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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1315596
審判番号 不服2015-6150  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-02 
確定日 2016-06-09 
事件の表示 特願2013-166068「位相差フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年1月16日出願公開,特開2014-6538〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成22年3月26日にした特願2010-71325号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年8月9日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成26年 5月21日:拒絶理由通知(同年同月27日発送)
平成26年 7月18日:意見書
平成26年12月22日:拒絶査定(平成27年1月6日送達)
平成27年 4月 2日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成27年 4月 2日:審判請求

第2 補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本願発明」という。)。
「 ポリビニルアルコール系重合体フィルムを一軸延伸してなる位相差フィルムであって,当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め,当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定め(但し,位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としないこととする),当該測定地点(T)のうち,最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方を含むように,一軸延伸方向に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定めた際に,
(1)測定地点(C)における以下の面内位相差値が50?1000nmであり,
(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり,
(3)隣接する2つの測定地点(T)における以下の面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下であり,
(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(M)において10nm以下である,
位相差フィルム。
面内位相差値:進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である波長540nmの光で測定した位相差値。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を「本件補正後発明」という。)。なお,下線部は当合議体が付したものである(以下同じ。)。
「 ポリビニルアルコール系重合体フィルムを一軸延伸してなる位相差フィルムであって,当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め,当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定め(但し,位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としないこととする),当該測定地点(T)のうち,最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方を含むように,一軸延伸方向に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定めた際に,
(1)測定地点(C)における以下の面内位相差値が50?1000nmであり,
(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり,
(3)隣接する2つの測定地点(T)における以下の面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下であり,
(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(M)において8nm以下である,
位相差フィルム。
面内位相差値:進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である波長540nmの光で測定した位相差値。」

(3) 本件補正について
本件補正は,「隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値」について,本件補正前は「全ての隣接する2つの測定地点(M)において10nm以下である」という構成を,本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0041】の記載に基づいて,「全ての隣接する2つの測定地点(M)において8nm以下である」の構成に限定するものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすと共に,同条5項2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで,本件補正後発明が,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反しないか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件違反
(1) 引用例の記載
原出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である,特開平6-138319号公報(【公開日】平成6年(1994)5月20日,【発明の名称】PVA系フィルム及び光学用フィルム,【出願番号】特願平4-312827号,【出願日】平成4年(1992)10月27日,【出願人】株式会社クラレ,以下「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均複屈折率(△n)が1.0×10^(-3)以下であり,かつ複屈折率むら(Rn)が0.13×10^(-3)以下であるポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項2】 平均厚さ(t)が20?100μmであり,かつ厚さむら(Rt)が3%以下である請求項1に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】 単体透過度むら(Ry)が0.5%以下であり,かつ二色性比むら(△Rd)が2.5以下であるポリビニルアルコール系偏光膜。
【請求項4】 請求項1または2記載のポリビニルアルコール系フィルムを原反として使用して,請求項3に記載のポリビニルアルコール系偏光膜を製造することを特徴とするポリビニルアルコール系偏光膜の製造方法。
【請求項5】 位相差むら(Re)が2%以下であるポリビニルアルコール系位相差膜。
【請求項6】 請求項1または2記載のポリビニルアルコール系フィルムを原反として使用して,請求項5に記載のポリビニルアルコール系位相差膜を製造することを特徴とするポリビニルアルコール系位相差膜の製造方法。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,ポリビニルアルコール(以下,PVAと略記する)系フィルム,PVA系偏光膜およびPVA系位相差膜に関する。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】光の透過機能及び遮蔽機能を有する偏光板,並びに光の位相修正機能を有する位相差板は,光のスイッチング機能を有する液晶とともに,液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。このLCDの適用分野は初期の頃の電卓,時計等の小型機器から,ラップトップパソコン,ワープロ,液晶カラープロジェクター,液晶テレビ等の高品位でかつ大型化が要求される機器へと拡大されてきている。このような状況下において,偏光板及び位相差板に関しては,従来品よりも光学的均質性が優れた大型製品が要求されている。従来,偏光板及び位相差板に使用されるPVA系フィルムは,キャスティング法(溶液流延法)により製造され(たとえば,特公昭51-23981号公報参照),光学的均質性が低いものであった。したがって,従来のPVA系フィルムを原反として作られたPVA偏光膜及びPVA位相差膜のような光学用フィルムは光学的むらが大きいものであった。特に大型のPVA偏光膜及びPVA位相差膜はその両端部に大きい光学的むらを生じていた。」

