチック社製EC-100透明PC厚さ0.5mmの上にコーティングしたうえで、紫外線を1000mW/cm^(2)の強度にて積算エネルギーが800mJ/cm^(2)となるに至るまで照射し、以下のような条件による成形試験、接着試験、及びタック試験を行った。
成形試験:直径2.5cm、幅1cmの円板を用いて180℃30秒の条件で真空成形を行ったうえで、塗膜の割れ状況を評価した。
接着試験:塗膜に幅1mmのマス目を縦方向に5個、及び横方向に5個の合計25個を設け、当該マス目部分にセロハンテープを貼着して角度90°にて剥がした段階における剥離したマス目の程度を評価した。
タック性試験:塗膜に指によって接触し、ベタツキ感を評価した。
表における○、△、×の評価基準は、前記実施形態の項において説明したとおりである。
各特性の結果は、表8-1記載のとおりである。
【表8-1】

表8-1の各実施例においては、前記(1)の基本構成における重量比の数値要件について、特に2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタムについて、その限界の比率に至るまで、各特性に関する試験を行っているが、少なくとも2個の特性について、良好な結果が得られることが確認されている。
水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマーとして、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート以外のモノマーを使用した場合、及び脂環式単官能ラジカル重合性モノマーとして、N-ビニルカプロラクタム以外のモノマーを採用した場合についても、同じような試験結果が得られることが推定され得ることを考慮するならば、表8-1の試験結果によって、前記(1)の構成の妥当性を確認することができる。』(第22頁3行?23頁下から3行)

(A-4)
「【実施例5】
【0077】
実施例5は、前記(5)の基本構成において、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーとして、イソボルニルアクリレートを選択したうえで、全種類に属するアクリレートモノマーにおいて、多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合したうえで、水酸基を有していない芳香族単官能ラジカル重合性モノマーが、ベンジルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールテトラエチレングリコールアクリレートの何れかであり、水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマーが、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートであり、水酸基を有していない脂肪族単官能ラジカル重合性モノマーが、エトキシジエチレングリコールアクリレートであり、水酸基を有している脂肪族単官能ラジカル重合性モノマーが、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレートの何れかであり、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーが、ジシクロペンテニルアクリレートであり、複素環式単官能ラジカル重合性アクリレートモノマーが、N-ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルアクリレートの何れかであることを特徴としている。
【0078】
実施例1の場合と同じように、顔料、光反応開始剤、高分子分散剤、添加剤を用意した。表12-1のように、各配合量の3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー、及び各配合量のフェノキシエチルアクリレートに対し、所定量のイソボルニルアクリレート、及び所定配合量の他の単官能ラジカル重合性モノマーを配合し、実施例1と同様の試験を行うことによって、各特性につき、同表のような結果を得た。
【表12-1】

【0079】
表12-1の試験においては、前記(6)の構成の重量比について、特にイソボルニルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタムについて、限界値に至るような色々な組み合わせを採用したうえで、少なくとも2個の特性について、良好な結果が得られることが判明している。
【0080】
他の単官能ラジカル重合性モノマーを採用しても、同様の特性が得られることが推認されることを考慮するならば、表12-1の試験によって、前記(5)の構成の妥当性を確認することができる。」
『【実施例5】
実施例5は、前記(5)の基本構成において、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーとして、イソボルニルアクリレートを選択したうえで、全種類に属するアクリレートモノマーにおいて、多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合したうえで、水酸基を有していない芳香族単官能ラジカル重合性モノマーが、ベンジルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールテトラエチレングリコールアクリレートの何れかであり、水酸基を有している芳香族単官能ラジカル重合性モノマーが、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートであり、水酸基を有していない脂肪族単官能ラジカル重合性モノマーが、エトキシジエチレングリコールアクリレートであり、水酸基を有している脂肪族単官能ラジカル重合性モノマーが、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレートの何れかであり、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーが、ジシクロペンテニルアクリレートであり、複素環式単官能ラジカル重合性アクリレートモノマーが、N-ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルアクリレートの何れかであることを特徴としている。
実施例1の場合と同じように、顔料、光反応開始剤、高分子分散剤、添加剤を用意した。表12-1のように、各配合量の3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー、及び各配合量のフェノキシエチルアクリレートに対し、所定量のイソボルニルアクリレート、及び所定配合量の他の単官能ラジカル重合性モノマーを配合し、実施例1と同様の試験を行うことによって、各特性につき、同表のような結果を得た。
【表12-1】

