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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1314813
審判番号 不服2014-23107  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-13 
確定日 2016-05-16 
事件の表示 特願2012-170756「ヒアルロン酸ナトリウムの断片とレチノイドを組み合わせる局所用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月27日出願公開、特開2012-255001〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯

本願は、2005年1月27日(パリ条約による優先権主張 2004年1月29日 フランス)を国際出願日とする特許出願(特願2006-550245号)の一部を、平成24年8月1日に新たな特許出願(特願2012-170756号)としたものであって、平成25年12月18日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月4日付けで拒絶査定され、同年11月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成26年11月13日付け手続補正書による補正を却下する。


[理由]

1.補正の内容

平成26年11月13日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号の場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の

「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するため、表皮および真皮の細胞活性を再開させるため、皮膚の状態を回復させるため、ならびに/または弾力性を増加させるための局所用組成物の使用方法であって、前記組成物が、分子量が50,000および750,000Daの間に含まれるヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み、レチナールをさらに含有し、表皮および真皮の両方に効果的であることを特徴とする使用方法。」

を、

「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法であって、前記組成物が、分子量が50,000および750,000Daの間に含まれるヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み、レチナールをさらに含有し、表皮および真皮の両方に効果的であることを特徴とする使用方法。」

とするものである。


2.補正の目的

本件補正は、以下の補正事項(1)を含むものである。
(1)補正前の請求項1の「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するため、表皮および真皮の細胞活性を再開させるため、皮膚の状態を回復させるため、ならびに/または弾力性を増加させるための局所用組成物の使用方法であって」
を、
「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法であって」
とするものである。
上記補正事項(1)は、補正前は「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するため、表皮および真皮の細胞活性を再開させるため、皮膚の状態を回復させるため、ならびに/または弾力性を増加させるため」との複数の選択肢を択一的に記載していた発明特定事項について、複数の選択肢のうち、「表皮および真皮の細胞活性を再開させるため、皮膚の状態を回復させるため、ならびに/または弾力性を増加させるため」を削除し、「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するため」はそのまま残し、それにともなって「ならびに/または」の接続詞の位置を移動したものである。

そうすると、補正事項(1)は、選択肢の一部を削除するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


3.独立特許要件

本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項第2号の場合に該当するから、同条第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しているか否かを検討する。


(1)本件補正後の請求項に係る発明

本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。

「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法であって、前記組成物が、分子量が50,000および750,000Daの間に含まれるヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み、レチナールをさらに含有し、表皮および真皮の両方に効果的であることを特徴とする使用方法。」

(2)引用刊行物及びその記載事項
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることが明らかな刊行物1(原査定の引用文献1)、刊行物2(原査定の引用文献2)には、以下のとおりである。

刊行物1:特開昭64-40412号公報
刊行物2:特開平8-259604号公報

ア 刊行物1には、以下の記載がある。

(ア)
「ビタミンAとエストロゲンとを配合することを特徴とする化粧料。」(特許請求の範囲)

(イ)
「即ち、本発明はビタミンAおよびエストロゲンの組合わせにより表皮、真皮を含めて皮膚全体のグリコサミノグリカンの生合成能を高め、バランスを保つことによって皮膚に潤いを与え、皮膚の柔軟性および保水性を高め、乾燥感等皮膚の老化現象を防ぐのに効果的である化粧料を提供しようとするものである。」(第2頁右上欄第11?17行)

(ウ)
「本発明で用いるエストロゲンは、例えばエチニルエストラジオール、17β-エストラジオール、エストロン、エストリオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセストロール等であり、これらのうちから1種又は2種以上を任意に選び使用する。・・・
本発明で用いるビタミンAは、例えばレチノール、レチナール、デヒドロレチノール、デヒドロレチナールおよびこれらのエステル類あるいはカロチン、リコビン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、エキネノン等のプロビタミン類であり、これらのうちから1種又は2種以上を任意に選び使用する。・・・
本発明の化粧料は前記の必須成分以外に、必要に応じて本発明の効果を損わない範囲で化粧品、医薬品等に一般に用いられる各種成分、すなわち水性成分、粉末成分、油分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、酸化防止剤、香料、色材、紫外線吸収剤、ビタミン類、薬剤等を配合できる。また、前項で示したビタミンAとエストロゲンの構成比によって異なるが、状況に応じてビタミンAとエストロゲンの効果を補足する意味でグリコサミノグリカンを該化粧料に対して0.01%以上10%以下の範囲で配合することもできる(・・・)。
尚、ここで用いるグリコサミノグリカンは、例えばヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B、コンドロイチン硫酸C、ヘパラン等および(または)その塩類である。グリコサミノグリカンの塩を形成する塩基としては水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩、トリエタノールアミン等の有機塩基およびリジン、アルギニン、β-アラニン等の塩基性アミノ酸等を例示できる。」(第2頁右上欄第19行?第3頁左上欄第2行)

