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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1314830
審判番号 不服2015-10718  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-05 
確定日 2016-06-07 
事件の表示 特願2013-253442「有機発光ディスプレイ装置および有機発光ディスプレイ装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日出願公開、特開2014- 41848、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年8月2日(パリ条約による優先権主張 平成21年8月10日,韓国)に出願した特願2010-173752号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年12月6日に新たな特許出願としたものであって,平成26年8月8日付けで拒絶理由が通知され,同年11月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成27年2月5日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年6月5日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-10に係る発明は,平成26年11月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「基板上に複数のTFTを形成する工程と,
前記TFTに電気的に接続された複数の画素電極を形成する工程と,
前記画素電極上に配置された少なくとも発光層を備える中間層を形成する工程と,
前記基板の全面にわたって配置された,前記中間層上に配置された対向電極を形成する工程と,
前記画素電極,前記中間層,および前記対向電極を備える有機発光部の前記画素電極の間に対応して前記対向電極上に直接配置された対向電極バスラインをエアロゾルジェットプリンティング法を利用して形成する工程と,
前記対向電極バスラインの上面および側面を覆うブラックマトリックスをエアロゾルジェットプリンティング法を利用して形成する工程と,
を含む有機発光ディスプレイ装置の製造方法。」

第3 原査定の理由の概要
本願発明は,原出願の出願前(以下,単に「本願の出願前」という。)に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物及び周知技術に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物:特開2002-352963号公報

導電パターン,絶縁層のパターンの形成方法としてエアロゾルジェットプリンティング法を用いることは周知であるから,刊行物に記載の発明に,これら周知の事項のエアロゾルジェットプリンティング法を適用することは,当業者が容易に想到し得たものである。

