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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F23Q
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F23Q
管理番号 1314970
審判番号 不服2015-16556  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-09 
確定日 2016-06-07 
事件の表示 特願2011- 13384「グロープラグおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月16日出願公開、特開2012-154552、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月25日の出願であって、平成26年12月5日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月18日付けで拒絶査定がされ、同年9月9日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成28年3月4日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年3月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、平成28年3月31日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
通電によって発熱する発熱抵抗体を自身の先端部に有するヒータと、
軸線方向に延びる軸孔を有する筒状に形成され、自身の先端部において前記ヒータを直接または保持部材を介して間接的に保持する主体金具と、
棒状に形成され、前記主体金具の前記軸孔内に当該軸孔の内周面に対し間隙をおいて配置されると共に、自身の一端部が前記ヒータの後端部に接続され、自身の他端部が前記主体金具の後端から突出される中軸と、
前記主体金具の前記軸孔と前記中軸との間に配置され、前記中軸の前記他端部に設けた固定部により前記軸線方向の先端向きに付勢されて位置決めされる円筒状の絶縁体と、
を備えるグロープラグであって、
前記主体金具の前記軸孔と前記中軸との間のうち前記絶縁体の先端側には、前記軸孔内の気密性を保つための封止部材が設けられており、
前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がる第1テーパ部と、
前記絶縁体の外周面に設けられ、前記絶縁体の先端側から後端側へ向けてテーパ状に広がり、前記絶縁体が前記軸孔と前記中軸との間に配置された場合に前記第1テーパ部に当接する第2テーパ部と、
をさらに備え、
前記絶縁体は、前記中軸に対して密着した状態で、前記軸孔と前記中軸との間に配置されることを特徴とするグロープラグ。
【請求項2】
前記絶縁体の後端面は、前記固定部の先端面に当接し、
前記主体金具の前記第1テーパ部における最大外径をD1、前記絶縁体の前記第2テーパ部における最大外径をD2、前記絶縁体の前記後端面における最大外径をD3、前記固定部の前記先端面における最大外径をD4、としたときに、
D1>D2、かつ、D3<D4
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のグロープラグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のグロープラグの製造方法であって、
前記中軸は、前記他端部よりも前記一端部側に、前記他端部と比べて外径の大きな接続基部と、前記他端部と前記接続基部との間をテーパ状に接続する肩部と、を有しており、 前記絶縁体を前記主体金具の前記軸孔と前記中軸との間に配置する前の状態では、前記絶縁体の筒孔の内径A1と、前記中軸の前記他端部の外径A2と、前記接続基部の外径A3とが、A2<A1<A3を満たすとともに、前記中軸の前記肩部の先端位置B1が、前記主体金具の前記第1テーパ部の先端位置B2よりも、軸線方向の後端側に位置されており、
前記絶縁体を前記主体金具の前記軸孔と前記中軸との間に配置する過程において、
前記絶縁体を前記中軸の前記他端部に挿通する挿通工程と、
前記絶縁体を前記肩部に押し付けて前記筒孔を広げつつ、前記絶縁体をさらに押し込んで前記接続基部に配置する配置工程と、
前記絶縁体をさらに押し込んで前記第2テーパ部を前記主体金具の前記第1テーパ部に当接する当接工程と、
を備えることを特徴とするグロープラグの製造方法。」

第3 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要
(1)平成26年12月5日付けで通知した拒絶理由の概要
平成26年12月5日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

請求項1?3について
1.特開2002-013736号公報
グロープラグにおいて、ハウジング2の後端部における内面は、ハウジング2の他端2bから一端2aに向かうにつれて中軸4に近づくようなテーパ面を形成し、絶縁材料からなるシール部材10は、その内周面が中軸4と当接し、前記ハウジング2のテーパ面と当接する断面台形状である点。特に、図1、図2、図6、図7。

2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1?3について
1.特開2002-013736号公報
2.特開2007-292444号公報
グロープラグにおいて、主体金具40の軸孔43にテーパ面47を設けると共に、中軸30の端子接続部36とシール部との間に肩部を設け、Oリング70の最小内径D1を中軸30の端子接続部36の最大外径d1より大きくし、Oリング70の最小内径D1は中軸30のシール部37の最大外径d2より小さく規定している点。
備考
上記引用文献1に記載されたものにおいて、上記引用文献2に記載された技術を適用することで、シール部材の最小内径と、中軸の端子接続部とシール部の最大外径との関係を規定し、本願発明とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。
・・・(略)・・・」