表12-1の試験においては、前記(6)の構成の重量比について、特にイソボルニルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタムについて、限界値に至るような色々な組み合わせを採用したうえで、少なくとも2個の特性について、良好な結果が得られることが判明している。
他の単官能ラジカル重合性モノマーを採用しても、同様の特性が得られることが推認されることを考慮するならば、表12-1の試験によって、前記(5)の構成の妥当性を確認することができる。』(第31頁2行?33頁4行)

(3-2)先願明細書等に記載された発明
ア 摘示(A-1)の「(5)光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分としているインクジェット方式用紫外線硬化型インク」からみて、先願明細書等の実施例5の【表12-1】(摘示(A-4))の下から6段目の欄には,
「以下の処方を持つインクジェット方式用紫外線硬化型インク:
フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%
N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%
イソボルニルアクリレート 24.8重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 1.8重量%」
が記載されているといえる。
イ また,摘示(A-4)には,実施例5に関し,
「実施例1の場合と同じように、顔料、光反応開始剤、高分子分散剤、添加剤を用意した。表12-1のように、各配合量の3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー、及び各配合量のフェノキシエチルアクリレートに対し、所定量のイソボルニルアクリレート、及び所定配合量の他の単官能ラジカル重合性モノマーを配合し、実施例1と同様の試験を行うことによって、各特性につき、同表のような結果を得た。」と記載され、摘示(A-3)には、実施例1に関し,「顔料として、カーボンブラック2重量%、光反応開始剤として、ビスアシルホスフィンオキサイド4.3重量%及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1をそれぞれ5.0重量%(合計9.3重量%)、高分子分散剤1.5重量%、添加剤として、シリコン系消泡剤、ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤をそれぞれ0.1重量%(合計0.2重量%)用意した」と記載されていることから、先願明細書等の実施例5の【表12-1】(摘示(A-4))の下から6段目の欄には,摘示(A-1)の「(5)光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分としているインクジェット方式用紫外線硬化型インク」からみて、
「以下の処方を持つインクジェット方式用紫外線硬化型インク:
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%」
が記載されているといえる。

ウ 以上ア及びイからみて、先願明細書等の実施例5の【表12-1】(摘示(A-4))の下から6段目の欄には,以下の発明が記載されている。

「以下の処方を持つインクジェット方式用紫外線硬化型インク:
フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%
N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%
イソボルニルアクリレート 24.8重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 1.8重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%」(以下、「先願発明」という。)