第4 当審の判断
1 刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物には,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)
(1)「【請求項1】 第1電極と光透過性材料からなる第2電極との間に発光層を挟持した状態で基板上に配列された発光素子と,前記第2電極に接続された状態で前記発光素子間に配置された補助電極とを備えた表示装置において,
前記補助電極の表面が,光吸収層で覆われていることを特徴とする表示装置。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は表示装置に関し,特には画素間に補助電極を設けてなる表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】自発光型の素子(以下,発光素子と記す)である有機エレクトロルミネッセンス(electroluminescence:以下ELと記す)素子は,カソード電極またはアノード電極となる下部電極と上部電極との間に,有機発光層を含む有機EL膜を挟持してなり,低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。
【0003】このような発光素子を用いた表示装置(すなわち有機ELディスプレイ)において,例えば各画素に薄膜トランジスタが設けられたアクティブマトリックス型の表示装置では,基板上に形成された薄膜トランジスタを覆う状態で層間絶縁膜が設けられ,この層間絶縁膜上の各画素部に発光素子が設けられている。ところで,このアクティブマトリックス型の表示装置において発光素子の開口率を確保するためには,発光素子で発生させた発光光を基板と反対側の上部電極側から取り出す,いわゆる上面光取り出し構造(以下,上面発光型と記す)として構成することが有効になる。
【0004】ここで,上面発光型の表示装置では,光透過性材料によって上部電極が形成されることになるが,このような材料は抵抗値が大きいため上部電極内において電圧勾配が発生して電圧降下が生じ易い。そこで,各発光素子が設けられた画素間に,上部電極に接続させる状態で補助電極を設け,これによって発光強度の低下を抑えている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが,上述した構成の表示装置のように,補助配線を設けた表示装置においては,この補助配線が上部電極を透過して表示面側から見えることになる。通常,補助電極は,アルミニウムのような低抵抗材料で形成されており,外光反射が大きい。このため,上部電極側からの外光が補助配線で反射し,表示装置のコントラストを低下させる要因になっている。
【0006】
【課題を解決するための手段】そこで本発明は,第1電極と光透過性材料からなる第2電極との間に発光層を挟持した状態で基板上に配列された発光素子と,第2電極に接続された状態でこれらの発光素子間に配置された補助電極とを備えた表示装置において,補助電極の表面に光吸収層を設けたことを特徴としている。
【0007】このような構成の表示装置においては,光透過性材料からなる第2電極側から発光層側に入射される外光のうち,発光素子間に入射される外光は,補助配線の表面に設けられた光吸収層によって吸収される。したがって,発光層で生じた発光光を光透過性材料からなる第2電極側から取り出して表示する際に,発光素子間に設けられた補助配線での外光反射によるコントラストの低下が防止される。」
(3)「【0009】表示装置の構成
図1は,本実施形態における表示装置の構成を説明するための断面図である。この図に示す表示装置は,例えばガラス基板からなる基板1上の各画素に対応させて,薄膜トランジスタ(thin film transistor:以下TFTと記す)2が配列形成されている。尚,ここで例示した表示装置は上面発光型であるため,基板1は光透過性を有する材料である必要はなく,ガラス基板以外の他の基板(例えばシリコン基板等)を用いても良く,この基板の表面層に駆動用のトランジスタを配列形成しても良い。
【0010】また基板1上には,TFT2を覆う状態で絶縁膜3が設けられ,この絶縁膜3に形成した接続孔(図示省略)を介してTFT2に接続させた配線4が,絶縁膜3上に設けられている。
