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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1315244 |
審判番号 | 不服2014-18279 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-12 |
確定日 | 2016-06-01 |
事件の表示 | 特願2011-515322「ボディケア製品及び家庭用品の安定化」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月30日国際公開、WO2009/156340、平成23年10月 6日国内公表、特表2011-526278〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年6月19日(パリ条約による優先権主張 2008年6月27日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、 平成25年5月24日付けで拒絶理由通知が通知され、同年8月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年5月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?12に係る発明は、平成25年8月27日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項4に係る発明は、以下のとおりのものである。 「【請求項4】 R_(1)及びR_(2)が水素であり、 R_(3)及びR_(4)がtert-オクチルであり、かつ R_(5)がメチルである、 請求項1?3のいずれか1項に記載の使用。」 ここで、請求項4に係る発明が引用する請求項1の記載は、次のとおりある。 「【請求項1】 式 【化1】 [式中、 R_(1)及びR_(2)はそれぞれ互いに独立して水素;又はC_(1)?C_(8)アルキルであり; R_(3)及びR_(4)はそれぞれ互いに独立してC_(1)?C_(12)アルキルであり;かつ R_(5)はC_(1)?C_(7)アルキルである] の安定剤の、スキンケア製品、浴室及びシャワー用添加剤、香料及び香気物質を含む調製品、ヘアケア製品、歯磨剤、脱臭剤及び制汗剤、化粧用調製品、光防護用配合物より選択されるボディケア製品並びに家庭用清浄剤及び処理剤より選択される家庭用品を光分解及び酸化的分解から保護するための使用。」 そうすると、請求項1を引用する場合の請求項4を書き下したものは、次のとおりとなる。 「式 【化1】 [式中、 R_(1)及びR_(2)が水素であり、 R_(3)及びR_(4)がtert-オクチルであり、かつ R_(5)がメチルである] の安定剤の、スキンケア製品、浴室及びシャワー用添加剤、香料及び香気物質を含む調製品、ヘアケア製品、歯磨剤、脱臭剤及び制汗剤、化粧用調製品、光防護用配合物より選択されるボディケア製品並びに家庭用清浄剤及び処理剤より選択される家庭用品を光分解及び酸化的分解から保護するための使用。」 以下、これを「本願発明」といい、R_(1)?R_(5)が請求項4のとおり特定される式(1)の化合物を「本願発明の化合物」という。 第3 刊行物の記載事項 1 原審における拒絶の理由に引用文献1として引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特表2002-528476号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。) (1ア)「【請求項1】 (a_(1))式(1)及び/又は(2): 【化1】(省略) のフェノール性酸化防止剤及び/又は (a_(2))式(3): 【化2】 の酸化防止剤の、ボディケア及び家庭用製品を安定化させるための使用: (式(1)、(2)及び(3)中、 R_(1)は、水素、C_(1)?C_(22)アルキル、C_(1)?C_(22)アルキルチオ、C_(5)?C_(7)シクロアルキル、フェニル、C_(7)?C_(9)フェニルアルキル又はSO_(3)Mであり、 R_(2)は、C_(1)?C_(22)アルキル、C_(5)?C_(7)シクロアルキル、フェニル又はC_(7)?C_(9)フェニルアルキルであり、 …… aは、0、1又は2であり、 …… R_(4)及びR_(5)は、互いに独立して、水素又はC_(1)?C_(22)アルキルである)。 …… 【請求項7】 aが1である、請求項1、5又は6記載の使用。 …… 【請求項15】 式(1)、(2)及び(3)のフェノール性酸化防止剤を、個々の化合物又はいくつかの個々の化合物の混合物として使用することを含む、請求項1?14のいずれか1項記載の使用。 …… 【請求項22】 皮膚及びその付属器のためのボディケア製品における、請求項1記載のフェノール性酸化防止剤の使用。 【請求項23】 ボディケア製品が、スキンケア製品、入浴及びシャワー添加物、香気及び芳香物質を含む製剤、ヘアケア製品、歯磨き、脱臭及び発汗抑制剤、装飾剤、光保護剤及び活性成分を含む製剤から選択される、請求項22記載の使用。 …… 【請求項29】 家庭用洗浄及びトリートメント剤における、請求項1記載のフェノール性酸化防止剤の使用。」 (1イ)「【0001】 本発明は、ボディケア及び家庭用製品を安定化するためのフェノール酸化防止剤の使用に関する。 【0002】 油脂に基づく天然物質を化粧剤及び家庭用製品にますます使用する近年の製品動向は、油脂を酸化崩壊させて悪臭を発生させる問題をも増大させる。天然の油又は不飽和脂肪酸は、エマルションから分離していることはほとんどない。酸化変化は、ときには、反応性代謝産物、たとえばケトン、アルデヒド、酸、エポキシド及びリポペルオキシドを生成することもある。 【0003】 その結果、一方では、製品の匂いに望ましくない変化が起こり、他方では、皮膚の耐性を変化させるかもしれない物質が得られることがある。皮膚におけるフリーラジカルの制御されない形成は、主として、多数の病理物理学的変調、たとえば炎症、発ガンなどの開始及び進行に寄与する。 【0004】 しかし、酸化崩壊プロセスは、油脂に基づく天然物質の場合だけに見られるものではない。多数の他の化粧成分、たとえば香気及び臭気物質、ビタミン、着色剤などにも見られる。 【0005】 したがって、酸化崩壊プロセス(光酸化、自家酸化)を防ぐために、いわゆる酸化防止剤(AO)が化粧品及び食品に使用されている。これらの酸化防止剤は、酸化を防ぐ化合物(錯形成剤、還元剤など)と、フリーラジカル連鎖反応を妨害する化合物、たとえばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸エステル、たとえば没食子酸プロピル(PG)又はtert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)とに分類することができる。しかし、後者の化合物は、しばしば、pH安定性ならびに光及び温度安定性に関する要件を満たさない。 【0006】 驚くべきことに、特定のフェノール酸化防止剤がこれらの要件を満たすことがわかった。」 (1ウ)「【0060】 本発明にしたがって使用される酸化防止剤の例を表1に掲載する。 【0061】 【表1】 …… 【0067】 式(1)、(2)及び(3)のフェノール酸化防止剤は、個々の化合物として使用することもできるし、いくつかの個々の化合物の混合物として使用することができる。」 (1エ)「【0135】 式(1)、(2)及び(3)の酸化防止剤ならびにこれらの化合物と光安定剤又は錯形成剤との混合物は、特にスキンケア製品、入浴及びシャワー添加物、香気及び臭気物質を含む製剤、ヘアケア製品、歯磨き、脱臭及び発汗抑制剤、装飾製剤、光保護剤及び活性成分を含む製剤に使用されるボディケア製品を安定化するのに特に適している。 …… 【0140】 適当な装飾剤は、特に、リップスティック、ネイルワニス、アイシャドー、マスカラ、ドライ及びモイストメイクアップ、ルージュ、パウダー、脱毛剤及び日焼けローションである。」 (1オ)「【0153】 フェノール酸化防止剤はまた、家庭用洗浄及びトリートメント剤、たとえば液状磨き剤、ガラス洗浄剤、中性洗浄剤(万能洗浄剤)、酸性家庭用洗浄剤(浴槽)、WC洗浄剤、好ましくは洗浄、すすぎ及び食器洗浄剤、クリアすすぎ剤、食器洗浄剤、靴磨き剤、磨きワックス、床用洗浄剤及び磨き剤、金属、ガラス及びセラミック洗浄剤、繊維手入れ剤、錆、色及びしみを落とすための薬剤(染み抜き塩)、家具及び多目的磨き剤ならびに皮革なめし剤(レザースプレー)に使用される。」 