(2)平成27年6月18日付けでした拒絶査定の概要
平成27年6月18日付けでした拒絶査定の概要は、次のとおりである。

「この出願については、平成26年12月 5日付け拒絶理由通知書に記載した理由2.によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-4
・引用文献等1-2
・備考
出願人は意見書において、「引用文献1には、封止部材の弾性変形による中軸の振れや曲がりを防止するため、主体金具の軸孔内周面に第一テーパ部を設け、絶縁体の外周面に第二テーパ部を設け、絶縁体の第2テーパ部が主体金具の第1テーパ部に当接することで、主体金具の後端部における軸孔内で、絶縁体によって中軸を保持する点について、記載も示唆もない。」旨主張している。
しかしながら、グロープラグにおいて、ハウジング2の後端部における内面は、ハウジング2の他端2bから一端2aに向かうにつれて中軸4に近づくようなテーパ面を形成し、絶縁材料からなるシール部材10は、その内周面が中軸4と当接し、前記ハウジング2のテーパ面と当接する断面台形状であるものが、引用文献1(特に、図1、図2、図6、図7。)に記載されている。
また、グロープラグにおいて、主体金具40の軸孔43にテーパ面47を設けると共に、中軸30の端子接続部36とシール部との間に肩部を設け、Oリング70の最小内径D1を中軸30の端子接続部36の最大外径d1より大きくし、Oリング70の最小内径D1は中軸30のシール部37の最大外径d2より小さく規定しているとともに、Oリング70は、主体金具40の軸孔43と中軸30との間に設けられた絶縁性の押圧部材60の先端側に配置されているものが、引用文献2(特に、図1-9)に記載されている。
したがって、上記引用文献1に記載されたものにおいて、上記引用文献2に記載された技術を適用することで、絶縁性の押圧部材の先端側にシール部材を配置すると共に、シール部材の最小内径と、中軸の端子接続部とシール部の最大外径との関係を規定し、本願発明とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。
<引用文献等一覧>
1.特開2002-013736号公報
2.特開2007-292444号公報
・・・(略)・・・」

2 原査定の拒絶の理由についての判断
(1)引用文献1の記載等
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2002-13736号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「グロープラグ」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、「引用文献1の記載」という。なお、下線は当審で付したものである。)がある。

