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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1314747 |
審判番号 | 不服2015-1029 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-01-19 |
確定日 | 2016-05-12 |
事件の表示 | 特願2009-280601「立体装飾を有する固形化粧料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日出願公開、特開2011-121897〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 本願の経緯 本願は、平成21年12月10日に出願されたものであって、平成26年2月12日付けで拒絶理由が通知され、同年4月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月16日付けで拒絶査定され、平成27年1月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年3月11日付けで前置審査の結果が報告されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?6に係る発明は、平成27年1月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「化粧料粉体を揮発性溶剤に分散させた化粧料粉体スラリーを固形化粧料の成型面に塗着して、固形化粧料の成型面に立体装飾を施すことを含む、立体装飾を有する固形化粧料の製造方法であって、 固形化粧料の成型面に、立体装飾の形状の孔が開いた厚さ0.05?0.5mmのシートを載置する工程Aと、 固形化粧料の成型面とこれに載置したシートの孔とにより形成される穴に該化粧料粉体スラリーを充填する工程Bと、 前記シート上の化粧料粉体スラリーを除去する工程Cとを含み、 前記化粧料粉体スラリーが、チタン類を化粧料粉体全量に対し70質量%以上含み、前記工程Cをへら又はローラーにより行うことを特徴とする、立体装飾を有する固形化粧料の製造方法。」 第3 引用刊行物及び引用発明 1 引用刊行物及びその記載事項 原査定において引用文献1として引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平1-146812号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 1a 「1.固形化粧料の表面に、該固形化粧料とは色の異なる粉体を揮発性溶剤中に分散せしめて得られた粉体分散液8を、所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて付着し、その後、前記溶剤を揮発させて前記粉体分散液8中の粉体のみを前記固形化粧料の表面に付着残存させることによって固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成することを特徴とする固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法。 2.前記固形化粧料が、加圧成形された練状化粧料である特許請求の範囲第1項記載の固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法。 3.前記粉体が、粉状化粧料である特許請求の範囲第1項記載の固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法。 4.前記揮発性溶剤がエチルアルコールである特許請求の範囲第1項記載の固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法。 5.前記所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて粉体分散液を付着する手段が、所望の文字,絵模様等の輪郭を有する孔5の穿設されたプレート6を固形化粧料の表面に載置した後、そのプレート6の孔5の上部から粉体分散液を噴射して付着させる手段である特許請求の範囲第1項記載の固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法。」