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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1315327 |
審判番号 | 不服2014-22706 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-07 |
確定日 | 2016-06-03 |
事件の表示 | 特願2011-531128「MUC1*抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月15日国際公開、WO2010/042562、平成24年 3月 1日国内公表、特表2012-504961〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、2009年(平成21年)10月6日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年10月6日 米国)とする出願であって、その請求項1?45に係る発明は、平成26年11月7日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?45に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項40に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項40】 免疫グロブリン様VHドメインが免疫グロブリン様VLドメインに結合し、前記VH鎖及び前記VL鎖がペプチドリンカーを介して結合している、MUC1*に特異的なscFv融合タンパク質。」 第2 引用例 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願優先日前の2007年11月8日に頒布された刊行物である、特表2007-531505号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付記したものである。) ア.「【請求項1】 MGFRに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。 【請求項2】 前記抗体またはその抗原結合断片が1価又は2価である、請求項1に記載される抗体またはその抗原断片。 【請求項3】 前記抗体またはその抗原結合断片がPSMGFRに特異的に結合する、請求項1又は2に記載される抗体またはその抗原断片。 【請求項4】 前記抗体またはその抗原結合断片が配列番号36に記載されるアミノ酸配列あるいはN-末端に15個以下のアミノ酸の付加または欠失を含み、かつ、20個以下のアミノ酸の置換を含む機能的変異体またはその断片に特異的に結合する、請求項3に記載される抗体またはその抗原結合断片。 ・・・」(94ページ、【特許請求の範囲】) イ.「「MUC1成長因子受容体の一次配列」(PSMGFR)との用語は、いくつかの事例ではMGFRのほとんどあるいは全てと定義するペプチド配列、および以下に定義する機能的変異体および該ペプチド配列の断片である。PSMGFRは下記配列番号36として定義され、機能的変異体およびその断片の全ては20個までの整数(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20)のアミノ酸の置換および/またはN-末端および/またはC-末端に20個までの整数のアミノ酸の付加または欠失を有する。・・・」(103ページ、【0044】) ウ.「・・・例えば、MUC1受容体のMGFR部分に対して生じた(例えば、PSMGFRに対して、あるいはN-末端にPSMGFR配列を含むペプチドに対して生じた)1本鎖、または1価抗体、または未処理2価抗体の1価断片は、効果的な抗癌治療剤として機能するであろう(以下の抗体およびその抗原結合断片についての議論を参照)。」(111ページ、【0080】) エ.「本明細書中に、我々はPSMGFRを標的とする1価抗体断片が、実際にMUC1陽性腫瘍細胞の成長を阻害し、実質的にはコントロール細胞株への影響がないことを実証する実験結果を提供する。図6を参照して、2価抗-PSMGFRの添加が細胞成長の600%増強を誘導したことに注目したい。実施例11に記載される方法では、図11がMUC1陽性乳房腫瘍細胞1504へ同じ抗-PSMGFRの1価型を添加すると、約150%まで阻害された細胞成長と誘導された細胞死を示すという反対の効果を示した。1価抗-PSMGFRの添加は、MUC1^(+)でもある乳房腫瘍細胞株1500において同様の効果を示した。図12参照。」(113ページ、【0089】) オ.「・・・ある実施態様では、1価である抗体またはその抗原結合断片では、それらは1本鎖Fv断片、Fab'断片、Fab断片またはFd断片を含む。・・・」(115?116ページ、【0097】) カ.「以下に記載するように、本発明の抗体は種々の形態で存在する(未処理抗体のほかに、例えば、Fv、FabおよびF(ab')_(2)などの抗原結合断片、ならびに1本鎖(すなわち、1本鎖抗体)を含む)。WO88/09344参照。」(118ページ、【0108】) キ.「MUC1成長因子受容体の野生型一次配列(nat-PSMGFR-「PSMGFR」の例): GTINVHDVETQFNQYKTEAASRYNLTISDVSVSDVPFPFSAQSGA(配列番号36)」(147?148ページ、【0236】) ク.