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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1315002
審判番号 不服2014-23870  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-25 
確定日 2016-05-18 
事件の表示 特願2011-264439「アッセイ装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月26日出願公開、特開2012- 83356〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2005年(平成17年)3月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年3月24日、スウェーデン)を国際出願日とする特願2007-504918号の一部を平成23年12月2日に新たな特許出願としたものであって、平成26年7月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされた。

その後、当審において、平成27年8月31日付けで拒絶理由の通知がなされ、これに対して、同年11月26日付けで意見書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成26年11月25日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「 液体サンプル中の検体の検出前に、液体サンプル中の成分を分離するための、装置であって、その装置が、基板を有しており、その基板が、サンプルを受け取るゾーンと、任意の反応ゾーンと、受け取りゾーンと反応ゾーンとを接続して基板上に流動路を形成する、輸送又は培養ゾーンと、を備えており、上記基板が、無孔性基板であり、上記流動路の少なくとも一部が、上記基板の表面に対して垂直な突起の領域から成っており、その突起が、上記ゾーン内の上記液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような、高さ(H)、直径(D)、及び相互間隔(t1、t2)を有しており、分離手段が、サンプルを受け取るゾーンに隣接して又はそのゾーン中にのみ、設けられており、上記分離手段が、上記サンプル中の1つ以上の成分と相互作用することのできる化合物であることを特徴とする装置。」


第3 当審の平成27年8月31日付け拒絶理由の概要

当審の平成27年8月31日付け拒絶理由の概略は、次のとおりである。

本願の請求項1ないし11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2002-509254号公報及び国際公開第2003/103835号に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 引用例記載の事項

1 特表2002-509254号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(1)「【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、全血サンプル中の分析物を検出するためのクロマトグラフィーアッセイデバイス及び方法、より特定的には、赤血球を凝集させる赤血球分離剤と赤血球分離剤がアッセイ系に与え得るいかなるマイナス効果も中和する中和剤とを使用するデバイス及び方法に関する。」

(2)「【0008】
(発明の概要)
本発明は、毛細流を支持し得る流体流の通路を規定しているクロマトグラフィー担体と、クロマトグラフィー担体に流体流接触させる血液サンプルの添加部位と、添加部位から離間したクロマトグラフィー担体上の検出部位と、添加部位の下流の場所に拡散的に結合された標識物質と、血液サンプルから血漿または血清を分離すべく検出部位の上流に拡散的に結合された赤血球分離剤と、分離剤と結合すべく結合分離剤の下流で検出部位の上流に拡散的に結合され分離剤の正電荷を中和し得る中和剤と、から成るクロマトグラフィーデバイスに関する。好ましくは、赤血球分離剤は、血清または血漿がクロマトグラフィー担体の下流に移動する前に赤血球が血清または血漿から分離されるように添加部位に配置される。」

(3)「【0013】
“クロマトグラフィー担体”は、多孔性、吸収性、吸水性、等張性または毛管性の任意の適当な材料を意味する。これはデバイスの検出部位を含み、分析物または被験サンプルは毛細管作用すなわち灯心作用によってクロマトグラフィー担体中を搬送される。」

(4)「【0018】
特に、本発明は、サンプル、好ましくは血液サンプル中の分析物の存在を検出するためのクロマトグラフィーアッセイデバイスを提供する。デバイスは好ましくは、毛細流を支持し得る流体流通路を規定しているクロマトグラフィー担体と血液サンプルの添加部位と血液サンプル中の分析物の存在または量を検出すべく添加部位から離間した検出部位とを有するクロマトグラフィーストリップの形態である。好ましくはデバイスが更に、クロマトグラフィー担体に拡散的に結合された標識物質(即ちコンジュゲート)を含む。好ましい実施態様では、標識物質は分析物に結合する物質または検出部位への結合に関して分析物と競合する物質であろう。デバイスは好ましくはクロマトグラフィー担体に結合した2つの追加物質、即ち、(1)検出部位の上流(以後の記載では、毛細管作用によって生じたサンプルの移動方向を「下流」と呼び、反対方向を「上流」と呼ぶ)で血液サンプルから血漿または血清を分離し得る赤血球分離剤と、(2)赤血球分離剤の下流及び検出部位の上流でクロマトグラフィー系に対する赤血球分離剤の作用特に副作用を中和する中和剤とを含む。」

