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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H02M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1314859
審判番号 不服2015-17415  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-25 
確定日 2016-06-07 
事件の表示 特願2012-541762「電動式パワーステアリング用パワーモジュールおよびこれを用いた電動式パワーステアリング駆動制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月10日国際公開、WO2012/060123、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月25日(国内優先権主張、平成22年11月2日)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月26日付けの拒絶理由通知に対し、平成26年11月13日付けで手続補正がされたが、平成27年6月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年9月25日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成27年9月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「ブリッジ回路を構成する複数個のパワースイッチング素子と、前記パワースイッチング素子のそれぞれからモータに供給されるモータ電流をオン・オフ制御するモータリレー用スイッチング素子とからなるパワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し、電源端子、グランド端子、モータ出力端子、前記各スイッチング素子を駆動する制御用端子とを有し、前記パワー回路部品と前記導電部材と前記各端子とをモールド樹脂にて四角形に一体成形し、前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したものにおいて、前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用し、さらに、前記電源端子・グランド端子・モータ出力端子と、前記制御用端子とは分離して前記四角形の別の辺に配置し、前記導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出されたことを特徴とする電動式パワーステアリング用パワーモジュール。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。

2.補正の適否
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「パワー回路部品を、導電部材上に実装し」、「モールド樹脂にて多角形に一体成形し」、「ヒートシンク上に当接配置した」、「前記多角形の別の辺に配置し」を、それぞれ、「パワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し」、「モールド樹脂にて四角形に一体成形し」、「前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置した」、「前記四角形の別の辺に配置し」と限定し、さらに、「前記導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出された」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)補正発明
補正発明は、上記「第2 1.補正の内容」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定されるとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2010/007672号(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線部は当審により付与した。

「[0001]この発明は、車両に搭載される電動パワーステアリング装置、及び電動パワーステアリング装置に用いる制御装置一体型電動機に関するものである。」

「[0028]制御装置部50は、電動機部40の内部空間に連通する制御装置部内部空間を備えると共にその制御装置部内部空間に、マイクロコンピュータ531とFET駆動回路532とが実装されたガラスエポキシ樹脂製の制御基板53と、パワーMOSFETにより構成された2個のパワー素子と1個の半導体スイッチ素子と1個のシャント抵抗とが夫々実装されたセラミックベースからなる3枚のパワー基板541、542、543(図2には、541のみ表示されている)と、2個の半導体スイッチ素子が搭載されたセラミックベースからなる1枚のスイッチ基板55とを収容している。3枚のパワー基板541、542、543と、1枚のスイッチ基板55に於ける半導体スイッチ素子等の実装の詳細については後述する。
[0029]図3は、減速機構側ケース60の電動機側の側面を、パワー基板541、542、543、及びスイッチ基板55が取り付けられた状態で示す側面図である。前述の3枚のパワー基板541、542、543は、固定子巻線423のU相、V相、W相の各相巻線に夫々対応して設けられており、これらのパワー基板541、542、543は、図3に示すように回転子軸43の周りに放射状にほぼ均等に配置されている。スイッチ基板55は、パワー基板542と543との間に位置して図の上方に配置されている。これらのパワー基板541、542、543とスイッチ基板55とは、減速機構側ケース60の内壁部601の電動機側壁面に密着固定されている。尚、パワー基板541、542、543とスイッチ基板55とは、減速機構側ケース60の内壁部601の減速機構側壁面に密着固定してもよい。この場合、パワー基板541、542、543とスイッチ基板55との熱を減速機構側へより効率的に放熱することが可能であり、又、パワー基板541、542、543とスイッチ基板55とを、減速機構側から密着固定することができ、作業性が向上する効果がある。
[0030]図3に示すように、パワー基板541には、電動機駆動回路を構成する3相ブリッジ回路のU相正極側アームを構成するパワー素子5411とU相負極側アームを構成するパワー素子5412と、固定子巻線413のU相巻線と前述の3相ブリッジ回路のU相出力端子との間に挿入される1個の半導体スイッチ素子5413と、パワー素子5412と車両の接地電位部との間に挿入される1個のシャント抵抗5414とが実装されている。」

「[0037]次に、前述のように構成された制御装置部50の回路構成について説明する。図4は、制御装置部50の回路構成を示す回路図である。図4に於いて、固定子巻線413は、前述した通り巻線ターミナル416によりY結線されている。パワー基板541に実装され一端同士が互いに接続された一対のパワー素子5411及び5412のうち、一方のパワー素子5411は3相ブリッジ回路のU相正極側アームを構成し、他方のパワー素子5412はU相負極側アームを構成している。又、パワー素子5411の他端は、リップル吸収用のコンデンサ81とノイズ吸収用のコイル84に接続され、パワー素子5412の他端は、シャント抵抗5414を介して車両の接地電位部に接続されている。前述のパワー素子5411と5412の一端同士が接続された接続点は、3相ブリッジ回路のU相交流側端子となる。又、パワー基板541に実装された半導体スイッチ素子5413は、その一端が前述のU相交流側端子に接続され、他端が固定子巻線413のU相端子に接続されている。」