(1頁特許請求の範囲) 1b 「本発明は、固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法、さらに詳しくは、加圧成形された頬紅,アイシャドウ,パウダー類,練ファンデーション等の固形化粧料の表面に、商品名,メーカー名等の文字や所望の絵模様等を形成するための方法に関する。」(1頁右欄15?20行) 1c 「上記のような粉体分散液が固形化粧料の表面に付着されるため、液中に分散していわゆるスラリー状となっている粉体が確実に固形化粧料の表面に付着残存し、その粉体によって固形化粧料とは異なる色で所望の文字,絵模様が形成されるのである。」(2頁右上欄14?19行) 1d 「以下、本発明の実施例について図面に従って説明する。 先ず、第1図に示すような充填機1内に、予め粉体の一例としての赤色の粉状化粧料をエチルアルコール中に分散せしめて得られた粉体分散液を、ガスとともに注入する。 次に、予め加圧成形された練状ファンデーションからなる肌色の固形化粧料2を、第2図のようにコンベア3上で移送せしめ、その移送される固形化粧料2が、前記充填機1に連結されたノズル4の直下に位置した時に、第3図のように、ABCの文字の輪郭を有する孔5が穿設されたプレート6を前記固形化粧料2の上面に載置する。 次に、その状態で、第1図に示す充填機1とノズル4間のバルブ7を開栓して第4図に示すように該ノズル4から定量の粉体分散液8を前記プレート6の孔5を介して固形化粧料2の表面に噴射する。 そして、前記プレート6を固形化粧料2の表面から取り除くと、第5図に示すように、前記プレート6の孔5のABCの文字の輪郭に応じて粉体分散液8が固形化粧料2の表面に付着する。 その後、吸引によって粉体分散液8中のエチルアルコールを揮発させると、粉体のみが固形化粧料2の表面に付着残存し、その赤色の粉体によって肌色の固形化粧料2の表面に前記ABCの文字が形成されることとなるのである。」(2頁左下欄1行?同頁右下欄7行) 1e 「該実施例では、粉体として粉状化粧料を使用したため、その粉体も化粧料として共に使用できるという利点がある」(3頁左上欄5?7行) 1f 「固形化粧料2や粉体の色も該実施例に限らず、要は両者が異なる色に着色されていればよい。尚、上記実施例では1色のみの粉体を固形化粧料2に付着しているが、2色以上の粉体を付着することも可能であり、この場合には、より優れた装飾効果が発揮されることとなる。」(3頁右上欄1?6行) 1g 「上記実施例では、粉体分散液により所望の文字を形成する手段として、所望の文字の輪郭を有する孔5が穿設されたプレート6を固形化粧料2上に載置した後に粉体分散液を噴射することによって行っているが、所望の輪郭に形成する手段はこれに限らず、たとえばノズルを文字の形態に応じて移動させながら噴射してもよい。要は、所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて、粉体分散液が固形化粧料2の表面に付着されればよいのである。 さらに、該実施例では噴射によって粉体分散液を固形化粧料表面上に付着しているが、この粉体分散液を付着する手段も該実施例の噴射に限らず、塗布等によって行われてもよい。」(3頁右上欄7?20行) 1h 「(イ)叙上のように、本発明は、上述のような粉体分散液を、所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて固形化粧料の表面に付着し、その後、溶剤を揮発させて粉体分散液中の粉体のみを付着残存させることによって前記固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成する方法なるため、分散液中の粉体が固形化粧料の表面に確実に付着残存し、且つその粉体によって文字や絵模様が明瞭に描かれ、よって従来では全く困難とされていた、固形化粧料表面への文字,絵模様等の直接的な表示が可能になるという画期的な効果を生ずるに至った。 (ロ)又、固形化粧料と粉体の色が異なるため、従来の刻印等の方法に比べると、化粧料の本体とは異色の文字,絵模様によって、その表示効果が格段優れたものになるという利点がある。 (ハ)さらに、上記のような粉体分散液の付着によって行われるため、文字,絵模様の形成が順次搬送される固形化粧料の表面に連続的になされ、作業の連続化,自動化を図ることができるという効果がある。」(3頁左下欄8行?