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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1314788 |
審判番号 | 不服2015-18569 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-10-14 |
確定日 | 2016-06-13 |
事件の表示 | 特願2014-520557「光電子モジュール、光電子装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月24日国際公開、WO2013/010636、平成26年 9月11日国内公表、特表2014-523650、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年7月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年7月18日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成26年4月11日に特許請求の範囲の補正がなされ、平成27年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月28日に明細書及び特許請求の範囲の補正がなされたが、同年6月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲の補正がなされたものである。 第2 平成27年10月14日になされた補正の適否 平成27年10月14日になされた特許請求の範囲の補正は、補正前の請求項5を引用する請求項8を新たな請求項1としたものであり、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。 また、上記補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。 第3 本願発明 本願の請求項1ないし14に係る発明(以下、請求項の番号に応怖じて「本願発明1」ないし「本願発明14」という。)は、上記補正後の請求項1ないし14に記載された以下の事項により特定されるとおりのものと認められる。 「【請求項1】 光電子モジュール(112)であって、 前記光電子モジュール(112)は、支持体(116)を含み、 前記支持体(116)は、平坦に構成され、さらに当該支持体(116)上に配設された複数の光電子部品(118)を含んでおり、 前記光電子モジュール(112)は、さらに複数のレンズ(124)を有するレンズシステム(122)を含んでいる、光電子モジュール(112)において、 前記レンズシステム(122)が、異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)を備えており、 前記異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)は、異なる表面曲率と異なる高さとを有するレンズ(124)を含み、 前記レンズシステム(122)の少なくとも1つのレンズ(124)は、少なくとも1つの凸状湾曲領域と少なくとも1つの凹状湾曲領域とを有する表面湾曲部を備え、前記レンズ(124)の光軸(134)は、当該レンズ(124)に対応する光電子部品(118)の光軸(132)に対してずらされて配置されていることを特徴とする、光電子モジュール(112)。 【請求項2】 前記複数の光電子部品(118)は、前記支持体(116)上の一次元アレイ又は二次元アレイに配設されている、請求項1記載の光電子モジュール(112)。 【請求項3】 前記複数の光電子部品(118)は、直線状又は二次元マトリックス状に配設されている、請求項2記載の光電子モジュール(112)。 【請求項4】 前記複数の光電子部品(118)は、面発光型発光ダイオードを含む発光ダイオード(120)、及びフォトダイオードからなるグループから選択されている、請求項1から3いずれか1項記載の光電子モジュール(112)。 【請求項5】 前記異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)は、異なる基準面を有するレンズ(124)を含んでいる、請求項1から4いずれか1項記載の光電子モジュール(112)。 【請求項6】 前記異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)は、前記レンズ(124)のそれぞれ1つの光軸が、異なる手法で前記光電子部品(118)のそれぞれ1つの光軸に対して配向されているレンズ(124)を含んでいる、請求項1から5いずれか1項記載の光電子モジュール(112)。 