上記(1ア)、(1イ)によれば、刊行物1は、ボディケア及び家庭用製品の安定化に関するものであり、刊行物1には、式(1)、(2)及び(3)のフェノール酸化防止剤を個々の化合物として使用してボディケア及び家庭用製品を安定化することが記載され、上記(1ウ)の【表1】には、使用される酸化防止剤の例として、式(9)の化合物が記載されている。そうすると、刊行物1には、個々の化合物の1つである式(9)の化合物を酸化防止剤として使用することによりボディケア及び家庭用製品を安定化することが記載されているといえる。 ここで式(9)の化合物は、以下のとおりである。 (9) してみると、刊行物1には、 「式(9) の酸化防止剤の、ボディケア及び家庭用製品を安定化させるための使用。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 2 また、同じく、原審における拒絶の理由に引用文献2として引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開2003-176417号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 (2ア)「【0001】本発明は、酸化、熱又は光により誘発される分解をうけやすい合成ポリマー、特にポリオレフィン、ポリエーテルポリオール又はポリウレタン及び安定剤としてベンゾフラン-2-オン型の化合物の特異な群を含む組成物に関する。」 (2イ)「【0122】実施例2:ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)の調製並びにその安定化。 アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフトポリマー[……]833g、スチレン-アクリロニトリルコポリマー[……]1667g、N,N'-エチレンジ(ステアロアミド)26.25g、イルガノックス1076[……n-オクタデシル3-[3,5-ジ-第三-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート,ポリマーに基づいて0.057%]1.496g、イルガフォス168[……トリス-(2,4-ジ-第三-ブチルフェニル)ホスフィット、ポリマーに基づいて0.113%]2.993g、及び表2に従った安定剤(ポリマーに基づいて0.030%)0.788gを一緒にタンブルバレルミキサー上で15時間混合した。その結果生じたドライ-ブレンドを次に二軸-スクリュー-押出し機(……)上で混合し、そして80℃において3時間乾燥した後、67×64×2mmの寸法の自然のABSプラークを得るためにエンゲルHL65射出成形機上で240℃において射出成形した(……)。 【0123】これらABSプラークの初めの色を測定し、その後、アトラスCi65 ウェザー-O-メーター中の促進曝露に以下の条件で1000時間曝露した。;340nmにおいて0.35W/m^(2)照射;硼珪酸内部及び外部フィルター;ブラックパネル温度:63℃;暗相なし;60%相対湿度及びドライサイクル(雨なし)。その黄色度指数(YI)をDIN6167に従って決定した。低い黄色度指数(YI)の値は試料の少しの着色を意味し、高い黄色度指数(YI)の値は、多くの着色を意味する。着色がより少ないものが、より効果的な安定剤である。その結果を表2にまとめる。 【表2】 黄色度指数(YI)の1単位の差は、当業者により明確な関連としてみなされ得る。 【0124】a)比較例 b)本発明に従った例 …… e)化合物(101)は、約85重量部の式Vaの化合物及び約15重量部の式Vbの化合物の混合物である。 【化4】 f)本発明に従った化合物(102)は、式I' 【化5】 で表される化合物である。」 