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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1315656 |
異議申立番号 | 異議2016-700121 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-02-12 |
確定日 | 2016-05-27 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5763995号「ゴム組成物及びその製造方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5763995号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5763995号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成23年7月13日に特許出願され、平成27年6月19日に特許の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人上野圭子から特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 特許第5763995号の請求項1ないし9に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 下記工程(1)及び(2)を有し、下記条件(a)?(c)を満たすゴム組成物の製造方法。 工程(1):ゴムラテックスとセルロース繊維の水分散液とを混合した後、少なくとも水の一部を除去して該セルロース繊維/ゴム複合体を得る工程 工程(2):前記工程(1)で得られた複合体とゴムとを混合する工程 条件(a):該セルロース繊維が、天然セルロースにN-オキシル化合物を触媒として酸化反応させて得られるセルロース繊維である。 条件(b):該セルロース繊維の平均繊維径が1?10nmである。 条件(c):該セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシ基含有量が0.1?3.0mmol/gである。 【請求項2】 前記工程(2)において、ゴム100質量部に対して、セルロース繊維を0.1?100質量部配合する、請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。 【請求項3】 前記ゴムがジエン系ゴムである、請求項1又は2に記載のゴム組成物の製造方法。 【請求項4】 前記工程(2)において、更に、補強用充填剤を配合する、請求項1?3のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。 【請求項5】 前記補強用充填剤が、カーボンブラック及びシリカから選ばれる1種以上である、請求項4に記載のゴム組成物の製造方法。 【請求項6】 前記工程(2)において、更に、シランカップリング剤を配合する、請求項1?5のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。 【請求項7】 前記セルロース繊維が、下記工程(i)及び(ii)を有する製造方法を用いて得られるセルロース繊維である、請求項1?6のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。 工程(i):N-オキシル化合物と、酸化剤とを含む反応溶液中で、天然セルロース繊維を酸化して反応物繊維を得る工程 工程(ii):得られた該反応物繊維を媒体に分散させ微細化する工程 【請求項8】 前記天然セルロース繊維が、結晶化度50?95%であるミクロフィブリルから構成される天然セルロースであり、 前記セルロース繊維が、該天然セルロースから得られるセルロースI型結晶構造を有する高結晶性のセルロース繊維である、請求項1?7のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。 【請求項9】 請求項1?8のいずれかに記載の製造方法で製造されるゴム組成物。」 以下、特許第5763995号の請求項1ないし9に係る発明を、それぞれ、本件発明1ないし9という。 第3 特許異議の申立ての概要 特許異議申立人上野圭子は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2ないし第4号証を提出し、請求項1ないし9に係る特許は、甲第1号証及び甲第2号証から当業者が容易になし得た発明であって、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号により取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証 特開2006-206864号公報(以下、「甲1」ということがある。) 甲第2号証 特開2008-1728号公報 甲第3号証 Nanoscale,vol.3,p.71-85(2011)(公開2010年10月19日)写し及び部分翻訳 甲第4号証 J.Apply.Phys., vol.43, No.5, p.2235-2241(公開1972年5月)写し及び部分翻訳 以降、特許異議申立人上野圭子の主張に基づき検討する。 第4 引用発明について 1 甲1の記載及び甲1に記載の発明(引用発明) 甲1には以下の(1)?(8)の記載がある。 (1)「【請求項1】 平均径0.5μm未満の短繊維の水分散液とゴムラテックスとを攪拌混合し、その混合液から水を除去して得られるゴム/短繊維のマスターバッチ。 【請求項2】 前記短繊維の配合量がゴム(固形分)100重量部当り0.1?100重量部(以下、0.1?100phrという)である請求項1に記載のゴム/短繊維のマスターバッチ。 【請求項3】 前記短繊維がセルロース、アラミド及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の短繊維である請求項1又は2に記載のゴム/短繊維のマスターバッチ。」