【請求項7】 前記レンズシステム(122)は、前記各光電子部品(118)に対して正確に1つのレンズ(124)が対応付けられるように構成されている、請求項1から6いずれか1項記載の光電子モジュール(112)。 【請求項8】 前記レンズシステム(122)の縁部に、少なくとも1つのレンズ(124)が設けられており、該レンズ(124)は、前記レンズシステム(122)の内側に配置された少なくとも1つのレンズ(124)のものよりも小さい指向性の開口角を有している、請求項1から7いずれか1項記載の光電子モジュール(112)。 【請求項9】 前記レンズシステム(122)の縁部に、少なくとも1つのレンズ(124)が設けられており、該レンズ(124)は、前記レンズシステム(122)の内側に配置された少なくとも1つのレンズ(124)のものよりも大きい指向性の開口角を有している、請求項1から7いずれか1項記載の光電子モジュール(112)。 【請求項10】 前記凹状湾曲領域は、前記凸状湾曲領域によって環状に取り囲まれている、請求項1記載の光電子モジュール(112)。 【請求項11】 前記光電子モジュール(112)は、光電子チップオンボードモジュール(114)である、請求項1から10いずれか1項記載の光電子モジュール(112)。 【請求項12】 請求項1から11いずれか1項記載の光電子モジュール(112)を少なくとも2つ含んでいる光電子装置(110)であって、 前記光電子モジュール(112)の支持体(116)が、前記光電子装置(110)内で相互に隣接して配置されていることを特徴とする光電子装置。 【請求項13】 請求項1から11いずれか1項記載の光電子モジュール(112)を製造するための方法であって、 レンズシステム(122)の少なくとも1つの成形可能なベース材料を、複数の光電子部品(118)と接触接続させて成形し、硬化するようにして、レンズシステム(122)を製造するようにしたことを特徴とする方法。 【請求項14】 請求項1から11いずれか1項記載の光電子モジュール(112)を露光技術分野及び/又は照射技術分野のために使用する方法であって、少なくとも1つのワークピースを前記光電子モジュール(112)から放射された電磁ビームを用いて照射するようにしたことを特徴とする使用方法。」 第4 原査定の理由の概要 この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1又は2に記載された発明及び刊行物3ないし5記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 1.特開2007-207956号公報 2.特開平2-094673号公報 3.特開2007-027325号公報(周知技術を示す文献) 4.特開2011-077491号公報(周知技術を示す文献) 5.特開2001-196637号公報(周知技術を示す文献) 第5 当審の判断 1.刊行物の記載 (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶理由に引用された特開2007-207956号公報(以下「引用文献1」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は当審が付した)。 ア 「【0001】 本発明は、発光素子アレイおよび光プリントヘッドならびに画像形成装置に関する。」 イ 「【0028】 図1は、本発明の実施の第1形態である発光素子アレイ1を備える光プリントヘッド2の構成を示す部分断面図である。本実施の形態の発光素子アレイ1は、基板3と、複数の発光素子5a,5b,5c,5d,…(以後、特定の発光素子を示す場合を除いて発光素子5と記載する)と、照射領域縮小手段6とを含んで構成される。 【0029】 発光素子5は、発光部4a,4b,4c,4d,…(以後、特定の発光部を示す場合を除いて発光部4と記載する)をそれぞれ有し、各発光部4が、互いに間隔をあけた2地点間に並べて配置されるように基板3に設けられる。発光素子5のうち、基板3の端部に配置される発光素子5aを、以後端部発光素子5aと記載する。また発光素子5のうち、基板3の端部を除く中間部に配置される発光素子5b,5c,5d,…を、以後中間部発光素子5bと記載する場合がある。また端部発光素子5aの発光部4aを、以後端部発光部4aと記載し、中間部発光素子5b,5c,5d,…の発光部4b,4c,4d,…を、以後中間部発光部4bと記載する場合がある。」 ウ 「【0105】 図8は、本発明の実施の第3形態である発光素子アレイ41を備える光プリントヘッド42の構成を示す部分断面図である。