同頁右下欄8行) 2 引用発明 刊行物1には、摘示1a及び1dから、「固形化粧料の表面に、該固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体を揮発性溶剤中に分散せしめて得られた粉体分散液8を、所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて付着し、その後、前記溶剤を揮発させて前記粉体分散液8中の粉体のみを前記固形化粧料の表面に付着残存させることによって固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成する固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法であって、前記所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて粉体分散液を付着する手段が、所望の文字,絵模様等の輪郭を有する孔5の穿設されたプレート6を固形化粧料の表面に載置した後、そのプレート6の孔5の上部から粉体分散液を噴射して付着させる手段である固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成する固形化粧料の表面における文字,絵模様等の形成方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 第4 対比及び判断 1 対比 (1) 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 本願発明の「立体装飾を有する固形化粧料の製造方法であって」について 引用発明の「固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体を揮発性溶剤中に分散せしめて得られた粉体分散液8」が、本願発明の「化粧料粉体を揮発性溶剤に分散させた化粧料粉体スラリー」に相当し(摘示1c参照)、引用発明の「固形化粧料の表面」が、本願発明の「固形化粧料の成型面」に相当し(摘示1aの請求項2、摘示1b及び1d参照)、そして、引用発明の「固形化粧料の表面に、該固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体を揮発性溶剤中に分散せしめて得られた粉体分散液8を、所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて付着し」は、本願発明の「化粧料粉体を揮発性溶剤に分散させた化粧料粉体スラリーを固形化粧料の成型面に塗着し」に相当する。 また、引用発明は、「固形化粧料の表面に、該固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体」「のみを前記固形化粧料の表面に付着残存させることによって固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成する」のであり、当該粉体は所定の平均粒径を有すると解されるから、当該所定の平均粒径との関係において、本願発明の「固形化粧料の成型面に立体装飾を施すことを含む」といえる。 以上から、引用発明は、本願発明の「化粧料粉体を揮発性溶剤に分散させた化粧料粉体スラリーを固形化粧料の成型面に塗着して、固形化粧料の成型面に立体装飾を施すことを含む、立体装飾を有する固形化粧料の製造方法であって」という特定を満たす。 なお、本願発明において「化粧料粉体を揮発性溶剤に分散させた化粧料粉体スラリーを固形化粧料の成型面に塗着して、固形化粧料の成型面に立体装飾を施す」に際しては、固形化粧料の成型面に塗着後の化粧料粉体スラリーから揮発性溶剤を揮発させて固形化粧料の成型面に立体装飾を施すものであるから(本願明細書【0032】及び【0039】参照)、引用発明が「固形化粧料の表面に・・・付着し、その後、前記溶剤を揮発させて・・・固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成」していることは、本願発明との相違点とはならない。 イ 本願発明の「工程A」について 引用発明の「プレート」が、本願発明の「シート」に相当する。 そして、引用発明は「所望の文字,絵模様等の輪郭を有する孔5の穿設されたプレート6を固形化粧料の表面に載置」している。 そうすると、引用発明と本願発明とは、「固形化粧料の成型面に、立体装飾の形状の孔が開いたシートを載置する工程A」を含む点で共通する。 ウ 本願発明の「工程B」について 引用発明は、「前記所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて粉体分散液を付着する手段が、所望の文字,絵模様等の輪郭を有する孔5の穿設されたプレート6を固形化粧料の表面に載置した後、そのプレート6の孔5の上部から粉体分散液を噴射して付着させる手段」を採用しているが、本願明細書の【0018】で「充填は、前記穴が化粧料粉体スラリーで満たされる方法にて行えばよく、その方法は特に制限されない。例えば、ノズルやチューブを用いて化粧料粉体スラリーを穴に注入する方法が挙げられる。」