【0011】この絶縁膜3上には,配線4を覆う状態で層間絶縁膜5が表面平坦に形成されている。この層間絶縁膜5には,配線4に達する接続孔6が設けられている。そして,この接続孔6を介して配線4に接続された第1電極7が,層間絶縁膜5上に各画素に対応させてパターン形成されている。
・・・(中略)・・・
【0012】また,層間絶縁膜5上には,第1電極7の周縁を覆う状態で絶縁層8が設けられている。この絶縁膜8は,例えば酸化シリコン(SiO_(2))などからなり,第1電極7の表面のみを露出させるようにパターニングされた開口部8aを備えている。尚,この開口部8aがこの表示装置における発光素子部分となる。
【0013】この絶縁膜8上には,アルミニウム(Al)や銀(Ag)のような導電性の高い材料からなる補助電極9が設けられている。この補助電極9は,次に説明する第2電極の導電性を補助するためのもので,絶縁膜8上に設けられたことによって第1電極7との間の絶縁性が保たれていることとする。
【0014】そして特に,補助配線9の表面には,絶縁膜8の開口部8aを狭めることのないように,補助配線9を覆う状態で光吸収層10が設けられている。この光吸収層10は,絶縁膜8上に設けられた補助電極9の少なくとも上部表面を覆う状態で設けられ,より好ましくは図示したように補助電極9の露出表面を完全に覆う状態で設けられていることとする。
【0015】このような光吸収層10は,導電性材料や樹脂材料を用いて構成されていることとする。
【0016】導電性材料を用いて構成された光吸収層10としては,酸化クロム(CrO_(2))膜を用いた構成を例示することができる。この場合,酸化クロム膜を単層で用いても良く,さらに好ましくは酸化クロム膜の下地としてクロム膜を配置し,クロム膜と酸化クロム膜との2層構造としても良い。この場合の一例として,クロム膜50nm,酸化クロム膜150nmに設定される。
【0017】このような導電性材料を用いて光吸収層10を構成した場合,この光吸収層10も,補助電極9の一部を構成するものとなる。また,光吸収層10の構成をクロム膜とその上部の酸化クロム膜との2層構造にした場合には,酸化クロム単層の場合よりもさらに高い光吸収効果を得ることができる。
【0018】また,樹脂材料を用いて構成された光吸収層10としては,感光性ポリイミド膜を用いた構成を例示することができる。この場合,例えば黒色顔料を分散させた感光性ポリイミド膜を単層で用いても良く,さらに好ましくは感光性ポリイミド膜の下地としてクロム膜を配置し,クロム膜と感光性ポリイミド膜との2層構造としても良い。この場合の一例として,クロム膜50nm,感光性ポリイミド膜2.0μmに設定される。このように,光吸収層10の構成をクロム膜とその上部の樹脂材料層との2層構造にした場合には,樹脂材料層単層の場合よりもさらに高い光吸収効果を得ることができる。
【0019】尚,光吸収層10として樹脂材料を用いる場合であって,この光吸収層10によって完全に補助電極9の露出面が覆われる場合,樹脂材料膜には,数画素に1個所程度の割合で補助電極9に達する接続孔(図示省略)を設け,この接続孔を介して次に説明する第2電極と補助配線9との接続状態を確保する。この接続孔の形成位置は,特に限定されることはないが,この表示装置の画質に対する影響がより小さい位置とすることが好ましい。
【0020】一方,絶縁膜8の各開口部8a内の第1電極7上には,第1電極7を隙間なく覆う状態で有機EL層11がパターン形成されている。この有機EL層11は,少なくとも有機発光層を有するものであり,必要に応じて正孔注入層や正孔輸送層などの単層または積層膜と,電子輸送層や電子注入層などの単層または積層膜間に,有機発光層を挟持させた層であることとする。
・・・(中略)・・・
【0021】そして,以上のように設けられた補助電極9,光吸収層10および有機EL層11を覆う状態で,第2電極12が設けられている。この第2電極12は,各画素に共通の電極として,基板1上に一枚の層として設けられていることとする。この第2電極は,第1電極7が陽極である場合には陰極として設けられ,第1電極7が陰極である場合には陽極として設けられる。ただし,この第2電極12は,光透過性を備えていることとする。ここでは,第2電極12は,例えばMg-Ag薄膜からなる陰極として設けられていることとする。そして,第1電極7と有機EL層11と,この第2電極12とが順次積層された各部分が,それぞれ発光素子13となる。これらの各発光素子13には,配線4を介してそれぞれTFT2が接続されている。」
(4)「【図1】