本実施の形態の光プリントヘッド42は、前述の第2実施形態の光プリントヘッド32に類似し、同一の構成である部分については同一の参照符号を付してその説明を省略する。 【0106】 本実施の形態の発光素子アレイ41は、基板3と、発光部4を有する発光素子5と、各発光素子5の発光部4を覆って設けられる第1光透過層14およびレンズ43a,43b,43c,43d,…(以後、特定のレンズを示す場合を除きレンズ43と記載する)とを含んで構成される。本実施の形態の光プリントヘッド42は、複数の発光素子アレイ41と、レンズアレイ7とを含んで構成される。 【0107】 本実施の形態の発光素子アレイ41は、第2光透過層の代わりに、照射領域縮小部であるレンズ43が形成される。端部発光部4aに形成されるレンズ43aを端部レンズ43aと呼び、中間部発光部4b,4c,4d,…に形成されるレンズ43b,43c,43d,…を、中間部レンズ43b,43c,43d,…と呼び、さらにこれらの中間部レンズのうち、特定の中間部レンズを示す場合を除いて中間部レンズ43bと記載する。レンズ43は、第1光透過層14の発光素子5と反対側に形成され、レンズ43の第1光透過層14側の面が平面形状であり、レンズアレイ7側の面が外方に凸となる曲面形状である。 【0108】 中間部レンズ43bは、レンズアレイ7側の面が、半径Rb1、高さRb2の半球状に形成される。したがって、本実施の形態における中間部レンズ43bの頂点付近における曲率半径Rbは、半径Rb1に等しい。端部レンズ43aは、高さがRa2であり、かつ端部発光素子5aの占有領域の面積が中間部発光素子5bの占有領域の面積よりも小さいので、発光素子配列方向における端部レンズ43aの長さが、Rb1の2倍よりも小さいRa1の2倍となる。また端部レンズ43aの頂点付近における曲率半径は、Raである。 【0109】 本実施の形態では、端部レンズ43aと中間部レンズ43bとは、基板3の厚み方向における高さである突出高さが等しい。したがって端部レンズ43aおよび中間レンズ43bは、高さがRa2(=Rb2)である。ここで、レンズの高さをレンズの幅の半分の長さで除した値を偏平率とするとき、端部レンズ43aの偏平率(Ra2/Ra1)は1よりも大きくなる。また中間部レンズ43bの偏平率(Rb2/Rb1)は1となる。 【0110】 このようなレンズ43は、前述の実施形態の光透過層と同様に、たとえば塗布工程および溶媒除去工程を含む光透過層形成方法によってレンズアレイ7側の面が平面である光透過層を形成し、不要な部分をエッチングなどによって除去することによって形成される。またレンズ43は、インクジェット法などによって形成されてもよい。インクジェット法によってレンズ43を形成する場合、たとえば、吐出する樹脂溶液の溶媒として異なる溶媒を用い、樹脂溶液の表面張力を異ならせることによって、端部レンズ43aと中間部レンズ43bとの形状を異ならせることができる。 【0111】 図9は、発光素子5から出射されてレンズアレイ7に入射される光の光路を示す図である。中間部発光素子5bから出射される光の光路44a,44b,44c,44dは、第2光透過層15を透過する代わりに中間部レンズ43bを透過すること以外は、図4に示す光路19a,19b,19c,19dと同じであるので、説明を省略する。 【0112】 ここで、中間部発光部4bよりも占有領域の面積が小さい端部発光部4aに、中間部発光部4bに設けられる中間部レンズ43bと同じ形状である半球状レンズ45を設けたときの出射光の光路を、二点鎖線45b,45dで示す。中間部レンズ43bは、底面の半径がRa、突出高さがRaである。また本実施の形態の端部レンズ43aを設けたときの出射光の光路を46a,46b,46c,46dで示す。 【0113】 端部発光素子5aからの光の一部は、光路46a,46b,46dに示すように、第1光透過層14および端部レンズ43aを透過して空気中に出射され、対応するロッドレンズ11aに入射する。また矢符46cで光路を示す端部発光素子5aからの出射光は、第1光透過層14の端部47において散乱され、対応するロッドレンズ11aに入射させることができない。 【0114】 光路46bおよび46dに注目する。偏平率が1である半球状レンズ45に入射する光の光路と、偏平率が1よりも大きい端部レンズ43aに入射する光の光路とを比較すると、半球状レンズ45と端部レンズ43aとで、レンズから空気に入射するときの光の入射角が異なることによって、半球状レンズ45の集光特性よりも、偏平率が1よりも大きくなる端部レンズ43aの集光特性のほうが向上される。 【0115】 図10は、発光素子5から出射された光がレンズ43から空気に入射するときの入射角を示す図である。光路46bに注目する。