・「【0019】
【発明の実施の形態】(第1実施形態)以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1に本発明の実施形態に係るグロープラグ1の縦断面構成を示す。このグロープラグ1は、例えば、ディーゼルエンジンの複数(例えば4気筒)のシリンダ(図示しない)にそれぞれ取り付けられており、エンジン始動時における燃料の着火および燃焼を促進するためのものである。
【0020】グロープラグ1は、中空筒状で、導電性材料(例えば鉄系材料)からなるハウジング2を備えており、このハウジング2の外面には、グロープラグ1をシリンダに脱着可能に取り付けるためのネジ部21が備えられている。本例では、ハウジング2は鉄系材料を用いており、その内面及び外面を冷間鍛造により加工形成した後、切削等によりネジ部21を形成することで作られている。
【0021】このハウジング2の内部には、通電により発熱する棒状の発熱部材3が、その一端3a側がハウジング2の一端2aから突出するようにハウジング2の内部に保持されている。また、ハウジング2の内部には、導電性材料(例えば鉄系材料等)よりなる棒状の中軸4が、その一端4a側がハウジング2の他端2bから突出するようにハウジング2内に収納されている。そして、中軸4の他端4b側は発熱部材3の他端3b側と電気的に導通されている。
【0022】発熱部材3の本体は、一端3a側に閉塞部、他端3b側に開口部を有する細長な有底筒状のチューブ5によって区画形成されており、このチューブ5は、ハウジング2の一端2a側から圧入等により固定されている。このチューブ5は、耐熱性および耐酸化性に優れる導電性材料(例えばステンレス材料)からなり、チューブ5においては、発熱部材3の一端3a側に小径部51、発熱部材3の他端3b側に大径部52が形成されている。この小径部51はスウェージングにより、チューブ5の外径を絞ることにより形成されている。
【0023】また、チューブ5の内部には、コイル状の第1及び第2抵抗体6、7が、チューブ5の長軸方向に沿って設けられている。第1抵抗体6は、チューブ5の閉塞部側に内蔵され、第2抵抗体7は、第1抵抗体6よりも、チューブ5の開口部側に内蔵されている。また、第1抵抗体6の一端6aは、チューブ5の閉塞部に溶接されて電気的に接続され、他端6bは、第2抵抗体7の一端7aに溶接されて電気的に接続されている。そして、第2抵抗体7の他端7bは、上記中軸4の他端4bに溶接等により電気的に接続されている。
【0024】これら中軸4の他端4b側、第1抵抗体6および第2抵抗体7は、チューブ5内において、耐熱性絶縁材料(例えばマグネシア等)からなる絶縁粉末8により埋設されている。これにより、中軸4の他端4b側、第1抵抗体6および第2抵抗体7が、チューブ5の閉塞部以外の部位に対して絶縁的に保持される。なお、絶縁体粉末8はチューブ5の開口部側にてシール9によりシールされている。このように、発熱部材3は、チューブ5内に抵抗体6、7を絶縁粉末8にて絶縁保持されてなる。
【0025】なお、第1抵抗体6は、常温(20℃)と1000℃(予熱時におけるグロープラグ1の第1抵抗体6の温度)の抵抗変化率(1000℃の抵抗値/20℃の抵抗値)が、例えば1程度に小さな第1導電材料(例えば鉄クロム合金やニッケルクロム合金)からなり、第2抵抗体7は、上記抵抗変化率が、例えば5?14程度に大きな第2導電材料(例えばニッケル、低炭素鋼やコバルト鉄合金)からなる。なお、抵抗温度係数とは、横軸に温度、縦軸に抵抗値をプロットして得られるグラフの傾きのことである。よって、第2導電材料は、第1導電材料よりも、正の抵抗温度係数の大きな材料である。
【0026】そして、グロープラグ1においては、中軸4を介して発熱部材3へ通電可能となっており、通電直後において、第1抵抗体6に大電流を供給でき、第1抵抗体6を発熱させるとともに、所定時間経過後には、第2抵抗体7側での温度上昇により、第2抵抗体7の抵抗値を増大させて、第1抵抗体6への供給電力を減少させ、第1抵抗体6での過加熱による断線等を防止できるようになっている。
【0027】また、中軸4の一端4aにはネジ部が形成されており、ゴム等の絶縁弾性材料からなる環状のシール部材10および絶縁樹脂製のブッシュ11を介してナット12を締めつけることにより、中軸4の一端側4aは、ハウジング2の他端2b側に絶縁的に固定されている。ここで、シール部材10は、その内周面が中軸4に当接し且つその外周面がハウジング2の内面に当接した状態で、中軸4とハウジング2との間をシールしている。
【0028】かかるグロープラグ1は、各構成部材を次のように組み付けることにより形成される。まず、発熱部材3と中軸4とが一体に組み付けられたものをハウジング2へ挿入し、発熱部材3とハウジング2とを圧入により固定するか、ろう付け等で固定することにより、ハウジング2、発熱部材3及び中軸4を一体化する。続いて、中軸4の一端4a側より、シール部材10及びブッシュ11を投入して配置する。そして、中軸4の一端4aのネジ部に沿ってナット12を締め付けることにより、図1に示すグロープラグ1が出来上がる。
【0029】ところで、本実施形態は、上記のシール部材10に特徴を持たせたものであり、次に、この特徴部分について詳述する。図2は、図1中のシール部材近傍を拡大して示す図である。なお、図2中、破線で示す形状は、シール部材10の組付前の形状である。シール部材10は、NBR(ニトリルブタジエンラバー)、HNBR(水素添加されたNBR)やアクリルゴム、フッ素ゴム等の絶縁弾性材料を型成形することにより、環状に形成されたものである。
【0030】そして、図2に示すシール部材10は、その組付前における径方向の断面形状が、グロープラグ1の軸(図中、一点鎖線J)方向が長辺となる長方形をなしている。この長方形断面における対向する1組の辺がシール部材10の内周面及び外周面(つまり、シール面)を構成している。また、本例では、好ましい形態として、このシール部材10の長方形断面において、ハウジング2の一端2a側(ハウジング2への挿入側)の角部10aが丸められたR形状となっている。
【0031】例えば、組付前における環状のシール部材10は、外周の直径がφ8.4mm、内周の直径がφ3.8mm、厚み(グロープラグ1の軸方向における長さ)Tが4mm、角部10aのRが0.05mm以上且つT/4のものとすることができる。また、本例においては、シール部材10と接触するハウジング2の内面は、ハウジング2の他端2bから一端2aに向かうにつれて中軸4に近づくようなテーパ面を形成している。このテーパ面とグロープラグ1の軸Jとのなす角度は、例えば、3?20°程度である。
【0032】そして、シール部材10は、上記のように中軸4とハウジング2との間に組み付けられることで弾性変形し、図2に示す様に、組付前の状態よりもグロープラグ1の軸方向にてハウジング2の一端2a側(挿入側)へ向かって伸びた状態となる。こうして、シール部材10は、その内周面が中軸4に当接し、その外周面がハウジング2の内面に当接し、中軸4とハウジング2との間をシールする。ここで、図2中に示すシール長さLは、組付後のシール部材10における中軸4及びハウジング2とのシール面(内周面と外周面)のグロープラグ1の軸方向への長さである。
【0033】このように、図2に示すシール部材10によれば、組付前における径方向の断面形状が矩形であり、この矩形断面における対向する1組の辺がシール面を構成している。そのため、従来の円形断面のものに比べて、特にシール部材10を太くすることなく、シール長さLを長くすることができる。そのため、プラグ1の体格を増大させることなく、シール部材10のシール性を向上させることができる。」(段落【0019】ないし【0033】)

