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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B43L
管理番号 1315655
異議申立番号 異議2015-700186  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-13 
確定日 2016-05-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5717552号「媒体処理装置」の請求項4、11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5717552号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5717552号の請求項4、及11に係る特許についての出願は、平成23年6月14日(優先権主張 平成23年6月10日)に特許出願され、平成27年3月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人地野弘子により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年1月18日付けで取消理由を通知し、同年3月16日付けで意見書が提出されたものである。

第2.本件特許発明
本件特許の請求項4、及び11に係る発明は、特許請求の範囲の請求項4、及び11に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明4」、「本件特許発明11」という。)。
「【請求項4】
媒体に対して、第1の処理手段及び第2の処理手段によって、少なくとも二種類の処理を行なうものであり、
上記第1の処理手段を保持する第1の保持手段と、
上記第2の処理手段を保持する第2の保持手段と、
上記第1の保持手段が上記第1の処理手段を保持し、且つ、上記第2の保持手段が上記第2の処理手段を保持している状態で、一方の処理手段と上記媒体との距離を、他方の処理手段と上記媒体との距離に比べて、近づけたり遠ざけたりする距離変更手段と、
を備える、キャリッジを備え、
上記キャリッジは、上記第1の処理手段及び上記第2の処理手段の上下位置を制御する上下位置制御手段を備えており、
上記上下位置制御手段は、上記第1の処理手段及び上記第2の処理手段のうち上記媒体に近い方を上記媒体に押し付ける力を、上記第1の処理手段を上記媒体に押し付けるときと上記第2の処理手段を上記媒体に押し付けるときとで変更するものであり、
上記上下位置制御手段が一つのソレノイドであることを特徴とする媒体処理装置。
【請求項11】
上記第1の処理手段及び上記第2の処理手段のうち、一方が上記媒体に作画するものであり、他方が上記媒体を切断するものであることを特徴とする請求項1?10のいずれか1項に記載の媒体処理装置。」

第3.取消理由の概要
当審において、請求項4、及び11に係る特許に対して通知した取消理由は、要旨次のとおりである。
刊行物1(中国実用新案第201419594号明細書(甲1号証))、刊行物2(特開平7-290895号公報(甲4号証))、周知の技術事項1(例えば、特開2001-212790号公報(甲2号証)、実願昭63-157091号(実開平2-76091号)のマイクロフィルム(甲3号証)、及び周知の技術事項2(例えば、特開平7-290895号公報(甲4号証)、実願平3-37905号(実開平4-122095号)のマイクロフィルム(甲5号証))により、請求項4、及び11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反する。