エ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術によるPVA系フィルムには以下のような問題があった。
1)従来のPVA系フィルムは,部分的に分子配向が異なった状態を有していた。この分子配向むらは複屈折率によって測定される。従来のPVA系フィルムは,特にフィルムの幅方向の両端部の複屈折率が中央部よりも高くなっており,したがって平均複屈折率(△n)が高く,かつ複屈折率むら(Rn)も大きいという問題があった。
2)従来のPVA系フィルムには,厚さむら(Rt)が大きく,特に広幅のPVA系フィルムの場合には厚さむら(Rt)が問題となっていた。
3)フィルムの長さ方向に大きな分子配向を有している場合には,偏光膜などに加工する際にフィルムの長さ方向に延伸する場合の延伸可能な延伸倍率(以下,「最大延伸倍率」と略記する)が低下したり,得られた偏光膜などに光学的むらが生じていた。
【0004】また,従来のPVA系フィルムを原反としたPVA偏光膜及びPVA位相差膜には以下のような問題が生じていた。
1)従来の複屈折率むら(Rn)が大きいPVA系フィルムを原反として使用した場合には,染色工程における染色むらや延伸工程における延伸むらが生じやすく,その結果,従来のPVA偏光膜は,二色性比むら(△Rd)や透過度むら(Ry)が大きかった。PVA位相差膜の場合も同様であり,従来の複屈折率むら(Rn)が大きいPVA系フィルムを原反として使用した従来のPVA位相膜は,位相差むら(Re)が大きかった。
2)従来の厚さむら(Rt)が大きいPVA系フィルムを原反に使用した場合には,延伸工程で均一に延伸を行なうことがむづかしく,その結果,従来のPVA偏光膜は,二色性比むら(△Rd)や単体透過度むら(Ry)が大きく,また従来の位相差膜は位相差むら(Re)が大きかった。
3)フィルムの幅方向の両端部において複屈折率が高いPVA系フィルムを原反として使用した場合には,広幅のPVA偏光膜の両端部の二色性比むら(△Rd)や透過度むら(Ry)が大きく,特に大型のLCDでは問題があった。また,広幅のPVA位相差膜の両端部の位相差むら(Re)が大きかった。
【0005】本発明は上記従来の問題に鑑みてなされたもので,光学的均質性の優れたPVA系フィルム,PVA系偏光膜,及びPVA系位相差膜を提供することを目的とする。」

