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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1315261
審判番号 不服2015-4136  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-03 
確定日 2016-06-01 
事件の表示 特願2010-206423「超音波診断装置及びその制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月29日出願公開、特開2012- 61075〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月15日を出願日とする出願であって、平成26年3月6日付けで拒絶理由が通知され、同年8月4日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年10月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について
(1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、平成26年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載の、

(補正前)
「被検体の各部における弾性に関する物理量を算出する物理量算出部と、
該物理量算出部によって算出された前記物理量に基づいて、被検体の弾性画像を作成する弾性画像作成部と、を備え、
前記物理量算出部は、被検体における液体部分以外の部分について前記物理量の算出を行ない、
前記弾性画像作成部は、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量の統計的特徴を用いて前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう
ことを特徴とする超音波診断装置。」
が、

(補正後)
「被検体の各部における弾性に関する物理量を算出する物理量算出部と、
該物理量算出部によって算出された前記物理量に基づいて、被検体の弾性画像を作成する弾性画像作成部と、を備え、
前記物理量算出部は、被検体における液体部分以外の部分について前記物理量の算出を行ない、
前記弾性画像作成部は、前記物理量を階調化して弾性画像を作成するものであり、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量の統計的特徴を用いて、階調化する物理量の範囲が設定されて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう
ことを特徴とする超音波診断装置。」
と補正された。(下線は、補正箇所を示す。)

(2)そして、上記の本件補正による請求項2の補正は、「前記弾性画像作成部は、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量の統計的特徴を用いて前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう」に対して、「前記弾性画像作成部は、前記物理量を階調化して弾性画像を作成するものであり、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量の統計的特徴を用いて、階調化する物理量の範囲が設定されて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう」という限定を付加したものである。
よって、上記の本件補正による請求項2の補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明のいわゆる限定的減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

2 本願補正発明
本願補正発明は、平成27年3月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりのもの(上記「1」の(1)の記載を参照。)であり、当審において(A)?(E)の見出しを付けて分節すると、次のとおりである。

「(A) 被検体の各部における弾性に関する物理量を算出する物理量算出部と、
(B) 該物理量算出部によって算出された前記物理量に基づいて、被検体の弾性画像を作成する弾性画像作成部と、を備え、
(C) 前記物理量算出部は、被検体における液体部分以外の部分について前記物理量の算出を行ない、
(D) 前記弾性画像作成部は、前記物理量を階調化して弾性画像を作成するものであり、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量の統計的特徴を用いて、階調化する物理量の範囲が設定されて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう
(E) ことを特徴とする超音波診断装置。」

3 引用例
(1) 引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2004/089222号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付加したものである。)

