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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1314730
審判番号 不服2014-2187  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-05 
確定日 2016-05-12 
事件の表示 特願2007-279656「視神経細胞減少抑制剤」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月21日出願公開、特開2009-107945〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成19年10月26日の出願であって、平成25年7月9日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日に意見書、補正書が提出されたが、同年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。その後、当審において、平成27年7月13日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日に意見書、補正書が提出されたものであって、その特許請求の範囲に係る発明は、上記平成27年9月11日付け手続補正書によって補正された、特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の種子の粉砕物の水抽出物又は水とエタノールとの混合溶媒抽出物を含有することを特徴とする緑内障、糖尿病性網膜症、高血圧網膜症、動脈硬化性網膜症、及び網膜静脈閉塞症のいずれかに起因する網膜虚血による視神経細胞減少抑制剤。
【請求項2】
ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の種子の粉砕物の水抽出物、30質量%エタノール抽出物又は70質量%エタノール抽出物である請求項1に記載の網膜虚血による視神経細胞減少抑制剤。」

2.当審の拒絶理由の概要

これに対し、当審が平成27年7月13日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明は、その特許出願前に日本国内において頒布された特開2005-220100号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明、並びに、あたらしい眼科,Vol.15 No.5 p.649-654(1998)(以下、「引用文献2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用文献の記載事項

引用文献1には、以下の事項が記載されている。

1-a.「【請求項4】
ツルゲンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項5】
前記抽出物が抗酸化作用及び/又はラジカル消去作用を有することを特徴とする請求項4記載の抗酸化剤。」(特許請求の範囲の請求項4、5)

1-b.「また、活性酸素は、生体細胞内のエネルギー代謝過程により生じるものであり、スーパーオキサイド(すなわち酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン)(・O_(2)^(-))、過酸化水素(H_(2)O_(2))、ヒドロキシラジカル(・OH)等がある。生体内において、酸素を基に最初に生成されるラジカルは、スーパーオキサイドであり、ヒドロキシラジカル等の他のラジカルはスーパーオキサイドを経て生成される。スーパーオキサイドは、細胞中で産生されるスーパーオキシドジスムターゼ(以下「SOD」という。)の作用により過酸化水素に変換される。」(段落0007)

1-c.「〔抗老化剤・血小板凝集抑制剤・抗酸化剤・抗アレルギー剤〕
本発明の抗老化剤、血小板凝集抑制剤、抗酸化剤及び抗アレルギー剤は、ツルゲンゲからの抽出物を有効成分として含有するものである。
・・・ここで、本発明において、「ツルゲンゲからの抽出物」には、ツルゲンゲを抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
・・・抽出原料として用いる植物は、ツルゲンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)である。・・・
抽出原料として使用することのできるツルゲンゲの部位としては、特に限定されるわけではなく、例えば、花、花穂、果皮、果実、球果、蕾、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を抽出原料として使用することができるが、特に種子を使用することが好ましい。
・・・抽出原料として使用するツルゲンゲは、採取後直ちに乾燥し粉砕したものが適当である。
・・・抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
・・・抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1?5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2?5の多価アルコール等が挙げられる。
・・・2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比を7:3?2:8(質量比)とすることができる。」(段落0023?0032)

1-d.「以上のようにして得られるツルゲンゲからの抽出物は、抗老化作用、血小板凝集抑制作用、抗酸化作用又は抗アレルギー作用を有しており、それぞれの作用を利用して抗老化剤、血小板凝集抑制剤、抗酸化剤又は抗アレルギー剤として使用することができる。」(段落0037)

1-e.「また、ツルゲンゲからの抽出物が有する抗酸化作用は、例えば、活性酸素消去作用及び/又はラジカル消去作用に基づいて発揮される。ただし、ツルゲンゲからの抽出物が有する抗酸化作用は、上記作用に基づいて発揮される抗酸化作用に限定されるわけではない。ここで、「活性酸素」には、スーパーオキサイド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一重項酸素等が含まれる。また、「ラジカル」とは、不対電子を1つ又はそれ以上有する分子又は原子を意味し、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、DPPH等が含まれる。」(段落0039)