オ 「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する為に,鋭意検討した結果,本発明は第1発明として,平均複屈折率(△n)が1.0×10^(-3)以下であり,かつ,複屈折率むら(Rn)が0.13×10^(-3)以下であるPVA系フィルムを提供するものである。
【0007】本発明における平均複屈折率(△n)及び複屈折率むら(Rn)は,PVA系フィルムの複屈折率を測定し算出される。本発明における複屈折率は,リタデーション測定器(神崎製紙(株)製のKOBRA-21(商品名))を使用して,20℃,相対湿度65%の環境下で6時間調湿したPVA系フィルムのリタデーションを測定するとともに,マイクロメータを使用して,フィルムの同一個所の厚さを測定し,リタデーションの測定値をフィルムの厚さの測定値で割ることにより求められる。
【0008】平均複屈折率(△n)は,PVA系フィルムの製膜方向(以下,MD方向と略記する)の少なくとも1点の幅方向(以下,TD方向と略記する)について,1mmから10cmの範囲のピッチを固定して,上記測定方法により測定された複屈折率の平均値である。複屈折率むら(Rn)は,平均複屈折率(△n)の測定と同様にして測定された複屈折率最大値と最小値の差である。上記測定方法及び以下の他の項目の測定方法においては,PVA系フィルムの実用に供されない部分(たとえばフィルムの両耳部,ロール状捲製品の内筒への接着部,ロール状捲製品の捲終りの端部等)は測定点から除かれる。
【0009】平均複屈折率(△n)と複屈折率むら(Rn)はPVA系フィルムの光学的均質性を表し,各々の値が小さい程,光学的均質性が高いフィルムと言える。本発明のPVA系フィルムは,平均複屈折率(△n)が1.0×10^(-3)以下,好ましくは0.6×10^(-3)以下,さらに好ましくは0.3×10^(-3)以下であり,かつ複屈折率むら(Rn)は0.13×10^(-3)以下,好ましくは0.10×10^(-3)以下,さらに好ましくは0.07×10^(-3)以下である。平均複屈折率(△n)が1.0×10^(-3)を越える場合には,PVA系フィルムの最大延伸倍率が低下する。複屈折率むら(Rn)が0.13×10^(-3)を越える場合には,染色工程における染色むらや延伸工程における延伸むらが生じやすく,その結果,得られたPVA系偏光膜は,二色性比むら(△Rd)や透過度むら(Ry)が大きくなり,品質上好ましくない。また,PVA系位相差膜の場合も同様であり,原反のPVA系フィルムの複屈折率むら(Rn)がそのまま残り,その結果,得られたPVA系位相差膜には,位相差むら(Re)(複屈折率と厚さの積のむら)が大きくなり,品質上好ましくない。」

カ 「【0013】本発明のPVA系フィルムは平均厚さ(t)が20?100μmの範囲,好ましくは50?100μm,さらに好ましくは60?80μmの範囲であり,かつ厚さむら(Rt)が3%以下,好ましくは2.7%以下,さらに好ましくは2.0%以下である。PVA系フィルムの平均厚さ(t)が20μm未満の場合には,PVA系フィルムを偏光膜に加工する時の延伸工程において延伸むらが生じやすく,延伸後のフィルム厚さが薄くなる為,その取扱いがむづかしくなる。PVA系フィルムの厚さtが100μmを越える場合にも延伸工程において延伸むらが生じやすい。
【0014】また,厚さむら(Rt)が3.0%を越える場合には,PVA系フィルムを偏光膜に加工する時の延伸工程において,局所的な延伸むらが生じ,その結果,得られた偏光膜は,二色性比むら(△Rd)や透過度むら(Ry)が大きくなり好ましくない。またPVA系位相差膜の場合も同様であり,原反のPVA系フィルムの厚さむら(Rt)がそのまま残り,位相差むら(Re)が大きくなり好ましくない。平均複屈折率(△n)及び複屈折率むら(Rn)の制限条件及び好適条件は,第1発明と同一である。
【0015】本発明のPVA系フィルムの長さおよび幅には特に制限がない。PVA系フィルムの幅の下限としては50cm以上が好ましく,80cm以上がより好ましく,100cm以上が特に好ましい。PVA系フィルムの幅の上限としては3m以下が好ましく,2.5m以下がより好ましい。PVA系フィルムの長さとしては1m以上が好ましく,10m以上がより好ましい。」