(特許請求の範囲の【請求項1】?【請求項3】) (2)「【請求項7】 請求項1?3のいずれか1項に記載の前記ゴム/短繊維マスターバッチを配合したゴム組成物。」(特許請求の範囲の【請求項7】) (3)「【0001】 本発明はゴム/短繊維マスターバッチ及びその製造方法並びにそれらのマスターバッチを用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは平均繊維径が0.5μm未満の短繊維をゴム中に均一に分散させたゴム/短繊維マスターバッチ及びその実用的な製造方法並びにそれらのマスターバッチを用い耐カット性その他の物性が改良された空気入りタイヤに関する。 【背景技術】 【0002】 ゴムを短繊維で補強して硬度やモジュラスなどを向上させる技術は既に知られている。短繊維は径が太くなるとゴムへ分散しやすくなるが、耐疲労性などの物性が低下する。逆に径を細くすると補強性や耐疲労性の面が向上するが、短繊維同士が絡まったりしてゴムへの分散性が悪化するという問題がある。これらの問題を解決するために、繊維の断面が海島構造を持つ短繊維をゴムに分散させて、混合時のせん断力によって短繊維をフィブリル化させ分散性と耐疲労性を両立させた短繊維が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、この短繊維はゴムと共に長時間混練させる必要があり、マトリックスゴムの劣化やフィブリル化度合いの制御の点で問題があった。 【0003】 また例えば特許文献2には、繊維状セルロースの懸濁液を高圧で小径オリフィスを通過させて微小繊維状セルロースを得る方法が開示されているが、これは水分散状態で得られるため、乾燥すると凝集してしまうため、乾燥させてゴムに配合することは行われていない。なお、特許文献3にはアラミド短繊維のマスターバッチをタイヤに利用することが開示されているが、この文献に開示されているアラミド短繊維の径は0.5?1000μmであり、短繊維の径が大きいため、耐疲労性に問題を残している。」(段落【0001】?【0003】) (4)「【0004】 一方、空気入りタイヤの各部位にはそれぞれの機能に応じて種々の物性が要求されており、タイヤビード部(通常、ビードワイヤー、ビードカバー、ビードフィラー、ガムフィニッシング、リムクッションなどから構成されている)用、特にガムフィニッシングやリムクッション用に適したゴム組成物の開発も盛んに行なわれている(例えば特許文献4参照)。これらのタイヤ部品についてもその性能を維持しつつタイヤ生産性を向上させる開発が行われており、例えば短繊維を配合することなくガムフィニッシングを構成しようとする試みもあるが、その耐カット性などは満足できるものでない。更にパンクやバーストなどによってタイヤ内圧が急激に低下してもタイヤが一定距離走行できるようにしたランフラットタイヤが知られており、近年ランフラット性と重量を両立させるため種々の工夫がこらされている(例えば特許文献5参照)。そこではサイド補強タイプのランフラットタイヤのサイドウォールを薄くしてタイヤの軽量化を図ろうとする試みもなされているが、これも耐カット性が問題となっている。 【0005】 【特許文献1】特開平10-7811号公報 【特許文献2】特開昭56-100801号公報 【特許文献3】特開2001-164052号公報 【特許文献4】特開平9-59430号公報 【特許文献5】特開2004-1627号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 従って、本発明の目的は、平均径0.5μm未満の短繊維がゴム中に均一に分散したゴム/短繊維マスターバッチ及びそれを実用的に製造する方法を提供することにある。 本発明の別の目的は空気入りタイヤのビード部特にガムフィニッシングやリムクッション、更にはランフラットタイヤのサイドウォールなどに使用するのに適した耐カット性などに優れたゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供することにある。」(段落【0004】?【0006】) (5)「【0012】 本発明によれば、平均繊維径0.5μm未満、好ましくは0.001?0.4μmの短繊維の水分散液と、ゴムラテックスとを攪拌混合し、その混合液から水を除去することにより、ゴム中に短繊維が均一に分散したゴム/短繊維のマスターバッチを得ることができる。使用するゴムラテックスとしては、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)などのゴムのラテックス(好ましくは濃度:5?60重量%)を用いるのが好ましい。」(段落【0012】) (6)「【0013】 本発明において使用する短繊維は、機械的せん断力でフィブリル化する繊維であれば、特にその種類には限定はないが、セルロース、アラミド、ポリビニルアルコール(PVA)などから選ばれる単独又は任意の混合物を使用するのが好ましい。短繊維の配合量は、好ましくはゴム(固形分)100重量部に対して、0.1?100重量部であり、更に好ましくは1?30重量部である。これらの繊維を短繊維にするのは、水に分散させた後に、叩解させたり、オリフィスを通過させるなどの機械的せん断を加えればよく、実際には各種繊維径の短繊維が市販されており、本発明ではこれらを水中に、例えば高圧ホモジナイザーなどで分散させてフィブリル化して用いることができる。」(段落【0013」) (7)「【0014】 本発明に従ってゴムラテックス及び短繊維の水分散液を混合する方法には特に限定はなく、例えばプロペラ式撹拌装置、ホモジナイザー、ロータリー撹拌装置、電磁撹拌装置、手動での撹拌などの一般的方法によることができる。本発明において、得られたゴムラテックス/短繊維の水分散液の混合液から水を除去するのには、例えば自然乾燥、オーブン乾燥、凍結乾燥、噴露乾燥などの一般的方法によることができる。本発明の好ましい態様では前記混合液をパルス燃焼による衝撃波下で乾燥することにより、せん断などを与えずに工業的に十分な能力でマスターバッチを製造することが可能となり、得られるマスターバッチも扱いやすいものとなる。