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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C |
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管理番号 | 1315010 |
審判番号 | 不服2015-2772 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-02-13 |
確定日 | 2016-05-18 |
事件の表示 | 特願2011-525039「耐侵食衝撃性被膜」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月22日国際公開、WO2010/044936、平成24年 1月19日国内公表、特表2012-501386〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2009年7月20日(優先権主張外国庁受理 2008年8月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月10日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月14日付けで意見書および手続補正書が提出され、同年10月9日付けで拒絶査定され、これに対して平成27年2月13日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願発明について 本願の請求項1に係る発明は、平成26年3月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された下記の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 粒子の衝突を受けやすい表面の耐侵食衝撃性セラミック被膜において、柱状及び/又は緻密微細構造を有し、100マイクロメートルまでの被膜総厚を有し且つTiAlNの層の間にCrNの層が挟まれ、被膜総厚が少なくとも3マイクロメートルになるように各層が0.2から1.0マイクロメートルの厚さを有する複数のCrN及びTiAlNの層より成る組成を有するように物理気相成長処理により堆積された耐侵食衝撃性被膜。」(以下、「本願発明1」という。) 3.引用例に記載された発明 (1)引用例1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願優先日前に頒布された国際公開第2007/83361号(以下、「引用例1」という。)には、「耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜および回転機械」(発明の名称)につき、次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 基材表層に形成した窒化硬質層と、同窒化硬化層の上に物理蒸着法により形成した1層以上の物理蒸着硬質層とを有し、前記窒化硬質層の厚さが30μm以上、且つ前記物理蒸着硬質膜の厚さが総厚として10μm以上であることを特徴とする耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜。 ・・・ 【請求項7】 請求項1に記載の耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜において、前記物理蒸着硬質層が、前記窒化硬質層上に交互に多層化して形成したCrN層とTiAlN層であることを特徴とする耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜。」 (イ)「【0043】 図8は本発明の実施例8に係る耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜108の断面説明図である。本実施例の耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜108は、基材3上に実施例1で説明したと同様に窒化硬質層2を形成し、その上に物理蒸着法によりCrN層11とTiAlN層12を交互に多層化して形成し物理蒸着硬質層1としたものである。物理蒸着硬質層1の各層の厚さは広範囲に設定することが可能であり、例えば、10?100nmが挙げられ、総厚としては実施例1と同様に10μm以上、好ましくは20μm以上である。」 (ウ)「【0058】 [比較試験結果 1] 30mm×60mm×5mm厚さのSUS410J1基材を用い、この表面に以下の方法でラジカル窒化法による窒化硬質層、および物理蒸着硬質層を成膜した。この試験片を用い、平均粒子径326μmのコニカル珪砂を速度100m/s、衝突角度30、60、90°(deg.)で試験片表面に吹き付けるサンドエロージョン試験を室温で実施した。」 (エ)「【0065】 【表1】 」 (オ)「【0053】 したがって、上記各実施例の物理蒸着硬質層1を形成する窒化物セラミックス、すなわち、CrN、TiAlN、AlCrN、およびTiNは、上記硬さの条件を満足し、高温安定性(500℃での耐酸化性)と靭性が他のセラミックスに比べ優れている点で、上記実施形態の耐固体粒子エロージョン皮膜101?112を構成する物理蒸着硬質層1をなす材質としては最適である。」 (カ)「【0076】 以上のように、本発明の各実施例の耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜によれば、基材上に、30μm以上の厚さの窒化硬質層とその上層に10μm以上の厚さの物理蒸着硬質層を設けることによって、固体粒子の衝突に対し極めて高い抵抗力が得られ、これを被覆した部材の耐エロージョン性が格段に向上し長寿命化が達成できる。また、それに加えて、耐高温酸化性および疲労特性も良好な耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜となる。また、蒸気タービンの、蒸気と接して固体粒子が衝突する部位の表面に適用すれば、耐エロージョン性、耐高温酸化性および疲労特性の高い長寿命化を達成できる蒸気タービンが得られる。さらに、軸流圧縮機などの回転機械の部位に適用することにより製品の長寿命化が達成される。」 (キ)【図8】 (2)引用例1に記載された発明 記載事項(ア)(エ)によれば、引用例1には、15μmの総厚を有し且つTiAlNの層の間にCrNの層が挟まれ、各層が100nmの厚さを有する複数のCrN及びTiAlNの層より成る組成を有するように形成された耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜が記載されている(記載事項(エ)の表1の実施例8等参照。)。 