第4.甲各号証の記載
1.甲1号証
特許異議申立人が提出した甲1号証全訳翻訳文に基づいて記載する。
刊行物1には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)「移動可能な方式でコンピュータプロットカッティングマシンに設けられた軌道上に結合し、切断用のカッターがその上に設けられる切断刃載置ベースと、
プロットペンがその上に固定され、前記切断刃載置ベースの一方の側に結合して、前記切断刃載置ベースに伴い前記軌道上を移動してプロットを実施するプロットペンベースと、を含むことを特徴とするコンピュータプロットカッティングマシン可動ペン装置。」(【請求項1】)
(2)「前記プロットペンベースに固定装置が設けられ、プロットペンは前記固定装置によりプロットペンベース上に固定されることを特徴とする請求項1に記載のコンピュータプロットカッティングマシン可動ペン装置。」(【請求項2】)
(3)「前記プロットペンベースは、プロットペンの位置を調整するための伸縮機構を更に含み、かつ、上記軌道の一方の側に前記伸縮機構を調整するための調整具が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のコンピュータプロットカッティングマシン可動ペン装置。」(【請求項5】)
(4)「第8?9図に示されている通り、調整具21が伸縮機構124中に挿入されると、前記伸縮機構124は前記プロットペン125を挿入孔121から伸出させ、プロットペン125を切断刃載置ベース11のスライドによりワーク3上でプロット作業を実施可能とさせる。第10?11図に示されている通り、プロット作業が完了すると、コンピュータプロットカッティングマシン可動ペン装置1は軌道2の一端までスライドし、前記伸縮機構124がプロットペン125を挿入孔121内に後退させるように、調整具21を伸縮機構124中に再度挿入させる。」(4頁下から5行?5頁2行)
(5)また、図1、7から、以下の事項が看取できる。
「切断刃載置ベースに固定装置が設けられ、切断用のカッターは固定装置により切断刃載置ベース上に固定されている。」
これらの記載、及び図示内容を総合すると、甲1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「移動可能な方式でコンピュータプロットカッティングマシンに設けられた軌道上に結合し、切断用のカッターが設けられる切断刃載置ベースと、
プロットペンが固定され、前記切断刃載置ベースの一方の側に結合して、前記切断刃載置ベースに伴い前記軌道上を移動してプロットを実施するプロットペンベースと、を含むコンピュータプロットカッティングマシン可動ペン装置を備え、
前記プロットペンベースに固定装置が設けられ、プロットペンは前記固定装置によりプロットペンベース上に固定されており、
前記プロットペンベースは、プロットペンの位置を調整するための伸縮機構を更に含み、かつ、上記軌道の一方の側に前記伸縮機構を調整するための調整具が設けられており、
切断刃載置ベースに固定装置が設けられ、切断用のカッターは固定装置により切断刃載置ベース上に固定されており、
調整具が伸縮機構中に挿入されると、前記伸縮機構は前記プロットペンを挿入孔から伸出させ、ワーク上でプロット作業を実施可能とさせ、プロット作業が完了すると、調整具を伸縮機構中に再度挿入させ、前記伸縮機構がプロットペンを挿入孔内に後退させるコンピュータプロットカッティングマシン。」
2.甲4号証
甲4号証には、次の事項が記載されている。
(1)「従来より図4に示したようなプロッタが知られている。図4において、プロッタ10は、用紙またはシート状加工物などを載置する載置板11に対して横方向(X方向)に移動可能なYレール12と、上記Yレール12に沿って縦方向(Y方向)に移動可能なキャリッジ13と、上記キャリッジ13の移動やペンの筆圧などを操作する操作子14などが配置された操作パネルとを有して構成されている。」(段落【0002】)
(2)「図5を参照して上記キャリッジ13を詳しく説明すると、まず、上記キャリッジ13の基体となるキャリッジベース16は、図5(a)の平面図に示すように、上面視において下向きの略コの字状に形成され、図5(b)の正面図に示すように、前方が開放された箱体になっている。上記キャリッジ13おいては、キャリッジベース16の略中央部にソレノイド17が装着されており、キャリッジベース16上におけるソレノイド17の左右の位置にはそれぞれガイド軸18a,18bが立設されている。また、上記ソレノイド17の上面部には可動部材19がその略中央部においてネジ止めされており、上記可動部材19の一端にはペンを保持するペン保持部20、そして上記可動部材19の他端にはソレノイド17の右側に位置するガイド軸18aに対して摺動するガイドローラ21a,21bが取り付けられている。さらに、上記可動部材19のペン保持部取付部の近傍には挿通穴22が穿設されており(図5(a)参照)、上記挿通穴22にはソレノイド17の左側に位置するガイド軸18bが挿通されている。そして、上記ソレノイド17に通電されたときには、ソレノイド17の上下動に伴って、ソレノイド17にネジ止めされた可動部材19がガイド軸18a,18bに沿って上下動する。このため、可動部材19に取り付けられたペン保持部20も上下動することになり、ペン保持部20に保持されるペンがマーク作業面に離合してマーク作業を行えるようになされている。」(段落【0003】)
(3)「また、上記プロッタ10は、上記ソレノイド17への電流値を制御することによって筆圧を制御することができる。詳しくは、図6に示すように上記プロッタ内のCPU30からD/A変換器31を介して定電流ドライバ32に指定電流信号を出力すると、その指定された電流が定電流ドライバ32からソレノイド17に出力されて所望の筆圧を付与するようになっている。ここで、CPU30から出力された指定電流信号は、ROM33に記憶された電流・筆圧対応表(テーブル)からペン種に見合った筆圧を付与するための電流値が指定されたものであり、例えば、500g筆圧のペンシルでは0.45A、750g筆圧のカッティングペンでは0.6Aの電流値が指定されている。」(段落【0004】)
上記の記載を総合すると、甲4号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「キャリッジ13を有して構成されているプロッタ10であって、
キャリッジ13おいては、ソレノイド17が装着されており、上記ソレノイド17の上面部には可動部材19がその略中央部においてネジ止めされており、上記可動部材19の一端にはペンを保持するペン保持部20が取り付けられており、
上記ソレノイド17に通電されたときには、ソレノイド17の上下動に伴って、可動部材19に取り付けられたペン保持部20も上下動することになり、ペン保持部20に保持されるペンがマーク作業面に離合してマーク作業を行えるようになされており、
また、ソレノイド17への電流値を制御することによって筆圧を制御することができ、
例えば、500g筆圧のペンシルでは0.45A、750g筆圧のカッティングペンでは0.6Aの電流値が指定されているプロッタ10。」