1-f.「さらに、本発明の抗酸化剤は、有効成分であるツルゲンゲ抽出物が有する抗酸化作用を通じて、体内における活性酸素濃度の上昇(例えば、体内における活性酸素過剰産生による活性酸素濃度の上昇、老人等におけるSOD作用低下による活性酸素濃度の上昇など)に起因する疾患、例えば、関節リュウマチやベーチェット病などの組織障害、心筋梗塞、脳卒中、白内障、糖尿病、動脈硬化、肩こり、冷え性、肌のしみ・シワ等を効果的に予防・改善することができる。ただし、本発明の抗酸化剤は、これらの用途以外にも、活性酸素を消去することに意義あるすべての用途に用いることができる。」(段落0044)

1-g.「〔製造例1〕 ツルゲンゲ抽出物の製造
ツルゲンゲ種子1000gに抽出溶媒3000mLを加え、還流下で1時間加熱抽出し、該抽出操作を2回繰り返した。得られた抽出液を減圧下に濃縮し、さらに乾燥してツルゲンゲ抽出物を得た。抽出溶媒の濃度を種々変更して上記抽出を行った場合の抽出物の収率を表1に示す。」(段落0057)

1-h.表1には、抽出溶媒が水、30%エタノール、50%エタノール、70%エタノールである場合に、抽出物の収率が、順に、11.2、10.2、9.6、5.5質量%であることが記載されている。(段落0058)

1-i.製造例1で得られたツルゲンゲ抽出物について、NBT法によるスーパーオキサイド消去作用を試験したところ、水、30%エタノール、50%エタノール、70%エタノールを抽出溶媒とする試料のスーパーオキサイド消去率のIC_(50)が、順に、69.4、54.6、49.1、41.3ppmであり、この結果から、上記ツルゲンゲ抽出物に優れたスーパーオキサイド消去作用が認められた旨が記載されている。(段落0077?0082)

1-j.製造例1で得られたツルゲンゲ抽出物について、DPPHラジカル消去作用を試験したところ、水、30%エタノール、50%エタノール、70%エタノールを抽出溶媒とする試料のラジカル消去率のIC_(50)が、順に、>100、104.4、75.1、46.2ppmであり、この結果から、上記ツルゲンゲ抽出物に優れたラジカル消去作用が認められた旨が記載されている。(段落0083?0087)

1-k.製造例1で得られたツルゲンゲ抽出物について、ペルオキシダーゼ溶液を用いた過酸化水素消去作用を試験したところ、水、30%エタノール、50%エタノール、70%エタノールを抽出溶媒とする試料の過酸化水素消去率のIC_(50)が、順に、34.0、14.7、11.4、10.1ppmであり、この結果から、上記ツルゲンゲ抽出物に優れた過酸化水素消去作用が認められた旨が記載されている。(段落0088?0092)

また、引用文献2には、以下の事項が記載されている。

2-a.「最近では、虚血や光といったさまざまなストレスによるフリーラジカルの発生が糖尿病網膜症や加齢黄斑変性をはじめとする多くの網膜疾患に関与していることが認識されている。本稿では、虚血-再灌流という代表的な酸化ストレスによる網膜神経細胞死について、フリーラジカルとの関連を含めて簡単に述べる。」(p649 はじめに)

2-b.「・・・虚血に陥った網膜での代謝機構はさまざまであるが、網膜虚血-再灌流障害においては、グルタミン酸毒性、NOの過剰産生、フリーラジカルの大量発生という3点に集約されるといっても過言ではない。」(p649左欄 I 網膜虚血-再灌流障害 6?9行)

2-c.「・・・血管内皮などではキサンチンオキシダーゼ(XOD)が活性化され再灌流時の酸素供給に伴いフリーラジカルが発生しそれ自体が酸化ストレスとなり、またNOとの反応生成物などが細胞傷害性をもち網膜神経細胞死を誘発する。」(図1)

2-d.「・・・虚血-再灌流の過程において、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇や炎症の場として活性化白血球が血管内皮に付着すると、キサンチンオキシダーゼ(XOD)が活性化されヒポキサンチンを基質としてスーパーオキサイド(O_(2)^(・-))が過剰に産生される。スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル(^(・)OH)、過酸化水素(H_(2)O_(2))などいわゆる活性酸素や脂肪酸ラジカルから生成される過酸化脂質(広義のフリーラジカルに含まれる)、そしてスーパーオキサイドとNOが反応して生じるペルオキシ亜硝酸(peroxynitrite:ONOO^(-))などは再灌流後過剰に生じ、酸化ストレス又は細胞膜障害により網膜神経細胞死を導くと考えられている(図2)。眼科領域においても、白内障をはじめとしてフリーラジカルの存在がさまざまな疾患に関与していることがいわれているが、とくに微小循環系の虚血を基盤とする糖尿病網膜症や最近注目されている加齢黄斑変性においてもフリーラジカルの関与が重要な位置を占めている。」(p650右欄 I 3.フリーラジカル 1?17行)