キ 「【0042】本発明は第5発明として,位相差むら(Re)が2%以下であるポリビニルアルコール系位相差膜を提供する。本発明における位相差むら(Re)は,PVA系位相差膜のリタデーション(複屈折率×膜厚)を測定し算出される。リタデーションは,リタデーション測定器(神崎製紙(株)製のKOBRA-21(商品名))を使用して測定される。位相差むら(Re)は,PVA系位相差膜の延伸方向の少なくとも1点の延伸方向と直交方向について,1mmから10cmの範囲のピッチを固定して,第1発明の測定方法により測定されたリタデーション値の平均値,及び最大値と最小値の差から次式により算出される。
位相差むら(Re)={(リタデーション値の最大値-リタデーション値の最小値)/リタデーション値の平均値}×100
【0043】本発明の位相差むら(Re)は2%以下であり,好ましくは1.4%以下,更に好ましくは1.0%以下である。位相差むら(Re)が2%を越える場合には,位相差膜としての位相差の修正機能が劣り好ましくない。
【0044】本発明のPVA系位相差膜のその他の構成要件については特に制限はなく,PVA系位相差膜の膜厚は5?70μm程度が好ましい。PVA系位相差膜の配合成分としては特に制限はないが,ホウ酸,ホウ砂,紫外線吸収剤あるいは安定剤などが添加されていてもよい。本発明の位相差膜の幅および長さには特に制限はない。位相差膜の幅の下限としては40cm以上が好ましく,60cm以上がより好ましい。位相差膜の長さとしては1m以上が好ましく,10m以上がより好ましい。
【0045】本発明は第6発明として,上記第1発明または第2発明のPVA系フィルムを原反として使用してPVA系位相差膜を製造する方法を提供する。本発明におけるPVA系位相差膜の製造方法は,上記の構成要件以外には特に制限はないが,以下にその好ましい態様を記載する。
【0046】原反のPVA系フィルムを一軸延伸,乾燥,熱固定して,PVA系位相差膜を作製する。PVA系フィルムを20?50℃の水中で膨潤し,20?50℃の空気中,あるいは水中で1.01?3倍に一軸方向に延伸し,50?100℃で乾燥し,50℃?200℃で熱固定する方法,あるいはPVA系フィルムを20?100℃に予熱し,80?180℃の空気中で1.01?3倍に一軸方向に延伸し,50℃?200℃で熱固定する方法が挙げられる。
【0047】予熱装置としては,ロール予熱,熱風予熱装置等が挙げられ,延伸装置としては二本ロールあるいは多段延伸装置,テンタータイプ延伸装置等が挙げられる。本発明のPVA系フィルムは,平均複屈折率が低く,複屈折率むらが少なく,厚薄むらが少ないため,均一に延伸が可能であり,延伸むらによる位相差むらを生じにくく,光学的に均質なPVA位相差膜を得ることができるものと推定される。」

ク 「【0048】
【実施例】以下の実施例において本発明をより具体的に説明する。なお,以下の実施例及び比較例におけるフィルム,偏光膜及び位相差膜の物性は,以下の方法により測定した。また,以下の測定において,フィルム,偏光膜及び位相差膜の耳部はサンプリングから除外した。」

ケ 「【0052】位相差むら(Re):PVA位相差膜の延伸方向の1点の延伸方向と直角方向に5cmピッチでサンプリングを行い,リタデーション測定器(神崎製紙(株)製のKOBRA-21(商品名))を使用して測定されたリタデーションの測定値の最大値と最小値の差から,第5発明の説明の欄に記載した式により,位相差むら(Re)を求めた。」

コ 「【0057】実施例3
PVA(重合度1750,けん化度99.9モル%)100重量部,さらに溶媒として水を加え,含水率60%wbの均質な原液をダイへ定量供給し,図1のベルト型製膜機11にて,厚さ75μm,幅1.5mのフィルムを製造し,熱処理機16で熱処理を施した。以下に,主な製造条件を示す。
ダイ :T型スリットダイ ダイ温度 100℃
製膜機:ステンレス製ベルト 長さ 20m
ベルト速度 10m/分
乾燥温度 100℃?150℃
乾燥時間 120秒
フィルム剥離時の含水率 9.0wt%
熱処理機:熱風式 熱風温度 160℃
処理時間 15秒
出口フィルムの含水率 1.5wt%
調湿後のフィルムの含水率 6.0wt%
こうして得られたフィルムの物性を表1に示す。このフィルムは,厚さむら,平均複屈折率及び複屈折率むらが小さく,延伸性が良好であった。」

サ「【0065】
【表1】



シ 「【0063】実施例6
実施例3の原反を使用し,一軸延伸により位相差膜を製造した。製造工程として膨潤,延伸,乾燥及び熱固定の工程を通し,膨潤及び延伸は35℃水中で,製品の位相差膜の位相差が350nmとなる様に延伸倍率を決定した。熱処理強化後の原反の物性及び得られた幅1.2mの位相差膜の物性を表3に示す。原反の複屈折率が低く,延伸倍率が上げられたこと,また,原反の複屈折率むらが小さく,厚さむらが小さい為,得られた位相差膜は位相差むらが少なかった。」