第5.判断
(1)本件特許発明4について
ア.対比
本件特許発明4と引用発明1とを対比すると、
後者における「ワーク」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「媒体」に相当し、以下同様に、「プロットペン」は「第1の処理手段」に、「カッター」は「第2の処理手段」に、「プロットペンベースに設けられた固定装置」は「第1の保持手段」に、「切断刃載置ベースに設けられた固定装置」は「第2の保持手段」に、「コンピュータプロットカッティングマシン可動ペン装置」は「キャリッジ」に、「コンピュータプロットカッティングマシン」は「媒体処理装置」に、それぞれ相当する。
また、後者における「伸縮機構」は、プロットペンの位置を調整するものであって、調整具が伸縮機構中に挿入されると、前記伸縮機構は前記プロットペンを挿入孔から伸出させ、ワーク上でプロット作業を実施可能とさせ、プロット作業が完了すると、調整具を伸縮機構中に再度挿入させ、前記伸縮機構がプロットペンを挿入孔内に後退させており、また、切断用のカッターは、固定装置により切断刃載置ベース上に固定されているから、プロットペンが伸出されている状態では、プロットペンとワークとの距離は、切断用のカッターとワークとの距離に比べて、近くなり、プロットペンが後退されている状態では、プロットペンとワークとの距離は、切断用のカッターとワークとの距離に比べて、遠くなるものであることは明らかである。してみると、後者における「伸縮機構」は、前者における「距離変更手段」に相当し、第1の保持手段が第1の処理手段を保持し、且つ、第2の保持手段が第2の処理手段を保持している状態で、一方の処理手段と媒体との距離を、他方の処理手段と上記媒体との距離に比べて、近づけたり遠ざけたりする距離変更手段といえる。
したがって、両者は、
「媒体に対して、第1の処理手段及び第2の処理手段によって、少なくとも二種類の処理を行なうものであり、
上記第1の処理手段を保持する第1の保持手段と、
上記第2の処理手段を保持する第2の保持手段と、
上記第1の保持手段が上記第1の処理手段を保持し、且つ、上記第2の保持手段が上記第2の処理手段を保持している状態で、一方の処理手段と上記媒体との距離を、他方の処理手段と上記媒体との距離に比べて、近づけたり遠ざけたりする距離変更手段と、
を備える、キャリッジを備える、
媒体処理装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本件特許発明4においては、キャリッジが、「第1の処理手段及び第2の処理手段の上下位置を制御する上下位置制御手段を備えて」いるのに対し、引用発明1においては、その点が明確ではない点。
[相違点2]
本件特許発明4においては、「上下位置制御手段は、第1の処理手段及び第2の処理手段のうち媒体に近い方を上記媒体に押し付ける力を、上記第1の処理手段を上記媒体に押し付けるときと上記第2の処理手段を上記媒体に押し付けるときとで変更するものであ」るのに対し、引用発明1においては、その点を備えていない点。
[相違点3]
本件特許発明4においては、「上下位置制御手段が一つのソレノイドである」のに対し、引用発明1においては、その点が明確ではない点。
イ.判断
上記相違点2について以下検討する。
引用発明2は、上記「第4 2.」のとおりであって、引用発明2における「ペンシル」は、その構造、機能、作用等からみて、本件特許発明4における「第1の処理手段」に相当し、以下同様に、「カッティングペン」は「第2の処理手段」に、「ペン保持部20」は「保持手段」に、「キャリッジ13」は「キャリッジ」に、「ソレノイド17」は「『上下位置制御手段』、『ソレノイド』」に、「プロッタ10」は「媒体処理装置」に、それぞれ相当する。
してみると、引用発明2のソレノイド(上下位置制御手段)は、上記相違点2に係る本件特許発明4の「第1の処理手段を媒体に押し付けるときと第2の処理手段を上記媒体に押し付けるときとで変更するものであ」るとの発明特定事項を備えるものであるが、引用発明2は、ペン保持部20(保持手段)が1つしか備えられていないものであって、上記相違点2に係る本件特許発明4の「第1の処理手段及び第2の処理手段のうち媒体に近い方を上記媒体に押し付ける力を変更する」との発明特定事項を備えるものではない。この点に関して、一般に、媒体処理装置において、第1の処理手段及び第2の処理手段の上下位置を制御する1つの上下位置制御手段を備えるものは、本件の出願前に周知の技術事項(例えば、特開2001-212790号公報(甲2)の段落【0008】、【0009】、実願昭63-157091号(実開平2-76091号)のマイクロフィルム(甲3)の4頁6?11行、5頁下から5行?6頁3行、6頁下から1行?7頁5行参照。以下、「周知の技術事項1」という。)である。
しかしながら、引用発明1を上記相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項とするためには、まず、引用発明2を上記周知の技術事項1にを適用して、更に、引用発明2を上記周知の技術事項1に適用したものを、引用発明1に適用しなければならず、つまり、容易の容易、所謂後付けの論理となる。
また、一般に、媒体処理装置において、上下位置制御手段がソレノイドであるものは、本件の出願前に周知の技術事項(例えば、特開平7-290895号公報(甲4)の段落【0004】、実願平3-37905号(実開平4-122095号)のマイクロフィルム(甲5)の段落【0013】参照。以下、「周知の技術事項2」という。)であるが、上記相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項を備えるものではない。
そして、上記相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項が、当業者にとって設計事項とする根拠もない。
したがって、引用発明1において、上記相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項を備えるものとすることについて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、上記相違点1、及び3を検討するまでもなく、本件特許発明4は、引用発明1、及び2、並びに及び上記周知の技術事項1、及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明4の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本件特許発明11は、上記「(2)イ.」と同様の理由により、引用発明1、及び2、並びに及び上記周知の技術事項1、及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件特許発明4、及び11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明4、及び11に係る特許を取り消すべき理由をを発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
異議決定日 2016-05-16 
出願番号 特願2011-132642(P2011-132642)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B43L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫻井 茂樹  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 黒瀬 雅一
藤本 義仁
登録日 2015-03-27 
登録番号 特許第5717552号(P5717552)
権利者 株式会社ミマキエンジニアリング
発明の名称 媒体処理装置  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 井上 義隆  

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