(3-3)対比
本件補正発明と先願発明とを対比する。
ア 先願発明の「『フェノキシエチルアクリレート』,『イソボルニルアクリレート』」,「N-ビニルカプロラクタム」,「3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー」,「カーボンブラック」,「『ビスアシルフォスフィンオキサイド』,『2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1』」及び「インクジェット方式用紫外線硬化型インク」は、それぞれ,本件補正発明の「少なくとも1つの単官能(メタ)アクリレートモノマー」,「N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの単官能モノマー」,「多官能モノマー」,「少なくとも1つの着色剤」,「少なくとも1つのラジカル光重合開始剤」及び「『インクジェット用インク』,『UV硬化性インク』」に相当する。
イ 先願発明の各成分の合計は(35.6+24.8+24.8+1.8+2+4.3+5.0+1.5+0.1+0.1)=100重量%であるから、先願発明の「インクジェット方式用紫外線硬化型インク」の全重量を100重量%といえ,先願発明は多官能モノマー(3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー)を1.8重量%含有するものであるから,先願発明は多官能モノマー(3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー)をインクジェット方式用紫外線硬化型インク全重量に対して1.8重量%含有するものといえ,先願発明と本件補正発明とは,インク全重量に対して30重量%以下の多官能モノマーを含有する点で一致する。
ウ 上記イで述べたとおり,先願発明の「インクジェット方式用紫外線硬化型インク」の全重量を100重量%といえ,先願発明は「『フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%』,『イソボルニルアクリレート 24.8重量%』及び『N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%』」の総量が(35.6+24.8+24.8)=85.2重量%であるから,「少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマーとの総量が、インク全重量に対して85.2重量%であり」といえ,先願発明と本件補正発明とは、「少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマーとの総量が、インク全重量に対して少なくとも60重量%であり」の点で一致する。
エ 先願発明の「フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%」,「イソボルニルアクリレート 24.8重量%」及び「N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%」をモル%に換算すると,フェノキシエチルアクリレート,「イソボルニルアクリレート」及び「N-ビニルカプロラクタム」のそれぞれの分子量は,192,208及び139であることが当業者に自明であるから,それぞれ,35.6/192=0.185モル%(小数点以下4位四捨五入),24.8/208=0.119モル%(小数点以下4位四捨五入)及び24.8/139=0.178モル%(小数点以下4位四捨五入)となる。
そうすると,先願発明の「『フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%』,『イソボルニルアクリレート 24.8重量%』」を「少なくとも1つの単官能(メタ)アクリレートモノマー」としての合計のモル%に換算すると,(0.185モル%+0.119モル%)=0.304モル%となり,また先願発明の「N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%」を「N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマー」のモル%に換算すると,0.178モル%となるから,先願発明における「少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーの、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの前記単官能モノマーに対するモル比率」は0.304/0.178=1.708(小数点以下4位四捨五入)」となるから,本件補正発明の前記モル比率の規定「1.1?3.5」を満足するといえる。
オ 先願発明は,「高分子分散剤」,「シリコン系消泡剤」及び「ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤」を含むものであるところ,前記「高分子分散剤」,「シリコン系消泡剤」及び「ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤」は,いずれもそれらを構成する具体的化合物が不明であり,「揮発性有機溶剤」であるか否か明らかでないが,仮に前記「高分子分散剤」,「シリコン系消泡剤」及び「ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤」が「揮発性有機溶剤」である場合,それぞれ,「分散剤」,「消泡剤」及び「保存安定性付与剤」としての機能を発揮し得ないことから,いずれも「揮発性有機溶剤」でないことは明らかであり,先願発明は「揮発性有機溶剤を実質的に含まない」ものといえる。また先願発明は水を含むものでないことは明らかであるから,「水を実質的に含まない」ものといえる。
そうすると,先願発明は,「水および揮発性有機溶剤を実質的に含まない」ものといえ、本件補正発明とは,「水および揮発性有機溶剤を実質的に含まない」点で一致するといえる。
カ 先願発明は本件補正発明において「以下の(1)?(5)のUV硬化性インクを除く」とされているうちの「(2)以下の処方を持つUV硬化性インク:
フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%
N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%
イソボルニルアクリレート 24.8重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 1.8重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%」に相当する。

キ 以上のことから,本件補正発明と先願発明とは,
「少なくとも1つの単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの単官能モノマーと、少なくとも1つのラジカル光重合開始剤と、少なくとも1つの着色剤とを含み、水および揮発性有機溶剤を実質的に含まないインクジェット用インクであって、インク全重量に対して15重量%以下の多官能モノマーを含有し、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマーとの総量が、インク全重量に対して少なくとも60重量%であり、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーの、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの前記単官能モノマーに対するモル比率が1.1?3.5の範囲である、インクジェット用インク。」という上位概念の点で一致し,以下の点で一応相違する。