ス 「【0067】
【表3】



セ 「【0068】
【発明の効果】
(1)平均複屈折率が小さく,かつ複屈折率むらが少ないPVA系フィルムを使用することにより,偏光性能むらの少ない,高品位のPVA系偏光膜を得ることができる。また,位相差むらの少ないPVA系位相差膜を得ることができる。
(2)さらに,厚薄の少ないPVA系フィルムを使用することにより,PVA系偏光膜及びPVA系位相差膜の光学的均質性が向上する。
(3)LCDの大型化に伴う広幅のPVA系偏光膜及びPVA系位相差膜に対しても,光学的均質性の高い製品を得ることができる。」

(2) 引用発明
引用例には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 原反のPVA系フィルムを一軸延伸して作製したPVA系位相差膜であって,
PVA位相差膜の延伸方向の1点の延伸方向と直角方向に5cmピッチでサンプリングを行い,リタデーション測定器を使用して測定されたリタデーションの測定値の最大値と最小値の差から,下式により,位相差むら(Re)を求めたとき,位相差むら(Re)が2%以下であるPVA系位相差膜。
位相差むら(Re)={(リタデーション値の最大値-リタデーション値の最小値)/リタデーション値の平均値}×100


(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 位相差フィルム
引用発明の「PVA系位相差膜」は,「原反のPVA系フィルムを一軸延伸して作製したPVA系位相差膜」である。ここで,引用発明の「原反のPVA系フィルム」,「一軸延伸」及び「PVA系位相差膜」は,それぞれ,本件補正後発明の「ポリビニルアルコール系重合体フィルム」,「一軸延伸」,「位相差フィルム」に相当する。
そうしてみると,引用発明の「原反のPVA系フィルムを一軸延伸して作製したPVA系位相差膜」は,本件補正後発明の「ポリビニルアルコール系重合体フィルムを一軸延伸してなる位相差フィルム」の要件を満たす。

イ 測定地点
引用発明は,「PVA位相差膜の延伸方向の1点の延伸方向と直角方向に5cmピッチでサンプリング」を行っている。
ここで,引用発明の「PVA位相差膜の延伸方向の1点の延伸方向と直角方向」及び「5cmピッチ」は,本件補正後発明の「当該位相差フィルムの幅方向」及び「5cm間隔」に相当する。また,引用発明の「サンプリング」を行った点(以下「サンプリング点」という。)は,本件補正後発明の「測定地点(T)」に相当する。
したがって,引用発明は,本件補正後発明の「当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め,当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定め(但し,位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としないこととする),当該測定地点(T)のうち,最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方を含むように,一軸延伸方向に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定めた際に」のうち,「当該位相差フィルムの」「幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定め」「た際に」の要件を満たす。

ウ 面内位相差値
引用発明の「PVA系位相差膜」は,「リタデーション測定器を使用して測定されたリタデーションの測定値の最大値と最小値の差から,下式により,位相差むら(Re)を求めたとき,位相差むら(Re)が2%以下である
位相差むら(Re)={(リタデーション値の最大値-リタデーション値の最小値)/リタデーション値の平均値}×100」。また,位相差むら(Re)を定義する面内位相差値(リタデーション)が,「進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である」所定波長「の光で測定した位相差値」で定義されることは,技術常識である。
そうしてみると,本件補正後発明の「測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり」の構成及び「面内位相差値:進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である波長540nmの光で測定した位相差値」の定義に関して,引用発明と本件補正後発明は,「全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が」所定値「以下であり」の構成の点,及び「面内位相差値:進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である」所定の測定波長「の光で測定した位相差値」の定義の点で共通する。

(4) 一致点
本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「 ポリビニルアルコール系重合体フィルムを一軸延伸してなる位相差フィルムであって,当該位相差フィルムの幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定めた際に,
全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が所定値以下である,
位相差フィルム。
面内位相差値:進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である所定の測定波長の光で測定した位相差値。」

