ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B64D |
---|---|
管理番号 | 1315242 |
審判番号 | 不服2014-16517 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-08-21 |
確定日 | 2016-06-01 |
事件の表示 | 特願2006-343852「フィードバックおよびフィードフォワード制御による航空機エンジンマウントの振動の能動的打ち消しおよび隔離のためのエンジンマウント振動制御システム及び振動制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年7月5日出願公開、特開2007-168785〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯・本願発明 本願は、平成18年12月21日(パリ条約による優先権主張2005年12月21日、米国)の出願であって、平成26年4月15日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年4月22日)、これに対し、平成26年8月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成27年3月24日付けで拒絶理由が通知され(以下「当審拒絶理由」という。)、平成27年9月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 そして、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成27年9月29日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 エンジン(34)をエンジン支持構造物(32)と結合する少なくとも1つのエンジンマウント(30)と、 前記少なくとも1つのエンジンマウント(30)の周辺に位置して又は該エンジンマウントの内部に埋め込まれて、前記エンジン(34)および前記支持構造物(32)のうちの少なくとも一方にアクチュエーション力を与える少なくとも1つの能動振動素子(36)と、 前記エンジン(34)に取り付けられて、前記エンジン(34)における振動を検出する少なくとも1つの第1の振動センサ(40)と、 前記支持構造物(32)に取り付けられて、前記支持構造物(32)における振動を検出する少なくとも1つの第2の振動センサ(42)と、 前記少なくとも1つの第1の振動センサ(40)からのフィードフォワード信号及び前記少なくとも1つの第2の振動センサ(42)からのフィードバック信号を受け取り、前記少なくとも1つの第1及び第2の振動センサ(40/42)から受け取った前記信号に基づいて前記少なくとも1つの能動振動素子(36)を制御するコントローラ(38)と を備え、 前記コントローラ(38)が、フィードバック及びフィードフォワード制御を用いて前記アクチュエーション力の制御パラメータを調節する ことを特徴とする、エンジンマウント振動制御システム。」 第2 刊行物 これに対して、当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平8-142996号公報(以下「刊行物」という。)には、「エンジン振動絶縁装置」に関して、図面(特に、図1及び図3参照。)とともに、次の事項が記載されている。 1 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、航空機エンジンで発生する振動的な力が機体に伝わるのを妨げるエンジン振動絶縁装置に関する。 【0002】 【従来の技術】航空機に搭載され、推進力を発生するエンジンは、その駆動に伴い、振動的な力(振動)が発生し、エンジンを機体に支持する支持構造を介して、航空機機体に伝達され、機体を振動させる。特に、プロペラ機においては、エンジンの発生する振動が大きく、このために生じる機体振動は、乗務員、又は乗客に不快感を与えるばかりでなく、機体損傷の一因ともなっている。 【0003】このため、従来航空機に搭載されるエンジンでは、図3(A)に示すように、エンジン01を、図示省略した機体に連結し、支持する、エンジン支持構造材02と、エンジン01の外周に設けられたフランジとの間に架け渡され、エンジン01を支持するようにしたストラット03の結合部に、図3(B)に示すように防振ゴム04を挟み込み、この防振ゴム04の弾性によりエンジン01から伝達される振動を吸収して、エンジン07からの振動が支持構造材02を介して機体に伝達されるのを防止して、機体に発生する振動を低減している。」 2 「【0016】 【実施例】以下、本発明のエンジン振動絶縁装置の実施例を、図面にもとづき説明する。 【0017】図1は、本発明のエンジン振動絶縁装置の一実施例を示す図で、図1(A)はエンジン全体を示す斜視図、図1(B)は図1(A)に示すA部詳細図である。 【0018】図に示すように、エンジン1とエンジン支持構造物2に両端が連結され、エンジン1を支持するストラット3の途中の一部を、一定の剛性を具えたコイルバネ4、および油圧アクチュエータ5で置き換えた。 【0019】すなわち、コイルバネ4と油圧アクチュエータ5は、軸心を同じくして連結され、エンジン1に発生する振動方向を予測して配設された多数のストラット3の途中に介装されている。 