矢符46bで光路を示す端部発光素子5aからの出射光は、第1光透過層14および端部レンズ43aを透過して空気中に出射され、対応するロッドレンズ11aに入射する。端部レンズ43aの出射面形状がレンズアレイ7側に凸の曲面形状であり、偏平率が1より大きいので、光の出射位置における曲面の法線48が、半球状の中間部レンズ43bの出射面形状の出射位置の法線49よりも、基板3の素子配列面3aに対する傾斜角度が大きくなる。 【0116】 これによって、端部レンズ43aから空気に入射する光の入射角θaが、中間部レンズ43bから空気に入射する光の入射角θbよりも大きくなるので、端部レンズ43aの集光特性が中間部レンズ43bの集光特性よりも高くなる。 【0117】 以上のようにして、端部レンズ43aを、中間部レンズ43bよりも集光特性が高くなるようにレンズ43の出射面の形状を異ならせることによって、基板3に対する占有領域の面積が小さい端部レンズ43aの照射領域縮小特性を向上させることができ、レンズアレイ7に受光される光の受光光量を、端部発光素子5aと中間部発光素子5bとの間で均一化することができる。 【0118】 このようなレンズの形状および大きさは、次のようにして決定される。前述のように、 端部レンズ43aの頂点付近における曲率半径をRa、突出高さをRa2、中間部レンズ43bの頂点付近における曲率半径をRb、突出高さをRb2とするとき、下記式(1)が成立する。 k・Ra/Ra2=Rb/Rb2 …(1) 【0119】 ただし、kは1より大きく5以下の数である。上記式を満足するように、端部レンズ43aおよび中間部レンズ43bを形成することによって、端部発光素子5aからロッドレンズ11aに入射する光の光量と、中間部発光素子5bからロッドレンズ11b入射する光の光量とを均一化することができる。式(1)におけるkが1以下であると、端部発光素子5aからロッドレンズ11aに入射する光の光量と、中間部発光素子5bからロッドレンズ11b入射する光の光量とを均一化することができるほど、端部レンズ43aの集光特性を中間部レンズ43bの集光特性に比べて向上させることができないおそれがある。式(1)におけるkが5を超えると、端部レンズ43aの半径Ra1が小さくなり、端部レンズ43a全体としての光照射領域縮小特性を向上させることができないおそれがある。 【0120】 本実施の形態の発光素子アレイ41および光プリントヘッド42は、上記の構成に限定されることなく、種々の変更が可能である。たとえば、本実施の形態では、発光素子5と、レンズ43との間に、1層の光透過層13が形成されるけれども、これに限定されない。たとえば、光透過層13を、複数の層によって構成してもよく、またレンズ43を発光素子5に対して直接形成し、光透過層13を設けない構成としてもよい。 【0121】 光透過層13を形成することは、光透過層13の材料を適宜選択することによって、レンズ43を形成するための樹脂溶液と、光透過層13との濡れ性を向上させることができ、レンズ43と光透過層13との接着強度を大きくすることができる点において好ましい。」 (2)引用発明1 引用文献1の【0106】によれば、引用文献1には、「基板3と、発光部4を有する発光素子5と、各発光素子5の発光部4を覆って設けられる第1光透過層14および特定のレンズを示す場合を除きレンズ43と記載されるレンズ43a,43b,43c,43d,…を含んで構成される発光素子アレイ41。」が記載されているものと認められる。 ここで、引用文献1の【0107】によれば、レンズ43は、端部レンズ43aと呼ばれる端部発光部4aに形成されるレンズ43aと、特定の中間部レンズを示す場合を除いて中間部レンズ43bと記載される中間部レンズ43b,43c,43d,…と呼ばれる中間部発光部4b,4c,4d,…に形成されるレンズ43b,43c,43d,…で形成されているものと認められる。 また、引用文献1の【0117】によれば、端部レンズ43aと中間部レンズ43bの出射面の形状は、端部レンズ43aが中間部レンズ43bよりも集光特性が高くなるように異ならせたものであると認められる。 引用文献1の図8ないし図10を参照すると、平坦に構成された基板3上に複数の発光素子5が配設されていること、及び端部レンズ43aの光軸と基板3の端部に配置される発光素子5aの光軸は、ずれていることが見てとれる。 