(5) 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点において,相違するか,あるいは,一応相違する。

(相違点1)
面内位相差値の定義に関して,本件補正後発明の測定波長は,「540nm」であるのに対し,引用発明の測定波長は明らかでない点。

(相違点2)
本件補正後発明の「測定地点(T)」は,「当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め,当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定め」たものであるのに対し,引用発明のサンプリング点は,「幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定め」たものであるとしても,「幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め,当該測定地点(C)を含むように」定めたものであるか,明らかではない点。

(相違点3)
本件補正後発明の「測定地点(T)」は,「位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としない」ものであるのに対し,引用発明のサンプリング点は,これが明らかでない点。

(相違点4)
本件補正後発明は,測定地点(T)に加えて,「当該測定地点(T)のうち,最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方を含むように,一軸延伸方向に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定め」ているのに対して,引用発明は,この構成を具備しない点。

(相違点5)
面内位相差値について,本件補正後発明は,「(1)測定地点(C)における以下の面内位相差値が50?1000nmであり,(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり,(3)隣接する2つの測定地点(T)における以下の面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下であり,(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(M)において8nm以下である」のに対して,引用発明は,これが明らかでない点。

(6) 判断
ア 相違点1について
引用例の段落【0002】及び【0005】には,それぞれ,「光の透過機能及び遮蔽機能を有する偏光板,並びに光の位相修正機能を有する位相差板は,光のスイッチング機能を有する液晶とともに,液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。」及び「本発明は上記従来の問題に鑑みてなされたもので,光学的均質性の優れたPVA系フィルム,PVA系偏光膜,及びPVA系位相差膜を提供することを目的とする。」と記載されている。これら記載からみて,引用発明は,液晶ディスプレイへの適用を前提として,光学的性能の高い位相差膜を提供することを目的としたものである。そうしてみると,引用発明のPVA系位相差膜のリタデーションは,液晶ディスプレイが発する可視光(赤,緑,青)を代表する中央近傍の波長において測定すべきであり,そうしなければ,PVA系位相差膜のリタデーションを適切に評価したことにならない。また,540nm(緑)が,可視光の範囲との関係において中心近傍の波長であること,及び可視域でのPVA系位相差膜のリタデーションの波長分散が僅かであることは,技術常識(物理現象)である。
以上のとおりであるから,引用例には,リタデーション値の測定波長に関する明示的な記載は存在しないけれども,引用発明のリタデーション値は,540nmにおいて測定されたものと実質的に相違しないと解するのが妥当であり,仮にそうでないとしても,引用発明のリタデーション値を,540nmで測定することは,当業者が適宜なし得る事項である。なお,測定波長として540nmを採用した具体例が必要ならば,特開2006-209097号公報(以下「周知例1」という。)の【0071】,特開2000-19325号公報(以下「周知例2」という。)の段落【0015】,特開平11-52376号公報(以下「周知例3」という。)の段落【0072】を参照されたい。

イ 相違点2?5について
相違点2?4に係る記載は,測定地点に関する記載であって,その測定地点において面内位相差値を測定したときに,相違点5に係る(1)?(4)の要件を満たすか否かが,問題となる。そこで,相違点2?5について,まとめて検討する。
(ア)(1)の要件
本件補正後発明において,どの程度の範囲をもって「中央部」とするのかは,必ずしも明確であるとはいえない。そこで,発明の詳細な説明を参照すると,段落【0066】には,「以下の実施例または比較例で得られた位相差フィルムの幅方向の中央部から,一軸延伸方向12cm×幅方向2cmの長方形の試験用フィルムを切り出した。」と記載されている。そうしてみると,本件補正後発明の「中央部」とは,概ね,この程度の範囲を意味すると解するのが妥当である。
ところで,引用発明の「PVA位相差膜」は,「PVA位相差膜の延伸方向の1点の延伸方向と直角方向に5cmピッチでサンプリングを行い,リタデーション測定器を使用して測定されたリタデーションの測定値の最大値と最小値の差から,下式により,位相差むら(Re)を求めたとき,位相差むら(Re)が2%以下である」ところ,引用例の段落【0063】及び【0067】には,面内位相差値が352nm,位相差むらが1.5%の位相差膜の実施例6が開示されている。ここで,352nmの1.5%は,約5nmである。また,例えば,上記周知例1?3の前記段落には,液晶ディスプレイに使用される,波長540nmに対する1/4波長板(面内位相差値135nm)が開示されているところ,135nmの2%は,約3nmである。さらに,1/2波長板(面内位相差値270nm)で考えても,約5nmである。
引用発明のPVA系位相差膜は,面内位相差値を限定するものではないけれども,通常の位相差板の面内位相差値を心得ており,また,引用例の実施例6に接した当業者において,引用発明の「幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め」た際に,「(1)測定地点(C)における以下の面内位相差値が50?1000nm」となることは,自明である。