2-e.「ラットの網膜虚血-再灌流障害実験モデルにおいて1時間の虚血では、再灌流後6時間ぐらいから網膜神経節細胞が死にはじめ、再灌流後約24時間で内顆粒層の網膜神経細胞死はピークに達する。」(p650右欄 II 網膜虚血-再灌流障害における網膜神経細胞死 1?4行)

2-f.「眼内灌流液ボトルにつなげた27G針を前房内に刺入し、ボトルの高さを調節し収縮期血圧より眼圧を高める(ラットでは110mmHg程度)ことで眼虚血を得る、その後、眼圧を正常に戻すことで血流を再灌流させる。」(図3)

2-g.「網膜虚血-再灌流障害の代表的な実験方法としては、視神経結紮法と高眼圧負荷法がある(図3)。・・・現時点においては網膜-再灌流障害における網膜神経細胞死を観察する方法としては簡便であり広く行われている。さらに、高眼圧負荷法は眼圧や時間を調節することで緑内障実験モデルにもなりうる。」(p651左欄 II 1.網膜虚血-再灌流障害実験モデル 1?10行)

2-h.「網膜虚血-再灌流障害における網膜神経細胞死の防御の研究は広く行われており、・・・フリーラジカル消去目的でカタラーゼやスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)などが用いられ、それらの効果が報告されている。ここでは、筆者らが研究しているフリーラジカル消去能をもつ成人T細胞白血病由来因子(ADF)による網膜神経細胞死の抑制について述べる。」(p652右欄 III 網膜虚血-再灌流障害における網膜神経細胞死の抑制 1?9行)

2-i.「ラットの高眼圧負荷による網膜虚血-再灌流障害モデルに対し、1時間の虚血の直前と再灌流直後にADFを0.5mg(リン酸緩衝液0.4mlに溶解)ずつ尾静脈より投与し、またコントロール群に対してはリン酸緩衝液0.4mlのみ虚血直前と再灌流直後に投与した。・・・ADFは機能的、そして組織学的にも網膜虚血-再灌流障害に対して防御的に働き網膜神経細胞死を抑制することが確認された。」(p653?654 III 2.ADFによる網膜神経細胞死の抑制)

2-j.「網膜虚血-再灌流障害ではフリーラジカルの発生が網膜細胞死を誘導する1つの原因と考えられている」(p654左欄 おわりに 1、2行)

4.対比・判断

引用文献1には、ツルゲンゲからの抽出物が、抗酸化作用を有しており、その作用を利用して抗酸化剤として使用することができる旨が記載されている(上記1-a、1-d)。
同引用文献には、該抗酸化剤が、有効成分であるツルゲンゲ抽出物が有する抗酸化作用を通じて、体内における活性酸素濃度の上昇に起因する疾患を効果的に予防・改善できることや、活性酸素を消去することに意義ある全ての用途に用いうることが記載されている(上記1-f)。
そして、具体的に、ツルゲンゲ種子の、水、30%エタノール、50%エタノール、又は70%エタノール抽出物(上記1-g、1-h)、並びに、それらの抽出物に、スーパーオキサイド消去作用、ラジカル消去作用、又は過酸化水素消去作用が認められたことが記載されている(上記1-i?1-k)。ツルゲンゲの学名は、1-aに摘記したとおり、Astragalus complanatus R.Br.である。
ところで、引用文献1においては、スーパーオキサイド、ラジカル、及び過酸化水素は、いずれも活性酸素として認識されており(上記1-b、1-e)、ツルゲンゲからの抽出物の抗酸化作用は、これら活性酸素消去作用及び/又はラジカル消去作用に基づいて発揮される旨が記載されている(上記1-e)。これら記載に照らせば、引用文献1記載の、ツルゲンゲからの抽出物の抗酸化剤としての使用は、該抽出物が有する抗酸化作用をもたらす、スーパーオキサイド消去作用、ラジカル消去作用、又は過酸化水素消去作用に基づくものであって、スーパーオキサイド消去剤、ラジカル消去剤、及び過酸化水素消去剤として使用することができると言い換えることができるものと認める。
そうすると、引用文献1には、「ツルゲンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の種子の水抽出物、30%エタノール、50%エタノール、又は70%エタノール抽出物を有効成分として含有することを特徴とするスーパーオキサイド消去剤、ラジカル消去剤、又は過酸化水素消去剤。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