引ア 第15頁第11行?第18頁第8行
「超音波診断装置本体1は、流体判定部9、演算部10、演算データ記憶部11、画像データ生成部72および表示データ記憶部19をさら含む。流体判定部9、演算部10、演算データ記憶部11および表示データ記憶部19はソフトウエアまたはハードウエアを用いて構成され、画像データ生成部72は電子部品を用いた回路により構成される。これらの構成により、位相検波した信号から測定対象領域内における流体部分の判定ならびに対象となる生体組織の運動速度および位置変位量を演算する。
具体的には、流体判定部9は、フィルタ部71の第1のフィルタ7および第2のフィルタ8から位相検波部6において分離された実部信号および虚部信号のうちドプラシフトが大きい信号成分をそれぞれ受け取る。そして、一般的に用いられるドプラ法によって測定対象領域内における流体部分を判定し、少なくとも流体部分がどこにあるかを判定する。たとえば、カラードプラ法を用いて測定対象領域の各位置における流速を求めてもよいし、パワードプラ法による振幅情報に基づいて、測定対象領域内における流体部分を特定してもよい。求められた流体部分の位置情報は、画像データ生成部72へ送られる。
一方、演算部10は、フィルタ部71の第1のフィルタ7および第2のフィルタ8から位相検波部6において分離された実部信号および虚部信号のうちドプラシフトが小さい信号成分をそれぞれ受け取る。演算部10は、運動速度演算部と、位置演算部と、伸縮演算部と、弾性率演算部とを含む。演算部10の運動速度演算部は、受け取った信号に基づいて、複数の測定対象位置における生体組織の運動速度を求める。位置演算部は、運動速度を積分することにより位置変位量を求める。また、伸縮演算部は、求めた位置変位量から各測定対象位置間における生体組織の伸縮量を求める。さらに、弾性率演算部において、血圧計17から入力される最低血圧値および最高血圧値に関するデータを用いて対象となる組織の弾性率を求める。演算部10の出力は画像データ生成部72に入力される。
演算データ記憶部11は、流体判定部9および演算部10へ入力される位相検波された信号、あるいは、流体判定部9において求められた流体部分の位置情報および演算部10で求められた運動速度、位置変位量、伸縮量または弾性率をそれぞれ流体判定部9および演算部10から受け取って記憶する。伸縮量または弾性率を演算データ記憶部11が記憶していなくても、位相検波された信号、運動速度、位置変位量などを再び流体判定部9および演算部10が読み込んで計算を行うことにより、流体部分の位置情報や複数の測定対象位置間の伸縮量や弾性率を求めることができる。
図1に示すように、超音波診断装置本体1は、さらに検波部12および利得制御部13を備えている。検波部12および利得制御部13は、測定対象領域のBモード画像を得るために、受信した反射波信号をその振幅強度に応じた輝度で変調する。具体的には、検波部12は遅延時間制御部5から出力される受信反射波信号を包絡線検波する。利得制御部13は検波した信号を対数増幅し、画像データ生成部72へ出力する。検波部12および利得制御部13はソフトウエアによって構成してもよいし、ハードウエアにより構成してもよい。
画像データ生成部72は、DSC(デジタル・スキャン・コンバータ)14および表示制御部15を含む。DSC14は、演算部10において求められた伸縮量および/または弾性率を二次元マッピングデータに変換する。また、流体判定部9から得られる少なくとも流体部分の位置情報を二次元画像に変換する。カラードプラ法を流体判定部9が採用している場合には、その流体が移動する方向およびその流速に基づいて彩色されたカラーフロー画像を生成してもよい。また、パワードプラ法を用いる場合にはその流速に応じた諧調(輝度)画像を生成してもよい。利得制御部13から出力される信号はBモード画像のデータに変換される。DSC14の出力は表示制御部15へ入力される。
表示制御部15は、DSC14から出力されるこれらの画像データを合成し、モニタ16に表示するための画像データに変換する。また、血圧計17から得られる最低血圧値および最高血圧値とECG(心電計)18から得られる心電図の波形信号を受け取り、これらの信号を画像データに変換し、DSC11からの画像データに重畳する。このとき、以下において詳しく説明するように、伸縮量および/または弾性率の二次元マッピングデータのうち、流体部分に位置するデータは、流体判定部9から得られる画像の流体部分の位置情報を利用して、時間の経過によっても変化しない所定の彩色で表示されるようにする。表示制御部15の出力はモニタ16に入力され、モニタ16はこれを表示する。表示制御部15の出力は表示データ記憶部19へも出力され、任意のタイミングにおける動画あるいは静止画を表示データ記憶部19に記憶させることができる。」

引イ 第21頁第10?21行
「次に画像データ生成部72における画像データの生成を説明する。上述したように、画像データ生成部72のDSC14では、演算部10において求められた弾性率を二次元マッピングデータに変換する。弾性率に変えて伸縮量を表示するようにしてもよいし、弾性率および伸縮量を切り替えて表示するよう、両方の二次元マッピングデータを生成してもよい。二次元マッピング表示では、弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行ったり、弾性率の大きさに色度を対応させた色度表示を行ったりすることできる。たとえば弾性率の大きい箇所および小さい箇所をそれぞれ青色および赤色で表示し、弾性率がその中間の値である箇所は青色と赤色の中間色で表示することができる。色相の組み合わせは、ユーザが自由に選択できるようにしてもよい。」

引ウ 図1


(2) 引用例に記載された発明の認定

ア 引イの「二次元マッピング表示では、弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行ったり・・・することできる。」という記載は、引イの「画像データ生成部72のDSC14では、演算部10において求められた弾性率を二次元マッピングデータに変換する。弾性率に変えて伸縮量を表示するようにしてもよいし、弾性率および伸縮量を切り替えて表示するよう、両方の二次元マッピングデータを生成してもよい。」の記載を踏まえると、二次元マッピング表示では、二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行ったりすることできることは明らかである。