(エ)
「実施例4 パック
ポリビニルアルコール 20.0
エタノール 20.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
グリセリン 5.0
香料 0.3
エチニルエストラジオール 0.004
レチナール 0.004
精製水 残余」(第5頁左上欄第8?16行)


イ 刊行物2には、以下の記載がある。

(ア)
「【0006】本出願方法によって分離される最初の画分はヒアラスチン(HYALASTIN)と命名され、約50,000?約100,000の平均分子量を有する。このヒアラスチン画分は、その創傷治癒活性から獣医用およびヒト用の治療的応用に好適であることが確認された。」

(イ)
「【0009】本発明においてヒアラスチンと呼ばれる画分は、良好な運動性、即ち細胞増殖能を有し、且つ低粘度を有することが確認された。従って、ヒアラスチンは、創傷治癒の促進に有用な物質として望ましい特性を有する。」

(ウ)
「【0011】ヒアルロン酸の有用な画分を分離する場合、炎症活性を示さない画分を得ることが重要である。前述のバラズスの特許は、炎症活性がないヒアルロン酸画分を得るためには、平均分子量がもっぱら750,000以上の画分だけを使用しなければならないことを教示している。このように、バラズスは炎症活性の理由から有用でないとして、平均分子量750,000以下の画分を破棄している。バラズスの教示に反して、本出願方法はバラズスにより平均分子量750,000以下の画分に帰せられた炎症活性が、実は平均分子量30,000以下の不純物に由来していることを発見した。」

(エ)
「【0041】このようにして、平均分子量が約50,000?100,000のヒアラスチン画分は高い細胞可動化活性を有し、従って、不快な炎症反応を示すことなく創傷治癒適応に有用であることが明らかになった。」

(オ)
「【0042】より明確に述べれば、ヒアラスチン画分は次の特性により、創傷治癒剤として有用であることが見出された。
1.その製剤によって、通常の治療と比べ、障害部位の急速な清浄化、潰瘍辺縁の正常化、盛んな肉芽組織の形成、マクロファージおよび線維芽細胞の細胞遊走の活性化、および急速な上皮形成を伴う治癒時間の急速な短縮を促進される。
2.その製剤によって、重症例における再生手術に対する順応の増加が促進される。
3.瘢痕化組織を最後に仕上げして美容上および機能的に良好な結果を得ることにより、ケロイドまたは退縮製の瘢痕形成を残さないこと。」


(3)刊行物に記載された発明
刊行物1には、上記摘示ア(ア)?(エ)の記載からみて、特に摘示ア(エ)の記載を踏まえると、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「ポリビニルアルコール、エタノール、ヒアルロン酸ナトリウム、グリセリン、香料、エチニルエストラジオール、レチナール、精製水を含有しているパック用の組成物。」

(4)対比
補正発明と、引用発明とを対比する。
1 補正発明における「ヒアルロン酸塩」は、本願明細書の【0029】の記載を参酌すると、主に「ヒアルロン酸ナトリウム」を意味するものと解釈される。
一方、引用発明の「ヒアルロン酸ナトリウム」は、上記摘示ア(ウ)にあるように、「ビタミンAとエストロゲンの効果を補足する意味でグリコサミノグリカンを該化粧料に・・・配合することもできる」ものであって、ビタミンAとエストロゲンの効果を補足する意味で含まれており、ビタミンAとエストロゲンの効果、すなわち上記摘示ア(イ)にあるように「表皮、真皮を含めて皮膚全体のグリコサミノグリカンの生合成能を高め、バランスを保つことによって皮膚に潤いを与え、皮膚の柔軟性および保水性を高め、乾燥感等皮膚の老化現象を防ぐ」効果を補足するもので、作用成分として含まれているものといえる。
そうすると、補正発明の「分子量が50,000および750,000Daの間に含まれるヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み」と、引用発明の「ヒアルロン酸ナトリウム(を含有している)」とは、ヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含む点で共通する。