【0020】これにより、エンジン1で発生した振動は、ストラット3を通って、コイルバネ4とストラット3との連結点まで伝達されるが、全んどの周波数域の振動は、コイルバネ4により完全に絶縁され、油圧アクチュエータ5、およびこれに連結されたストラット3には伝達されない。 【0021】また、コイルバネ4が共振する低周波数域の振動の伝達によって、コイルバネ4に発生する低周波数域での振動は、次のようにして、絶縁される。 【0022】(1)エンジン1に装着された加速度計6で、コイルバネ4の振動によりエンジン1に生じている振動の振動数、大きさ、および方向を検出する。 【0023】(2)加速度計6からのエンジン1に発生している振動の信号をコントローラ7に入力し、これにもとづき、エンジンからの振動に共振している、コイルバネの振動を低減させる作動をさせる作動信号を、油圧アクチュエータに出力する。 【0024】(3)油圧アクチュエータ5は、コントローラから入力された作動信号により、コイルバネ4に発生している振動、すなわち、エンジン1に生じている振動を低減させる周波数、大きさ、および方向の作動を行う。 【0025】このように、コイルバネ4による低周波数域の共振は、油圧アクチュエータ5により、アクティブに制御され、全周波数域のエンジン1からの振動を絶縁させることができる。 【0026】なお、本実施例では、コイルバネ4、および油圧アクチュエータ5をストラット3の途中に介装した例を示したが、これらのコイルバネ4、および油圧アクチュエータ5は、ストラット3とエンジン1の連結部、若しくはストラット3と支持構造2の連結部等に設けるようにしても良いものである。」 3 「【0030】 【発明の効果】以上述べたように、本発明のエンジン振動絶縁装置によれば、特許請求の範囲に示す構成により、エンジンで発生する、全んどの周波数域の振動的な力は、コイルバネにより完全に絶縁され、また、コイルバネによる低周波域の共振は、加速度計からの検出信号を入力した、コントローラからのアクティブ制御信号により作動する、油圧アクチュエータによりアクティブ制御され、これにより、エンジンで発生する全周波数域の振動は効果的に絶縁され、防振性能が発揮され機体に発生する振動を低減することができ、機体振動に伴う種々の不具合を解消できる。」 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「エンジン1をエンジン支持構造物2と連結するストラット3、コイルバネ4及び油圧アクチュエータ5と、 前記ストラット3の途中に介装されて、前記コイルバネ4の振動を低減させる作動を行う前記油圧アクチュエータ5と、 前記エンジン1に装着されて、前記エンジン1に生じている振動の振動数、大きさ、および方向を検出する加速度計6と、 前記加速度計6からの信号が入力され、前記加速度計6から入力された前記信号にもとづいて前記油圧アクチュエータ5を制御するコントローラ7と を備え、 前記コントローラ7が、前記エンジン1からの振動に共振している、前記コイルバネ4の振動を低減させる作動信号を出力して、前記油圧アクチュエータ5を作動させる エンジン振動絶縁装置。」 第3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 後者の「エンジン1」は前者の「エンジン(34)」に相当し、以下同様に、 「エンジン支持構造物2」は「エンジン支持構造物(32)」に、 「ストラット3、コイルバネ4及び油圧アクチュエータ5」は「エンジンマウント(30)」に、 「前記ストラット3の途中に介装され」ることは「エンジンマウントの内部に埋め込まれ」ることに、 油圧アクチュエータ5の作動により、エンジン1及び支持構造物2のうちの少なくとも一方に該作動に伴う力がストラット3を介して及ぼされ、「コイルバネ4による低周波数域の共振は、油圧アクチュエータ5により、アクティブに制御され」(段落【0025】)るから、「コイルバネ4の振動を低減させる作動を行う」「油圧アクチュエータ5」は「前記エンジン(34)および前記支持構造物(32)のうちの少なくとも一方にアクチュエーション力を与える」「能動振動素子(36)」に、 「エンジン1に装着され」ることは「エンジン(34)に取り付けられ」ることに、 「加速度計6」はエンジン1に装着されているから「第1の振動センサ(40)」に、 「エンジン1に生じている振動の振動数、大きさ、および方向を検出する加速度計6」は「エンジン(34)における振動を検出する」「第1の振動センサ(40)」に、 「コントローラ7」は「コントローラ(38)」に、 「エンジン振動絶縁装置」は「エンジンマウント振動制御システム」にそれぞれ相当する。 また、エンジン1の振動はエンジン振動絶縁装置に対する外乱であり、当該エンジン1の振動を検出する加速度計6からの信号により油圧アクチュエータ5を制御することはフィードフォワード制御であるから、後者の加速度計6からの「信号」は前者の「フィードフォワード信号」に相当し、以下同様に、 「加速度計6からの信号が入力され」ることは「第1の振動センサからのフィードフォワード信号を受け取」ることに、 「前記エンジン1からの振動に共振している、前記コイルバネ4の振動を低減させる作動信号を出力して、前記油圧アクチュエータ5を作動させる」ことは「フィードフォワード制御を用いて前記アクチュエーション力の制御パラメータを調節する」ことにそれぞれ相当する。 