(5)「【0026】
検出部位は一般に標識物質から下流の場所に標識物質からある程度の間隔で配置されている。検出部位では、分析物もしくはコンジュゲートだけに特異的に結合するかまたは被験物質の各々及び標識物質に特異的に結合する捕獲物質がクロマトグラフィー担体に固定されている。その結果として、1つの実施態様では、サンプル溶液の毛細管作用によって移動した分析物(ときには標識物質に結合している)が捕獲物質に結合するか、または、分析物がコンジュゲートに結合し、該コンジュゲートが捕獲物質に結合する。」

(6)「【0032】
アッセイを望ましい感度で行う必要があるときは、血液サンプル中の対象分析物の検定を開始する前に赤血球を除去するのが好ましい。このためには、本発明に従って赤血球分離剤をクロマトグラフィー担体に結合させる。好ましくは、赤血球分離剤をクロマトグラフィー担体に拡散的に結合させる。赤血球分離剤は、任意の場所でクロマトグラフィー担体に結合され、赤血球を血漿または血清から分離すべく機能し得る。好ましくは、赤血球分離剤を検出部位の上流でクロマトグラフィー担体に拡散的に結合させる。最も好ましくは、赤血球分離剤をサンプル添加部位で拡散的に結合させる。この場所が好ましい理由は、赤血球がクロマトグラフィー担体に添加されたときに赤血球分離剤が直ちに赤血球を凝集させるので、毛細管作用による血清または血漿の担体に沿った流動に対する妨害はたとえあったとしても極めて少ないからである。」

(7)「【0033】
本発明の赤血球分離剤は赤血球を凝集させ得る任意の物質でよい。好ましい物質は、ポリカチオンのような正電荷をもつ物質である。ポリカチオンの例は、ポリ-L-リシン臭化水素酸塩;ポリ(ジメチルジアリルアンモニウム)塩化物(Merquat(登録商標)-100、Merquat(登録商標)280、Merquat(登録商標)550);ポリ-L-アルギニン臭化水素酸塩;ポリ-L-ヒスチジン;ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(4-ビニルピリジン)塩酸塩;ポリ(4-ビニルピリジン)架橋メチルクロリド第四塩;ポリ(4-ビニルピリジン-コ-スチレン);ポリ(4-ビニルピリジニウムポリ(フッ化水素));ポリ(4-ビニルピリジニウム-p-トルエンスルホン酸塩);ポリ(4-ビニルピリジニウム-三臭化物);ポリ(4-ビニルピロリドン-コ-2-ジメチルアミノエチルメタクリル酸塩);ポリビニルピロリドン,架橋;ポリビニルピロリドン,ポリ(メラミン-コ-ホルムアルデヒド);部分メチル化;ヘキサジメトリン臭化物;ポリ(Glu,Lys)1:4臭化水素酸塩;ポリ(Lys,Ala)3:1臭化水素酸塩;ポリ(Lys,Ala)2:1臭化水素酸塩;ポリ-L-リシンスクシニル化;ポリ(Lys,Ala)1:1臭化水素酸塩;及びポリ(Lys,Trp)1:4臭化水素酸塩である。最も好ましいポリカチオンはポリ(ジメチルジアリルアンモニウム)塩化物(Merquat(登録商標)-100)である。」

(8)「【0037】
中和剤は、赤血球分離剤の正電荷を中和し得る任意のポリアニオンでよい。好ましいポリアニオンとしては、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸Na塩)、ポリ(メチルメタクリル酸)、ポリ((Na-4-スチレンスルホン酸塩)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ-L-アスパラギン酸及びカルボキシメチルセルロースがあり、硫酸デキストランが最も好ましい。」