相違点1:
本件補正発明は,「25℃で100mPas未満の粘度を有」するのに対して、先願発明は,そのようなものか明らかでない点。

相違点2:
本件補正発明は,「以下の(1)?(5)のUV硬化性インク(略)を除く」のに対して,先願発明は,前記(2)のUV硬化性インク(略)である点。

(3-4)相違点1及び2の検討
ア 相違点1について
(ア)摘示(A-2)の「前記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)の各方法において、必要に応じて顔料、高分子分散剤、添加剤などを加えたことによるインクにおいては、前記各特性のうちの少なくとも2個については、良好な特性が得られる。なお、当該インクの粘度は3?500cps(25℃でコーンプレート式粘度計で測定)であり、インクジェット印刷に良好に対応する粘度であった。」からみて,単位「cps」と単位「mPas」とが同じ意味であることが当業者に自明である(例えば,特表2006-512084号公報【0066】『「mPas(cps)」はミリパスカル秒(センチポアズと同じ)を意味し』参照)から,先願明細書等には,インクの粘度は3?500mPasである旨が記載されているといえる。
(イ)一般に,放射線硬化型ジェットインクは,低い粘度,すなわち,25℃で100mPas未満の粘度が望ましいとされている[例えば、国際公開第2005/026270号(原査定で引用された「引用文献等1」)の1頁下から2行?2頁9行「本発明は、少なくとも65重量%の1つ以上の単官能エチレン性不飽和モノマーおよび少なくとも1つの3官能以上のエチレン性不飽和モノマーを含み、かつ25℃で36 dynes/cm以下の表面張力を有する、放射線硬化型ジェットインクを提供する。
・・・
本発明に係るインクはまた、望ましい低い粘度を有することがわかった。25℃でのインクの粘度は100cP未満であって、好ましくは50cP未満、より好ましくは40cP未満である。有利には、インクは25?40cPの範囲の粘度を有し、より好ましくは30cP超、40cP未満の範囲である。」(英文につき訳文にて記載した。)参照。]。
(ウ)上記(イ)の「放射線硬化型ジェットインク」と先願発明の「インクジェット方式用紫外線硬化型インク」とは,「インクジェット方式用紫外線硬化型インク」の点で一致するから,上記(ア)及び(イ)からみて,先願発明の「インクジェット方式用紫外線硬化型インク」は一般に望ましいとされている低い粘度粘度,すなわち,25℃で100mPas未満の粘度を予定したものというべきである。
よって,本件補正発明と先願発明とは,上記相違点1において実質的に相違するところがない。