2 引用発明の「レチナール(を含有している)」は、補正発明の「レチナールをさらに含有している」に相当する。

3 補正発明の「局所用組成物」は、本願明細書の【0001】の「化粧品学・・におけるそれらの使用」との記載や、それに類する【0031】【0032】の記載を参酌すると、化粧料として使用する組成物を含んでいるといえることから、化粧品として表皮に適用するための組成物は、補正発明の「局所用組成物」であるといえる。
一方、引用発明の「パック用の組成物」は、一般に、化粧品として顔等の表皮に適用するための組成物といえる。
そうすると、引用発明の「パック用の組成物」は、補正発明の「局所用組成物」に相当する。

したがって、両者は、

「ヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み、レチナールをさらに含有している、局所用組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
補正発明は、「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法」であるのに対し、引用発明は「局所用組成物」であって、その使用方法の特定がない点。

相違点2
補正発明は、「表皮および真皮の両方に効果的である使用方法」であるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

相違点3
補正発明は、ヒアルロン酸塩が、分子量が50,000及び750,000Daの間に含まれるものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点


(5)判断

上記相違点について検討する。

ア 相違点について

(ア) 相違点3について
刊行物2には、上記摘示イ(ア)(エ)(オ)にあるように、ヒアルロン酸の平均分子量が約50,000?100,000のものは、細胞増殖能を有し且つ低粘度であり、創傷治癒の促進に有用であること、盛んな肉芽組織の形成、マクロファージおよび繊維芽細胞の細胞遊走の活性化、および急速な上皮形成を伴う治癒時間の急速な短縮を促進する、という効果を有するものであり、当該効果が皮膚の機能上、及び美容上、良好な結果を得ることができる効果であることは、技術常識である。
そして、美容上、良好な結果を得ることは化粧料として当然に望まれることであるから、引用発明の局所用組成物に含まれるヒアルロン酸ナトリウムとして、刊行物2の記載を勘案し、平均分子量50,000?100,000のものを選択することは、当業者が容易に想到し得るものである。
加えていうと、ヒアルロン酸は保湿性に優れ肌をしっとりした状態に保つ効果は高いものの、べたつく感触が問題であり、化粧料においては、肌をしっとりした状態に保ちつつも、べたつきが少ないものが望まれるものであり、補正発明で特定される程度の分子量のヒアルロン酸が使用されることは、下記刊行物A、Bにもあるように、本願優先権主張時には周知事項である。
・刊行物A:特表平4-505774号公報
「一方、低分子量HAは高分子量のものとは異なり、水に溶けやすく、かつ粘度が低いことを見出した。従って、これを配合した化粧品は肌へのべとつき感やつっぱり感などの違和感を与えない等の効果があることがわかった。かくして、低分子量HAの化粧品原料としての利用も期待され始めた。」(第1頁右欄第18-22行)
「本発明によれば、平均分子量500,000又はそれ以下、好ましくは15,000?500,000の低分子量HA・・・」(第2頁右上欄第14?15行)
「こうして得られた本発明の低分子量HAは、それ自身が創傷治癒効果を有するので、点眼剤、皮膚外用剤、癒着防止剤などの医薬品や化粧品に応用される。」(第2頁右下欄第17?19行)
・刊行物B:特開2000-344656号公報
「【請求項2】ヒアルロン酸の分子量が10000以上600000以下である・・・化粧料。」
「【0002】・・・ヒアルロン酸は保湿性に優れるため、肌をしっとりとした状態に保つ効果が高いが、反面、べたつく感触が問題とされてきた。」
「【0005】・・・本発明に用いるヒアルロン酸の平均分子量は10000?5000000であり、好ましくは10000?600000である。平均分子量10000未満ではしっとり感が不十分であり、600000以上ではべたつきを抑えることがやや困難である。」