(9)「【0039】
図1は本発明のイムノクロマトグラフィーアッセイデバイスの実施態様を示す。デバイス10は、クロマトグラフィー担体20を含む。クロマトグラフィー担体20の上に血液サンプル添加部位30が配置されている。この好ましい実施態様では赤血球分離剤即ちMerquat(登録商標)100が添加部位30に配置されている。添加部位30に隣接してコンジュゲート即ちセレン標識結合物質と中和剤即ち硫酸デキストランとを含むコンジュゲートパッド40が配置されている。更に下流に検出部位50が存在し、検出部位50は、アッセイ処理が終了したことをコントロールバー60で示し、被検定物質が存在することをテストバー70で示す。」

(10)第1図





2 引用例1に記載された発明の認定

上記1(1)ないし(10)を含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、

「 血液サンプル中の分析物の存在を検出するためのクロマトグラフィーアッセイデバイスであって、
毛細流を支持し得る流体流通路を規定しているクロマトグラフィー担体20と血液サンプル添加部位30と血液サンプル中の分析物の存在または量を検出すべく前記血液サンプル添加部位30から離間した検出部位50とを有するクロマトグラフィーストリップの形態であり、
クロマトグラフィー担体20の上に血液サンプル添加部位30が配置され、赤血球分離剤即ちMerquat(登録商標)100が前記血液サンプル添加部位30に配置されており、
前記血液サンプル添加部位30に隣接してコンジュゲート即ちセレン標識結合物質と中和剤即ち硫酸デキストランとを含むコンジュゲートパッド40が配置されており、
更に毛細管作用によって生じたサンプルの移動方向である下流に検出部位50が存在し、前記検出部位50には被験物質の各々及び標識物質に特異的に結合する捕獲物質が固定されており、前記検出部位50は、アッセイ処理が終了したことをコントロールバー60で示し、被検物質が存在することをテストバー70で示すものであり、
分析物または被験サンプルは毛細管作用によってクロマトグラフィー担体20中を搬送されるクロマトグラフィーアッセイデバイス。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

3 国際公開第2003/103835号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。和訳は、引用例2に対応する日本語ファミリー文献である特表2005-532151号公報の記載を参考に、当審において翻訳したものである。なお、参考のため、特表2005-532151号公報の対応箇所の段落番号を記す。)。

(1)第1頁2ないし9行
「Field of the invention
The present invention relates to micro fluidic structures, and in particular to a micro structure defining a liquid flow system, wherein capillary action is utilized as the main driving force for liquid transport through said structure.
The micro fluidic structure according to the invention is useful in various fields of application such as miniaturized bioassays, preparatory steps for such assays, separation, electrophoresis, capillary chromatography, micro reaction cavity procedures, miniaturized liquid communication units, biosensor flow cells and the like.」
(【0001】
発明の属する分野
本発明は、微細流体構造、そして特に、液体の流動システムを構成する微細構造に関するものであり、それにおいては、毛細管作用が、前記構造を通る液体の移送のための主要な推進力として利用される。
【0002】
本発明による微細流体構造は、様々な応用分野で有益である。例えば、小型生物分析、その分析の準備段階、分離、電気泳動、毛細管クロマトグラフィー、微細反応空洞処置、小型液体連絡ユニット、フローセルバイオセンサーなどが挙げられる。)

(2)第4頁24行ないし第5頁1行
「The invention in particular provides a micro fluidic system comprising a substrate, and, provided on said substrate, at least one flow path and functional means in which liquid samples can be treated by desired procedures, wherein said at least one flow path is/are laid out to form a pattern for the transport of liquid samples to , through and from said functional means; wherein the flow path consists of a plurality of micro posts protruding upwards from said substrate; wherein the spacing between the micro posts is such as to induce a capillary action in a liquid sample applied anywhere to said flow path, so as to force said liquid to move from where said liquid sample was applied.」
(【0021】
特に、本発明は、基板並びに該基板上に設けられた少なくとも1つの流動路及び液体サンプルを望ましい手順で処理できる機能的手段を備えた微細流動システムを提供する。それにおいて、前記少なくとも一つの流動路が、前記機能的手段への、前記機能的手段を通る、及び前記機能的手段からの、液体サンプルの移送のための形態を構成するように配置され、前記流動路が、前記基板から上方へ突出する複数の微細ポストで構成され、前記微細ポスト間の間隔は、液体サンプルが供給されたところから液体を移動させるように、前記液体サンプルが前記流動路のどこに供給されても、毛細管作用を引き起こすように設定されている。)