イ 引用発明
引用文献1の記載及び図面を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「通電によって発熱するコイル状の第1及び第2抵抗体6、7を自身の先端部に有する発熱部材3と、
軸線方向に延びる軸孔を有する筒状に形成され、自身の先端部において前記発熱部材3を直接または保持部材を介して間接的に保持するハウジング2と、
棒状に形成され、前記ハウジング2の前記軸孔内に当該軸孔の内周面に対し間隙をおいて配置されると共に、自身の一端部が前記発熱部材3の後端部に接続され、自身の他端部が前記ハウジング2の後端から突出される中軸4と、
前記ハウジング2の前記軸孔と前記中軸4との間に配置され、前記中軸4の前記他端部に設けたナット12により前記軸線方向の先端向きに付勢されて位置決めされる円筒状の絶縁樹脂製のブッシュ11と、
を備えるグロープラグであって、
前記ハウジング2の前記軸孔と前記中軸4との間のうち前記絶縁樹脂製のブッシュ11の先端側には、前記軸孔内の気密性を保つためのシール部材10が設けられており、
前記ハウジング2の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がるテーパ面と、
をさらに備えるグロープラグ。」

(2)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2007-292444号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「グロープラグ」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、「引用文献2の記載」という。なお、下線は当審で付したものである。)がある。