(イ) 相違点1及び2について
上記摘示ア(イ)には、表皮、真皮を含めて皮膚全体のグリコサミノグリカンの生合成能を高め、バランスを保つことによって皮膚に潤いを与え、皮膚の柔軟性および保水性を高め、乾燥感等皮膚の老化現象を防ぐのに効果的である旨の記載がなされていることから、ここで具体的に言及されている「皮膚に潤いを与える」「皮膚の保水性を高める」「乾燥感を防ぐ」「老化現象を防ぐ」という効果により、改善又は予防することが期待できる「皺のある皮膚」(皺を減少させる)、「乾燥している皮膚」「皮膚萎縮」「皮膚老化」という症状について、引用発明に係る局所用組成物を使用すること、言い換えると、引用発明に係る局所用組成物を、「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するために」使用すること、即ち「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法」とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、引用発明は、上記摘示ア(イ)にあるように、レチノール及びエチニルエストラジオールにより、表皮、真皮を含めて皮膚全体のヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンの生合成能を高め、バランスを保つことによって皮膚に潤いを与えるものであり、さらに上記摘示ア(ウ)にあるように、この効果を補足する意味で、ヒアルロン酸ナトリウムは配合されているものである。そして、引用発明の局所用組成物を、当該組成物の使用方法とすることは、上記のとおり当業者に容易に想到し得るものであって、その効果は表皮及び真皮の両方に奏されるものであるから、「表皮および真皮の両方に効果的」となる。
さらに上記(ア)で検討したとおり、ヒアルロン酸ナトリウムとして、平均分子量50,000?100,000のものを選択することが、容易に想到し得るものであったことから、この平均分子量を選択することに伴って期待される「細胞増殖能を有し且つ低粘度であり、創傷治癒の促進に有用であること、盛んな肉芽組織の形成、マクロファージおよび繊維芽細胞の細胞遊走の活性化、および急速な上皮形成を伴う治癒時間の急速な短縮を促進する」という効果からも、引用発明の組成物を「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するために」使用すること、即ち「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法」とすることは、当業者が容易に想到し得るものであるし、また使用した際に「表皮および真皮の両方に効果的」となるであろうことは、当業者が予測できるものである。


イ 本願発明の効果について

(ア)低分子量のヒアルロン酸断片(平均分子量50,000?250,000Da、250,000?750,000Da)の単独の効果について
本願明細書の実施例1には、図3の表2及び表4の結果より、「【0049】・・・1-増殖細胞の増加を伴う大幅な表皮過形成、2-線維芽細胞の大幅な増加を伴う、真皮表層内に集中したHAの蓄積。」と記載されている。
しかしながら、この低分子量のヒアルロン酸単独の効果について、刊行物2より、平均分子量50,000?100,000のヒアルロン酸が細胞増殖能を有し、繊維芽細胞を活性化させること、創傷治癒効果、急速な上皮形成の効果を有することは既に公知であることから、増殖細胞の増加を伴う表皮過形成や繊維芽細胞の増加により改善する症状である「乾燥している皮膚」「皮膚萎縮」「皮膚老化」の予防、改善に効果を有するであろうことは、当業者が十分予測し得ることである。
また、引用発明は、上記摘示ア(イ)にあるように、レチノール及びエチニルエストラジオールにより、表皮、真皮を含めて皮膚全体のヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンの生合成能を高め、バランスを保つことによって皮膚に潤いを与えるものであるから、引用発明の効果として、表皮及び真皮におけるヒアルロン酸の生合成が多くなされ、真皮及び表皮に集中したヒアルロン酸の蓄積がなされ、その結果「乾燥している皮膚」「皮膚萎縮」「皮膚老化」の予防、改善に効果が見られることも、当業者の予測し得ることである。

(イ)低分子量のヒアルロン酸断片(50,000?250,000Da、250,000?750,000Da)のレチナール)の組合わせの効果について
本願の実施例2には、以下(A)(B)のように記載されている。
(A)「【0053】HAF-RALの組合せの相乗作用は、調製物6および7で、真皮の細胞充実性についてとくに顕著である。」
(B)「【0056】結果は、RAL単体(調製物5)またはHAF単体(調製物3)による処理と比較して、HAF-RALの組合せ(調製物7)による処置の後に、真皮内でも(図2)表皮内でも(図1)HA産生の優位の増加を示している。」

しかしながら、(A)について、表皮の厚みと真皮の細胞充実性に関する効果が示されている本願表6と本願表2を比較すると、本願表6の効果は低分子量ヒアルロン酸塩単独の効果である本願表2の結果とほとんど同じであるか、わずかな差を有するのみである。これは、本願表6の低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる効果は、低分子量ヒアルロン酸塩単独の効果に由来すると考えられ、表皮の厚みと真皮の細胞充実性に関し、低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる相乗効果は認められない。
そして、低分子量ヒアルロン酸塩の単独の効果は、上記イ(ア)で述べたように、当業者が予測し得るものである。