イ 相違点2について
摘示(A-4)の「【0077】実施例5は、前記(5)の基本構成において、・・・ 【表12-1】

」からみて,先願発明は前記(5)を基本構成とするものであることが解る。ここで,この「前記(5)の基本構成」とは,摘示(A-1)の「【0013】前記課題を解決することを目的とする本発明の基本的方法に関する構成は、以下のとおりである。・・・(5)光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分としているインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法において、光重合反応性組成物が、多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合したうえで、フェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーのうちの1個の単官能ラジカル重合性モノマーと、その他全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマー(但し、フェノキシエチルアクリレート、及びフェノキシエチルアクリレートと共に配合された前記脂環式単官能性アクリレートモノマーを除く)のうちから選択された他の1個の単官能ラジカル重合性モノマーとによる合計3個のモノマーによる組み合わせであって、多官能ラジカル重合性オリゴマーとフェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーと、他の単官能ラジカル重合性モノマーとの重量比が、それぞれ0.05?0.4:1:0.1?0.7:0.1?0.7の範囲内であることに基づくインクジェット方式用紫外線硬化型インクの製造方法。」を指すから,先願発明は,3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(多官能ラジカル重合性オリゴマー)の配合量(重量%):フェノキシエチルアクリレートの配合量(重量%):イソボルニルアクリレート(脂環式単官能ラジカル重合性モノマー)の配合量(重量%):N-ビニルカプロラクタム(他の単官能性モノマー)の配合量(重量%)=0.05?0.4:1:0.1?0.7:0.1?0.7の範囲を基本構成としたものであるといえる。
実際,先願発明における
「フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%
N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%
イソボルニルアクリレート 24.8重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 1.8重量%」は
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(多官能ラジカル重合性オリゴマー)の配合量(重量%):フェノキシエチルアクリレートの配合量(重量%):イソボルニルアクリレート(脂環式単官能ラジカル重合性モノマー)の配合量(重量%):N-ビニルカプロラクタム(他の単官能性モノマー)の配合量(重量%)=1.8:35.6:24.8:24.8=0.051(小数点4位以下四捨五入):1:0.697(小数点4位以下四捨五入):0.697(小数点4位以下四捨五入)であるから,上記基本構成を満たすものである。
そうすると,先願発明は,あくまで,3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(多官能ラジカル重合性オリゴマー)の配合量(重量%):フェノキシエチルアクリレートの配合量(重量%):イソボルニルアクリレート(脂環式単官能ラジカル重合性モノマー)の配合量(重量%):N-ビニルカプロラクタム(他の単官能性モノマー)の配合量(重量%)=0.05?0.4:1:0.1?0.7:0.1?0.7の範囲の中の一例に過ぎないものと解すべきであって,先願明細書等に記載された発明が上記先願発明をはじめとする実施例として具体的に記載されたインクに限定されて解釈されるべき理由は見当たらない。
したがって,例えば,上記先願発明において,「3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー」,「フェノキシエチルアクリレート」及び「イソボルニルアクリレート」の配合量をそのままで,「N-ビニルカプロラクタム」の配合量のみが「24.8重量%」前後でごく少量変化する場合のインクについても,先願明細書等に記載された発明であると,当業者ならば当然に理解するものといえる。そして,このような「N-ビニルカプロラクタム」が少量前後するのみの場合には,「フェノキシエチルアクリレート」及び「イソボルニルアクリレート」を併せた『単官能(メタ)アクリレート』とのモル比が『1.708』と大きくは変化することはなく,2.0を上限とする本件補正発明の範囲内のものとなることは明らかである。
なお,参考ながら,「N-ビニルカプロラクタム」の配合量のみが『24.8重量%』の前後で,0.1重量%減じた場合と,0.1重量%増加させた場合の「フェノキシエチルアクリレート」及び「イソボルニルアクリレート」を併せた『単官能(メタ)アクリレート』と「N-ビニルカプロラクタム」とのモル比について以下計算する。
○0.1重量%減じた場合;すなわち,24.7重量%とする場合
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(多官能ラジカル重合性オリゴマー)の配合量(重量%):フェノキシエチルアクリレートの配合量(重量%):イソボルニルアクリレート(脂環式単官能ラジカル重合性モノマー)の配合量(重量%):N-ビニルカプロラクタム(他の単官能性モノマー)の配合量(重量%)=1.8:35.6:24.8:24.7=0.051(小数点4位以下四捨五入):1:0.697(小数点4位以下四捨五入):0.695(小数点4位以下四捨五入)であるから,上記基本構成を満たすものであり、「N-ビニルカプロラクタム 24.7重量%」をモル換算すると,24.7/139=0.1777(小数点5位以下四捨五入)となるから,「フェノキシエチルアクリレート」及び「イソボルニルアクリレート」を併せた『単官能(メタ)アクリレート』と「N-ビニルカプロラクタム」とのモル比は,0.304/0.1777=1.711(小数点4位以下四捨五入)となる。
○0.1重量%増加した場合;すなわち,24.9重量%とする場合
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(多官能ラジカル重合性オリゴマー)の配合量(重量%):フェノキシエチルアクリレートの配合量(重量%):イソボルニルアクリレート(脂環式単官能ラジカル重合性モノマー)の配合量(重量%):N-ビニルカプロラクタム(他の単官能性モノマー)の配合量(重量%)=1.8:35.6:24.8:24.7=0.051(小数点4位以下四捨五入):1:0.697(小数点4位以下四捨五入):0.699(小数点4位以下四捨五入)であるから,上記基本構成を満たすものであり、「N-ビニルカプロラクタム 24.9重量%」をモル換算すると,24.9/139=0.179(小数点4位以下四捨五入)となるから,0.304/0.179=1.698(小数点4位以下四捨五入)となる。
したがって,本件補正発明は,上記相違点2があるからといって,実質的に先願明細書等に記載された発明でないとすべきものとはいえない。