以上によれば、引用文献1には、 「平坦に構成された基板3と、基板3上に配設され発光部4を有する複数の発光素子5と、各発光素子5の発光部4を覆って設けられる第1光透過層14および特定のレンズを示す場合を除きレンズ43と記載されるレンズ43a,43b,43c,43d,…を含んで構成される発光素子アレイ41であって、 レンズ43は、端部レンズ43aと呼ばれる端部発光部4aに形成されるレンズ43aと、特定の中間部レンズを示す場合を除いて中間部レンズ43bと記載される中間部レンズ43b,43c,43d,…と呼ばれる中間部発光部4b,4c,4d,…に形成されるレンズ43b,43c,43d,…で形成されており、 端部レンズ43aと中間部レンズ43bの出射面の形状は、端部レンズ43aが中間部レンズ43bよりも集光特性が高くなるように異ならせたものであり、 端部レンズ43aの光軸と基板3の端部に配置される発光素子5aの光軸は、ずれている、発光素子アレイ41。」(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 (3)引用文献2の記載 原査定の拒絶理由に引用された特開平2-94673号公報(以下「引用文献2」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は当審が付した)。 ア 「本発明はファクシミリや電子複写機の露光用光源や電子複写機の除電用光源に適した発光ダイオードアレイの改良に関し、特に照度分布の均一化を計ったものである。」(第1頁左下欄第14?17行) イ 「本発明の詳細を図示の実施例によって説明する。 (1)はセラミクス、合成樹脂などから細長いプリント配線基板、(2),(2)…はこのプリント配線基板(1)上に長手方向に沿って1列に配設された多数の発光ダイオード素子、(3),(3)…はこれら発光ダイオード素子(2),(2)…に設けられた電極、(4),(4)…は発光ダイオード素子(2),(2)…を被覆するシリコーン樹脂などからなる透明合成樹脂膜である。 上記発光ダイオード素子(2)は従来のようなきびしい検査をすることなく供給されたもので、当然のことながら発光強度や抵抗値などの特性が或る程度ばらつくのは避けられない。このような発光ダイオード素子(2)を発光面(21)を前方に向けて基板(1)上に取付けられ、電極(3)を介して図示しないプリント配線に接続しである。 上記合成樹脂膜(4)はシリコーン樹脂を発光ダイオード素子(2)上に高く盛り上げて塗布し硬化させたもので、発光面(21)を被覆するドーム状の集光面(41)、発光ダイオード索子(2)の側面を被覆する斜面(42)および周囲に流下してなる裾部(43)を有する。 なお、発光が特に強い発光ダイオード素子(25)には合成樹脂膜(5)に集光性がなく、ほぼ平面をなす非集光面(46)に形成してある。 つぎに、本実施例アレーの作用を第2図および第3図によって説明する。図示しないプリント配線に通電すると発光ダイオード素子(2)に通電し、発光面(21)から発光する。その発光面(21)から発した光は合成樹脂膜(4)中を進み、集光面(41)に入射した光(R_(1)),(R_(2))…は集光面(41)で屈折して前方に向かう。また、斜面(42)に入射した光(R_(2))は斜面(42)で屈折して斜前方に向かいある程度明るさに寄与する。この結果、発光ダイオード素子(2)から放射された光の大部分が前方に向かい器具効率が向上する。しかも、これら多くの発光ダイオード素子(2),(2)…において、いずれも発生した光の大部分が集光面(41)から前方に放射され、しかもその割合いがほぼ一定であるので、発光ダイオ-ド索子(2),(2)…自体の発光強度が一定であれば前方に放射する光の量もほぼ等しく、照度分布が均一である。 これに対し、発光が特に強い発光ダイオード素子(25)から発した光は合成樹脂膜(5)中を進み非集光面(46)から多方向に放射状に進む。また、斜め方向に向った光は非集光面(46)で全反射して基板(1)方向に進み多くはここで吸収され、一部は基板(1)で再反射して非集光面(46)から斜方向に向かう。この結果、このアレイを前方から見るとこの発光ダイオード素子(25)の発光が他の発光ダイオード素子(2)より強いにもかかわらず、これらと同じ程度の明るさに見え、照度分布が均一になる。」(第2頁左下欄第3行?第3頁左上欄第13行) (4)引用発明2 上記(3)の記載を踏まえて引用文献2の第1図を参照すると、平坦に構成されたプリント配線基板(1)上に複数の発光ダイオード発光素子が配設されていること、及びプリント配線基板(1)の上記「非集光面(46)」の高さは「集光面(41)」の高さより低いことが見てとれる。 以上によれば、引用文献2には、 「細長いプリント配線基板(1)、プリント配線基板(1)上に長手方向に沿って1列に配設された多数の発光ダイオード素子(2)、(2)…、発光ダイオード素子(2)、(2)…を被覆する透明合成樹脂膜(4)、(4)…を含む発光ダイオードアレイであって、 上記透明合成樹脂膜(4)は、シリコーン樹脂を発光ダイオード素子(2)上に高く盛り上げて塗布し硬化させたもので、ドーム状の集光面(41)を有し、 上記発光ダイオード素子(2)、(2)…のうち、発光が特に強い発光ダイオード素子(25)上の合成樹脂膜(4)は、集光性がなく、ほぼ平面をなす非集光面(46)に形成しであり、 非集光面(46)の高さは、発光ダイオード素子(2)、(2)…のドーム状の集光面(41)より低い発光ダイオードアレイ。」