このマスターバッチをゴム組成物に使用することで補強性と耐疲労性を両立させることが容易となる。即ち、本発明の好ましい態様ではゴムラテックス/短繊維混合分散液をパルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射して、水分を除去し瞬間的に乾燥させる。」(段落【0014】) (8)「【0018】 本発明に係るゴム組成物には、常法に従って、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練、加硫して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。」(段落【0018】) 上記摘示の特に(1)、(2)、(5)、(7)より、甲1には、ゴム/短繊維のマスターバッチに関し、短繊維がセルロースから選ばれ、平均径0.5μm未満の短繊維の水分散液とゴムラテックスとを攪拌混合し、得られたゴムラテックス/短繊維の水分散液の混合液から水を除去することでマスターバッチを製造することが記載されており、さらに、該ゴム/短繊維マスターバッチを配合してゴム組成物とすることが記載されている。 よって、甲1には、「平均径0.5μm未満のセルロース短繊維の水分散液とゴムラテックスとを攪拌混合し、得られたゴムラテックス/短繊維の水分散液の混合液から水を除去することでマスターバッチを製造し、該ゴム/短繊維マスターバッチを配合することによるゴム組成物の製造方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 2 甲第2ないし第4号証の記載 甲第2ないし第4号証には、以下の記載が認められる。 (1)「【請求項1】 最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2?150nmのセルロース繊維であって、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有することを特徴とする微細セルロース繊維。 ・・・ 【請求項5】 カルボキシル基の量がセルロース繊維の重量に対し、0.1?2.2mmol/gであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維。 ・・・ 【請求項7】 請求項6に記載した微細セルロース繊維の分散体の製造方法であって、天然セルロースを原料とし、水中においてN-オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、および水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程を有することを特徴とする微細セルロース繊維の分散体の製造方法。」(甲第2号証の特許請求の範囲の請求項1、3、5) (2)「【0041】 本発明の微細セルロース繊維は、新規なナノファイバー膜の原料や複合化材料用のナノフィラーとして適用し得るだけでなく、コーティング基材、各種機能性添加剤(ゲル化剤、乳化剤等)としても好適に利用できる。」(甲第2号証の段落【0041】) (3)「Native wood celluloses can be converted to individual nanofibers 3-4nm wide that are at least several microns in length, i.e. with aspect ratios >100, by TEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxylradical)-mediated oxidation and successive mild disintegration in water. Preparation methods and fundamental characteristics of TEMPO-oxidized cellulose nanofibers(TOCN) are reviewed in this paper. Significant amounts of C6 carboxylate groups are selectively formed on each cellulose.」「(要約)天然木材セルロースは、水中でのTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)を介した酸化反応とこれに続く水中での温和な解繊によって、3?4nm幅かつ数ミクロン以上の長さ、すなわちアスペクト比>100を有する独立したナノファイバーに変換できる。本稿では、TEMPO-酸化セルロースナノファイバー(TOCN)の製造方法および基本的な特性について報告する。」(甲第3号証のp71の1-5行の記載及びその部分訳) (4)「Both the tensile strength and elastic modulus of a poly(vinyl alcohol)(PVA) film were remarkably improved by 20% TOCN addition. However, similar results would be expected by the addition of only a few % TOCN if each TOCN is present individually in the TOCN/PVA composite film. Therefore, distribution control of individualized TOCN to obtain more homogeneous distribution in a composite is important to achieve the effect of high aspect ratio TOCNs on the mechanical properties.」