(5)「【0023】尚ここでは,第2電極12の下層に補助電極9を設けた構成としたが,第2電極12の上部または透明導電膜14の上部に補助電極9を設けた構成であっても良い。このような場合であっても,補助電極9を形成した状態においての露出表面を光吸収層10で覆う構成は同様である。ただしこの場合において,光吸収層10として樹脂材料を用いる場合であって,この光吸収層10によって完全に補助電極9の露出面が覆われた構成であっても,補助電極9はその下面において透明導電膜14を介して第2電極12に接続されるため,樹脂材料膜には接続孔(図示省略)を設ける必要はない。
【0024】以上のような構成の表示装置においては,各有機EL層11で生じた発光光が,光透過性材料からなる第2電極12側から取り出される上面発光型となる。ここで,特にこの表示装置においては,アルミニウムや銀などの導電性が高く,反射率が高い材料からなる補助電極9の表面(第2電極12側の表面)が,光吸収層10によって覆われている。このため,透明導電膜14を介して第2電極12側から有機EL層11側および補助配線9側に入射した外光は,この補助配線9の表面を覆う光吸収層10によって吸収される。さらに,この補助電極9の下方に配置される配線4などに外光が達することを防止できる。つまり,この光吸収層10は,発光素子間に設けられたブラックマトリックスとして作用することになる。したがって,有機EL層11における発光光を第2電極12側から取り出して表示する際に,発光素子13間に設けられた補助配線9での外光反射,さらには補助配線9の下方に配置された配線4での外光反射が抑えられ,コントラストの良好な表示を行うことが可能になる。」
(6)「【0026】表示装置の製造方法-1
・・・(中略)・・・
【0027】まず,図2(1)に示すように,基板1上の各画素に,TFT2を配列形成する。そして,このTFT2を覆う状態で絶縁膜3を形成し,この絶縁膜3に形成した接続孔(図示省略)を介してTFT2に接続させた配線4を,絶縁膜3上に形成する。
【0028】次いで,図2(2)に示すように,この配線4を覆う状態で,絶縁膜3上に層間絶縁膜5を表面平坦に形成する。そして,この層間絶縁膜5に,配線4に達する接続孔6を形成する。
【0029】次に,図2(3)に示すように,層間絶縁膜5上に第1電極7を形成する。・・・(中略)・・・
【0030】次に,図2(4)に示すように,各画素に形成された第1電極7の周縁を覆い,第1電極7の表面のみを露出させる形状の絶縁層8を形成する。・・・(中略)・・・
【0031】次に,図3(1)に示すように,絶縁膜8上に補助電極9を形成する。この場合,先ず,上述した導電性の高い材料(例えばAl)からなる導電膜を,例えばDCスパッタリング法によって300nmの膜厚で成膜する。成膜条件の一例としては,例えばスパッタガスとしてArを用い,成膜圧力を0.2Pa,DC出力を300Wに設定する。その後,リソグラフィ技術を用いてこの導電膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて導電膜をエッチング加工することで,補助電極9を得る。このエッチング加工は,例えばウェットエッチングによって行われる。この際,導電性材料としてAlを用いる場合には,エッチング液として例えば大宮化成(株)製「AL-1」(商品名)が用いられる。
【0032】以上のようにして補助電極9を形成した後,この補助電極9の露出面を覆う状態で光吸収層10を形成する。ここで,例えばクロム膜と酸化クロム膜との2層構造からなる光吸収層10を形成する場合,先ず,クロム膜をDCスパッタリング法によって50nmの膜厚で成膜する。成膜条件の一例としては,例えばスパッタガスとしてArを用い,成膜圧力を0.2Pa,DC出力を300Wに設定する。その後,このクロム膜上に,酸化クロム膜をDCスパッタリング法によって150nmの膜厚で成膜する。成膜条件の一例としては,例えばスパッタガスにAr:O_(2)=1:1分圧としたガスを用い,成膜圧力を0.3Pa,DC出力を300Wに設定する。
【0033】次いで,リソグラフィ技術を用いてこの酸化クロム膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて酸化クロム膜およびクロム膜をエッチング加工することで,補助電極9の露出面を覆う光吸収層10を得る。このエッチング加工は,ウェットエッチングやドライエッチングによって行われる。エッチング液として例えば三洋化成工業(株)製「ETCH-1」(商品名)が用いられる。
【0034】尚,補助電極9の上部のみに光吸収層10を設けた構成とする場合には,補助電極材料と光吸収層材料とを成膜した後,同一のレジストパターンをマスクに用いてこれらの材料膜をパターンエッチングすることで,補助電極9と光吸収層10とのを形成する。このようにした場合,マスクの作製工程を増加させることなく光吸収層10を形成することができる。
【0035】次に,図3(2)に示すように,第1電極7上に,発光層を有する有機EL層11を形成する。・・・(中略)・・・
【0036】そしてまず,第1電極7上に,正孔注入層として4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)を30nmの膜厚で形成し,次いで正孔輸送層としてビス(N-ナフチル)-N-フェニルベンジジン(α-NPD)を20nmの膜厚で形成し,さらに電子輸送性発光層として8キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)を50nmの膜厚で形成する。この際,真空蒸着装置の各抵抗加熱用のボートに,例えば各層材料0.2gづつを充填する。そして,真空処理室内を1.0×10^(-4) Paまで減圧した後,各ボートに順次電圧を印加して加熱し,連続成膜を行う。
【0037】以上の後,図4(1)に示すように,基板1上から蒸着マスク(A)を取り除き,有機EL層11,光吸収層10で覆われた補助電極9などを覆う状態で,基板1上の全面に第2電極12を形成する。ここでは,マグネシウム-銀からなる第2電極12を10nmの膜厚で形成することとする。この際,真空蒸着装置を用い,各抵抗加熱用のボートにマグネシウムを0.1g,銀を0.4g充填し,真空処理室内を1.0×10^(-4) Paまで減圧した後,各ボートに電圧を印加して加熱して成膜を行う。これにより,マグネシウムと銀との成膜速度比を9:1とした成膜を行う。
【0038】次に,図4(2)に示すように,第2電極12上の全面に,透明導電膜14を形成する。この場合,例えばDCスパッタリングによって,室温成膜において良好な導電性を示すIn-Zn-O系の透明導電膜14を200nmの膜厚で形成する。・・・(中略)・・・
【0039】以上のようにして,図1を用いて説明した表示装置が得られる。また,この透明導電膜14上には,必要に応じて光透過性材料からなる封止膜を設けたり,さらに光透過性材料からなる対向基板が貼り合わせられることとする。」
(7)「【図2】