(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 2.本願発明1について (1)本願発明1と引用発明1の対比 本願発明1と引用発明1を対比する。 ア 引用発明1の「発光素子アレイ41」は、「光電子モジュール」といえる。 イ 引用発明1の「基板3」及び「発光素子5」は、それぞれ、本願発明1の「支持体(116)」及び「光電子部品(118)」に相当するものと認められる。 ウ 引用発明1の「レンズ43a,43b,43c,43d,…」の各レンズの各々が本願発明1の「レンズ(124)」に相当し、「レンズ43a,43b,43c,43d,…」は、本願発明1の「レンズシステム(122)」に相当する。 エ 引用発明1において「端部レンズ43aが中間部レンズ43bよりも集光特性が高」いから、引用発明1は、本願発明1と同様に「前記レンズシステム(122)が、異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)を備えて」いるものといえる。 オ 引用発明1において、「端部レンズ43aの光軸と基板3の端部に配置される発光素子5aの光軸は、ずれている」から、本願発明1と引用発明1は、「前記レンズシステム(122)の少なくとも1つのレンズ(124)の光軸(134)は、当該レンズ(124)に対応する光電子部品(118)の光軸(132)に対してずらされて配置されている」点で一致する。 カ 以上のことから、両者は、 「光電子モジュール(112)であって、 前記光電子モジュール(112)は、支持体(116)を含み、 前記支持体(116)は、平坦に構成され、さらに当該支持体(116)上に配設された複数の光電子部品(118)を含んでおり、 前記光電子モジュール(112)は、さらに複数のレンズ(124)を有するレンズシステム(122)を含んでいる、光電子モジュール(112)において、 前記レンズシステム(122)が、異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)を備えており、 前記レンズシステム(122)の少なくとも1つのレンズ(124)の光軸(134)は、当該レンズ(124)に対応する光電子部品(118)の光軸(132)に対してずらされて配置されている、光電子モジュール(112)。」の点で一致する。 キ 一方、両者は、次の点で相違する。 【相違点a】本願発明1では、「前記異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)は、異なる表面曲率と異なる高さとを有するレンズ(124)を含み、」とされているのに対し、引用発明1においては、レンズの表面曲率と高さについて特定がされていない点。 【相違点b】本願発明1では、「前記レンズシステム(122)の少なくとも1つのレンズ(124)は、少なくとも1つの凸状湾曲領域と少なくとも1つの凹状湾曲領域とを有する表面湾曲部を備え」るものであるのに対し、引用発明1は、このようなレンズを有するものでない点。 (2)判断(その1) ア 上記相違点aについて 引用文献1には、レンズについて、【0109】に「端部レンズ43aと中間部レンズ43bとは、基板3の厚み方向における高さである突出高さが等しい。したがって端部レンズ43aおよび中間レンズ43bは、高さがRa2(=Rb2)である。」と記載され、一方、【0117】?【0119】に、端部レンズ43aと中間部レンズ43bの形状および大きさについて、「端部レンズ43aの頂点付近における曲率半径をRa、突出高さをRa2、中間部レンズ43bの頂点付近における曲率半径をRb、突出高さをRb2とするとき、式(1) k・Ra/Ra2=Rb/Rb2 …(1) ただし、kは1より大きく5以下の数である。上記式を満足するように、端部レンズ43aおよび中間部レンズ43bを形成することによって、端部発光素子5aからロッドレンズ11aに入射する光の光量と、中間部発光素子5bからロッドレンズ11b入射する光の光量とを均一化することができる。」旨の記載がされている。 上記【0117】?【0119】の記載によれば、【0109】に記載された「端部レンズ43aと中間部レンズ43bの突出高さが等しい」ことは、端部レンズ43aを中間部レンズ43bよりも集光特性が高くなるようにレンズ43の出射面の形状を異ならせ、端部発光素子5aからロッドレンズ11aに入射する光の光量と、中間部発光素子5bからロッドレンズ11b入射する光の光量とを均一化するための必須の要件でないことが明らかであるから、引用発明1の端部レンズ43aと中間部レンズ43bの形状および大きさを引用文献1の上記【0117】?