ここで記載事項(イ)(キ)によれば、引用例1には、CrN及びTiAlNの層は物理蒸着法により交互に多層化して形成された物理蒸着硬質層が記載されており、記載事項(オ)によれば、該物理蒸着硬質層のCrN及びTiAlNは窒化物セラミックスであり、記載事項(カ)によれば、耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜は、固体粒子が衝突する部位の表面に適用されるものである。 したがって、引用例1の実施例8には、 「固体粒子が衝突する部位の表面に適用される、耐固体粒子エロージョン性表面処理窒化物セラミックス皮膜において、15μmの総厚を有し、各層が100nmの厚さを有する複数のCrN及びTiAlNの層より成る組成を有するように、物理蒸着法により交互に多層化して形成された耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜。」が記載されている(以下「引用発明1」という)。 4.対比・判断 (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「固体粒子が衝突する部位の表面」、「窒化物セラミックス皮膜」は、本願発明1の「粒子の衝突を受けやすい表面」、「セラミック被膜」に相当する。 引用発明1の「物理蒸着法により」「形成された」は、本願発明1の「物理気相成長処理により」「堆積された」に相当する。 引用発明1の「耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜」の総厚は15μmであるから、本願発明1の「被膜総厚」の範囲である「100マイクロメートルまで」及び「少なくとも3マイクロメートル」の条件を満たしており、また、引用発明1の「TiAlNの層」及び「CrNの層」の各層は、100nmの厚さで交互に多層化して形成され、(15μm/(100nm+100nm)=75)であるから、「TiAlNの層」及び「CrNの層」は、それぞれ75層ずつ存在し、「TiAlNの層」の間には、「CrNの層」が挟まれているといえる。 したがって、本願発明1と引用発明1とは、 「粒子の衝突を受けやすい表面のセラミック被膜において、100マイクロメートルまでの被膜総厚を有し且つTiAlNの層の間にCrNの層が挟まれ、被膜総厚が少なくとも3マイクロメートルになる複数のCrN及びTiAlNの層より成る組成を有するように物理気相成長処理により堆積された被膜。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 本願発明1の被膜が、「耐侵食衝撃性被膜」であり、「侵食」及び「衝撃」の両方に対して耐性がある「セラミック被膜」であるのに対し、引用例1の皮膜は、「耐固体粒子エロージョン性表面処理皮膜」であって、「耐侵食衝撃性」であるか不明である点。 (相違点2) 本願発明1の被膜が、柱状及び/又は緻密微細構造を有しているのに対し、引用発明1の皮膜は、どのような構造を有しているか不明である点。 (相違点3) TiAlNの層及びCrNの層の各層の厚さが、本願発明1では、0.2から1.0マイクロメートルであるのに対し、引用発明1では、100nmである点。 (2)判断 (相違点1)について 本願の発明の詳細な説明の段落【0003】の記載によれば、「衝撃損傷」は、「エーロフォイルの加圧側(凹)面」に対し、粒子が「浅い角度」、すなわち「正面衝突」又は「それに近い角度での衝突」することなどによって生じるものであり、「侵食損傷」は、「エーロフォイルの加圧側」を「かすめる粒子」又は「斜めに衝突する粒子」などによって生じるものであり、段落【0025】の記載によれば、「侵食損傷」は、「約30°の入射角」で粒子を入射させて測定していると認められる。 一方、引用例1の記載事項(ウ)(エ)によれば、サンドエロージョン試験結果における実施例8のものが、比較例や従来例のものと比べて、衝突角度30、60、90°(deg.)での耐エロージョン性倍数の値が高いものであることからみて、引用発明1の皮膜は、本願発明1の「正面衝突」に相当する衝突角90°(deg.)においても、「侵食損傷」に相当する衝突角30°(deg.)においても、「耐エロージョン性」を示しているから、「侵食」及び「衝撃」の両方に対して耐性がある「耐侵食衝撃性被膜」であるといえる。 よって、(相違点1)は、本願発明1と引用発明1との相違点として実質的なものでない。 (相違点2)について 引用例1には、引用発明1の皮膜がどのような構造を有しているか明記されていないが、本願発明1の「物理気相成長処理」と同じ「物理蒸着法」により堆積されたものであり、耐エロージョン性のものであることからみて、本願発明1と同様に、「柱状及び/又は緻密微細構造」を有しているといえる。 よって、(相違点2)は、本願発明1と引用発明1との相違点として実質的なものでない。 (相違点3)について 引用例1の記載事項(イ)によれば、引用発明1の「TiAlN」、「CrN」からなる「物理蒸着硬質層」の各層の厚さは「広範囲に設定することが可能」であり、その例示として「10?100nm」が挙げられており、また、記載事項(オ)によれば、「TiAlN」、「CrN」を用いることにより、引用発明1の耐固体粒子エロージョン皮膜は、「靭性」が高まっているといえる。 そして、「少なくとも3マイクロメートル」で「100マイクロメートルまで」の総厚を有し、物理気相成長処理により堆積される被膜の「TiAlNの層」、「CrNの層」の各層を、0.2?1.0マイクロメートルの厚さを有するものとする際に、「靭性」に優れた被膜が得られることは周知技術である(必要であれば特開2002-275618号公報の段落【0003】、【0013】、【0021】、【0040】及び図4等参照。)。 したがって、引用発明1においても、「TiAlNの層の間にCrNの層が挟まれ」た被膜における、「TiAlNの層」、「CrNの層」の各層の厚さを、高い靭性の得られる0.2?1.0マイクロメートルの厚さとすることは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明1の作用効果が、引用例1及び周知技術から予測し得ないような格別顕著なものとも認められないから、本願発明1は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-21 |
結審通知日 | 2015-12-22 |
審決日 | 2016-01-05 |
出願番号 | 特願2011-525039(P2011-525039) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 浅野 裕之 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
萩原 周治 新居田 知生 |
発明の名称 | 耐侵食衝撃性被膜 |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 黒川 俊久 |
代理人 | 田中 拓人 |