(3)第9頁19ないし27行
「Thus, the basic structure embodying the inventive concept is a substrate having at least one flow path provided in or on its surface. This flow path or channel is formed by column like micro structures or micro posts, protruding from surface of said support. The characteristic feature of the flow path and the micro posts therein is that the dimensions of said posts and the distance between said posts are selected such that capillary flow of liquids can be maintained therein. In particular, the distance between said columns is in the range of 0.1 - 1000 μm, preferably 1 - 100 μm. The columns are preferably higher than 1 μm, more preferably higher than 10 μm. Most preferably said micro posts have a high aspect ratio, that is a width to height ratio greater than 1 :2.」
(【0045】
このように、本発明の概念を具体化する基礎的な構造は、その表面中に又は表面上に設けられた少なくとも一つの流動路を有する基板である。この流動路又は経路は、前記支持体の表面から突出している、微細構造又は微細ポストのような柱によって形成される。流動路及び微細ポストの特有の特徴は、前記ポストの寸法と前記ポスト間の距離とが、液体の毛細管流動が維持されうるように選択されていることである。特に、前記柱間の距離は、0.1?1000μm、好ましくは1?100μmの範囲にある。前記柱は、好ましくは、1μmよりも高く、より好ましくは、10μmよりも高い。最も好ましくは、前記微細ポストは、幅と高さの比率が1:2を超える、高いアスペクト比を有する。)

(4)第10頁29行ないし第11頁17行
「According to another embodiment of the invention, the capillary flow path or paths has/have integrated surfaces or zones composed of bibulous material capable of capillary transport. This is schematically illustrated in Fig. 9 which shows a simple application of this concept. In this case there is a closed channel structure comprising a plurality of micro-posts 1 filling the channel. The structure has a bottom substrate 2 and a cover 6, the substrate also forming side walls (not shown), and having an input aperture or hole 7, an optional further aperture or hole 8, and an exit aperture (not shown). If a drop 9 of liquid is applied to the input aperture 7, a capillary flow will immediately begin, and will continue to draw liquid from the drop until the flow reaches the exit, where no further capillary action will occur. However, if a bibulous material such as pad 10 of filter paper or the like of sufficient size, is applied at, within or in contact with the exit aperture, this material will by its capability of drawing liquid act as a "flow sink", i.e. it will absorb the liquid that exits from the channel, thereby enabling an essentially continuous flow through the channel.
Another embodiment having a flow sink, is that of the closed channel ending in an open region or zone of micro posts, said region having a relatively large area as compared to the channel. This large region will act as a flow sink in the same sense as the bibulous material discussed above. If e.g. heating means is provided to heat this region, evaporation of the liquid can be induced, thereby creating a sink that in principle could be maintained indefinitely. Evaporation of the liquid will also make possible the capture of components present in the flow, at a desired location and at a desired time in the device or process employing such device.」
(【0050】
本発明の別の実施形態によれば、1又は複数の毛細管の流動路は、毛細管の移送が可能である吸水性材料により構成された、統合された表面又はゾーンを有する。これは、この概念の簡単な適用を示す図9において概略的に説明されている。この場合、経路を満たした複数の微細ポスト1を備える閉じられた経路の構造がある。その構造は、底部基板2及びカバー6を有し、該基板は、側壁(図示されていない)も形成し、入口開口又は孔7、更なる任意の開口又は孔8、及び、出口開口(図示されていない)を有している。液体のしずく9が入口開口7に供給された場合、毛細管流動が即座に始まり、そして、それ以上の毛細管作用が発生しない出口に達するまで、しずくから液体を引き出し続けるだろう。しかしながら、濾紙などの材料からなり十分な大きさのパッド10のような吸水性材料が、出口開口内に又は出口開口と接触して供給された場合、この材料は、液体を引き出す能力によって、「フローシンク」として働くであろう。すなわち、それは、経路からぬける液体を吸収し、それによって経路を通る本質的に連続的な流動を可能にするであろう。
【0051】
フローシンクを有する別の実施形態は、開放された微細ポストの領域又はゾーンで終わる、閉じられた経路のものであり、前記領域は、前記経路と比べると比較的大きい面積を有する。この大きい領域は、上記の吸水性材料と同じ意義で、フローシンクとして働く。例えば、この領域を加熱するために、加熱手段が設けられる場合、液体の蒸発が引き起こされ、それによって、原則として無期限に維持されるシンクを作成する。液体の蒸発は、その装置中の望ましい位置、及び、その装置を採用する処理における望ましいタイミングで、流れのなかに存在する成分を収集することをも可能にするであろう。)