と記載されている。 そうすると、引用発明は、本願発明の「固形化粧料の成型面とこれに載置したシートの孔とにより形成される穴に該化粧料粉体スラリーを充填する工程B」という特定を満たす。(本願発明の「工程B」は、例えば、「固形化粧料の成型面とこれに載置したシートの孔とにより形成される穴に、当該穴の上部から該化粧料粉体スラリーを噴射することにより充填する工程B」を包含している。) (2) 以上から、本願発明と引用発明とは、 「化粧料粉体を揮発性溶剤に分散させた化粧料粉体スラリーを固形化粧料の成型面に塗着して、固形化粧料の成型面に立体装飾を施すことを含む、立体装飾を有する固形化粧料の製造方法であって、 固形化粧料の成型面に、立体装飾の形状の孔が開いたシートを載置する工程Aと、 固形化粧料の成型面とこれに載置したシートの孔とにより形成される穴に該化粧料粉体スラリーを充填する工程Bとを含むことを特徴とする、立体装飾を有する固形化粧料の製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1: 「立体装飾の形状の孔が開いたシート」について、本願発明では「厚さ0.05?0.5mm」であることを特定しているが、引用発明ではかかる特定がない点 相違点2: 本願発明では「前記シート上の化粧料粉体スラリーを除去する工程C」を含み、「前記工程Cをへら又はローラーにより行う」と特定しているのに対し、引用発明ではかかる特定がない点 相違点3: 「前記化粧料粉体スラリー」について、本願発明では「チタン類を化粧料粉体全量に対し70質量%以上含」むと特定しているのに対し、引用発明では「固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体」を含むと特定するにとどまる点 2 判断 上記相違点1?3について検討する。 (1) 相違点1について ア 引用発明は、「所望の文字,絵模様等の輪郭を有する孔5の穿設されたプレート6を固形化粧料の表面に載置した後、そのプレート6の孔5の上部から」「該固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体を揮発性溶剤中に分散せしめて得られた」「粉体分散液を噴射して付着させ」ている。 ここで、「固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体」は、所定の平均粒径を有すると解される。 そうすると、引用発明において、「該固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体を揮発性溶剤中に分散せしめて得られた」「粉体分散液を噴射して付着させ」るためには、ある程度のプレートの厚さが必要であるし、また、ある程度のプレートの厚さがあれば充分であることは自明である。 そうであれば、引用発明を具体化するに際し、プレートの厚みを0.05?0.5mmとしてみることに格別な困難性があるとは認められない。 イ 相違点1に基づく本願発明の効果について検討する。 本願明細書の【0016】には、「シートの厚さは、0.05?0.5mm、好ましくは0.05?0.3mm、さらに好ましくは0.1?0.2mmである。この厚さのシートを用いることで、立体的な装飾を形成することができ、しかも通常の振動や衝撃による該装飾の崩れが起こりにくい。」と記載されており、また、実施例1で「崩れ」が「ない」ことが示されている。 上記記載からみて、シートの厚さの下限値を0.05mmとした効果は、「化粧料粉体を揮発性溶剤に分散させた化粧料粉体スラリーを固形化粧料の成型面に塗着して」「立体的な装飾を形成することができ」るという効果であると解されるが、引用発明においても、「固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成」できていることからすれば、予想外の効果とはいえない。 また、上記記載からみて、シートの厚さの上限値を0.5mmとした効果は、「通常の振動や衝撃による該装飾の崩れが起こりにくい」という効果であると解されるが、引用発明においても、固形化粧料の表面に形成された「文字,絵模様等」の崩れを防ぐことは当然検討すべき事項であると共に、引用発明において、プレート(シート)の厚みを「文字,絵模様等」を形成するために充分な厚みである0.5mm以下としたことにより、装飾の崩れを防止できたとしても、プレートが厚すぎれば、形成された「文字,絵模様等」が崩れやすくなることは自明であるから、予想外の効果とはいえない。 (2) 相違点2について検討する。 