第4 対比 1 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 「ボディケア製品」並びに「家庭用品」について 刊行物1の(1エ)、(1オ)によれば、引用発明の「ボディケア製品」には「スキンケア製品、入浴及びシャワー添加物、香気及び臭気物質を含む製剤、ヘアケア製品、歯磨き、脱臭及び発汗抑制剤、装飾製剤、光保護剤及び活性成分を含む製剤に使用されるボディケア製品」が含まれ、そのうちの「装飾製剤」とは「リップスティック、ネイルワニス、アイシャドー、マスカラ、ドライ及びモイストメイクアップ、ルージュ、パウダー、脱毛剤及び日焼けローション」であり、「家庭用製品」には「家庭用洗浄及びトリートメント剤、たとえば液状磨き剤、ガラス洗浄剤、中性洗浄剤(万能洗浄剤)、酸性家庭用洗浄剤(浴槽)、WC洗浄剤、好ましくは洗浄、すすぎ及び食器洗浄剤、クリアすすぎ剤、食器洗浄剤、靴磨き剤、磨きワックス、床用洗浄剤及び磨き剤、金属、ガラス及びセラミック洗浄剤、繊維手入れ剤、錆、色及びしみを落とすための薬剤(染み抜き塩)、家具及び多目的磨き剤ならびに皮革なめし剤(レザースプレー)」が含まれる。 一方、本願発明の「化粧用調製品」とは本願明細書【0031】によれば、「口紅、マニキュア液、アイシャドー、マスカラ、水乾両様のメイクアップ用品、ルージュ、パウダー、脱毛剤及び日焼けローション」であり、また、本願発明の「家庭用清浄剤及び処理剤」とは本願明細書【0074】によれば、「洗濯用製品及び織物軟化剤、液体洗浄及び精錬剤、ガラス洗浄剤、中性クリーナー(汎用クリーナー)、酸性家庭用クリーナー(浴槽)、浴室クリーナー、WCクリーナー、例えば、洗浄剤、リンス剤及び食器用洗剤、キッチン及びオーブンクリーナー、クリアリンス剤、食器用洗剤、靴クリーム、つや出しワックス、床洗浄剤及び床磨き剤、金属、ガラス及びセラミッククリーナー、繊維ケア製品、敷物クリーナー及びカーペットシャンプー、さび、色及び汚れを取るための薬剤(染み抜き剤塩)、家具及び汎用磨き剤、並びに皮革及びビニール製品ドレッシング剤(皮革及びビニール製品スプレー)及びエアフレッシュナー」である。 そうすると、引用発明が安定化の対象としている「ボディケア及び家庭用製品」は、本願発明が保護の対象としている「ボディケア製品」並びに「家庭用品」に相当する。 イ 「光分解及び酸化的分解から保護する」ことについて 刊行物1の(1イ)の【0002】?【0004】に記載される従来技術の問題点及び【0005】の「酸化崩壊プロセス(光酸化、自家酸化)を防ぐために、いわゆる酸化防止剤(AO)が化粧品及び食品に使用されている。」なる記載からみて、引用発明における酸化防止剤の使用による「安定化」とは、本願発明の「光分解及び酸化的分解から保護する」ことに相当するといえる。 このことは、本願明細書の【背景技術】(【0002】?【0005】)には、上記刊行物1の(1イ)の【0002】?【0005】と同じ内容の記載があり、本願明細書の実施例では抗酸化試験によって安定剤の安定化性能を調べていることからも裏付けられる。 ウ 「安定剤」について 上記イで検討したとおり、その機能において、引用発明の「酸化防止剤」は、本願発明の「安定剤」に相当するといえる。 エ 特定の化学式で示される化合物について 引用発明の式(9)の化合物と、本願発明の化合物とは、どちらも、3-アリール-3H-ベンゾフラン-2-オン型化合物である点で共通する。 オ そうすると、両者は、 「3-アリール-3H-ベンゾフラン-2-オン型化合物 の安定剤の、スキンケア製品、浴室及びシャワー用添加剤、香料及び香気物質を含む調製品、ヘアケア製品、歯磨剤、脱臭剤及び制汗剤、化粧用調製品、光防護用配合物より選択されるボディケア製品並びに家庭用清浄剤及び処理剤より選択される家庭用品を光分解及び酸化的分解から保護するための使用」の発明である点で一致し、 次の点で相違する。 <相違点> 安定剤として使用する3-アリール-3H-ベンゾフラン-2-オン型化合物が、 本願発明は、 式 【化1】 [式中、 R_(1)及びR_(2)が水素であり、 R_(3)及びR_(4)がtert-オクチルであり、かつ R_(5)がメチルである]のに対して、 引用発明は、 式(9)の化合物、すなわち、 である点。 第5 当審の判断 以下、相違点について検討する。 1 下記の周知文献A?Dに記載されるとおり、3-アリール-3H-ベンゾフラン-2-オン型化合物のようなベンゾフラノン誘導体は、例えば潤滑剤やポリマーなどの、酸化的、熱的又は光により誘起される分解を受け易い有機材料の安定剤(酸化防止剤、抗酸化剤)として本願の優先権主張の日前に周知であり、3-アリール-3H-ベンゾフラン-2-オン型化合物の置換基を変更することにより、種々のベンゾフラノン誘導体が創出され、優れた効果をもつ安定剤(酸化防止剤、抗酸化剤)が検討されてきている。 