(5)第14頁8ないし11行
「Other suitable applications of flow path structures according to the invention is the measurements of the amount of an analyte in a biological sample, e.g. in blood, serum, plasma, urine, cerebral spinal fluid, tears, amniotic fluid, semen or saliva, the measurements preferably being based on specific biological interactions.」
(【0066】
本発明による流動路構造の他の適当な適用は、例えば、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、涙、羊水、精液、又は唾液等の、生物学的なサンプル中の検体の量の測定であり、その測定は、好ましくは、特定の生物学的な相互作用に基づく。)

(6)Fig.7(図7)




4 引用例2に記載された技術の認定

上記3(1)ないし(6)を含む引用例2全体の記載を総合すると、引用例2には、

「 毛細管クロマトグラフィーやフローセルバイオセンサーなどの応用分野で有益な微細流体構造であって、流動路が、基板から上方へ突出する複数の微細ポストで構成され、前記微細ポスト間の間隔は、液体サンプルが供給されたところから液体を移動させるように、前記液体サンプルが前記流動路のどこに供給されても、毛細管作用を引き起こすように設定されており、前記微細ポストの寸法と前記微細ポスト間の距離とが、液体の毛細管流動が維持されうるように選択されており、前記微細ポストは、幅と高さの比率が1:2を超える、高いアスペクト比を有するように設定されている微細流体構造。」

の技術(以下「引用例2技術」という。)が記載されている。


第5 本願発明と引用発明との対比

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「血液サンプル」、「被検物質」及び「赤血球」は、それぞれ本願発明の「液体サンプル」、「検体」及び「液体サンプル中の成分」に相当する。

(2)引用発明の「クロマトグラフィーアッセイデバイス」が、血液サンプル中の被検物質を検出する前に血液サンプル中の赤血球を分離する機能を有することは明らかであるから、引用発明の「クロマトグラフィーアッセイデバイス」は、本願発明の「液体サンプル中の検体の検出前に、液体サンプル中の成分を分離するための、装置」に相当する。

(3)引用発明の「クロマトグラフィー担体20」と、本願発明の「基板」とは、「基体」である点において共通する。

(4)引用発明の「血液サンプル添加部位30」は、本願発明の「サンプルを受け取るゾーン」に相当する。

(5)引用発明の「検出部位50」は、「被験物質の各々及び標識物質に特異的に結合する捕獲物質が固定されており」、「アッセイ処理が終了したことをコントロールバー60で示し、被検物質が存在することをテストバー70で示すもの」であるから、そこで「被験物質の各々及び標識物質」と「捕獲物質」とが何らかの反応により結合することは明らかである。
また、本願発明の「反応ゾーン」は、「任意の」ものであり、反応の種類及び反応に寄与する物質については特定されていない。
よって、引用発明の「検出部位50」は、本願発明の「反応ゾーン」に相当する。

(6)引用発明の「クロマトグラフィー担体20」は、「毛細流を支持し得る流体流通路を規定している」ものであり、引用発明の「検出部位50」は、「血液サンプル添加部位30に隣接して」「配置され」た「コンジュゲートパッド40」に対して「更に毛細管作用によって生じたサンプルの移動方向である下流」に「存在」するものであるから、引用発明において、「クロマトグラフィー担体20」における「血液サンプル添加部位30」と「検出部位50」との間の部分に「流体流通路」が形成されていることは明らかである。
よって、引用発明の「クロマトグラフィー担体20」における「血液サンプル添加部位30」と「検出部位50」との間の部分と、本願発明の「受け取りゾーンと反応ゾーンとを接続して基板上に流動路を形成する、輸送又は培養ゾーン」とは、「受け取りゾーンと反応ゾーンとを接続して基体に流動路を形成する、輸送ゾーン」である点において共通する。