ア 刊行物1に、「該実施例では噴射によって粉体分散液を固形化粧料表面上に付着しているが、この粉体分散液を付着する手段も該実施例の噴射に限らず、塗布等によって行われてもよい。」(摘示1g参照)と記載されていることからすると、引用発明において、粉体(固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体)分散液の固形化粧料表面上への付着は、噴射や塗布等によって行われるものであるから、付着に際し、プレート上に余分な粉体分散液が存在することになるのは自明である。 そうであれば、引用発明において、「前記シート上の化粧料粉体スラリーを除去する工程C」を含むことは適宜なし得ることである。 また、その除去を、余分な化粧料粉体スラリーを除去する手段として周知のローラー等(例えば、下記参考文献1参照。)で行うことは具体化に際する設計的事項といえる。 参考文献1:特開平3-127715号公報(原査定の周知例、特に、特許請求の範囲、2頁右上欄1行?同頁右下欄9行、実施例参照) イ 相違点2に基づく本願発明の効果について検討する。 本願明細書の【0025】には、「工程Cを行うことにより、前記シートを剥離する際に、立体的な装飾の輪郭が崩れることを防ぐことができる(図2(a))。一方、この工程Cを行わない場合には、前記シートを剥離する際に、シートの孔付近に付着ないし堆積した化粧料粉体スラリー4aと共に穴中の化粧料粉体スラリーの一部が剥がれる可能性が高くなる(図2(b))。」と記載され、【0008】には、「本発明において、工程Cは、好ましくはへら、又はローラーにより行う。これにより、シート上の化粧料粉体スラリーを簡便に除去することができる。」、【0027】には、「へらやローラーを用いることによって、シート上の化粧料粉体スラリーを除去しながら前記穴に充填された化粧料粉体スラリーに圧力をかけることも可能であり、このような方法によれば、穴の化粧料粉体スラリーの充填密度を上げることができ、最終的に装飾が崩れにくくなるため好ましい。」と記載されている。 しかし、上記参考文献1の実施例1で、「H Eの表面に、花模様を施したスクリーンメツシュ(ナイロン#150.100メッシュ)を設置し、その上からG(当審注:(13)着色顔料、(14)パール顔料を混合し、粉砕器に通して粉砕したものに、(15)n-オクチルアルコール(揮発成分)を加えて混合攪拌したもの)をステージする。 I ローラー等を用いることで、Hのスクリーンメッシュを圧縮し、粉体化粧料表面に花模様を圧着させると共に、余分なGをかき取る。」(3頁4?9行)ことが記載されていることからすれば、「前記シート上の化粧料粉体スラリーを除去する工程C」を含み、「前記工程Cをへら又はローラーにより行う」ことにより得られる上記効果は、予想外のものではない。 (3) 相違点3について検討する。 ア 引用発明は、「固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体を揮発性溶剤中に分散せしめて得られた粉体分散液8」を使用することを特定している。 ここで、刊行物1の実施例(摘示1d参照)では、肌色の固形化粧料に対し、赤色の粉状化粧料を使用しているが、刊行物1には、「固形化粧料2や粉体の色も該実施例に限らず、要は両者が異なる色に着色されていればよい。」(摘示1f参照)と記載されており、また、「1色のみの粉体を固形化粧料2に付着」すること(摘示1f参照)も記載されていることからすれば、固形化粧料と異なる色である限り、赤色に限らず、任意の色の粉状化粧料のみを採用することができることが記載されているといえる。 そうであれば、引用発明において、固形化粧料の色とは異なる色の粉状化粧料として、所定の色(白系色)を有する粉状化粧料として、周知の粉状化粧料であるチタン類(例えば、下記参考文献2参照)のみを採用すること、つまり「化粧料粉体スラリーが、チタン類を化粧料粉体全量に対し70質量%以上含」むに包含される「化粧料粉体スラリーが、チタン類を化粧料粉体全量に対し100質量%含」むとしてみることに格別な困難性は認められない。 参考文献2:特開2006-76976号公報(原査定の引用文献3、特に、特許請求の範囲、実施例1参照) イ 相違点3に基づく本願発明の効果について検討する。 (ア) 本願明細書の【0022】には、「前記化粧料粉体スラリーは、チタン類を化粧料粉体全量に対し、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む。また、化粧料粉体の全てがチタン類からなる(100質量%)ことも好ましい。チタン類の含有量を上記範囲とすることで、鮮明で美麗な白系の装飾を施すことができ、固形化粧料に美麗な印象を与えることができる。」と記載されている。 