(8)「【図3】


(9)「【図4】


(10)「【0040】表示装置の製造方法-2
次に,図1を用いて説明した表示装置において,光吸収層10に樹脂材料膜を用いた場合の製造方法を説明する。尚,ここでは,光吸収層10の成膜工程のみを,図3(1)を用いて説明するが,その他の手順は製造方法-1と同様であることとする。
【0041】ここでは先ず,補助電極9を形成した後,補助電極9および第1電極7を覆う状態で,基板1上にポジ型の感光性ポリイミド膜を成膜する。この感光性ポリイミド膜は,例えば黒色顔料が分散されていることとする。この際,例えば,基板1の回転数を3200rpm程度に設定したスピンコート法による塗布成膜を行う。そして,成膜後直ちにホットプレート上にて90℃,10分間のプリベーク(露光前ベーク)を行う。尚,露光前ベーク後における膜厚が,例えば2.4μm程度になるように塗布膜厚が設定されることとする。
【0042】次に,この感光性ポリイミド膜に対してパターン露光を行う。この際,少なくとも第1電極7上の全面に対して露光光を照射し,補助電極9上には露光光が照射されないようにパターン露光を行う。ただし,数画素に対して1個所の割合で補助電極9上にも露光光を照射する。
【0043】以上の後,例えば回転式スプレー洗浄装置を用いた現像処理を行うことで,未露光部に感光性ポリイミド膜を残して露光部の感光性ポリイミド膜を除去する。この際,現像液には,TMAH(tetramethylammonium hydroxide)の2.38%水溶液(例えば東京応化製NMD-3)を用い,3分間の現像処理を行うこととする。これにより,補助電極9を覆うと共に複数画素に1つの割合で補助電極9に達する接続孔(図示省略)を備えた光吸収層10が形成される。この光吸収層10は,感光性ポリイミド膜単層で構成される。
【0044】次いで,感光性ポリイミド膜のポリイミドを環化させるため,本焼成をクリーンベーク炉にて行った。この本焼成は窒素雰囲気中で行われることとし,170℃で60分,その後350℃で30分の2段階の焼成を行う。尚,露光前ベークにおける感光性ポリイミドの膜厚が,2.4μm程度であった場合,本焼成後における感光性ポリイミド膜の膜厚は,2.0μm程度になる。
【0045】尚,感光性ポリイミド膜の下地としてクロム膜を設けた光吸収層10を形成する場合,補助電極9を覆う状態でクロム膜をパターン形成した後,上述した手順によって感光性ポリイミド膜をパターン形成する。または,補助電極材料を成膜した後クロム膜を成膜し,これらの材料膜を同一のレジストパターンをマスクに用いてパターンエッチングした後,上述した手順によって感光性ポリイミド膜をパターン形成しても良い。この場合,補助電極9の上部のみがクロム膜と感光性ポリイミド膜との積層膜からなり,補助電極9の側面部分が感光性ポリイミド膜の単層からなる光吸収層10が形成されることになる。」