周知文献A:特表昭55-501181号公報(特に、請求項1?3(1頁左下欄?5頁左上欄6行)) 周知文献B:特開平3-204872号公報(特に、2頁右上欄18行?左下欄2行) 周知文献C:特開平7-233160号公報(特に、【0001】) 周知文献D:特表2003-522201号公報(特に、【0001】、【0005】) 引用発明は、上記のとおり潤滑剤やポリマーの安定剤としては周知であるベンゾフラノン誘導体の一種である式(9)の化合物を、ボディケア及び家庭用製品を安定化に用いるものである。 2 ここで、下記周知文献Eの(Eイ)のScheme 1に示されるとおり、引用発明の式(9)の化合物は、チバ社の商品Irganox HP-136に該当するが、周知文献Eの(Eア)に記載されるように、Irganox HP-136は、脂質中で過酸化ラジカルに水素を供与可能であるために重要な連鎖遮断(chain-breaking)抗酸化剤であるところの、一種のフェノールであるビタミンEのような連鎖遮断抗酸化剤であり、その活性は、水素原子供与能力(審決注:3位の水素原子)に依存するものであることは、本願の優先権主張の日前に周知の事項である。 周知文献E:Mathieu Frenette et al. ,"Radically Different Antioxidants: Thermally Generated Carbon-Centered Radicals as Chain-Breaking Antioxidants" ,J. AM. CHEM. SOC. ,2006年,Vol.128,p.16432-16433 (Eア)「 」(16432頁左欄1?28行) (抄訳:分子状酸素を含む酸化プロセスは多くの物質の分解に深く関わっている。自動酸化は、それぞれのラジカルの開始が系中の多数の分子にダメージを与えうるラジカル連鎖反応を含んでいる。自然界は、連鎖遮断抗酸化剤を用いることにより自動酸化を最小化している。更に、有機物質の分解を防ぐための連鎖遮断抗酸化剤にかなりの商業的投資が行われている。 多くの小分子の連鎖遮断抗酸化剤は、有害な連鎖伝達過酸化ラジカルを捕捉する能力をもつ水素原子供与体である。一種のフェノールであるビタミンEは脂質中で過酸化ラジカルに頻繁に水素を供与可能であるために重要な連鎖遮断抗酸化剤である。…… チバ社の商品Irganox HP-136(HP-136)は市販の連鎖遮断抗酸化剤であり、その活性も水素原子供与能力に依存する。結果として生じるHP-136・ラジカルは炭素中心ラジカルである。多くの炭素中心ラジカルが酸素と反応して更なるラジカルを発生させるのに対して、HP-136・と幾つかの他のラジカルは、そうしない。興味深いことに、HP-136の少量のエノール型互変異性体がその水素原子転移の理由として説明される。 このような炭素中心ラジカルの多くは、弱いC-C結合によって2量体を形成する(スキーム1)。……) (Eイ)「 」(16432頁右欄) 3 上記2のとおり、式(9)の化合物は、ビタミンEのような連鎖遮断抗酸化剤の機能を有するものであることから、ボディケア及び家庭用製品を安定化するために式(9)の化合物を酸化防止剤(抗酸化剤)として使用する引用発明は、式(9)の化合物の連鎖遮断抗酸化剤としての機能に着目していることは明らかである。 4 一方、特定の式で表されるベンゾフラン-2-オン型の化合物を、酸化、熱又は光により誘発される分解をうけ易い合成ポリマーの安定剤とすることに関する文献である刊行物2の実施例2には、射出成形したABS板に340nmの紫外光を照射し、促進曝露前後の色を測定した黄色度指数の値から、着色がより少ないものがより効果的な安定剤であるとして、その結果が【表2】に示されている。【表2】には、化合物(102)を安定剤とする例2c^(b))の着色度指数は49.6、式Vaの化合物約85重量部と式Vbの化合物約15重量部の混合物である化合物(101)を安定剤とする例2b^(a))の着色度指数は50.6であったことが記載され、着色度指数の1単位の差は明確な関連であると記載されている(刊行物2の(2ア)、(2イ))。 そうすると、刊行物2には、酸化、熱又は光により誘発される分解をうけ易い合成ポリマーの安定剤として、化合物(102)が、式Vaの化合物約85重量部と式Vbの化合物約15重量部の混合物である化合物(101)、と比較して優れていたことが記載されているといえる。 