・「【0023】
以下、本発明を具体化したグロープラグの一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1?図3を参照して、一例としてのグロープラグ100の全体の構造について説明する。図1は、グロープラグ100の縦断面図である。図2は、グロープラグ100の後端付近を拡大した断面図である。図3は、中軸30の斜視図である。なお、軸線O方向において、セラミックヒータ20の配置された側(図1における下側)をグロープラグ100の先端側として説明する。
【0024】
図1に示すグロープラグ100は、例えば直噴式ディーゼルエンジンの燃焼室(図示外)に取り付けられ、エンジン始動時の点火を補助する熱源として利用される。グロープラグ100は、概略、中軸30と、発熱体27を有するセラミックヒータ20と、セラミックヒータ20を径方向に保持する筒状体80と、軸孔43内に中軸30が挿通され、先端部41が筒状体80に接合された主体金具40とから構成される。
【0025】
まず、セラミックヒータ20について説明する。セラミックヒータ20は丸棒状をなし、先端部22が半球状に曲面加工された絶縁性セラミックからなる基体21の内部に、導電性セラミックからなる断面略U字状の発熱素子24が埋設された構造を有する。発熱素子24は、セラミックヒータ20の先端部22に配置され、その曲面にあわせて両端が略U字状に折り返された発熱体27と、その発熱体27の両端にそれぞれ接続され、セラミックヒータ20の後端部23に向けて軸線Oに沿って略平行に延設されたリード部28,29とから構成される。発熱体27は、その断面積がリード部28,29の断面積よりも小さくなるように成形されており、通電時、主に発熱体27において発熱が行われる。また、セラミックヒータ20の中央より後端側の外周面には、リード部28,29のそれぞれから突出された電極取出部25,26が、軸線O方向において互いにずれた位置にて露出されている。
【0026】
次に、筒状体80について説明する。筒状体80は軸線O方向に延びる円筒状の金属部材からなり、自身の筒孔84内にてセラミックヒータ20の胴部分を径方向に保持すると共に、先端部22および後端部23をそれぞれ筒孔84の両端から露出させている。筒状体80は、胴部81の後端側に肉厚の鍔部82が形成されており、更にその後端に、後述する主体金具40との接合を行うため主体金具40の先端部41内周に係合する段状の金具係合部83が形成されている。セラミックヒータ20の電極取出部25,26のうち先端側に形成された電極取出部25は、この筒状体80の筒孔84内周面に接触されており、電極取出部25と筒状体80とが電気的に接続されている。また、筒状体80の金具係合部83から後端側に露出されたセラミックヒータ20の後端部23には、金属製で筒状の接続リング75が嵌合されている。セラミックヒータ20の電極取出部26は、この接続リング75の内周面に接触されており、電極取出部26と接続リング75とが電気的に接続されている。そして、主体金具40の先端部41が筒状体80の金具係合部83に接合し、主体金具40と筒状体80とが電気的に接続される。このとき、セラミックヒータ20の後端部23および接続リング75が主体金具40内に配置されるが、セラミックヒータ20と主体金具40とがそれぞれ筒状体80に位置決めされ、主体金具40と接続リング75とが非接触の状態で維持されるので、両者は電気的に絶縁される。
【0027】
次に、主体金具40について説明する。主体金具40は、軸線O方向に貫通する軸孔43を有する長細い筒状の金属部材であり、中胴部44の後端側に、グロープラグ100を内燃機関のエンジンヘッド(図示外)に取り付けるための雄ねじ部42が形成されている。また、図2に示すように、中胴部44(図1参照)の後端には、エンジンヘッドへの取り付けの際に使用される工具が係合する工具係合部46が形成されている。本実施の形態では工具係合部46は断面六角形状をなし、その工具係合部46内で軸孔43は拡径されており、この部位が拡径部45として呼称されている。拡径部45に至るまでの軸孔43の内周面は、後端側に向けて内径が徐々に拡大するテーパ面47として形成されている。また、軸孔43は拡径部45において主体金具40の後端面48に開口されており、その開口部分はC面取りされている。一方、図1に示すように、主体金具40の先端部41は、その内周が前述した筒状体80の金具係合部83の外周に係合されており、更に外周から両者の合わせ部位がレーザ溶接されて、主体金具40と筒状体80とが一体に接合されている。なお、雄ねじ部42が、本発明における「取付ねじ部」に相当する。
【0028】
次に、中軸30について説明する。図1,図3に示すように、中軸30は軸線O方向に延びる金属棒であり、主体金具40の軸孔43内に挿通される。中軸30の中胴部33の先端側には外径を細らせた細径部35が形成されている。また、細径部35よりも先端側の先端部31には、その先端に、接続リング75の内周に係合するため小径のリング係合部34が形成されている。このリング係合部34を接続リング75に係合させることで、セラミックヒータ20と中軸30とが接続リング75を介して軸線Oに沿って一体に連結される。なお、中軸30の先端部31と接続リング75は、外周から両者の合わせ部位がレーザにより溶接されることにより一体に接合される。これにより、中軸30は、接続リング75を介し、セラミックヒータ20の電極取出部26と電気的に接続されている。上記したように、セラミックヒータ20と主体金具40とがそれぞれ筒状体80に位置決めされるので、主体金具40の軸孔内で中軸30と主体金具40とは非接触の状態で維持され電気的に絶縁されている。
【0029】
また、図2,図3に示すように、中軸30の後端部32には、主体金具40の後端面48から突出される小径の端子接続部36と、主体金具40の軸孔43内の気密性を保つため配設されるOリング70(後述)に当接するシール部37とが設けられている。本実施の形態では、シール部37は中胴部33と同一の外径で中胴部33に連続する形態となっている。また図3に示すように、端子接続部36には、その外周面上にローレット状の表面加工が施された係止部39が形成されている。
【0030】
中軸30の後端部32には、Oリング70と、挿通孔62を有する円筒状で絶縁性の押圧部材60とが配設されている。Oリング70は、例えばフッ素ゴム、アクリルゴム、シリコンゴム等、絶縁性を有する弾性部材から環状に形成されている。押圧部材60は、自身の胴体部65を軸孔43の拡径部45の内周面と中軸30のシール部37との間に配置させ、拡径部45内にて自身の挿通孔62に挿通された中軸30の位置決めと両者間の絶縁を担っている。Oリング70は、シール部37の外周面と軸孔43のテーパ面47との間に配置されるが、押圧部材60の先端側の端面63により先端側に向け押圧され、軸孔43のテーパ面47および中軸30のシール部37の外周面に密着されている。押圧部材60の端面63は軸線O上の点を焦点とするテーパ状に形成されており、この構成により、この端面63により押圧されたOリング70とシール部37との間の抗力と、Oリング70と軸孔43のテーパ面47との間の抗力との差が小さくなり、Oリング70による密着性の偏りが低減されている。また、押圧部材60の後端側には鍔状の鍔部61が設けられており、この鍔部61が主体金具40の後端面48に当接し、後述する端子接続部36に係合される端子金具50と主体金具40との間に配置することで両者の絶縁が維持されている。」(段落【0023】ないし【0030】)