(B)について、本願図1には表皮内のヒアルロン酸量増加の効果が、本願図2には真皮内のヒアルロン酸量増加の効果がそれぞれ示されている。
表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量増加については、上記イ(ア)で述べたように、引用発明はレチナール及びエチニルエストラジオールにより、表皮、真皮を含めて皮膚全体のヒアルロン酸の生合成能を高めることにより皮膚に潤いを与える化粧料であることから、引用発明の効果として、表皮及び真皮にけるヒアルロン酸の生合成が多くなされ、表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量が増加することは、当業者の予測し得ることである。
その増加の程度については、表皮内のヒアルロン酸量につき本願図1を検討すると、低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる効果は低分子量ヒアルロン酸塩単独及びレチナール単独の効果の相加効果であり、真皮内のヒアルロン酸量につき本願図2も検討すると、低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる効果は、誤差範囲を加味すると、低分子量ヒアルロン酸塩単独及びレチナール単独の効果の相加効果と理解される。
ここで、低分子量ヒアルロン酸塩単独の効果につき、平均分子量10,000?600,000といった低分子量ヒアルロン酸は化粧料としてしっとりしており、低分子量ヒアルロン酸は表皮や真皮に浸透し易いことは本願優先日前周知事項であるから、表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量が増加すると予測される(必要であれば、刊行物A、B参照)。
また、レチナール単独の効果につき、以下に示す刊行物Cの記載より明らかなように、レチノイン酸は表皮におけるヒアルロン酸産生促進物質として従来より知られているが、レチノイン酸は皮膚刺激性を有するため、刺激感を予防すべく、レチナールを包含するレチノイドを用いることは、本願優先日前周知事項であるから、レチナールを表皮に適用すると代謝され表皮におけるヒアルロン酸産生が促進され、表皮内のヒアルロン酸量が増加すると、当業者は理解し得たことである。
そうすると、表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量の増加の程度については、低分子量ヒアルロン酸及びレチナールを適用すればそれぞれの効果を合わせた相加効果が奏されることは、当業者の予測の範囲内である。
・刊行物C:特開2002-284662号公報
「【0004】表皮におけるヒアルロン酸産生促進物質としては,従来,レチノイン酸が知られている。レチノイン酸は元来表皮に存在し,表皮細胞の増殖や分化に関与する必須な物質である。レチノイン酸は海外では各種の皮膚障害,例えば尋常性ざ瘡,小皺,乾癬,老斑を処置すべく皮膚性状回復剤もしくは更新剤として広範に使用されている。」
「【0006】しかし,レチノイン酸は皮膚刺激性を有しており,刺激感を予防するためには低濃度のレチノイン酸外用剤を処方することが必要となる。一方で刺激性が低いレチノールもしくはレチニルエステルは,生体内で活性体であるレチノイン酸へ代謝される必要があり,皮膚に利益を与える際,レチノイン酸より効果が低い。したがって,レチノイン酸の効果を有しつつ,皮膚刺激性という副作用がない皮膚外用剤が望まれていた。本発明は,レチノイドとN-アセチルグルコサミンの組み合わせが表皮細胞のヒアルロン酸合成に相乗的向上をもたらすという知見に基づいている。」
「【0014】本発明の第二必須成分であるレチノイドとしては,レチノイン酸,レチナール,レチノールおよび脂肪酸レチニルエステル,ならびにデヒドロレチノール,デヒドロレチノール,脂肪酸デヒドロレチニルエステルを包含する。」


以上より、本願発明の効果は、刊行物1ないし2及び本願優先日前の周知事項から予測される範囲内のものであり、格別顕著なものではない。

ウ 請求人の主張について
平成26年12月18日に提出された審判請求書補正書において、本願発明の効果について以下(a)?(f)のように記載した上で、「本願発明の組成物は、補正請求項1に記載される、皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、ならびに/または皮膚老化を防止するための局所用組成物として極めて優れたものである。」と述べている。