(7)引用発明の「クロマトグラフィー担体20」が、「毛細流を支持し得る流体流通路を規定している」ものであり、「分析物または被験サンプル」を「毛細管作用によって」「搬送」するものであることと、本願発明の「流動路の少なくとも一部が、上記基板の表面に対して垂直な突起の領域から成っており、その突起が、上記ゾーン内の上記液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような、高さ(H)、直径(D)、及び相互間隔(t1、t2)を有して」いることとは、「流動路の少なくとも一部が、液体サンプルの毛細管流動が実現されるように構成されている」ことである点において共通する。

(8)引用発明の「赤血球分離剤即ちMerquat(登録商標)100」は、本願発明の「サンプル中の1つ以上の成分と相互作用することのできる化合物である」「分離手段」に相当する。

(9)引用例1の段落【0032】に「最も好ましくは、赤血球分離剤をサンプル添加部位で拡散的に結合させる。」と記載されており、引用発明において「血液サンプル添加部位30」以外の箇所に「赤血球分離剤即ちMerquat(登録商標)100」を設けることは特定されていないことから、引用発明において、「赤血球分離剤即ちMerquat(登録商標)100が前記血液サンプル添加部位30に配置され」ていることは、本願発明の「分離手段が、サンプルを受け取る」「ゾーン中にのみ、設けられて」いることと一致する。

2 一致点及び相違点

よって、本願発明と引用発明とは、

「 液体サンプル中の検体の検出前に、液体サンプル中の成分を分離するための、装置であって、その装置が、基体を有しており、その基体が、サンプルを受け取るゾーンと、任意の反応ゾーンと、受け取りゾーンと反応ゾーンとを接続して基体に流動路を形成する、輸送ゾーンと、を備えており、上記流動路の少なくとも一部が、上記液体サンプルの毛細管流動が実現されるように構成されており、分離手段が、サンプルを受け取るゾーン中にのみ、設けられており、上記分離手段が、上記サンプル中の1つ以上の成分と相互作用することのできる化合物であることを特徴とする装置。」

の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明は、基体が無孔性基板であり、輸送ゾーンが基板上に流動路を形成するものであって、上記流動路の少なくとも一部が、上記基板の表面に対して垂直な突起の領域から成っており、その突起が、上記輸送ゾーン内の液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような、高さ(H)、直径(D)、及び相互間隔(t1、t2)を有しているのに対し、引用発明は、基体がクロマトグラフィー担体20であって、毛細流を支持し得る流体流通路を規定しているものの、毛細流を実現するための構造については特定されていない点。


第6 当審の判断

1 上記相違点について検討する。

上記相違点に係る本願発明の発明特定事項と上記引用例2技術とを対比する。

(1)引用例2技術は、「基板から上方へ突出する複数の微細ポスト」で「流動路」を「構成」していることから、引用例2技術における「基板」は、液体サンプルが浸透しない無孔性の基板であると認められる。
よって、引用例2技術の「基板」は、本願発明の「無孔性基板」に相当する。

(2)引用例2技術の「流動路」が「構成され」ている領域は、液体サンプルを移動させる領域である意味において、本願発明の「輸送ゾーン」に相当する。
引用例2技術において、「流動路が、基板から上方へ突出する複数の微細ポストで構成され」ていることから、流動路が基板上に形成されていることは明らかである。
引用例2技術の「微細ポスト」は、本願発明の「突起」に相当する。
引用例2の図7を参酌するに、引用例2技術における複数の微細ポストは、基板の表面に対して垂直に突出しているといえる。
よって、引用例2技術において、「流動路が、基板から上方へ突出する複数の微細ポストで構成され」ていることは、本願発明において、「輸送ゾーン」が「基板上に流動路を形成する」ものであり、「上記流動路の少なくとも一部が、上記基板の表面に対して垂直な突起の領域から成って」いることに相当する。