5 刊行物2における化合物(102)及び式Vaの化合物は、それぞれ、本願発明の化合物及び引用発明の式(9)の化合物であるから、刊行物2の上記4の開示は、合成ポリマーの安定化の効果としてではあるが、本願発明の化合物が引用発明の式(9)の化合物よりも優れていることを示唆するものといえる。 6 刊行物2の化合物(102)(すなわち、本願発明の化合物)が、引用発明の式(9)の化合物と同様に連鎖遮断抗酸化剤の機能のもととなる水素原子供与能力(3位の水素原子)を有することは明らかである。 7 そうすると、引用発明の式(9)の化合物や刊行物2の化合物(102)がもたらす合成ポリマーの安定化の効果は、引用発明の式(9)の化合物や刊行物2の化合物(102)の連鎖遮断抗酸化剤としての機能に起因すると推察される。 8 してみると、刊行物1において、引用発明の式(9)の化合物の如きベンゾフラノン誘導体のボディケア及び家庭用製品の安定化への用途が開示されている以上、刊行物2の上記5の示唆に鑑み、ボディケア及び家庭用製品の安定化においても刊行物2の化合物(102)の連鎖遮断抗酸化剤としての機能の優位性を期待して、引用発明において、式(9)の化合物に代えて、刊行物2の化合物(102)(すなわち、本願発明の化合物)を使用してみることは、当業者が容易になし得ることである。 9 本願発明の効果について 本願明細書記載の本願発明の奏する効果も、引用発明及び刊行物1、2に記載ないし示唆される事項ならびに周知事項から予測し得る範囲内のものである。 10 平成25年8月27日付け意見書に添付された<油脂への溶解性>、<抗酸化性>について <抗酸化性>については、上記5?8で述べたとおり、ボディケア及び家庭用製品の安定化の用途における本願発明の化合物の連鎖遮断抗酸化剤としての機能の優位性が期待できるのであるから、意見書添付の「抗酸化試験」の結果は、上記優位性を実験で確かめたに過ぎず、当業者が予測し得る範囲内のものである。 <油脂への溶解性>については、本願明細書にはまったく記載されていなかった事項であることから考慮すべきものではないが、一応検討する。請求人は審判請求書(7頁)で「本願発明に係る安定剤のオイル溶解性は、化粧品組成物のオイル成分を安定化する効果に対して不可欠なものである。」と述べているが、安定剤AO1(引用発明の式(9)の化合物)がボディケア製品及び家庭用品に汎用されるオイル成分に全く溶けないというならともかく、その化学構造式等から見てオイルに対して不溶であるとまでは言い難い。(このことは、意見書添付の表3で安定剤AO1に所定の抗酸化効果があることからも、安定剤AO1には抗酸化効果を発揮できる程度のオイルへの溶解性があるということが裏付けられる。)たとえ、油脂への溶解性の違いが最終的に求められる抗酸化性に影響を与えているとしても、それは抗酸化性の優劣の原因の一つを解明したに過ぎず、油脂への溶解性そのものが直接に本願発明の効果として捉えられるわけではない。本願発明の奏する効果はあくまでもボディケア及び家庭用製品の抗酸化性という効果として捉えられるものであって、その点は上述のとおり予測可能であるから、意見書添付の「油脂に対する溶解性についてのデータ」を参酌しても、本願発明の効果についての上記9の判断は左右されない。 第6 まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物1、2に記載ないし示唆される事項ならびに周知事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-24 |
結審通知日 | 2016-01-05 |
審決日 | 2016-01-18 |
出願番号 | 特願2011-515322(P2011-515322) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今村 明子 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
関 美祝 小川 慶子 |
発明の名称 | ボディケア製品及び家庭用品の安定化 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 新井 栄一 |
代理人 | 田中 夏夫 |