イ 上記アの事項を踏まえ、上記(1)の引ア?ウの記載を総合すると、引用例には、

「(a) 流体判定部9、演算部10、演算データ記憶部11、画像データ生成部72および表示データ記憶部19を含む超音波診断装置本体1であって、
(b) 流体判定部9は、フィルタ部71の第1のフィルタ7および第2のフィルタ8から位相検波部6において分離された実部信号および虚部信号のうちドプラシフトが大きい信号成分をそれぞれ受け取り、そして、一般的に用いられるドプラ法によって測定対象領域内における流体部分を判定し、少なくとも流体部分がどこにあるかを判定し、求められた流体部分の位置情報は、画像データ生成部72へ送られ、
(c) 演算部10は、フィルタ部71の第1のフィルタ7および第2のフィルタ8から位相検波部6において分離された実部信号および虚部信号のうちドプラシフトが小さい信号成分をそれぞれ受け取り、演算部10は、運動速度演算部と、位置演算部と、伸縮演算部と、弾性率演算部とを含み、演算部10の運動速度演算部は、受け取った信号に基づいて、複数の測定対象位置における生体組織の運動速度を求め、位置演算部は、運動速度を積分することにより位置変位量を求め、また、伸縮演算部は、求めた位置変位量から各測定対象位置間における生体組織の伸縮量を求め、さらに、弾性率演算部において、血圧計17から入力される最低血圧値および最高血圧値に関するデータを用いて対象となる組織の弾性率を求め、演算部10の出力は画像データ生成部72に入力され、
(d) 画像データ生成部72は、DSC(デジタル・スキャン・コンバータ)14および表示制御部15を含み、DSC14は、演算部10において求められた伸縮量および/または弾性率を二次元マッピングデータに変換し、また、流体判定部9から得られる少なくとも流体部分の位置情報を二次元画像に変換し、DSC14の出力は表示制御部15へ入力され、表示制御部15は、DSC14から出力されるこれらの画像データを合成し、モニタ16に表示するための画像データに変換し、
(e) 二次元マッピング表示では、二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行ったりすることできる、
(f) 超音波診断装置本体1。」

の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4 本願補正発明と引用発明との対比

(1)対比
ア 本願補正発明(A)の特定事項について
引用発明(c)の「生体組織」及び「複数の測定対象位置」は、それぞれ本願補正発明の「被検体」及び「各部」に相当する。
また、引用発明(c)の「伸縮量」および/または「弾性率」は、本願補正発明の「弾性に関する物理量」に相当する。
よって、引用発明(c)の「演算部10」は、(c)「運動速度演算部と、位置演算部と、伸縮演算部と、弾性率演算部とを含み、演算部10の運動速度演算部は、受け取った信号に基づいて、複数の測定対象位置における生体組織の運動速度を求め、位置演算部は、運動速度を積分することにより位置変位量を求め、また、伸縮演算部は、求めた位置変位量から各測定対象位置間における生体組織の伸縮量を求め、さらに、弾性率演算部において、血圧計17から入力される最低血圧値および最高血圧値に関するデータを用いて対象となる組織の弾性率を求め」るものであるから、本願補正発明(A)の「被検体の各部における弾性に関する物理量を算出する物理量算出部」に相当する。

イ 本願補正発明(B)の特定事項について
引用発明(d)の「伸縮量および/または弾性率を」「変換し」た「二次元マッピングデータ」は、(d)「画像データ」であるから、本願補正発明の「弾性画像」に相当する。
よって、引用発明(d)の「画像データ生成部72」は、(d)「DSC(デジタル・スキャン・コンバータ)14および表示制御部15を含み、DSC14は、演算部10において求められた伸縮量および/または弾性率を二次元マッピングデータに変換し」、「表示制御部15は、DSC14から出力される」「画像データを」、「モニタ16に表示するための画像データに変換」するものであるから、本願補正発明(B)の「該物理量算出部によって算出された前記物理量に基づいて、被検体の弾性画像を作成する弾性画像作成部」に相当する。

ウ 本願補正発明(C)の特定事項について
引用発明(b)の「流体判定部9」は、(b)「フィルタ部71の第1のフィルタ7および第2のフィルタ8から位相検波部6において分離された実部信号および虚部信号のうちドプラシフトが大きい信号成分をそれぞれ受け取り、そして、一般的に用いられるドプラ法によって測定対象領域内における流体部分を判定し、少なくとも流体部分がどこにあるかを判定」するものである。
この点を踏まえると、引用発明(c)の「演算部10」は、(c)「フィルタ部71の第1のフィルタ7および第2のフィルタ8から位相検波部6において分離された実部信号および虚部信号のうちドプラシフトが小さい信号成分をそれぞれ受け取」るものであるから、(b)「測定対象領域内における流体部分」以外の部分からの(c)「ドプラシフトが小さい信号成分を」「受け取」るものであるといえる。
よって、引用発明(c)の「演算部10」は、本願補正発明(C)の「前記物理量算出部は、被検体における液体部分以外の部分について前記物理量の算出を行な」うことを含む。

エ 本願補正発明(D)の特定事項について
上記ア?ウを踏まえると、引用発明(d)の「二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率」は、本願補正発明の「前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量」に相当する。
よって、引用発明(d)の「画像データ生成部72」において、(e)「二次元マッピング表示では、二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行ったりすることできる」ことと、本願補正発明(D)の「前記弾性画像作成部は、前記物理量を階調化して弾性画像を作成するものであり、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量の統計的特徴を用いて、階調化する物理量の範囲が設定されて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう」こととは、「前記弾性画像作成部は、前記物理量を階調化して弾性画像を作成するものであり、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量を用いて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう」点で共通する。

