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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1315663
異議申立番号 異議2015-700222  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-26 
確定日 2016-06-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5736642号発明「ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂の製造方法及び透明フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5736642号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5736642号の請求項1ないし10に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成21年11月27日(優先権主張平成20年11月28日、平成21年4月9日)に特許出願され、平成27年5月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年11月26日付け(受理日:同年11月27日)で特許異議申立人 林法子により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年2月16日付けで取消理由(以下、単に「取消理由」という。)が通知され、同年4月18日に意見書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
特許第5736642号の請求項1ないし10に係る特許に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)は、それぞれ、本件特許の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンに由来する構成単位と、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とを含むポリカーボネート樹脂であって、硫黄元素の含有量が5ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項2】
前記複素環式ジヒドロキシ化合物が、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【化1】

【請求項3】
硫黄元素の含有量が9ppm以下である9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンと、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを重合触媒の存在下で重合することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記複素環式ジヒドロキシ化合物が、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化2】

【請求項5】
重合触媒として、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項6】
重合触媒の使用量が、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として0.1μモル?100μモルであることを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項7】
重合反応温度が、210℃?270℃であることを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂を製膜してなる透明フィルム。
【請求項9】
光学フィルムであることを特徴とする請求項8に記載の透明フィルム。
【請求項10】
前記光学フィルムを延伸配向させた位相差フィルムであることを特徴とする請求項9に記載の透明フィルム。」

第3 取消理由の概要
取消理由の概要は次のとおりである。

「1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、下記の請求項に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第1 本件発明
・・・(略)・・・
第2 取消理由
1.引用発明
(1)甲第2号証
特許異議申立人 林法子(以下、「申立人」という。)が提示した甲第2号証刊行物(特開2008-111047号公報、特に請求項1、段落【0003】?【0006】、【0012】、【0017】を参照。)には、次の発明が記載されている(以下、「甲2発明」という。)。
・・・(略)・・・
(2)甲第4号証
申立人が提示した甲第4号証刊行物(特開2006-28391号公報、特に請求項1?3、段落【0011】、【0069】、【0075】表1を参照。)には、次の発明が記載されている(以下、「甲4発明」という。)。
・・・(略)・・・
2.対比・判断
(1)本件発明1
・・・(略)・・・
前記各相違点について検討する。
<相違点1について>
甲4発明のポリカーボネート樹脂は、使用する9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンにおける硫黄化合物の含有量を特定量以下とすることで得られ、そうすることにより、得られるポリカーボネート樹脂の硫黄含有量が少なく、形成される成形体の色相等が良く好ましく、また、高温での使用時の色相変化も少ないというものであって(甲4段落【0011】)、かつ、硫黄含有量が5ppmを下回る具体例も示されている(甲4段落【0075】表1)。したがって、甲4発明において、ポリカーボネート樹脂の硫黄元素の含有量を5ppm以下としてみることは、当業者が適宜設定し得たことである。

<相違点2について>
ポリカーボネート樹脂の技術分野において、脂環式ジヒドロキシ化合物ないし複素環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことは、よく知られたことである(例えば、申立人が提示した甲第1号証刊行物である国際公開2006/041190号:実施例1?5、請求の範囲を参照。)。したがって、甲4発明において、脂環式ジヒドロキシ化合物ないし複素環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位をさらに含んで構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本件特許明細書の記載をみても、本件発明1により格別顕著な効果が奏せられるものとも認められない。
・・・(略)・・・
(3)本件発明3
・・・(略)・・・
前記各相違点について検討する。
<相違点3について>
甲2発明においては、ジヒドロキシ成分として9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)を使用できることが示されている(甲2段落【0017】)。また、ポリカーボネート樹脂の製造技術において、ジヒドロキシ化合物として9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを用いることは、よく知られたことである(例えば、甲1実施例1?5、請求の範囲を参照。)。
そして、甲2発明に係る製造方法は、含硫黄化合物の触媒失活能により重合触媒を多量に添加しなければ重合が進行せず、ポリカーボネート樹脂が溶融重縮合中に着色しやすく、色調の優れた製品を得るのが困難であったという問題点を解決するべく、原料化合物の全硫黄元素の含有量を低減させるというものである(甲2段落【0003】?【0006】、【0012】)。 したがって、ポリカーボネート樹脂の製造技術において、重合触媒の失活を防ぐため、原料化合物の硫黄元素の含有量が少ないものを用いることは、通常の創作能力の発揮であるといえるから、甲2発明において、周知の原料である9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを用い、その硫黄元素の含有量が5ppm以下のものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