したがって両者は、 「エンジンをエンジン支持構造物と結合する少なくとも1つのエンジンマウントと、 該エンジンマウントの内部に埋め込まれて、前記エンジンおよび前記支持構造物のうちの少なくとも一方にアクチュエーション力を与える少なくとも1つの能動振動素子と、 前記エンジンに取り付けられて、前記エンジンにおける振動を検出する少なくとも1つの第1の振動センサと、 前記少なくとも1つの第1の振動センサからのフィードフォワード信号を受け取り、前記少なくとも1つの第1の振動センサから受け取った前記信号に基づいて前記少なくとも1つの能動振動素子を制御するコントローラと を備え、 前記コントローラが、フィードフォワード制御を用いて前記アクチュエーション力の制御パラメータを調節する エンジンマウント振動制御システム。」 で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本願発明は、第1の振動センサ(40)と、「前記支持構造物(32)に取り付けられて、前記支持構造物(32)における振動を検出する少なくとも1つの第2の振動センサ(42)」と、前記第1の振動センサ(40)からのフィードフォワード信号「及び前記少なくとも1つの第2の振動センサ(42)からのフィードバック信号」を受け取り、前記第1「及び第2の振動センサ(40/42)から受け取った前記信号に基づいて前記少なくとも1つの能動振動素子(36)を制御するコントローラ(38)」とを備え、前記コントローラ(38)が、「フィードバック及び」フィードフォワード制御を用いてアクチュエーション力の制御パラメータを調節するのに対し、 引用発明は、加速度計6と、前記加速度計6からの信号が入力され、前記加速度計6から入力された前記信号にもとづいて前記油圧アクチュエータ5を制御するコントローラ7とを備え、前記コントローラ7が、前記エンジン1からの振動に共振している、前記コイルバネ4の振動を低減させる作動信号を出力して、前記油圧アクチュエータ5を作動させる点。 第4 当審の判断 そこで、相違点について検討する。 1 相違点について 振動源と対象物とがマウントで結合されたものにおいて、前記振動源と前記対象物のうちの少なくとも一方にアクチュエーション力を与える能動振動素子を、前記振動源の振動を検出する第1の振動センサからのフィードフォワード信号及び前記対象物の振動を検出する第2の振動センサからのフィードバック信号により制御して、対象物の振動を低減することは周知である(例えば、特開平8-326834号公報の段落【0001】及び【0028】ないし【0031】並びに図1、特開2002-128396号公報の段落【0001】、【0014】ないし【0018】及び【0021】並びに図1、図5及び図6を参照。以下「周知技術」という。)。 そして、引用発明における「油圧アクチュエータ5」と周知技術における「能動振動素子」とは、振動源の振動を検出して、フィードフォワード制御を用いてアクチュエーション力の制御パラメータを調節することで、対象物の振動を低減する点で共通する。 また、引用発明のエンジン支持構造物2が周知技術の対象物に該当しない事由は確認できない。 そうすると、引用発明において周知技術を適用して、第1の振動センサ(40)と、「前記支持構造物(32)に取り付けられて、前記支持構造物(32)における振動を検出する少なくとも1つの第2の振動センサ(42)」と、前記第1の振動センサ(40)からのフィードフォワード信号「及び前記少なくとも1つの第2の振動センサ(42)からのフィードバック信号」を受け取り、前記第1「及び第2の振動センサ(40/42)から受け取った前記信号に基づいて少なくとも1つの能動振動素子(36)を制御するコントローラ(38)」とを備え、前記コントローラ(38)が、「フィードバック及び」フィードフォワード制御を用いてアクチュエーション力の制御パラメータを調節するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 2 効果について 本願発明が奏する効果は、全体としてみて、引用発明及び周知技術から、当業者が容易に予測できる範囲内のものであって、格別なものではない。 3 まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-25 |
結審通知日 | 2016-01-05 |
審決日 | 2016-01-19 |
出願番号 | 特願2006-343852(P2006-343852) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B64D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 谷口 耕之助 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
大内 俊彦 冨岡 和人 |
発明の名称 | フィードバックおよびフィードフォワード制御による航空機エンジンマウントの振動の能動的打ち消しおよび隔離のためのエンジンマウント振動制御システム及び振動制御方法 |
代理人 | 田中 拓人 |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 黒川 俊久 |