オ 本願補正発明(E)の特定事項について
引用発明(f)の「超音波診断装置本体1」は、本願補正発明(E)の「超音波診断装置」に相当する。

(2)一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、

(一致点)
「被検体の各部における弾性に関する物理量を算出する物理量算出部と、
該物理量算出部によって算出された前記物理量に基づいて、被検体の弾性画像を作成する弾性画像作成部と、を備え、
前記物理量算出部は、被検体における液体部分以外の部分について前記物理量の算出を行ない、
前記弾性画像作成部は、前記物理量を階調化して弾性画像を作成するものであり、前記物理量算出部によって算出された前記液体部分以外の部分の前記物理量を用いて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なう
超音波診断装置。」

の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点

弾性画像作成部が、本願補正発明では、前記物理量算出部によって算出された液体部分以外の部分の前記物理量「の統計的特徴」を用いて、「階調化する物理量の範囲が設定されて」、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なっているのに対し、引用発明では、「二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率」(本願補正発明の「前記物理量算出部によって算出された液体部分以外の部分の物理量」に相当。)を用いて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なっているものの、前記物理量「の統計的特徴」を用いて、「階調化する物理量の範囲が設定されて」いるか不明である点。

5 当審の判断
上記の相違点について検討する。

(1)相違点について
本願補正発明の「物理量の統計的特徴を用いて、階調化する物理量の範囲が設定され」ることは、具体的には、明細書の段落【0039】に「具体的には、前記弾性画像データ作成部73は、前記統計的特徴として、図6に示すように、前記物理量データに基づいて、先ず関心領域R内の歪みの分布Dにおける平均値St_(AV)を算出する。次に、前記弾性画像データ作成部73は、前記平均値St_(AV)を基準にして前記歪みの分布Dにおいて所定の範囲Xを設定し、この所定の範囲Xを例えば256階調に階調化する。」、また段落【0042】に「ちなみに、前記弾性画像データ作成部73は、前記歪みStの統計的特徴の一例として歪みの平均値St_(AV)を用いて、階調化する歪みの範囲を設定しているが、前記統計的特徴は平均値に限られるものではない。例えば、前記弾性画像データ作成部73は、前記統計的特徴として歪みの分布Dにおける最小値と最大値を用いてもよい。すなわち、前記弾性画像データ作成部73は、前記歪みの分布Dにおける最小値と最大値の範囲を、階調化する範囲として設定してもよい。」と記載されているように、物理量の平均値、又は最小値と最大値などの統計的特徴を基準にして、階調化する範囲Xが設定されるということである。

一方、上記「4 (1)」の「エ 本願補正発明(D)の特定事項について」で述べたように、引用発明(d)の「画像データ生成部72」は、(e)「二次元マッピング表示では、二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行ったりすることできる」ものである。
そして、引用発明においても、(e)「二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行」なう際、「二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさ」のすべての値を踏まえて「諧調表示を行」なうものであるから、「二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさ」のすべての値のうち最小値と最大値を基準にして、「諧調表示を行」なう範囲を設定することは、当業者が容易に為し得たことである。

加えて、弾性画像の作成にあって、被検体における各部の弾性に関する物理量の統計的特徴を用いて、階調化する物理量の範囲が設定されて、前記物理量に基づく弾性画像の作成を行なうことは、本願の出願前において周知の技術(例えば、国際公開第2009/154133号(例えば、【請求項3】?【請求項5】を参照。)、国際公開第2006/013916号(例えば、[0017]を参照。)などを参照。)である。
してみれば、引用発明において、(e)「二次元マッピングデータに変換した伸縮量および/または弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させた色彩による諧調表示を行」なう際、さらに上記周知の技術に鑑みて、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に為し得たことといえる。

(2)本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる作用効果は、引用例に記載の事項及び上記周知の技術から当業者が予測し得る程度のものである。

(3)まとめ
上記のとおり、本願補正発明は、引用発明、あるいは、引用発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記「第2 1(1)」を参照)。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 3」に記載したとおりである。

3 当審の判断
本願発明は、上記「第2 1(1)」を踏まえると、上記「第2」で検討した本願補正発明から、「前記物理量を階調化して弾性画像を作成するものであり、」及び「階調化する物理量の範囲が設定されて、」という発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」で検討したとおり、引用発明、あるいは、引用発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、あるいは、引用発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-25 
結審通知日 2016-01-05 
審決日 2016-01-18 
出願番号 特願2010-206423(P2010-206423)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松谷 洋平冨永 昌彦田邉 英治  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 松本 隆彦
▲高▼見 重雄
発明の名称 超音波診断装置及びその制御プログラム  
代理人 荒川 聡志  

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