「実施例8:ポリクローナル抗-PSMGFR抗体産生 免疫化に用いたペプチド配列は、GTINVHDVETQFNQYKTEAASPYNLTISDVSVSDVPFPFSAQSGA(var-PSMGFR 配列番号7)であった。2匹のウサギをメーカー独自の市販技術であるPolyquickTM法を用いて免疫した。4週間後、血液をPSMGFR特異的抗体について評価した。ウサギは、抗体を回収する2週間前に、抗原の追加免疫を受けた。抗体をカラム支持体に結合したペプチドを用いて親和性精製した。」(164ページ、【0308】) ケ.「実施例9:1価抗体断片の産生 実施例8にて産生したポリクローナル抗体の抗体断片化を、Maine Biotechnology Servises Inc.(Portand, ME)によるパパイン分解を用いて行った。断片化した抗体を未開裂の抗体およびFc断片から精製した。開裂反応および精製はSDS PAGEで評価した。」(164ページ、【0309】) コ.「実施例11-2価対1価の抗-PSMGFR抗体による細胞増殖の刺激性/阻害効果 試薬: * 血清不含RPMI培地中で実施例8と9に記載の通り産生されたANTI-PSMGFR抗体の連続希釈液(1×、1×の1/10、1/50、1/250、1/1000) ・・・」(165ページ、【0312】) 第3 対比 上記、引用例の記載事項ア.、イ.、エ.、ク.?コ.によれば、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「配列番号36に記載されるアミノ酸配列であるPSMGFRに特異的に結合する1価抗体断片。」 ここで、引用発明における配列番号36に記載されるアミノ酸配列は、上記記載事項キ.によれば、本願における配列番号1に記載されるアミノ酸配列と同一である。 一方、本願発明における「MUC1*」とは、本願明細書【0037】によれば、細胞外ドメインが本質的にPSMGFR(配列番号1)を含むようにN末端が切断されたMUC1タンパク質を意味するものである。 よって、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、MUC1*に特異的な1価抗体断片である点で共通し、以下の点でのみ相違する。 (相違点)1価抗体断片が、本願発明は、免疫グロブリン様VHドメインが免疫グロブリン様VLドメインに結合し、前記VH鎖及びVL鎖がペプチドリンカーを介して結合している、scFvであると特定されているのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。 第4 判断 上記相違点について検討する。 上記記載事項ウ.、オ.、カ.によれば、引用例においても、1価抗体として、一本鎖抗体、すなわち、scFvが使用できることが記載されており、ある特定の抗原に対するモノクローナル抗体を調製し、さらに、そのVHドメインとVLドメインをリンカーを介して結合したscFvを製造する手法は、本願優先日前に既に当業者の周知技術であったといえるから(要すれば、「Advances in Protein Chemistry, 1996, Vol.49, p.330-450」、「植田充美監修、抗体エンジニアリングの最前線、株式会社シーエムシー出版、2004年、p.1-9」参照)、引用発明において1価抗体断片として、免疫グロブリン様VHドメインが免疫グロブリン様VLドメインに結合し、前記VH鎖及び前記VL鎖がペプチドリンカーを介して結合しているscFv融合タンパク質とすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、その効果についても、引用例の記載及び周知技術から予測できない程格別のものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、容易に発明することができたものである。 第5 審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求書において、引用例は、具体的なMUC1*に対する単離モノクローナル抗体を開示するものではないのに対し、本願発明に係るモノクローナル抗体は、その重鎖可変領域及びκ鎖可変領域のCDR1-3の構造が特定されており、抗体誘導体を作製するのに使用できるなど、引用例に記載のポリクローナル抗体よりも優れた効果を奏していると主張している。 しかしながら、ある特定の抗原に対するモノクローナル抗体を調製し、さらに、そのVHドメインとVLドメインをリンカーを介して結合したscFvを製造することが、本願優先日前の当業者の周知技術であることは、上記第4において述べたとおりであるし、本願発明は、その重鎖可変領域及びκ鎖可変領域のCDR1-3の構造が特定されたものとは認められないから、上記審判請求人の主張は、本願発明に基づかない主張であり、採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願請求項40に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-07 |
結審通知日 | 2016-01-12 |
審決日 | 2016-01-25 |
出願番号 | 特願2011-531128(P2011-531128) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 櫛引 明佳 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
長井 啓子 飯室 里美 |
発明の名称 | MUC1*抗体 |
代理人 | 庄司 隆 |