しかし、本願明細書の【0035】には、「固形化粧料1については、固形化粧料の成型面と同じ色の装飾が施されたため、細かい部分の輪郭はややぼけて見えたが、自然で柔らかい立体感があった。固形化粧料2及び3については、白の光沢がある装飾が施されたため、細かい部分の輪郭がはっきりとし、シャープで美麗な立体感があった。」と記載されていることからみて、「前記化粧料粉体スラリーが、チタン類を化粧料粉体全量に対し70質量%以上含」むことにより、化粧料粉体スラリー中の化粧料粉体が白系となったとしても、固形化粧料の色が当該白系と同じ色であれば、鮮明で美麗な立体装飾を施せるとは限らない。(固形化粧料2及び3の化粧料粉体スラリーはチタン類を化粧料粉体全量に対し100質量%含むと解されるから、本願発明の実施例といえる一方で、固形化粧料1の化粧料粉体スラリーはチタン類を化粧料粉体全量に対し何質量%以上含むのかが不明であるから、本願発明の実施例といえるのか不明であるが、固形化粧料2及び3の化粧料粉体スラリーを用いても、固形化粧料2及び3の成形面の色が白系であれば、鮮明で美麗な立体装飾を施せるとは限らない。) そうであれば、引用発明において、上記周知の粉状化粧料であるチタン類のみを採用した結果として、当該チタン類の色に基づく「白系の装飾」が得られたとしても、予想外の効果とはいえない。 なお、引用発明は、「固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体」を使用するものであるから、上記周知の粉状化粧料であるチタン類のみを採用するのは、当該チタン類とは色の異なる固形化粧料の場合であるから、そのような場合に「鮮明で美麗な白系の装飾」が得られることは予想外の効果とはいえない。 (イ) また、本願明細書の上記【0022】には、「チタン類を化粧料粉体全量に対し70質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、又は100質量%とすることにより、化粧料粉体の揮発性溶剤への分散性が良好となり、前記穴への化粧料粉体スラリーの充填を均一に行うことが容易になる。」とも記載されている。 しかし、化粧料粉体の揮発性溶剤への分散性が、化粧料粉体の種類のみならず、揮発性溶剤の種類及び粘度等の物性等に依存するのは自明であるから、「前記化粧料粉体スラリーが、チタン類を化粧料粉体全量に対し70質量%以上含」むことによって得られる化粧料粉体の揮発性溶剤への分散性が格別なものであるとは解されない。 (4) 小括 したがって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 第5 請求人の主張 1 請求人は、上記審判請求書において、刊行物1である「引用文献1には本願発明に特有の「輪郭をシャープにする」という課題の記載も示唆もなく、引用文献1と本願発明が同一の技術課題を有するとはいえないと思料する。」と述べ、当業者が本願発明を容易に想到することはできない旨主張している。 しかし、刊行物1には、「(イ)叙上のように、本発明は、上述のような粉体分散液を、所望の文字,絵模様等の輪郭に応じて固形化粧料の表面に付着し、その後、溶剤を揮発させて粉体分散液中の粉体のみを付着残存させることによって前記固形化粧料の表面に文字,絵模様等を形成する方法なるため、分散液中の粉体が固形化粧料の表面に確実に付着残存し、且つその粉体によって文字や絵模様が明瞭に描かれ、よって従来では全く困難とされていた、固形化粧料表面への文字,絵模様等の直接的な表示が可能になるという画期的な効果を生ずるに至った。(ロ)又、固形化粧料と粉体の色が異なるため、従来の刻印等の方法に比べると、化粧料の本体とは異色の文字,絵模様によって、その表示効果が格段優れたものになるという利点がある。」(摘示1h参照)と記載されていることからすると、「輪郭をシャープにする」という課題は、刊行物1に記載ないし示唆されているといえる。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 2 また、請求人は、上記審判請求書において、「立体的装飾の輪郭が崩れるのを防ぐという視点がない引用文献1には「輪郭をシャープ」にするという目的で、シート上のスラリーを除去する動機付けはないと思料する。」と述べると共に、上記参考文献1である「特開平3-127715号公報は多色粉体化粧料の製造法に関し、いわゆるスクリーン印刷の手法を用いて粉体化粧料の上に色の異なる粉体で文字や模様を形成する方法が開示されている。そして粉体Bをスクリーンメッシュを通過させ、「スクリーンメッシュを通過させれば、粉体Bが粉体化粧料Aの表面に付着する。