2 引用発明
そうすると,刊行物の【0026】段落以降の表示装置の製造方法の一実施形態には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。(段落番号を併記する。)

「【0027】基板上の各画素に,TFTを配列形成し,
そして,このTFTを覆う状態で絶縁膜を形成し,この絶縁膜に形成した接続孔を介してTFTに接続させた配線を,絶縁膜上に形成し,
【0028】次いで,この配線を覆う状態で,絶縁膜上に層間絶縁膜を表面平坦に形成し,そして,この層間絶縁膜に,配線に達する接続孔を形成し,
【0029】次に,層間絶縁膜上に第1電極を形成し,
【0011】第1電極は,接続孔を介して配線に接続され,各画素に対応させて形成されており,
【0030】次に,各画素に形成された第1電極の周縁を覆い,第1電極の表面のみを露出させる形状の絶縁層を形成し,
【0031】次に,導電膜を,DCスパッタリング法によって成膜した後,リソグラフィ技術を用いてこの導電膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて導電膜をエッチング加工することで,絶縁膜上に補助電極を形成し,
【0032】クロム膜をDCスパッタリング法によって成膜し,その後,このクロム膜上に,酸化クロム膜をDCスパッタリング法により成膜し,【0033】リソグラフィ技術を用いてこの酸化クロム膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて酸化クロム膜およびクロム膜をエッチング加工することで,【0032】補助電極の露出面を覆うクロム膜と酸化クロム膜との2層構造からなる光吸収層を形成し,
【0035】次に,第1電極上に,発光層を有する有機EL層を形成し,
【0037】以上の後,有機EL層,光吸収層で覆われた補助電極などを覆う状態で,基板上の全面に第2電極を形成することにより,
【0021】第1電極と有機EL層と,第2電極とが順次積層された各部分が,それぞれ発光素子となる,
【0003】有機EL【0026】表示装置の製造方法。」
が記載されている。

3 対比
(1)TFTの形成工程
引用発明の「製造方法」は,「基板上の各画素に,TFTを配列形成」する工程を具備する。引用発明の「基板」及び「TFT」は,それぞれ本願発明の「基板」及び「TFT」に相当する。
表示装置には複数の画素が設けられることから,「基板上の各画素」に「TFTを配列形成」すれば,「複数のTFTを形成」することとなる。
したがって,引用発明の「基板上の各画素に,TFTを配列形成」する工程は,本願発明の「基板上に複数のTFTを形成する工程」に相当する。

(2)画素電極の形成工程
引用発明の「製造方法」は,「TFTに接続させた配線を,絶縁膜上に形成」する工程,「この配線を覆う状態で,絶縁膜上に層間絶縁膜を表面平坦に形成」する工程,「この層間絶縁膜に,配線に達する接続孔を形成」する工程,「層間絶縁膜上に第1電極を形成」する工程を具備し,「第1電極は,接続孔を介して配線に接続され,各画素に対応させて形成されて」いる。
引用発明の「第1電極」は,本願発明の「画素電極」に相当する。引用発明において,「第1電極は,接続孔を介して配線に接続され」ており,「配線」は「TFTに接続」されており,「第1電極」は「TFTに電気的に接続され」ている。また,「第1電極」は,「各画素に対応させて形成されており」,「複数」形成されていると認められる。
したがって,引用発明の「TFTに接続させた配線を,絶縁膜上に形成」する工程,「この配線を覆う状態で,絶縁膜上に層間絶縁膜を表面平坦に形成」する工程,「この層間絶縁膜に,配線に達する接続孔を形成」する工程,「層間絶縁膜上に第1電極を形成」する工程は,本願発明の「TFTに電気的に接続された複数の画素電極を形成する工程」に相当する。