(イ)(2)の要件
前記(ア)でも述べたとおり,引用発明のPVA系位相差膜は,面内位相差値を限定するものではないけれども,通常の位相差板の面内位相差値を心得ており,また,引用例の実施例6に接した当業者において,引用発明のPVA系位相差膜の位相差むらが高々5nm程度であることは自明である。また,PVA系位相差膜の幅方向端部の位相差むらが大きいことについても,引用例の段落【0008】に「上記測定方法及び以下の他の項目の測定方法においては,PVA系フィルムの実用に供されない部分(たとえばフィルムの両耳部,ロール状捲製品の内筒への接着部,ロール状捲製品の捲終りの端部等)は測定点から除かれる。」と記載されているから,実用に供するPVA系位相差膜の割合や所望とする面内位相差の均一性に応じて耳部を3cm以内とすることは,引用例が示唆する事項であり,当業者が適宜設定しうる事項である。すなわち,引用例の段落【0004】及び【0009】には,それぞれ,「フィルムの幅方向の両端部において複屈折率が高いPVA系フィルムを原反として使用した場合には,…広幅のPVA位相差膜の両端部の位相差むら(Re)が大きかった。」及び「平均複屈折率(△n)と複屈折率むら(Rn)はPVA系フィルムの光学的均質性を表し,各々の値が小さい程,光学的均質性が高いフィルムと言える。」と記載されている。これら引用例の記載に接した当業者ならば,引用発明の「原反のPVA系フィルム」として,実用に供されない部分であるフィルムの両耳部をあらかじめ除いた光学的均質性が高い「原反のPVA系フィルム」を採用し,また,幅や延伸倍率を抑えて引用発明の「PVA位相差膜」とすることにより,PVA位相差膜の両耳部のごく近傍まで測定しても「位相差むら(Re)が2%以下であるPVA系位相差膜」とすること,さらに,引用発明において,「位相差むら(Re)が2%以下である」という要件を満たさない部分を除いたものを「PVA系位相差膜」とすることは,光学的均質性の優れたPVA系位相差膜を提供することを目的とする当業者が,実用に供するPVA系位相差膜の割合や所望とする面内位相差の均一性に応じて,適宜行いうる事項である。また,そのようにしてなる「PVA系位相差膜」は,「測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定め(但し,位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としないこととする)」際に,「(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下」となる。なお,本件出願の段落【0071】には,「図1に示したような3本の金属製の延伸ロール(直径はいずれも30cm)とそれらに付属された表面がゴム製のニップロール(直径はいずれも20cm)から構成される延伸装置によって,30℃,50%RHの空気中で延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)2.3倍で一軸延伸を行った後,50℃で3分間乾燥し,両端よりそれぞれ3cmずつ耳部を切り取った後ロール状に巻き取って,厚さ12μm,幅47cmの位相差フィルムを連続的に製造した。」と記載されているから,本願補正後発明の「位相差フィルム」には,光学性能の悪い両端部分を切り取った位相差フィルムが含まれる。
加えて,本願補正後発明の測定地点(C)における面内位相差値の下限は50nmであるところ,引用発明において,面内位相差値50nmを目標として作製されたPVA系位相差膜の位相差むら(2%)は1nmと計算されるから,端から3cmの面内位相差値が0nmや100nmにまで急変することは,およそ考えられない。