「[0093]又、前述の実施の形態1乃至5に於けるパワー基板の材質は、セラミックベースであるとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば金属基板にパワー素子や半導体スイッチ素子をベアチップで実装してもよく、或いはディスクリート部品を実装するようにしてもよい。」

以上の記載(特に、下線部の記載)、及び、図面から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「3相ブリッジ回路のU相正極側アーム及びU相負極側アームを構成するパワー素子(5411、5412)と、一端が前記パワー素子(5411、5412)の一端同士が接続された接続点に接続され、他端が固定子巻線413のU相端子に接続された半導体スイッチ素子(5413)と、を金属基板に実装した電動パワーステアリング装置のパワー基板。」

(3)対比
補正発明と引用発明とを対比すると次のことがいえる。

・引用発明は、「電動パワーステアリング装置のパワー基板」であり、これは、「電動式パワーステアリング用パワーモジュール」ともいえるから、補正発明と引用発明とは、いずれも、「電動式パワーステアリング用パワーモジュール」である点で一致する。

・引用発明の「3相ブリッジ回路のU相正極側アーム及びU相負極側アームを構成するパワー素子(5411、5412)」、「一端が前記パワー素子(5411、5412)の一端同士が接続された接続点に接続され、他端が固定子巻線413のU相端子に接続された半導体スイッチ素子(5413)」は、それぞれ、補正発明の「ブリッジ回路を構成する複数個のパワースイッチング素子」、「前記パワースイッチング素子のそれぞれからモータに供給されるモータ電流をオン・オフ制御するモータリレー用スイッチング素子」に相当するものである。

・引用発明の上記パワー素子(5411、5412)と半導体スイッチ素子(5413)は、「パワー回路部品」といえるものであり、これらは、(1つの)金属基板に実装されているから、補正発明と引用発明とは、「ブリッジ回路を構成する複数個のパワースイッチング素子と、前記パワースイッチング素子のそれぞれからモータに供給されるモータ電流をオン・オフ制御するモータリレー用スイッチング素子とからなるパワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し」ているものである点で一致する。

・引用発明のパワー基板は、パワー素子や半導体スイッチ素子により電動機を駆動制御するためのものであるから、パワー基板が、電源端子、グランド端子、モータ出力端子、各素子を駆動する制御用端子を有するのは明らかである。

したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
ブリッジ回路を構成する複数個のパワースイッチング素子と、前記パワースイッチング素子のそれぞれからモータに供給されるモータ電流をオン・オフ制御するモータリレー用スイッチング素子とからなるパワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し、電源端子、グランド端子、モータ出力端子、前記各スイッチング素子を駆動する制御用端子とを有する電動式パワーステアリング用パワーモジュール。

[相違点]
相違点1
補正発明は、「前記パワー回路部品と前記導電部材と前記各端子とをモールド樹脂にて四角形に一体成形し、前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したもの」であるのに対し、引用発明はそうではない点。

相違点2
補正発明は、「前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用し」たものであるのに対し、引用発明は、そのような特定はされていない点。

相違点3
補正発明は、「前記電源端子・グランド端子・モータ出力端子と、前記制御用端子とは分離して前記四角形の別の辺に配置し、前記導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出された」ものであるのに対し、引用発明はそうではない点。

(4)判断
上記相違点3について検討する。
引用発明における金属基板(補正発明の「導電部材」に相当する)は、基板であってこれを複数に分割された領域からなるものとする動機付けはなく、また、該金属基板を「複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出された」ものとすることについて、引用文献には示唆はない。
また、拒絶の理由で引用されたその他の文献にも、「導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出された」ものに関する記載乃至示唆はなく、また、これが周知の技術であるともいえない。
ほかに、引用発明において、「導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出された」ものとすることが当業者に容易に想到し得たことを示す証拠はない。
したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
ほかに、補正発明を特許出願の際独立して特許を受けることができないものというべき理由はない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1乃至7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-23 
出願番号 特願2012-541762(P2012-541762)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
P 1 8・ 575- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塩治 雅也田村 耕作  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 千葉 輝久
山澤 宏
発明の名称 電動式パワーステアリング用パワーモジュールおよびこれを用いた電動式パワーステアリング駆動制御装置  
代理人 大岩 増雄  
代理人 村上 啓吾  
代理人 竹中 岑生  
代理人 吉澤 憲治  

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