本願請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明とを対比する。
引用発明のツルゲンゲが本願発明1のツルレンゲに相当することは、その学名から明らかである。
そうすると、両発明は、ともに、「ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の抽出物を含有する剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
1.ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の抽出物に関し、本願発明1が、種子の粉砕物の水抽出物又は水とエタノールとの混合溶媒抽出物と規定しているのに対し、引用発明は、種子の水抽出物、30%エタノール、50%エタノール、又は70%エタノール抽出物である点、
2.剤の用途に関し、本願発明1が、「緑内障、糖尿病性網膜症、高血圧網膜症、動脈硬化性網膜症、及び網膜静脈閉塞症のいずれかに起因する網膜虚血における視神経細胞減少抑制剤」と規定しているのに対し、引用発明は、「スーパーオキサイド消去剤、ラジカル消去剤、又は過酸化水素消去剤」である点

そこで、上記相違点について、以下、検討する。

相違点1について
引用文献1には、抽出原料であるツルレンゲとして、採取後直ちに乾燥し粉砕したものが適当である旨が記載されているから(上記1-c)、引用発明にあっても、抽出原料として、ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の種子の粉砕物の使用を当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。
また、引用発明の抽出溶媒である、30%エタノール、50%エタノール、又は70%エタノールが、水とエタノールとの混合溶媒を意味するものであることは、本件出願時における当業者の技術常識であるから、両発明は、抽出溶媒の点において実質的な相違はない。

相違点2について
引用文献1には、引用発明の「スーパーオキサイド消去剤、ラジカル消去剤、又は過酸化水素消去剤」が効果的に予防・改善することができる疾患として、「緑内障、糖尿病性網膜症、高血圧網膜症、動脈硬化性網膜症、及び網膜静脈閉塞症のいずれかに起因する網膜虚血における視神経細胞減少抑制剤」は記載されていない。
しかし、引用文献1記載の抗酸化剤の疾患に対する作用・効果は、有効成分であるツルゲンゲの抽出物が有する抗酸化作用を通じてもたらされるものであるから(上記1-f)、抗酸化作用をもたらす、スーパーオキサイド、ラジカル、又は過酸化水素などの活性酸素の消去作用を有することが具体的に確認されている(1-i?1-k)、ツルゲンゲ種子の、水、30%エタノール、50%エタノール、又は70%エタノール抽出物を有効成分として含有する引用発明についても同様に期待できる作用・効果であると認められる。
そして、同引用文献には、すでに指摘したとおり、該抗酸化剤が、有効成分であるツルゲンゲ抽出物が有する抗酸化作用を通じて、体内における活性酸素濃度の上昇に起因する疾患を効果的に予防・改善できることや、活性酸素を消去することに意義ある全ての用途に用いうることが記載されており(上記1-f)、引用発明が有する上記作用に照らせば、引用発明が、体内における活性酸素、すなわち、スーパーオキサイド、ラジカル、又は過酸化水素濃度の上昇に起因する疾患を効果的に予防・改善することができ、また、スーパーオキサイド、ラジカル、又は過酸化水素を消去することに意義ある全ての用途に用いうることを当業者は理解するものといえる。