<相違点4について>
甲2発明においては、ジヒドロキシ成分として複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物を使用できることが示されている(甲2段落【0017】)。また、前記(1)、(2)のとおり、ポリカーボネート樹脂の製造技術において、脂環式ジヒドロキシ化合物ないし複素環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことは、よく知られたことである(甲1実施例1?5、請求の範囲)。したがって、甲2発明において、脂環式ジヒドロキシ化合物ないし複素環式ジヒドロキシ化合物を用いることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本件特許明細書の記載をみても、本件発明3により格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
・・・(略)・・・
(9)小括
したがって、本件発明1、2、8ないし10は、その優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件発明3ないし7は、その優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.まとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」

第4 取消理由についての判断
1 甲第2号証の記載等
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証(取消理由で引用され、本件出願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2008-111047号公報である。)には、「ポリカーボネート樹脂の製造方法」に関して、おおむね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1d」という。)がある。

1a 「【請求項1】
全ジヒドロキシ成分の5?100モル%が一般式(1)で表される化合物を、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルとエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する方法において、一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素が式(2)を満たす含有量であることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化1】

(式(1)中、R_(1)、R_(2)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数6?10のシクロアルキル基または炭素数6?10のアリール基を表す。Xは分岐していても良い炭素数2?6のアルキレン基、炭素数6?10のシクロアルキレン基または炭素数6?10のアリーレン基を表す。nおよびmはそれぞれ独立に1?5である。)
M×(x/100)×(y/32.07)<100 (2)
(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)で表される化合物のモル%、yは一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

1b 「【0003】
上記式(1)で表される構造を有する化合物から合成されたポリカーボネート樹脂は、優れた低複屈折性、耐熱性を有することから、広く光学材料として用いることが可能であり、開示されている(特許文献1、2、3および4参照)。上記式(1)で表されるジオールは、一般に、タールの蒸留から得られるフルオレンを酸化したフルオレノンと下式(4)および/または式(5)で表されるアルコールを酸触媒存在下、縮合することにより製造される(特許文献5、6および7参照)。
【0004】
【化1】
・・・(略)・・・
【0005】
【化2】
・・・(略)・・・
【0006】
しかし、タールに含まれる硫黄化合物が精製、合成経路において除去しきれない、また、縮合に使われる酸触媒として硫酸が好適に用いられていることによる硫酸由来の含硫黄化合物の副製などにより、上記式(1)で表されるジオールには含硫黄化合物がわずかに混入する。含硫黄化合物を比較的多く含む上記一般式(1)で表されるジオールを用いて溶融重縮合を行うには、含硫黄化合物の触媒失活能により重合触媒を多量に添加しなければ重合が進行せず、該ポリカーボネート樹脂が溶融重縮合中に着色しやすく、色調の優れた製品を得るのが困難であるという問題点を有していた。
・・・(略)・・・」(段落【0003】ないし【0006】)

1c 「【0012】
一般式(1)で表される化合物は、不純物として含まれる化合物由来の硫黄元素の含有量が式(2)を満たすことによって、添加する触媒量が多量にならず、色調の優れたポリカーボネートを得ることができる。式(2)の左辺は、全ヒドロキシ成分合計1モル中の一般式(1)で表される化合物に含まれる全硫黄元素の10^(-6)倍のモル数を示している。すなわち、式(2)は、全ヒドロキシ成分合計1モル中の一般式(1)で表される化合物に含まれる全硫黄元素のモル数が100μモルより少ないことを示しており、このとき、色調の優れたポリカーボネートを得ることができる。」(段落【0012】)

1d 「【0017】
また、前記一般式(1)で示されるジヒドロキシ成分以外のジヒドロキシ成分としては、通常ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂のジヒドロキシ成分として使用されているものであればよく、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4′-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、α,α′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスフェノールフルオレン)、トリシクロデカン[5.2.1.02,6 ]ジメタノール(TCDDM)、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、デカリン-2,6-ジメタノール、デカリン-1,5-ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、スピログリコール、1,4,3,6-ソルビドが例示される。」(段落【0017】)