【0119】に記載されるところに従って決定することにより、上記相違点aに係る本願発明1の発明特定事項とすることに格別の困難性は認められない。 イ 上記相違点bについて 原査定の拒絶理由で引用された特開2007-27325号公報(以下「引用文献3」という。)には、【0029】に「発光ダイオード素子22と蛍光体シート25とが正対する光軸方向における制光体23の先端面には、発光ダイオード素子22からの光軸近傍の光を蛍光体シート25の周辺域へ向けて屈曲させるための発光ダイオード素子22側に凹む凹面23aが形成されている。制光体23の先端面を除く周面は凸面23bに形成されている。」と記載されているように、凸状湾曲領域と凹状湾曲領域とを有するレンズである制光体23が記載されているものと認められ、この制光体23は、広い配光角を得るためのものと認められる。 一方、引用発明1の発光素子アレイ41は、光プリントヘッドに用いられるものであり、引用文献1の【0045】?【0046】に「ロッドレンズ11は、発光素子5から出射される光のうち、ロッドレンズ11の視野角の半角よりも大きい角度の入射角で入射する光については利用することができないので、対応する発光素子5以外の発光素子5から出射された光が照射されても、その光は電子写真感光体9への照射に利用されない。発光素子5から出射された光のうち、対応するロッドレンズ11に入射しない光は、フレア光となる。ロッドレンズ11同士の隙間には不透明な材料が充填され、フレア光がロッドレンズ11同士の隙間から漏れて電子写真感光体9に照射されることを防止している。ただしこのようなフレア光は、フレア光が反射することによって、ロッドレンズ11の視野角の半角よりも小さい角度の入射角で、対応するロッドレンズ11と異なるロッドレンズ11に入射するおそれがあるので、発生が抑制されることが好ましい。」と記載されるように、フレア光、すなわち、ロッドレンズ11の視野角の半角よりも大きい角度の入射角で入射する光の発生を抑制することが好ましいものである。 してみると、上記のようにフレア光の発生を抑制することが好ましい引用発明1において、引用文献3に記載されるような広い配向角を得るための構成を採用することは、引用発明1における阻害要因となるものと認められ、引用発明1において、引用文献3に記載される構成を採用することが当業者にとって容易に想到し得ることであるということはできない。 原査定の拒絶理由で引用された特開2011-77491号公報(以下「引用文献4」という。)には、図27(B)に凸状湾曲領域と凹状湾曲領域とを有するレンズが図示されているものと認められるが、【0114】に「封止部材31,310,311,312,313に2個の凸レンズ形状を設けることもできる。」と記載されるだけで、どのような作用効果を奏するものであるかの記載がなく、このレンズを引用発明1のレンズに採用する動機を見出すことができない。 原査定の拒絶理由で引用された特開2021-196637号公報(以下「引用文献5」という。)には、「凹レンズ状」の記載はあるが、凸状湾曲領域と凹状湾曲領域とを有するレンズが記載されているとは認められない。 したがって、上記相違点bに係る本願発明1の構成は、引用発明1及び引用文献3ないし5に記載された技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。 ウ よって、本願発明1について、引用発明1及び引用文献3ないし5に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (3)本願発明1と引用発明2の対比 本願発明1と引用発明2を対比する。 ア 引用発明2の「発光ダイオードアレイ」は、「光電子モジュール」といえる。 イ 引用発明2の「プリント配線基板(1)」及び「発光ダイオード素子(2)」は、それぞれ、本願発明1の「支持体(116)」及び「光電子部品(118)」に相当するものと認められる。 ウ 引用発明2の「透明合成樹脂膜(4)」は、「シリコーン樹脂を発光ダイオード素子(2)上に高く盛り上げて塗布し硬化させたもので、ドーム状の集光面(41)を有」するものであるから、各発光ダイオード素子(2)上の部分が本願発明1の「レンズ(124)」に相当し、全体として本願発明1の「レンズシステム(122)」に相当するといえる。 