また余分な粉体Bはスキージングなどにより、かき取ればよい」との記載がある(第(2)頁左下欄第9行?18行参照。)。すなわち、本願の当初明細書[図1]の工程Bで示すように孔の縁とシートとの境目にまたがるような付着物を除去することが開示されているのではなく、成型された粉体化粧料表面に付着した余分な粉体Bを除去することが記載されている。従って、これらの文献から、スラリーを除去する工程を「へら」、又は「ローラー」により行うことは本願出願前に周知であるとする認定は失当であると思料する。また、この周知事項の認定を前提として、本願補正発明の進歩性を否定することも失当であると思料する。」と述べ、当業者が本願発明を容易に想到することはできない旨主張している。 しかし、「輪郭をシャープにする」という目的については、上記1で述べたとおりであるし、また、上記参考文献1の実施例1では、上記「第4 2(2)」で述べたように、ローラー等で余分なGがかき取られているから、スクリーンメッシュの孔の部分にある余分な粉体B(本願発明の「化粧粉体スラリー」に対応する。)のみならず、スクリーンメッシュの上にある余分な粉体B(上記主張における「孔の縁とシートとの境目にまたがるような付着物」)も除去されることは自明である。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 3 さらに、請求人は、上記審判請求書において、「本願発明は、上記特定の厚さのシートを用いることで、立体的かつ、通常の振動や衝撃による該装飾の崩れが起こりにくいという効果を奏する(当初明細書 段落[0016][0033][0034]等参照。)。また、得られる立体装飾の高さは0.5mm以下となる。このため、本願発明において固形化粧料表面上の立体装飾の量は、固形化粧料全量に対し非常に少量である。立体装飾を形成する成分として、装飾を施そうとする固形化粧料に含まれている粉体、特に、該固形化粧料に多く含まれている粉体を用いたり、固形化粧料と同じ組成の粉体組成物を用いれば、既存の商品のパッケージ等の成分表示の変更を伴わずに固形化粧料の成型面に自由に装飾を施すことができる。ここで、通常の固形化粧料に多く含まれている粉体としては、チタンやその酸化物、タルク、セリサイト、マイカ、ナイロンパウダー、並びにそれらの表面処理物などが挙げられる。本願発明では化粧料粉体スラリーが、チタン類を化粧料粉体全量に対し70質量%以上含む。これにより、チタン製品を多く含む固形化粧料の場合、既存の商品のパッケージ等の成分表示の変更を伴わずに固形化粧料の成型面に自由に装飾を施すことができる(当初明細書 段落[0019]参照。)。・・・よって、本願発明は、立体装飾を有する固形化粧料を簡便に製造することが可能となり、輪郭がシャープな装飾、更には白系の光沢を有する装飾を有する固形化粧料を簡便に製造することが可能となり、商品のバリエーションを簡便にふやすことができ、低コストで商品価値を高めることができるという、引用発明から予測できない有利な効果を奏するといえる(当初明細書 段落[0014][0046]等参照。)。」と述べ、当業者が本願発明を容易に想到することはできない旨主張している。 しかし、本願発明において、固形化粧料表面上の立体装飾の量は特定されておらず、また、固形化粧料におけるチタン類の含有の有無、含有量等の組成等は特定されていない。加えて、刊行物1をみても、本願発明と引用発明との間で、固形化粧料表面上の立体装飾の量の点で顕著な相違があるとは解されず、また、引用発明は「固形化粧料とは色の異なる粉状化粧料である粉体」を使用しており、刊行物1で「粉体として粉状化粧料を使用したため、その粉体も化粧料として共に使用できるという利点がある」(摘示1e参照)と記載されていることからすれば、当該粉体が固形化粧料の成分でもある場合には、既存の商品のパッケージ等の成分表示の変更を伴わずに固形化粧料の成型面に自由に装飾を施すことができるのは自明である。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-03-10 |
結審通知日 | 2016-03-15 |
審決日 | 2016-03-28 |
出願番号 | 特願2009-280601(P2009-280601) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 弘實 謙二 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
関 美祝 小久保 勝伊 |
発明の名称 | 立体装飾を有する固形化粧料の製造方法 |
代理人 | 下田 俊明 |
代理人 | 川口 嘉之 |
代理人 | 佐貫 伸一 |
代理人 | 丹羽 武司 |