(2)甲2発明
記載1aないし1dを整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「全ヒドロキシ成分の5?100モル%が一般式(1)で表される化合物を、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルとエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する方法において、一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素が式(2)を満たす含有量である、ポリカーボネート樹脂の製造方法。

(式(1)中、R_(1)、R_(2)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数6?10のシクロアルキル基または炭素数6?10のアリール基を表す。Xは分岐していても良い炭素数2?6のアルキレン基、炭素数6?10のシクロアルキレン基または炭素数6?10のアリーレン基を表す。nおよびmはそれぞれ独立に1?5である。)
M×(x/100)×(y/32.07)<100 (2)
(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)で表される化合物のモル%、yは一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)」

2 甲第4号証の記載等
(1)甲第4号証の記載
甲第4号証(取消理由で引用され、本件出願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2006-28391号公報である。)には、「芳香族ポリカーボネート樹脂」に関して、おおむね次の記載(以下、順に「記載2a」ないし「記載2d」という。)がある。

2a 「【請求項1】
下記一般式[1]
【化1】
・・・(略)・・・
[式中、R^(1)?R^(4)は夫々独立して水素原子、炭素原子数1?9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
で表される繰り返し単位(A)及び下記一般式[2]
【化2】

[式中、R^(5)?R^(8)は夫々独立して水素原子、炭素原子数1?9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、Wは単結合、炭素原子数1?20の芳香族基を含んでもよい炭化水素基、O、CO又はCOO基である。]
で表される繰り返し単位(B)よりなり、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=5:95?95:5の範囲である芳香族ポリカーボネート共重合体であって、硫黄化合物の含有量が、硫黄原子として10ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂。
【請求項2】
繰り返し単位(A)が下記式[3]で表される繰り返し単位である請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【化3】

【請求項3】
芳香族ポリカーボネート共重合体の合成に使用される9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンは、硫黄化合物の含有量が、硫黄原子として20ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】)

2b 「【0011】
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体を得るには、使用する9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンの燃焼法によって測定された硫黄化合物の含有量が、硫黄原子として20ppm以下、より好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下が必要である。硫黄化合物の含有量が上記範囲内であれば、得られるポリカーボネート共重合体の硫黄含有量が少なく、これから形成される成形体は色相等が良く好ましい。また、高温での使用時の色相変化も少ない。
なお、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン以外のビスフェノールについても硫黄化合物の含有量は硫黄原子として20ppm以下が好ましい。」(段落【0011】)

2c 「【0069】
[2] 9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンの調製
市販の9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(硫黄含有量21.2ppm)をHPLC(カラム:東ソー製TSKgel ODS-120T(φ21.5mm×30cm)、溶離液:アセトニトリル/蒸留水混合液、流量:7ml/min.、カラム温度:40℃、検出波長280nm)にて主成分を分取し、溶媒を減圧留去することにより硫黄含有量が0.1ppmの9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを作成した。さらに上記の硫黄含有量が21.2ppmと0.1ppmの2種の9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを混合することにより実施例1?3で使用する9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを調製した。」(段落【0069】)

2d 「【0075】
【表1】

」(段落【0075】)

(2)甲4発明
記載2aないし2dを整理すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「下記一般式[3]

で表される繰り返し単位(A)及び下記一般式[2]

[式中、R^(5)?R^(8)は各々独立して水素原子、炭素原子数1?9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、Wは単結合、炭素原子数1?20の芳香族基を含んでもよい炭化水素基、O、CO又はCOO基である。]
で表される繰り返し単位(B)よりなり、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=5:95?95:5の範囲である芳香族ポリカーボネート共重合体であって、硫黄化合物の含有量が、硫黄原子として10ppm以下である、芳香族ポリカーボネート樹脂。」

3 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明における「繰り返し単位(A)」は、甲4の【請求項3】によると、合成原料として「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン」を使用するものであるから、本件特許発明1における「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンに由来する構成単位」に相当する。
したがって、両者は、次の点で一致する。

「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンに由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂。」

そして、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1においては、「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンに由来する構成単位」に加えて、「複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位」とを含むポリカーボネート樹脂であって、さらに、「硫黄元素の含有量が5ppm以下である」のに対し、甲4発明においては、「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンに由来する構成単位」に相当する「繰り返し単位(A)」を有するものの、それに加えて、「複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位」とを含むものではなく、さらに、「ポリカーボネート樹脂の硫黄元素の含有量が5ppm以下である」かどうか不明な点(以下、「相違点1」という。)。