2 対比
本願発明1と引用発明を対比する。

引用発明における「コイル状の第1及び第2抵抗体6、7」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願発明1における「発熱抵抗体」に相当し、以下、同様に、「発熱部材3」は「ヒータ」に、「ハウジング2」は「主体金具」に、「中軸4」は「中軸」に、「ナット12」は「固定部」に、「絶縁樹脂製のブッシュ11」は「絶縁体」に、「シール部材10」は「封止部材」に、「テーパ面」は「第1テーパ部」に、それぞれ、相当する。
また、上記相当関係を踏まえると、本願発明1における「前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がる第1テーパ部と、
前記絶縁体の外周面に設けられ、前記絶縁体の先端側から後端側へ向けてテーパ状に広がり、前記絶縁体が前記軸孔と前記中軸との間に配置された場合に前記第1テーパ部に当接する第2テーパ部と、
をさらに備え、
前記絶縁体は、前記中軸に対して密着した状態で、前記軸孔と前記中軸との間に配置される」と引用発明における「前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がるテーパ面と、
をさらに備える」は、その機能、構成または技術的意義からみて、「前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がる第1テーパ部と、
をさらに備え」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「通電によって発熱する発熱抵抗体を自身の先端部に有するヒータと、
軸線方向に延びる軸孔を有する筒状に形成され、自身の先端部において前記ヒータを直接または保持部材を介して間接的に保持する主体金具と、
棒状に形成され、前記主体金具の前記軸孔内に当該軸孔の内周面に対し間隙をおいて配置されると共に、自身の一端部が前記ヒータの後端部に接続され、自身の他端部が前記主体金具の後端から突出される中軸と、
前記主体金具の前記軸孔と前記中軸との間に配置され、前記中軸の前記他端部に設けた固定部により前記軸線方向の先端向きに付勢されて位置決めされる円筒状の絶縁体と、
を備えるグロープラグであって、
前記主体金具の前記軸孔と前記中軸との間のうち前記絶縁体の先端側には、前記軸孔内の気密性を保つための封止部材が設けられており、
前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がる第1テーパ部と、
をさらに備えるグロープラグ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
「前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がる第1テーパ部と、
をさらに備え」に関して、本願発明1においては、「前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がる第1テーパ部と、
前記絶縁体の外周面に設けられ、前記絶縁体の先端側から後端側へ向けてテーパ状に広がり、前記絶縁体が前記軸孔と前記中軸との間に配置された場合に前記第1テーパ部に当接する第2テーパ部と、
をさらに備え、
前記絶縁体は、前記中軸に対して密着した状態で、前記軸孔と前記中軸との間に配置される」であるのに対し、引用発明においては、「前記主体金具の後端部における前記軸孔の前記内周面に設けられ、前記軸孔内から前記軸孔の開口にかけてテーパ状に広がるテーパ面と、
をさらに備え」である点(以下、「相違点」という。)。