(ウ)(3)の要件
引用発明の「PVA系位相差膜」は,「位相差むら(Re)が2%以下である」から,(3)の要件を満たす。

(エ)(4)の要件
前記アで述べたとおり,引用発明は,液晶ディスプレイへの適用を前提として,光学的性能の高い位相差膜を提供することを目的としたものである。
また,液晶ディスプレイへの適用を前提としたPVA系位相差膜は,液晶ディスプレイの縦又は横の一方向においてのみ光学的性能が高くても無意味であり,縦横全ての部分において高い光学的性能が求められるものである。
したがって,引用発明のPVA系位相差膜が,延伸方向においても「位相差むら(Re)が2%以下である」ことは自明である。
あるいは,引用例の段落【0063】及び【表3】には,実施例6として,350nmを目標として延伸倍率を決定してなるPVA系位相差膜の面内位相差値が,352nmであったと記載されているから,引用発明が前提とするPVA系位相差膜の製造装置は,2nm程度の精度でPVA系位相差膜を製造可能なものである。したがって,引用発明のPVA系位相差膜が,延伸方向においても「位相差むら(Re)が2%以下である」ことは自明である。
したがって,引用発明は,「測定地点(T)のうち,最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方を含むように,一軸延伸方向に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定めた際に」,「(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(M)において8nm以下である」。

(オ)相違点1?5についての判断のまとめ
以上のとおりであるから,相違点2及び4については実質的な相違点ではなく,また,相違点1,3及び5についても,少なくとも,当業者が容易に発明できたものである。

ウ 効果について
発明の効果に関し,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0009】には,「本発明の位相差フィルムは位相差むらが小さく光学的均質性に優れていて,着色むらやコントラストむらの発生が抑制された液晶表示装置を与えることができる。」と記載されている。
本件補正後発明の効果は,引用発明も奏する効果である。

エ 請求人の主張について
請求人は,審判請求書(補正後の3頁)において,「引用文献1には,少なくとも,本願発明における上記(4)の要件を具備する位相差フィルムは何ら記載も示唆もされておりません。また,本願発明における上記(4)の要件は,位相差フィルムの一軸延伸方向における局所的な面内位相差のバラツキの程度を表す指標として理解することができるものであるところ(本願明細書の段落0041等を参照),引用文献1には,位相差フィルムの一軸延伸方向における局所的な面内位相差のバラツキを低減しようとする技術思想が何ら記載も示唆もされておりません。」と主張する。
しかしながら,上記イ(エ)で述べたとおり,引用発明は,液晶ディスプレイへの適用を前提として,光学的性能の高い位相差膜を提供することを目的としたものであるから,縦横全ての部分において高い光学的性能が求められる。加えて,局所的な面内位相差のバラツキは,視認者が気付きやすい,局所的な表示むらを招く。
したがって,引用発明のPVA系位相差膜は,縦横全ての部分において,特に局所的な面内位相差のバラツキがないものと解するのが相当である。
請求人の主張は採用できない。

(7) 小括
本件補正後発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

3 補正却下のまとめ
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記の通り却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,上記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本件出願の請求項1に係る発明は,原出願の出願前に日本国又は外国において頒布された前記引用例に記載された発明に基づいて,原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例に記載の事項及び引用発明について
引用例に記載の事項及び引用発明については,前記「第2」2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明の「(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(M)において8nm以下である」の構成(数値範囲)を,「(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が,全ての隣接する2つの測定地点(M)において10nm以下である」の構成(数値範囲)に拡張したものである。
そうすると,本願発明の構成を拡張したものに相当する本願補正発明が前記「第2」2(3)?(7)で述べたとおり,引用発明に基づいて,原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様に,引用発明に基づいて,原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて,原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-06 
結審通知日 2016-04-12 
審決日 2016-04-25 
出願番号 特願2013-166068(P2013-166068)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 居島 一仁大森 伸一  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 佐竹 政彦
樋口 信宏
発明の名称 位相差フィルム  

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