(3)引用例2技術において、「微細ポストの寸法と前記微細ポスト間の距離とが、液体の毛細管流動が維持されうるように選択されており、前記微細ポストは、幅と高さの比率が1:2を超える、高いアスペクト比を有するように設定されている」ことから、ここでの毛細管流動は、「側方毛細管流動」であるといえる。
よって、引用例2技術において、「微細ポストの寸法と前記微細ポスト間の距離とが、液体の毛細管流動が維持されうるように選択されており、前記微細ポストは、幅と高さの比率が1:2を超える、高いアスペクト比を有するように設定されている」ことは、本願発明において、「突起が、上記輸送ゾーン内の液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような、高さ(H)、直径(D)、及び相互間隔(t1、t2)を有している」ことに相当する。

上記(1)ないし(3)から、引用例2技術は、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を備えているものである。

引用発明と引用例2技術とは、いずれも毛細管流動を用いたクロマトグラフィーとして共通する技術分野に関するものである。
また、引用発明は血液サンプル中の被検物質を検出するためのものであり、引用例2には、引用例2技術を適用する対象として、血液中の検体量の測定が適していることも記載されている(上記第4の摘記事項3(5)参照。)。
そして、装置の改良のために、共通する技術分野で使用されている異なる手段の採用を試みることは、普通に行われていることである。
してみると、引用発明において、クロマトグラフィー担体20に引用例2技術を採用し、クロマトグラフィー担体20を無孔性の基板とするとともに、流体流通路を基板から上方へ突出する複数の微細ポストで構成し、前記微細ポストの寸法と前記微細ポスト間の距離とが、液体の毛細管流動が維持されうるように選択し、前記微細ポストの幅と高さの比率が、1:2を超える高いアスペクト比を有するように設定して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうることである。

2 本願発明の奏する作用効果

本願発明によってもたらされる効果は、引用例1及び引用例2の記載事項から当業者が予測し得る程度のものである。

3 まとめ

以上のとおりであり、本願発明は、引用発明、引用例2技術、並びに、引用例1及び引用例2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


なお、請求人は、平成27年11月26日付けで意見書において、「引用例2は、無孔性基板のみを開示または示唆するものではありません。たとえば、引用例2の第11頁第7-10行および図9には、吸水性材料が流れを駆動するのに使用できることが開示されています。すなわち、図9のパッド10は、第11頁第7行に記載されているように吸水性の材料からできています。このように、引用例2の全てのデバイスが必ずしも無孔性であるわけではありません。従って、引用例2を参照した当業者ならば「基板を必ず無孔性にするデバイス」に想到することになると言うことはできません。実際、引用例2の第11頁第7-10行および図9は、全体が無孔性であるべきという考えとは逆方向にある技術思想と言えます。」と主張しているが、引用例2のパッド10は、基板上に設けられるものであって、基板を構成するものではないから、上記請求人の主張は引用例2の記載を正解していないことに基づくものであって、失当である。

また、本願発明の発明特定事項とは関係しないことではあるが、引用例2のパッド10はフローシンクを構成するものであるところ、引用例2には、パッド10のような吸水性材料を用いずにフローシンクを構成することも記載されており(上記第4の摘記事項3(4)参照。)、引用例2が開示する内容は、フローシンクを吸水性材料で構成することを必須の要件とするものではない。

さらに、本願発明は、吸水性材料で構成されたフローシンクを設けることを排除するものではないし、流動路についても、少なくとも一部が突起の領域からなることが特定されているに止まり、流動路の一部を吸水性材料で構成することを排除するものではないから、上記請求人の主張は、本願発明の発明特定事項に基づいたものではない。


第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-21 
結審通知日 2015-12-22 
審決日 2016-01-05 
出願番号 特願2011-264439(P2011-264439)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫃本 研太郎吉田 将志  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 渡戸 正義
▲高▼橋 祐介
発明の名称 アッセイ装置及び方法  
代理人 加藤 公延  

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