エ 引用発明2において、「上記発光ダイオード素子(2)、(2)…のうち、発光が特に強い発光ダイオード素子(25)上の合成樹脂膜(4)は、集光性がなく、ほぼ平面をなす非集光面(46)に形成してあり、非集光面(46)の高さは、発光ダイオード素子(2)、(2)…のドーム状の集光面(41)より低い」から、引用発明2は、本願発明1と同様に「前記レンズシステム(122)が、異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)を備えおり、前記異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)は、異なる表面曲率と異なる高さとを有するレンズ(124)を含」むものといえる。 オ 以上のことから、両者は、 「光電子モジュール(112)であって、 前記光電子モジュール(112)は、支持体(116)を含み、 前記支持体(116)は、平坦に構成され、さらに当該支持体(116)上に配設された複数の光電子部品(118)を含んでおり、 前記光電子モジュール(112)は、さらに複数のレンズ(124)を有するレンズシステム(122)を含んでいる、光電子モジュール(112)において、 前記レンズシステム(122)が、異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)を備えており、 前記異なる指向性を有する少なくとも2つのレンズ(124)は、異なる表面曲率と異なる高さとを有するレンズ(124)を含む、光電子モジュール(112)。」の点で一致する。 カ 一方、両者は、次の点で相違する。 【相違点c】本願発明1は、「前記レンズシステム(122)の少なくとも1つのレンズ(124)は、少なくとも1つの凸状湾曲領域と少なくとも1つの凹状湾曲領域とを有する表面湾曲部を備え、前記レンズ(124)の光軸(134)は、当該レンズ(124)に対応する光電子部品(118)の光軸(132)に対してずらされて配置されている」ものであるのに対し、引用発明2は、このようなものでない点。 (4)判断(その2) 上記相違点cについて検討する。 引用文献2には、発光ダイオード素子(2)の光軸と集光面(41)の光軸に関する記載はなく、引用発明2におけるレンズの光軸と光電子部品の光軸をずらして配置することを示唆する記載もない。なお、引用文献2には第3図として発光ダイオードアレイの要部拡大説明図が示されているが、これは「図示しないプリント配線に通電すると発光ダイオード素子(2)に通電し、発光面(21)から発光する。その発光面(21)から発した光は合成樹脂膜(4)中を進み、集光面(41)に入射した光(R1),(R2)・・・は集光面(41)で屈折して前方に向かう。また、斜面(42)に入射した光(R2)は斜面(42)で屈折して斜前方に向かいある程度明るさに寄与する。この結果、発光ダイオード素子(2)から放射された光の大部分が前方に向かい器具効率が向上する。」(第2頁右下欄第7?15行)という作用を説明するための図面に過ぎないと認められ、当該図面において、レンズの光軸と光電子部品の光軸をずらして配置することが記載ないし示唆されていると認めることはできない。 引用発明3ないし5においても、レンズの光軸と光電子部品の光軸をずらして配置することが記載も示唆もされていない。 したがって、上記相違点cの他の部分について検討するまでもなく、引用発明2において、上記相違点cに係る本願発明1の発明特定事項とすることが、引用文献3ないし5に記載された技術に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。 よって、本願発明1について、引用発明2及び引用文献3ないし5に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 3.本願発明2ないし14について 本願発明2ないし14は、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本願発明1と同様に、引用発明1又は引用発明2及び引用文献3ないし5に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願は、原査定の拒絶理由によっては拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-05-27 |
出願番号 | 特願2014-520557(P2014-520557) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 森口 忠紀 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 河原 英雄 |
発明の名称 | 光電子モジュール、光電子装置及び方法 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 高橋 佳大 |