(3)中間層の形成工程
引用発明の「製造方法」は,「第1電極上に,発光層を有する有機EL層を形成」する工程を具備する。
引用発明の「発光層」及び「有機EL層」は,それぞれ本願発明の「発光層」及び「中間層」に相当する。
したがって,引用発明の「第1電極上に,発光層を有する有機EL層を形成」する工程は,本願発明の「画素電極上に配置された少なくとも発光層を備える中間層を形成する工程」に相当する。

(4)対向電極の形成工程
引用発明の「製造方法」は,「有機EL層,光吸収層で覆われた補助電極などを覆う状態で,基板上の全面に第2電極を形成する」工程を具備する。
引用発明の「第2電極」は,本願発明の「対向電極」に相当する。
したがって,引用発明の「有機EL層,光吸収層で覆われた補助電極などを覆う状態で,基板上の全面に第2電極を形成する」工程は,本願発明の「基板の全面にわたって配置された,前記中間層上に配置された対向電極を形成する工程」に相当する。

(5)対向電極バスラインの形成工程
引用発明の「製造方法」は,「各画素に形成された第1電極の周縁を覆い,第1電極の表面のみを露出させる形状の絶縁層を形成」する工程,「導電膜を,DCスパッタリング法によって成膜した後,リソグラフィ技術を用いてこの導電膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて導電膜をエッチング加工することで,絶縁膜上に補助電極を形成」する工程を具備する。
引用発明の「補助電極」は,本願発明の「対向電極バスライン」に相当する。
引用発明は,「第1電極上に,発光層を有する有機EL層を形成し」,「有機EL層,光吸収層で覆われた補助電極などを覆う状態で,基板上の全面に第2電極を形成」して,「第1電極と有機EL層と,第2電極とが順次積層された各部分が,それぞれ発光素子」となるようにしている。引用発明の「発光素子」は,本願発明の「有機発光部」に相当し,引用発明は,「第1電極上」に「画素電極,前記中間層,および前記対向電極を備える有機発光部」を設けている。
引用発明は,「各画素に形成された第1電極の周縁を覆い,第1電極の表面のみを露出させる形状の絶縁層を形成し」,「導電膜を,DCスパッタリング法によって成膜した後,リソグラフィ技術を用いてこの導電膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて導電膜をエッチング加工することで,絶縁膜上に補助電極を形成」しており,「第1電極の表面のみを露出させる形状」の「絶縁膜上」に「補助電極を形成」しているため,「画素電極の間に対応して」「補助電極」を設けていると認められる。
したがって,引用発明の「各画素に形成された第1電極の周縁を覆い,第1電極の表面のみを露出させる形状の絶縁層を形成」する工程,「導電膜を,DCスパッタリング法によって成膜した後,リソグラフィ技術を用いてこの導電膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて導電膜をエッチング加工することで,絶縁膜上に補助電極を形成」する工程と,本願発明の「対向電極バスライン」を「形成する工程」は,補助電極を「画素電極,前記中間層,および前記対向電極を備える有機発光部の前記画素電極の間に対応して」設ける点で共通している。

(6)ブラックマトリクスの形成工程
引用発明の「製造方法」は,「クロム膜をDCスパッタリング法によって成膜し,その後,このクロム膜上に,酸化クロム膜をDCスパッタリング法により成膜し,リソグラフィ技術を用いてこの酸化クロム膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて酸化クロム膜およびクロム膜をエッチング加工することで,補助電極の露出面を覆うクロム膜と酸化クロム膜との2層構造からなる光吸収層を形成」する工程を具備する。
引用発明の「光吸収層」は,本願発明の「ブラックマトリクス」に相当する。引用発明の「光吸収層」は,「補助電極の露出面を覆う」ように形成されており,「絶縁膜上」に設けられる「補助電極」の露出面は上面および側面であるため,「対向電極バスラインの上面および側面を覆」っていると認められる。
したがって,引用発明の「クロム膜をDCスパッタリング法によって成膜し,その後,このクロム膜上に,酸化クロム膜をDCスパッタリング法により成膜し,リソグラフィ技術を用いてこの酸化クロム膜上にレジストパターンを形成し,これをマスクに用いて酸化クロム膜およびクロム膜をエッチング加工することで,補助電極の露出面を覆うクロム膜と酸化クロム膜との2層構造からなる光吸収層を形成」する工程と,本願発明の「ブラックマトリクス」を形成する工程は,「対向電極バスラインの上面および側面を覆うブラックマトリックス」を形成する点で共通している。