ところで、引用文献2には、虚血などのストレスによりフリーラジカルが発生することが記載されており(上記2-a)、特に、網膜虚血-再灌流障害においては、フリーラジカルの大量発生が、虚血に陥った網膜での代謝機構の一つとされている(上記2-b)。そして、網膜虚血-再灌流の過程において、活性化されたキサンチンオキシダーゼ(XOD)により、再灌流時の酸素供給に伴い、虚血により細胞内にたまったヒポキサンチンを基質として、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素などの活性酸素が再灌流後過剰に生じ、網膜神経細胞死が誘発されること(上記2-c、2-d)、網膜虚血-再灌流障害ではフリーラジカルの発生が網膜神経細胞死を誘導する1つの原因であると考えられていることが記載されている(上記2-j)。
そして、同引用文献には、網膜虚血-再灌流障害における網膜神経細胞死の防御の研究が広く行われていること(上記2-h)、そのような研究として、虚血に陥った網膜において大量発生するフリーラジカル(上記2-a、2-b、2-c)を消去する目的で、カタラーゼやスーパーオキサイドディスムターゼなどが用いられ、それらの効果が報告されていること(上記2-h)や、同様にフリーラジカル消去能をもつ成人T細胞白血病由来因子(ADF)が機能的、組織学的に網膜虚血-再灌流障害に対し防御的に働き網膜神経細胞死を抑制することが実際に確認された旨が記載されている(上記2-i)。
引用文献2の以上の記載から、当業者は、虚血-再灌流時に発生するフリーラジカルにより、網膜神経細胞死が誘発されること、また、フリーラジカルを消去することにより該網膜神経細胞死を抑制しうることを理解するものと認める。
引用文献1には、活性酸素濃度の上昇に起因する疾患として網膜神経細胞死に関連する疾患は明示的に記載されていないが、網膜神経細胞死は好ましからざる病態であり、フリーラジカルにより誘発されるこの病態を抑制することは、引用文献1記載の、「活性酸素を消去することに意義ある用途」に該当することは当業者に明らかである。
そして、引用文献2には、糖尿病性網膜症は、虚血などのストレスによるフリーラジカルの発生が関連する疾患である旨(上記2-a)や、微小循環系の虚血を基盤とする疾患である旨(上記2-d)が記載されており、フリーラジカルの発生、消去と網膜神経細胞死との関連についての前記理解によれば、虚血によるフリーラジカルの発生が関連する糖尿病網膜症にあってもまた、網膜神経細胞死が起こり、該細胞死を抑制するためにフリーラジカルの消去が有効であることを当業者は理解しうるといえる。

そうすると、引用発明の剤の用途として、引用発明が有する作用に照らし、虚血-再灌流障害における、体内における活性酸素濃度、すなわち、スーパーオキサイド、ラジカル、又は過酸化水素濃度の上昇に起因して誘発される網膜神経細胞死を、なかでも、フリーラジカルの発生が関連する虚血疾患の一種である、引用文献2記載の糖尿病性網膜症に起因する網膜神経細胞死の抑制剤を当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。

また、本願発明1の「視神経細胞」は、網膜上にある細胞の一種であるから(本願明細書の段落0002、0003)、引用文献2の「網膜神経細胞」に相当するものといえる。また、本願明細書には、「視神経細胞の減少」に関連して、たとえば、実施例1:視神経細胞減少抑制作用試験において、虚血負荷を行った後の神経細胞数の変化を測定することにより、網膜虚血による神経細胞の減少抑制作用とする記載がなされていることからみて(段落0034?0042)、本願明細書において、「視神経細胞の減少」は、「視神経細胞数の減少」を包含するものと認める。そして、網膜神経細胞死を抑制した場合には、少なくとも該細胞死を抑制した分だけ、該細胞数の減少を抑制することができるといえるから、上記検討の結果、引用文献2に記載された発明から導き出しうるとした、「網膜神経細胞死の抑制剤」との引用発明の剤の用途は、本願発明1の「網膜虚血における視神経細胞減少抑制剤」に相当するものといえる。

以上のとおりであるから、本願発明1の剤の用途は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明から当業者が容易に導き出せたものと認める。

そして、本願明細書記載の本願発明1の効果についてみても、網膜虚血により引き起こされる神経細胞数の減少が、ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の種子の粉砕物の水抽出物、30質量%エタノール抽出物、又は70質量%エタノール抽出物の経口投与により抑制できる旨を確認するとともに(段落0040?0042)、そのような作用・効果を奏することをもって、本願請求項1規定の眼病に対し奏功するというものであって(段落0004、0028、0046)、そのような作用・効果は、ツルゲンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の種子の粉砕物の水抽出物又は水とエタノールとの混合溶媒抽出物が有する、スーパーオキサイド消去作用、ラジカル消去作用、又は過酸化水素消去作用を通じて達成しうると認められることは上記検討のとおりであり、予想外に優れたものとも認められない。

5.むすび

以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-09 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-03-29 
出願番号 特願2007-279656(P2007-279656)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 倫子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
佐久 敬
発明の名称 視神経細胞減少抑制剤  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  
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