「ポリビニルアルコール(PVA)フィルムの引張強度および弾性係数の両方は20%のTOCN添加によって顕著に改善された。しかしながら、個々のTOCNがPVA中に独立して存在しているならば、数%のTOCN添加によって同等の結果が得られたことが予測可能であった。したがって、機械的特性にTOCNの高アスペクト比の効果を反映させるには、複合材料中においてより均一な分散を得るための独立したTOCNの分布制御が重要である。」(甲第3号証のp81の左欄35行?右欄4行の記載及びその部分訳) (5)甲第4号証及びその部分訳には、ナイロン繊維とゴム材料の系における配向短繊維シートに関し、配向方向の剛度とアスペクト比との関係が示されており、アスペクト比の向上とともに系は非常に強化された複合材料となることが図表から読み取れる。 第5 対比・判断 1 本件発明1と引用発明の対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「ゴム/短繊維マスターバッチ」は、本件発明1の「セルロース繊維/ゴム複合体」に相当するから、両者は、 「下記工程(1)を有したゴム組成物の製造方法。 工程(1):ゴムラテックスとセルロース繊維の水分散液とを混合した後、少なくとも 水の一部を除去して該セルロース繊維/ゴム複合体を得る工程」 の点で一致し、本件発明1の以下の2つの相違点について、引用発明において特定されていないことで相違している。 相違点1 「下記条件(a)?(c)を満たすゴム組成物の製造方法。 条件(a):該セルロース繊維が、天然セルロースにN-オキシル化合物を触媒として酸化反応させて得られるセルロース繊維である。 条件(b):該セルロース繊維の平均繊維径が1?10nmである。 条件(c):該セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシ基含有量が0.1?3.0mmol/gである。」の点。 相違点2 「下記工程(2)を有したゴム組成物の製造方法。 工程(2):前記工程(1)で得られた複合体とゴムとを混合する工程」の点。 2 相違点1についての検討 相違点1について検討するに、上記第4 2(1)(2)の摘示によれば、相違点1に係るセルロース繊維については、特許異議申立人の主張のとおり甲第2号証に記載されており、このことは、本件明細書の段落【0015】において、 「本発明で用いられるセルロース繊維は、特開2008-1728号公報や国際公開2009/069641号パンフレットの方法によれば、効率的に製造することができる。 工程(i):N-オキシル化合物と、酸化剤とを含む反応溶液中で、天然セルロース繊維を酸化して反応物繊維を得る工程(酸化工程) 工程(ii):得られた反応物繊維を媒体に分散させ微細化する工程(微細化工程)」 と甲第2号証(特開2008-1728号公報)を引用して記載されていることからも裏付けられる。 そこで、引用発明において、甲第2号証に係るセルロース繊維を用いることの動機付けになる要因が存在するかについて以下検討する。 引用発明において、相違点1に係るセルロース繊維に対応するものは、「平均径0.5μm未満のセルロース短繊維」であり、上記第4 1(1)(6)の摘示によれば、引用発明のセルロース短繊維の代替としては、アラミドやポリビニルアルコールなどから選ばれる機械的せん断力によりフィブリル化する繊維が挙げられている。また、上記第4 1(3)の摘示によれば、フィブリル化によるゴムへの分散性と耐疲労性向上を求めた工夫が一般的に内在する課題として見て取れる。引用発明のこのような課題を意識した当業者が甲第2ないし4号証(上記第4 2(1)ないし(5)の摘示)に接した場合には、高アスペクト比の効果に基づく機械的特性の向上等に期待して、甲第2号証に係る他の種類のフィブリル化したセルロース短繊維の可能性に着目することは十分に想定できる。 しかしながら、引用発明における本質的な課題は、上記第4 1(4)の摘示からみて、タイヤに用いた場合の耐カット性であるから、引用発明で想定されているアラミドやポリビニルアルコールなどのフィブリル化した繊維、上記した甲第2号証に係るものも含めた他の種類のセルロース短繊維など様々な代替物のいずれが高い効果を期待できるかは不明であって、多くの試行錯誤を要すると考えられるところである。してみれば、種々のセルロース短繊維が存在する中で、引用発明のセルロース短繊維に属さない甲第2号証に記載されたものを、代替物として当業者が敢えて適用するための強い動機付けがあるとはいえない。 これに対し、本件発明1では、製造例に示されるように、高い硬度と引張り強度を有し、かつ良好な加工性を有する物性バランスの優れたゴム組成物が得られるという、明細書記載の当業者において予測できない効果が発揮されている。 よって、相違点1は、当業者が容易に想到できたものとはいえない。 3 小括 よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明から当業者が容易に発明できたものではない。 本件発明2ないし9についても、各請求項は請求項1を直接的あるいは間接的に引用するものであって、上記相違点1に係る発明特定事項を有しているから、本件発明1と同様に、引用発明から当業者が容易に発明できたものではない。 第6 むすび、 以上のとおりであるから、特許異議申立人上野圭子の主張する特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-05-17 |
出願番号 | 特願2011-155179(P2011-155179) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小森 勇 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 菊地 則義 |
登録日 | 2015-06-19 |
登録番号 | 特許第5763995号(P5763995) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | ゴム組成物及びその製造方法 |
代理人 | 片岡 誠 |
代理人 | 大谷 保 |