ウ 上記ア及びイの記載からみて、本件補正発明は,先願発明とは,上記相違点1及び2の点で相違するからといって,先願明細書に記載された発明ではないとすべきものとはいえない。

(3-5)小括
以上のとおりであるから,本件補正発明は、先願明細書に記載された発明と認められる。
また,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。
したがって,本件補正発明は,上記先願発明と実質的に同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。

(3-6)補正の却下の決定のむすび
よって,本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえないから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年12月26日付けの手続補正は上記のとおりり却下されたので,本願請求項1に係る発明は,平成24年12月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
少なくとも1つの単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの単官能モノマーと、少なくとも1つのラジカル光重合開始剤と、少なくとも1つの着色剤とを含み、水および揮発性有機溶剤を実質的に含まないインクジェット用インクであって、25℃で100mPas未満の粘度を有し、インク全重量に対して15重量%以下の多官能モノマーを含有し、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマーとの総量が、インク全重量に対して少なくとも60重量%であり、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーの、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの前記単官能モノマーに対するモル比率が1.1?3.5の範囲であるインクジェット用インク。」(以下,「本願発明」という。)

2 先願明細書等に記載された発明
引用出願:特願2006-116810号(国際公開第2007/097049号)[なお,原査定で引用された出願2(特願2008-501603号「引用文献等2」)は、本願優先日前の平成18年4月20日を出願日とする上記特願2006-116810号を国内優先の基礎とする出願である。]の先願明細書等に記載された発明は,上記「第2」の「3 独立特許要件」の「(3-2)先願明細書等に記載された発明」に記載した先願発明のとおりの,次のものである。
「以下の処方を持つインクジェット方式用紫外線硬化型インク:
フェノキシエチルアクリレート 35.6重量%
N-ビニルカプロラクタム 24.8重量%
イソボルニルアクリレート 24.8重量%
3官能性ウレタンアクリレートオリゴマー 1.8重量%
カーボンブラック 2重量%
ビスアシルフォスフィンオキサイド 4.3重量%
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-
(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1
5.0重量%
高分子分散剤 1.5重量%
シリコン系消泡剤 0.1重量%
ヒドロキシルアミン系保存安定性付与剤 0.1重量%」」(以下,「先願発明」という。)

3 対比
本願発明と先願発明とを,上記「第2」の「3 独立特許要件」の「(3)対比」に記載した事項を踏まえて対比すると,両者は「少なくとも1つの単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの単官能モノマーと、少なくとも1つのラジカル光重合開始剤と、少なくとも1つの着色剤とを含み、水および揮発性有機溶剤を実質的に含まないインクジェット用インクであって、インク全重量に対して15重量%以下の多官能モノマーを含有し、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーと、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つのモノマーとの総量が、インク全重量に対して少なくとも60重量%であり、少なくとも1つの前記単官能(メタ)アクリレートモノマーの、N-ビニルアミド、N-アクリロイルアミンまたはその混合物から選択される少なくとも1つの前記単官能モノマーに対するモル比率が1.1?3.5の範囲である、インクジェット用インク。」という点で一致し,以下の点で一応相違する。

相違点1’:
本願発明は,「25℃で100mPas未満の粘度を有」するのに対して、先願発明は,そのようなものか明らかでない点。

4 相違点1’の検討
上記した,本願発明と先願発明との相違点1’は,本件補正発明と先願発明との相違点1と相違するところがないから,上記「第2」の「3 独立特許要件」の(3-4)のアで述べたと同様の理由により,本願発明と先願発明とは,上記相違点1’において実質的に相違するところがなく,上記相違点1’によって,本願発明が先願発明と実質的に差異があるものとすべきものとはいえない。

5 小括
以上のとおりであるから,本願発明は、先願発明と実質的に同一であると認められる。
また、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。
したがって,本願発明は,上記先願発明と実質的に同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないものであるので,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-11 
結審通知日 2015-12-15 
審決日 2015-12-28 
出願番号 特願2009-507141(P2009-507141)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 日比野 隆治
菅野 芳男
発明の名称 印刷用インク  
代理人 星川 亮  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 小林 浩  
代理人 大森 規雄  

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