(a)「1-1)・・・図1Aは、参考資料2の第3頁の図1の説明の欄に記載されているように、・・・ケラチノサイトの増殖を調べた結果である。
図1Aから分かるように、HAFiとRALとの組み合わせが、・・・増殖活性が遥かに高く、HAFiとRALとの組み合わせが特異的に高いことが分かる。・・・」
(b)「1-2)参考資料3の図1(・・・)に示されているように、HAFiはケラチノサイトによるヒアルロン酸塩(HA)の産生を顕著に上昇させる。これに対して、分子量が小さいヒアルロン酸塩断片(HA30-50)または分子量が大きいヒアルロン酸塩断片(HA1000-1250)は、コントロールに比べて、HA産生を誘導しなかったことが示されている。図1に明らかに示されているように、HAFiの効果は、レチナール(RAL)の追加により上昇し、本願発明の組成物が優れた効果を奏することが分かる。」
(c)「さらには、・・・この結果から、膜結合型細胞増殖因子(pro-HB-EGF)のタンパク質発現に対するHAFiとRALとの組み合わせ効果は、相加的ではなく、相乗的であることが示されている。」
(d)「1-3)・・・分子量50,000?750,000Daのヒアルロン酸塩断片(HAFi)をレチナノール(RAL)と組み合わせた場合には、レチノイン酸(RA)やレチノール(ROL)と組み合わせた場合に比べて、角化上皮を形成する細胞であるケラチノサイトに対して相乗的に活性化効果を発揮・・・(Experiment 1 参照)」
(e)「・・・ヒトケラチノサイトの糸状偽足の成長に対して相乗的に促進効果を発揮する(Experiment 2 参照)・・・
1-4)・・・分子量50,000?750,000Daのヒアルロン酸塩断片(HAFi)とレチナール(RAL)との組み合わせの場合には、他の組み合わせに比べて、ヒトケラチノサイトの糸状偽足の誘導および成長に対して相乗的に効果を発揮することが示されている。」
(f)「1-5)・・・参考資料7には、・・・ヒアルロン酸塩断片(HAFi)(・・・)とレチナール(RAL)(・・・)との組合せと、レチノール酸(RA)(・・・)またはレチノール(ROL)(・・・)との組合せを、マウスに局所適用した場合の肥厚性活性・・・を調べた結果が示されている。特に、参考資料7の図1には、分子量50,000?750,000Daのヒアルロン酸塩断片(HAFi)とレチナール(RAL)との組み合わせた場合には、相乗的に抗萎縮活性を有することが示されている。」

上記(a)?(f)の効果は、要すれば以下のとおりである。
(a)HAFiとRALの組合せは、ケラチノサイトの増殖において効果を有する
(b)HA30-50及びHA1000-1250と比較して、HAFiはヒアルロン酸産生の誘導に効果を有する、またHAFiの効果はRALの追加により上昇し、ヒアルロン酸産生の誘導に効果を有する
(c)HAFiとRALの組合せは、膜結合型細胞増殖因子のタンパク質発現に対して効果を有する
(d)HAFiとRALの組合せは、HAFiとRA又はROLと組み合わせた場合に比べて、ケラチノサイトの活性化に効果を有する
(e)HAFiとRALの組合せは、ケラチノサイトの糸状偽足の成長に関して効果を有する
(f)HAFiとRALの組合せは、肥厚性活性に関して効果を有する

上記(a)?(f)の効果について検討する。

(a)について
(a)のケラチノサイトの増殖に関する効果は、本願明細書の「【0027】・・・ケラチノサイトによるヒアルロン酸合成に相乗的な効果がある。」なる記載、「【0049】・・・1-増殖細胞の増加を伴う大幅な表皮過形成・・・」なる記載によれば、「ケラチノサイトが存在する表皮におけるヒアルロン酸の産生量の増加」、「表皮過形成」として現れるものであるところ、表皮のヒアルロン酸量は、本願の図1に示され、表皮過形成の指標となる表皮の厚みは、本願の表2、表6に示されている。
まず、ヒアルロン酸量に関して検討するに、審判請求書補正書の1-1)の図1A(上記(a))からは、HAF単独とRAL単独を比較すると、RAL単独の方がケラチノサイトの増殖に劣ることが読み取れる一方、本願の図1からは、ケラチノサイトが存在する表皮のヒアルロン酸量は、RAL単独のほうが、HAF単独より優れるものであることが読み取れる。そしてこれら2つの結果からは、インビトロにおけるケラチノサイトの増殖の程度と、マウスを使用したインビボにおける、ケラチノサイトが存在する表皮のヒアルロン酸量とは単純に比例するものではないことが推測され、そうである以上、HAFiとRALの組合せにより、インビトロにおけるケラチノサイトが増殖したことをもって、直ちに表皮のヒアルロン酸量が増量するとはいえず、結果として、補正発明の使用方法は、皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防する、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防する、皮膚萎縮を減少する、皺を減少させる、皮膚老化を防止するという効果に極めて優れているということはできない。
また、表皮過形成に関する効果について検討するに、審判請求書補正書の1-1)の図1A(上記(a))からは、HAF単独に比べ、HAFとRALとを組合せたほうが、ケラチノサイトの増殖に相当の効果があることが読み取れる一方、本願の表2、表6からは、表皮過形成の効果はHAFi単独の効果に由来することが読み取れる。そしてこれら2つの結果からは、インビトロにおけるケラチノサイトの増殖の程度と、マウスを使用したインビボにおける表皮の厚みとは単純に比例するものではないことが推測され、そうである以上、HAFiとRALの組合せにより、インビトロにおけるケラチノサイトが増殖したことをもって、直ちに表皮過形成に効果があるとはいえず、結果として、補正発明の使用方法は、皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防する、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防する、皮膚萎縮を減少する、皺を減少させる、皮膚老化を防止するという効果に極めて優れているということはできない。