(7)有機発光ディスプレイ装置の製造方法
引用発明の「製造方法」は,「有機EL表示装置の製造方法」に関するものである。引用発明の「有機EL表示装置」は,本願発明の「有機発光ディスプレイ装置」に相当する。
したがって,引用発明の「製造方法」は,本願発明の「製造方法」と,上記(1)乃至(6)に記載の共通点を有する各工程を具備する点で共通する。

したがって,本願発明と引用発明とは
「基板上に複数のTFTを形成する工程と,
前記TFTに電気的に接続された複数の画素電極を形成する工程と,
前記画素電極上に配置された少なくとも発光層を備える中間層を形成する工程と,
前記基板の全面にわたって配置された,前記中間層上に配置された対向電極を形成する工程と,
前記画素電極,前記中間層,および前記対向電極を備える有機発光部の前記画素電極の間に対応して配置された対向電極バスラインを形成する工程と,
前記対向電極バスラインの上面および側面を覆うブラックマトリックスを形成する工程と,
を含む有機発光ディスプレイ装置の製造方法。」
の点で一致している。
他方,本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。

相違点1:本願発明において,「対向電極バスライン」は「対向電極上に直接配置され」るのに対し,引用発明の「補助電極」は,第2電極「上に直接配置され」ない(補助電極上に第2電極が形成される)点。

相違点2:本願発明において,「対向電極バスライン」及び「対向電極バスラインの上面および側面を覆うブラックマトリックス」は,「エアロゾルジェットプリンティング法を利用して形成」されるのに対し,引用発明には,補助電極,光吸収層を「エアロゾルジェットプリンティング法を利用して形成」することについて明記されていない点。

4 判断
上記相違点2について検討する。
引用発明においては,リソグラフィ技術などを用いて補助電極,光吸収層のパターンを形成しており,刊行物には,補助電極,光吸収層を共に「エアロゾルジェットプリンティング法を利用して形成」することについて記載も示唆も無く,「エアロゾルジェットプリンティング法」を利用することにより「エアロゾルジェット積層ヘッドと基板との間のアライメントが若干ずれても,画素に不良が発生するとしても一部の画素の不良のみにその発生を抑制することができる。そのため,全体的なディスプレイ装置としての平均的な品質を維持することができ,エアロゾルジェットプリンティング法は非接触式工程であるため有機発光層および中間層の損傷を減らすことができる。さらに,線幅調整の自由度が高くなるため,対向電極バスラインおよびブラックマトリックスは微細線幅に形成できる」(段落【0056】)という効果も記載されていない。さらに,その他の引用文献等を参照しても,それらの事項が開示されていない。
したがって,引用発明において,補助電極,光吸収層のパターンを「エアロゾルジェットプリンティング法を利用して形成」することについて動機づけがない。また,その結果として,本願発明は,上記の効果を有しており,これらの効果は当業者といえども,技術常識や刊行物の記載全体を勘案しても,容易に想到し得たものともいえない。
したがって,本願発明は,相違点1について検討するまでもなく,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2-10に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,本願発明と同様に,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり,本願の請求項1-10に係る発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-25 
出願番号 特願2013-253442(P2013-253442)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 素川 慎司  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 多田 達也
鉄 豊郎
発明の名称 有機発光ディスプレイ装置および有機発光ディスプレイ装置の製造方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

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