(2)判断
そこで、相違点1について判断する。

甲4発明は、「全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=5:95?95:5の範囲である芳香族ポリカーボネート共重合体であって、硫黄化合物の含有量が、硫黄原子として10ppm以下である、芳香族ポリカーボネート樹脂」であるから、「繰り返し単位(A)」と「繰り返し単位(B)」以外には、構成単位を含まないものである。
そして、甲4発明における「繰り返し単位(B)」は、「複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物」でないことは、その構造から明らかであって、また、甲第4号証には、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とを含むことは記載も示唆もされていない。
したがって、甲4発明において、「繰り返し単位(A)」に加えて、「複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位」とを含むものとし、さらに、「ポリカーボネート樹脂の硫黄元素の含有量が5ppm以下である」ようにして、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、甲第4号証の段落【0011】に「なお、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン以外のビスフェノールについても硫黄化合物の含有量は硫黄原子として20ppm以下が好ましい。」と記載され、また、甲第1号証の記載から、ポリカーボネート樹脂の技術分野において、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことが周知であったとしても、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本件特許発明1は、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本件特許発明2について
本件特許の請求項2は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 本件特許発明3について
(1)対比
本件特許発明3と甲2発明を対比する。
両者は、ジヒドロキシ化合物と炭酸エステルとを、重合触媒の存在下で重合する点で共通する。
したがって、両者は次の点で一致する。

「ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重合触媒の存在下で重合するポリカーボネート樹脂の製造方法。」

そして、次の点で相違する。

<相違点2>
ジヒドロキシ化合物として、本件特許発明3においては、「硫黄元素の含有量が9ppm以下である9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンと、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物」を用いるのに対し、甲2発明においては、「化合物中の全硫黄元素が式(2)を満たす含有量である」「一般式(1)で表される化合物」(式(2)及び一般式(1)については省略する。)を用いる点(以下、「相違点2」という。)。

(2)判断
そこで、相違点2について判断する。

甲2発明における「一般式(1)で表される化合物」において、「nおよびmはそれぞれ独立に1?5」であり、すなわち「nおよびm」は「0」ではないから、甲2発明における「一般式(1)で表される化合物」には、「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン」は含まれない。
他方、甲第2号証の段落【0017】に、「前記一般式(1)で示されるジヒドロキシ成分以外のジヒドロキシ成分」として、「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン」、「複素環式ジヒドロキシ化合物」及び「脂環式ジヒドロキシ化合物」が多くの成分とともに例示されているが、甲第2号証には、それらの多くの成分の中から、「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン」と、「複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物」の組み合わせを選択することは記載されていないし、その動機付けとなるような記載もない。また、その際に、「一般式(1)で表される化合物」には含まれない「9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン」中の全硫黄元素に着目し、その含有量を9ppm以下とすることは記載されていないし、その動機付けとなるような記載もない。
したがって、甲2発明において、ジヒドロキシ化合物として、「硫黄元素の含有量が9ppm以下である9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンと、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物」を用いるようにして、相違点2に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは、甲第1号証の記載から、ポリカーボネート樹脂の技術分野において、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことが周知であったとしても、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本件特許発明3は、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 本件特許発明4ないし7について
本件特許の請求項4ないし7は、請求項3を引用するものであって、請求項3にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明4ないし7は、本件特許発明3をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明4ないし7は、本件特許発明3と同様に、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

7 本件特許発明8ないし10について
本件特許の請求項8ないし10は、請求項1または2を引用するものであって、本件特許発明8ないし10は、本件特許発明1または2を製膜してなる透明フィルムに関する発明である。
したがって、本件特許発明8ないし10は、本件特許発明1または2と同様に、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

8 むすび
以上のとおりであるから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

第5 結語
上記第4のとおりであるから、取消理由によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-27 
出願番号 特願2009-269732(P2009-269732)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 前田 寛之
加藤 友也
登録日 2015-05-01 
登録番号 特許第5736642号(P5736642)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂の製造方法及び透明フィルム  
代理人 岸本 達人  
代理人 山本 典輝  
代理人 山下 昭彦  

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