(b)について
「ヒアルロン酸産生の誘導」に関する効果は、参考資料3の図1の縦軸にも示されているように、ヒアルロン酸量で測定されるものであるが、そもそも測定されたヒアルロン酸が、生合成由来のものか、表皮に適用したヒアルロン酸が透過したものに由来するのかは区別がつかないことに加え、「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防する、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防する、皮膚萎縮を減少する、皺を減少させる、皮膚老化を防止するという効果」に関連するのは、ヒアルロン酸が何に由来しているかではなく、皮膚内のヒアルロン酸の存在量であると認められるため、「ヒアルロン酸産生の誘導」に関する効果は、「ヒアルロン酸量」の効果として検討する。
本願明細書の背景技術において、「マウスとヒトの皮膚に塗布された中間分子量(50,000?250,000Da)のHAが表皮と真皮の層を通過するということが証明されている。・・・血清中に回収されたHAの分子量は、皮膚に塗布されたHAのそれをわずかに下回り、このことがHAの皮膚の通過はより小さなサイズ(100?10,000Da)の断片だけに限定されないことを証明している。」(【0007】)と述べられているように、HAは分子量が小さいほど、表皮と真皮の層を通過しやすく、血清中に排出されてしまうものであるという技術常識、および刊行物2にあるように、30,000以下のヒアルロン酸は炎症性であることを考慮すると、分子量が低すぎるヒアルロン酸は表皮、真皮にとどまる時間が短く、排出されてしまい、なおかつ、炎症を引き起こす可能性が高い、つまり、検出されるヒアルロン酸量が少ないことは当業者であれば予測できるものである。
また一般的に分子量が相当大きい化合物は、そもそも表皮を透過できないという技術常識を鑑みれば、高分子量のヒアルロン酸は、表皮を透過することが難しく、体内に入り込むことができないため、結果として検出されるヒアルロン酸量が少ないことも、当業者であれば予測できるものである。
よって、HA30-50及びHA1000-1250と比較して、HAFiを用いた場合に、ヒアルロン酸量の増加に効果を有することは、当業者が予測できるものである。
また、HAFiの効果がRALの追加により上昇し、ヒアルロン酸産生の誘導に効果を有することは、上記イ(B)で既に検討済みである。

(c)について
皺のある皮膚、乾燥している皮膚、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病、皮膚老化の改善または予防が期待できる指標として、ヒアルロン酸量の増加や、表皮の厚みの増加は本願優先権主張時の技術常識であったといえるが、膜結合型細胞増殖因子のタンパク質発現がその指標となることは、本願優先権主張時の技術常識であったとはいえないため、膜細胞型細胞増殖因子のタンパク質発現に効果があったとしても、本願補正発明の「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防する、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防する、皮膚萎縮を減少する、皺を減少させる、皮膚老化を防止する」という効果との関連は不明であって、参酌できない。