3 判断
そこで、相違点について判断する。
引用文献1の記載(特に、段落【0031】等を参照。)によると、引用発明における「テーパ面」に当接する部材は、本願発明1における「封止部材」に相当する「シール部材10」であって、本願発明1における「絶縁体」に相当する「絶縁樹脂製のブッシュ11」ではないし、引用文献1には、「絶縁樹脂製のブッシュ11」を「テーパ面」に当接させることを示唆する記載もない。
また、引用文献2の記載によると、引用文献2に記載された「グロープラグ」において、本願発明1における「第1テーパ部」に相当する「テーパ面47」に当接する部材は、本願発明1における「封止部材」に相当する「Oリング70」であって、本願発明1における「絶縁体」に相当する「絶縁性の押圧部材60」ではないし、、引用文献2には、「絶縁性の押圧部材60」を「テーパ面47」に当接させることを示唆する記載もない。
したがって、引用発明において、引用文献2に記載された事項を考慮しても、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を想到することが、当業者であれば容易になし得たことであるとはいえない。

4 まとめ
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、上記第2によると、本願発明2及び3は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第1 理由1(サポート要件)について
発明の詳細な説明(明細書の段落【0005】、【0006】及び【0008】等。)によると、発明の課題は、従来のグロープラグに用いられる絶縁体には、径方向において、絶縁体と軸孔との間及び絶縁体と中軸との間にそれぞれクリアランスを確保できる大きさに形成され、製造時の組立容易性が確保されているため、エンジンの駆動に伴う振動や、通電のためのコネクタの取り付けなどによって中軸に負荷がかかった場合に、封止部材が弾性変形して軸孔内で中軸が振れたり曲がったりすると、中軸の一端部に接続されたヒータに応力がかかってしまう虞があるという問題があり、それを解決することである。
そして、そのためには、絶縁体と軸孔との間及び絶縁体と中軸との間にそれぞれクリアランスが存在しなくなるようにするための手段が必要と認められるが、請求項1には、それが反映されていない(請求項1には、主体金具に設けられた第1のテーパ部と絶縁体に設けられた第2のテーパ部が当接する旨の記載があるが、主体金具に設けられた第1のテーパ部と絶縁体に設けられた第2のテーパ部が当接するだけでは、絶縁体と軸孔との間及び絶縁体と中軸との間のクリアランスが存在しなくなるとは限らない。また、単に、主体金具及び絶縁部材に互いに当接するテーパ部を設ければよいのであれば、製造時の組立容易性を考慮することは当然であるから、原査定の拒絶の理由で通知した特開2002-13736号公報または特開2007-292444号公報に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえる。)。
したがって、請求項1の記載では、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるので、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
(請求項2の記載内容を請求項1に組み入れる補正を検討されたい。)

第2 理由2(明確性)について
請求項4の「前記絶縁体をさらに押し込んで前記第1テーパ部を前記主体金具の前記第2テーパ部に当接する当接工程と」という記載によると、「第2テーパ部」は「主体金具」に備わっていることになるが、請求項4が引用する請求項1の記載では、「第2テーパ部」は「主体金具」ではなく「絶縁体」に備わっているものであり、「主体金具」に備わっているのは「第1テーパ部」である。
したがって、請求項4の上記記載は明確でなく、請求項4に係る発明は明確でない。
(請求項4の上記記載における「第1テーパ部」は「第2テーパ部」の誤記、「第2テーパ部」は「第1テーパ部」の誤記ではないか。)
請求項2に係る発明については、現時点では拒絶の理由を発見しない。
・・・(略)・・・」

2 当審拒絶理由についての判断
平成28年3月31日に提出された手続補正書による補正により、本願の請求項1に「前記絶縁体は、前記中軸に対して密着した状態で、前記軸孔と前記中軸との間に配置される」という記載(補正前の請求項2の記載内容に相当する。)が追加されたので、サポート要件に関する拒絶理由は解消した。
また、上記補正により、補正前の請求項4の「前記絶縁体をさらに押し込んで前記第1テーパ部を前記主体金具の前記第2テーパ部に当接する当接工程と」という記載は、補正後の請求項3の「前記絶縁体をさらに押し込んで前記第2テーパ部を前記主体金具の前記第1テーパ部に当接する当接工程と」という記載に補正されたので、明確性に関する拒絶理由も解消した。
よって、当審拒絶理由において指摘した拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-23 
出願番号 特願2011-13384(P2011-13384)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F23Q)
P 1 8・ 121- WY (F23Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉山 豊博  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
金澤 俊郎
発明の名称 グロープラグおよびその製造方法  
代理人 山本 尚  

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