(d)(e)について
ケラチノサイトの活性化、ケラチノサイトの糸状偽足の成長に関する効果は、ケラチノサイトの増殖に関連するものであると認められるところ、上記(a)で検討したように、インビトロにおけるケラチノサイトの増殖の程度と、マウスを使用したインビボにおける、ケラチノサイトが存在する表皮のヒアルロン酸量とは単純に比例するものではないことが推測されるため、ケラチノサイトの活性化、ケラチノサイトの糸状偽足の成長に効果があることをもって、直ちにヒアルロン酸量が増量するとはいえず、結果として、補正発明の使用方法は、皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防する、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防する、皮膚萎縮を減少する、皺を減少させる、皮膚老化を防止するという効果に極めて優れているということはできない。

(f)について
参考資料7の図1からは、HAFi単独に比べて、HAFiとRAL組合せが、肥厚効果を有することが読み取れる一方、本願の表2、表6からは、肥厚効果に関連する表皮の厚みについての効果は、HAFi単独の効果であることが読み取れるものであり、これらの結果は矛盾する。そして、参考資料7の結果から読み取れる効果と、本願の結果から読み取れる効果が相違する原因等は審判請求書補正書では説明されておらず、また参考資料7の結果から読み取れる効果が、本願の結果から読み取れる効果に優先して生じるものともいえないため、参考資料7の結果をもって、補正発明の使用方法は、皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防する、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防する、皮膚萎縮を減少する、皺を減少させる、皮膚老化を防止するという効果に極めて優れているということはできない。


(6)まとめ

そうすると、補正発明は、刊行物1ないし2に記載された発明および本願優先日前の周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。


4.むすび

以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明

上記第2で結論したとおり平成26年11月13日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願に係る発明は平成26年3月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するため、表皮および真皮の細胞活性を再開させるため、皮膚の状態を回復させるため、ならびに/または弾力性を増加させるための局所用組成物の使用方法であって、前記組成物が、分子量が50,000および750,000Daの間に含まれるヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み、レチナールをさらに含有し、表皮および真皮の両方に効果的であることを特徴とする使用方法。」


第4 当審の判断

1.引用文献及びその記載事項

原査定において引用され、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることが明らかな下記引用文献1、引用文献2は、各々上記第2の3(2)における刊行物1、刊行物2と同じ文献であり、したがって、該引用文献には同箇所に摘示したア(ア)?(エ)の事項、イ(ア)?(オ)が記載されている。

引用文献1:特開昭64-40412号公報
引用文献2:特開平8-259604号公報

2.引用文献1に記載された発明

引用文献1には、上記第2の3(3)において認定した引用発明が記載されている。


3.対比

本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2の3(4)に示した点を踏まえると、両者は、

「ヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み、レチナールをさらに含有している、局所用組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’
本願発明は、「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するため、表皮および真皮の細胞活性を再開させるため、皮膚の状態を回復させるため、ならびに/または弾力性を増加させるための局所用組成物の使用方法」であるのに対し、引用発明は「局所用組成物」であって、その使用方法の特定がない点。

相違点2’
本願発明は、「表皮および真皮の両方に効果的である使用方法」であるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

相違点3’
本願発明は、ヒアルロン酸塩が、分子量が50,000及び750,000Daの間に含まれるものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点


4.判断
これらの相違点について検討する。

ア 相違点2’、3’について
相違点2’、3’は、それぞれ上記第2の3(4)の相違点2、3と同じものであるところ、その相違点2、3については、同3(5)ア(ア)で判断したとおりである。

イ 相違点1’について
相違点1’は、上記第2の3(4)の相違点1で挙げた「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法」を含み、加えて「表皮および真皮の細胞活性を再開させるため、皮膚の状態を回復させるため、ならびに/または弾力性を増加させるため局所用組成物の使用方法」も含むものである。
そして、上記第2の3(4)の相違点1と共通する「皺のある皮膚、乾燥している皮膚を改善もしくは予防するため、皮膚組織の萎縮に関連する皮膚病を改善もしくは予防するため、皮膚萎縮を減少するため、皺を減少させるため、皮膚老化を防止するための局所用組成物の使用方法」については、上記第2の3(5)ア(イ)で判断したとおりである。


5.まとめ

そうすると、本願発明は、引用文献1ないし2に記載された発明及び本願優先日前の周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第5 むすび

以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-01 
結審通知日 2015-12-08 
審決日 2015-12-21 
出願番号 特願2012-170756(P2012-170756)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 齊藤 光子
大熊 幸治
発明の名称 ヒアルロン酸ナトリウムの断片とレチノイドを組み合わせる局所用組成物  
代理人 太田 恵一  

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